もともと射撃は好きだった。

狩猟が趣味である父に付き合わされ、射撃のいろはを叩き込まれた。
めきめきと実力をつけジュニアハイスクールを卒業するころには腕前は父を超えていた。
海兵隊に入隊してからも、その技術は抜きんでており軍内の射撃大会で優勝を重ねる。
その腕を見込まれ戦争に駆り出され最前線へと赴くこととなる。

戦場でもその実力は遺憾なく発揮され、アーノルドは多くの伝説を残した。
敵軍はその帽子につけられた特徴的な赤い羽から『レッドフェザー』と彼を恐れた。
その首には敵軍から破格の賞金が懸けられ、彼一人を殺すためだけに12人の精鋭狙撃手が送られたこともあった。
そのことごとくをアーノルドは返り討ちにした。

成果には達成感があったが、決して人殺しを楽しんでいたわけではない。
彼は敬虔な信徒であり、敵兵を殺す度に神への祈りは欠かさなかった。
全ては自分の後ろにいる戦友やその先にいる国民や子供たちのため、何より愛する家族を守るために戦っていた。

そんな彼の転機は僻地に取り残された友軍を救うべく、僅かな部下を引き連れ敵軍の一個中隊を相手取った時だった。
アーノルドは指揮を執る将校と連携の要である通信兵を的確に狙撃を続け、中隊の組織的行動を瓦解させ、実に1週間の足止めに成功する。
その成果もあって友軍は無事に撤退できたものの、最後まで戦場に残り続けたアーノルドは敵空軍機による援護爆撃を受け、足と腕を失う事となった。

その負傷によりアーノルドは前線から退き、彼が撤退して程なくして大国である祖国は小国を相手に撤退を余儀なくされた。
それは敗北と言っても過言ではないだろう。少なくとも歴史的にはそう扱われている。

自分がいたのなら勝てた、などと己惚れはしない。
彼がどれほど優秀な狙撃手であろうとも、一個人で戦果を翻すことなどできないだろう。
ただ、戦場に未練を残した。

彼は、最期まで戦いたかったのだ。
最期まで戦場に居続けたかった。
体は戦場にいられなかったからこそ、心が戦場に置き去りになってしまった。

戦場に置き去りになった心を取り戻す手段は戦場に赴く以外にない。
傷痍軍人となったアーノルドからは、その心を迎えに行く足は失われてしまった。

心を取り戻せぬまま、彼は年老き、難病を患う。
徐々に病状は悪化してゆき、最近では動くことすらままならなくなってしまった。

だが、彼は十分すぎるほどに生きた。
穏やかな生活を得て、暖かな家族にも恵まれた
傍から見て文句のつけようのない人生だろう。
後は天よりの迎えを待つばかりである。
未練は未練のまま、取り戻せないまま終わるのだと、そう思っていた。

だが、奇跡のような機会を得た。

もう一度、動ける。
もう一度、歩ける。
もう一度、戦える。
もう一度、銃をとれる。

戦場だ。
目の前には戦場がある。
大義もなく、戦友もなく、それでもなお戦場があるのならば。

ただ戦う。
どのような結果になろうとも、今度こそ最期まで戦い続ける。
それが果たされた時、戦場に置き去りにした心を取り戻せるような気がした。

どうせなら勝って生き延びるのがいいが、別段死んでもいいし負けてもいい。
ただ、終わりたいのだ。
終わりまで戦い抜いた結果なら、きっと未練なく終われる気がする。

それがアーノルド・セント・ブルーの戦争だ。


稼働することのない死した工場の屋根の上。
煙を吐くことない煙突の下に狙撃手はいた。

狙撃の安定するうつ伏せの体勢ではなく、有事の動きやすさを考え座り込んだ体勢で足膝を立て両腕をクロスさせライフルを構えていた。
うつ伏せ状態よりも目立つのが欠点だが、今の彼は透明化により目視できない状態にある。
僅かでも動けば無効化される最低ランクのスキルだが、彼は工場地帯南端での攻防より北部に移動して数時間、決して楽とは言えぬその体制のまま微動だにせずにいた。

スナイパーの仕事は耐える事である、数時間程度では苦にもならない。
戦時は敵司令官を暗殺するべく、その後を追って3日間匍匐前進を続けたことすらあった。
痕跡を残さないために屎尿は全てズボンの中に垂れ流しにして、全身虫刺されで水膨れ用になったあの時を思えば、排泄も睡眠も不要で虫の一匹もいない状況は高級スイートルームにいるように快適だ。

そうして待ち続けている間に夜も明けてきた。
世界を覆っていた闇を朝日が払い光が照らす。

本来であれば、朝日の訪れはスナイパーにとって歓迎するべきものだ。
夜はスナイパーの天敵である。
相手が明かりのある場所にいるのなら話は別だが、光のない場所へのスナイプなど暗視スコープ無しで出来るようなものではないのだから。
だが、千里眼と夜目のスキルにより夜の狙撃を実現させてきたアーノルドにとっては一方的な有利を捨てる事となる。

スナイパーライフルのような射程であればどうとでもなるだろうが。
千里眼があるとはいえ目視撃ち程度の射程となると撃てば相手からも容易く補足されてしまうだろう。

寄られればスナイパーは終わりだ。
先ほどのように詰められるようなことがあってはならない。
朝となったここからの行動は、より慎重を求められる。

ここが特殊な世界であることは十分に理解している。
かと言ってこの齢でヴァーチャルだのゲームだの新しい要素に柔軟な対応ができるとは思わない。
実際、孫のやってる最近の遊びも彼にとってはチンプンカンプンだ。

アーノルドにできることなど元より一つだけ。
出来る事と言えばその精度を高めるだけである。

先ほどは意固地になって制限時間のギリギリまで粘った挙句、白兵戦まで持ち込まれてしまった。
何とか運よく勝利を拾えたが、あれは失態だ。
同じ間違いは侵さない。

朝日によってリスクは上がったが、シルエットしか捉えられなかった夜よりも狙撃自体の条件はいい。
心掛けるべきは一撃必殺。徹底すべきは一撃離脱。
スナイパーとは元よりそういう物だが、ここには撃っても簡単には殺せない化物がいる。
そんな化物だって、さすがに頭部を撃ちぬき脳症をぶちまければ死ぬはずだ。

先ほど届いた定時メールによれば積雪エリアが破棄されるらしい。
この報せは北に構えるアーノルドにとっては好都合だった。
沈む積雪エリアから脱するには、各エリアに続くいずれかの橋を通ることとなる。
『Rats desert a sinking ship.』の格言の通り、逃げだすネズミを狩る楽な仕事だ。
狙撃手は待ち続ける。

そうしてメールの着信から程なくして、橋を渡る人影があった。
獲物がかかった。
橋を進む相手の動きに合わせてミリ単位で銃口を動かし引き金にそっと指をかける。
青い瞳を凝らして集中力を高めたアーノルドの千里眼が、その顔を捉えた。

見覚えのあるその顔にアーノルドが僅かに困惑する。
朝日に照らされるその顔は、彼がこの世界で最初に遭遇した不死身の化物に酷似していた。
あれから積雪エリアに渡り、エリア破棄に伴い戻ってきたのだろうか?
女の行動を推察したが、即座にそれを否定する。

どこか違和感がある。
この距離だ、はっきりとしたことは言えないが、最初の女とこの女はどこか違うように感じた。
怪物化した姿と健常な姿では違うのは当然と言えば当然なのだが、そうではない。
最初に出会った化物は夜よりも昏い闇を纏っていたが、今橋を渡る女はどこか朝よりも眩しい光を感じさせる。
あくまで印象でしかないのだが、同一人物にしてはあまりにも真逆な印象だ。

銃口は正確に頭部を捉えている。
後は引き金を引くだけだが、撃つべきか撃たざるべきか。

火力不足な状況は変わっていない。
仮にあの化物女本人だった場合、撃ったところで最初の繰り返しになる可能性は高い。
不用意な攻撃をするよりはリスクを回避するのも選択肢の一つだろう。

だが、朝日も昇り対象はよく見える。
ターゲットまでの直線状に障害物なく強い風もない。
勘を取り戻していなかったあの時とは違う。
条件はいい。あの時は決められなかったヘッドショットを決める自信はある。

逡巡は刹那。
アーノルドは心を決めた。
女が橋を渡り切ったところで撃つ。
その瞬間を平常心のまま伝説の狙撃手は待つ。

だが、橋を渡り切る直前、女が唐突に足を止めた。
それに合わせて動きを追っていた銃口も止まる。
何事かとアーノルドは様子を伺う。

女の視線が動く。
それは偶然か、はたまた必然か。
その視線は、銃を構え狙いをつけているアーノルドの方向を見た。

気づいているはずがない。
現在のアーノルドは透明化している。
見たところで見えるはずもない。

だが、数百メートル越しに視界が交錯する。
そしてアーノルドの千里眼が捕えた。
愉しげに釣り上がる、その口元の笑みを。

瞬間、アーノルドは引き金を引いていた。

幾多の戦場で何度かあった、アレは殺さねばならぬ存在だと本能が訴えかけるような感覚。
その感覚に従いアーノルドは即座に殺害を決意した。

狙いは完璧にして正確無比。
弾丸はその命を華と散らさんと女の頭部に向かって吸い込まれるように向かって行き――――額に触れる直前でピタリと静止した。
その代わりと言ったように女の胸元で何かが弾けた。

何が起きたのか。
その理解が及ぶ前に、女は眼前の弾丸に布切れのようなものを被せ手を振るった。

「ッ!?」

アーノルドが横に転がる。
弾丸のような何かが飛んできた。
カウンタースナイプは常に警戒していたため避けることができたが、動いたことにより気配遮断や透明化は解除された。
狙撃手は即座に撤退を決める。
この距離ならば撤退するに十分な時間があるはずなのだが。

「ひっどいわねぇ、女の子の顔を撃つだなんてぇ」

声は背後から聞こえた。
どうやって、などと言う無意味な疑問を抱くよりも早く、アーノルドは反転しながら背後を撃ち抜く。

銃声が響き薬莢が落ちる。
だが、取り回しの悪いライフルを乱暴に振り回して狙いがずれたのか、弾丸は相手が避けるでもなく明後日の方向に外れていった。

「元気ねぇ、お爺ちゃん」

そこには、クスクスと笑みを浮かべた女が立っていた。
整った顔立ち。黒髪黒目の黄色人種。チャイナかジャパニーズか、はたまたコリアンか。
人種特有のものかその顔は幼く見えるが、纏う雰囲気は幼稚さとはかけ離れ老練さすら感じさせる。

アーノルドが後退る。
だが、ここは屋根の上である、逃げ道などない。

近接された時の備えとして周囲にはトラップを張り巡らせている。
今はそれが仇となった。
想定していた逃走経路には、立ち塞がるように女が立ってた。

それは生来のモノか、はたまたそう言うスキルなのか。
女はその観察眼で周囲に仕掛けたトラップを見抜いているかのように、自然な振舞いで実に的確に逃げ道を塞いでいた。

他に逃走経路があるとするならば、この屋根の上から飛び降りるくらいのものだが。
ここは地上から25m程の高さで、下は固いコンクリートの地面である。
飛び降りなどそれこそ自殺行為だろう。

それでも、この女とまともに相対するのなら、そちらの方がよっぽどましなのかもしれない。
そう感じさせるほど、目の前の女は異様であった。

先ほど殺した少年は、決死の覚悟を秘めた戦士だった。
そう言ったモノをアーノルドは戦場で多く見てきた。
だが、目の前の相手は覚悟や決意などなく、それでいて平和ボケしているわけでもない。
そう言ったモノを超越しており底が見えない。

この距離では逃げられない。
敵兵が出会ったならば、どちらかが死ぬまで離れられぬ距離。

アーノルドは静かに、半身になってボウイナイフを逆手に構えた。
スペツナズ・ナイフはバネが強力過ぎて一度放ってしまえば再装填するのは難しい。
近接戦でまともに使えるのはこのナイフ一本だけだ。

これまでアーノルドは多くの敵兵を殺してきた。
屈強な兵士も、特攻する少年兵も、嫌疑だけの民間人も、敵陣深くに構えた敵将校も。
スコープの先に捉えた相手は例外なく全て撃ち抜いてきた。

これが狙撃銃、せめて拳銃ならば違ったのだろうが、手に握る大振りのナイフが何とも心許ない。
敵を前に初めて予感する。
殺せる気がしない。

「……なんなんだお前たちは?」

思わず口をついていた愚痴のような疑問に女が反応した。
お前たち、という複数を示す言葉の意味を愉しそうに受け止めている。

「あら、妹に会ったの? 元気だったぁ? あの子」

当たり前の日常会話のように女は言う。
ともすれば、その姿は妹の心配をする姉の様でもある。
アーノルドは答えない、女は気にせず続ける。

「そうそう私が何者か、だったかしら。
 とある世界では勇者なんて呼ばれていたこともあるけれど、今はここにいる全員が勇者なんだったかしら? だとしたら少し紛らわしいわねぇ」

うーんと目を閉じて思い悩むポーズをとる女。
アーノルドは言動など無視して隙あらばすぐさま攻撃に移るつもりだったが、一切の隙がない。
というより、どう見ても全身が隙だらけなのに、斬りかかれば間違いなく返り討ちになると直感がそう告げていた。

「そうねぇ――――神様、なんて呼ばれてたこともあったかしら」

女は自らを神と謳った。
それは自惚れか、はたまた真実か。
どちらにせよ正気とは思えない。

「なるほどイカれてるのだな、姉妹共々――――!」

右腕に構えたナイフではなく、左腕の袖口に隠したスペツナズ・ナイフの刀身を投擲する。
それは半身にした死角からの不意を突いた一撃だった。
にもかかわらず女は笑みを浮かべた表情一つ変えず、分かり切ったことのように首だけを傾け最低限の動きだけで躱した。

だが、空を切ったナイフが一本のワイヤーを断ち切った。
その先に繋がれた手榴弾が爆発する。

爆炎が上がる。
しかし女は爆炎が上がる背後を振り返りもしなかった。
当然だ、女には爆炎も破片も届いていない、手榴弾が破壊したのは別のモノである。

爆炎の代わりに、女に影が落ちた。
それは倒壊する巨大な煙突の影だった。

爆破解体のように破壊位置を調整し煙突を倒した。
アーノルドも多少は巻き込まれるかもしれないが、背に腹は変えられない。
屋根全体を押しつぶさんと石造りの煙突が倒壊し、tを超える超重量が女を押しつぶさんと襲い掛かる。

だが、女は笑う。
この程度、危機の内にも入らぬと。

それは異様な光景だった。
煙突の影よりも長く、朝日に照らされた女のシルエットが伸びる。

それは黄金。
女は自らの身の丈ほどもある巨大な黄金のハンマーを細い片腕で事もなげに振り上げていた。

金色の暴風が薙ぎ払われる。
それは倒れこむ煙突を容易く打ち払い、一瞬で石塊に変えた。

現実離れした凄まじい破壊を生み出した黄金の軌跡は止まらない。
女は踊るように廻る。
金色は弧から円を描き、そのままアーノルドへと襲い掛かる。

アーノルドはとっさに身を引く。
だが、逃げ場のない屋根の上でその凶悪なまでの速度と射程を前に逃げ切るとなどできようもない。

戦車砲にも匹敵する一撃が構えたナイフごと右腕を打ち抜き、完全に砕いた。
アーノルドの体はドライバーで打たれたゴルフボールみたいに撥ね飛んで、対面の工場へと叩きつけられる。
そのまま壁を削るようにしながら地面に落ちた。

壁にぶつかって衝撃が分散されたのは幸運だった。
幸運と言っても、即死しなかったという程度のものでしかないが。

アーノルドは即座に立ち上がろうとして、失敗する。
叩きつけられた際にどこかで潰されたのか、左足が動かなかった。
ハンマーの直撃を受けた右腕も、もう使い物にならない。

この世界でせっかく取り戻した手足も元通りである。
絶望的ともいえるこの状況に、アーノルドは凄絶な笑みを浮かべた。

それでもまだ、生きている。
生きているのなら戦える。
ここには彼から戦いを取り上げる者はいない。
アイテム欄からライフルを取り出して杖代わりにしながら立つ。

吹き飛んだアーノルドを追って女が屋上から飛び降り、事もなげに両足で着地する。
それほど強化されているのか、根本的な能力値(ステータス)が違う。
その力を得るためにこの短時間で何人殺したのか。

壁に背を預け杖代わりにしていたライフルを左腕で構える。
ライフルは連射性の低さと取り回しの悪さから近接戦に向いていない。
まして片腕ではまともに狙いをつけることも難しく、素早いレバーアクションは望めない。

撃てたとして一発。
この一発が勝負を決める。
その覚悟をもって、女へと銃口を向けた。

「あら? まだやるの? いいわよぉ、撃っても」

銃口を向けられても逃げも隠れもせず、女は両手を広げて全てを受け入れるような体勢を見せる。
目の前の女が神聖な存在に見えて吐き気がした。
朝日を背にするその様は神々しさすら感じさせる。

アーノルドは熱心な教徒だ。
子供のころから日曜の礼拝を欠かしたことはない。
戦場にいた頃だって毎日、神への祈りと感謝は欠かさなかった。

そんな彼でも神と対峙したことはない。
戦場に神などいなかった。
あったのは鉛と火薬と人の業だ。

人は頭を撃ち抜けば死ぬ。
化物であっても頭を打ち抜けば死ぬだろう。
ならば、神は頭を打ち抜けば死ぬのだろうか?

「怖がらなくていいわよぉ。安心なさい。殺しはしないわ」

見当はずれな言葉だ。
死に恐れなど無い。
恐れるとするのなら、それはむしろ。

「殺しはしない、だと…………どういう、意味だ」

血を流しすぎたのか、朦朧とした頭で問う。
自らの胸に手を当てながら、救いを謳う神は告げる。

「あなたは私と一つになるの、全ての苦痛、全ての苦悩を私が呑み込み、その全てを愛してあげる。
 あなたは私の中で死ぬこともなく永遠に生き続けるの」

正しく女は人の苦を救う現人神だった。
苦悩を抱える老兵を救ってくれると言う。

冗談じゃない。

「……そんなのは、御免だね」

銃を構える。
青い瞳で神を睨む。

そんなものはいらない。
そんな救いはいらない。
この神を名乗る女は、戦場での死すら奪うのか。

銃を突き付けられても神は不動。
慈悲すら感じさせる笑みで迎え入れる。

それは老兵の弾丸では死なぬという余裕か。
女が信じているのは何か。
耐久か、幸運か、それとも運命か。

少なくとも、その弾丸を撃ったが最後、すぐさま老人を取り込む算段だろう。
そんな事はアーノルドも理解している。
それを理解したうえで、引き金を引くことを決めた。

銃声が響いた。
救世の神を否定する、最後の弾丸が放たれる。
笑みを浮かべていた女が、初めて余裕を崩した。


「――――やられたわね」

弾丸は老兵の頭部を吹き飛ばしていた。

あの瞬間、アーノルドは長い銃身を片腕でクルリと回して、大きく開いた自らの口の中に銃口を向けた。
そして、躊躇いなく引き金を引いた。
それほどまでに神の中で生き続ける事を拒み、戦場での死を選んだ。

愛美にとって最悪の一手だ。
自らの愛が否定されたこともそうだが。
死なれてはその魂を取り込めもしない、自殺ではGPも貰えない。

勝利したこと事態を喜ぶべきなのだろうが、彼女にとっては勝利などという物に価値はない。
戦いなど勝って当然、そもそも戦いですらない。
全てを己とする慈愛である。

命を守るという貴重なお守りも消費してしまった。
老人の残したアイテムを回収するが大したものはなさそうだ。
総合的に見て損だったが、収穫はあった。

優美の動向を知れた。
人探しスキルによって何となくの方向は分かっているが、直接接触したと思われる人物に出会えたと言うのは大きい。
その足跡をたどって行けば、最終的に出会えるだろう。

自己にして他者、他者にして自己。
完全魔術によって己となった者たちとは違う。
唯一無二の元は一つだった己の片割れ。

人探しスキルなどに頼るまでもない。
予感がある。
運命が近づいている。

再会の時は近い。

[アーノルド・セント・ブルー GAME OVER]

[D-7/工業地帯/1日目・朝]
[陣野 愛美]
[パラメータ]:STR:A VIT:A AGI:B DEX:B LUK:B
[ステータス]:健康
[アイテム]:防寒コート(E)、天命の御守(効果なし)(E)、ゴールデンハンマー(E)
発信機、エル・メルティの鎧、万能スーツ、魔法の巻物×4、巻き戻しハンカチ、シャッフル・スイッチ
ウィンチェスターライフル改(5/14)、予備弾薬多数、『人間操りタブレット』のセンサー、涼感リング、掃除機、不明支給品×7
[GP]:90pt
[プロセス]
基本行動方針:世界に在るは我一人
[備考]
観察眼:C 人探し:C 変化(黄龍):- 畏怖:- 大地の力:C

【天命の御守】
命を守る御守。
向けられた殺気に反応して振動し、致死となる攻撃を一度だけ防ぐ。
効果が発動すると中の護符が消滅し効果はなくなるが御守自体は残る

【巻き戻しハンカチ】
包んだ対象の動作を包んだ秒数だけ巻き戻すハンカチ。
戻せるのは最大で1分まで、戻せる対象はハンカチで全体を包めるものに限られる。

【シャッフル・スイッチ】
マーキングした対象と自身の位置を入れ替えるスイッチ。
対象は非生物のみで生物は不可。指定できる対象は一つまで、指定する際に触れている物に限られる。
対象の再設定は行えるがそれまでの設定は解除される。
対象との距離に制限はないが、距離が離れるほど再使用までの時間は長くなる。
具体的なインターバルは[移動した距離(m)×1秒+1分]

052.三度目の正直 投下順で読む 054.命短し走れよ乙女
時系列順で読む
Flame Run アーノルド・セント・ブルー GAME OVER
神様の中でお眠り 陣野 愛美 神は追憶の果てに掃除機を砕く

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最終更新:2021年01月28日 01:56