「こりゃ、派手に倒れちゃってまあ」

黒木真珠は、バス停の前に横転しているトラックを見ながら感心したようにつぶやく。
バス停の前に倒れちゃって、こんな田舎じゃなけりゃ大ブーイングというものである。

「一応調べてみるかね」

真珠は、トラックの運転席をまず調べてみる。
誰も乗っていない。
横転により気絶、ということはないらしい。
次に、荷台を開けてみる。
すると、

「およ、まさかの当たり。こんなとこに人がいるとは」

荷台の奥には、一人の女性がいた。
こんな所にいるということは隠れてるつもりだったのだろうが、横転トラックなんていうバカみたいに目立つものに隠れて、バカじゃないのか。

「すぴー、すぴー…うーん、うーん」
「しかも寝てるし…危機感なさすぎだろ」

あるいは恐怖心から来る疲労による睡眠かもしれないが、どちらだろうとどうでもいい。
真珠はトラックの荷台で寝ている女性を蹴り上げた。

「いたっ…ちょっとなにす……ひええっ!」

佐川クローネは、起きた瞬間仰天する。
いつの間にか眠っていて、あっさり人に見つかった上に、そいつは…拳銃を構えている。

「おはようさん。安心しろ、質問に答えてくれたらちゃんと解放してやるから」
「し、質問に?」
「ああ、ただし…嘘ついたらどうなるか、分からねえけどなあ?」

ニヤリと凄みのある笑みを浮かべられて、クローネは委縮する。
そんな彼女に対し、真珠は1枚の写真を見せる。
そこに写っていたのは、黒髪のポニーテールの女性だった。

「この女に見覚えあるか?」
「え、ええと、見覚えあるような、ないような…」
「はっきりしねえ奴は嫌いだ」
「知らないです!知らないです!こんな人知らないです!」

脅しをかけられ、あっさりと白状するクローネ。
ここの村人なら、表向き観光客の彼女の顔くらいは見たことがあったかもしれないが、休憩の為に立ち寄っただけのクローネは、知るわけがなかった。
真珠は、写真を懐にしまう。
拳銃はまだ構えたままだ。

「え、ええと、質問に答えたら解放してくれるんですよね。その銃、下ろしてもらえると…」
「ああ、約束通りちゃんと解放してやるぜ」

真珠はニコッと笑い、そして。


パン


次の瞬間、クローネの額には穴が開いていた。

「解放してやるぜ…こんな地獄に巻き込まれる、クソみてえな人生からな!…あ、もう聞こえてねえか」

【佐川 クローネ 死亡】

〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇

「うん?」

真珠は、トラックの荷台から降り、辺りを見回す。

「…気のせいか?足音が聞こえたような気がしたが」

いや、多分気のせいではなかったのだろうが、逃げてこの辺りにはもういないのだろう。
どっちに逃げたのかも分からないので、追いようもない。

「知ってる奴、いるのかねえ」

そう呟くと真珠は、先ほどの写真を取り出す。

「ハヤブサⅢ…てめえがこの村にいるとはよぉ。面白れぇじゃねえか」

黒木真珠には、本来の任務とは別に優先すべき任務が与えられている。
本作戦の最大の障害になり得るエージェント…ハヤブサⅢの捜索、抹殺である。
ハヤブサⅢがこの村に侵入しているという情報を得た特殊部隊は、彼女と面識がある真珠に、この別任務を与えたのである。
作戦中はハヤブサⅢを見つけ殺すことを最優先とし、その為に必要とあれば正常感染者も生かし、利用するようにとの命令だ。
まあ、今の女は役に立ちそうになかったので殺したが。

「ゾンビ化なんてつまんねえオチはやめてくれよ?ハヤブサⅢ…あんたはあたしがこの手で殺してやるんだからよ」


【G-5/バス停近く/1日目・深夜】

黒木 真珠
[状態]:健康
[道具]:拳銃(H&K SFP9)、サバイバルナイフ
[方針]
基本.ハヤブサⅢ(田中 花子)の捜索・抹殺を最優先として動く。
1.ハヤブサⅢのことを知っている正常感染者を探す。役に立たないようなら殺す。

「はあ、はあ、はあ……」

斉藤拓臣は走っていた。
目を覚まし歩いていると、横転しているトラックを見つけて。
調べてみようと近づくと、拳銃の音が聞こえてきた。
やべえと思いトラックから離れて逃げ出し、今に至るというわけだ。

「見つかるなよ、見つかるなよ…!」

逃げるのに夢中の拓臣は気づかない。
敵から見つかりたくないという思いにより、無意識に異能を発動していることを。
自分の身体が、わずかに透明に消えていることを。


【G-6/1日目・深夜】

【斉藤拓臣】
[状態]:疲労(大)、恐怖、透明化(精度は低い)
[道具]:デジタルカメラ、ICレコーダー、メモ、筆記用具、スマートフォン、現金、一色洋子へのお土産(九条和雄の手紙付き)、その他雑貨
[方針]
基本.山折村を取材する。
1.今はとにかく逃げる。
2.医院に行き、一色洋子に会う。
※放送を聞き逃しました
※VH発生前に哀野雪菜と面識を得ました。
※異能を無意識に発動しましたが、気づいていません


022.『「今が最悪」と言える間は、最悪ではない』 投下順で読む 024.禁色モザイク
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『「今が最悪」と言える間は、最悪ではない』 佐川 クローネ GAME OVER
死せぬ者に迫る手 斉藤 拓臣 諦めの理由を求めて
MISSION START 黒木 真珠 豪華客船潜入作戦

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最終更新:2023年01月26日 00:38