ワニ吉は孤独だった。
遠い遠い外国の地で生を受けるも、
充分な自我すら芽生えぬうちにハンターに捕えられ、家族とは離れ離れになった。
物心ついた時には、故郷から遠く離れたここ山折村の、動物好きとして知られる男の家で飼われていた。

自分の父母や兄弟、そして故郷についての記憶は殆ど残っていない。
だが、それらへの恋しさは常に抱いていたし、
この寂寥感は死ぬまで埋まることはないんだろうな、ということも直感的に理解していた。

飼育下の生活に全く楽しみが無かったわけではない。
飼い主の男は熱心に世話をしてくれたし、
たまにくれる鶏や豚や牛の肉は本当に御馳走だった。
自分に仕込もうとする芸の訓練も、なかなか楽しいものであった。
(上手くやればおやつをくれるのだ)
思い起こせば、この頃が一番マシな生活を過ごせていた時期だった。

だが、それも長くは続かなかった。
飼い主の家に来てから数年が経ち、身体が大きくなり、
一回の食事に魚を2、30匹は食べなければ満足できなくなった頃、
飼い主とその家族との間に不協和音が生じはじめた。

飼い主の妻が何かにつけ、自分を指さしながらキーキーと金切声を上げるようになった。
飼い主も飼い主で、それに対して豚のような怒声で応えている。
ワニ吉に人間の言葉を聞きとることはできないが、
自分のことで争っているということは理解できていた。

そして、その日がやってきた。
飼い主とその妻が一通りひどい喧嘩をした後、
飼い主がテレビを点け、ある番組の録画を再生し始めた。
飼い主もワニ吉もお気に入りの、野生のワニの生活を追ったドキュメンタリーだ。
ワニ吉は、それを見ながら、自分が生まれたかもしれない遠い遠い場所、
そしてそこに生きているだろう自分の同族達に対し、夢を馳せた。
飼い主は、澱んだ目でサケとかいう変な水を沢山あおっていた。


幸せな夢を見た。
ワニ吉は、広い広い湖の畔にいた。
隣には妻と沢山の子供達がおり、目の前には新鮮な魚と肉が山と積まれている。
子供たちは、思い思いに魚や肉にかぶりつき、妻はその様子を幸せそうに見つめていた。
では自分もと、血のしたたる肉に思い切り齧りつこうとしたその時、
飼い主の妻の悲鳴で目を覚ました。


飼い主が、妻に馬乗りになっていた。


彼は、獣のように吠えながら、妻の顔を何度も何度も、殴っていた。


……ああ。
もういいや。
もう沢山だ。

その日の深夜。ワニ吉は自分の住んでいたケージを叩き壊し、その家を去った。



飼い主の家から脱走した後も、孤独であることに変わりはなかった。
新たな住処とした下水道や湖にも、当然ながら同族のワニなどいるはずがなく。
ただ食べては寝、食べては寝を繰り返すだけの、無為な生を送っていた。

また、食料という新たな問題が発生した。
獲物といえば、湖の魚、下水道のネズミ、水辺に近付いてきた小動物や鳥といった程度であり、
身体の大きなワニ吉にとっては満足できるものではない。
ごく稀に、山の近くで水を飲みに来たシカやイノシシを仕留められた時は
心ゆくまで腹を満たすことができたが、そんな機会は良くて年に数回といったところだ。

それでも、ワニ吉が人間を襲うことはなかった。
物心ついたときから人間の飼育下にあったワニ吉の心には
人間に対する強い警戒と畏怖が刻み込まれていた。
人間を襲って食べるという発想すら無かったと言ってよい。

湖は学校のプール代わりに使われていることもあり、
ワニ吉が湖にいるときに学生が泳ぎに来たことも一度や二度ではない。
しかし、自分の頭上を子供が無防備に泳いでいるのを目にした時ですら、
ワニ吉は湖底の泥の中に身を潜めるなど、徹底的に人目に付くことを避けた。
結果としては、その判断が功を奏し、駆除の対象になることもなく、
ワニ吉の存在は村民にとって噂レベルの認知に留まった、
これはワニ吉の生存に繋がったが、反面、獲物としての人間を見逃すことにもなり、
ワニ吉の慢性的な餓えの原因にもなった。

このまま何も起きさえしなければ、
ワニ吉は、人間にとっての害獣になることもなく、
山折村に人知れず住む一匹のワニとして、孤独のまま生を終えたであろう。
家族に対する餓え、食欲に対する餓えを抱えながら。

だが、あのバイオハザードが全てを変えた。
ウイルス感染による知性の上昇、それに伴う自我の肥大化、
村に充満した血肉の臭いで目覚めた肉食獣としての本能、
そして、分身という異能の発現。
それらが人間への恐れを捨てさせ、ワニ吉に野望を抱かせた。

すなわち、自分と分身による一大軍団を結成。
湖・下水道という地の利と、分身体を利用し、人間を狩り、その肉を喰らう。
そして、この山折村を、自分たちの新たな故郷たる楽園とする。
これこそが『ワニワニパニック大作戦』である!




『『『『『『『『おぉ~~~~~~………』』』』』』』』
以上のような内容のワニ吉の一大演説を聞いた分身達は、
人間のように拍手をしたいところだが、身体の構造上できないので、
代わりに口をパクパクさせて驚嘆の意を示した。

ワニ吉の周りには8体の分身がいた。
この他に湖の岸で見張りをしているのが2体、周囲の偵察に出ているのが2体いる。
つまり、今存在するワニ吉の分身は合計で12体である。

蛇足ながら説明する。
ワニ吉が異能で分身1体を作るのに必要なのは10分弱である。
数を増やすことに専念すれば、20体は作り出せるだけの時間は過ぎている。
つまり、ワニ吉は敢えて今の数で増やすのを止めていた。
その理由は、
「見分けがつかねえ!!!」
これに尽きる。

ワニ吉にとって分身は、あくまで獲物を狩る為、身を守る為の手段であり、
先の乃木平天との交戦でもそうしたように、必要ならば捨て石にすることも辞さないが、
それと同時に、愛すべき疑似家族でもあった。
だが分身は分身、見た目はワニ吉と寸分たりとも変わりがない。
異能としては有用な要素ではあるが、こと家族の一員として見た場合は問題がある。
最初のうちは口調や行動に特徴をつけて演じさせることで区別していたが、
10体を超えてしまうと流石にネタも尽きる。
敵との交戦を考えると不安が残るが、湖の中にいる自分達を襲う相手がいるとは考えにくい。
今は、一人芝居とはいえ、夢にまで見た家族との会話を楽しみたい。
これ以上増やすかどうかは偵察担当の報告を待って決める、それが今のワニ吉の結論であった。

閑話休題。

「ということで、朝になったら初の『人間狩り』を試みる。
だが、人間は手強いことは分かってるし、例の異能もある。
あくまで慎重に事を進める必要が……」

と、ワニ吉が話していたその時、

『おぉ~~い我! 我! 大変だ!! 我ぇぇぇ~~~!!!』
 偵察に出ていた分身2体が慌てて戻ってきた。
「おお、そんなに慌てて、どうしたんだ俺」
『陸の方がとんでもないことになってる! とにかく来てくれ!』


山折村の南西にある診療所。ここでは、バイオハザード発生からわずか数時間にして多くの血が流れた。
ゾンビに襲われて死んだ者。SSOG隊員・美羽風雅および乃木平天により殺害されたゾンビ。そして一色洋子。

ワニ吉とその分身の一団、総勢13体は、その診療所の道路を挟んだ向かい側に上陸した。
彼らがまず目にしたのは、正気を失い徘徊するゾンビと、そこかしこに散らばる人間の死体だった。
村に漂う血肉の臭いも、バイオハザード発生直後とは比較にならないほど強まっていた。

『おいおいおいおい…… 何やってんだ人間どもは』
『引くわーー……』
『見ろよ、あの人間の女。死体を嚙み千切って食ってるぜ。まるで俺みたいじゃねえか』
『ちょっと、一緒にしないでよ。私はあんな風に白目剥いて狂ったように食べたりはしないわよ』

肉食獣であるワニにとっては、エサがそこらに置いてあるようなもので、
本来は夢のような光景のはずだが、あまりにも数が多すぎる。
ある程度人間に対する知識を有するワニ吉は、事態の異常性を正確に認識していた。

「おい、偵察に出てた俺! 正気の人間は何処かにいなかったのか!?」
『報告に戻る前、その建物の中からオス1匹とメス2匹が出てくるのを見た!
 でも、もうどっか行っちまったようだ!』
 その人間とは、与田四郎、田中花子、氷月海衣の3名である。
 彼らとワニ吉は丁度入れ違いの形となった。

「あの中か……」
ワニ吉は、診療所を見つめながら呟いた。
そこからは、強い血の匂いが漂ってきている。
危険はあるだろうが、まずは情報が欲しい。ワニ吉は決断した。

「………よし、ワニ太、ワニ郎、ワニ兵衛! 中の様子を見てこい!!」
『イエッサー!』
『よし、任せろ自分!』
『フッ…… オレの出番のようだな』

ワニ太は、先の人間との戦いで見事な死んだふりを披露した個体であり
ノリは軽いが非常に機転が利く、ワニ吉の片腕とも言えるワニ(という設定)だ。
ワニ郎は実直で沈着冷静、周りが騒ぐ中でも常に落ち着いた判断を下し、頼りになるワニ(という設定)だ。
ワニ兵衛は冷酷非情、爬虫類的なクールさと肉食獣の苛烈さを最も強く併せ持つ生粋のハンター(という略)だ。

偵察を命じられた3体は、音もなく診療所の入り口に辿り着くと、中の様子をうかがった。
受付が見えるが、どうやらゾンビ含め、人間はいないようである。
それを確認したワニ太が、そっと扉を開けようとした。

その時であった。


突如、肉でできた触手が、診療所の奥から凄まじい勢いで伸びてきた!
それは見る間にガラス戸を突き破ると、ワニ太に絡みつき、その巨体を物ともせず持ち上げ、
「グガアアアアアアアアアーーーーッ!!!」
ワニ太の叫びを残し、掻っ攫っていた。

ワニ郎、ワニ兵衛がそれを追って診療所に飛び込む。遅れてワニ吉と残りの分身9体も続く。
そこで彼らが見たもの、それは。
『な、なんだ、コイツは……?』
無数の触手を生やし、剝き出しの筋肉とも粘菌とも取れぬ、毒々しい赤色をした怪物。
一色洋子に潜んでいたナニカ。『巣くうもの』であった。

ワニ太は、その肉の中に吞まれていた。弱弱しく手足を動かしているが、完全に食われるのは時間の問題だ。
相手は謎の怪物、だが見捨てることはできない。ワニ吉は号令を下した。
「行け! ワニ太を助けるんだ!」
ワニ吉の分身9体が『巣くうもの』に殺到し、その肉に、触手に、喰らい付きはじめた。
ワニ吉は、護衛2体と共に後方で様子を見ている。
一人芝居とはいえ、大事な家族を喰らおうとしている相手だ。
本心としては自分も飛び掛かりたいところではあるが、
相手は明らかに人間とも動物とも違う、全く未知の怪物である。
自分がやられたら終わりなのだ。冷静にならなければならない。
いざとなれば逃げる選択も頭に入れつつ、じっと戦況を見守っていた。


ワニ吉の異能『ワニワニパニック』。これは極めて強力な能力である。
特に、人間とは比較にならない身体能力を持つワニ吉とのシナジーは凄まじい。
なにせ分身の力も見た目も自分と同等。しかも数十体まで作ることができる。
ワニ吉は全長2mを超える巨大なワニである。
それがまとめて9体も殺到してきたらどうなるか。
人間なら一たまりもない。大型の肉食獣でも勝てないだろう。
陸生生物で対抗できるのはゾウくらいのものではなかろうか。
『巣くうもの』は怪物ではあるが、その身体は現実の肉に近い。
ワニの牙は容赦なくその肉に突き刺さっていく。

唯一の弱点は、頭に攻撃を入れられると分身が消滅してしまうことである。
実際、『巣くうもの』の振るう触手が偶然頭に当たり、2体の分身が消え去っていた。
だが、それも相手に弱点を突く知能があってこそだ。
『巣くうもの』は、どうやら本能だけで動いているようであり、
分身が消えたこと、そしてそれが何故消えたのかについて、分析や対策を講じようとする様子はない。

ワニ吉の分身達が、『巣くうもの』の肉を食い千切っていく。
触手が嚙み切られ、体液が飛び散り、『巣くうもの』の動きが、徐々に遅くなっていく。
だが、それでも遅かったようだ。
ワニ太が遂に、『巣くうもの』に完全に吸収された。骨一つ残すことなく、『巣くうもの』の肉に呑まれていった。

「……ワニ太、そして、さっき消えちまったワニ男、ワニ美、すまねえ。
 だが、ここでこの化け物は殺すぜ。
 お前ら! アイツらの仇だ! この化け物を、徹底的に喰らい尽くせ!!」

ワニ吉が、分身達にとどめの号令を掛けた。



妙だ。
さっきから鬱陶しく己に噛みついてくる動物達。
そいつらからは、魂を、生命力を感じない。
最初に捕えた一匹を先ほど喰らい終えたが、自分の力には全くならないではないか。

そうか。
こいつらは抜け殻か。
抜け殻は無視し、己の喰らうべき生命力の在処を探ろう。

少し離れたところに、強い生命力を持つ個体がいる。
抜け殻を操っているのはこいつか。
しかも、他者を喰らうことのできる、非常に強い肉体の持ち主であるようだ。

素晴らしい。

さて、魂の強さ、生命力の強さとは、何を以て決まるのか。
意志の強さか。それも決して無視出来たものではない。
例えば一色洋子は、まさにその意志ゆえの魂の輝きを持ち、生贄としては上質の部類であったが、
その脆弱な肉体を補う為の、血肉を喰らう力が無かった。

そう、強き魂、強き生命力は、何よりも強き肉体に宿る。
そして、魂を、生命力を喰らう己に憑かれながら、
それでもなお、強い肉体を維持するには、他者を喰らい尽くさんとする意志と力が必要だ。

依り代が血肉を喰らい、魂を磨く。その魂を我が喰う。
欠落した生命力を、依り代が再び血肉を喰らうことで補い、またその分を我が喰う。
それこそが理想の、魂の輪舞。

それを為せる新たな贄が、そこにいる。



「ガアアァッ!?」
突然、『巣くうもの』の全ての触手がワニ吉に向かって伸び、彼の身体を拘束した。
自分の分身に対する攻撃は完全に停止しており、明らかにワニ吉だけに攻撃を集中している。
(コイツ、俺が『本体』だと気付いてんのか!?)
凄まじい力で、身動き一つ取ることすらできない。
ワニ吉を助けようと、ある分身は触手を噛み千切ろうとし、
ある分身はとどめを刺そうと『巣くうもの』に喰らい付き、その肉を食い千切る。
その時、『巣くうもの』の肉の中から、心臓のような形をした肉塊が飛び出した。
それは触手を伝ってワニ吉に瞬く間に接近、彼の口先で静止した。
まるで、自分からワニ吉に食われようとしているが如く。

(舐めるんじゃ…… ねえっ!!)

ワニ吉は、大きく口を開け、その肉塊を嚙み砕いた。


その瞬間、『巣くうもの』の動きが止まり、ぐじゅぐじゅ音を立てながら溶け始めた。
「うええっ、き、気持ち悪ぃっ……」
ワニ吉が最後に喰らった肉塊は、まるで腐肉の塊の様で、
肉食獣であるワニ吉にとっても不快極まるものであった。

最後まで意味の分からない怪物であったが、
何とか倒しきることができたようだ。
だが、この戦いで3体の分身を失ってしまった。
朝までに体制を整えようと、一旦湖に引き上げようとした、その時。

「ガ……」

ワニ吉に異変が起きた。
まるで一か月も何も食べていないような飢餓感が彼を襲い、
そして、口からは唾液が滝のように流れ始めた。

(なんだ、なんだ!?俺に一体何が起こってるんだ!?
 腹が減って仕方がねえ! 何か食わなきゃ、死ぬ!!
 分身達! そこら辺から、何か食えるものを持ってこい!!
 今すぐだ!! さもなきゃ俺が死ぬ!!
 あ、もう駄目だ、食うこと以外、何も考えられねえ。
 どうしちまったんだ、俺……)

もう理性を保っていることすらできない。
とにかく食わねば。自分が死んでしまえば『ワニワニパニック大作戦』は終わりだ。
家族と共に暮らす夢、腹いっぱい食べる夢、楽園の夢が潰えてしまう。

1体の分身が、人間の死体を引きずってきた。
ワニ吉は、半狂乱になりながらそれを食う。
だが、食っても食っても腹に溜まる気配がない。
分身達が、次々と死体をワニ吉の前に積み上げていく。
ワニ吉はそれをひたすら喰らい続けたが、
まるで餓鬼道に落ちたが如く、飢えが収まる気配はなかった。
「ギイアアアアアアアアアアアアアアーーーーッ!!!」
ワニ吉は、悲壮な叫びを上げながら、喰らい、喰らい、喰らい続けた。

そして、もはや芝居のできなくなった分身達は、
ただただ機械的に、人間の死体を運んではワニ吉の前に積み重ね続けた。
それはまるで、神に生贄を捧げるが如く。


『巣くうもの』は満足していた。。
遂に、獲物を狩り、喰らう力を持った肉体を手に入れたのだ。
一色洋子の時は、彼女一人の魂を食うことしかできなかった。
だが、これからは違う。
このワニ吉が、他者を喰らい、それを肉体に還元することで間接的に食うことができる。

さて、だ。
新たな依り代となったワニ吉には、
非常に興味深い異能があることが分かった。
それは『分身を作り出す異能』。
一色洋子が持っていた『肉体強化』の異能も興味深くはあったが、
一応、生物学的には不可能ではない能力だ。
だが、この『分身』はそうではない。
あきらかに超自然的な能力である。

思い起こせば、太古の鬼道の女王をはじめ、
かつて己を封じようとした陰陽師、僧侶、修験者といった輩の中には
その霊力を以て、人知を超えた術を使う者達がいた。
その原理については遂に知ることができなかったが、
この『異能』を分析することでその根源に近付くことが出来るかも知れぬ。

そこで、『巣くうもの』は、まず、『肉体超強化』の再現を試みた。
本来は、子供であってもオリンピック選手を超えるほどの身体能力を得ることのできる強力な異能である。
それが、初めから強い身体能力を持つ成体のワニに適用されればどうなるか。
だが、『肉体超強化』は一色洋子の異能。
『巣くうもの』が取り付いたところで、ワニ吉が使うことはできない。
しかし、この異能ならば、疑似的に再現することはできる。
やることは単純だ。沢山食わせればいい。
食わせて食わせて食わせまくり、消化器官を全開にしてエネルギーに変換、
それを片っ端から肉体の強化に充てる。
ワニ吉はこの実験が終わるまで、果て無き餓えに苦しめられるだろうが、
己の知ったことではない。

厄災は笑った。


ワニ吉の筋肉は肥大化していた。
腹に入れた肉が即座に昇華され、エネルギーとなるが、
それは生存活動に必要な分だけを残し、
『肉体超強化』を再現するための筋肉の成長に使われているのだ。

さて、食べる姿だけ見守っていても仕方ない、と、
『巣くうもの』はワニ吉に分身の異能を使わせてみた。
問題なく分身体が現れたが、どうやら、筋肉肥大化の影響は分身に反映されていないようだ。
ワニ吉の脳に巣くうウイルスが、本来あり得ない速さで行われる肉体の成長を把握しきれていないのだろう。
流石にそこまで都合よくはいかないか。
だが、眼前の手駒としては十分であろう。

肉体の強化が終わったら動き出そう。
この肉体を使い、この村に住む全ての魂を喰らい尽くし、己の贄とする為に。

それは、業を重ね続けた村への神の裁きか。
それとも、殺し合いの舞台で踊る者達を嘲笑う、悪魔の遊戯か。
神代から続く、史上最悪の『厄災』が、山折村に牙を剥こうとしていた。

【E―1/診療所/1日目・黎明】
【ワニ吉】
[状態]:『巣くうもの』寄生。飢餓感(超極大)による理性消失。『肉体超強化』の疑似再現により筋肉肥大化中。
    分身が10体存在。
[道具]:なし
[方針]
基本.喰らう
1.分身に食えるものを捧げさせる。肉体の強化が完了したら全てを喰らい尽くす。
※分身に『肉体超強化』の反映はされていませんが、
 『巣くうもの』が異能を掌握した場合、反映される可能性があります。


057.LOSS TIME&FREE TIME 投下順で読む 059.逃げ出すよりも進むことを
054.諦めの理由を求めて 時系列順で読む 042.可能性の獣たち
Normal×Anomaly ワニ吉 野獣死すべし

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最終更新:2023年02月15日 08:22