地下一階、警備室前。
真理を地下二階に先行させた天と真珠は、中断していた地下一階の探索を再開した。
とはいえ、残りの扉は三つだけだ。
階段部屋。まだ下らず、下に通じる道があることだけを確認。
そしてロッカールームには一人のゾンビもいなかった。
ロッカーが折り重なるように倒れ、中身がぶちまけられた部屋に、わざわざ踏み入る研究員もいなかったということだろう。
「で、最後の部屋はモニタールーム……警備室か」
踏み入った瞬間に確認できたゾンビは二人だけ。
祭服集団による襲撃という緊急事態が発生したために、詰めていた警備員はほぼ地下三階に回されたのだ。
警備室に突入して1分足らず、動くものは特殊部隊の二名を除いて一人もいなくなった。
「にしても、躊躇なく殲滅指令とはねえ」
「何かご意見がありますか?」
「いや、方針に文句はねえ。
ただ、あたしの知ってるお前は、こういう任務と関係ない殺しは避けようとするヤツだったろ?
短い時間でずいぶん擦り切れたな、と思ってよ」
「お言葉ですが、私一人ならば今でもそうしますよ。不要な殺生は避けます。
けれども、民間人を率いる立場となればそうはいかない。
特にスヴィア博士はゾンビに襲われれば逃げ切ることは不可能だ。
最終的な処遇はさておき、今は協力者ですから」
「立場は人を変えるってやつかい? それはそれはご苦労なこって」
「我々は命令されれば命を賭して戦いますが、彼らはそうではない。
我々の精神論だけでは彼らは動かせませんので」
真珠は肩をすくめる。
とはいえ、最初のトラックの女を味方に引き入れていたなら、
真珠とて同じように彼女らの士気の維持に気を砕いていただろう。
まさに巡り合わせと立場の違いでしかない。
「詰めていたゾンビが少なかったのは、別の部屋に人員が回されていたということでしょうか。
研究所内部の監視映像があるならありがたいのですが……」
「わざわざセキュリティパスを三段階に分けてんだ。仮に見られるとしてもL1パスで入れる場所だけだ。
研究所の中を映して、監視カメラに機密文書の内容が映りましたなんてことになりゃ笑えねえ。
――実際、ほとんどの映像が診療所の中だしな」
事実、投影されたモニターには、研究施設は一切映っていない。
記者会見の指名NGリストがうっかりカメラに映ろうものなら、大炎上して企業生命が絶たれかねないこのご時世だ。
セキュリティ的にもコンプライアンス的にも高い機密レベルを擁した施設内部を映し出すことはよろしくない。
「仮にそんな部屋があるとしても、最下層だろ。
そこに本来なら、うちらみたいな暗部担当が詰めてたんだろうよ」
天はふむ、と軽く相槌を打ち、モニターに繋がるメインコンピュータを確認する。
リアルタイム警備という特性上、画面ロックはかけていないようだ。
大地震のあともずっと稼働し続け、一時間ごとのアーカイブ動画が別ディレクトリに残っている。
「少しだけ調査をしたい。
ともすれば、物部天国が主犯であるという裏は取れるかもしれません」
天はメインコンピュータの前に座し、アーカイブ動画の並ぶディレクトリを時刻で並び替える。
スクロールをして画面に収めるのは昨日の21時から23時ころ、地震から放送がおこなわれるまでのアーカイブ動画である。
ふと、ファイルの一覧に違和を感じ取る。
「モニターとアーカイブの数が違ってやがる」
真珠の言う通り、21時台を境にファイルの数が一個減っているのだ。
減ったファイルはすぐに分かった。一つだけ明らかに容量が小さく、最終更新時間も古い。
「普通に考えるのならば、あの地震でカメラが壊れたというのことになるのですが……」
「21時10分……地震より前。におうな」
残されたアーカイブを再生。
写ったのはどこかの草原だ。
カメラ自体が茂みに隠されているのか、位置は低く、映し出される大半が山と空である。
変り映えのない大自然の映像が21時から続くが、そんなところを律儀に見る意味もなく、大きくスキップする。
そして、残り数十秒。ここで動きが出た。
祭服を着た何者かの上半身が映し出されたのだ。
不審人物たちは何かを探しているようで、足元に目を向けて視線を漂わせている。
直後、映像が大きくブレて、そこで映像は止まった。
「あの服装。確定だ」
SSOGに就職するよりも前、一度は殺されかけたが故に、真珠はその一派を目に焼き付けた。
物部天国本人の姿は見えなかったが、その一派がいたとなれば限りなくクロに近いだろう。
あるいはカメラを壊した人間こそが天国だったのかもしれない。
「もう一つ、浮かび上がった仮説がありますよ。
この研究所には、診療所以外に入り口がありますね」
「この手の施設に非常通路は定番だが、現実的なラインにまで下がってきたのはでかいな」
何もない草原をわざわざカメラで映すはずがない。
何かを探していた祭服の様子からしても、その周辺に裏口が存在するということだ。
そもそも天国のような狂人集団が平和な診療所内をうろついていて、騒ぎにならないはずがない。
故に彼らは裏口からひそかに研究所に侵入し、事を成したのだろう。
そして、少なくとも地震前後で祭服集団は自由にこの研究所に出入りできる立場にあったということである。
「……なあ乃木平。さっきの村人の顔写真、もう一度見せてくれるか?」
「ええ。いくらでも」
真珠が要求したのは天が持つターゲットの名簿だ。
先ほど、与田四郎のプロフィールを確認するにあたって、名簿の中にブルーバードがいないかどうかも真珠に確認させた。
該当の人物こそいなかったものの、ひとつ引っかかったことがあった。
「見た顔がいた気がしてな。……そうだ、こいつだよ」
画面のスワイプがとある女性を映し出したところで止まる。
長髪で金髪。つむじの色は地毛のままな、いわゆるプリン頭の小柄な女性だ。
「虎尾茶子……? 物部天国と関係が?」
「いーや、別口だ。お前は確か別の任務だったよな?
二カ月前の『テクノクラート新島』の件。
そこの別動隊で見た顔だ」
「村の関係者が、例の事件に?」
テクノクラート新島の大規模テロでは、SSOGはテロリストの殲滅を義務付けられていた。
だが、それとは別途、要人の救出班が別動隊として派遣されていた。
キレのある動きをしていたので覚えている。
当時の作戦における呼称はMs.Darjeeling。名簿では虎尾茶子。現在の異能は不明。
「なるほど、最初から関係者であれば、たどり着きさえすればすぐに潜入できる。
この部屋に出入りしたことのある荒事の担当者なら、別口を知っていて、そこからの侵入も十分ありうると」
「可能性だけでいえば、忍び込んでる『誰かさん』としては大本命だろうよ」
村で現地徴収された荒事担当の関係者であれば、純粋に村人を引率してくることもあるだろう。
純粋な研究員でないがために、研究所の内部を調査していたのかもしれない。
あるいは物部天国を手引きした勢力の可能性もあるが。
少なくとも、ゾンビの蔓延る中でだらだらくつろいでいた人間がいるという仮説よりは現実的だ。
「ちなみに、彼女の実力のほどはご存じですか?」
「まあお前よりは確実に上だよ。
白兵戦だけなら、ウチの中堅程度の実力はあるんじゃねえか?
だいたいあたしと同等、オオサキには勝てないってレベルだ」
真珠は軽く言うが、少年兵として戦場を渡り歩いていたオオサキの実力は、最年少クラスでありながら隊でもトップレベルだ。
一対一の訓練試合ならば勝ち筋もあるが、実際の戦場における総合力は真珠をも凌ぐ。
それより上に立ち並ぶのは、大田原や吉田、美羽といった怪物ぞろい。
地力の比較対象がこのレベルな時点で相当なものである上に、異能が不明であることも不確定要素だ。
警戒レベルを十全に引き上げる必要があるだろう。
「あとは、こっちも見た顔だな?
テクノクラートの英雄様じゃねえか」
テクノクラート新島の事件で活躍した少女探偵と剣道少年。天宝寺アニカに八柳哉太。
テロリストの一味と大々的にやり合っていたため、イヤでも記憶に残る。
というより、面倒なメディア対応を押し付ける囮にしたというほうが正しいか。
実際、マスコミの大半は華のある二人を取材し、SSOGやテロリスト一派、エージェントの水面下での抗争には目もくれなかった。
「彼女らは今朝がた、D4を拠点に休息していたと小田巻さんたちから聞き取り済みです。
我々よりも先行している可能性は低いですが……別の入り口から潜入した可能性は捨てきれませんね」
天宝寺アニカ自体はまぎれもない天才だ。
あるいは、
研究所への入り口も見つけ出せるかもしれない。
「最悪なのはハヤブサⅢがMs.Darjeelingと接触なり尾行なりして、まとめて研究所に入ってきてるパターンってところか。
ま、悪い方向に想定のレベルは引き上げておくべきだな。
……っと、これで一階は全部か? 階段は……パスが要るんだったな」
二人の警備員の懐からL1パスは一つずつ入手しているが、そのまま地下三階まで降りられるとは考えていない。
下階の探索には真理かスヴィアの持つL3パスか、あるいはこじ開けが必須となる。
「小田巻さんを待ちます。
階段のカギなら銃で壊せるタイプですが、敵の規模が分からない以上、稚拙な強硬策は採用したくありませんね」
何者かが虎尾茶子であれハヤブサⅢであれ、SSOGの情報の一かけら程度は握っているだろう。
推定実力SSOGクラスの相手に先手を許すのは絶対に避けたい。
できれば、真理に偵察してもらい、秘密裏に情報を持ちかえってほしいところだ。
「うっかり出くわしたら、うちは足手まといが二人だ。
あの二人、まだ切り捨てる気はねえんだろ?」
「ええ。現時点での離反は望みません。
研究所そのものの事柄にしても、我々の本来の任務に関する事柄にしても、確認しておきたいことは山ほどあります」
研究所の目的や黒幕の背後関係。尋問は済ませたものの、研究所の内情が明るみに出たとは言い難い。
それに、単純に騒動を終わらせる方法についても確認する必要がある。
隔離策をはじめとした、女王殺害以外の収束が実行可能なのかどうか。
そして、収束後に感染者たちに何が起こるのか、ということだ。
こうまで警戒を巡らさなければならない理由は、あれもそれもこれも、研究所から得た情報の信用の低さにある。
例えば、先の放送では異能に一切触れられていなかった。
研究所の副所長からの説明に関しても、『存在しない機能を獲得する』との説明しかなく、異能の規模はぼかされていた。
研究所の隠蔽体質は特殊部隊が村内で大苦戦している原因の一つである。
さすがに女王感染者を殺害すれば事態が収束するのは本当だろうが、その収束の経過自体も不安要素は残る。
放送でわざわざ触れられた後遺症というのが、少々身体が軋むなどの常識の範囲内の症状であれば問題ない。
他方、悪い想定として特にありえそうなのは、女王殺害後にも後遺症として正常感染者に異能が残るというものだ。
もし、ゾンビから自然経過で治癒した村人がいたとして、そちらにも後遺症として異能が残ったなら輪をかけて最悪だ。
正常感染者44人との戦いが異能者2000人との戦いに広がれば包囲どころではない。
あるいはゾンビからの治療のため各地に送られた村人から、後遺症として異能が発動したなどということになれば、全国でとんでもないパニックが起こるだろう。
もっとも、ゾンビにまで異能が一斉発症するメはほぼないにしても、
異能の複製をおこなうヒグマ個体が、死んだ異能者を捕食し異能を複製していると思わしき行動が備考として記録されている。
戦争というのは、終わらせることが一番難しい。
女王の斬首作戦のはずが山折村の絶滅戦争へと移行し、余計な犠牲者を増やすリスクを負う展開は避けたい。
48時間以内に作戦を遂行できないという最悪の結果を除いて、最も避けるべき結末である。
「少なくとも、ウイルスの実験結果はどこかに確実にまとめられているはずです。
女王の殺害から何時間でゾンビが意識を取り戻すのか。後遺症として異能は残るのか。
司令部のほうでも情報は収集しているでしょうが、独自に把握はしておくべきでしょう。
……あまり大きな声では言えませんが、女王殺害後、状況次第では元正常感染者の投降の受諾も視野に入れる次第です」
「……おい!」
上方修正していた天の評価を元の位置に戻すに足る甘さだ。
眉をしかめる真珠に対し、天は苦笑を漏らす。
「もちろん、我々の監視下の元、自由からは遠い境遇とはなりますが」
そして、真珠の反応は想定済みだとばかりに、その発言の根拠を示した。
真珠はその根拠に、しかめていた眉の谷間をさらに深く深く歪めた。
「何を考えてやがる?」
「部隊を預かるものとして、最良にことを運ぶために必要なことです」
この臨時部隊の隊長は天である。
天がガスマスクの上から人差し指を当てた。
これ以上の言葉は不要だというジェスチャー。
どこか演劇のように大仰に、天は話題を撃ち切る。
「まあ、いい。今の指揮官殿はお前で、うちの部隊の次期幹部殿はお前だ。
あたしら駒が口を出すようなことじゃねえ。成果が出るんなら、好きにやりゃいいさ」
「理解が早くて助かります。
余計な諍いができる状況でもなくなってきた。
スヴィア博士の要求も多少は飲みましょうか」
仮に脅しや暴力を用いたとしても、人の本質はそうそう変わらないだろう。
ならば、気持ちよく仕事をしてもらうほかはないということだ。
一体どの口が言ってんだという思いを飲み込んで、真珠は天と共にスヴィアたちの元へと戻った。
■
未来人類発展研究所は日本国内における最高峰の機密施設だ。
ありとあらゆる叡智が凝縮された知識の宝庫。
紙切れ一枚持ち出しただけで国家間のパワーバランスがひっくり返りかねない。
けれども、セキュリティと利便性を両立するのは人類最高峰の知を寄せ集めたこの施設内においても目下悩みどころである。
エレベーターを利用するには当然パスが必須だ。
けれども、パスコードまでは求められない。
たとえば、トイレがあるのは地下一階。配管業者など地下三階には入れられない。
けれど、下階からトイレに行くために、部屋を移るたびにパスコードの入力を何度も繰り返すのはあまりに不便に過ぎる。
そんな生理的に切実な理由を受けて、階層間であればパスリーダーにパスをかざすだけで、自由に行き来することができるようになっている。
それは、一度外部からのパスを持った侵入者を通してしまえば、好きなだけ探索できるというセキュリティホールでもある。
「みんな、それぞれパスは持ったかしら?
うっかり研究所の外に出ちゃうと、再入場にはパスコードが必要になるそうだから気を付けてなさい」
地下三階、細菌保管室前。
花子が全員分のパスを配り終える。
元々のわらしべ長者計画でも構想していた方針だ。
配られているパスは地下三階に散らばる警備員と研究員の死体から剥ぎ取ったものである。
持ち主はもはやゾンビですらない死体の山。
最下層から探索するにあたって、パスを持ち出さない理由はない。
なお、春姫はその手があったかと膝を打っていた。
珠は、ふと手渡されたパスを見る。
沢田英二。実験動物飼育員。
顔も知らない、名前も今知ったばかりの人間だが、死者の持ち物を拝借して使っているというのはそれだけで気が重い。
それを言うならH&K MP5も同じだが、顔と名が明示されているかどうかで受ける印象はまるで違う。
未だにそんな日常の延長線のようなことを考えているのは自分だけなのだろう。
花子はもちろん、海衣も既に覚悟の決まった表情だ。
変り映えのしない日常に刺激が欲しくて、毎日のように非日常を求めていた。
創や孝司たち転校生に突撃してみたり、探検と称して山の中を駆けまわったり。
けれど、今は日常こそを何よりも乞い願っている。
村はあまりに変わってしまったけれど、花子が外と連絡を取れれば、立ち戻れるのだろうか。
そんな考え事をしていた珠は前を行く海衣にぶつかりそうになり、慌てて足を止める。
先頭の花子を見れば、一際険しい顔をしてエレベーターの前で立ち止まっている。
「春姫ちゃん、ちょっといいかしら?
あなた、地下三階まではどうやって来たの?」
「む? 日野の小娘たちから聞いておらなんだか?
地下一階からわざわざ階段を下ってきてやったのだ。
迎えも寄越さず女王に出向かせるとは、まこと不遜にすぎる」
春姫がカギをこじ開けたこと、そこまでは海衣は確かに聞いたが、仔細までは聞いていなかった。
重要と言えば重要だが、どうでもいいといえばどうでもいいことだろう。
今、目の前の状況に立ち会わなければ。
「春姫ちゃんは、ご友人や従者とここに来たわけではないのよね?」
「郷田のが追ってきておらなんだら、妾にゆかりのある者はここにはおるまいよ」
「ありがとう、よく分かったわ」
花子の視線は再びエレベーターの扉の真上、階層ランプへと向く。
橙色の表示灯で形作られる文字は数字の『B2』。
与田があからさまにイヤそうに眉をしかめる。
珠もその意味を理解した。
エレベーターに表示される数は『B1』であるべきだ。
誰かが動かさない限り、それ以外の数字にはなり得ない。
「珠ちゃん。エレベーターに光は見えるかしら?」
「うん、すごく強い光。吞み込まれそうなくらい……」
「そう……」
珠の目には、太陽のようにまばゆく、意識を吸い取りそうなほどに白く深い光の深淵が見える。
正面から乗り込めば、それほどに大きな何かが起こるのだろう。
それが何かは、考えたくはなかった。
エレベーターに乗るだけで起こる、そんな一大イベントによいものなどあるはずがないのだから。
■
「スヴィア先生? スヴィア先生?
意識はありますか?」
地下一階、休憩室。
意識の外から呼び掛けられた声をうけて、スヴィアの意識が肉体へと引き戻される。
地下研究所一階、エレベーター前の休憩室。
声の主・碓氷誠吾が天から渡された治療道具でスヴィアへ処置をおこなっている。
「……問題ない。少なくとも、こんな……ところで、倒れは……しない」
表向きは診療所となっている研究所だけあり、自衛隊でも使用されるようなしっかりとした医療品も備えていた。
これで自由に動けるなどとは到底言えないが、生命力の零れ落ち具合は若干緩やかになっていることだろう。
スヴィアは与えられた乾パンを水で胃へと流し込み、僅かにでもカロリーを摂取する。
「それはいいことだ。あなたに倒れられたら、我々全員の生存が危うくなりますからね」
「仮にも教師なら……、正しく……言葉を使ったらどうかな?
『我々全員の』ではなくて、『僕の』だろう?」
誠吾は相変わらず自身が嫌われていることに苦笑を漏らす。
傍目には、減らず口を叩ける程度には気をしっかり持っているように見える。
「そもそも……、ボクに関心を向けていて……いいのかい?
うっかり監視の仕事に……穴を開ければ、キミは……役立たずとして……即座に処分されるだろうね」
「道理ですが、僕は僕で手札を増やすために色々と考えているんですよ。
たとえばスヴィア先生、あなたが今先ほど得た情報をなんとか利用できないか、とかね」
だが、誠吾はそれを、強い言葉を使うことで気丈さをアピールしていると解釈した。
事実、声をかけた瞬間に、スヴィアは怯えたようにびくりと震え、より強く発光するようになった。
誠吾は他人の心の機微にあまり興味はないが、強制的に視覚化されればイヤでも気付く。
「何を……。何の根拠で、そんな世迷いごとを……?」
「僕の異能は、あなたが僕を信用しているかどうかを測る異能です。これは知っての通り」
「ああ、よく理解しているよ。
他人の心の中を覗く……、無作法……極まりない異能だと……ね」
「哀しいことですが、僕への信用など、何かきっかけがなければそうそう変わることはないでしょう。
少なくとも、ただ歩いているだけで突然上がったり下がったりするものじゃない」
隠し事がバレた子供のように、スヴィアは口を噤む。
視線が僅かに揺らぎ、動揺していることが素人目にも分かる。
スヴィアは箱入りで育った天才。純粋培養された科学の申し子。
正面から殴りかかってくるような悪意に対しては捨て身の交渉という手段を取ることもできるが、
ひそかに忍び寄るような悪意から心を守る術は身に着けていない。
「顔色を悪くしたあの瞬間、僕への信用が大きく下がった」
「そんなことも……あるだろう?
君の不誠実さを……思い返しては……、はらわたを煮え繰り返していただけさ」
「まさかまさか。
状況的にも人間的にも、貴女はそんなくだらない回想で貴重な時間を潰すような人間じゃない。
そんなヒマがあるなら、女王を見つけ出し、事態を終わらせる方法を試行錯誤するはずだ。
貴女の高潔さと純心を僕は信用しています」
ただでさえ悪いスヴィアの顔色が輪をかけて悪くなる。
体調の悪化は、何も肉体的な負傷によるものだけではない。
大きなストレスは体調にそのまま反映されるものだ。
そして、肉体のダメージが大きければ大きいほど、加速度的にはねかえる。
「別に他人を陰湿に追い込む趣味は僕にはない。なのではっきりと言いましょう。
異能を使って、何かしらの悪い事実を見つけ出したのでしょう?」
スヴィアは油汗を流し、顔色は青へと近づく。
しかし、誠吾の目に映る色はますます強い赤となる。
皮肉にも、誠吾に警戒すればするだけ、隠し事の有無だけは明るみに出る。それが彼の異能である。
「何を見つけたかも、当てて見せましょうか」
誠吾は宣言する。
スヴィアが隠し事をしている時点で、おおよその見当はついている。
彼女は自己犠牲すら厭わない精神の持ち主だ。
たとえ困難に阻まれても血反吐を吐きながらぶつかっていく。
そして今や、事態解決のために特殊部隊への全面協力へと踏み出し始めた。
たとえば、隔離策で解決できないとしても、スヴィアなら奮起して別の解決策を探すだろう。
たとえば、強大な敵がいたとしたら、隠し通さずに天に報告するだろう。
たとえば、女王を殺すことで新たな問題が起きる可能性が見つかったにしても上に同じ。
そこで判断を間違えるとは思わない。
では自己犠牲と使命感の塊のような人間が誰にも焦燥して抱え込むことは何か。
自力でも九割方まで絞れたが、最後のピースは先ほど天の口から語られた。
「大切な誰かが既に研究所に忍び込んでいた。
その誰かが、特殊部隊のお二方にかち合って殺害されることを恐れている」
真理と天が先行していたあのとき、エレベーター内にいたスヴィアと、細菌保管室前で言葉をかわしていた珠たち。
彼女らを隔てる物理的な壁は、地下三階のエレベーターの扉一枚のみ。
であればスヴィアには声が届く。
守りたいと思っていた者の一人、聞き覚えのある声が進行方向から届いたことに、確かにスヴィアは戦慄したのだ。
正解かどうかを聞くまでもなく、その色を見て、我が意を得たりとばかりに誠吾は笑みを浮かべる。
「誤解しないでほしいのですが、あなたを追い込みたいわけではないんだ。
もしあなたが望むのなら、一肌脱いで差し上げてもいい」
「……何が目的だい?
裏切りの相談であれば、ボクは降りさせてもらうが」
青い顔色のまま、訝し気に睨みつけてくるスヴィアに対し、誠吾は苦笑の表情を浮かべる。
これではまるで脅しや人質のようだ。
「乃木平さんたちを裏切る意図は一切ありませんよ。
それよりも、スヴィア先生はまだご自身の価値を低く見積っていらっしゃる。
特殊部隊といえども、スヴィア先生……いや、スヴィア博士の嘆願はないがしろにはできないはずだ。
黒木さんや真理ちゃんがどうかは分かりませんが、少なくとも乃木平さんがあなたを簡単には斬り捨てることはない」
誠吾の指摘に対し、スヴィアは押し黙る。
非情な特殊部隊というには、どうも物腰の柔らかい男。
平時ならば気遣いの鬼という言葉が似合うであろうその男は、その物腰とは裏腹に非情で抜け目のない指揮を執る。
そんな彼は妙にスヴィアに遠慮をしているようなフシがある。
その筆頭は、未だスヴィアの異能を聞き出していないことだろう。
忘れているとは思えない。それこそ、誠吾が言うように今は客人扱いされているのか。
「結果的に僕は特殊部隊と手を組みはしましたが、最終的な命綱は貴女の成果です。
僕らはいわば運命共同体にある。
貴女からの一次情報を得られる立ち位置を維持することが、さほどおかしなことでしょうか?」
誠吾の言い分を理解する。
特殊部隊一点掛けならば、関係性が変わった瞬間に切り捨てられてしまう。
たとえば、頭が天から真珠に代わるなどの想定外の事態である。
これはもう終わったことではなく、たとえば今後天が死亡することがあれば、容易にその結果に移行するだろう。
誠吾は真理のような強さもなければ、スヴィアのような知識もなく、強力な異能も持ち合わせていない。
会話と立ち回りだけで小器用に生き延びてきた、良くも悪くも口だけの存在だ。
今さら武器の訓練やウイルスの勉強を始めたところで圧倒的に能力が足りない。
ゆえにこれからも口先だけで生き延びるしかないのだ。
スヴィアの口添えも得られる立ち位置の確保。
一本の綱渡りから、二本の綱渡りに。薄氷一枚を薄氷二枚に。
これが誠吾の真意だ。
「……何度も言うように、僕はあなたの敵ではない。誰の敵になるつもりもない。
何も添い遂げようというわけじゃないんだ。
利害が一致する間は、良好な関係を築き上げたいものですね」
「……」
スヴィアは思考する。
小田巻真理はその人当たりの良さとどこか抜けた性格とは裏腹に、この中で最も恐ろしく不気味な存在だ。
極端から極端に前触れなく揺れるその性質は、いつこちらに牙を剥くのかも分からない得体の知れなさがある。
そして右腕の火傷跡。深夜、朝顔茜を襲ったという人物と性質が一致する。
何より一度は自分を斬りつけた相手だ。相対するだけで自然と身体が震える。
黒木真珠は上月みかげと出会っている。
スヴィアたちと別れた後の出来事となれば、珠や茜とも出会っているだろう。
古い知り合いだと本人は言っていたが、上月みかげの異能をスヴィアは知っている。
みかげは異能を使って逃げ切れたと信じるよりほかはないが、彼女と同行していた珠は今この研究所内部に来ている。
黒木真珠に小田巻真理。
この二人は珠や茜、みかげとは絶対に会わせてはならない。
たとえ、自身の利益しか考えていないような男に協力を仰いでも、彼女たちが特殊部隊と出会うことは阻止しなければならない。
覚悟を決めて、スヴィアは誠吾へと協力を願い出た。
■
地下三階、エレベーター前。
珠の異能を受けて、花子は数秒考える。
花子の異能は未来を視通すこともできるが、その範囲は視界の届く場所に限られる。
2階の未来までは見られない。待ち伏せされれば逃げ道はない。
「エレベーターはダメとなれば、階段のほうはどうかしら?」
「そっちはエレベーターほどじゃないよ。
それでも、ピカピカ光ってはいるけれど……」
「ありがとう。ここは階段を使いましょうか。
それと、全員で行くのは中断するわ。見張りを立てたいと思うの」
「見張り? 二階に進むグループと見張りとに分かれるんですか?」
「ええ~っ、やめましょうよ!
こんなときにバラバラに行動したら、絶対ロクでもないこと起きますって!」
「その懸念もごもっともなのだけれど、不測の事態は避けたいのよね」
心当たりがあったのか、ふむ、と春姫は相槌を打つ。
「妾たちのほかに誰が忍び込んでおるのかも知れぬ。
それが友好的なものであるのなら構わぬが、
迷彩服や祭服の気狂いをはじめとした、不遜の輩が徒党を組んで妾を弑せんと企んでおる可能性も捨てきれぬ。
そういうことよな?」
「神楽さんが言っていた、ワニと一緒にすれ違った人っていうのは、この祭服の人たちなんですか?」
「そう言っておろうが。
尤も、その気狂いに関しては妾が威光を正面から浴びて、塵芥と化したが」
(本当かな……)
威光で塵芥と化すとはどういうことなのか。
与田の診断では、春姫の異能はウイルス保持者をひれ伏させるものだということだ。
逆らった者を塵に変えるなどというオプションは存在しない。
春姫の答えには疑問しか浮かばないが、診療所近くで祭服に襲われたことだけは確からしい。
「私たちが目的かどうかは分からないけれど、彼らが戻ってくる可能性はあるわね。
あとは特殊部隊が乗り込んできてるパターンもゼロじゃない。
そういう不測の事態に備えたいのよ」
少なくとも、ウイルス拡散の実行犯たる祭服たちが直接地下三階に乗り込んでいるのは明らかだ。
もし診療所のほうから乗り込んでいたのなら、地震以前に大騒ぎになっていただろう。
海衣たちが知らないはずがない。
研究所がゾンビだけの無人であるなら全員で通信室に直行すればよかったが、そうでないなら進むにも相応の警戒が求められる。
そうしているうちに挟み撃ちを食らうのは避けたい。
「見張りには、海衣ちゃんを推すわ」
「私、ですか?」
海衣は一瞬だけ面食らったような顔で聞き返すが、すぐに納得の色が浮かぶ。
花子と与田は連絡をするにあたっては必須の人員。
あとのメンバーが春姫と珠となれば、自分が選ばれるのは何も不自然なことではないが……。
「消去法というわけではないのよ。
積極策というか……むしろ、後詰を確実に防ぐのに、あなた以上の適任はいないのよ」
花子はふるふると首を左右に振り、海衣の消極的な考えを否定する言葉を紡ぐ。
一流のエージェントともなれば人の心すら読めるのだろうかと、海衣はとりとめのない感想を抱いた。
花子は表面の態度こそ享楽的で軽薄だが、作戦の立案時には必ず公平に評価を下す。
できない人間に強要することはないし、信頼のおけない人間を重要なポジションにまわすこともない。
そして特殊部隊を撃退するために花子と海衣は何度も策を練ってきたが、海衣が仕上げた箇所が花子の運命を左右した場面は数知れない。
花子が海衣に任せると決めたとき、彼女は必ずその何もかも見通すような目を以って、真剣に海衣の人格と向き合ってきた。
此度も、二人の目線がまっすぐな一本につながった。
「海衣ちゃんには、ここに残ってもらって、エレベーターと非常通路の監視をお願いするわ。
とはいっても、そんなに難しいことではないはずよ。
海衣ちゃんの異能なら、扉を凍てつかせて時間を稼ぐことはできるでしょ。
エレベーターが下がってくるか、非常用通路から物音が聞こえたら封鎖するの」
「それは確かに、海衣ちゃんにしかできない仕事かも……」
「見張りは退屈かもしれないけれど、重要な仕事なの。
少なくとも、誰にでも任せられる仕事じゃないわ」
珠は腹に落ちたようにつぶやくが、海衣の実績による人選の比率も大きい。
仮に与田の異能が『花鳥氷月』 であったなら、見張りは任せなかっただろうから。
「というか、それなら今凍らせて完全に封鎖したほうがいいんじゃないですか?」
「その考えも一理あるのだけれど……。
万一のときに撤退経路が一本もないのは、それはそれで困るのよ」
海衣の異能は顕現させるのは一瞬だが、除去するのは時間がかかる。
あらかじめ外へと通じる通路をすべて封鎖しました、敵が危険すぎて撤退したところ逃げ道が全部氷で塞がれていました、という状況はとても笑えない。
また、外部に通信をおこなってすべてが終わるわけではない。
肝心の女王感染者への対策のため、B3Fを敵対者に明け渡すわけにはいかない。
故にピンポイントで怪しいところに封鎖をおこなう細やかな作業が必要になるのだ。
「なるべく早く用事を済ませて戻ってくるわ。
任せていいかしら?」
「分かりました。後ろは任せてください!」
「いい返事ね!」
花子のエージェントとしての目的が露わになっても、二人の間を結ぶ目線の糸に一切の綻びはない。
「氷月さん一人じゃなんですし、僕も一緒に残りましょうか。
通信機の使い方は紙に書いておきますから……」
自分たち以外の侵入者がいると分かった途端に尻込みしだす与田。
「当然、与田センセは私と一緒に来てくださるわよね?
顔見知りがいたほうが本部のお偉方たちもスムーズに話せるでしょ?
それにセンセがいないと通信機材の使い方が分からないじゃない」
「ええ~っ、絶対そんなことないですって!
花子さんはエージェントなんだから一人でセッティングできますよ!
「あらセンセ、高い評価をありがとう。
けれど、エージェントといっても万能じゃないの。
専門の機材のセッティングは本職にはかなわなくてよ」
花子は、容赦なくそのケツを叩く。
もはや何度目か分からない茶番を繰り広げる二人。
素性が割れても、この二人の関係性は変わらないのだろう。
「私はどちらなんですか?」
「珠ちゃんは私たちと一緒に来てほしいわね。
余計なトラブルは避けられるに越したことはないもの。
あと、春姫ちゃんは……」
「当然向かう。
仔細は花子ちゃんに任せてもよいが、村の一大事に長たる女王を交渉の席に付かせぬこと罷りならぬ。
研究所の愚か者どもにも、自らの行いがどれほどに不遜であったのかを思い知らせねばなるまいよ」
春姫は当然のように同行を宣言する。
「うーん、私としては海衣ちゃんと残る選択肢もあると思うのだけれど……」
「くどいぞ花子ちゃん。汝はどこぞの組織に命令されただけの駒、かつその功績ゆえ目溢しの余地もあろう。
だが、研究所と汝の組織はまこと罪深い。大逆無道きわまりなし、妾は決して彼奴らを許さぬ」
村の機関でありながら、厚顔無恥にも女王に対して反乱を起こした研究所。
村の機関に対して無断で破壊工作をおこなうことを決断した組織。
いずれも女王たる春姫が沙汰を下さない未来などあり得ない。
「分かったわ、同行を了承します。
ただ、その沙汰については最後にお願いできるかしら」
「無論。まずは村を救うことこそが最優先よ」
春姫の同行を花子はあっさりと受け入れる。
始祖たる春姫に愚申するならば相応の固い意志が必要だ。
彼女を知らぬのなら、より強固な決意が求められる。
彼女――あるいは村そのものに対して罪悪感の一かけらでも持っているならさらに抗いがたい。
イヤだな、申し訳ないなという僅かな心のブレ。
心の底に押し込めた、どこまで行っても人類は愚かという本音のミックス。
それらが僅かながらの心の隙間となって、春姫の指針を無意識に肯定する。
そうなればたとえ一流のエージェントであろうとも、逆らいがたい。
それが春姫の異能である。
そんな春姫に役割があるとすれば、邪魔なゾンビの対処以外にありえない。
そして地下三階においては、廊下をうろついていた研究員や警備員が祭服に皆殺しにされたことで、ゾンビに襲われる可能性は皆無だ。
もちろん、カギのかかった部屋の中にはゾンビもいるのだろうが、開けなければ襲われようもないだろう。
つまり春姫は留まる必然性、同行する必然性、ともに最も薄いフリーな立場。
三階に残る理由も二階に行く理由も何一つない。
だから、同行も問題ない。
身も蓋もない言い方をすれば、作戦行動に支障はないので同行して問題ないよ、が花子の出した結論である。
「さ、みんな! ちゃきちゃき動くわよ!
ここまで来て、ゲームオーバーだなんて悔しいもの」
花子が音頭を取り、珠は表情を固くしてこくりと頷く。
緊張した足取りで歩く与田に対して、春姫はまるで近所への散歩のように悠然と歩く。
そんな彼女らを海衣は見送り、そして四人は角の向こうへと消えていった。
■
地下一階、休憩室。
特殊部隊の二人が探索に出てから十分弱。
結局、エレベーターには動きはなく、そのまま二人が帰還するに至った。
「地下一階の安全は確保しました。
小田巻さんが帰還するか、あるいは30分後……14時になったら二階へと踏み入ります」
特殊部隊の二人は何事もなく地下一階を制圧。
外部からの侵入者がない限りは地下一階の安全は保証されたと考えていいだろう。
「待ってください。我々のほうからも提案があります」
「なんですか?」
待機命令、それに対して声をあげたのは誠吾だ。
「先ほど、何者かがいる可能性が高いと言いました。
先に彼らに接触する機会を我々に与えていただけないでしょうか?」
「その意図は?」
間髪入れず、普段よりも若干低い声で天は聞き返す。
SSOGであれば、上官の命令に逆らうのは懲罰の対象である。
だが、国家に忠誠を誓った秘密特殊部隊員とは違い、スヴィアも誠吾も一般国民に過ぎない。
我儘を聞く必要はないが、ここで命令を強要する意義はない。
ただし、誠吾らの話がただの我儘か、実のある提案かを判断するために敢えて圧をかけている。
真珠はあきれたような顔をするが口は挟まず、誠吾の目に映る天の色も、透明に近い青のままだ。
「先に我々が接触すれば、あなた方では決して得られない情報を引き出せるかもしれない」
「なるほど。我々特殊部隊に対して口を割らない愛村心の強い方々も、同じ村民ならば話は別だと?」
「自慢ではありませんが、我々は職業柄、村内である程度の知名度も信頼もある。
尋問の心得はありませんが、同じ村人として共感を示すことはできるでしょう。
その誰かは、既にこのウイルス騒ぎに対してある程度の解は得ているかもしれない。
特に、相手の目的や成果への進捗を聞き出すのであれば、あなた方が先に姿を現すべきではないのでは?」
誠吾には真理という特殊部隊との架け橋が存在した。
スヴィアには黒幕という無視できない手土産が存在した。
だがそれは例外中の例外だ。
半日以上経った今、特殊部隊と村民とは殺し合う以外にない。
特殊部隊では暴力というクッションを間に挟まなければ、村人から情報を引き出すことはできない。
「それに、スヴィア先生の体調は悪化の一途をたどっています。
あまり時間をかけすぎるのはよくないかと」
天はマスクの先を指でとんとんと叩き、考えを巡らせる。
要するに、誠吾の提案のお題目は調査時間のショートカットだ。
偵察の役割を付け足しているが、そちらはあくまで天たちに断られないための後付けといったところだろう。
確かにスヴィアの体調を考えると、一考の余地がある提案ではあるが。
「こちらとしては、協力的な姿勢はありがたいことですが、スヴィア博士の心境の変化が気になりますね。
何か心変わりする出来事でもありましたか?」
質問の矛先を誠吾ではなくスヴィアに向ける。
「特殊部隊が……、何人いるのかは知らないが……。
解決が……遅くなればなるほど……村人の犠牲者は増える。
意地を張らずに……、一刻も早い事態の解決が……必要だと判断したよ」
「正直、この研究所に来るまで僕たちは特殊部隊の技量を低く見ていました。
あれだけの殺しの技術を見せつけられては、ね。
頑なに拒んで大きな犠牲を出すよりはと、彼女を説得したんですよ」
「おいおい碓氷さんよ。乃木平指揮官はスヴィア先生の口から直接聞きたいってんだ。
外野が横から口出すのは野暮ってもんだぜ」
スヴィアのフォローにまわろうとする誠吾に対し、真珠が牽制する。
今聞きたいのはスヴィアの真意であり、誠吾の成果ではないのだ。
「それでもし……、事態の解決に役立つ人間が……いたのならば、せめて……調査が終わるまでは見逃してもらえれば助かる。
そのような特殊な異能者……一人ボクにも心当たりはあるんだ」
「ふむ……」
天が何かを納得したかのような落ち着いた声を漏らす。
スヴィアは心臓の鼓動が速まるのを感じながら、次の返答を待った。
「なるほど、そちらが真意なのですね?
異能者の位置を特定するような異能を持っているのでしょうか?」
誠吾の顔が強張る。
いくらなんでも今のスヴィアの条件は直球すぎる。
「ボクの異能は……、超音波を感知し、操作する異能だよ」
「……それならば開示に非協力的だったことにも頷けますが。
今回に限り、目を瞑りましょう。どの道あなたには大切な役割があるので」
一瞬だけ反逆と認定されたのかと誠吾は肝を冷やした。
だが、スヴィアはこの要望が通ることは確信していた。
ほかならぬ天が、そのような話を真珠とかわしていたのだから。
聴力の強化は副次作用。異能のメインではない。
特殊部隊による放送作戦を聞いたかどうか、超音波使いという情報だけでそれを確信するのは難しいだろう。
「ただし、その誰かがどこにいるのかは教えてもらいますよ。
そして、先んじて接触していいのは碓氷さんだけだ」
禁句の認識を合わせ、破れば真っ先に誠吾がターゲットとなる。
そんな確約を取り付けられたが、最初に提示した条件は飲ませた。
誠吾だけであるとはいえ、先行接触の許可は得た。
異能の開示はおこなえない。
村人を放送で集めて皆殺しにするという計画を聞いていたことまで露呈してしまう。
彼ら自体に反発的だった午前中はもちろん、無駄死にができなくなった今もまた、開示することはできない。
だが、それを黙認された以上、ここで珠たちの位置情報を話せないとゴネることはできない。
この研究所内のどこに、最低何人いるのか。
得られた情報を慎重に開示していく。
■
「ゴアァァァ!!」
「ウボァァァ!!」
地下二階、階段部屋。
L2パスで二階の扉を開けた瞬間に、出るわ出るわゾンビの群れ。
祭服たちは二階にまでは進行していないらしく、爆破の後、慌てて廊下に飛び出した職員たちは全員そのままゾンビと化していたようだ。
そんな凶悪なゾンビたちであるが……。
「無礼者ども。そこになおれ!」
春姫の静かな一喝で、ゾンビ全員が大きな重力に囚われたかのようにその場にひざまづく。
まるで女王の訪れを待ち侘びていた使用人のように、ゾンビたちはその場に列をなしてひざまづいた。
ハヤブサIIIの捕縛術や天原創の制圧をも上回る見事な手際だった。異能100%である。
「あの、春姫ちゃん。扉につっかえているのだけど……」
「む?」
ひざまづいたゾンビが扉に引っかかって閉められなくなったことを除けば。
花子は階段の手すりに取り付けられた、転落防止ネットの取り付け用ロープを利用して、ひざまづいたゾンビを手すりにまとめて縛りつける。
その間、第二階層から誰かが現れないかと注視していたが、ゾンビ以外の何者かが姿を現すことはなかった。
音もなければ、誰かがいる気配もない。
「少し引っかかるわね……」
「ふむ、何か気になるところがあったのなら、言ってみるがよい。
無体をはたらく輩が姿を現さなんだことが気になるのか?」
「ええ。私は誰かがいるリスクを案じて行動を取ったわ。
けれども、廊下にはゾンビがまばらにうろついているの。
死体もないし、ゾンビが特定の部屋の前に集まっているような素振りもない。
春姫ちゃんのような異能を持っているならば話は別だけれど」
「女王が妾以外にいるはずがなかろう。
もしいるとすれば、それは女王を僭称する大逆人よ」
大逆の意図があるかどうかはともかくとして、春姫と同じ異能ならばそれでも痕跡の一つ二つはあるはずだ。
既に立ち去ったのか、それともどこかの部屋の中に引きこもっているのか……。
もっとも、扉を開けた直後の安全までは確保できた。
花子は下階の踊り場で待機している珠たちを呼ぼうとしたが……。
「花子さん、光が……」
珠は二階よりもさらに上に目線を固定し、声を抑えて呟く。
同時に、ガチャリと扉が開く音が階段フロアに響き渡った。
にわかに緊張が高まる。
花子が急いで、しかし音もなく二階の扉を閉める。
一階の招かざる客が敵か中立かは分からないが、この段階で二階の何者かに自分たちの存在を知らせるのは悪手だ。
扉の開閉に続いて、ぎゅっ、ぎゅっとゴムが床に接触する足音が響く。
花子は音もなく壁際へと身を寄せ、与田は汗を流しながらそろりそろりと階下の死角へ移動する。
だが春姫にそのような気配りなどあるはずがない。
普通にぺたぺたと音を立てて花子の隣に歩いていった。
「そこにいるのは誰だい!?」
超一流のエージェントであろうとも、同行者が普通に歩けば隠形は不可能だ。
研究所にいる時点で常人ではないと事前評価を修正していたが、それをはるかに上回る規格外ぶりには頭を抱えそうになる。
やり過ごすことは不可能、正面から対峙するしかないかと考えたところで、珠が声をあげた。
「あれ、その声……? 碓氷先生!?」
「日野? その声は日野か?
どうしてこんなところに……いや、答えは決まってるか。
日野も手がかりを求めてここに来たんだな?」
「うん、そうだけど……なんで猟師の恰好?」
「スーツで夜通し歩き回るのはつらいんだよ」
上階から現れた何者かが顔見知りであったことで、高まった緊張がほぐれていく。
誠吾は手すりから顔を出し、珠を見て顔をほころばせる。
珠の色は青。信頼の青だ。
「珠ちゃんのお知り合いだったのかしら?
こんにちは、イケメンのお兄さん。
私は観光客の田中花子。花子さん、でいいわ」
下階から姿を現したのは、妙に社交的なスーツ姿の麗人。
誠吾も一度だけ村で見かけたことのある人間だ。
学校の生徒と軽く話をしていた光景を覚えている。
都会のキャリアウーマンといったその佇まいながら、村への好奇心が強い観光客だった。
都会勤めへのコンプレックスを刺激されてしまいそうになり、その場で話すことはなかったが。
ただ、今となってはそれも一つの切り口から見た一面の話であろう。
小田巻真理という『観光客』としばらく行動していたのだ。
『観光客』という言葉は警戒を呼び起こすには十分だった。
何より、花子のその色はどぎつい赤。考えるまでもなく警戒の色だ。
「ええ、初めまして花子さん。
こんな事態でなければ、山折村へようこそ……と歓迎できていたのですがね。
僕はこの村で教師をしています、碓氷誠吾と申します。
それと、もう一人のヘルメットを被ったお方は……おそらく神楽春姫さんだとお見受けしますがいかがでしょうか?」
「ああ、誰ぞと思えばうさぎの担任か」
スーツの麗人と違い、もう一人は明らかに場違いな服装をしていた。
黄色いヘルメットに巫女服、そして抜き身の剣。
猟師姿をした誠吾が言うのもなんだが、ファッションセンス皆無である。
ついでに、なぜ妾が見上げねばならぬとばかりに目を合わせもしない。
「一目で分かりましたよ。オーラが違いますので」
巫女服だけなら犬山姉妹の可能性もあるが、カラーはまさかの無色。はじめてのニュートラルポジションだ。
まさにオーラが違う。こんな変人は一人しかいない。
その外見に惹かれて一目見にいったはいいものの、誠吾をもってしてもこいつはないと早々に結論付けるほどの規格外である。
「私たちもあなたと同じ、バイオハザードを終わらせるためにこの研究所を調査しに来たの。
目的が同じそうで安心したわ。
碓氷先生は一人でここまで来たのかしら?」
「いやいやとんでもない。
僕一人で秘密の研究所に入り込むなんてとてもとても……!
ちゃんと同行者はいます。
ただ……ここはやっぱり敵地のようなものですから。
誰がいるのか分からない以上、表に立つべき人間と立たせるべきではない人間というのはいるもので……」
仮に一人で来たと答えていれば、花子の警戒心は一気にストップ高にまで振り切っていただろう。
花子ですら複数の協力者を得てようやく侵入した研究室に、一人で突入できる豪運の持ち主がいるとは思えない。
実際は隣にいるのだが、そんな異能じみた人間は一人で十分だろう。
誠吾の答えは実に標準的な回答である。
「そうね、その判断自体は妥当だと思うわ。
それで、その懸念は解消されたと見ていいのかしら?
もしよければ、顔合わせをしたいのだけれど?」
「そうしたいのはやまやまですが、こちらにも事情がありまして……。
一人は負傷で安静にしており、もう一人は先行して地下二階の調査をおこなっているのです。
そちらは花子さんと同じく、観光客の女性なのですが、見かけていませんか?」
見かけているはずはない。
同じ目的。同じ考え方。同じ立場。そして同じくらいの警戒心。
同質性を表に出し、親近感の醸成を試みて相手と対等な立場に立つ仕込みだ。
話の分かる相手としての立場をアピールすることが目的だ。
だが、互いにやんわりと相手の手を払いのけ、警戒心は崩さない。
「ふむ、ゾンビのうろつく中、負傷者を残して一人で?」
何気なくつぶやく春姫であったが、確かに違和感のある采配だ。
地下三階とは違い、地下一階にゾンビが蔓延っていたことは春姫が確認している。
「ええ、花子さんと同じ、『観光客の女性』がいましたので。
そのあたりは抜かりありませんよ。負傷したといえど、彼女のいる場所は安全です。
少なくとも、ゾンビには襲われない」
「……同業者でもいるのかしら?
ひょっとしてあなた、私のことをすでにご存じだったのではなくて?」
「いや、僕は花子さんと同じことを考えただけですよ。
僕は神楽さんと日野だけではこの研究所に来られるのかと疑った。
あなたは僕が一人でこの研究所に来たことを疑った。
それと、彼女が花子さんのことを知ってるかどうかは……聞いたことはないですが、たぶん知らないんじゃないかなあ」
煮え切らない返事だが、同じ観光客を装ったエージェントがいるというのなら、一応の筋は通ってしまう。
怪しいことこの上ないが、話を進めることにした。
「いいわ、余計な牽制はなしにしましょう。
まずは前提だけれど、あなた、この研究所で何が起こったのかご存じかしら?」
「起こったことといえば、テロリストが研究所を爆破し、ウイルスを拡散させたことでしょうか?
警備室の動画に、テロリストの一味が侵入しているところが残っていました。
一度は僕も本気にしてしまった手前、言いづらいのですが……。
今ではあの放送もテロリストによるフェイクではないかと疑っています」
「……言われてるよ、与田先生」
「……僕が放送を流したことは本当に内緒にしておいてくださいね」
珠と、階段下に隠れている与田は小さな声で会話する。
元凶と言えば元凶なのだが、知らない間に知らない罪状が盛られていくのは勘弁願いたいものである。
「そこの認識は合っているわね。
地下三階に、祭服を着た不審者たちと警備員との戦闘の跡があったわ。
細菌保管室も破壊されていた」
「であればやはりあの放送はフェイクで、女王殺害以外にも解決する方法があるはず、ということですか」
「そうね、その理解でおおよそ認識は合っているわ。
私たちはウイルスのレポートは見つけた。研究所の理念も目を通した。
けれども、バイオハザードそのものを解決する手段までは見つけていない。
それは、今も異能とゾンビが大手を振って歩いている現状を見て分かる通りね」
ただし、バイオハザードを解決させるのも重要だが、特殊部隊を引かせることも重要だ。
花子は自身にしかできないこととして、後者を優先して取り組んでいる。
前者は特殊部隊を引かせた後、与田と珠に大いに動いてもらうことになるだろう。
「横から成果を浚うようで申し訳ないのですが、
そのレポートや理念を我々にも共有していただくことは可能でしょうか?
地下一階にはそのような文書はいっこうに見つけられなかったので……」
「それは構わないけれど、わざわざそちらに向かうつもりはないわよ?
私たちも私たちで調べたいことは山ほどあるの。
どこの誰かも分からない人のために、時間を割く余裕ははっきり言ってないわね」
にべもなく花子は要望を断る。
ここは優先順位の問題だ。
どこの馬の骨ともわからぬ輩のために上階まで出向いて説明をしていては、時間がいくらあっても足りない。
この回答に誠吾はなぜか目をそらし、誰かと連絡を取るような素振りをおこなう。
花子は訝しむが、すぐにその理由を理解した。
ぺた……ぺた……とゆっくりながらも、新しい人物が場に現れたのだ。
「まったくもって……、その通りだとボクも思う。
彼女らの成果を……共有させてもらうなら……、こちらから出向くのが……筋だね」
「えっ、スヴィア先生!?」
それまで誠吾との会話に口を出せなかった珠が思わず声をあげてしまう。
スヴィアは苦悶の表情を笑顔に変え、珠へ健在をアピールする。
「花子さん……、でいいのかな。
元研究員の……
スヴィア・リーデンベルグだ。お会いできて……光栄だよ」
「あらら、これは意外な人物の登場ね。
ハロー、ミス・リーデンベルグ。
こちらこそ会えてうれしいわ。
あなたには色々とお話を伺ってみたかったのよ」
「碓氷先生。
こうして探り合っている間にも……、特殊部隊や……村人たち同士の殺し合いは……続いている。
ボクが会話を引き継ごう。
日野くんを……ここまで守ってきてくれたんだ……。悪い人じゃないだろう」
花子としても、スヴィアの登場は予想外だった。
誠吾がいやに慎重だった理由も、研究所まで来られた理由も、すべてを一挙に説明できてしまう。
「今朝までは研究所のことなんて一言も言ってなかったけど……。
最初からここに向かうつもりだったんですか!?
それに、スヴィア先生がここにいるということは、二階にいるのは創くんですか!?
あれ、でもさっき観光客の女性って言ってたような?」
誠吾がスヴィアを背負って階段を下りる間、珠の質問攻めが続く。
スヴィアは困り果てたように眉を寄せ、苦笑している。
「少なくとも……、研究所に関わり合いになってほしくなかったのは……事実だよ。
ここに来ることを決めたのも……、キミたちと別れた後になる。
もっとも、君たちの自由意思を無視した……思い上がりだったかも……しれないけどね」
花子から世界の真実を聞かされた以上、スヴィアの言うことも分かる。
あれは覚悟ができる前に聞くべきではない真実だった。
「捕捉すると、天原はまだ生きてる。
今は哀野さんという人と一緒に行動しているはずだ」
「愛野さんかあ……。なら、大丈夫かな」
「日野くんは、哀野くんと知り合いなのかい?」
「小さいころ、お世話になってて。悪い評判は聞かない人だから、大丈夫だと思うよ。
って先生、すごい怪我……! えっ、本当に大丈夫なんですか!?」
アイノ繋がりで互いに誤解釈しつつ、同じ階まで降りてきたスヴィアを見て、珠は大いに驚いた。
あちこち血塗れで、特に背中と右肩に大きな傷がついている。
「大丈夫だ……と言いきるには不調だが……、ここが踏ん張り時だからね」
「銃創に裂傷……。その傷をつけた犯人がいるはずだけれど、危険性はないのね?」
「その話は……、誰も幸せにはならないよ。
一つは誤射に……、よるもの。もう一つは、犯人とは和解済みさ。
もう撃たれることも……、斬られることもないから……、心配ないよ」
その一言で珠は創がいない理由を察してしまう。
そして、犯人と言った瞬間に誠吾がバツの悪そうな顔をしたのを花子は見逃さなかった。
確かにここで深堀したところでロクな結果にならない。
もし彼らを糾弾するのなら、同じく海衣も糾弾する必要が出てきてしまうだろう。
「与田センセ。彼女を診てあげてはくれないかしら?」
スヴィアが出てきた時点で、花子の天秤は彼女らと協力する方向へと傾いている。
となれば、与田を隠し通す理由もないだろう。
「ああ……、診療所の勤務医……それとも、正規の研究員なのかな?」
「与田です。副業として、診療所に勤めていますね」
与田はばつが悪そうに階段の下から姿を現し、どれどれとスヴィアの診察を始める。
が、すぐに手を止めた。
まさかスヴィアも茜と同じく手遅れなのか?
珠はその可能性に顔を青くするが……。
「応急手当は、しっかりとおこなわれていますね。
しっかりと食事を摂って体力を回復させることに専念すれば、命に別状はないでしょう。
本当は絶対安静にすべきなんですが……」
「すまないが、……ボクも元研究員だからね。
生徒たちに任せて……、自分だけ……寝て待つなど……到底できない。
そんなことをすれば、ボクはボクが許せなくなる……!」
「与田センセ?」
「与田先生?」
「なんでそこで僕を見るんですか!?
ともかく、絶対に無茶はしないように。いいですか?」
「そうしたいのはやまやまなんだが……。すまない、約束はできない……。
ただでさえ、時間がないんだ……」
与田の診察結果は重視すべきだが、スヴィアの言うこともまた真理である。
もう残された時間は36時間しかない。
安静にしたところで、36時間後には等しく死体は炎に包まれるだろう。
「日野くん。この騒動を早期に解決するには……、ボクはキミの力が必要だと……考えている。
キミたちも……目的があってここまで来たんだろうが、ここはどうか……力を貸してくれないだろうか?」
スヴィアが珠をスカウトする。彼女は珠の異能を知っている。
トライアンドエラーを最小限に抑えるために、彼女の異能は欠かせない。
花子としても、イレギュラーを回避するために珠は連れておきたい人材ではあった。
だが、極論彼女がいなくても、最大数十分程度時間が延びるだけだ。
目的自体は果たすことができるだろう。
一方でウイルスの解析や免疫、特効薬の調査にはどれだけの時間が必要なのかは分からない。
加えて、スヴィアが瀕死の重傷者であることもノイズとなった。
珠をスカウトしたその時から、気持ち呼吸も荒くなっている。
後回しにした結果、彼女が研究に着手できないほどに消耗するのは本意ではない。
「仕方がないわね。
珠ちゃんはスヴィア先生と一緒に三階に戻ってもらえるかしら?
それと春姫ちゃんも、同行をお願いできないかしら?」
「ふむ、妾もか?」
「珠ちゃんは戦いはからっきしよ。
スヴィア先生に戦えなどとは口が裂けても言えないわ。
二人がゾンビに襲われたらひとたまりもないと思うの。
どうか二人を守ってあげてくれないかしら?」
花子の懇願に、春姫は片目をつむって考え込む。
女王として元凶たちに責任を取らせるのは絶対だが、村人への犠牲を最小限に抑えるのもまた女王の義務である。
「よかろう。本部とやらへの抗議は後だ。
妾が先導するのだ、必ずこの不届きなウイルスとやらを撲滅せよ」
「ああ……一刻も早く事を為すことを……約束するよ」
「では僕もスヴィア先生と一緒に……」
「それなんだけれど、碓氷先生?
あなたは私たちと一緒に来てもらえないかしら?
二階にいるのは、あなたのお仲間なのよね?」
先ほどの会話から、スヴィアの背中に傷をつけたのはもう一人の同行者と推測。
誠吾は濁したが、最もあり得そうな理由は女王感染者狙いだろう。
スヴィアが説得なり協力を要請なりして、同行に至ったと考えるのが自然だ。
花子と同じエージェントであれば、万が一敵対した場合には相応の被害が予想される。
珠も誠吾もいない状態でばったりと出くわすのは回避したいものだ。
「いや、しかし……」
「あら、何か都合が悪いことでもあるのかしら?」
「僕たち、L3のパスは二つも持っていないのですが……」
「拾えばよい。
三階のカギはすでに妾がこじ開けている」
春姫が軽く答えたことで理由の一つが潰れた。
誠吾としては、スヴィアと同行したい。
そのほうが、成果が出た際に真っ先に飛びつくことができるからだ。
だが、花子の要望を断るだけの理由もない。
赤い濃度が濃く、濃く変わっていく。
「仕方ありません。
春姫さん、こちらを持っていっていただけますか?」
「なんだ、これは?」
誠吾が取り出したのは、風呂敷に包んだ6キロほどの球体である。
斥候には不要だと、真理が休憩室に残した研究材料だ。
「ウイルスを調査するためのサンプルの一つです。
中身は、……ショッキングかつ誤解を招きやすいため、調査時以外では決して見ないようにしていただきたい。
特に日野をはじめとした未成年には見せないように」
「サンプル……?」
与田がいち早く中身を察したのか、身体を強張らせる。
その正体には、スヴィアも口を噤んだ。
それは花子も同じ。
分からないのは本職ではない春姫と珠だけだ。
これですべての懸念が解消し、人員配置に待ったをかける理由もなくなった。
田中花子は与田四郎と碓氷誠吾を連れて、地下二階へと入っていった。
スヴィア・リーデンベルグは、神楽春姫と日野珠と共に、地下三階へと舞い戻った。
二人の来訪者と交わったことで、四人の集団は二つの集団へと分かたれた。
■
地下一階の備品倉庫前。
乃木平天と黒木真珠はかわされた会話について一語一句漏らさぬように聞き耳を立てていた。
先に研究所に忍び込んでいた何者か。その正体の一角を暴くことができた。
碓氷誠吾は裏切らない。
これが乃木平天の見立てだ。
彼は、信用を見る。
研究所に潜行していた一人は、田中花子――ハヤブサⅢであった。
優秀なエージェントであるからこそ、いきずりの他人を全面的に信用するはずがない。
何かを知りながら、それを煙に巻こうとする男を本心から信用することはない。
スヴィア・リーデンベルグを連れていようとも、彼女は最後まで警戒心を解くことはない。
故に、彼もまたハヤブサIIIには取り込まれない。
スヴィア・リーデンベルグは必ずこちらに協力する。
これが乃木平天の見立てだ。
人間は、自分で手に入れた情報こそを信じる。
スヴィア・リーデンベルグの異能が聴覚に関連するものであることは分かっている。
だが、異能が割れているという事実を面と向かって彼女に明言したことはない。
乃木平天はスヴィア・リーデンベルグの異能を知らないという前提で動いている。
小隊を率いるにあたって、心を砕くべきは部隊員の士気である。
死にたい兵士などいるはずがない。
まして、天の率いる部隊のうち二人は民間人だ。
仮に作戦行動を取れたとして、部隊から裏切り者が出れば作戦は潰れてしまう。
この隊長についていけば生きて帰ることができる。
この隊長の作戦に従えば、自分の命は尽きても大切な人を守り抜くことができる。
そう思うからこそ、兵は指揮官に従うのだ。
『俺の言うとおりにしろ。お前たちの都合など知らん。裏切れば殺す』
そんな横暴がまかり通っている部隊の士気などたかが知れている。
そんな部隊に所属する兵士は、敵に餌を与えられればすぐに投降してしまうだろう。
だからこそ、天は信条を敢えて崩し、研究所にうろつくすべてのゾンビを迅速に処理した。
裏切れば、お前たちもこうなるぞ、お前たちは決して逃げられないぞと意識下で脅しつけるために。
だからこそ、三樹康との会話にて、放送の作戦そのものを一部伏せながらも話した。
スヴィアの異能に気づいていないと思わせるために。
そして、自身の努力で最悪の結末を回避できると思い立たせるために。
だからこそ、真珠にはしばらく真実を明かさなかった。
真珠からスヴィアへと、天のルーキーとしての人となりが伝わるように。
だからこそ、真珠との会話で、正常感染者の投降についての話題を持ち出した。
スヴィアの異能で、スヴィアだけがたどり着ける真実へと導くために。
彼女が理想とするベターエンドへ、少しでも近づける抜け道を見出せるように。
スヴィア・リーデンベルグは強い信条を持った女性だ。
出口さえ用意すれば、その信条に比例するように、思考に思考を重ね、よりよい結末を導き出すために奔走するだろう。
特殊部隊という檻に閉じ込められた彼女は、その中で最良の結果を見出すために、もがき苦しみながら成果をつかみ取るだろう。
特殊部隊は成果を求められる。
碓氷誠吾とスヴィア・リーデンベルグは、ハヤブサⅢから異能者を二人引きはがした。
ハヤブサⅢの持つ情報を一部引き出し、同行者を三人浮かび上がらせ、ウイルス調査以外の目的があることを明らかにした。
これが乃木平天から見た二人の成果である。
配電室という通信の中核は抑えている。
外に連絡を取るという最悪の結果にはすでに備えている。
リベンジマッチのときを、天は冷静に、真珠は胸を昂らせて待ちわびる。
■
犠牲にした。ついに犠牲にしてしまった。
自分一人で全員を救うことはできないと、分かっていた。
何もしないまま激突すれば、珠も春姫も、特殊部隊の毒牙にかかって命を落としていただろう。
たとえ、研究所の関係者であっても。
たとえ、国外から潜入した工作員であったとしても。
それでも、自分は自分の意志で命の選別をした。
選ばなかった者たちを、特殊部隊への生贄とした。
そうするしかなかったのだ。
それが烏宿暁彦と同じ、未来のために少数を斬り捨てる選択だと分かっていても。
せめて、彼女らが時間を稼いでいる間に、ウイルスを死滅させる方法を見つけ出すことで、犠牲は最小限に抑えられるだろう。
ともすれば、与田や花子もウイルスさえ死滅してしまえば、きっと助かるはず……。
「……本当に?」
「先生?」
それは直感だった。
まず、自分を疑え。
錬が何かにつけて、口に出していた言葉だ。
その言葉が、稲妻のようにスヴィアの脳裏を横切った。
スヴィアは科学者だ。
果てなき探究の道を進み続ける求道者だ。
その信条に則って、現状に甘んじるを良しとしない生き方を続けてきた。
何か大きな思い違いをしていないか?
考えることを止めていいのか? 今に迎合していいのか?
本当に特殊部隊を全面的に信用していいのか?
特殊部隊に、他人の仮説に、ただ乗っかるだけでいいのか?
一度疑いを抱けば、見えていた世界が切り替わったかのように疑念が湧き出てくる。
おかしいのだ。
乃木平天が、スヴィアの自主性に任せて自ら異能を確認しないはずがない。
彼は仕事に奇妙なこだわりを持ちこむ人間ではないだろう。
正真正銘のプロフェッショナルだ。
スヴィア自身が異能を曝け出すのを拒んだ?
口を割らせる方法などいくらでもあるはずだ。
スヴィアを利用するために刺激する言動を避け、現状維持に徹した?
それは幾分友好的な相手におこなうべき行為で、強硬に拒絶している者に現状維持を選んだところで事態は好転しない。
誠吾ならまだしも、スヴィアに取るべき手ではない。
それよりももっと有力な解が一つある。
乃木平天はスヴィアの異能を知っていた。
知ったうえで、知らないフリをしていた。
分かっていたことではないか。
モクドナルドでのゾンビによる包囲網。
放送による村人の釣り出し策。
天は他人の心理を巧みに利用し、自らの有利に事を運ぶ。
動画配信サイトのインフルエンサーがよく利用する手口だ。
誘導したい方向に導くために、視聴者自身に行動をさせる。
検索のための単語やサイトを先にピックアップしておき、その場では語らずに視聴者に自分で調べるように促すのだ。
視聴者側はあらかじめ用意されていた情報を拾い上げ、あたかも自力で『真実』を見つけたかのように思い込む。
面と向かって説かれた場合と比べて、その『真実』への信頼度が大幅に上昇し、視聴者たちは『目覚める』のだ。
そうして目覚めた人間は、そう簡単には自説を捨てることはない。
スヴィアにしか聞き取れない特殊部隊同士での会話。
天がスヴィアの異能を知らなかったのなら、語る内容は『真実』だ。
だが、スヴィアの異能を知っていた上で敢えて聞かせていたのだとすれば。
特殊部隊に全力で協力すれば、多くを救える。
そう信じさせるための巧みな誘導だとすれば。
「ああ……っ!」
この先に待っているのは絶望だ。
人間個人としては、天は誠吾よりはよほど誠実だろう。
ただし、彼の立てる計略は真偽を前提としない。
観測気球をあげて、それを受けて相手がどう行動するか? ということこそが計略のコアだ。
実際に彼の内心を知った気になったスヴィアは、特殊部隊に全面的に協力することこそが事態解決の早道だと思い込んだ。
まさに彼の掌の上で転がってしまったわけだ。
隔離策は一つの手ではあるのだろう。
だが果たして、特殊部隊が一切考慮していないということがあり得るだろうか?
もしそれが簡単に成立するのであれば、特殊部隊が村人の命を狙うことはないだろう。
彼らがボクたちを殺しにきた時点で、隔離策は成立しないか、あるいはとてつもなく成立の難易度が高い策なのだ。
そして隔離策を実施し、パンデミックが終わったとしても、地獄は終わらないのではないか。
「先生、大丈夫ですか?
これできっと、すべて終わるんですよね?」
珠が心配そうに聞いてくる。
気の利いた言葉一つでもかけられればいいのだが、そのような言葉は出てこなかった。
ただ、息とともに生命力がわずかながら漏れ出していく感覚にとらわれただけだ。
碓氷誠吾は、理由がない限り殺さないという。
天原創は、女王暗殺だけで終わるはずがないという。
どちらも一理あるだろう。そしてこの二つは二者択一ではない。
特殊部隊に、研究所。
彼らを欺かなければ自分たちは生きて村を出ることはできないのではないか。
これはもはや勘の領域だ。
勘にゆだねるなど、科学者としてあるまじき行動理念であるが。
錬を黒幕だと疑ったことだって、はじまりは自身の勘だったではないか。
彼は潔白だと考えたからこそ、それを疑って、必死で潔白を証明しようとして、その反対の結論にたどり着いたのではなかったか。
感染実験室と新薬開発室。
この村における最重要施設が立ち並ぶ廊下。
誰に与するか。誰を救うか。誰を見捨てるか。
すべての答えがきっとここにあり、選ぶのはすべて自分だ。
HE-028に関わるあらゆる情報を得ることができるだろう知識の宝庫。
そこで、スヴィア・リーデンベルグは大いなる選択を突き付けられた。
【E-1/地下研究所・B3 感染実験室前通路/1日目・日中】
【スヴィア・リーデンベルグ】
[状態]:背中に切り傷(処置済み)、右肩に銃痕による貫通傷(処置済み)、眩暈
[道具]:研究所IDパス(L1)
[方針]
基本.もしこれがあの研究所絡みだったら、元々所属してた責任もあって何とか止めたい。
1.ウイルスを解析し、VHを収束させる
2.天たちの研究所探索を手伝う
3.犠牲者を減らすように説得する
4.上月くん達のことが心配だが、こうなれば一刻も早く騒動を収束させるしかない……
[備考]
※黒幕についての発言は真実であるとは限りません
【
日野 珠】
[状態]:疲労(小)
[道具]:H&K MP5(30/30)、研究所IDパス(L3)
[方針]
基本.自分にできることをしたい。
1.スヴィアの調査を手伝う。
2.みか姉に再会できたら怒る。
[備考]
※上月みかげの異能の影響は解除されました
※研究所の秘密の入り口の場所を思い出しました。
※『Z計画』の内容を把握しました。
※『地球再生化計画』の内容を把握しました。
【
神楽 春姫】
[状態]:健康
[道具]:AK-47(30/30)、血塗れの巫女服、ヘルメット、御守、宝聖剣ランファルト、研究所IDパス(L1)、[HE-028]の保管された試験管、[HE-028]のレポート、山折村の歴史書、長谷川真琴の論文×2、研究所IDパス(L3)、物部天国の生首(小田巻真理→神楽春姫)
[方針]
基本.妾は女王
1.スヴィアの面倒を見る
2.研究所を調査し事態を収束させる
3.襲ってくる者があらば返り討つ
[備考]
※自身が女王感染者であると確信しています
※研究所の目的を把握しました。
※[HE-028]の役割を把握しました。
※『Z計画』の内容を把握しました。
※『地球再生化計画』の内容を把握しました。
【E-1/地下研究所・B2階段前/1日目・日中】
【
与田 四郎】
[状態]:健康
[道具]:AK-47(30/30)、研究所IDパス(L3)、注射器、薬物
[方針]
基本.生き延びたい
1.本部と通信を繋げる
2.花子に付き合う
3.花子から逃げたい
【
田中 花子】
[状態]:左手凍傷、疲労(中)
[道具]:H&K MP5(12/30)、使いさしの弾倉×2、AK-47(19/30)、使いさしの弾倉×2、ベレッタM1919(1/9)、弾倉×2、通信機(不通)、化粧箱(工作セット)、スマートフォン、研究所の見取り図、研究所IDパス(L3)
[方針]
基本.48時間以内に解決策を探す(最悪の場合強硬策も辞さない)
1.通信室に向かう
【
碓氷 誠吾】
[状態]:健康、異能理解済、猟師服に着替え
[道具]:災害時非常持ち出し袋(食料[乾パン・氷砂糖・水]二日分、軍手、簡易トイレ、オールラウンドマルチツール、懐中電灯、ほか)、ザック(古地図)
スーツ、暗視スコープ、ライフル銃(残弾4/5)、研究所IDパス(L1)、治療道具
[方針]
基本行動方針:他人を蹴落として生き残る
1.乃木平の信頼を得て手駒となって生き延びる。
2.捨て駒にならないよう警戒。
3.隔離案による女王感染者判別を試す
[備考]
※夜帳が連続殺人犯であることを知っています。
※真理が円華を犠牲に逃げたと推測しています。
【E-1/地下研究所・B3 EV前/1日目・日中】
【
氷月 海衣】
[状態]:罪悪感、疲労(大)、精神疲労(大)、決意、右掌に火傷
[道具]:H&K MP5(30/30)、スマートフォン×4、防犯ブザー、スクールバッグ、診療所のマスターキー、院内の地図、一色洋子へのお土産(九条和雄の手紙付き)、保育園裏口の鍵、緊急脱出口のカードキー、研究所IDパス(L3)
[方針]
基本.VHから生還し、真実に辿り着く
1.自分たち以外の侵入者へと備える。
2.研究所の調査を行い真実を明らかにする。
3.女王感染者への対応は保留。
4.茜を殺した仇(
クマカイ)を許さない
5.洋子ちゃんにお兄さんのお土産を届けたい。
[備考]
※『Z計画』の内容を把握しました。
※『地球再生化計画』の内容を把握しました。
【E-1/地下研究所・B1 備品倉庫前/1日目・日中】
【
乃木平 天】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(中)、精神疲労(小)
[道具]:拳銃(H&K SFP9)、サバイバルナイフ、ポケットピストル(種類不明)、着火機具、研究所IDパス(L3)、謎のカードキー、村民名簿入り白ロム、ほかにもあるかも?
[方針]
基本.仕事自体は真面目に。ただ必要ないゾンビの始末はできる範囲で避ける。
1.研究所を封鎖。外部専用回線を遮断する。ウイルスについて調査し、VHの第二波が起こる可能性を取り除く。
2.一定時間が経ち、設備があったら放送をおこない、隠れている正常感染者をあぶり出す。
3.小田巻と碓氷を指揮する。不要と判断した時点で処する。
4.黒木に出会えば情報を伝える。
5.犠牲者たちの名は忘れない。
[備考]
※ゾンビが強い音に反応することを認識しています。
※診療所や各商店、浅野雑貨店から何か持ち出したかもしれません。
※成田三樹康と情報の交換を行いました。手話による言葉にしていない会話があるかもしれません。
※ポケットピストルの種類は後続の書き手にお任せします
※ハヤブサⅢの異能を視覚強化とほぼ断定してます。
※村民名簿には午前までの生死と、カメラ経由で判断可能な異能が記載されています。
※診療所の周囲1kmにノイズが放送されました。
【
黒木 真珠】
[状態]:健康
[道具]:鉄甲鉄足、拳銃(H&K SFP9)、サバイバルナイフ、研究所IDパス(L1)
[方針]
基本.ハヤブサⅢ(田中 花子)の捜索・抹殺を最優先として動く。
1.乃木平の指示に従う
2.ハヤブサⅢを殺す。
3.氷使いも殺す。
4.余裕があれば研究所についての調査
[備考]
※ハヤブサⅢの現在の偽名:田中 花子を知りました
※上月みかげを小さいころに世話した少女だと思っています
最終更新:2023年12月31日 19:05