『農家の宇野さんから助けを求められました。
 これから月影さんと恵子ちゃんの3人で宇野さんの家に向かいます。
 みんなはこの家で待機していて下さい。 はすみ』

『地下室で何者かに恵子ちゃんが地下で殺されました。
 恵子ちゃんを殺した人に月影さんとはすみさんも連れ去らわれたかもしれないので助けに向かいます。
 それから勝子さん達が鈴菜さん達を助けに向かっている間に会議で話したヒグマに襲撃されました。
 ワニとクマが合体したみたいな化け物で、はすみさんが言うには怪異らしいです。
 遭遇したら後ずさりしながら目線を外さず、 刺激しないように逃げてください。
 もし夕方までに私達が戻らなかったら、後はそっちの判断で行動して ひなた うさぎ』

「誰もいないと思ったら、こういうことか」

数時間前までは想い人を含む正常完全者の拠点となっていた袴田伴次の住居、その地下室にて。
虎尾茶子は床に敷かれた布団に横たわる、顔に白布を被せられたもの――字蔵恵子の遺骸の前で独り言ちた。

茶子は自分と同じ境遇の少女――リンを伴って山折神社から南下して、正常感染者の集う袴田伴次の一軒家へ向かった。
事態を収束するためには手足が足りない。己の手駒を増やす算段で訪れたのだが、袴田邸はもぬけの殻であった。
落胆しつつも居間へと向かうと、テーブルには一枚の書き置き。
A4サイズのコピー用紙の上段に書き記された文章ははすみの文字。品行方正の彼女らしい綺麗な字で書かれていた。
下段に書き殴られた文章は荒い筆跡。最後の一文に至っては蚯蚓ののたくった様な字で丁寧語すらつけ忘れている。
茶子の知るうさぎは姉のはすみと同様に達筆なため、ひなたが書き記したものだろう。
一先ず袴田邸を捜索することにし、リンに一階の探索をお願いして、茶子は書き置きの真偽を確かめるべく袴田邸の地下へと降りた。
そしてひなたの書き置き通り、恵子の亡骸が置かれていた。

(字蔵恵子の首筋には二つの穴。連続婦女殺人事件と穴の大きさは違うけど、無関係とは思えないな)

顔の布は取らずに死体を検分する。服から覗く皮膚はツマミのビーフジャーキーのように干からびており、死因は明らかだ。
袴田邸に滞在していた面子の異能は天宝寺アニカの言葉通りだろう。あの幼女は兎も角、愛しの彼が自分を謀るとは思えない。

『まず自分を疑え。Ms.Darjeeling、妄信は真実を求める妨げになります』

資材管理棟にて未名崎錬が茶子に面と向かって伝えた言葉を思い出す。
『そんな目をしたお前が言うセリフか?』と内心でせせら笑いながらも、その言葉自体には茶子も思うところがあった。
感染者の異能についてはあくまでそれぞれの自己宣告だ。天才とはいえお眠のお子様では見落としていた部分もある筈。
物的証拠、状況証拠、山折村で女性ばかりを狙う吸血鬼の噂。情報を統括・整理し、解を導き出す。

(犯人は彼奴だろ、月影夜帳)

あっさりと辿り着く。情報を与えればアニカならば瞬きの間に、哉太ならば自分と同等の時間で辿り着くだろう答え。
月影の異能は恐怖を感じた対象を硬直させる『威圧』。だが、所詮彼の自己申告に過ぎない。
「私は人畜無害ですよ」などとほざいてアリバイを露見させ、本質を隠すことは徹底的に情報を隠匿してきた茶子も現在に至るまで行ってきた。
月影と同じ穴の狢だからこそ、彼と同様の結論になる。

「殺そ」

「ジュースでも買おう」というような気軽さで容疑者の死刑が確定された。
殺人鬼のように衝動で殺すのではなく、師のように理性的かつ自然に殺害を選択できる。
それが茶子の異常性の一つ。

茶子の推測が事実ならば身体能力の他に遠距離から金田一勝子を切り裂いた藤次郎のように『威圧』以外にも複数の能力を内包した異能の可能性が高い。
だとするならば、哉太とアニカ以外のメンバーを異能によって洗脳し、集団で恵子を殺害したとも結論付けられる。

「はすみ達も殺さなきゃいけないのか~。あ―最悪」

大きく溜め息をついて座り込む。茶子の眼下には物言わぬ少女の死体。端では手足を拘束された袴田伴次のゾンビが芋虫のようにもぞもぞと動いている。
それらに冷たい視線をくれながら、ショートパンツのポケットからシールで可愛らしくデコレーションされた黄色のスマートフォンを取り出す。
これは交番と高級住宅街を挟まれた道路で見つけた――茶子は知る由もないが気喪杉禿夫とひなたらの戦闘の余波で飛ばされた――スマートフォン。

「さて、美少女探偵サマはどんな情報を持ってるのかな?」


初夏の日差しが築かれた屍山血河に渇きをもたらし、這い出る蟲が死肉を貪り飢えを満たす。
地獄を作り出したのは特殊部隊か、はたまた狂気と我欲に狩られて血に酔った殺戮者共か。
大田原源一郎は前者であり、独眼熊は後者である。

疾走する大田原の前方には小柄な薄汚れた少女の姿――手には猟銃を構え、背中からは鋭い鉤爪が五本生えた腕。
その傍らにはアリゲーターとグリズリーの特性を併せ持ったかのような巨体。
ゴーグル型の最新機器――スカイスカウターに映る色は少女が赤、巨体の怪物が青。
巨体の怪物が紛い物、少女の姿をしたモノが数時間前に自身を襲った怪物だと確信。
全身の血が滾る。屈辱の記憶が憤怒を呼び起こして熱となり、ひび割れた鋼鉄の如き理性を加熱する。
大田原に植え付けられた異能――『餓鬼』が発動する。副次効果である身体能力の効果が適用され、脚力が向上。

「フッ……!」

時速にしておよそ100キロ以上。この地に根を下ろすヒグマどころか自動車の最高速度にも匹敵する。

「ハッ!かつての我と同じ愚を犯すか!」

嘲笑と共に猟銃を構えようとして、止めた。同時に蠍のように背中から生えた剛腕が根本から180度回転し、地に爪を突き刺して掴む。
少女の矮躯が剛腕と共に浮かび上がると同時に4発の銃声。少女の頭と胸があったあたりに銃弾が通り過ぎた。
地を見下ろすと、独眼熊本来の姿の分身体が蜃気楼のように消え始めているのを目視した。
コンマ数秒ほどの完全な無防備状態。その隙を縫うように射程範囲に入った大男の両手に構えた拳銃が火を噴く。
頭・心臓・両手両足関節狙いの計六発。急所を防いでも次の行動を阻害するための射撃。

しかし、その銃弾が少女の身体に命中することはなかった。
届く数メートル前。どこからか飛来した「何か」によって遮られ、パラベラム弾が標的を撃ち抜くことはなかった。
がシャンと何かが破壊される音が大田原の耳朶を打つ。標的の落下先を確認する刹那、大田原は破壊した物体を確認する。

(これは!?)

飛来した謎の物体の正体は二本の懐中電灯。本来の持ち主である気喪杉禿夫が手拭いで頭に巻き付けていた物体。
どこからか飛来したそれが銃弾の軌道を逸らし、独眼熊の命を繋いだのである。
大田原は視線を動かして懐中電灯が飛んできた方向を確認する。十時の方向の草むらに伏せた何者かの影が一つ。
怨敵たる怪物がこちらに銃口を向けていることに注視しながら、地に伏せた影にに向かい、引き金を引く。
タン、と短い音が草原に響く。杜撰な隠伏をする何者かは大田原の銃弾を受けると衝撃で仰向けに倒れ、その姿を露わにする。
その正体を確認する直前、向けられていた怪物の銃口が大田原の頭蓋目掛けて放たれた。
狙いは数時間前の素人同然の狙撃とは違い、大田原の命を刈り取るように正確な狙撃。
『まるで熟練の猟師の記憶を思い出したかのように』
それを10時の方向へ――己が撃ち抜いた老人を飛び越える形で――回避。
老人の真上を通り過ぎる寸前、装着したサーモグラフィカメラで彼を確認すると、その身体は青く光っていた。
弾丸の命中先は老人の鼻先。脳には到達していないにも関わらず、スーツ姿の老人は身体の動きをピタリと止めていた。
着地と同時に一発、二発と老人の頭に向けて引き金を引く。短い音が草原に響き、老人の痩躯がビクビクと跳ねる。
三発目の銃弾が彼の脳をかき乱すと老人の姿は皮だけとなり、スーツごとぐずぐずと溶け出し、地面と一体化し始めた。

「ばあ」

老人を撃ち抜いた直後、土汚れだらけの少女の顔が大田原の眼前に迫ってきた。
もう片方の拳銃の引き金を引く刹那、小さな少女の両手が大田原のこめかみに当てられる。
銃口から弾丸が吐き出される。少女の脳天に直撃する寸前、大田原の顔面から何かを引き剥がされる感覚と同時に両肩に衝撃が走る。
水切りのように大田原の巨体が草原を滑る。拳銃を両手に持ったまま両手の親指だけで身体を止め、腹筋に力を入れて飛び起きる。

「これが眼鏡という奴か?」

人工音声とも獣の声とも呼べるような声が聞こえる。
人の皮を被った怪物の手には大田原が要請した物質の一つ、スカイスカウター。偽物と本物を見分けるゴーグル型の赤外線カメラ。
独眼熊対策に使用していたそれを、怪物は嗤いながら握りつぶした。


――――――――――――――――――――

[Kanata Yanagi]

[202X年 XX月XX日]

[XX:XX][挨拶スタンプ]
[XX:XX][写真]
[XX:XX][明日の13:00にTV shootでRestaurant reviewをするの!]
[XX:XX][場所は渋谷よ!仕事終わりに奢ってあげるから来て!]
[XX:XX][既読][謝罪するスタンプ]
[XX:XX][既読][わり。その日コラボカフェの予約入ってんだよ]
[XX:XX][ショックを受けてるスタンプ]
[XX:XX][What about other days?]
[XX:XX][既読][首を振るスタンプ]
[XX:XX][既読][季節メニューを全制覇しないと作品のファンを名乗れない]
[XX:XX][いじけるスタンプ]
[XX:XX][You refuse a girl's invitation, so you Now that you're a high school student, you can't get a girlfriend.]
[XX:XX][それにセンスは絶望的だし]
[XX:XX][既読][センス関係あるのかよ]
[XX:XX][既読][それに俺は彼女を作れないんじゃなくて作らないんだよ]
[XX:XX][煽りスタンプ]
[XX:XX][煽りスタンプ]
[XX:XX][煽りスタンプ]
[XX:XX][煽りスタンプ]
[XX:XX][煽りスタンプ]
[XX:XX][既読][落ち込みスタンプ]
[XX:XX][既読][アニカ、もしかして俺の事嫌い?]
[XX:XX][慰めスタンプ]
―――――――――――――――――――――――――――

「…………チッ」

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[Kazuo Kujo]

[202X年 XX月XX日]

[XX:XX][既読][挨拶スタンプ]
[XX:XX][既読][天宝寺、隣のクラスの七紙光太郎が入院したの知ってる?]
[XX:XX][First time hearing.]
[XX:XX][既読][疑問スタンプ]
[XX:XX][既読][First time hearing←どういう意味?]
[XX:XX][初耳って意味よ]
[XX:XX][既読][英語キャラやめてくれない?帰国子女のお前と違って英語分らないし。友達減るぞ]
[XX:XX][明日はロケとかないからお見舞いに行くわ。コウタロウの入院先はどこ?]
[XX:XX][既読][既読スルーかよ。××病院。昏睡状態になっている]
[XX:XX][何があったの?]
[XX:XX][集団幻覚ね。旧校舎の建築に有害物質が使われていた可能性が高いわ]
[XX:XX][それに「七不思議のナナシ」「怪談使い」って何? 下らない妄想で彼を寄ってたかって悪者にするのはいじめよ]
[XX:XX][既読][んな下らないことするかよ。少なくともおれらは今でもナナシのこと友達だと思ってるんだぜ]
[XX:XX][既読][それで折り入って頼みがあるんだが、「怪談使い」についてお前のツテで調べてくれない?]
[XX:XX][既読][頼み込むスタンプ]
[XX:XX][OK.一学期が始まるまでに旧校舎の建築工事の調査とコウタロウの身辺調査のついでに調べておくわ]
[XX:XX][既読][怪談使いの優先度低くない?]
[XX:XX][当たり前じゃない。オカルトなんて立証されないものを信じるなんてできないわ]

[202X年 XX月XX日]

[XX:XX][色々と調べ終わったわ]
[XX:XX][既読][驚いたスタンプ]
[XX:XX][既読][すげー早いな。まだ一学期始まってないぞ]
[XX:XX][コウタロウの人間関係について調べてみたけどいじめの事実はなかったわ]
[XX:XX][本人からも事情を聞いてみたけど、「僕が悪かった」ってしきりにカズオ達に謝っていた]
[XX:XX][アナタ達がいじめをしたんだと疑ってごめんなさい、カズオ]
[XX:XX][既読][驚いたスタンプ]
[XX:XX][既読][ナナシの奴、いつ起きたんだ? 後遺症なかったか?]
[XX:XX][今日の夕方に目覚めたって。後遺症はなし。至って健康体だってお医者様が言ってたわ]
[XX:XX][既読][ほっとしたスタンプ]
[XX:XX][既読][良かった。天宝寺、お前普通に謝れるんだな]
[XX:XX][当たり前でしょ。こっちに非があるんだし。私の事何だと思っているの?]
[XX:XX][既読][正論パンチで叩き潰してくる血も涙もない女]
[XX:XX][既読][既読スルーかよ]
[XX:XX][アナタの言っていた「怪談使い」についても分かったことがあるの。私は信じてないけどね]
[XX:XX][既読][頭を下げるスタンプ]
[XX:XX][既読][さんきゅ。どこで分かったんだ?]
[XX:XX][去年の都市伝説検証番組で共演した著名なオカルト研究家達に話を聞いたのよ。それで丸二日潰れたわ]
[XX:XX][明日怪談使いについて話すから15:00に××病院のカフェテリアで待ってる。カズオと一緒に集団幻覚を見た人達を集めてきて]
[XX:XX][既読][明後日始業式だから学校で話した方が良くないか?]
[XX:XX][コウタロウは明後日まで検査入院なの。彼、始業式に間に合わないみたいだし、わだかまりは早いうちに解いておいた方がいいでしょ]
[XX:XX][既読][サムズアップするスタンプ]
[XX:XX][既読][おけ。それじゃまた明日]
[XX:XX][また明日]

―――――――――――――――――――

談使い。
それは茶子が未来人類研究所とのコネクションを持つ前――先代蛇茨当主にスカウトされて村の暗黒に足を踏み入れたばかりの頃に知った伝承。
名称と出自以外の情報は現代に至るまで詳細が一切伏せられていたアンノウン。
「歪み」を藤次郎以上に知り尽くしていた茶子ですらも真相を知らず、生物災害が発生するまでは眉唾と軽んじていた存在。
山折の地に根付いた土着信仰の付属品程度の認識しかしてなかったものが、ここにきて重要なファクターへと変貌した。

(…………あの幼女、ギャン泣きするまでいびっときゃ良かった)

哉太とのLINE上のやり取りを思い出し、茶子は密かに八つ当たりに近い苛立ちを募らせる。
「怪談使い」について情報を聞き出せなかったこちらに非があるのだが、それとは無関係に自称パートナーの卑しい探偵少女に腹が立った。
茶子の感情はともかく、天宝寺アニカの利用価値が跳ねあがったのは事実だ。
手元にある「降臨伝説」の事実が記された羊皮紙写本。アニカが調べた「怪談使い」の情報。
まだこちらで詰められる情報があるが、この二つが山折村を襲った生物災害、ひいては研究所の目的と無関係とは思えない。
もし「降臨伝説」が真実であるのならば。もし「怪談使い」が実在していたのならば。

「―――――世界が変わるな」


大田原源一郎は怪物の本体と分身の区別には時間が必要。
独眼熊は異能による分身の再召喚のためにはクールタイムを要し、同じく時間が必要。
奇しくも現状は拮抗を保っており、差をつける要素は異能と経験、判断力。
大田原は異能による肉体ブーストとSSOGで培った経験と判断力で、独眼熊は数多の異能と獣としての特性によって渡り合っていた。

閑散としていた草原はところどころ地面がめくれ、両者が雑草と共に踏み潰した小動物が辺りに散らばっている。
かのような有様故、小競り合いをしていた怪物と歴戦の勇士は二者とも肉体は一見無傷でありながら、そうではなかった。

大田原は独眼熊により防護服のところどころに裂傷を負い、骨折や削げ落ちた耳と共に異能による修復が現在進行形で行われている。
独眼熊は大田原により纏ったクマカイの皮や背中に生えた腕に銃創を負い、皮を含めて修復するための『肉体変化』により、己の血肉がキロ単位で使用されている。
遮蔽物のない平野において、短期決戦であれば大田原源一郎に、長期決戦になれば独眼熊に軍配が上がる。

大田原は高速で走り回る少女へ向けて銃弾を放つ。幾度となく行った牽制と急所狙いの両方を兼ねた銃撃。
この戦いにおいて幾度となく独眼熊の肉体を抉ってきた弾丸。怪物の癖も掴み始め、あと何度か同じことを繰り返せば確実に急所を狙い撃つであろう鉛玉。
急所は確実に防がれるにしても今回も少女の下に隠されている悍ましき肉体を抉れるであろうその銃弾を――。

「阿呆」

その言葉と同時にカン、カン、カンと鉄に弾かれる金属音が鳴り響く。
独眼熊の手に分厚いマンホールの金属蓋。それを円盾のように構えていた。
歴戦の勇士は見ていた。コンマ一秒にも満たない銃口を獲物に向ける刹那の瞬間。
怪物は足元に置いてあったマンホールの蓋を蹴り上げ、飛来する銃弾を防いでいた。

思えば戦闘の最中、独眼熊がしきりに捲れ上がった地面を気にしていた。
ほんの少し地面に注意を向ければ戦闘区域にいつの間にか穴が開いている。
独眼熊の行動を掴みかけたと思い込んでいた時から、ダメージを受けるのも厭わずに新たな防具を得るチャンスを伺ってきたのか。
もしそれが偶然ではなく意図的であるとしたらまるで未来予知をしていたかのようだ。

弾丸を防いだ直後、怪物は手に持った円盾の淵を掴むとフリスビーの要領で大田原に投擲。
新たな防具を得た瞬間の短絡的な行動。何故そんな事を?知恵を得た怪物とは思えぬほど短絡的な行動に大田原の頭に疑問符が浮かぶ。
しかし、怪物の愚行は今まで攻めあぐねていた歴戦の勇士にとって千載一遇の好機であった。

身を屈めて地滑りのように疾走する。『餓鬼』の身体能力ブーストの効果でその速度はヒグマの最大速度の二倍にも匹敵する。
フリスビーのように投げられた鉄蓋が大田原の頭上を通過する。
怪物が反応する前に大田原の巨体がクマカイの皮を被った独眼熊の小柄な体へ激突する。
「かふっ」という空気が吐き出される音を頭上から聞きながら、怪物の下腹部を掴んでそのまま背後――診療所の外壁へと諸共突っ込んだ。
その矮躯を離さぬまま、コンクリートの壁をぶち破り、瓦礫だらけの室内――美羽風雅が破壊し尽くしたリハビリ棟の放送室へと突入した。
その勢いのまま、少女を床へと押し倒す。強面の大男と小柄な少女。一見すると犯罪的な絵面だが本人達は真剣そのものだ。

確実に止めを刺すべく、大田原は独眼熊の小柄な体を拘束する。
血走った眼で薄ら笑いを浮かべている少女を睨みつけ、その額へと撃ち抜くべく銃口を向けた瞬間――

「我の手が三本だけかと思ったか?」

腹部に衝撃が走り、大田原の巨体が凄まじい速さで浮き上がる。
勢いは天井にぶつかると止まり、そのまま地面に叩きつけられた。
息を整える間もなく、倒れ伏した大田原に猟銃が向けられる。
急ぎ横に転がってショットシェルを回避する。
起き上がり、前回の対峙のような愚を犯さずに手を離さずに持っていた双銃を構える。

「では第二ラウンドだ、小僧。せいぜいあがけ」

腹から太い男の腕を生やした少女が、逆再生のようにその腕を身体に戻して勇士へと嗤いかける。


「これは……随分とたくさん見つけたのね……」
「そうでしょそうでしょ♪テーブルのしたとかほんがいっぱいあるおへやがらあつめたの!こんなにみつけてえらいでしょ♪」

袴田邸一階の居間。乾パンの缶詰やサラダ油、十徳ナイフや図鑑など子供視点で役に立ちそうなものがテーブルに所狭しと並べられている。
ほんの少し顔を引き攣らせて笑う茶子にTシャツと短パン姿の少女――リンは薄い胸を張った。
きっと自分に褒められたくて張りきったのだろう。視野の狭い幼子に品物のランク付けは難しかったか。

「こんなに頑張ってくれたのは嬉しいけど、全部持っていけそうにないわ。リンちゃん、ごめんね」
「ええ……そんなぁ……」
「全部持っていくとお姉ちゃんのリュックがパンパンになっちゃう。リンちゃんの鞄に入れようとするとお姉ちゃんの作ったサンドイッチがぺちゃんこになるかも。
だから、持っていくものをお姉ちゃんに選ばせて。お願い……ね?」
「むぅー……わかった」

しゃがみ込んでリンと目線を合わせる。そして両手を合わせて「お願い」のポーズを取ると、リンは渋々といった感じで了承した。
リンの許可を得た茶子はテーブルに乗った数々の品物を一つ一つ丁寧に検品し、仕分けを行う。
作業自体はすぐ終わり、テーブルに乗せられたアイテムは七つ。
うさぎの字で書き記された護符五枚――アニカから借りパクした包帯と同じと感じた――とモバイルバッテリー、袴田伴次のスマートフォン。
ノートパソコンもあったのだが、地震の影響で内部のマザーボードが壊れたらしく電源ボタンを押しても動くことはなかった。
「書いてた原稿が地震でパーになったなら発狂モンだな」と苦笑しつつも「不要」と判断して仕分けた。

「リンがあつめたもの、こんなにすくなくなっちゃった……」
「ごめんね、リンちゃん。でも、お姉ちゃんとっても助かった」

お礼とばかりにぎゅっとリンを抱きしめる。リンは少し驚いた顔をしたが、すぐに「えへへ」と気恥ずかしそうに笑った。

「チャコおねえちゃん、ごほうびにさっきのおはなしのつづきききたいなあ」
「お話って、巫女さんと陰陽師さんの物語?」
「うん!」
「どこまで話したっけ?」
「とってもつよいみこさんがかっこいいおんみょうじさんにであったところまで!」
「そっかぁ……お姉ちゃん、お話の続きまだ考えてないんだ」
「えぇー!なんで?」
「このお話はお姉ちゃんが即興で考えたものなの。続きはもうちょっとだけ待って?」

「その代わりに」と言葉を続け、茶子は傍らにあったリンのメッセンジャーバッグから化粧品を取り出して笑いかける。

「リンちゃんが可愛くなるようにお化粧してあげるわ。準備に少し時間がかかるからお庭で見張りをしてくれるとお姉ちゃん嬉しいな」


「くひひひひひッ!!」

山折総合診療所のロビーにけたたましい雑音が木霊する。
ビニル床にはところどころ乾き始めた赤黒い血の跡が残り、髪の毛の塊や噛み千切られた指があらゆる場所に散らばっている。
雑音の主は少女の姿をした怪物。五本の刃が並ぶ尾を振りかざしながら縦横無尽に走り回る。
それを追走するのは人間型秩序装置である大田原源一郎。
彼も怪物に負けず劣らずの速度で追いかけ、両手の拳銃で子供へ狙いを定めようとするも――。

「――ッ!」

巨漢の眼前にソファーが凄まじい速度で投げ出され、視界を覆われる。
すぐさま回避し、幾度となく姿を眩ませた小柄な身体を探すべく視線を動かす。
直後、頭上から大きな長方形の影。見上げると白いシーツ――跳躍して診察室のベッドを振りかぶった独眼熊の矮躯が映る。
脳天に叩きつけられる寸前、大田原は独眼熊の方へと飛び込む。
頭上に映る一糸纏わぬ少女の姿。空中で身体を捩り、手に持つ二丁の拳銃で脳と心臓を牽制を交えて銃弾を放つ。
だが、背中から生えた腕がゴムのように伸びて振り下ろされたベッドのヘッドボードを掴む。
地面にぶつかる寸前で腕は一気に縮み、その勢いのまま前方へと少女の身体が前方へと発射される。
放たれた銃弾は天井からぶら下がる電灯を砕き、大田原の頭上からガラスの雨を降らせた。
怪物はくるくると宙を回りながら体勢を整え、大田原の方へと向き直り、人間の悪意を煮詰めたような嘲笑を向けた。

第二ラウンド――誘い込まれた診療所内での戦闘。
遮蔽物や小道具が多く存在する室内での戦況は怪物側に有利に傾いていた。
独眼熊が大田原に対する有効打は数あれど、独眼熊の攻撃手段は手元にあるに腸の拳銃のみ。
自動小銃などの威力の高い銃では弾数自体は多いものの、野猿のように小回りが聞く怪物との戦いには懐に入られてしまえば使い物にならなくなるだろう。
選択した支援物資に間違いはなかったと思える。しかし、有効打にはなりえるものの確実に排除できる手段とは言えない。

(あの怪物を確実に駆除するためには俺一人では困難だ。敵の強さは低く見積もっても俺と美羽、成田の連携でようやく互角といったところだろう)

吉田無量対数より授かった『最強』の称号。人間の極致ともいえる力をあの怪物は容赦なく踏み躙り、凌駕する。
己の傲慢に今一度腹が立つも、鉄の理性で無理やり抑え込んで頭を冷却する。
素の己ならば進化した怪物に成すすべもなく殺される。だが、現在の大田原には怪物に対抗できる手札がある。
異能『餓鬼』。際限なく湧き上がる飢餓感と引き換えに肉体再生能力と身体能力強化の恩恵を得ることができる。
現状こそ劣勢であるが、怪物と戦えている。それにいざとなれば己の命諸共怪物を焼き尽くす最終手段がある。
己の死地はここにあり。護国奉仕の勇士は己が命ごと怪物を燃やし尽くす事を決意する。

ひび割れた脳を酷使し、異能の発動を確認。
魂の底から溢れ出す飢餓感を使命感で抑えつけ、駆け回る怪物へと肉薄する。
眼前には中学生ほどの少女の顔。瞬く間に接近した巨漢にほんの僅かだけ目を見開く。
両手の拳銃では引き金を引く前に腕を搗ち上げられ、強烈なカウンターを喰らうと瞬時に判断。
故に手段は一つ。

「―――ガッ!」

勢いはそのままに怪物の小さな肉体に突進をぶちかます。
ベキリと音が響き、質量保存の法則を無視して皮に詰め込まれた軽量の肉体は一気に怪談側へと吹き飛ばされれう。
矮躯は階段の凹凸を砕いて停止した後、すぐにこちらの方へと視線を向けて疾走する。
だが遅い。独眼熊の行動パターンは読めた。八艘飛びのっようにこちらを翻弄しようとする直前に両足の関節を撃ち抜く。
高速で飛び回ろうとしていた少女の身体がビニル床に落下する。地につく間の数舜。その刹那に頭に狙いを定めて引き金を引いた。
短い音が何度も響く。奴を守る遮蔽物も投擲する小道具もない確殺の銃撃。しかし――。

歴戦の勇士と悍ましき怪物の間には巨大な瓦礫が落ちてきた。鉛玉はコンクリートを砕くことはなく、怪物の新たな盾となった。
見ると独眼熊の尻尾は変化しており。五本の指は天へと伸びる一本の腕に変わり、爪にあたる部分は収束し、長く頑強で鋭い刃へと変化していた。
天井の壁は歪な三角形の穴が開いており、そのいびつな形のまま落ちてきたのである。
瓦礫の隙間から悪意に満ちた笑顔を覗かせる。その直後、独眼熊は歪な尻尾を振り回しながら周囲を駆け回った。
一刻も経たぬうちに天井から瓦礫が落下する。瓦礫の他にベッドやロッカーなどが大田原へと降り注いできた。
轟音が轟く。頭を守るガスマスクがなくとも、100キロを優に超えるコンクリート片が頭にぶつかればそれで一巻の終わり。
最短経路を瞬時に見つけ出し、落下する瓦礫の隙間を縫うように疾走する。
瓦礫の迷路を抜け出す寸前、肌を突き刺すような殺気。視線を向けると猟銃の銃口が狙いを定めていた。
放たれる獣狩りの鉛玉。身を翻し、堕ちてくる瓦礫を盾に銃弾を防ぐ。
瓦礫が落ち切ったロビーに静寂が広がる。落石地獄から抜け出した大田原は怪物の行方を探す。
ほんの数舜、怪物は猟銃を手に取ったまま大田原へと突撃してくる。
今のこの刹那に限り、怪物の周りには遮蔽物が存在せず、突撃の勢いから判断するに突発的な攻撃に回避は困難だと推測。
少女はこちらに向けショットガンの引き金を引くも、カチカチと無情な音が響く。
眼を大きく見開く少女。戦闘開始以降、大田原は怪物の再装填と射撃を正確にカウントしていた。
ひたすら待ち続け、遂に現れた最大のチャンス。リロードには明確な隙ができる。
接近して肉弾戦に及ぼうとしても、奴の拳が大田原の頭蓋を砕くより大田原の指が引き金を引く方が圧倒的に早い。
銃口を少女の頭に向け、引き金を引いた瞬間――。

カチカチと弾切れを占める無情な音が手に持つ二丁の拳銃より響いた。

脳に受けたダメージ。理性で抑えつけた飢餓感。今まで経験したことのない異形相手の戦闘。その対応への適応。その他諸々。
数多の要因が重なり、普段の大田原源一郎では決して起こり得ない致命的なミスが起きてしまった。
何よりも問題になったのは脳のダメージ。素人が精密機械を弄った結果、壊れたように最高のタイミングで最悪の事象が発生した。
己を殺しかねない鉛玉が発射されないと知るや否や、独眼熊は瞬時に大田原へと接近する。

振りかぶられる武器はつい先程まで愛用していた猟銃。大田原の脇腹へと食い込み、構成された部品を床に散らばす。

「ガハ……!」

血反吐をまき散らしながら、大田原の巨体が床を転がる。
咳き込んで下を向いた巨漢の髪を掴み上げ、少女は心底つまらなそうな表情を浮かべる。

「これでは先程の焼き回しではないか。何も学習せんな、貴様は」


「……見たことある情報(ネタ)ばっかだな。袴田センセも頑張って調べたんだろうけど、惜しかったね」

スマートフォンの画面をスクロールさせながら茶子は落胆の声を漏らし、少しだけ肩を落とした。
テーブルには子供でも可愛らしく化粧できそうな厳選したメイク道具の数々。既にリンへのご褒美の準備は整えてある。
茶子の目的は家探しして見つけてくれた家主のスマートフォン。リンが集めてくれたアイテムの中で特に利用価値が高いと踏んでいた。
ネタ探しで山折村中を駆け回っていた彼ならば、予想外の情報を持ってきた天宝寺アニカや地下研究施設の脱出口を発見した日野珠のように、何かの偶然で情報を掴んでいるのかもしれない。
そう踏んだ茶子は、じゃれついてくるリンに多少の申し訳なさを感じながらも次なる情報源を調べるため、適当な言い訳をして場を離れてもらった。
朝景礼治に飼育された彼女の無邪気は、使い方を間違えればこちらを殺す劇物になり得る。
それに茶子個人としても、できる限り過去の己の姿である彼女の心を無闇矢鱈に傷つけたくないのも大きい。

そんな思惑で居間で胡坐をかいて袴田伴次の個人情報を覗いた訳だが、出てくるネタはどれも既視感のある情ものばかり。
興味のないものには一切目を向けない偏屈小説家の人間性が現れたといえばそれまでであり、不本意ながらも納得するしかなかった。

保存されたテキストドキュメントのリスト。
和風ホラー作品が作れしまいそうな山折村の過去の風土病や廃れた因習。
脚色して設定をエベレストの如く盛りに盛れば阿呆の閻魔を主役にできそうなクライムサスペンス小説を執筆できるようにまとめられた木更津組の経歴と裏事情。
神楽総一郎を取材している中で思いついたのであろう、山折神社の伝説をモチーフにした袴田解釈「降臨伝説」のためにまとめられた参考資料―――。

「ん?ちょっと待て」

流し読みし、下へ下へと画面をスクロールさせていた指が止まる。
「降臨伝説」というキーワードで検索を掛けると、あやうく見逃しそうになっていたテキストドキュメントのタイトルが表示された。
書き置きにあったワニとクマの合成獣や異能を使う人間が現れた現状だからこそ、天宝寺アニカの調べた「怪談使い」やそれに連なる「降臨伝説」の情報を見落とす訳にはいかない。
ヤマオリ・レポート」に書き記されていた死者蘇生の実験や異世界の研究の情報が思わぬところから繋がっているのかもしれない。
一切の躊躇いを持たず研究所関係者は画面をタップした。


ミ‶ーッ……ミ‶ーッ。

「あ"っづー。なァんであたらしは中坊ん時の課題をもう一度やらされるんすかねェ。クッソめんどい」
「そんな事言わないの。先生達も何かの考えがあったと思うわ~。例えばもっと山折村の事を知って好きになって欲しいとかね~。
それに今回はグループで取り組んでOKらしいからちょっと新鮮みがあっていいんじゃない~?」
「ンな事言ってもさぁ、暗にクオリティ高いもん作れって言われれる様なもんだと思うんすけど。
[テーマ絞って山折村についてのレポート書け]って手垢ベタベタの課題やらされるこっちの身になれってんだ。
どうせ郷田の親父あたりの入れ知恵で村長殿がねじ込んだんだろ」
「茶子ったら、またそんなこと言って~。でも確かにその線はありそうね~。
剛一郎おじさん、村長や総一郎おじさんと幼馴染の親友みたいだしあの人の意見を積極的に取り入れているかもね~。
そろそろお喋りはやめて課題の続きやりましょ~」
「そだな。テーマは山折神社の歴史で決まったし、後は資料を「お姉ちゃ~ん、ただいま~」お。うさぎが帰ってきたか」
「お腹すいた~。お姉ちゃん、お昼ご飯は……あ、茶子ちゃん来てたんだ」
「うっす」
「おかえり~。茶子とは一緒に課題しましょうって約束してたのよ~」
「その通り。てかもう昼じゃん。そろそろ昼飯にしよーぜ」
「そうね~。お昼作るけど茶子も食べていくでしょ?二人とも何食べたい?」
「冷やし中華!」
「うさぎと同じで。あたしのはハム多めでお願いね」

「ヘェ、今は学校で山羊飼ってんだ。紙食わせた後、山羊汁にでもすんの?」
「そんなことしないよ~。山羊さん達には校庭とか広場の雑草を食べてもらってるの♪
茶子ちゃんはお姉ちゃんと一緒に自由研究するんだよね。何やるの?」
「山折村を調べろって奴。あたしとはすみは山折神社についてレポート書くことになった。
うさぎも中学に上がったら同じ事やるだろうし、今のうちに何やるか目星つけといた方が楽になるよ」
「ふーん。私も手伝ってあげよっか?」
「いいよ、別に。どうせお子様の知ってることなんざたかが知れてる「ちょっと待ってて!うちの家系図持ってくるから!」聞いちゃいねえ……」

「…………初代宮司以外はものの見事に女ばっかだな。女系家系ってこと?」
「そうだよ。お父さんは外の神職関係の人だし、ウチは代々女の子が家を継いでるの」
「男は生まれなかったの?」
「うん。今までは結婚しても女の子一人しか授からなかったんだって。私が生まれた時は親戚一同で盛大に祝ったってお姉ちゃんが言ってた。
『呪いが解けた―』ってお父さんもお母さんも喜んでいたらしいけど、どう言う意味なんだろ?」
「身も蓋もない迷信だから気にする必要はないよ。医学が発展して遺伝的要因が解消されたんだろ。
お父さんとお母さんが頑張ればキミの弟ができるだろうさ」
「頑張る?何を?」
「あー、うさぎには早かったか。夜、お姉ちゃん辺りに聞いてみな」

二人とも~、お昼出来たわよ~。

「は~い、今行きま~す。茶子ちゃん、家系図本棚に片づけお願いね!」
「ったく、仕方ないな」


「ちゅるちゅる……ところで茶子ちゃん」
「何だい?」
「なんで時々「~っす」って喋り方になるの?」
「陸上部の女子マネやってるからそれが移った」
「茶子の家では岡山林業の人達が結構な頻度で集まるからね~。男の子っぽい口調もその影響かしら~」
「ま、そういうこと。高校では普通に女口調で通してるけどね」
「この間、茶子ちゃんが高校生のお兄さん達と下校しているの見たよ。あの人達も陸上部の人?」
「そうだよ。いざとなったら守ってもらえるようにしてるんだ」
「でも、茶子は強いんだからその必要はないんじゃない~?」
「ずるずる……う~ん、そうはいかないんだよなァ。村にはヤクザがいるだろ?あたしはまだまだ未完成だし、人集めて連れ去らわれないようにしてんだ」
「まるで経験があるみたいな言い方ね~。木更津のドラ息子にナンパでもされたことがあるの~?」
「そういうことにしておいて」


結論から述べると袴田伴次のスマートフォンには真新しい情報は存在しなかった。
しかし山折神社の調査資料を読み進めていくうちに書き記された情報が呼び水となり、茶子の高校時代の夏季休暇の記憶が蘇らせた。

(あの頃は護衛代わりに部員連れ回してたな。沙門のクソ含めて丸ごとヤクザ共ぶち殺せるようになったからいらなくなったけど。
今は代わりに発情モンキーとか及川おばさんみたいなブス集めて合コンするようになったな。
媚びを売るチンパンジーや必死こいてバラエティ芸人やるブス共は見てて最高だね。超ウケるわ。
そいつらでしか補給できない栄養あるし、お酒を美味しく飲める)

どこかの女子校生の未来予想図だろうか。性格の悪さ全開にした感傷にほんの少しだけ浸る茶子。その後、気を取り直してナップザックを漁る。
取り出した物は畳まれた和紙。神社に無断で拝借してきた犬山家の家系図――春姫かはすみが庫裏の本棚から宝具殿に移動させたのだろう。
手元に置いた年代物の古書を捲りながら、テーブルに広げた横広家系図と見比べる。

――どこかおかしい。多くの闇をその目で見てきた茶子の直感が告げる。

家系図からは犬山家が室町時代から始まったことが読み取れ、それは写本にも書き記された隠山一族誕生の時期と一致している。
余談であるが、この羊皮紙写本がおよそ十世紀前――平安時代に書かれた物だと茶子は思っていたがそれは誤りであることに気づき、茶子は認識を改めた。

「隠山祈の弟が初代宮司なのは分かったけど、妹の記述が少なすぎるな。
疫病で死んでフェードアウトしたってことならそれくらい一行くらい書かれてもいいんじゃない?」

そう口に出すと途端に違和感が湧き上がる。だがそれだけだ。

推理と料理はよく似ている。
素材と調理器具が揃っていても肝心の料理人がいなければ調理はできない。
茶子が持つ物「降臨伝説の真実」を始めとした特殊調理食材の数々と22年の人生で闇を潜り抜けてきた中で身に着けた身に着けた知識。
だが、茶子は多少の『料理』は可能でもその道のプロではない。
ここで打ち止めだ。フゥと一息ついた後、手元に置いた袴田のスマートフォンで時間を確認する。
リンを送り出してからおよそ10分程度経過。長すぎず短すぎず、怪しまれない程度には丁度良い塩梅だ。
玄関口に立ち、リンを呼ぶために声を張り上げようとした瞬間、茶子の脳裏に過る一つの疑問。

(犬山家が今まで女一人しか産まれなかったのなら、はすみとうさぎの二人が生まれた理由はなんだ?)


少女の姿をした怪物の殴打が続く。
その威力は数時間前に大田原を嬲った時よりも弱い。破壊するというよりも苦痛をもたらすためたけに嬲っているようにも思えるような攻撃。
しばらくして嬲っていた手を独眼熊は手を止める。歴戦の勇士の健闘に敬意を示したわけではない、ただ飽きたからやめただけである。

意識が朦朧としている巨漢の首っこを掴んで放り捨てる。
衝撃を受けてもSSOG最強は何の反応も示さない。
その無様な有様に少女は溜息をついた。
もう遊びは終わりだ。役目を果たせぬ狗などいらぬ。
幹部亡きまで大田原の肉体を破壊すべく緩やかな速度で倒れた巨漢に近づき、脳を磨り潰さんと拳を振り上げた瞬間――。

「―――ッ!?」

小さな拳が巨大な掌によって受け止められる。
あり得ぬ光景に独眼熊は目を見開き、振り解こうとするもがっちりと掴まれ、引き戻せない。
掴んだ手はそのまま、少女の矮躯が投げ飛ばされ、壁へと勢いよく激突する。

「ガッ――!!」

肺の空気が血と共に吐き出される。
体勢を整え、木偶人形になったとばかりと油断していた人間の姿を見る。

こちらへと明確に殺意を向けてくる巨漢。その目は先程の様な無機質な者ではない。
憤怒と狂気に満ちた男の目。追い込まれた手負いの獣の強く遅ましい眼であった。


―――大田原一等陸曹!昇進おめでとう!貴殿の、新たな最強の、さらなる躍進を期待する!

いつか聞いた、先代最強の言葉。その激励を踏み躙り、醜態を晒し続けた己。
彼は国を守護れと他ならぬ大田原源一郎に祈った。
幾度となく己の傲慢を打ち砕き、導いてきた男が才能以外空虚だった大田原源一郎に願った。
その男に応えるためにできることは、ここで何も成さずに朽ち果てることか?

――否、断じて否!

最早「最強」の称号は意味を為さず。その名を穢し尽くした己に名乗る価値は非ず。
為れば!その名を捨て、護国に仇為す兵器とあれ!
抑え込んでいた理性を狂気という熱で溶かし、本能を解放する。
昂っていた血が巡っていく感覚。霞んでいた視界がクリアになる。

―――これより、正義を開始するッ!!


二者を除く、正者の存在しない閑散とした診療所内。そこで肉を叩き、骨を砕く鈍い音が何度も響く。

「オオオオオオオオオオオ!!!」

獣の如き雄叫びと共に大田原の鉄拳が幾度となく振るわれる。
拳が肉を打つたびに、対敵である少女の姿をした怪物が吹き飛び、宙を舞う。
猛攻に対して独眼熊は反撃を試みるものの、その全てが受け流され、カウンターとして打ち出された打撃が矮躯を打ち据える。

大田原源一郎の異能『餓鬼』。その能力は肉体再生に留まらず、身体能力の爆発的上昇も伴う。
強化された勇士の痛打・蹴撃は独眼熊の鱗の鎧を貫通し、内部の肉体へ骨とを確かなダメージを与え続けた。

今の大田原源一郎はSSOGでも護国の戦士でも非ず。ただ勝利(ちにく)に飢えた餓鬼畜生そのものである。
もう己に『最強』だの『SSOG』だのとほざく資格はない。己の命諸共怪物を殺す。。
誇りも想いも経験も何もかも全て焼き尽くして捨て去った今、残るのは極限まで鍛え上げた肉体のみ
充分だ。これほど心強いものはない。全ての大田原源一郎を以て、敵を討ち滅ぼす!

怪物の肉体がが再生する速度よりも重く早く、己の心と技を打ち込むのみ。
怪物は苦悶の声すら上げず、大田原の極限を受け続ける。
だが、その嵐の中にいながらも、独眼熊は己の急所――心臓と脳だけは守り続けていた。

「墳ッ!!!」

ふら付いてたたらを踏む少女の全身へ――急所を防ぐ手段をはぎ取るべく、技を放つ。
鉄山靠――八極拳における代表的な一撃――をその身に受けて独眼熊は宙を舞い、自ら生み出した瓦礫の山へと突っ込んだ。

これ以上、一切の行動を許してなるものか。
異能を使用し、脳に更なる肉体能力の向上を要求。その恩恵は空腹と共に訪れ、肉体に更なる強さをインプットさせた。
吹き飛んだ勢いは受付の壁にぶつかって漸く止まる。その直前、大田原は縮地術の如き疾走で独眼熊へと迫る。
思考・再起動の隙を許さぬまま、大田原源一郎は独眼熊の脳へ拳を振り下ろし―――

―――ゴキリと何かを砕く音によって激戦は終了した。


出発準備を終えた茶子はリンの手を引き、多くの人間ドラマが生まれたであろう一軒家を後にする。
そこから向かった先は家から少し離れた場所にぽつんと佇むガレージ。
偏屈な小説家はここでも独特の感性を発揮させたのだろう。わざわざ遠い所に車庫を立てた意味に茶子は首を傾げていた。
白いハイエースの隣には茶子のスクーター。エンジンを吹かせる前にリンの小さな身体に補助ベルトを装着させる。

「チャコおねえちゃん♪リン、チャコおねえちゃんみたいにきれいになった?」
「ええ、とっても綺麗よ。リンちゃんは見事、もちもち肌のぷにぷにお姫様に変身したわ♪」
「きゃはははは♪くすぐった~い♪」

じゃれついてくるリンへのお返しとばかりに、彼女の柔らかい頬をもにもにと撫で回す。
戯れの後、役場へと続く塗装された道路へとスクーターを引いて進む。
アスファルトには幾つもの靴型の土汚れ――特に目立つのは草履とローファーがそれぞれ一足ずつ、スニーカー跡が二足――が南の方角へと続いていた。
茶子が知る限り、宇野性の住民は全員古民家群に集中しており、書き置きの宇野が宇野和義を指しているとしても行き先は同じ。
だが、月影らは哉太らが去ったタイミングを見計らって字蔵恵子を集団で殺害した可能性の高いグループである。
宇野さんとやらの救助要請とでっち上げ、次なる獲物を求めているのならば、行き先はもっと人の集まりそうな場所へと向かうだろう。
ここから近いのは、公民館や学校ほどではないが避難所として指定されていた役場。
目標変更。寄り道を怨敵共の住処から役場へと変更。

「どうしたの?じめんばっかりみてたらころんじゃうよ?」
「ああ、ごめんごめん。ちょっとお姉ちゃん考え事してた」

心配そうに見上げるリンに不安を解消させるために笑いかける。

「お姉ちゃん、次はここから南――役場っていう人がたくさん集まる場所に行こうと思ってるの」
「どうして?」
「あそこに女の子を食べちゃう悪い人達が出たのかもしれないの」
「ええ!?たいへん!」
「そう、大変なの。だからお姉ちゃんは悪い人達を大人としてやっつけに行かなきゃいけないのよ。
もしかしたら凄く危ない場所になってるかもしれないから、リンちゃんは身を守るためにもお姉ちゃんの言うことはしっかり聞いてね?」
「うん、わかった!」

山折村の良き隣人達は大部分が犠牲になった。
憎まれっ子世に憚るという言葉通り、生き残っているのは特殊部隊の連中か、木更津組を筆頭とした村の汚物共だけになっているのかもしれない。
それでもいい。村の存続こそが茶子の目的なのだから。
愛する『山折村』に戻れないのならば、悪鬼共に生き地獄を味わわせる『山檻村』に変わっても構わない。
『山折村跡地』になどさせてなるものか。
己を穢した連中を、村を蹂躙し尽くした連中を誰一人として許さない。
死んだ程度で楽になれると思うな。

―――未来永劫の苦しみを。山折の地に呪いあれ。
「くひっ」

押し殺した笑いが漏れる。声を聴いた幼子は愛しき王子の横顔を見上げると――。

(チャコおねえちゃんのえがおってとってもきれいだなぁ……♡)

その内心を知らず、頬を染めて見惚れていた。


ずるずると診療所を何かを引き摺る音が鳴り響く。
耳と鼻から血を垂れ流しながら引き摺られる者は大田原源一郎。虚ろな双眸で床を見つめている。
そして彼を引き摺る者。それは―――。

「………なぜ鬼神の如き強さの使い道を違えたのだ、戯け」

激戦の勝者、独眼熊。


大田原の命を懸けた最後の一撃。その拳は怪物の命を刈り取る寸前で止まる。
情に負けた訳でも突如異能の力が消えた訳でもない。

「―――わたしの伏兵に終ぞ気づくことはなかったようだな」

言葉を聞き終える前に、大田原源一郎の巨躯が崩れ落ちる。
その背後にはつい先程、独眼熊により生み出された分身。
策を圧倒的な力で嬲り尽くし、一時は絶命寸前まで追い込んた歴戦の勇士。
しかし、大田原は一つだけ見落としがあった。
異能『クマクマパニック』は十五分のクールタイムがあり、それは診療所に到達した時点で過ぎていた。

『剣聖』の未来予知では己の頭蓋か砕かれる姿が見えた。
故に殺される直前で分身を召喚し、大田原を殺さず無力化する手段を取った。
独眼熊の目的は眼前の尖兵を送り込み、地下のねぐらに隠れ潜む人間共を殺し尽くすこと。
肉体再生の異能は知っていたがそれだけでなく身体能力の異能も持ち得てるとは思わず、それ以上に凶暴であった。
召喚した分身体は事前に入力していた指示に従い、気づかれぬように大田原の背後を取り、後頭部への一撃と頸椎への打撃を間を置かずに見舞い、昏倒させた。

――今度は念入りに此奴を壊しておこう。

白目を剥いた大田原の耳に小さな手を当て――。

「ゴガガガガガガガガガガガガ……!」

少女の指が細く鋭く伸び、大田原の鼓膜を突き破って脳へと到達する。
今度の凌辱は無意味な実験ではない。理性とやらをはぎ取るためのしつけの様なもの。
指が百足のように蠢き、脳をかき乱す。這う度に大田原の巨躯が跳ねて痙攣する。
処置を終えると、独眼熊は脳漿の就いた二本の指をペロリと味わうように舐めた。


引き摺る先は多くの人間の匂いがするドアの前。
ドアノブを回しても開かず、仕方なく拳で板に穴をあけ、力ずくで開いた。
意識のない大田原を引き摺りながら進む。
突き当りには何もなく、左手にはドアノブのない鋼鉄製の扉。ここも同様に力ずくで開く。
その先には何も存在せず、下には四角形の穴があるだけ。

(ここは廃棄孔か。朝廷の狗どもは死体漁りでもしているのか?)

心底冷めた目で奈落へと続く穴を見下ろす。
朝廷の狗共の堕ちるところまで堕ちたものだ。何せわたしを――――。
まあ良い。わたしには此奴らの事情など知ったことではない。

「そら、死体漁り同士仲良くしろ。もっとも貴様が奴らに喰われぬのならばな」

言葉と同時に大田原源一郎の巨体を穴へと投げ落とした。
堕ちていき、ゴンと間抜けな音が暗闇から鳴り響く。
己を極限まで追い詰めた男の様子など気にも留めず、独眼熊は悠々とその場を後にした。


山折村の上空を舞うドローン型カメラ。山折総合診療所を旋回するそれは見た。
出口から悠然と出てくる薄汚れた少女――クマカイの姿。
一瞬、その姿がぶれる。クマカイと同じ場所に現れたのは3メートルほどのヒグマ。
その姿のままある場所へと向かう。ヒグマの動きが停止したと同時に再び身体がぶれる。
今度は既に殺されたはずの巨大なワニの姿へと変貌する。
同じように巨体を這わせながらある程度進むと再び姿がぶれる。
今度は一糸纏わぬ姿の黒い髪と白い肌の少女――この地にて非業の死を遂げた、一色洋子の姿。
一色洋子(仮)は動かない。そのまま観察していたドローンを見上げる。

――双眸には瞳は存在せず、漆黒の伽藍洞がある。
――口と思われる場所の隙間にも何もない闇が広がっていた。

深淵の目でドローンを見つめる少女の口は三日月を描いた後、口を動かす。

"み つ け た"


「チャコおねえちゃん」
「なあに?」
「おはなしででてきたおんみょうじさんはどんなことをしたの?」
「陰陽師さんはね、たくさんの人達を助けて村の始祖になったのよ」
「しそってなあに?」
「始祖っていうのは村を作った人なの」
「すごーい!むらをつくったおんみょうじさんのなまえおしえて!」
「いいわよ。その名前は―――」


大田原源一郎の戦闘の中で見つけた鉄の蓋で封じられていた穴。
奈落の底に続いているかの如き深い暗黒が広がっている。
人間共の香しい匂い共に悍ましい気配がする。

―――ここに奴の末裔が潜んでいる。

抑え込んでいた激情が吹き出し、区分けした『ナニカ』の領域がじわりじわりと独眼熊の領域を浸食していく。
奴の末裔たる神楽春姫は如何なる人物であろうか。

かつてあった傲慢も鳴りを潜めたその姿。己の全てを投げ出してわたしに手を伸ばした憎悪(あい)する彼の生き写しか。
はたまた彼とは似ても似つかぬ上辺だけをなぞった俗物そのものか。

―――どちらにせよ、憎い。どのような手段でも確実に滅ぼす。

その忌まわしき男の名は――。

「神楽―――」
「―――春陽(しゅんよう)ッ!」

【D-4/袴田邸前/一日目・午後】

虎尾 茶子
[状態]:異能理解済、精神疲労(小)、山折村への憎悪(極大)、朝景礼治への憎悪(絶大)、八柳哉太への罪悪感(大)、スクーター乗車中
[道具]:ナップザック、長ドス、木刀、マチェット、医療道具、腕時計、八柳藤次郎の刀、スタームルガーレッドホーク(5/6)、44マグナム弾(6/6)、包帯(異能による最大強化)、ガンホルスター、ピッキングツール、飲料水、アウトドアナイフ、羊紙皮写本、スクーター、ヘルメット、護符×5、天宝寺アニカのスマートフォン、犬山家の家系図、モバイルバッテリー、袴田伴次のスマートフォン
[方針]
基本.協力者を集め、事態を収束させ村を復興させる。
1.有用な人材以外は殺処分前提の措置を取る。
2.役場に向かい、月影夜帳を殺す。他の袴田邸滞在者も月影の異能で洗脳されている可能性も考え、全員殺害も視野に入れる。
3.天宝寺アニカに羊皮紙写本と彼女のスマートフォンを渡し、『怪談使い』に関連する謎を解かせる。
4.八柳哉太と天宝寺アニカを資材管理棟へ派遣し、情報を集めさせる。
5.用事が済んだら診療所に向かう。
6.リンを保護・監視する。彼女の異能を利用することも考える。
7.未来人類発展研究所の関係者(特に浅野雅)には警戒。
8.朝景礼治は必ず殺す。最低でも死を確認する。
9.―――ごめん、哉くん。
[備考]
※未来人類発展研究所関係者です。
※リンの異能及びその対処法を把握しました。
※天宝寺アニカらと情報を交換し、袴田邸に滞在していた感染者達の名前と異能を把握しました。
※羊皮紙写本から『降臨伝説』の真実及び『巣食うもの』の正体と真名が『隠山祈(いぬやまのいのり)』であることを知りました。。
※月影夜帳が字蔵恵子を殺害したと考えています。また、月影夜帳の異能を洗脳を含む強力な異能だと推察しています。

【リン】
[状態]:異能理解済、健康、虎尾茶子への依存(極大)、スクーター乗車中(二人乗り)、
[道具]:メッセンジャーバッグ、化粧品多数、双眼鏡、缶ジュース、お菓子、虎尾茶子お下がりの服、子供用ヘルメット、補助ベルト、御守り、サンドイッチ
[方針]
基本.チャコおねえちゃんのそばにいる。
1.ずっといっしょだよ、チャコおねえちゃん。
2.またあおうね、アニカおねえちゃん。
3.チャコおねえちゃんのいちばんはリンだからね、カナタおにいちゃん。
[備考]
※VHが発生していることを理解しました。
※天宝寺アニカの指導により異能を使えるようになりました。

【E-1/地下研究所・B1 EV上/1日目・午後】

大田原 源一郎
[状態]:ウイルス感染・異能『餓鬼(ハンガー・オウガー)』、意識混濁、脳にダメージ(特大)、異能による食人衝動(絶大・増加中・抑圧中)、脊髄損傷(再生中)、鼓膜損傷(再生中)
[道具]:防護服(マスクなし)、装着型C-4爆弾、サバイバルナイフ
[方針]
基本.正常感染者の処理……?
1.???
2.???
3.???
※異能による肉体の再生と共に食人衝動が高まりつつあります。
※脳に甚大なダメージを受けました。覚醒後に正常な判断ができるかは不明です。

【E-1/草原・地下研究所緊急脱出口前/一日目・午後】

【独眼熊】
[状態]:『巣くうもの』寄生とそれによる自我侵食(大)、クマカイに擬態、知能上昇中、烏宿ひなた・犬山うさぎ・六紋兵衛への憎悪(極大)、神職関係者・人間への憎悪(絶大)、異形化、痛覚喪失、猟師・神楽・犬山・玩具含むあらゆる銃に対する抵抗弱化(極大)、全身にダメージ(大)、分身が一体存在
[道具]:リュックサック、アウトドアナイフ
[方針]
基本.『猟師』として人間を狩り、喰らう。
1.己の慢心と人間への蔑視を捨て、確実に仕留められるよう策を練る。
2.巣穴(地下研究施設)へと入り、特殊部隊の男(大田原源一郎)と共に特殊部隊含む中の人間共を蹂躙する。
3.人間共を率いた神楽春陽の子孫(神楽春姫)を確実に殺す。
4.隠山(いぬやま)一族は必ず滅ぼし、怪異として退治される物語を払拭する。
5."ひなた"、六紋兵衛と特殊部隊(美羽風雅)はいずれ仕留める。
6.正常感染者の脳を喰らい、異能を取り込む。取り込んだ異能は解析する。
7.???
[備考]
※『巣くうもの』に寄生され、異能『肉体変化』を取得しました。
ワニ吉と気喪杉禿夫とクマカイと八柳藤次郎の脳を取り込み、『ワニワニパニック』、『身体強化』、『弱肉強食』、『剣聖』を取得しました。
※知能が上昇し、人間とほぼ同じ行動に加え、分割思考が可能になりました。。
※分身に独眼熊の異能は反映されていませんが、『巣くうもの』が異能を完全に掌握した場合、反映される可能性があります。
※分身に『弱肉強食』で生み出した外皮を纏わせることが可能になりました。
※■■■の記憶の一部が蘇り、銃の命中率が上昇しました。
※烏宿ひなたを猟師として認識しました。
※『巣くうもの』が独眼熊の記憶を読み取り放送を把握しました。
※脳を適当に刺激すれば異能に目覚めると誤認しています。
※■■■■が封印を解いたことにより、『巣くうもの』が記憶を取り戻しつつあります。完全に記憶を取り戻した時に何が起こるかは不明です。

















―――うらうらおもて。
深淵から巣食う真実が蠢いて這い出した。箱庭が裏から表に裏返る。
静止した時計が動き出す。錆びついた秒針が廻る。
既に宴の準備は整った。狩人と獲物の役柄が反転する。
深淵の前でヒトの形をした少女が笑っている。

108.話の分かるあなたに 投下順で読む 110.
時系列順で読む
「会議を始めましょう」 虎尾 茶子 対魔王撃滅作戦「Phase1:Belladona」
リン
いのり、めぐる 大田原 源一郎 運命の決断を
独眼熊

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最終更新:2024年01月07日 23:30