プロポスレ@Wiki
てゐ2
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『樵と兎』
それは幻想の中であった昔話。
昔々ある所に、お爺さんとお婆さんはいませんでした。
代わりになんとも形容しがたい一人の青年がいます、真に残念ながら少女ではありません。
そんな彼は樵を生業として暮らしながら、人里を転々としていました。
「何処だ!? 何処に俺の運命の人がいるんだ!? 」
人里を転々とする樵の青年は、まだ会えぬ運命の人を探して転々としていたのです。
少し夢見がちな青年(年齢不詳)でしたが、樵としての腕は確かでしたので何とか生活していました。
人里から人里へと移る際に妖怪に襲われもしましたが、凶悪なまでの願望が彼を生かします。
「運命の人に会える前に食われてたまるか! むしろ食う! 」
斧を血だらけになりながら振り回すその様は、妖怪も裸足で逃げ出すほどの恐ろしさ。
素晴らしい樵としての腕前でした。
そんな素晴らしい腕前の樵が、近々村総出の土木作業をするとの事で、とある人里に来てくれと請われた時の事です。
樵の青年は、普通の樵で普通の人間だったので勿論空を飛ぶことは出来ません。
なので移動は徒歩、時々川を泳いだりもしますが基本的に愛用の斧(銘:キッコリー)を背負って歩きます。
春になり花粉症気味な青年がとある店で買った防粉マスクを付けて歩く様は、まるで新種の妖怪のようでした。
とにかく歩いて移動する青年が、途中の竹林で真っ直ぐ歩いていた筈なのに道に迷った頃、一匹の兎を見つけました。
長い耳と紅い眼の、兎の妖怪を見つけました。
実はその妖怪兎、因幡てゐと言う名前の『人間を幸運にする程度の能力』を持つ妖怪なので、それを見つけた青年はその幸運で竹林から出れる以上の幸運を授かります。
けれど、迷っている間は『早く此処から抜け出したいい』と考えていた青年は妖怪兎を見た途端に思考は別のベクトルに駆け抜けました。
「ちょっとそこ行くお嬢さん! 君はもしすると俺の運命の兎!? 」
ナンパし始める青年は、驚いて逃げる妖怪兎を『残念』だと思います。
そして幸運発動、何故か飛び出ている筍に妖怪兎が転んだのです。
「く、黒!? 」
何かを見た青年は驚きのあまり叫ばずにはいられませんでした、いわゆる外面と内面の違いに重度の精神的衝撃を受けたのです。
そして、その後樵の姿を見たものは居ない。
5スレ目>>497
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てゐが騙すことに罪悪感を持ちかねない勢いで心底尽くしてあげたい。
6スレ目>>406
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“クリスマスは大切な人と――” 作:眼帯兎 【http://arukadesu.hp.infoseek.co.jp/】
◆
空は凍ったように薄暗く、冷たかった。
それでも、幻想郷に住む人々に、不満の色はない。
もちろん、四季として受け止めていることもあっただろう。
死と隣り合わせの人間にとって、冬は畏怖の対象だが嫌がるものではない。
しかし、所々で楽しげな雰囲気の笑い声が聞こえるのは、少々変わっているのかもしれない。
冬を待ちわびた氷の妖精や、冬の季節妖怪でもなければ、厳しい寒さを喜ぶ者はそうは居ないだろう。
それでは何故、こんなにも嬉々とした空気が漂っているのか。理由は明確だった。
雪も近くなってきた空の下、幻想郷はクリスマスムードに包まれていたのである。
「明日はクリスマスイヴか」
そして、竹林の中の拓けた草原に、背を合わせて座る二つの影にとっても、例外ではない。
「てゐは何がほしい?」
俺は振向くこともなく、背後に座る因幡てゐへと声を掛ける。
僅かに背の影が揺れた、恐らくは、何か考えているのだろう。
「なんでもいいよ。私が喜ぶものなら、ね」
三つほど数えられる間を置いて、てゐはそう口にした。
大層意地の悪い笑みを浮かべているのだろうと、顔を見なくても分かった。
素直に悩んで、喜ばせてみろということなのだろう。
「それじゃあ、俺が一緒に居るってのがプレゼントで」
「それもいいけど、ちゃんと物もちょうだいね?」
自惚れと思いつつも、そんなことを呟くと、予想通りやんわりと却下される。
「……俺の前で、猫を被る必要も無いんじゃないか?」
「そう、それじゃあ……自惚れるんじゃないわよ」
率直な返答が返ってきた。
きっと最高の笑顔で言っているのだろう、分かっていながらも、少し気が滅入った。
「まぁいいや、頑張ってみるよ」
「……うん、楽しみにしてる」
「じゃあ、また明日な」
立ち上がると同時、背の温もりが寒空の下、霧散していく。
同時に感じた喪失感は、いつになっても堪えがたい。
これも、惚れた弱みと言うものだろうか。
最後にと振り返ってみたが、てゐはもう背を向けて帰路へと着いている。
俺は溜息を一つ吐いて、小さく手を振ってから帰路へと急ぐ。
妖怪と逢瀬していると知れたら、里にも居られなくなってしまうのだから。
◆
俺はとある商人の下働きとして日々を生きている。
店の番や配達などの雑用が主な仕事だ。
クリスマスと言うことで、店には普段よりも客が多い。
恐らくは、大切な人への贈り物なのだろう。店主が買い集めてきた雑貨が飛ぶように売れていく。
「え、真夜中まで、ですか?」
「あぁ、予想以上に冬の蓄えが少ないんだ……すまないが今日のうちに稼がないと……」
「いえ……わかりました」
そのせいか、日の沈む頃には終わる予定の店番も、急遽延長されることになってしまった。
てゐとの約束は、日の沈んだ頃だ。
店主にも待ち合わせがあると事前に伝えてはいたが、冬の蓄えは出来るときにしなければならない。
逢瀬と蓄え、下働きの俺に、選べる選択肢は無かった。
俺は店主に一言断って、待ち合わせ場所である広場に包まれたプレゼントを置いた。
書置きとして、来られなくなったことを書いたが、首を振って握り締めてしまった。
何となく滑稽に思えたのだ、待っても居ないのに、そうすることが。
明日は店主も店を休む。てゐも、プレゼントさえあれば、納得するだろう。
手紙を握り締めたまま、俺は店への帰路を急いだ。
◆
日が落ちていく、紅く染まった空が妙に眩しかった。
熱心に洒落た装飾に見入る客へと言葉を交わしつつも、考えるのはてゐのことばかりだった。
そろそろ、待ち合わせの時間だ。妙に時間に拘るてゐは、店主の気紛れで上がりが変わる俺よりも早く待っている。
今日も、待っていてくれるのだろうか。
首を振って、自惚れた妄想を掻き消していく。
悲しいことに、てゐにとって、俺はそこまでの奴じゃ無い。
「これ、包んでくださる?」
綺麗な声に意識が引き戻される。
目の前に居るのは装飾品に見入っていた、お得意様のメイドだ。
紅い夕焼けに映える銀髪、従事服でなければ、更に美人に思えただろう。
しかし、何故か彼女にはメイド服が一番似合っているように思えた。
本職のメイドとは、そういうものなのかもしれない。
「贈り物でしたら、このカードもいかがですか?」
「え、ええ……そうね」
送る相手は誰なのか、美女だからだろう、何となく気になって覗き込んでしまう。
宛名は、美鈴。恐らくは女性の名前だろう。
「御友人に、ですか?」
「そ、そうね」
顔を上げたメイドさんの顔は、戸惑いを残した笑顔だった。
そこに朱が混じって見えたのは、はたして夕焼けのせいなのだろうか。
◆
日は暮れて、里には夜が昇っていく。
遠くに見える山の竹林は、もはや暗くて見えない。
てゐはどう思っているだろうか、プレゼントは、喜んでくれただろうか。
明日になれば、またあの笑顔を見られるのだろうか。
衰えない客足に汗を流しながらも、気づけば彼女のことばかり考えている。
本当に、俺はてゐに惚れこんでいるのだった。
「……○○」
呆然としていた意識を、またも客の声に引き戻される。
しっかりしなくてはと思いながらも、何か、違和感を覚えた。
目の前には帽子を深く被った少女が立っている。
今、この子は俺の名前を呼ばなかっただろうか。
忘れもしない、忘れられるわけもない、聞き覚えのある声で。
「……ばか」
帽子が少しだけ上げられる。
影から出てきたのは、涙の浮んだ綺麗な瞳。
愛しい兎の、可愛らしい顔だった。
「てゐ? なんで、ここに」
「なんでじゃないわよ……ばかぁ」
声が震えている、大粒の涙が、綺麗な白い肌を伝っていく。
何故、この子は泣いているのだろう。
俺は慌てて店から飛び出すと、てゐの元へ駆け出した。
幸い、客足も途絶えた頃だった、てゐもそれを見計らって来たのだろう。
「ごめん、冬の蓄えの為にも、店を抜けられなかった」
「……なんで、書置きもなにもないのよ。これだけ置いて行かれたら、嫌われたのかって、会いたくなくなったのかって……!」
胸に抱かれた包み紙は、渇きかけた涙の跡で汚れていた。
待っていて、くれたのだろうか。泣きながら、一人で。
「一緒に居てくれることの方が、嬉しいに決まってるじゃない。ばか……」
声が細くなっていく。涙が止め処なく溢れていく。
気づくと、俺はてゐを抱きしめていた。そうしていいような気がした。
細い腕が腰に回る、か弱い手が、力いっぱいに抱き寄せてくる。
どのくらい待っていてくれたのだろうか、てゐの身体は、冷え切っていた。
「プレゼント、一つじゃ駄目なんだから」
「あぁ」
「明日は、ちゃんと。ずっと一緒に居ないと許さないから」
「……分かった」
「好きな人と一緒じゃないと、クリスマスじゃないんだから……」
「うん。俺も、てゐと一緒に居たい」
腕の中で、てゐは微かに、泣き顔の中で笑みを溢した。
唇に温かいものが触れる、一瞬のことで何かも気づけないまま、俺はもう一度てゐを抱きしめていた。
「……おい、そいつ……妖怪じゃないか!」
背後から声がかかる。
背筋が凍るようだった。聞き覚えのあるその声は、人間の、店主の声だった。
◆
「長い間、世話になってきた。それでも……分かるだろ?」
「……はい」
「手荒なことはしたくねえ。他に知れる前に、里を出てくれ……すまん」
「いえ、ありがとうございました。本当に、長い間……」
頭を下げて、暗くなった山道へと踏み出す。
隣には、困惑したてゐの顔があった。
「私の、せいだよね……」
「いや、禁を破ってたのは俺だから」
妖怪と抱き合っているところなんて見られたら、殺されたっておかしくない。
無傷のままこうして歩いていること事態、幸運だったのだ。
妖怪と人間が一緒に居るというのは、里の者にとって禁忌に他ならない。
故に、俺がてゐに惚れた時点で、こうなることは覚悟していたのだ。
「それに、俺はお前と一緒に居たいから。後悔はしてないよ」
「……ばか」
薄暗い山道、いつもの広場に腰掛けて、今度は背中合わせではなく、向かい合う。
月明かりに照らされたてゐは、綺麗だった。
白い肌は月光に蒼く照らされて、瞳は涙で美しく輝いている。
この子の傍に居られるのならば、本当に後悔は無かった。
「好きだよ、てゐ」
「うん、私も……好き」
月に照らされた二つの影が、ゆっくりと重なる。
時にして二秒程度の行為、俺達は互いに、気持ちを確かめ合った。
唇に残った微かな感触が、気持ちの証拠だ。
「ずっと、一緒に居よう」
◆
「と、いうわけで。今日から因幡に混じって雑用係に加わる、○○よ」
「よ、よろしくお願いします」
百を越える兎耳が、乱れることなく整列する光景を目にしながら、深く頭を下げる。
人間に対して嫌悪感を募らせるかと思ったが、兎達は概ね、快く迎えてくれているようだった。
自己紹介を終えてすぐ、俺の周りに兎達の壁が出来る。
やれ何が好きか、人参は好きか、何が出来るか、質問は様々だった。
薬に対しての体性はあるかと言う質問には、大きく首を振るも、看護師の格好をした女性は好都合と微笑むだけだった。
「皆離れなさい、一気に話しかけたら大変でしょう」
「じゃあ、恋人とかはいるのかー?」
てゐの号令に、静まる兎達の中からそんな声が上がる。
隣で、てゐが目を見開いて驚いているのが見えた。
「あー、うん。大切な人が、居るよ」
「な、何言って――」
「隣にね」
ざわめきが広がっていく、てゐの顔は、見たことも無いほどに真っ赤だった。
黒い髪の姫と呼ばれる女性が楽しそうにてゐを囃し立てている。
看護師の格好をした女性が、離れてクスクスと笑みを溢している。
「――○○の……ばかぁ!」
俺は生涯、この子の隣に居るのだろう。
本当に、楽しくなりそうだ。
メリー・クリスマス。
6スレ目>>571
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永遠亭に遊びに行こうと竹林に入ったら、てゐが出迎えてくれた。
「今日も可愛いね」って挨拶したら、
「今日がエイプリルフールだからって騙されないもん」って得意げな顔された。
しばらくてゐの後についてって永遠亭が見えた所で、「大好きだよ」って告げたら
「そ、それも嘘なんでしょっ!?」ってえらく慌ててた。
帰り道、永琳さんの指示で渋々てゐが竹林の外まで送ってくれた。
別れ際、「大っ嫌いだもん!」って厳しい一言を言われたけど、今は手を繋げるくらいには仲良しです。
6スレ目>>976
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「ん…?」
いつの間にやら寝てしまっていたらしい。 畳から身を起こし
大きく体を伸ばすと、凝り固まった間接がコキコキと音を立てて軋む。
開け放したままの窓から、風に揺れる竹林と夜空に掛かった月が見えた。
中々風流な光景じゃないか。 永遠亭に居候してからはゆっくり夜空を
見上げたことなど殆どない。 主に注射とか投薬とか人体実験とかで…。
「…思い出したら気分悪くなってきた」
ため息とともに嫌な記憶を吐き出して、再び四角く切り取られた空を見やる。
一枚の絵のような光景をしばらく眺めていた俺の頭を、一つの考えが過ぎった。
「月見酒ってのもいいな」
口に出したが最後、無性に酒が欲しくなってしまった。
『思い立ったら即行動』が信条の俺はすばやく宛がわれた部屋を出、
足取りに気を遣いながらも一路永遠亭の厨房を目指したのだった。
「「…あ」」
しかしそこには先客がいた。 俺の姿に気づいて口を開けると、
銜えていたニンジンの欠片がポロリと落ちて床に転がる。 勿体ねぇな。
「○○ッ…?」
「…何やってんだ、てゐ」
まぁ、何となく分かる。 おそらく俺と似たよーなモノだろう。
俺は珍しくもじもじしている(だがニンジンは手放さなかった)彼女の
脇をすり抜け、厨房の一角を漁りだす。
「…どうしたのよ」
「何がだ」
がさがさ。
「…大声で『盗み食いだぁー!』とか言うと思ってた」
「まぁ俺も共犯っつーか…同業者みてーなモンだしな」
ごそごそ。
「…ニンジンなら手前の籠よ?」
「残念、俺が探してるのは…っと」
奥まった場所にあった一升瓶を引っ掴み、返事の代わりにてゐへと突きつける。
「お酒?」
「ああ、夜空が綺麗だったからな。 月見酒だよ」
「…ちょっと似合わないわね」(こりこり)
「やかましい」
悪態をついたのも束の間、頭の中で閃いた考えのまま、俺は彼女に問いかけてみる。
「…なぁ、てゐ」
「な、何?」(もごもご)
「晩酌に付k」
「ノゥ!」
言い終わらない内に否決された。
「せめて最後まで言わせろよ!?」
「最後まで言ったとしても! 絶対にノゥ!」
幾らなんでもそこまで言うことないんじゃないのか…。
いつもならここで引き下がる俺だが…てーちゃんよ、今の状況分かってるのか?
頑なな態度を取る彼女に向け、俺は自信満々な笑みを浮かべてみせる。
「では君の心変わりを誘発しよう…」
「な、何よ?」
思わせぶりな様子の俺に怪訝そうな目を向けるてゐ。
「なーんか、急に大声あげたくなってきたなぁー」
「っ!?」
すーはー、すーはー、と深呼吸のマネゴトなんぞを
してみせると、てゐの顔がはっきり分かるほど青ざめた。 よしよし。
「寝てる皆には迷惑だろーけど、仕方ないよなー」
「あ…あぅ」
ここまでビビるてゐの姿を見るのも珍しいよな、などと思いながら俺は、
「てゐ、晩酌に付き合ってくれるか?」
先ほどよりも少し声音を落として訊いてみる。
彼女はしばらく石のように黙り込んでいたが、やがて小さく頷いて見せた。
…少女(と青年)移動中…
「ありがとなー、てゐ」
「脅迫しといてありがとうもないでしょ?」
「心外だなそれは。 交渉と言え交渉と」
「あ、アンタねぇ…!」
「…別に酌をしろとまでは言わないよ、隣に居てくれりゃ」
「えっ…」
「肴は多いほうがいいだろ。 月とか星とか…女の子とか、な」
「…! …それより、ちゃんと黙っててくれるんでしょうね!?」
「当然。 日本男児は紳士なんだぞー?」
「…意味分かんないわよ?」
するすると襖を開き、青白い月光に照らされる窓際まで歩を進める。
俺を見下ろす月は先ほどよりもやや高くなってはいたが、美しさは依然そのままだ。
ゆっくりと腰を下ろした俺の隣にてゐも座り込み、同じように夜空を見上げる。
「…そんなにキレイなもの?」
「少なくとも俺にとっては、な」
苦笑混じりのため息を吐いて、俺は持ってきた瓶の中身を猪口に注いだ。
揺らめく水面には、不規則に形を変える月が写っている。 それをしばらく眺めた後、
俺はゆっくりと酒を喉へと流し込んだ。
「…ふぅ」
「オヤジ臭いわね」
「うっせぇよ」
自分でもちらっと思っただけに指摘されると腹が立つ。 俺は続いて二杯目を飲み干し、
いざ三杯目を注ごうとしたところで、ふと頭を掠めた考えに手の動きが止まった。
「なぁ」
「何?」
「てゐも飲むか?」
「…うん」
小さく頷くてゐに猪口を手渡し、続いて瓶の中身をゆっくり注ぐ。
こくこく、と何度かに分けて酒を飲み終えたてゐが満足そうな息を吐くのを見て、
俺の顔にも自然と笑みが浮かんでいた。
「…ありがと」
「なーに、お気になさらず」
「そう言われれば、そうよね」
互いに笑いあう。 酒のせいか、それとも窓から見える月のせいか。
彼女との距離が
その声がが途切れたとき、てゐは神妙な顔つきで切り出した。
「ねぇ、○○」
「うん?」
「私が、さ」
「お前が?」
いつもの彼女らしくない、たどたどしい口調。
「貴方を好きだって言ったら、信じる?」
「…それが嘘なら流石に悪質すぎるなぁ」
くくく、と喉でだけ笑って見せる。
「どういうこと?」
言ってしまって構わないだろう。 見てるのは彼女と、月だけなのだし。
「だって、両思いになるんだからな。 俺たち」
「え」
「悪戯されてばっかだったけどさ」
それがいつしか。
「俺も、お前と居るのが楽しくなってたから」
俺は、彼女のことが好きになっていたのだろう。
てゐはとん、と猪口を置き、
「私も…○○と一緒に居るのが楽しかった」
同じようにクスクスと笑う。
「私を追いかける時は、私だけ見ててくれてたから」
「はは…てゐはいじめっ子タイプだったか」
「…どういうこと?」
「俺に構って貰いたかった、ってコトだろ?」
「…うん」
「随分と素直じゃないか」
珍しいこともあるものだ。 これが夢だったら恨むぜ、神様?
「素直な私は…嫌い?」
「嫌いじゃないが…俺はいつも通りのてゐが好きだな」
「嘘つきでも?」
「嘘つきで悪戯好きな詐欺師でも」
「あ、ひっどーい」
「今までのツケだ。 ありがたく受け取っといてくれ」
「踏み倒させて貰いますわ」
もう一度、二人して笑う。 この上なく心地いい。
「さて、そろそろお開きに…ってほど飲んでないな」
「逆に考えれば? またこうして飲めるって考えるの」
「おまえあたまいいな」
「誰かさんが言うように詐欺師ですから」
「…むぅ」
やっぱり口では彼女が上手のようだ。 俺は苦笑しつつも立ち上がり、
「そろそろ部屋に戻れよ、夜更かしは健康の敵だろ」
「此処で寝ていい?」
「…お前、襲われても文句言えねぇぞ」
「日本男児は紳士なんでしょう?」
それに、と悪戯っぽい-俺の好きな笑顔を見せててゐは続ける。
「襲うつもりならわざわざ警告したりしないわよね?」
「はぁ…ホンット、お前にゃ敵わねぇな」
「そりゃあ年季が違うからね」
「うるへー。 俺はもう寝ます!」
負け惜しみ以外の何者でもない叫びを上げつつ、俺は布団に倒れこむ。
少ないながらもアルコールの回った脳味噌へと侵攻してくる
睡魔に抗えるはずもなく、俺はあっという間に眠りの世界に落ちていく。
意識が途絶える瞬間、頬に柔らかな何かが触れた。 そんな気がした。
「んぁ?」
目を開けると、横倒しになってはいるものの見慣れた自分の部屋。
のそのそと起き上がり、6割がたぼやけたままの頭を何回か振っていると、
朝の清涼な空気が俺の頬を撫でた。 ふむ、今日も良い天気のようだ。
続いて脳裏に浮かんだのは、今や夢とも現ともつかない夕べの出来事だった。
「どうだったんだろ…」
時間が経つに連れ自信がなくなってくる。 やたらとハッキリ覚えている割には
隣で寝ている(と言っていた)てゐの姿も見えないし。 と、いきなり強い風が
開けっ放しの窓から吹き込んできた。 春も終わりが近いとはいえやはり朝の風は
冷たい。 思わず手で顔を覆い…指の隙間からあるものを認めて。
「…ははは」
知らず知らずの内に笑みを刻んでいた。 放ったらかしの酒瓶と猪口。
どうやら俺はまだ、神様を恨む必要はないらしい。 尤も、これからも
楽しい毎日が続きそうではあるから、永遠にその機会はないかも知れないが。
「…さて、と」
まずは、酒を持ち出した言い訳を考えないといけないな。
拾い上げた猪口を手の平の中で弄びながら、俺はそんなことを考えていた。
7スレ目>>710
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~好きだよなんて言わずとも~
「愛するものはいずれ去りゆく。だが人は、逝きし者を懐かしみ、そして愛するのだ。
記憶は永遠ならずとも、帰るべき場所は消えることはないからである」
---無名の詩人
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「むぅ、迷ってしまった」
幼馴染である健太の趣味、それは彼の年齢(25)に似合わず、筍狩りというシロモノ。
それにつき合わされ、兵楼県は神生市・笹姫町のとある竹やぶに来ていたんだけど・・・。
(くそ、これじゃまったく樹海じゃないか! ぼくはここで・・・)
ふと、TVで見た、富士の樹海の餓死死体を思い出す。ぼくは震え上がった。
「……っ!」
時は弥生の半ばを過ぎたころだろうか。暮れかけた日が、聳え立つ竹林の影の闇色を強める。
季節柄…いや、土地柄、もまだ冬の名残があるのか、肌寒さが身にしみる。
(これはやばいぞ)
そもそもなぜ迷ったのだろうか。
というのも、健太は「ちょっと向こうの筍を刈ってくる」と言い、数メートル離れた場所で作業を始めた。
ぼくは彼に背を向け、ちょうど切り落としかけていた筍に向かい、それを切って背中の袋に入れる。
物音がして振り返ると……彼はいなかった。かわりに、一瞬、日傘を持った婦人の姿が見えたような気がする。
(おかしい。ぼくがあれを切る時間はものの十秒ほどだったはず…どこかに歩いていく足音も聞こえなかったし)
ぼくはバックパックに入れていた懐中電灯を取り出す。
(電池は…昼に新品を入れたばっかりだ。もつかな…)
もつ? ここから生還できるとでも思っているんだろうか。
「ふ」
嘲笑に近いため息が漏れた。生きて帰ったとして、そこに何の楽しみがあるというのだろう?
追われるような仕事、崩壊した人間関係、持病の悪化。
(でも、ぼくは)
生きたいと思う。ここで死ぬというのはあまりにあっけなく、そして心残りだ。
何しろ、構想4年・製作3年、300ページにわたる超絶クオリティな同人誌 --- これをコミケ参戦の主砲としたのだけれど、
まだ参加OKが来ていない。(爆
主人公はもちろん、因幡てゐ。彼女の壮大な冒険を哀歓ともに綴ったロマン派大作なのだが。
(DL販売にするべきだったかな……)
カサッ。
(?)
物音がして振り向いた。
「健太?」
返事はない。イタズラだとすれば度が過ぎる。何しろあれからもう数時間経っているのに…
「健太?」
だが、そこから出てきたのは………
「迷ったのね」
年の頃17,8といった体格と面持ちの少女だった。
短めの袖をもつ淡い紅色のワンピースを羽織り、体の半分はあろうかという巨大な杵の柄を肩に掛けている。
「やっと会えた」
(!?)
その仄かな微笑は、どこかで見た感じのする懐かしさの漂う雰囲気を身に纏っていて。
しかも、ふんふんという鼻歌まじりの振る舞いの中に、時折ふと見せる妖艶なまなざし。
(かわいい)
ぼくは彼女の奇抜ないでたちに驚く間もなく、
「こ…ここは?!」
コロコロとした子気味良い声色で、彼女が答える。
「ん、幻想郷の、永遠亭に近い場所だよ」
「幻想郷? どういうこt……」
そこでぼくの脳に、衝撃の事実が隕石のごとく落下してきた。どうして今まで気づかなかったんだろう!
あれほどファンだったというのに……
(い…い……いな………いなば………!!)
「て……てゐさん?! あの、いな、因幡てゐさん?! そんな、」
ぼくは遠慮せず彼女に近づいてゆき、その兎耳をさわってみる。ちょっと力を入れると、
(あれ、取れない!)
「いてて、本物だってば!」
あわてて、
「ご、ごめんなさい……コスプレかと」
「あたしは、因幡てゐ。やっと気づいたのね、おバカな、」
彼女はぼくの名を呼んだ。
「ど、どうして知ってるんですか?!」
「隙間からのぞかせてもらったことあるの。花映塚だっけ? あれでよくあたしのキャラ使う人がいるって有名だったから。
あ、もちろんあたしを自機とする人はゴマンといるんだけど、あなたの笑顔が……」
言うと黙り込み、下を向いてしまうてゐさん。頬がちょっと紅潮している。
「と、とにかく、幻想郷に来ちゃった以上、次の隙間が開くまでに時間があるだろうしさ」
手を差し伸べてくるてゐさん。
「こちらにどうぞ♪」
ぼくも手を伸ばす。半ば刺すような涼しさの中、二人の指と指がふれあい、指の先がからみあった。
(あったかい)
だが、
「う、うわぁぁ」
体が宙に浮いた!
「ど、どうなってるんだぁぁぁ」
ぐんぐん遠くなってゆく地面。筍の畑、竹林、町の区画。少しばかり静かだったてゐさんが口を開いた。
「手ぇ離しちゃだめよ」
「離すと、どうなるんですか?! くっついてる間だけ力が供給されてて、」
ぼくは好奇心から、
「手を離したりすると、」 (手を離す)
落下。
「うあああぁぁぁぁ」
上のほうから、「言わんこっちゃない!」とかわいらしい声が聞こえて来、全速力で降下してきたてゐさんに抱きとめられる。
「もう、子供みたいなことしないでよ」
「す、すみません…試してみたくなっちゃっ……」
二人の顔…それは、恋人同士のように接近している!
と、突如真っ赤になったてゐさんは、
「いやぁ」
と素っ頓狂な声を上げ、ぼくを突き放す!
「うわああぁぁぉぉ」
そしてぼくは再び落下をはじめたのだ。もちろん、てゐさんはちゃんと助けにきてくれたけど。
数十分ほど、手を手をとりあっての飛行が続いただろうか。
ぼくは彼女とタメ口で話すように言われた。実際の年齢で言うと大先輩だけど、見た目は僕が上だから、との理由だ。
「しかしこの竹林、えらく大きいんだね」
「そう? ……もうすぐ着くよ」
着く? 幻想郷の竹林の中にある場所といえば…それは、永遠亭だ。
「それより、ここは現実世界と比べてどんな感じ? 空気とか、違うの?」
「え、えっ」
ふふ、と笑うてゐさん。
「あたし…どうじんし? とか、ふらっしゅ? とか、言うんだっけ。そこに描かれてるのと、違う?」
「んー…」
「狂気のなんとか、とかいうふらっしゅも、好きなの?」
年頃の高校生といった興味津々さで、ぼくを矢継ぎ早に質問攻めにするてゐさん。
「いや、それは、なんとも…」
空いている手で頭をかく。
「見た目はこんなのだけど…現実には、あたしも相当のおばさんよ。それでも……」
言うとてゐさんは、僕の手をとる力を少し強めた。そして、
(!)
ぼくの手の指と指の間に、そのやわらかな指をからめてくる。
「それでもいい?」
両想いということ。
顔は飛行の方向に向けられているものの、細められた眼がこちらを艶かしく見やっている。
(……!)
このてゐさんという女性、現実世界ではありえない存在だ、とぼくはつくづく思う。
少女でありながら、長い年月を経た、しかも妖怪であるというひと。
その彼女が、ぼくの手をとっている。
その彼女が、ぼくの想い人。
これは夢なのだろうか。消えてしまい、いずれは忘れてしまう幻なのだろうか…
そんなことを思っていると、大きな屋敷が眼に入った。次第に高度をさげてゆくぼくたち。
地面に降り立つと、ぼくたちは絡められた手をちょっと意識したのか、恥ずかしそうにゆっくりと解いた。
玄関先を見渡すと、そこに居るのは……
「みんな、知ってるよね」
てゐさんの従者たちであろうか、兎たちと、兎耳をつけた -- 変化した兎だ -- 護衛らしき女性ら、
そして着物をばっちり着こなした輝夜さま、永琳師匠に、優曇華院さん。
地面に降り立ったてゐさんは開口一番、
「もー、なんでみんな勢ぞろいしてるんですかぁ」
姫さまが口を開く。
「久しぶりに迷い子が入ったって知らせがあったからね。楽しみだったの。
それにあなたのお気に入りの男性と聞いちゃ・・・黙っていられないから」
凛とした、透き通るような声。よくある時代劇のお姫様といった顔立ち、という表現がしっくりくる。
「なかなか興味深い殿方ね。これはいい実験台になりそう」
(ちょ、実験て)
言ったのは永琳師匠か。見るからに科学者といったオーラに、さらに理知に富んだ顔つきと声の音色。
さらに、腕組みをして何も言わずにこちらをじっと観察している制服姿は、うどんげさんだろう。
先輩、といった感じが伝わってくる。
みんなの顔をみながら軽く会釈していると、姫さまが、
「堅苦しい挨拶はいいから、中に入って頂戴。ちょうどお夕飯の時間なの」
「あ、はい」
「それに、背中から見えてる筍…現実世界のものね。一度食べてみたかったの。永琳?」
呼ばれた師匠は、いつの間にかぼくの背後にまわっていた。
「ほぅ、なかなか美味しそうですね。早速炊事場に廻します」
姫さまはといえば、ささ、とこちらに歩み出てきて、手のひらを上にしてぼくに差し出す。
「?」
「私が直々にお連れするわ」
その華奢な手をとると、少しばかり体が浮かぶのを感じた。
狭めの応接室に通されたぼくは、そこで、姫さまと師匠、そしてぼくとてゐさんの四人で夕食をとることになった。
優曇華院さんは護衛のシフトがあるから、今はちょっとこれないそうだ。
現実世界の流行について、そして現実世界で言われている事と幻想郷の現実との違いについて、
果ては霊夢さんが最近開発した『賽銭防御システムA801』などについて談笑する。
きれいな食べ方をする隣のてゐさんを見ていると、さすが良家のガード役というのも頷ける。
夜もずいぶん更けてきたころ、姫さまはお箸を置くと、
「お粗末な食事で申し訳ないわね」
確かに、ご飯・味噌汁、そして幻想郷で取れるお魚の塩焼きに季節の野菜、というメニュー。
「そんなことないですよ。おいしくいただけました」
ぼくのとってきた筍も、ちょこんと添えてあった。
「最近、てゐの稼いでくるお賽銭が少ないの。だから…」
ぼくはふと思い出すことがあり、
「姫さま、それは姫さまが働かないk…」
言いかけたところで、太ももに激痛を感じた!
「っ」
見ると、てゐさんがにこやかな表情でぼくをつねっている!
姫さまは全く動じることなく、穏やかに
「ともかく、あなたはまたここに来ることがあるでしょうから、今度からは筍狩りをお願いしようかしら。
おいしいものがとれる場所の地図を渡しておくわ。現地調達のほうが楽だし」
(…ここ、人、というか兎、足りてるのか…?!)
ぼくは苦笑いする。
食事の後は、みんなで(お粗末ながら)お菓子を食べる時間。
師匠が竹の葉にくるんだお団子を出してきた。親指の先ほどの小ささだが、とてもボリュームある味。
「あ、そういえば」
ぼくはある事を思い出し、バックパックからそれを取り出す。
「現実世界のお菓子で、ポッO-といいます」
姫さまたち三人はキャッキャと色めきたった。師匠はぼくが渡したパッケージを手に取り、
「姫さま、これがあの噂のポッO-というやつなんですね」
輝夜さまは両手を可愛らしく合わせて、
「長くて細い…そして、甘いの!」
てゐさんは僕を呼び、
「ねぇ、これはどうやっていただくの?」
ぼくが「いや、普通に、チョコついてないとこを持って・・・」と説明をはじめようとすると、
姫さまと永琳師匠が顔を見合わせ、ニヤリとする。
師匠は封を開けたところから一本取り出し、その端をくわえた。
「こうやるのよ」
「永琳も好きねぇ」
と、姫さまも反対側をくわえる!
(ど、どこでこんな遊び方を……)
ポッO-をくわえた姫さまは、そのままで
「お二人もやりなさい」
(命令!?)
てゐさんの顔をさっと見ると、もう真っ赤だった。彼女は恥ずかしげに視線を斜め下に逸らす。
が、パッケージから一本、しなやかに取り出すその姿を見て、ぼくは言葉に出来ない感情に囚われた。
いやとは言えない……でも、しかし…いくら大好きとはいえ、初めて会った女性と!
合コンの経験なんて一度しかないし、そんな大胆なことはなかなかできないのがぼくの性格だ。
しかし見ていると、姫さまと永琳師匠の唇が近づいてゆく!
ぱりぱりぱりぱり・・・。
接近する二人の唇 --- ぼくは、恥ずかしさに眼を逸らす。しばらくの後、輝夜さまと師匠は笑い上戸になっていた。
永琳師匠が、ぼくの赤面に気づいたのか、
「さぁ、二人もやってみなさい」
姫さまもそれを後押しするように、
「さぁ!」
てゐさんが本当に恥ずかしそうにポッO-をくわえると、輝夜さまはぼくを指し、
「さ、あなたもくわえなさい。姫の命令よ」
(なんちゅう命令だよ…)
ぼくは反対側の端に口をやる。
(こんなに近くなるんだ……)
てゐさんの円らな瞳は恥じらってばかりだ。ぼくの眼をちら、ちらと見るものの、ふふ、と笑って視線を避ける。
「はーやーく! はーやーく!」
シラフのはずの姫さまが、お祭り状態になっている! てゐさんまでも、煽るようにぼくの名前を呼び、
「はやく」
ぼくは意を決した。
ぱり。ぱりぱり。
「おぉ~」
師匠と姫の歓声がユニゾンとなって部屋に響きわたる。途中あたりまで食べ進めたところで、突然二人が立ち上がった!
「じゃ永琳、私はちょっと用足しに」
「では姫様、私も例の実験の準備が」
スタスタ(歩く音)、サーッ トン(ふすまが閉じる音)。
こちらを見ることなく二人は部屋から出て行ってしまった。
(………)
部屋に残されたぼくたち二人。
ぱりぱり。
(!)
進んできたのはてゐさんのほうだった。両目をそっと閉じていて。
ぽりぽり。
(てゐさん…)
眼を閉じると、ぼくの両肩に腕が置かれた。やがて両手の平がぼくの頭の後ろにもっていかれ、優しく包むように。
ぱりぱり。
(……)
ぼくはためらいながらも腕を動かし、てゐさんのくびれた腰を探しあてる。そこに手をそっとそえて、
ぽりぽり。
ぱりぱり。
ぱり。
そして。
ヴァッタァァン!! という擬音が画面に浮かび上がりそうな大音量とともに、襖が倒れてきた!
ビクッとして飛び上がるぼくたち。そこには姫さま、師匠、そしてうどんげさんの姿が。
てゐさんはポッキーの残りをくわえたまま、赤かった顔をさらに染めて、
「ひ、ひどいです、のぞきなんて…」
ぼくも視線をそこらじゅうに泳がせる。姫さまが本当に惜しそうに、
「残念だなぁ…もうちょっとだったのにぃ」
三人の後ろに立っている、日傘を手にした女性は……見覚えがある。紫さんだ。
彼女が口を開く。
「そろそろ準備が出来たわよ。彼ももうすぐ帰らないと思ってるんじゃなくて?」
「待って」
言ったのはてゐさんだった。八雲さんを見据えたまま、ぼくの手を探し当て、しっかりと握ってくる。
「そんなに急がなくても…帰るための境界だっていつでも、それに…時間軸は、」
「いや、てゐさん」
てゐさんがはっとした顔でぼくを見る。
「ぼくも、健太が心配だ。こうしていたいけど、戻ってあいつを探さないといけない」
紫さんは諭すように、
「彼なら大丈夫。私があなたを神隠ししたのは、あなたが背中を向けた瞬間だから」
「えっ、じゃあ……」
「今回はあまり、その……ある兎さんがせがむもんだから。
それに、あなたの想いが強いみたいだったから、ちょっと強引に隠したの」
手が強く握られるのを感じた。
「次からは直接あなたに訊ねることにするわね」
「…あいつ、俺を探してるんじゃないですか?」
「しばらくはそうだったみたい。でも実は、彼も別のところに飛ばしてるの。
今回は彼には、幻想郷は文字通りの夢だったと思ってもらうことにするわ」
と、ぼくは急に眩暈を覚えて倒れこんだ。駆け寄ってきたのはてゐさんだろうか。
「大丈夫?!」
朦朧とする意識の中、永琳師匠の声がして、
「…まだ、ここの空気に慣れてないみたいね。しばらくは現実世界に戻って静養する必要があるわ……
……いえ、その前にちょっと処置しておきましょう。今ちょっと怪我しちゃったみたいだし。
てゐ、彼と来なさい」
今、ぼくは永遠亭の医務室にいる。横たわるぼくの傍に座っているのは、てゐさんだ。
ふと自分の右手を見やると、小指に包帯が巻かれている。彼女が巻いてくれたものだ。
ここまで負ぶって(浮かんで)来てくれたのもてゐさん。
指を動かそうとすると鈍い痛みが走った。
「てゐさん……次、いつ、逢えるかな」
「わからない。あなたも、ここの空気に慣れる必要があるし……」
間。
「ぼくは、」
「あたしは、」
彼女に譲る。
「あたしは……あなたに逢えて、話せて、嬉しい。ずっと待ってたから」
「無理言って、境界開いてもらったんだよね」
「うん」
ぼくの足に手をそっと置くてゐさん。
「八雲さんは次からぼくに尋ねるとか言ってたけど…それも、彼女次第だよね」
「うん」
「いつ逢えるか、本当にわからないんだね」
哀しげな面持ちになるてゐさん。
「ねぇ」
と、彼女。
「ん?」
「さっき言ったの、嘘よ」
「どういうこと?」
「あなたよりいい人なんて、いくらでもいるから」
ぼくから視線をはずす。
「別にあなたじゃなくてもいいの。あたしは人気あるから。崇拝する男どももワンサカいるのよ」
嬉々とした顔の中には、しかしながら、哀切を帯びた瞳があった。
「……ぼくは、」
動かせる手で、てゐさんの手を包む。
「そんなてゐさんが、」
「……」
「…偶然とは思いたくないけど、東方って世界に出会った。最初はチャットで、東方アレンジをしてる人に出会って、
CD紹介されたんだ。それでゲーム買ってみて、お店でアレンジCDとか勝って、自分で作ったりなんかして。
花映塚で、てゐさんのキャラ見て……それにここが実在……幻なんだろうけど、本当にあるとこで、」
ぼくは唾を飲み下す。
「よくわからないけど、ここでてゐさんに逢えた。本当にいるんだってわかった」
「………」
「それに、ぼくみたいな奴でも見ててくれてたって」
てゐさんは視線を逸らす。
「ここでの記憶は…いつか、薄くなって、消えてしまうかもしれない。幻みたいに。でも、」
「キャラを好きな気持ちは消えないってわけ? あたしはずっとここで、」
ぼくをきっと睨むように、
「あなたを待つのよ?」
彼女の眼を見ることはできない。
「気まぐれなあのおばさんが次に気まぐれ起こすときまで……待つの」
言うと、ぼくの膝の上あたりに顔を横たえるてゐさん。腕を伸ばし、その頭をなでてあげる。
彼女はぼくを見ながら、
「あたしは、でも……忘れられても、いいかな」
ぼくは体を起こした。同時にてゐさんも椅子に座りなおす。
「どうしたの?」
「てゐさん、ぼくは記憶力がいいほうじゃない。人の顔も名前もよく忘れるほうだ」
「……」
「じゃあ、こんなぼくなのに、どうして選んでくれたの」
てゐさんは再び視線を床にやる。僕は寝台に腰掛け、彼女と向き合った。
「どうせなら、ぼくを選ばなきゃよかったのに。ぼくなんて奴を選ぶのが間違ってるんだよ。
じゃあ何? ぼくのほうも、東方なんか、てゐさんなんか知らなきゃよかっ」
パシン。
(ぶたれた?!)
事態を把握しようとした次の瞬間、てゐさんがぼくの頬に両手をそえて、その顔を近づけてきた。
丸い眼はゆったりと閉じられていて……。
気がつくと竹林の中に居たぼく。気配にさっと振り返ると健太が立っていた。
「お、健太。探したんだぞ。どこいたの」
「なんかよくわからんが、むちゃくちゃ眠くなったんで寝れそうな場所を探してたんだ」
(やはり、ぼくだけが記憶を…)
「いい夢みたか?」
「ん、よく覚えてない。…それよりお前、小指、ケガしたんか?」
手を見ると、そこには確かに、彼女が巻いてくれた包帯がしてあった。
触れてみると、
「いてっ」
だが痛みと同時に脳裏をよぎったのは、あの愛らしい笑顔。
うpろだ308
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てゐとお月見してゐたら
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幻想郷を定期的に訪れるようになってはや五年。
多くの人間や妖怪たちとの人間関係もそれなりに出来、お気に入りの風景もあり、今では現実世界よりも好きな場所である。
・・・というのも、好きな妖怪(ひと)ができちゃった、というのが正解かな。
彼女の名は、因幡てゐ。僕よりはるかに長生きだけど、顔かたちはかわいい女の子。もちろん兎耳もついてる(本物)。
今日もぼくは、いつものように、輝夜さまのおわす永遠亭に向かった。
十五夜の下、お菓子をつまみながら歌詠みの会が催されることになっているからだ。
(今夜披露する歌は・・・これにしよう。カラオケでも練習したし、本番っていってもカラオケみたいなもんだし)
境界から出てきた僕は、地面に足が着くと同時に、手にしていたカンペを浴衣の懐にしまいこんだ。
目指すは竹林、姫さまと彼女の従者たちの住まうあの場所。
(前来たのは1ヶ月前、か・・・前々回の訪問から3ヶ月。サイケな壁紙に変わってないといいけど)
何度入っても迷いそうになる竹林。ここへの入り口というものは幾度来ようが未だにわからない。
でも僕はここ一帯でそれなりに有名らしくて、来る度、てゐさんの忠実な僕(と、彼女は呼んでいる)が案内してくれる。
(よくできた先輩ウサギなんだなぁ・・・かっこいいところもある)
よくできた、とぼくは書いた -- しかしながら、一度、こういうことがあったのを忘れてはならない。
その日、やたらとてゐさんについて褒め殺しの文句を紡ぎまくるウサギ(最近変化した新人らしい)に案内されたぼくは、
行き止まりと思しき、竹藪が文字通り壁のようになった袋小路にたどり着いた。彼女の言葉を思い出す。
『壁の下らへんに小さな穴があります。そこから潜りこめば、てゐさんのお気に入りのお昼寝場所に着けます』
すこしばかりニヤリとするぼく。
(だめだだめだ!)
次々と襲いくるあられもない甘い妄想をふりふり振りほどき、体をかがめる。
「うへぇ、ちょっと狭いな~」
ほふく前進を続ける。
「あれ。ここ・・・温泉?」
あたりにはもくもくと湯気がたちこめている。頭がようやく小穴から出たところで、
カチャッ。
何かが頭に突きつけられた。
(・・・冷たく、丸い・・・・・・・銃口?!)
覚えのある、鋭く透き通った声がぼくの耳にやさしく入ってきた。
「度胸あるわね」
鈴仙さん?!
「私の沐浴現場を大胆にも覗くとは・・・てゐに言いつけるわよ」
ゆっくり顔を横にすると、毛布で体を覆ったうどんげさんが見えた。
「こ・・・・これにはわ、わけ、その、教えてもらったうさぎさんがぁぁ」
ニッコリとしているレイセンさん。これは、まずい!! 微笑みを顔一面に湛えたまま、手際よくロックをはずす彼女。
そしてぼくは、ピチューンという音とともに、ポイント加算に貢献したのだった。
「今回は大丈夫だよね」
ぼくがそう独りつぶやくと、背中をつつくものがあった。てゐさんをそのまま小さくしたような、かわいらしい兎・みるさんである。
人間で言うと7,8歳あたりだろうけれど、五十年ほど前に変化した妖怪。もちろん僕より大先輩なのだ。
「あ、あの、今日は、みるが、案内、ですの」
「みるさん、また会えたね。今日も待っててくれたの?」
先輩相手にタメ口は躊躇われるけど、みるさんは『でも、みるのほうが、見た目は子供だから・・・ですの』と言って
妹のように接することを望んでいる。ちょっと微妙だけど、これはこれでかわいい。
見ていると、みるさんは手を振袖の中に入れ、なにやら文のようなものを取り出した。
「てゐ先輩が、これを・・・・」
「なんだろう」
ぼくはそれをそっと受け取り、手の中でいたわるようにして開いた。
<< たけのこ取ってきてくれないかな。前取りそびれたでかいのがあるから。区画・東ヰ45947cあたりにあるやつ。お願い >>
「・・・・・」
コミケの配列かと見まがう記載だが、ぼくはなぜかこの場所だけは知っている。
手を背にやると、
「のこぎり・・・」
来訪ごとに何かお使いをさせられている気がするが、気のせいだろう。気のせいかな。そうだといいな・・・・・
ともかくぼくは、東(中略)に向かった。
てくてくと足を進めると、やがてたけのこ畑に到着する。
「これが・・・そうか」
人間の片足ほどの太さの巨大なたけのこ。
「これほど育つと普通は不味いけど、ここ・幻想郷産のは不思議と美味いんだよなぁ」
永琳師匠によると、どうやら特殊な製法と幻想の空気があいまって、熟成されるとのことだ。
ぼくはのこぎりを手にし、その根にえいっと歯を立てる。
「てゐさん、いますか?」
だが、ぼくを迎えたのは輝夜さまだった。仄かに笑みを浮かべつつ、
「あら、ちょっと遅かったじゃない。もうはじまってるわよ」
「す、すみません。ちょっとコレ」
言うと、背中にしょっていたたけのこを示し、
「とってたもんで」
姫さまは両手をそっと合わせ、顔を傾けて、
「あ~、ちょうど料理にたけのこが入用だったところなのよ。永琳が、足りない足りないってうるさくてね。ありがとう」
輝夜さまはぼくを見てずっとにっこりしている。
営業スマイルとも、友人との再会の喜びともとれない、不思議な微笑みだ。
不死のわびさびを知り尽くしているからといってしまえばそれだけなのかもしれないけど。
また見たいと強く思わされるけど、見るとどこか余所余所しいものを感じる・・・そんな、笑み。
「どうしたの? お入りなさい」
「あ、はい」
華奢な手を伸べてくる姫さま。ぼくがいつものようにその手をとると、
(つめたい)
広間に続く回廊に導かれる。
ふんふんと鼻歌を歌いながらぼくをエスコートする輝夜さま。
(もうすっかりペットになっちゃったな)
広間の襖の前に来ると、ぼくたちの足がとまった。姫さまはぼくをちらっと見て、
「彼女、待ってるわよ」
一瞬何のことかわからなかった。
「えっ?!」
「ふふふ」
響き渡る大音量のロックサウンド。兎たちはみな、えーりん、えーりん! と叫びつつ腕を上げ下げしている。
ぼくの席はてゐさんの隣に確保されていた。
(やった!)
毎回ランダムで席順が変わるようなのだが、今回は何かのまぐれだろうか。嬉しいことに間違いはない。
隣に来たぼくに気づくと、なつかしい声が響いた。
「もぅ、遅いっ」
えーりん、えーりん。
合唱が終わり、拍手と歓声がひと段落すると、ぼくの名前が呼ばれた。
「さ、行ってきなよ」
「うまく、歌えるかな・・・」
「何甘えてんの」
「練習でも失敗ばっかだったし」
情けなくそう言うと、てゐさんが両手を広げ、ぎゅっとぼくを抱きしめた。
耳元で、
「久しぶりに会えたんだから、ちょっとは成長したとこ見せて」
(積極的に・・・なってる?)
ステージに上がったぼく。唾をのみこみ、目を閉じて、
(てゐさん・・・ヘタだけど、てゐさんのために、歌うよ)
ポーズを付け、マイクをかっこよく目の前にもってきて、目をカッと見開く。
てゐさんは
(こっち見てないじゃんorz)
歌の集まりの後は宴と決まっている。
メロンの仲間みたいな名前の妖怪さんが持ち寄ったお酒、脇が見えてる巫女さんが神社から運んできたお酒。
色んな種類の飲みものをあおりながら、一級品の料理をいただくんだ。
「うわー、おなかいっぱいになりました」
驚くなかれ、これはすでに三次会なのだ。ぼくは思わず声をもらす。
隣に座っていたてゐさんを見ると、その横の兎となにやら楽しそうに談笑している。
宴会もそろそろお開き。四次会としてお月見というオプションがあるけれど、参加する人はいつも数名である。
(てゐさん、お酒あんまり飲まないみたいだけど、こういう雰囲気は楽しいんだろうな)
見ていると、兎は立ち上がって部屋を出て行ってしまった。
片付けに帆走している兎たちを除くと、部屋にいるのは、姫さま、永琳師匠、そしてぼくとてゐさんだけだ。
(ん?)
ちら、ちら、と、ぼくに視線がやられるのがわかる。てゐさんがぼくを見ているんだ。
それが気になっていないフリをしつつ、ぼくはあえて姫さまと師匠のほうを見る。
ニコニコ。ニヤニヤ。
二人は何やら、ぼくらのぎこちない態度を話のタネにして愉しんでいるようだ。
(・・・・)
ぼくは何も言わず、てゐさんの手をとって --- 自分から、手を差し伸べて --- 縁側に出る。
垂らした足をぶらぶらさせ、月を眺めながら団子をほおばるてゐさん。
といっても、お腹はすでにいっぱいのようで、それについた餡を舐めているだけだ。
ぼくはちょっと恥ずかしくなり、視線を逸らす。
「てゐさん・・・」
「なぁに?」
「こうやってずっと会えないと、寂しいとか思わない?」
「うーん」
団子をお皿に置くと、
「兎たちが世話してくれるからね。友達もいるし」
(そういう問題じゃないんだけど・・・)
「でも、ぼくは・・・」
続けようとするぼくを遮るてゐさん。
「それは仕方が無いよ。お互い時間がいつもとれるわけじゃないでしょ?」
「そうだけどさ・・・」
「じゃあ何、毎日でも会いたい?」
そんな冷徹な声色を聴くのははじめてだった。
「毎日会ったら飽きると思うんだけど」
「・・・・」
(なんでこんなに冷たくなったんだろう。さっきまではあんなに・・・、それまで、今までこういう・・・)
「てゐさん、」
「お互いを縛り付けるのはよくないと思う」
ぼくは、ぎり、と歯をかみ締める。
「だって考えてもみてよ。あたしは永遠亭まわりの雑魚妖怪退治で忙しいし、あなたは現実世界で仕事に追われてる」
「・・・・・」
「これくらいがちょうどいいのよ」
視線を意図的に避けている彼女。ぼくはわざとおどけて、
「ちょうどいいって・・・どうして? 久しぶりに会えてうれしいな~、とか、もうずっと離さないわ~、とか言っても、」
「そんなクサいセリフとか態度、」
ぼくの中の何かがふっきれた。
「ちょっとまってよてゐさん。ぼくの・・・ぼくの気持ちだって、」
再び団子を舐め始めたてゐさんは、こちらを見ようともせず、
「スキスキ~、ってなったら負けよ」
「えっ」
「ほどほどが一番ってこと」
「そうだけど・・・そんな風に、言わなくてもいいだろ」
ぼくはてゐさんを見る。だが彼女の視線は、依然として円い星に注がれていて・・・
「てゐさん! ぼく、もう帰るよ。こんな会話しに来たんじゃない」
立ち上がりかけると、すっ、と彼女がぼくを横目で見るのがわかった。
(やっと見てくれた)
その唇の端が、ゆっくりと悪戯っぽくゆがむ。あの懐かしい、いつもの、かわいらしいイタズラっ娘の顔だ。
「ふふ、必死なところ、かわいいんだぁ」
ぼくは半泣きになりながら、
「ひどいよ、てゐさん・・・!」
彼女は見た目はちょっと年下とはいえ、やはり「おばさん」である。頭が上がるはずもない。
「ちょっと女王様が過ぎたかな」
声の調子も普段のそれを取り戻した。痒い所をさらにこしょこしょとこそばすような、甘酢っぱい色だ。
「女王様プレイにしては、ちょっとセリフが生々しすぎたと思います」
てゐさんは舌をちろりと出し、
「てへっ、ごめんね」
「てゐさんのイタズラ好きには困るなぁ」
月明かりが、彼女の無垢な(?)笑顔を照らしている。
「でも、そういうところがぼくは・・・」
言って、彼女の僕を見つめる瞳の様子がちょっと変なことに気づいた。
「てゐさん・・・?」
潤んだ目で僕を見つめる因幡さん。ぼくが何かを言おうとすると、かがむようにしてひざに飛び込んできた。
「てゐさん?!」
「ホントは・・・いつだって会いたいの!」
長い耳をそっとなでてあげる。ヴェルヴェット調のステキな肌触り。これにどれほど長い間、触れてなかっただろう・・・・
「ぼくだって、」
「あなたは何もわかってない」
ぼくの両膝に手をついて顔を上げ、
「あなたに会ってから四年・・・あたし、ずっと同じでしょ? 年とってないように見えるでしょ?」
「・・・」
「でも、あなたはどんどん死に近づく。いずれ、あなたは・・・・あたしは、」
ぼくはもう、彼女にそれを言わせたくなかった。
「てゐさん」
彼女の頬を両手で包む。
「あたしは、あなたを失いたく・・・」
「てゐ」
彼女の唇の甘さ・・・その切なさは、あまりに残酷で。
9スレ目>>27
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漆黒の空の下、瑠璃色の浴衣姿のてゐさんの肩を抱き、闇を刹那に照らす華を見上げる。
「やっぱり幻想郷一といわれる玉家さんのは、最高だね」
と、ぼく。
「うん」
と、てゐさん。目の前でかわいらしくあわせている手の薬指には、白銀の指輪。
「うん」
ぼくは彼女の腰に回した腕をもっとひきよせて、
「てゐ」
「なぁに?」
とどろく花火の音。それは、はじめて聴くのに懐かしいような音。
「ぼくは、てゐさんが、」
やがて向かい合う顔と顔 --- 近づく顔、閉じられる目。
瞼の裏に、光り輝く一時の陽が映った。
てゐさんに唇を重ねたぼくが思い出すのは、一週間前の出来事。
夏の暑い夜。ぼくとてゐさんは手をとりあい、半年ぶりに竹林を散策していた。
「ねぇ・・・・・あなた、変わったよね」
「どこが? 普通だよ」
だが、ぼくの心境は普通どころではなかった。
真夜中に次から次へとかかってくるクライアントからの電話。
親しくしていた健太の交通事故死。
持病の悪化によって諦めた、大好きな趣味。
こんな状況で幻想郷に来た所で、ぼくは癒されるのだろうか。
今日来たのは、「いつもの」来訪ではない。
てゐさんとの最後のデート以来、八雲さんはそれこそ毎日のように僕を幻想郷に誘っていたが、
僕は避けるようにしてその申し出を断ってきたのだ。
(色々立て続けて起こりすぎたから。・・・・・でも、それだけが理由?)
てゐさんのことは忘れることはできなかった。でも、会っても何をしていいのかわからない。
何を告げるべきか、彼女の想いにどう答えてあげるべきか。
忙しさとあいまって、会うことを避けてきた。
そんなある日のこと。現れた八雲さんはいつものように、
「・・・今日こそ、行ってもいいんじゃない?」
ぼくは今見ていたTVを消した。
「もちろん、イヤならいいんだけど?」
思い出すてゐさんの微笑。
意を決したぼくは、開かれたスキマから幻想郷へと足を踏み出す。
どれだけ二人の沈黙が続いただろうか。
永遠亭に到着して彼女の顔を見てから、交わした会話は「散歩しようか」「うん」という二言だけ。
静けさの中、てゐさんの丸い声がぼくに届く。
「・・・・・あたしに会いにきてくれたんだよね?」
「うん。」(本当は、どうしようか)「そうだよ、」(迷い続けてた)「会いたかったから」
「・・・・・気遣ってくれてるの?」
「・・・・・・」
「時間がないとか・・・疲れてるのならわかる。それに」
彼女のつぶらな瞳。
「精神的に余裕がないなら、無理しなくてもいいんだよ?」
ウソつきのプロだからこそできること・・・・それは、他人を見抜くということ。
(ぼくはなぜここに来ているのだろうか。ぼくの本当の気持ちは・・・)
「あたしはあなたのことが好きだし、お互いのことを想ってるならそれで、」
ぼくは遮るようにぼそりと、
「遠距離・・・」
「?」
「遠すぎるよ。やっぱり、無理なんじゃないかな? ぼくたち」
てゐさんの足がとまる。彼女は地面をにらみつけ、
「・・・・・それが理由? じゃあ、どうして来たの」
そこではじめててゐさんの語調が強まった。
「そんなことを言いに来たの」
「・・・・・・」
「それなら・・・・・いっそのこと、もうこなけりゃよかったのに」
ぼくはてゐさんの目を見ようとするけど、彼女の視線は固定されたままだ。
「そんなんじゃないんだ」
「だったらどんなの? ねぇ?」
懇願するような目つきでぼくを見やる彼女。
はるかに年上の、でもぼくより少し背の低い、すてきな女性。
そのひとは、ゆっくりと確認するように言葉を紡ぎはじめた。
「・・・・もう逢いたくないの、かな」
「・・・・・」
「・・・・・・あたしは所詮、幻なの、かな」
「・・・・・・・・・」
「あなたに逢えなくなるなんて・・・さみしいな」
ぼくは口をこじあけるようにして、
「だから、最近忙しいんだ。もう来れない。じゃなくて、」
強い言い方になるぼく。
「来てるヒマがないんだ。来たくないとかじゃないんだけど、」
(ほんとは、どうしていいかわからない)
てゐさんの僕の手を握る力が強まり、はっとした表情で、
「来たく・・・ないの?」
心の奥底を見透かすような彼女の眼。
「ね・・・・来たく、ないの?」
泣きそうに声が上擦っている。
「ね? あたしに・・・・・もう、逢いたくないの? 逢ってもどうしていいか、わからないの?」
「・・・・」
「あたしは、あなたのものなの。何をしてもいいの」
「・・・」
「でも、逢えなくなるのは・・・・」
ぼくは目線を引き剥がす。見る方向を変えるのに、こんなに力が必要だっただろうか。
「あなたの終わりは・・・あたしの終わりよりも、早くくる」
また、それか。もう聞きたくない。だからぼくは、意識して、わざと嫌味にこう言う。
「時間軸の違い? しつこいよ。てゐさん」
(・・・・酷いことを言った)
視線の片隅で彼女が哀しく微笑むのが見えた。
「あなたにはよく分からないかもしれないけど・・・ここは、幻想の郷。
外界のあなたたちにとっては夢と幻の世界。
でも・・・・・あたしにとっては、ここは紛れも無い現実なの。『幻』という現実なの、」
ぼくは、ぎりっ、と歯を食いしばる。
「あなたが好きだっていう、この想いも」
「・・・・・」
「・・・・だから、今だからこそ、伝えたいことがあるの。あなたがもう来なくなってしまう前に。
あたしとの出逢いも、二人の思い出も・・・あなたにとっての幻となって・・・消えてしまう前に」
「・・・・・」
突き刺さるような彼女のまなざし。
「どうしてあたしを見てくれないの?」
「・・・・・」
やさしく、
「あたしを見て」
「・・・・幻想の世界の住人に惚れた俺が、間違いだったのかもな」
言ってしまったあとで、ぼくははっとして視線を泳がせる。
ながながとした沈黙が横たわり。
暫くすると彼女は、ぼくの名を、いたわるように、包み込むように、ゆっくりと二度呼んだ。
耐え切れなくなったぼくは、ついにてゐさんの顔を見る。
その、細められた眼からは、大粒の涙が溢れ出ていた。
「帰っちゃう前に言わせて。またここに来るときがあったら、そのときは・・・・・ううん、
あなたはもう来たくないのかもしれない。でも、これだけは言っておきたいの。
この想いは、真実だと思うから」
言うとてゐさんは、ぼくの背中に手をまわし、ぎゅっと抱きしめてくる。ほんのり苦しいほどだ。
そして耳に届いた、その言葉。
「返事をしてくれなくてもいい。頷いてくれなくてもいい。・・・・・・・・・あたしを、」
「あなたのお嫁さんに、してくれないかな?」
うpろだ318
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まだ明るい日中、長い木の廊下を暗い顔して歩く影があった。
「あ~胃が痛え」
のそりのそりと、足を引き摺るように歩くその影は、腹を擦りながら漫然と天井を眺めていた。
「直に昼か。でもなんも食いたくねえなあ」
「そんなあなたに永琳印のこのお薬!」
テンション高く、どこともなしに永遠亭の薬師が現れる。
何時もどこにいるのだろうかと、影は会うたびに思うがいつも考えるのをやめてしまう。
どの道考えたところで答など出はしないし、考える意味も無いからだ。
「大丈夫。変な成分なんて入ってないから安心よ」
聞いてもいないことを喋りたてるが、肝心なことを話さない。
「……永琳さん、それ何の薬なんですか?」
「……1回3錠とりあえず飲んでみて頂戴」
「はぐらかさんで何の薬か教えてくださいよ!」
「いいからいいから、永琳を信じて」
手に持った薬を口元に押し付けながらにこやかに、かつ強引に飲ませようとしてくる。
「得体の知れん薬なんぞ飲めるか!」
そう言いながら抵抗するが、いかんせん胃が悪く物も碌に食えない体で、
健康体に勝てるはずも無く、徐々に押されていた。
「なあにお薬を飲むのが怖いの? なら飲ませてあげようか、口移しで」
「いらね~」
右手で器用に両腕をまとめ、永琳が薬と水(どこかから出した)を口に含む。
ところでゆっくりと水を溢しながら体を傾けていった。
「危なかったね」
倒れ伏す永琳の後ろから、大きな杵を持ったウサ耳少女が現れた。
「全くだ」
言いながら、そちらに近づく。
「大分手荒いけど、なんにせよ助かったよ」
「そう思うなら」
少女は手を後ろに回し、ごそごそと何かを探っている。
「あれ。あれれ」
が、どうにも探し物は見つからないようだ。
「ありゃ、賽銭箱を忘れちゃったみたい」
「それは残念。それじゃ……」
「まあ、なら私の部屋までおいでよ」
言って、服の裾を掴んで引っ張る少女。
助けられた手前抵抗する気もせず、部屋に連れ去られた。
障子を開けてはいれば、そこは存外多くの物であふれていた。
しかしあるのは幸せになれる壷やら霊験あらたかな塩やら、およそ胡散臭いものばかりである。
「座りなよ」
そう言って座布団を差し出してくる。さて座っていいものか逡巡していると、無料だから、と声が掛かった。
躊躇っていたのはそんな理由ではないんだが、と思いながらも腰を下ろした。
「はい賽銭箱」
数分後にどこかから賽銭箱を堀り出してきて、言ってくる。
「十円でも百円でも好きな額を入れてね」
「そうは言うが今手持ちは無いぞ」
それを聞いた兎はショックを受けたそぶりをし、そのままよよと泣き崩れる仕草をした。
「いや、そんなことしても無いものは無いから」
そもそも俺には給料なんて出ない。学生だからむしろ払う方だ。
「しょーがないなー」
けろっとした顔で言ってくる詐欺兎。本当に食えん奴だ。
「じゃあちょっと頼み事聞いてくれる?」
なぜ俺はこんなところで座椅子の代わりをやっているのだろう。
それは借金の形だ。俺は震える胴を腕で差し押さえている。
この間背もたれのある椅子が壊れちゃって、と言っていたが、プラじゃ無くて木ならすぐに直せるじゃないか。
「直そうと思って外に出していたら、いつの間にかなくなってて」
燃やしちゃったかもしれない。黙っとこ。
今てゐは膝の上で心理学の本を読んでいる。大方また何か詐欺にでも使うのだろう。
人間の心理学が妖怪相手に通じるのかは甚だ疑問であるが、読まないよりはマシか。
しかし目の前にウサ耳があるとこそばゆくてしょうがない。いっそ噛み付いてしまおうか。
それも面白いかもしれない。いや、耳の付け根を押してみるか。
普段髪に隠れている、人間なら耳のある位置に外耳はあるのか、それを確かめるのもいいだろう。
「ねえ」
てゐの頭に顎を近づけたあたりで声が掛かる。
「さっきなんでお師匠様に絡まれてたの?」
「うん? 胃が痛いってぼやいてたらどこかから出てきたんだよ」
声に変化は無い。これならばれていないはずだ。ミッション第2フェーズに入る。
ゆっくり上体を起こし重心を移動させる、と同時に右腕を床から離し自由にする。
膝上のてゐが肩を揺さぶるような素振りを見せたため体を動かすのを一旦停止し、右腕を背側の床に着地させる。
腕に力を込め体の位置を戻してやり、また右腕を解放する。
てゐはまた本に目を移しており、こちらに注意している感は無い。ミッション最終フェーズへの移行を承認する。
しかし、すぐに動いては拙いことになるだろう。ここは幾らか慎重になるべきか。
「ねえ、さっきからどうしたの」
! 感づかれた!
「いや、なんでもないよ」
そう言いながら極自然に右手を、てゐの右側頭部にかけそのまま髪をかき上げる。
事前に感づかれることを想定しておいて良かった。我ながら自然な仕上がりだ。
「うひゃあ」
存外かわいい悲鳴を上げるてゐ。ついでにウサ耳の付け根にも触っておく。
「なにするの」
「いや、ここに耳は付いているのかと思って」
むっとした表情をするてゐにしれっと答える。
「もーせっかく胃痛を治してあげようと思ったのに」
「無理だろ。永琳さんでもすぐには治せないんだから」
裏を返せば時間をかければ治るという事である。重症でないのだからゆっくり、他の臓器に負担を掛けない様にした方がいい。
「大丈夫、この液を飲めば。さあ口を大きく開けて」
何処より取り出だしましたるは青い液体、別名ポーション(旧)。死ねる。
「それはやばい。それはやばいからしまおうよ」
「大丈夫一日三回一週間飲んでれば治るよ。サービスで飲ませてあげるから」
「サービスって。無理だから青色一号は見た目にもきついから」
「平気だよ。私が飲ませてあげれば運良く治るよ」
「運良くとかそう言う不確定要素はやめようよ。特に医療で」
「薬飲むのが怖いの? なら口移しで飲ませてあげるよ」
「さっきの永琳さんと同じ事言ってるじゃないか!」
膝上で反転してこちらに向き直り言うてゐ。
その瞳に思わず俺はてゐの頭をそっと胸に抱くと、フェイスロックを決めてしまいそうになる。
「さあいってみようか」
そう思っている間にもポーションは俺の頬にピタピタとくっつけられる。
覚悟を決めた俺はてゐの頭に掛けていた手を解き、そのまま腕を下に持って行きまた力を加える。
すなわちてゐの体をかかえる様にして言った。
「口移し……できるものならやってみろ!」
そのときのてゐの表情の変化は随分と見物であった。
目を見開き口をぽかんとさせたかと思うと、すぐに目線を横にやり、顔を赤くした。
また数回体を振って逃げようとしていたが、廻した腕が多少緩んだだけで徒労に終わった。
「このままじゃ届かないよ」
幾らか後にてゐが言ってくる。こちらの胸に頭が当たる程度なのだから、そうだろう。
おどけた調子で腕をほどき解放するや否や、てゐが立ち上がる。
負けじとこちらも立ち上がる。すぐに座る。
「どうしたの?」
怪訝な顔をして見つめるてゐ。
「足が痺れた……」
子供程度の体重でも四半時程膝上に乗せていればこうもなるだろう。
「ということは……」
詐欺師が笑う。どうにも嫌な予感のするので、痛むが正座してすぐに膝で立てるようにはしておく。
「今ならやり放題?」
予感的中。
頬にぐいぐいとポーションの壜を押し付け、やれ飲めと催促してくるてゐ。
覚悟を決めて息を大きく吸い込み、その青い液体を一時に飲み下すと、喜ぶてゐの唇に口をつけ含んだ液体を流し込もうとする。
てゐも初め口を開けずにいたが、やがては口を開き液を受け入れた。
しかし双方嚥下することは無く、液は二者の間を行ったり来たりすることになる。そこに、
「ちょっとてゐ!」
機械仕掛けの神は何処かで見ていたか、スパーンと勢い良く障子戸が開かれ永琳が入ってくる。
それに驚き、双方共に口の中の液体を勢い良く噴出する。
「え、なにどうしたのかしら?」
突然のことに流石に戸惑う天才。
「いえ、何でも無いです」
咳き込みながら返す。
「それでお師匠様、ご用は何でしょう」
てゐも答える。
「あー、いえとりあえずこの子持って行くわね」
歯切れの悪い返事をしながら、俺の襟首をむんずと掴む永琳。
「さあ、さっきの薬飲んでもらいましょうか」
どうやら諦めていなかったらしい永琳は俺も捜していたらしい。
てゐに杵でどつかれたことは後で起こる腹積もりなんだろうか。
いってらっしゃい、とでも言うように暢気に手を振るてゐ。
「あ、そうだ」
俺が引き摺られていく最中、唐突に声が掛かる。
「一日三回だからまた後で来てね」
にこやかに言ってくるてゐ。
その笑顔に俺は今度は葛湯を持って来ようと決心した。
10スレ目>>389
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「口下手なんで一言だけ、好きだてゐ」
7スレ目896
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「てゐ!俺はロ○コンでも良い!俺はお前のその毒気に惚れたんだ!」
8スレ目 >>403
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「なあ鈴仙、俺てゐに嫌われてるのかなぁ」
「え?なんで?」
「バレンタインにチョコくれたんだけど、『わさび仕込んだろ?』って言ったら図星だったのか怒っちゃってなぁ」
「ひょっとして、まだソレ食べてないでしょ?」
「当たり前だろ?わさび入りと解ったら食わないよ。
その外にも、『〇〇、本当は好きなの』と言ってきたから『はっはっは。金目当てなら他をあたってくれ』って返したよ」
「…………それって、てゐが一ヵ月帰ってこなかった前日じゃない?」
「そうだよ? きっと急にまとまった金が必要だっだんだろうなぁ……金策に一ヵ月もかかるなんて」
「てゐを泣かせてる自覚ある?」
「あぁ、もちろん。
俺はてゐの嘘を見破るスペシャリストだからな。天敵として見られてるんだよ
でも、俺としては嫌われたくないんだよなぁ」
「ちょっと彼岸で裁判長に、乙女心を傷つけまくった罪を裁いてもらったほうがいいわよ」
10スレ目>>56
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やけに広く感じられる四畳半のド真中、俺は床に伏していた。
「…ああ、こんな事ならもっと友人作っておけばよかった。誰か見舞いに来ても良さそうなものの、朝から誰一人来やしねえ」
寂しさの余り切ないことを口走った途端、タイミングを見計らったように戸があいた。
「邪魔するよ」
黒髪、クセっ毛、そして兎の耳──
こういう時には来なくていいタイプの人(?)が来た。
「そういうのは口に出して言うものじゃないね。はい、薬」
そう言うとてゐは、タンスの上に薬の壜を置く。
俺は重い頭をゆっくり持ち上げ、タンスの薬を取って蓋を開けた。
「ツッコむ気力もねーよ。…これ、八意さんとこの?」
薬を手にとってふと、張ってあるラベルがなにやらおかしい事に気づいた。
よく分からない文字が並び、大きな髑髏が書かれている。
「そう。どんなしぶとい人間も、それ一錠でイチコロだって」
適量が分からなかったのでとりあえず一錠出し、ふらふらと台所で水を注いで一気に飲む。
しばらくしても死ななかったのでとりあえず安心だ。
「…ありがと。正直、まさかお前が見舞いに来るとは思わなかったよ」
その言葉を聞いて彼女は笑顔を浮かべ、
「賢い将は、敵が弱りに弱りきったところを討ち取るものなの」
と、言ってのけた。
「…の割には、毒薬もただの風邪薬。ま、これがてゐなりの見舞いって事かな」
「ね、確か戸棚に人参あったでしょ。食っていい?」
聞いてねえ。
「駄目。それは今度野菜炒めにしようと──」
「そっか、それじゃ仕方ないよね」
と言いつつ戸棚に顔を突っ込むてゐ。
「…聞けよ、人の話」
いや、聞いたからこうなったのか。
その後はしばらく、人参を齧るてゐとの他愛ない会話になった。
ってか、てゐが帰らないようにと戸棚にダンボール三つ分の人参貯めといた俺も俺だ。
「…なあ、てゐ」
「何?」
「お前、俺のこと嫌いだろ」
「うん。考えるとさぶいぼ立つ。話してると吐き気もする」
「俺が風邪ひいたって知ったとき、どう思った?」
「んー…一番最初、「よっしゃ!」って思った。すぐに「殺るなら今だ!」と考えた」
「…この薬は?」
「「○○を毒殺したい」って永琳さまに言ったら、結構反対された。けど説得してもらってきた」
「………じゃあ、最後。お前は嘘つきか?」
「何言ってるの?私、嘘なんかついた事もないよ?」
「……あ、そ」
セリフが流石に恥ずかしかったのか、てゐの頬が染まり始めていた。
「ああもう、ホント素直で可愛いなあお前は」
なんかが限界に達した俺は、半ば強引にてゐを布団の中に抱き寄せた。
てゐの方も抵抗せず、むしろ体を預けるように擦り寄ってくる。
「○○………ん…大好き」
ふと、ものすごく小さな声で放たれた、てゐの本心。
本来なら喜ぶべきその言葉を聞いたとき、ほんの一瞬ギョッとした。
この日の風邪は病気だったようだ。俺は既に「因幡病 末期」にかかっていた。
※因幡病…他人の言動の意味をすべて逆にとらえてしまう病気。
薬についてのてゐのセリフから、風邪薬を欲しがるてゐと○○にあげるのかと冷やかす永琳、
そして必死に否定するてゐが見えたら貴方はもう末期。
>>うpろだ1039
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紫の企画した神無月旅行、多くの少女達が、パートナーと共に、外の世界を満喫している。
そしてそのうちの一組が、海へ向けて走っていた。
ーー鳥取県、砂丘
「おーい○○、早く早くー」
「ま、まってくださいよてゐさん・・・・・・」
「なさけないぞー、男の子でしょ?」
「荷物全部背負わせて・・・・・・それはないでしょう・・・・・・?」
ここに居る少女は、永遠亭の兎、因幡てゐ。トレードマークの耳こそ、優曇華が弄って、
見えないようにしているものの、その特徴的なウェーブの髪と、同伴者をおもちゃのように扱うその性格は、
知る人が見ればすぐに彼女だとわかるだろう。
「ぜい・・・・・・・ぜい・・・・・・」
「やれやれ、ま、とりあえず休憩っと」
「は・・・・・・はひ・・・・・・」
息も絶え絶えで、ようやく男は、てゐに追いつく。そこは海を一望できる、見晴らしのいい丘だった。
もう秋も深いというのに、ダラダラ汗を流しながら、男は座り込み、荷物の中にあった水筒から、水分を補給している。
「まったく・・・・・・一体どうしたんですか? 鳥取に行きたいなんて」
「ちょっと思うところがあってね~」
「・・・・・・砂丘にいたずら書きは駄目ですよ?」
「しないわよ、もう~。私が来たのは、もっと高尚な目的のためよ!」
「てゐさんが・・・・・・高尚ですか・・・・・・?」
「あーもう、五月蝿いな~。黙ってついてくる! ほら、次はあっち行くよ!」
「ちょ・・・・・・まって・・・・・・せめてもう少し・・・・・・」
男の懇願には耳を貸さず、てゐは何かを探すように走り出す。男は、悲鳴をあげる体に鞭打ち、
必死でそれについていった・・・・・・
ーー数時間後
「・・・・・・死ぬ・・・・・・」
日も暮れかけたころ、ようやくてゐは走り回るのをやめて砂丘に座りこみ、○○は、砂丘に突っ伏していた。
それでもとりあえず、てゐに抗議の声を上げる。
「まったく・・・・・・一体・・・・・・何だって・・・・・・?」
だがその声は途中で止まることになった。てゐが、それまで見たことの無いような、どこか寂しげな表情を浮かべていたのに
気付いたからだった。
「・・・・・・どうしたんですか?」
「なんでもない・・・・・・」
「そうは見えませんが・・・・・・」
「なんでもないよ・・・・・・ただ、昔をね・・・・・・」
「思い出したんですか?」
「逆・・・・・・思い出せないのよ」
「・・・・・・?」
起き上がり、てゐの横に座る。やがててゐは、自分の過去について、ポツポツと、語り始めた。
「因幡の白兎、ってさ、知ってる?」
「ええ、島から、鮫を騙して海を渡ろうとして・・・・・・」
「そう。それね、私のことなんだ」
「・・・・・・そうだったんですか」
「あの時は、ひどい目にあったわ~、服は剥れるし、神には騙されて大怪我するし」
「はあ・・・・・・しっかり覚えてるんじゃないですか」
「最後まで聞け。でね、あの時、私が渡ろうとしたのが、因幡の国・・・・・・丁度、この辺りなのよ」
「へえぇ・・・・・・ですが、何故その・・・・・・あんまりいい思い出のない土地に?」
「・・・・・・故郷」
「故郷?」
「そう、あんたが時々、自分の故郷の話してて、それで、自分の故郷はどんなとこだったっけなって思って・・・・・・
でも、思い出せなくてね。ここに来れば、何か思い出せるかなって思ったんだ。どんな景色だったとか、
家族や仲間はどれだけ居たとか、楽しかったこととか、辛かったこととか、色々話そうと思ったんだけど・・・・・・思い出せないの」
「何も、思い出せないんですか?」
「淤岐島って所から、渡ろうとしたのは覚えてるんだ。けど、その前辺りからが、全然・・・・・・もう千年以上も前の話だから、仕方ないのかもしれないけどね」
「てゐさん・・・・・・」
「・・・・・・いつかさ、○○が死んじゃって、ずっと、ずうっと経ったらさ・・・・・・こんなふうに○○のことも、忘れちゃうのかな・・・・・・」
「・・・・・・」
「こうやって、景色を見ても思い出せないみたいに・・・・・・○○の写真とか見ても・・・・・・誰だっけて・・・・・・
思っちゃったりして・・・・・・こうやって話したりしてるのも・・・・・・全部・・・・・・」
てゐの声が、少しずつ涙混じりになってくる。長く生きる妖怪には、人間には思いもつかないような、悩みがあるのだろう。
てゐが泣くこと自体は、本人の嘘泣きやら何やらで、よく見ているが・・・・・・こうやって、感情を吐露するような泣き方は、初めてかもしれない。
「てゐさん・・・・・・」
「何・・・・・・?」
「その・・・・・・上手く言えませんが・・・・・・私は人間で、てゐさんは妖怪。そこにある隔たりは、大きいと思います」
「・・・・・・」
「けど、その・・・・・・てゐさんに取っては、悪い思い出でしょうが・・・・・・鰐との話や、大国主神との話は、覚えているのでしょう?」
「うん・・・・・・」
「だったら、私もそれと同じようになります。千年、万年経っても忘れないような、思い出に・・・・・・それも、最高にいい思い出に」
「○○・・・・・・」
「だからその・・・・・・ええと・・・・・・」
「・・・・・・口説き文句くらい、最後まで考えておきなさいよね」
「あ、あはは・・・・・・」
「でも・・・・・・気持ちは伝わった。ありがと・・・・・・」
「・・・・・・はい」
「・・・・・・目ぇ、閉じて?」
「・・・・・・」
言われるまま、○○は目を閉じる。そして、その口に・・・・・・
ジャリッとした食感が飛び込んできた。
「ぶっ!?」
「やーい! 引っかかった引っかかった!」
「このタイミングでこう来ますか!?」
砂団子をかまされ、うろたえる○○と、してやったりという表情で笑うてゐ。そこには先ほどまでの泣き顔は無かった。
「騙される方が悪いのよ! 悔しかったらつかまえてみなさい~」
「こ、この・・・・・・!」
言うと同時に、てゐは自分の荷物を抱え、走り出す。それを追い、○○もまた砂丘を走る。
「まったく! いつになったらその悪戯癖は治るんですか!?」
「一生治らないよ! ずっと付き合ってもらうからね!」
「ああもう、困った兎ですよ、本当に!」
「引っかかった時の間抜け面、、全部覚えておいてやるからね! 覚悟しときなさい!」
夜の迫る砂丘に、二人の声が響く。その声は二つとも、とても楽しげだった。
新ろだ57
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それは幻想の中であった昔話。
昔々ある所に、お爺さんとお婆さんはいませんでした。
代わりになんとも形容しがたい一人の青年がいます、真に残念ながら少女ではありません。
そんな彼は樵を生業として暮らしながら、人里を転々としていました。
「何処だ!? 何処に俺の運命の人がいるんだ!? 」
人里を転々とする樵の青年は、まだ会えぬ運命の人を探して転々としていたのです。
少し夢見がちな青年(年齢不詳)でしたが、樵としての腕は確かでしたので何とか生活していました。
人里から人里へと移る際に妖怪に襲われもしましたが、凶悪なまでの願望が彼を生かします。
「運命の人に会える前に食われてたまるか! むしろ食う! 」
斧を血だらけになりながら振り回すその様は、妖怪も裸足で逃げ出すほどの恐ろしさ。
素晴らしい樵としての腕前でした。
そんな素晴らしい腕前の樵が、近々村総出の土木作業をするとの事で、とある人里に来てくれと請われた時の事です。
樵の青年は、普通の樵で普通の人間だったので勿論空を飛ぶことは出来ません。
なので移動は徒歩、時々川を泳いだりもしますが基本的に愛用の斧(銘:キッコリー)を背負って歩きます。
春になり花粉症気味な青年がとある店で買った防粉マスクを付けて歩く様は、まるで新種の妖怪のようでした。
とにかく歩いて移動する青年が、途中の竹林で真っ直ぐ歩いていた筈なのに道に迷った頃、一匹の兎を見つけました。
長い耳と紅い眼の、兎の妖怪を見つけました。
実はその妖怪兎、因幡てゐと言う名前の『人間を幸運にする程度の能力』を持つ妖怪なので、それを見つけた青年はその幸運で竹林から出れる以上の幸運を授かります。
けれど、迷っている間は『早く此処から抜け出したいい』と考えていた青年は妖怪兎を見た途端に思考は別のベクトルに駆け抜けました。
「ちょっとそこ行くお嬢さん! 君はもしすると俺の運命の兎!? 」
ナンパし始める青年は、驚いて逃げる妖怪兎を『残念』だと思います。
そして幸運発動、何故か飛び出ている筍に妖怪兎が転んだのです。
「く、黒!? 」
何かを見た青年は驚きのあまり叫ばずにはいられませんでした、いわゆる外面と内面の違いに重度の精神的衝撃を受けたのです。
そして、その後樵の姿を見たものは居ない。
5スレ目>>497
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てゐが騙すことに罪悪感を持ちかねない勢いで心底尽くしてあげたい。
6スレ目>>406
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“クリスマスは大切な人と――” 作:眼帯兎 【http://arukadesu.hp.infoseek.co.jp/】
◆
空は凍ったように薄暗く、冷たかった。
それでも、幻想郷に住む人々に、不満の色はない。
もちろん、四季として受け止めていることもあっただろう。
死と隣り合わせの人間にとって、冬は畏怖の対象だが嫌がるものではない。
しかし、所々で楽しげな雰囲気の笑い声が聞こえるのは、少々変わっているのかもしれない。
冬を待ちわびた氷の妖精や、冬の季節妖怪でもなければ、厳しい寒さを喜ぶ者はそうは居ないだろう。
それでは何故、こんなにも嬉々とした空気が漂っているのか。理由は明確だった。
雪も近くなってきた空の下、幻想郷はクリスマスムードに包まれていたのである。
「明日はクリスマスイヴか」
そして、竹林の中の拓けた草原に、背を合わせて座る二つの影にとっても、例外ではない。
「てゐは何がほしい?」
俺は振向くこともなく、背後に座る因幡てゐへと声を掛ける。
僅かに背の影が揺れた、恐らくは、何か考えているのだろう。
「なんでもいいよ。私が喜ぶものなら、ね」
三つほど数えられる間を置いて、てゐはそう口にした。
大層意地の悪い笑みを浮かべているのだろうと、顔を見なくても分かった。
素直に悩んで、喜ばせてみろということなのだろう。
「それじゃあ、俺が一緒に居るってのがプレゼントで」
「それもいいけど、ちゃんと物もちょうだいね?」
自惚れと思いつつも、そんなことを呟くと、予想通りやんわりと却下される。
「……俺の前で、猫を被る必要も無いんじゃないか?」
「そう、それじゃあ……自惚れるんじゃないわよ」
率直な返答が返ってきた。
きっと最高の笑顔で言っているのだろう、分かっていながらも、少し気が滅入った。
「まぁいいや、頑張ってみるよ」
「……うん、楽しみにしてる」
「じゃあ、また明日な」
立ち上がると同時、背の温もりが寒空の下、霧散していく。
同時に感じた喪失感は、いつになっても堪えがたい。
これも、惚れた弱みと言うものだろうか。
最後にと振り返ってみたが、てゐはもう背を向けて帰路へと着いている。
俺は溜息を一つ吐いて、小さく手を振ってから帰路へと急ぐ。
妖怪と逢瀬していると知れたら、里にも居られなくなってしまうのだから。
◆
俺はとある商人の下働きとして日々を生きている。
店の番や配達などの雑用が主な仕事だ。
クリスマスと言うことで、店には普段よりも客が多い。
恐らくは、大切な人への贈り物なのだろう。店主が買い集めてきた雑貨が飛ぶように売れていく。
「え、真夜中まで、ですか?」
「あぁ、予想以上に冬の蓄えが少ないんだ……すまないが今日のうちに稼がないと……」
「いえ……わかりました」
そのせいか、日の沈む頃には終わる予定の店番も、急遽延長されることになってしまった。
てゐとの約束は、日の沈んだ頃だ。
店主にも待ち合わせがあると事前に伝えてはいたが、冬の蓄えは出来るときにしなければならない。
逢瀬と蓄え、下働きの俺に、選べる選択肢は無かった。
俺は店主に一言断って、待ち合わせ場所である広場に包まれたプレゼントを置いた。
書置きとして、来られなくなったことを書いたが、首を振って握り締めてしまった。
何となく滑稽に思えたのだ、待っても居ないのに、そうすることが。
明日は店主も店を休む。てゐも、プレゼントさえあれば、納得するだろう。
手紙を握り締めたまま、俺は店への帰路を急いだ。
◆
日が落ちていく、紅く染まった空が妙に眩しかった。
熱心に洒落た装飾に見入る客へと言葉を交わしつつも、考えるのはてゐのことばかりだった。
そろそろ、待ち合わせの時間だ。妙に時間に拘るてゐは、店主の気紛れで上がりが変わる俺よりも早く待っている。
今日も、待っていてくれるのだろうか。
首を振って、自惚れた妄想を掻き消していく。
悲しいことに、てゐにとって、俺はそこまでの奴じゃ無い。
「これ、包んでくださる?」
綺麗な声に意識が引き戻される。
目の前に居るのは装飾品に見入っていた、お得意様のメイドだ。
紅い夕焼けに映える銀髪、従事服でなければ、更に美人に思えただろう。
しかし、何故か彼女にはメイド服が一番似合っているように思えた。
本職のメイドとは、そういうものなのかもしれない。
「贈り物でしたら、このカードもいかがですか?」
「え、ええ……そうね」
送る相手は誰なのか、美女だからだろう、何となく気になって覗き込んでしまう。
宛名は、美鈴。恐らくは女性の名前だろう。
「御友人に、ですか?」
「そ、そうね」
顔を上げたメイドさんの顔は、戸惑いを残した笑顔だった。
そこに朱が混じって見えたのは、はたして夕焼けのせいなのだろうか。
◆
日は暮れて、里には夜が昇っていく。
遠くに見える山の竹林は、もはや暗くて見えない。
てゐはどう思っているだろうか、プレゼントは、喜んでくれただろうか。
明日になれば、またあの笑顔を見られるのだろうか。
衰えない客足に汗を流しながらも、気づけば彼女のことばかり考えている。
本当に、俺はてゐに惚れこんでいるのだった。
「……○○」
呆然としていた意識を、またも客の声に引き戻される。
しっかりしなくてはと思いながらも、何か、違和感を覚えた。
目の前には帽子を深く被った少女が立っている。
今、この子は俺の名前を呼ばなかっただろうか。
忘れもしない、忘れられるわけもない、聞き覚えのある声で。
「……ばか」
帽子が少しだけ上げられる。
影から出てきたのは、涙の浮んだ綺麗な瞳。
愛しい兎の、可愛らしい顔だった。
「てゐ? なんで、ここに」
「なんでじゃないわよ……ばかぁ」
声が震えている、大粒の涙が、綺麗な白い肌を伝っていく。
何故、この子は泣いているのだろう。
俺は慌てて店から飛び出すと、てゐの元へ駆け出した。
幸い、客足も途絶えた頃だった、てゐもそれを見計らって来たのだろう。
「ごめん、冬の蓄えの為にも、店を抜けられなかった」
「……なんで、書置きもなにもないのよ。これだけ置いて行かれたら、嫌われたのかって、会いたくなくなったのかって……!」
胸に抱かれた包み紙は、渇きかけた涙の跡で汚れていた。
待っていて、くれたのだろうか。泣きながら、一人で。
「一緒に居てくれることの方が、嬉しいに決まってるじゃない。ばか……」
声が細くなっていく。涙が止め処なく溢れていく。
気づくと、俺はてゐを抱きしめていた。そうしていいような気がした。
細い腕が腰に回る、か弱い手が、力いっぱいに抱き寄せてくる。
どのくらい待っていてくれたのだろうか、てゐの身体は、冷え切っていた。
「プレゼント、一つじゃ駄目なんだから」
「あぁ」
「明日は、ちゃんと。ずっと一緒に居ないと許さないから」
「……分かった」
「好きな人と一緒じゃないと、クリスマスじゃないんだから……」
「うん。俺も、てゐと一緒に居たい」
腕の中で、てゐは微かに、泣き顔の中で笑みを溢した。
唇に温かいものが触れる、一瞬のことで何かも気づけないまま、俺はもう一度てゐを抱きしめていた。
「……おい、そいつ……妖怪じゃないか!」
背後から声がかかる。
背筋が凍るようだった。聞き覚えのあるその声は、人間の、店主の声だった。
◆
「長い間、世話になってきた。それでも……分かるだろ?」
「……はい」
「手荒なことはしたくねえ。他に知れる前に、里を出てくれ……すまん」
「いえ、ありがとうございました。本当に、長い間……」
頭を下げて、暗くなった山道へと踏み出す。
隣には、困惑したてゐの顔があった。
「私の、せいだよね……」
「いや、禁を破ってたのは俺だから」
妖怪と抱き合っているところなんて見られたら、殺されたっておかしくない。
無傷のままこうして歩いていること事態、幸運だったのだ。
妖怪と人間が一緒に居るというのは、里の者にとって禁忌に他ならない。
故に、俺がてゐに惚れた時点で、こうなることは覚悟していたのだ。
「それに、俺はお前と一緒に居たいから。後悔はしてないよ」
「……ばか」
薄暗い山道、いつもの広場に腰掛けて、今度は背中合わせではなく、向かい合う。
月明かりに照らされたてゐは、綺麗だった。
白い肌は月光に蒼く照らされて、瞳は涙で美しく輝いている。
この子の傍に居られるのならば、本当に後悔は無かった。
「好きだよ、てゐ」
「うん、私も……好き」
月に照らされた二つの影が、ゆっくりと重なる。
時にして二秒程度の行為、俺達は互いに、気持ちを確かめ合った。
唇に残った微かな感触が、気持ちの証拠だ。
「ずっと、一緒に居よう」
◆
「と、いうわけで。今日から因幡に混じって雑用係に加わる、○○よ」
「よ、よろしくお願いします」
百を越える兎耳が、乱れることなく整列する光景を目にしながら、深く頭を下げる。
人間に対して嫌悪感を募らせるかと思ったが、兎達は概ね、快く迎えてくれているようだった。
自己紹介を終えてすぐ、俺の周りに兎達の壁が出来る。
やれ何が好きか、人参は好きか、何が出来るか、質問は様々だった。
薬に対しての体性はあるかと言う質問には、大きく首を振るも、看護師の格好をした女性は好都合と微笑むだけだった。
「皆離れなさい、一気に話しかけたら大変でしょう」
「じゃあ、恋人とかはいるのかー?」
てゐの号令に、静まる兎達の中からそんな声が上がる。
隣で、てゐが目を見開いて驚いているのが見えた。
「あー、うん。大切な人が、居るよ」
「な、何言って――」
「隣にね」
ざわめきが広がっていく、てゐの顔は、見たことも無いほどに真っ赤だった。
黒い髪の姫と呼ばれる女性が楽しそうにてゐを囃し立てている。
看護師の格好をした女性が、離れてクスクスと笑みを溢している。
「――○○の……ばかぁ!」
俺は生涯、この子の隣に居るのだろう。
本当に、楽しくなりそうだ。
メリー・クリスマス。
6スレ目>>571
───────────────────────────────────────────────────────────
永遠亭に遊びに行こうと竹林に入ったら、てゐが出迎えてくれた。
「今日も可愛いね」って挨拶したら、
「今日がエイプリルフールだからって騙されないもん」って得意げな顔された。
しばらくてゐの後についてって永遠亭が見えた所で、「大好きだよ」って告げたら
「そ、それも嘘なんでしょっ!?」ってえらく慌ててた。
帰り道、永琳さんの指示で渋々てゐが竹林の外まで送ってくれた。
別れ際、「大っ嫌いだもん!」って厳しい一言を言われたけど、今は手を繋げるくらいには仲良しです。
6スレ目>>976
───────────────────────────────────────────────────────────
「ん…?」
いつの間にやら寝てしまっていたらしい。 畳から身を起こし
大きく体を伸ばすと、凝り固まった間接がコキコキと音を立てて軋む。
開け放したままの窓から、風に揺れる竹林と夜空に掛かった月が見えた。
中々風流な光景じゃないか。 永遠亭に居候してからはゆっくり夜空を
見上げたことなど殆どない。 主に注射とか投薬とか人体実験とかで…。
「…思い出したら気分悪くなってきた」
ため息とともに嫌な記憶を吐き出して、再び四角く切り取られた空を見やる。
一枚の絵のような光景をしばらく眺めていた俺の頭を、一つの考えが過ぎった。
「月見酒ってのもいいな」
口に出したが最後、無性に酒が欲しくなってしまった。
『思い立ったら即行動』が信条の俺はすばやく宛がわれた部屋を出、
足取りに気を遣いながらも一路永遠亭の厨房を目指したのだった。
「「…あ」」
しかしそこには先客がいた。 俺の姿に気づいて口を開けると、
銜えていたニンジンの欠片がポロリと落ちて床に転がる。 勿体ねぇな。
「○○ッ…?」
「…何やってんだ、てゐ」
まぁ、何となく分かる。 おそらく俺と似たよーなモノだろう。
俺は珍しくもじもじしている(だがニンジンは手放さなかった)彼女の
脇をすり抜け、厨房の一角を漁りだす。
「…どうしたのよ」
「何がだ」
がさがさ。
「…大声で『盗み食いだぁー!』とか言うと思ってた」
「まぁ俺も共犯っつーか…同業者みてーなモンだしな」
ごそごそ。
「…ニンジンなら手前の籠よ?」
「残念、俺が探してるのは…っと」
奥まった場所にあった一升瓶を引っ掴み、返事の代わりにてゐへと突きつける。
「お酒?」
「ああ、夜空が綺麗だったからな。 月見酒だよ」
「…ちょっと似合わないわね」(こりこり)
「やかましい」
悪態をついたのも束の間、頭の中で閃いた考えのまま、俺は彼女に問いかけてみる。
「…なぁ、てゐ」
「な、何?」(もごもご)
「晩酌に付k」
「ノゥ!」
言い終わらない内に否決された。
「せめて最後まで言わせろよ!?」
「最後まで言ったとしても! 絶対にノゥ!」
幾らなんでもそこまで言うことないんじゃないのか…。
いつもならここで引き下がる俺だが…てーちゃんよ、今の状況分かってるのか?
頑なな態度を取る彼女に向け、俺は自信満々な笑みを浮かべてみせる。
「では君の心変わりを誘発しよう…」
「な、何よ?」
思わせぶりな様子の俺に怪訝そうな目を向けるてゐ。
「なーんか、急に大声あげたくなってきたなぁー」
「っ!?」
すーはー、すーはー、と深呼吸のマネゴトなんぞを
してみせると、てゐの顔がはっきり分かるほど青ざめた。 よしよし。
「寝てる皆には迷惑だろーけど、仕方ないよなー」
「あ…あぅ」
ここまでビビるてゐの姿を見るのも珍しいよな、などと思いながら俺は、
「てゐ、晩酌に付き合ってくれるか?」
先ほどよりも少し声音を落として訊いてみる。
彼女はしばらく石のように黙り込んでいたが、やがて小さく頷いて見せた。
…少女(と青年)移動中…
「ありがとなー、てゐ」
「脅迫しといてありがとうもないでしょ?」
「心外だなそれは。 交渉と言え交渉と」
「あ、アンタねぇ…!」
「…別に酌をしろとまでは言わないよ、隣に居てくれりゃ」
「えっ…」
「肴は多いほうがいいだろ。 月とか星とか…女の子とか、な」
「…! …それより、ちゃんと黙っててくれるんでしょうね!?」
「当然。 日本男児は紳士なんだぞー?」
「…意味分かんないわよ?」
するすると襖を開き、青白い月光に照らされる窓際まで歩を進める。
俺を見下ろす月は先ほどよりもやや高くなってはいたが、美しさは依然そのままだ。
ゆっくりと腰を下ろした俺の隣にてゐも座り込み、同じように夜空を見上げる。
「…そんなにキレイなもの?」
「少なくとも俺にとっては、な」
苦笑混じりのため息を吐いて、俺は持ってきた瓶の中身を猪口に注いだ。
揺らめく水面には、不規則に形を変える月が写っている。 それをしばらく眺めた後、
俺はゆっくりと酒を喉へと流し込んだ。
「…ふぅ」
「オヤジ臭いわね」
「うっせぇよ」
自分でもちらっと思っただけに指摘されると腹が立つ。 俺は続いて二杯目を飲み干し、
いざ三杯目を注ごうとしたところで、ふと頭を掠めた考えに手の動きが止まった。
「なぁ」
「何?」
「てゐも飲むか?」
「…うん」
小さく頷くてゐに猪口を手渡し、続いて瓶の中身をゆっくり注ぐ。
こくこく、と何度かに分けて酒を飲み終えたてゐが満足そうな息を吐くのを見て、
俺の顔にも自然と笑みが浮かんでいた。
「…ありがと」
「なーに、お気になさらず」
「そう言われれば、そうよね」
互いに笑いあう。 酒のせいか、それとも窓から見える月のせいか。
彼女との距離が
その声がが途切れたとき、てゐは神妙な顔つきで切り出した。
「ねぇ、○○」
「うん?」
「私が、さ」
「お前が?」
いつもの彼女らしくない、たどたどしい口調。
「貴方を好きだって言ったら、信じる?」
「…それが嘘なら流石に悪質すぎるなぁ」
くくく、と喉でだけ笑って見せる。
「どういうこと?」
言ってしまって構わないだろう。 見てるのは彼女と、月だけなのだし。
「だって、両思いになるんだからな。 俺たち」
「え」
「悪戯されてばっかだったけどさ」
それがいつしか。
「俺も、お前と居るのが楽しくなってたから」
俺は、彼女のことが好きになっていたのだろう。
てゐはとん、と猪口を置き、
「私も…○○と一緒に居るのが楽しかった」
同じようにクスクスと笑う。
「私を追いかける時は、私だけ見ててくれてたから」
「はは…てゐはいじめっ子タイプだったか」
「…どういうこと?」
「俺に構って貰いたかった、ってコトだろ?」
「…うん」
「随分と素直じゃないか」
珍しいこともあるものだ。 これが夢だったら恨むぜ、神様?
「素直な私は…嫌い?」
「嫌いじゃないが…俺はいつも通りのてゐが好きだな」
「嘘つきでも?」
「嘘つきで悪戯好きな詐欺師でも」
「あ、ひっどーい」
「今までのツケだ。 ありがたく受け取っといてくれ」
「踏み倒させて貰いますわ」
もう一度、二人して笑う。 この上なく心地いい。
「さて、そろそろお開きに…ってほど飲んでないな」
「逆に考えれば? またこうして飲めるって考えるの」
「おまえあたまいいな」
「誰かさんが言うように詐欺師ですから」
「…むぅ」
やっぱり口では彼女が上手のようだ。 俺は苦笑しつつも立ち上がり、
「そろそろ部屋に戻れよ、夜更かしは健康の敵だろ」
「此処で寝ていい?」
「…お前、襲われても文句言えねぇぞ」
「日本男児は紳士なんでしょう?」
それに、と悪戯っぽい-俺の好きな笑顔を見せててゐは続ける。
「襲うつもりならわざわざ警告したりしないわよね?」
「はぁ…ホンット、お前にゃ敵わねぇな」
「そりゃあ年季が違うからね」
「うるへー。 俺はもう寝ます!」
負け惜しみ以外の何者でもない叫びを上げつつ、俺は布団に倒れこむ。
少ないながらもアルコールの回った脳味噌へと侵攻してくる
睡魔に抗えるはずもなく、俺はあっという間に眠りの世界に落ちていく。
意識が途絶える瞬間、頬に柔らかな何かが触れた。 そんな気がした。
「んぁ?」
目を開けると、横倒しになってはいるものの見慣れた自分の部屋。
のそのそと起き上がり、6割がたぼやけたままの頭を何回か振っていると、
朝の清涼な空気が俺の頬を撫でた。 ふむ、今日も良い天気のようだ。
続いて脳裏に浮かんだのは、今や夢とも現ともつかない夕べの出来事だった。
「どうだったんだろ…」
時間が経つに連れ自信がなくなってくる。 やたらとハッキリ覚えている割には
隣で寝ている(と言っていた)てゐの姿も見えないし。 と、いきなり強い風が
開けっ放しの窓から吹き込んできた。 春も終わりが近いとはいえやはり朝の風は
冷たい。 思わず手で顔を覆い…指の隙間からあるものを認めて。
「…ははは」
知らず知らずの内に笑みを刻んでいた。 放ったらかしの酒瓶と猪口。
どうやら俺はまだ、神様を恨む必要はないらしい。 尤も、これからも
楽しい毎日が続きそうではあるから、永遠にその機会はないかも知れないが。
「…さて、と」
まずは、酒を持ち出した言い訳を考えないといけないな。
拾い上げた猪口を手の平の中で弄びながら、俺はそんなことを考えていた。
7スレ目>>710
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~好きだよなんて言わずとも~
「愛するものはいずれ去りゆく。だが人は、逝きし者を懐かしみ、そして愛するのだ。
記憶は永遠ならずとも、帰るべき場所は消えることはないからである」
---無名の詩人
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「むぅ、迷ってしまった」
幼馴染である健太の趣味、それは彼の年齢(25)に似合わず、筍狩りというシロモノ。
それにつき合わされ、兵楼県は神生市・笹姫町のとある竹やぶに来ていたんだけど・・・。
(くそ、これじゃまったく樹海じゃないか! ぼくはここで・・・)
ふと、TVで見た、富士の樹海の餓死死体を思い出す。ぼくは震え上がった。
「……っ!」
時は弥生の半ばを過ぎたころだろうか。暮れかけた日が、聳え立つ竹林の影の闇色を強める。
季節柄…いや、土地柄、もまだ冬の名残があるのか、肌寒さが身にしみる。
(これはやばいぞ)
そもそもなぜ迷ったのだろうか。
というのも、健太は「ちょっと向こうの筍を刈ってくる」と言い、数メートル離れた場所で作業を始めた。
ぼくは彼に背を向け、ちょうど切り落としかけていた筍に向かい、それを切って背中の袋に入れる。
物音がして振り返ると……彼はいなかった。かわりに、一瞬、日傘を持った婦人の姿が見えたような気がする。
(おかしい。ぼくがあれを切る時間はものの十秒ほどだったはず…どこかに歩いていく足音も聞こえなかったし)
ぼくはバックパックに入れていた懐中電灯を取り出す。
(電池は…昼に新品を入れたばっかりだ。もつかな…)
もつ? ここから生還できるとでも思っているんだろうか。
「ふ」
嘲笑に近いため息が漏れた。生きて帰ったとして、そこに何の楽しみがあるというのだろう?
追われるような仕事、崩壊した人間関係、持病の悪化。
(でも、ぼくは)
生きたいと思う。ここで死ぬというのはあまりにあっけなく、そして心残りだ。
何しろ、構想4年・製作3年、300ページにわたる超絶クオリティな同人誌 --- これをコミケ参戦の主砲としたのだけれど、
まだ参加OKが来ていない。(爆
主人公はもちろん、因幡てゐ。彼女の壮大な冒険を哀歓ともに綴ったロマン派大作なのだが。
(DL販売にするべきだったかな……)
カサッ。
(?)
物音がして振り向いた。
「健太?」
返事はない。イタズラだとすれば度が過ぎる。何しろあれからもう数時間経っているのに…
「健太?」
だが、そこから出てきたのは………
「迷ったのね」
年の頃17,8といった体格と面持ちの少女だった。
短めの袖をもつ淡い紅色のワンピースを羽織り、体の半分はあろうかという巨大な杵の柄を肩に掛けている。
「やっと会えた」
(!?)
その仄かな微笑は、どこかで見た感じのする懐かしさの漂う雰囲気を身に纏っていて。
しかも、ふんふんという鼻歌まじりの振る舞いの中に、時折ふと見せる妖艶なまなざし。
(かわいい)
ぼくは彼女の奇抜ないでたちに驚く間もなく、
「こ…ここは?!」
コロコロとした子気味良い声色で、彼女が答える。
「ん、幻想郷の、永遠亭に近い場所だよ」
「幻想郷? どういうこt……」
そこでぼくの脳に、衝撃の事実が隕石のごとく落下してきた。どうして今まで気づかなかったんだろう!
あれほどファンだったというのに……
(い…い……いな………いなば………!!)
「て……てゐさん?! あの、いな、因幡てゐさん?! そんな、」
ぼくは遠慮せず彼女に近づいてゆき、その兎耳をさわってみる。ちょっと力を入れると、
(あれ、取れない!)
「いてて、本物だってば!」
あわてて、
「ご、ごめんなさい……コスプレかと」
「あたしは、因幡てゐ。やっと気づいたのね、おバカな、」
彼女はぼくの名を呼んだ。
「ど、どうして知ってるんですか?!」
「隙間からのぞかせてもらったことあるの。花映塚だっけ? あれでよくあたしのキャラ使う人がいるって有名だったから。
あ、もちろんあたしを自機とする人はゴマンといるんだけど、あなたの笑顔が……」
言うと黙り込み、下を向いてしまうてゐさん。頬がちょっと紅潮している。
「と、とにかく、幻想郷に来ちゃった以上、次の隙間が開くまでに時間があるだろうしさ」
手を差し伸べてくるてゐさん。
「こちらにどうぞ♪」
ぼくも手を伸ばす。半ば刺すような涼しさの中、二人の指と指がふれあい、指の先がからみあった。
(あったかい)
だが、
「う、うわぁぁ」
体が宙に浮いた!
「ど、どうなってるんだぁぁぁ」
ぐんぐん遠くなってゆく地面。筍の畑、竹林、町の区画。少しばかり静かだったてゐさんが口を開いた。
「手ぇ離しちゃだめよ」
「離すと、どうなるんですか?! くっついてる間だけ力が供給されてて、」
ぼくは好奇心から、
「手を離したりすると、」 (手を離す)
落下。
「うあああぁぁぁぁ」
上のほうから、「言わんこっちゃない!」とかわいらしい声が聞こえて来、全速力で降下してきたてゐさんに抱きとめられる。
「もう、子供みたいなことしないでよ」
「す、すみません…試してみたくなっちゃっ……」
二人の顔…それは、恋人同士のように接近している!
と、突如真っ赤になったてゐさんは、
「いやぁ」
と素っ頓狂な声を上げ、ぼくを突き放す!
「うわああぁぁぉぉ」
そしてぼくは再び落下をはじめたのだ。もちろん、てゐさんはちゃんと助けにきてくれたけど。
数十分ほど、手を手をとりあっての飛行が続いただろうか。
ぼくは彼女とタメ口で話すように言われた。実際の年齢で言うと大先輩だけど、見た目は僕が上だから、との理由だ。
「しかしこの竹林、えらく大きいんだね」
「そう? ……もうすぐ着くよ」
着く? 幻想郷の竹林の中にある場所といえば…それは、永遠亭だ。
「それより、ここは現実世界と比べてどんな感じ? 空気とか、違うの?」
「え、えっ」
ふふ、と笑うてゐさん。
「あたし…どうじんし? とか、ふらっしゅ? とか、言うんだっけ。そこに描かれてるのと、違う?」
「んー…」
「狂気のなんとか、とかいうふらっしゅも、好きなの?」
年頃の高校生といった興味津々さで、ぼくを矢継ぎ早に質問攻めにするてゐさん。
「いや、それは、なんとも…」
空いている手で頭をかく。
「見た目はこんなのだけど…現実には、あたしも相当のおばさんよ。それでも……」
言うとてゐさんは、僕の手をとる力を少し強めた。そして、
(!)
ぼくの手の指と指の間に、そのやわらかな指をからめてくる。
「それでもいい?」
両想いということ。
顔は飛行の方向に向けられているものの、細められた眼がこちらを艶かしく見やっている。
(……!)
このてゐさんという女性、現実世界ではありえない存在だ、とぼくはつくづく思う。
少女でありながら、長い年月を経た、しかも妖怪であるというひと。
その彼女が、ぼくの手をとっている。
その彼女が、ぼくの想い人。
これは夢なのだろうか。消えてしまい、いずれは忘れてしまう幻なのだろうか…
そんなことを思っていると、大きな屋敷が眼に入った。次第に高度をさげてゆくぼくたち。
地面に降り立つと、ぼくたちは絡められた手をちょっと意識したのか、恥ずかしそうにゆっくりと解いた。
玄関先を見渡すと、そこに居るのは……
「みんな、知ってるよね」
てゐさんの従者たちであろうか、兎たちと、兎耳をつけた -- 変化した兎だ -- 護衛らしき女性ら、
そして着物をばっちり着こなした輝夜さま、永琳師匠に、優曇華院さん。
地面に降り立ったてゐさんは開口一番、
「もー、なんでみんな勢ぞろいしてるんですかぁ」
姫さまが口を開く。
「久しぶりに迷い子が入ったって知らせがあったからね。楽しみだったの。
それにあなたのお気に入りの男性と聞いちゃ・・・黙っていられないから」
凛とした、透き通るような声。よくある時代劇のお姫様といった顔立ち、という表現がしっくりくる。
「なかなか興味深い殿方ね。これはいい実験台になりそう」
(ちょ、実験て)
言ったのは永琳師匠か。見るからに科学者といったオーラに、さらに理知に富んだ顔つきと声の音色。
さらに、腕組みをして何も言わずにこちらをじっと観察している制服姿は、うどんげさんだろう。
先輩、といった感じが伝わってくる。
みんなの顔をみながら軽く会釈していると、姫さまが、
「堅苦しい挨拶はいいから、中に入って頂戴。ちょうどお夕飯の時間なの」
「あ、はい」
「それに、背中から見えてる筍…現実世界のものね。一度食べてみたかったの。永琳?」
呼ばれた師匠は、いつの間にかぼくの背後にまわっていた。
「ほぅ、なかなか美味しそうですね。早速炊事場に廻します」
姫さまはといえば、ささ、とこちらに歩み出てきて、手のひらを上にしてぼくに差し出す。
「?」
「私が直々にお連れするわ」
その華奢な手をとると、少しばかり体が浮かぶのを感じた。
狭めの応接室に通されたぼくは、そこで、姫さまと師匠、そしてぼくとてゐさんの四人で夕食をとることになった。
優曇華院さんは護衛のシフトがあるから、今はちょっとこれないそうだ。
現実世界の流行について、そして現実世界で言われている事と幻想郷の現実との違いについて、
果ては霊夢さんが最近開発した『賽銭防御システムA801』などについて談笑する。
きれいな食べ方をする隣のてゐさんを見ていると、さすが良家のガード役というのも頷ける。
夜もずいぶん更けてきたころ、姫さまはお箸を置くと、
「お粗末な食事で申し訳ないわね」
確かに、ご飯・味噌汁、そして幻想郷で取れるお魚の塩焼きに季節の野菜、というメニュー。
「そんなことないですよ。おいしくいただけました」
ぼくのとってきた筍も、ちょこんと添えてあった。
「最近、てゐの稼いでくるお賽銭が少ないの。だから…」
ぼくはふと思い出すことがあり、
「姫さま、それは姫さまが働かないk…」
言いかけたところで、太ももに激痛を感じた!
「っ」
見ると、てゐさんがにこやかな表情でぼくをつねっている!
姫さまは全く動じることなく、穏やかに
「ともかく、あなたはまたここに来ることがあるでしょうから、今度からは筍狩りをお願いしようかしら。
おいしいものがとれる場所の地図を渡しておくわ。現地調達のほうが楽だし」
(…ここ、人、というか兎、足りてるのか…?!)
ぼくは苦笑いする。
食事の後は、みんなで(お粗末ながら)お菓子を食べる時間。
師匠が竹の葉にくるんだお団子を出してきた。親指の先ほどの小ささだが、とてもボリュームある味。
「あ、そういえば」
ぼくはある事を思い出し、バックパックからそれを取り出す。
「現実世界のお菓子で、ポッO-といいます」
姫さまたち三人はキャッキャと色めきたった。師匠はぼくが渡したパッケージを手に取り、
「姫さま、これがあの噂のポッO-というやつなんですね」
輝夜さまは両手を可愛らしく合わせて、
「長くて細い…そして、甘いの!」
てゐさんは僕を呼び、
「ねぇ、これはどうやっていただくの?」
ぼくが「いや、普通に、チョコついてないとこを持って・・・」と説明をはじめようとすると、
姫さまと永琳師匠が顔を見合わせ、ニヤリとする。
師匠は封を開けたところから一本取り出し、その端をくわえた。
「こうやるのよ」
「永琳も好きねぇ」
と、姫さまも反対側をくわえる!
(ど、どこでこんな遊び方を……)
ポッO-をくわえた姫さまは、そのままで
「お二人もやりなさい」
(命令!?)
てゐさんの顔をさっと見ると、もう真っ赤だった。彼女は恥ずかしげに視線を斜め下に逸らす。
が、パッケージから一本、しなやかに取り出すその姿を見て、ぼくは言葉に出来ない感情に囚われた。
いやとは言えない……でも、しかし…いくら大好きとはいえ、初めて会った女性と!
合コンの経験なんて一度しかないし、そんな大胆なことはなかなかできないのがぼくの性格だ。
しかし見ていると、姫さまと永琳師匠の唇が近づいてゆく!
ぱりぱりぱりぱり・・・。
接近する二人の唇 --- ぼくは、恥ずかしさに眼を逸らす。しばらくの後、輝夜さまと師匠は笑い上戸になっていた。
永琳師匠が、ぼくの赤面に気づいたのか、
「さぁ、二人もやってみなさい」
姫さまもそれを後押しするように、
「さぁ!」
てゐさんが本当に恥ずかしそうにポッO-をくわえると、輝夜さまはぼくを指し、
「さ、あなたもくわえなさい。姫の命令よ」
(なんちゅう命令だよ…)
ぼくは反対側の端に口をやる。
(こんなに近くなるんだ……)
てゐさんの円らな瞳は恥じらってばかりだ。ぼくの眼をちら、ちらと見るものの、ふふ、と笑って視線を避ける。
「はーやーく! はーやーく!」
シラフのはずの姫さまが、お祭り状態になっている! てゐさんまでも、煽るようにぼくの名前を呼び、
「はやく」
ぼくは意を決した。
ぱり。ぱりぱり。
「おぉ~」
師匠と姫の歓声がユニゾンとなって部屋に響きわたる。途中あたりまで食べ進めたところで、突然二人が立ち上がった!
「じゃ永琳、私はちょっと用足しに」
「では姫様、私も例の実験の準備が」
スタスタ(歩く音)、サーッ トン(ふすまが閉じる音)。
こちらを見ることなく二人は部屋から出て行ってしまった。
(………)
部屋に残されたぼくたち二人。
ぱりぱり。
(!)
進んできたのはてゐさんのほうだった。両目をそっと閉じていて。
ぽりぽり。
(てゐさん…)
眼を閉じると、ぼくの両肩に腕が置かれた。やがて両手の平がぼくの頭の後ろにもっていかれ、優しく包むように。
ぱりぱり。
(……)
ぼくはためらいながらも腕を動かし、てゐさんのくびれた腰を探しあてる。そこに手をそっとそえて、
ぽりぽり。
ぱりぱり。
ぱり。
そして。
ヴァッタァァン!! という擬音が画面に浮かび上がりそうな大音量とともに、襖が倒れてきた!
ビクッとして飛び上がるぼくたち。そこには姫さま、師匠、そしてうどんげさんの姿が。
てゐさんはポッキーの残りをくわえたまま、赤かった顔をさらに染めて、
「ひ、ひどいです、のぞきなんて…」
ぼくも視線をそこらじゅうに泳がせる。姫さまが本当に惜しそうに、
「残念だなぁ…もうちょっとだったのにぃ」
三人の後ろに立っている、日傘を手にした女性は……見覚えがある。紫さんだ。
彼女が口を開く。
「そろそろ準備が出来たわよ。彼ももうすぐ帰らないと思ってるんじゃなくて?」
「待って」
言ったのはてゐさんだった。八雲さんを見据えたまま、ぼくの手を探し当て、しっかりと握ってくる。
「そんなに急がなくても…帰るための境界だっていつでも、それに…時間軸は、」
「いや、てゐさん」
てゐさんがはっとした顔でぼくを見る。
「ぼくも、健太が心配だ。こうしていたいけど、戻ってあいつを探さないといけない」
紫さんは諭すように、
「彼なら大丈夫。私があなたを神隠ししたのは、あなたが背中を向けた瞬間だから」
「えっ、じゃあ……」
「今回はあまり、その……ある兎さんがせがむもんだから。
それに、あなたの想いが強いみたいだったから、ちょっと強引に隠したの」
手が強く握られるのを感じた。
「次からは直接あなたに訊ねることにするわね」
「…あいつ、俺を探してるんじゃないですか?」
「しばらくはそうだったみたい。でも実は、彼も別のところに飛ばしてるの。
今回は彼には、幻想郷は文字通りの夢だったと思ってもらうことにするわ」
と、ぼくは急に眩暈を覚えて倒れこんだ。駆け寄ってきたのはてゐさんだろうか。
「大丈夫?!」
朦朧とする意識の中、永琳師匠の声がして、
「…まだ、ここの空気に慣れてないみたいね。しばらくは現実世界に戻って静養する必要があるわ……
……いえ、その前にちょっと処置しておきましょう。今ちょっと怪我しちゃったみたいだし。
てゐ、彼と来なさい」
今、ぼくは永遠亭の医務室にいる。横たわるぼくの傍に座っているのは、てゐさんだ。
ふと自分の右手を見やると、小指に包帯が巻かれている。彼女が巻いてくれたものだ。
ここまで負ぶって(浮かんで)来てくれたのもてゐさん。
指を動かそうとすると鈍い痛みが走った。
「てゐさん……次、いつ、逢えるかな」
「わからない。あなたも、ここの空気に慣れる必要があるし……」
間。
「ぼくは、」
「あたしは、」
彼女に譲る。
「あたしは……あなたに逢えて、話せて、嬉しい。ずっと待ってたから」
「無理言って、境界開いてもらったんだよね」
「うん」
ぼくの足に手をそっと置くてゐさん。
「八雲さんは次からぼくに尋ねるとか言ってたけど…それも、彼女次第だよね」
「うん」
「いつ逢えるか、本当にわからないんだね」
哀しげな面持ちになるてゐさん。
「ねぇ」
と、彼女。
「ん?」
「さっき言ったの、嘘よ」
「どういうこと?」
「あなたよりいい人なんて、いくらでもいるから」
ぼくから視線をはずす。
「別にあなたじゃなくてもいいの。あたしは人気あるから。崇拝する男どももワンサカいるのよ」
嬉々とした顔の中には、しかしながら、哀切を帯びた瞳があった。
「……ぼくは、」
動かせる手で、てゐさんの手を包む。
「そんなてゐさんが、」
「……」
「…偶然とは思いたくないけど、東方って世界に出会った。最初はチャットで、東方アレンジをしてる人に出会って、
CD紹介されたんだ。それでゲーム買ってみて、お店でアレンジCDとか勝って、自分で作ったりなんかして。
花映塚で、てゐさんのキャラ見て……それにここが実在……幻なんだろうけど、本当にあるとこで、」
ぼくは唾を飲み下す。
「よくわからないけど、ここでてゐさんに逢えた。本当にいるんだってわかった」
「………」
「それに、ぼくみたいな奴でも見ててくれてたって」
てゐさんは視線を逸らす。
「ここでの記憶は…いつか、薄くなって、消えてしまうかもしれない。幻みたいに。でも、」
「キャラを好きな気持ちは消えないってわけ? あたしはずっとここで、」
ぼくをきっと睨むように、
「あなたを待つのよ?」
彼女の眼を見ることはできない。
「気まぐれなあのおばさんが次に気まぐれ起こすときまで……待つの」
言うと、ぼくの膝の上あたりに顔を横たえるてゐさん。腕を伸ばし、その頭をなでてあげる。
彼女はぼくを見ながら、
「あたしは、でも……忘れられても、いいかな」
ぼくは体を起こした。同時にてゐさんも椅子に座りなおす。
「どうしたの?」
「てゐさん、ぼくは記憶力がいいほうじゃない。人の顔も名前もよく忘れるほうだ」
「……」
「じゃあ、こんなぼくなのに、どうして選んでくれたの」
てゐさんは再び視線を床にやる。僕は寝台に腰掛け、彼女と向き合った。
「どうせなら、ぼくを選ばなきゃよかったのに。ぼくなんて奴を選ぶのが間違ってるんだよ。
じゃあ何? ぼくのほうも、東方なんか、てゐさんなんか知らなきゃよかっ」
パシン。
(ぶたれた?!)
事態を把握しようとした次の瞬間、てゐさんがぼくの頬に両手をそえて、その顔を近づけてきた。
丸い眼はゆったりと閉じられていて……。
気がつくと竹林の中に居たぼく。気配にさっと振り返ると健太が立っていた。
「お、健太。探したんだぞ。どこいたの」
「なんかよくわからんが、むちゃくちゃ眠くなったんで寝れそうな場所を探してたんだ」
(やはり、ぼくだけが記憶を…)
「いい夢みたか?」
「ん、よく覚えてない。…それよりお前、小指、ケガしたんか?」
手を見ると、そこには確かに、彼女が巻いてくれた包帯がしてあった。
触れてみると、
「いてっ」
だが痛みと同時に脳裏をよぎったのは、あの愛らしい笑顔。
うpろだ308
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てゐとお月見してゐたら
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幻想郷を定期的に訪れるようになってはや五年。
多くの人間や妖怪たちとの人間関係もそれなりに出来、お気に入りの風景もあり、今では現実世界よりも好きな場所である。
・・・というのも、好きな妖怪(ひと)ができちゃった、というのが正解かな。
彼女の名は、因幡てゐ。僕よりはるかに長生きだけど、顔かたちはかわいい女の子。もちろん兎耳もついてる(本物)。
今日もぼくは、いつものように、輝夜さまのおわす永遠亭に向かった。
十五夜の下、お菓子をつまみながら歌詠みの会が催されることになっているからだ。
(今夜披露する歌は・・・これにしよう。カラオケでも練習したし、本番っていってもカラオケみたいなもんだし)
境界から出てきた僕は、地面に足が着くと同時に、手にしていたカンペを浴衣の懐にしまいこんだ。
目指すは竹林、姫さまと彼女の従者たちの住まうあの場所。
(前来たのは1ヶ月前、か・・・前々回の訪問から3ヶ月。サイケな壁紙に変わってないといいけど)
何度入っても迷いそうになる竹林。ここへの入り口というものは幾度来ようが未だにわからない。
でも僕はここ一帯でそれなりに有名らしくて、来る度、てゐさんの忠実な僕(と、彼女は呼んでいる)が案内してくれる。
(よくできた先輩ウサギなんだなぁ・・・かっこいいところもある)
よくできた、とぼくは書いた -- しかしながら、一度、こういうことがあったのを忘れてはならない。
その日、やたらとてゐさんについて褒め殺しの文句を紡ぎまくるウサギ(最近変化した新人らしい)に案内されたぼくは、
行き止まりと思しき、竹藪が文字通り壁のようになった袋小路にたどり着いた。彼女の言葉を思い出す。
『壁の下らへんに小さな穴があります。そこから潜りこめば、てゐさんのお気に入りのお昼寝場所に着けます』
すこしばかりニヤリとするぼく。
(だめだだめだ!)
次々と襲いくるあられもない甘い妄想をふりふり振りほどき、体をかがめる。
「うへぇ、ちょっと狭いな~」
ほふく前進を続ける。
「あれ。ここ・・・温泉?」
あたりにはもくもくと湯気がたちこめている。頭がようやく小穴から出たところで、
カチャッ。
何かが頭に突きつけられた。
(・・・冷たく、丸い・・・・・・・銃口?!)
覚えのある、鋭く透き通った声がぼくの耳にやさしく入ってきた。
「度胸あるわね」
鈴仙さん?!
「私の沐浴現場を大胆にも覗くとは・・・てゐに言いつけるわよ」
ゆっくり顔を横にすると、毛布で体を覆ったうどんげさんが見えた。
「こ・・・・これにはわ、わけ、その、教えてもらったうさぎさんがぁぁ」
ニッコリとしているレイセンさん。これは、まずい!! 微笑みを顔一面に湛えたまま、手際よくロックをはずす彼女。
そしてぼくは、ピチューンという音とともに、ポイント加算に貢献したのだった。
「今回は大丈夫だよね」
ぼくがそう独りつぶやくと、背中をつつくものがあった。てゐさんをそのまま小さくしたような、かわいらしい兎・みるさんである。
人間で言うと7,8歳あたりだろうけれど、五十年ほど前に変化した妖怪。もちろん僕より大先輩なのだ。
「あ、あの、今日は、みるが、案内、ですの」
「みるさん、また会えたね。今日も待っててくれたの?」
先輩相手にタメ口は躊躇われるけど、みるさんは『でも、みるのほうが、見た目は子供だから・・・ですの』と言って
妹のように接することを望んでいる。ちょっと微妙だけど、これはこれでかわいい。
見ていると、みるさんは手を振袖の中に入れ、なにやら文のようなものを取り出した。
「てゐ先輩が、これを・・・・」
「なんだろう」
ぼくはそれをそっと受け取り、手の中でいたわるようにして開いた。
<< たけのこ取ってきてくれないかな。前取りそびれたでかいのがあるから。区画・東ヰ45947cあたりにあるやつ。お願い >>
「・・・・・」
コミケの配列かと見まがう記載だが、ぼくはなぜかこの場所だけは知っている。
手を背にやると、
「のこぎり・・・」
来訪ごとに何かお使いをさせられている気がするが、気のせいだろう。気のせいかな。そうだといいな・・・・・
ともかくぼくは、東(中略)に向かった。
てくてくと足を進めると、やがてたけのこ畑に到着する。
「これが・・・そうか」
人間の片足ほどの太さの巨大なたけのこ。
「これほど育つと普通は不味いけど、ここ・幻想郷産のは不思議と美味いんだよなぁ」
永琳師匠によると、どうやら特殊な製法と幻想の空気があいまって、熟成されるとのことだ。
ぼくはのこぎりを手にし、その根にえいっと歯を立てる。
「てゐさん、いますか?」
だが、ぼくを迎えたのは輝夜さまだった。仄かに笑みを浮かべつつ、
「あら、ちょっと遅かったじゃない。もうはじまってるわよ」
「す、すみません。ちょっとコレ」
言うと、背中にしょっていたたけのこを示し、
「とってたもんで」
姫さまは両手をそっと合わせ、顔を傾けて、
「あ~、ちょうど料理にたけのこが入用だったところなのよ。永琳が、足りない足りないってうるさくてね。ありがとう」
輝夜さまはぼくを見てずっとにっこりしている。
営業スマイルとも、友人との再会の喜びともとれない、不思議な微笑みだ。
不死のわびさびを知り尽くしているからといってしまえばそれだけなのかもしれないけど。
また見たいと強く思わされるけど、見るとどこか余所余所しいものを感じる・・・そんな、笑み。
「どうしたの? お入りなさい」
「あ、はい」
華奢な手を伸べてくる姫さま。ぼくがいつものようにその手をとると、
(つめたい)
広間に続く回廊に導かれる。
ふんふんと鼻歌を歌いながらぼくをエスコートする輝夜さま。
(もうすっかりペットになっちゃったな)
広間の襖の前に来ると、ぼくたちの足がとまった。姫さまはぼくをちらっと見て、
「彼女、待ってるわよ」
一瞬何のことかわからなかった。
「えっ?!」
「ふふふ」
響き渡る大音量のロックサウンド。兎たちはみな、えーりん、えーりん! と叫びつつ腕を上げ下げしている。
ぼくの席はてゐさんの隣に確保されていた。
(やった!)
毎回ランダムで席順が変わるようなのだが、今回は何かのまぐれだろうか。嬉しいことに間違いはない。
隣に来たぼくに気づくと、なつかしい声が響いた。
「もぅ、遅いっ」
えーりん、えーりん。
合唱が終わり、拍手と歓声がひと段落すると、ぼくの名前が呼ばれた。
「さ、行ってきなよ」
「うまく、歌えるかな・・・」
「何甘えてんの」
「練習でも失敗ばっかだったし」
情けなくそう言うと、てゐさんが両手を広げ、ぎゅっとぼくを抱きしめた。
耳元で、
「久しぶりに会えたんだから、ちょっとは成長したとこ見せて」
(積極的に・・・なってる?)
ステージに上がったぼく。唾をのみこみ、目を閉じて、
(てゐさん・・・ヘタだけど、てゐさんのために、歌うよ)
ポーズを付け、マイクをかっこよく目の前にもってきて、目をカッと見開く。
てゐさんは
(こっち見てないじゃんorz)
歌の集まりの後は宴と決まっている。
メロンの仲間みたいな名前の妖怪さんが持ち寄ったお酒、脇が見えてる巫女さんが神社から運んできたお酒。
色んな種類の飲みものをあおりながら、一級品の料理をいただくんだ。
「うわー、おなかいっぱいになりました」
驚くなかれ、これはすでに三次会なのだ。ぼくは思わず声をもらす。
隣に座っていたてゐさんを見ると、その横の兎となにやら楽しそうに談笑している。
宴会もそろそろお開き。四次会としてお月見というオプションがあるけれど、参加する人はいつも数名である。
(てゐさん、お酒あんまり飲まないみたいだけど、こういう雰囲気は楽しいんだろうな)
見ていると、兎は立ち上がって部屋を出て行ってしまった。
片付けに帆走している兎たちを除くと、部屋にいるのは、姫さま、永琳師匠、そしてぼくとてゐさんだけだ。
(ん?)
ちら、ちら、と、ぼくに視線がやられるのがわかる。てゐさんがぼくを見ているんだ。
それが気になっていないフリをしつつ、ぼくはあえて姫さまと師匠のほうを見る。
ニコニコ。ニヤニヤ。
二人は何やら、ぼくらのぎこちない態度を話のタネにして愉しんでいるようだ。
(・・・・)
ぼくは何も言わず、てゐさんの手をとって --- 自分から、手を差し伸べて --- 縁側に出る。
垂らした足をぶらぶらさせ、月を眺めながら団子をほおばるてゐさん。
といっても、お腹はすでにいっぱいのようで、それについた餡を舐めているだけだ。
ぼくはちょっと恥ずかしくなり、視線を逸らす。
「てゐさん・・・」
「なぁに?」
「こうやってずっと会えないと、寂しいとか思わない?」
「うーん」
団子をお皿に置くと、
「兎たちが世話してくれるからね。友達もいるし」
(そういう問題じゃないんだけど・・・)
「でも、ぼくは・・・」
続けようとするぼくを遮るてゐさん。
「それは仕方が無いよ。お互い時間がいつもとれるわけじゃないでしょ?」
「そうだけどさ・・・」
「じゃあ何、毎日でも会いたい?」
そんな冷徹な声色を聴くのははじめてだった。
「毎日会ったら飽きると思うんだけど」
「・・・・」
(なんでこんなに冷たくなったんだろう。さっきまではあんなに・・・、それまで、今までこういう・・・)
「てゐさん、」
「お互いを縛り付けるのはよくないと思う」
ぼくは、ぎり、と歯をかみ締める。
「だって考えてもみてよ。あたしは永遠亭まわりの雑魚妖怪退治で忙しいし、あなたは現実世界で仕事に追われてる」
「・・・・・」
「これくらいがちょうどいいのよ」
視線を意図的に避けている彼女。ぼくはわざとおどけて、
「ちょうどいいって・・・どうして? 久しぶりに会えてうれしいな~、とか、もうずっと離さないわ~、とか言っても、」
「そんなクサいセリフとか態度、」
ぼくの中の何かがふっきれた。
「ちょっとまってよてゐさん。ぼくの・・・ぼくの気持ちだって、」
再び団子を舐め始めたてゐさんは、こちらを見ようともせず、
「スキスキ~、ってなったら負けよ」
「えっ」
「ほどほどが一番ってこと」
「そうだけど・・・そんな風に、言わなくてもいいだろ」
ぼくはてゐさんを見る。だが彼女の視線は、依然として円い星に注がれていて・・・
「てゐさん! ぼく、もう帰るよ。こんな会話しに来たんじゃない」
立ち上がりかけると、すっ、と彼女がぼくを横目で見るのがわかった。
(やっと見てくれた)
その唇の端が、ゆっくりと悪戯っぽくゆがむ。あの懐かしい、いつもの、かわいらしいイタズラっ娘の顔だ。
「ふふ、必死なところ、かわいいんだぁ」
ぼくは半泣きになりながら、
「ひどいよ、てゐさん・・・!」
彼女は見た目はちょっと年下とはいえ、やはり「おばさん」である。頭が上がるはずもない。
「ちょっと女王様が過ぎたかな」
声の調子も普段のそれを取り戻した。痒い所をさらにこしょこしょとこそばすような、甘酢っぱい色だ。
「女王様プレイにしては、ちょっとセリフが生々しすぎたと思います」
てゐさんは舌をちろりと出し、
「てへっ、ごめんね」
「てゐさんのイタズラ好きには困るなぁ」
月明かりが、彼女の無垢な(?)笑顔を照らしている。
「でも、そういうところがぼくは・・・」
言って、彼女の僕を見つめる瞳の様子がちょっと変なことに気づいた。
「てゐさん・・・?」
潤んだ目で僕を見つめる因幡さん。ぼくが何かを言おうとすると、かがむようにしてひざに飛び込んできた。
「てゐさん?!」
「ホントは・・・いつだって会いたいの!」
長い耳をそっとなでてあげる。ヴェルヴェット調のステキな肌触り。これにどれほど長い間、触れてなかっただろう・・・・
「ぼくだって、」
「あなたは何もわかってない」
ぼくの両膝に手をついて顔を上げ、
「あなたに会ってから四年・・・あたし、ずっと同じでしょ? 年とってないように見えるでしょ?」
「・・・」
「でも、あなたはどんどん死に近づく。いずれ、あなたは・・・・あたしは、」
ぼくはもう、彼女にそれを言わせたくなかった。
「てゐさん」
彼女の頬を両手で包む。
「あたしは、あなたを失いたく・・・」
「てゐ」
彼女の唇の甘さ・・・その切なさは、あまりに残酷で。
9スレ目>>27
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漆黒の空の下、瑠璃色の浴衣姿のてゐさんの肩を抱き、闇を刹那に照らす華を見上げる。
「やっぱり幻想郷一といわれる玉家さんのは、最高だね」
と、ぼく。
「うん」
と、てゐさん。目の前でかわいらしくあわせている手の薬指には、白銀の指輪。
「うん」
ぼくは彼女の腰に回した腕をもっとひきよせて、
「てゐ」
「なぁに?」
とどろく花火の音。それは、はじめて聴くのに懐かしいような音。
「ぼくは、てゐさんが、」
やがて向かい合う顔と顔 --- 近づく顔、閉じられる目。
瞼の裏に、光り輝く一時の陽が映った。
てゐさんに唇を重ねたぼくが思い出すのは、一週間前の出来事。
夏の暑い夜。ぼくとてゐさんは手をとりあい、半年ぶりに竹林を散策していた。
「ねぇ・・・・・あなた、変わったよね」
「どこが? 普通だよ」
だが、ぼくの心境は普通どころではなかった。
真夜中に次から次へとかかってくるクライアントからの電話。
親しくしていた健太の交通事故死。
持病の悪化によって諦めた、大好きな趣味。
こんな状況で幻想郷に来た所で、ぼくは癒されるのだろうか。
今日来たのは、「いつもの」来訪ではない。
てゐさんとの最後のデート以来、八雲さんはそれこそ毎日のように僕を幻想郷に誘っていたが、
僕は避けるようにしてその申し出を断ってきたのだ。
(色々立て続けて起こりすぎたから。・・・・・でも、それだけが理由?)
てゐさんのことは忘れることはできなかった。でも、会っても何をしていいのかわからない。
何を告げるべきか、彼女の想いにどう答えてあげるべきか。
忙しさとあいまって、会うことを避けてきた。
そんなある日のこと。現れた八雲さんはいつものように、
「・・・今日こそ、行ってもいいんじゃない?」
ぼくは今見ていたTVを消した。
「もちろん、イヤならいいんだけど?」
思い出すてゐさんの微笑。
意を決したぼくは、開かれたスキマから幻想郷へと足を踏み出す。
どれだけ二人の沈黙が続いただろうか。
永遠亭に到着して彼女の顔を見てから、交わした会話は「散歩しようか」「うん」という二言だけ。
静けさの中、てゐさんの丸い声がぼくに届く。
「・・・・・あたしに会いにきてくれたんだよね?」
「うん。」(本当は、どうしようか)「そうだよ、」(迷い続けてた)「会いたかったから」
「・・・・・気遣ってくれてるの?」
「・・・・・・」
「時間がないとか・・・疲れてるのならわかる。それに」
彼女のつぶらな瞳。
「精神的に余裕がないなら、無理しなくてもいいんだよ?」
ウソつきのプロだからこそできること・・・・それは、他人を見抜くということ。
(ぼくはなぜここに来ているのだろうか。ぼくの本当の気持ちは・・・)
「あたしはあなたのことが好きだし、お互いのことを想ってるならそれで、」
ぼくは遮るようにぼそりと、
「遠距離・・・」
「?」
「遠すぎるよ。やっぱり、無理なんじゃないかな? ぼくたち」
てゐさんの足がとまる。彼女は地面をにらみつけ、
「・・・・・それが理由? じゃあ、どうして来たの」
そこではじめててゐさんの語調が強まった。
「そんなことを言いに来たの」
「・・・・・・」
「それなら・・・・・いっそのこと、もうこなけりゃよかったのに」
ぼくはてゐさんの目を見ようとするけど、彼女の視線は固定されたままだ。
「そんなんじゃないんだ」
「だったらどんなの? ねぇ?」
懇願するような目つきでぼくを見やる彼女。
はるかに年上の、でもぼくより少し背の低い、すてきな女性。
そのひとは、ゆっくりと確認するように言葉を紡ぎはじめた。
「・・・・もう逢いたくないの、かな」
「・・・・・」
「・・・・・・あたしは所詮、幻なの、かな」
「・・・・・・・・・」
「あなたに逢えなくなるなんて・・・さみしいな」
ぼくは口をこじあけるようにして、
「だから、最近忙しいんだ。もう来れない。じゃなくて、」
強い言い方になるぼく。
「来てるヒマがないんだ。来たくないとかじゃないんだけど、」
(ほんとは、どうしていいかわからない)
てゐさんの僕の手を握る力が強まり、はっとした表情で、
「来たく・・・ないの?」
心の奥底を見透かすような彼女の眼。
「ね・・・・来たく、ないの?」
泣きそうに声が上擦っている。
「ね? あたしに・・・・・もう、逢いたくないの? 逢ってもどうしていいか、わからないの?」
「・・・・」
「あたしは、あなたのものなの。何をしてもいいの」
「・・・」
「でも、逢えなくなるのは・・・・」
ぼくは目線を引き剥がす。見る方向を変えるのに、こんなに力が必要だっただろうか。
「あなたの終わりは・・・あたしの終わりよりも、早くくる」
また、それか。もう聞きたくない。だからぼくは、意識して、わざと嫌味にこう言う。
「時間軸の違い? しつこいよ。てゐさん」
(・・・・酷いことを言った)
視線の片隅で彼女が哀しく微笑むのが見えた。
「あなたにはよく分からないかもしれないけど・・・ここは、幻想の郷。
外界のあなたたちにとっては夢と幻の世界。
でも・・・・・あたしにとっては、ここは紛れも無い現実なの。『幻』という現実なの、」
ぼくは、ぎりっ、と歯を食いしばる。
「あなたが好きだっていう、この想いも」
「・・・・・」
「・・・・だから、今だからこそ、伝えたいことがあるの。あなたがもう来なくなってしまう前に。
あたしとの出逢いも、二人の思い出も・・・あなたにとっての幻となって・・・消えてしまう前に」
「・・・・・」
突き刺さるような彼女のまなざし。
「どうしてあたしを見てくれないの?」
「・・・・・」
やさしく、
「あたしを見て」
「・・・・幻想の世界の住人に惚れた俺が、間違いだったのかもな」
言ってしまったあとで、ぼくははっとして視線を泳がせる。
ながながとした沈黙が横たわり。
暫くすると彼女は、ぼくの名を、いたわるように、包み込むように、ゆっくりと二度呼んだ。
耐え切れなくなったぼくは、ついにてゐさんの顔を見る。
その、細められた眼からは、大粒の涙が溢れ出ていた。
「帰っちゃう前に言わせて。またここに来るときがあったら、そのときは・・・・・ううん、
あなたはもう来たくないのかもしれない。でも、これだけは言っておきたいの。
この想いは、真実だと思うから」
言うとてゐさんは、ぼくの背中に手をまわし、ぎゅっと抱きしめてくる。ほんのり苦しいほどだ。
そして耳に届いた、その言葉。
「返事をしてくれなくてもいい。頷いてくれなくてもいい。・・・・・・・・・あたしを、」
「あなたのお嫁さんに、してくれないかな?」
うpろだ318
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まだ明るい日中、長い木の廊下を暗い顔して歩く影があった。
「あ~胃が痛え」
のそりのそりと、足を引き摺るように歩くその影は、腹を擦りながら漫然と天井を眺めていた。
「直に昼か。でもなんも食いたくねえなあ」
「そんなあなたに永琳印のこのお薬!」
テンション高く、どこともなしに永遠亭の薬師が現れる。
何時もどこにいるのだろうかと、影は会うたびに思うがいつも考えるのをやめてしまう。
どの道考えたところで答など出はしないし、考える意味も無いからだ。
「大丈夫。変な成分なんて入ってないから安心よ」
聞いてもいないことを喋りたてるが、肝心なことを話さない。
「……永琳さん、それ何の薬なんですか?」
「……1回3錠とりあえず飲んでみて頂戴」
「はぐらかさんで何の薬か教えてくださいよ!」
「いいからいいから、永琳を信じて」
手に持った薬を口元に押し付けながらにこやかに、かつ強引に飲ませようとしてくる。
「得体の知れん薬なんぞ飲めるか!」
そう言いながら抵抗するが、いかんせん胃が悪く物も碌に食えない体で、
健康体に勝てるはずも無く、徐々に押されていた。
「なあにお薬を飲むのが怖いの? なら飲ませてあげようか、口移しで」
「いらね~」
右手で器用に両腕をまとめ、永琳が薬と水(どこかから出した)を口に含む。
ところでゆっくりと水を溢しながら体を傾けていった。
「危なかったね」
倒れ伏す永琳の後ろから、大きな杵を持ったウサ耳少女が現れた。
「全くだ」
言いながら、そちらに近づく。
「大分手荒いけど、なんにせよ助かったよ」
「そう思うなら」
少女は手を後ろに回し、ごそごそと何かを探っている。
「あれ。あれれ」
が、どうにも探し物は見つからないようだ。
「ありゃ、賽銭箱を忘れちゃったみたい」
「それは残念。それじゃ……」
「まあ、なら私の部屋までおいでよ」
言って、服の裾を掴んで引っ張る少女。
助けられた手前抵抗する気もせず、部屋に連れ去られた。
障子を開けてはいれば、そこは存外多くの物であふれていた。
しかしあるのは幸せになれる壷やら霊験あらたかな塩やら、およそ胡散臭いものばかりである。
「座りなよ」
そう言って座布団を差し出してくる。さて座っていいものか逡巡していると、無料だから、と声が掛かった。
躊躇っていたのはそんな理由ではないんだが、と思いながらも腰を下ろした。
「はい賽銭箱」
数分後にどこかから賽銭箱を堀り出してきて、言ってくる。
「十円でも百円でも好きな額を入れてね」
「そうは言うが今手持ちは無いぞ」
それを聞いた兎はショックを受けたそぶりをし、そのままよよと泣き崩れる仕草をした。
「いや、そんなことしても無いものは無いから」
そもそも俺には給料なんて出ない。学生だからむしろ払う方だ。
「しょーがないなー」
けろっとした顔で言ってくる詐欺兎。本当に食えん奴だ。
「じゃあちょっと頼み事聞いてくれる?」
なぜ俺はこんなところで座椅子の代わりをやっているのだろう。
それは借金の形だ。俺は震える胴を腕で差し押さえている。
この間背もたれのある椅子が壊れちゃって、と言っていたが、プラじゃ無くて木ならすぐに直せるじゃないか。
「直そうと思って外に出していたら、いつの間にかなくなってて」
燃やしちゃったかもしれない。黙っとこ。
今てゐは膝の上で心理学の本を読んでいる。大方また何か詐欺にでも使うのだろう。
人間の心理学が妖怪相手に通じるのかは甚だ疑問であるが、読まないよりはマシか。
しかし目の前にウサ耳があるとこそばゆくてしょうがない。いっそ噛み付いてしまおうか。
それも面白いかもしれない。いや、耳の付け根を押してみるか。
普段髪に隠れている、人間なら耳のある位置に外耳はあるのか、それを確かめるのもいいだろう。
「ねえ」
てゐの頭に顎を近づけたあたりで声が掛かる。
「さっきなんでお師匠様に絡まれてたの?」
「うん? 胃が痛いってぼやいてたらどこかから出てきたんだよ」
声に変化は無い。これならばれていないはずだ。ミッション第2フェーズに入る。
ゆっくり上体を起こし重心を移動させる、と同時に右腕を床から離し自由にする。
膝上のてゐが肩を揺さぶるような素振りを見せたため体を動かすのを一旦停止し、右腕を背側の床に着地させる。
腕に力を込め体の位置を戻してやり、また右腕を解放する。
てゐはまた本に目を移しており、こちらに注意している感は無い。ミッション最終フェーズへの移行を承認する。
しかし、すぐに動いては拙いことになるだろう。ここは幾らか慎重になるべきか。
「ねえ、さっきからどうしたの」
! 感づかれた!
「いや、なんでもないよ」
そう言いながら極自然に右手を、てゐの右側頭部にかけそのまま髪をかき上げる。
事前に感づかれることを想定しておいて良かった。我ながら自然な仕上がりだ。
「うひゃあ」
存外かわいい悲鳴を上げるてゐ。ついでにウサ耳の付け根にも触っておく。
「なにするの」
「いや、ここに耳は付いているのかと思って」
むっとした表情をするてゐにしれっと答える。
「もーせっかく胃痛を治してあげようと思ったのに」
「無理だろ。永琳さんでもすぐには治せないんだから」
裏を返せば時間をかければ治るという事である。重症でないのだからゆっくり、他の臓器に負担を掛けない様にした方がいい。
「大丈夫、この液を飲めば。さあ口を大きく開けて」
何処より取り出だしましたるは青い液体、別名ポーション(旧)。死ねる。
「それはやばい。それはやばいからしまおうよ」
「大丈夫一日三回一週間飲んでれば治るよ。サービスで飲ませてあげるから」
「サービスって。無理だから青色一号は見た目にもきついから」
「平気だよ。私が飲ませてあげれば運良く治るよ」
「運良くとかそう言う不確定要素はやめようよ。特に医療で」
「薬飲むのが怖いの? なら口移しで飲ませてあげるよ」
「さっきの永琳さんと同じ事言ってるじゃないか!」
膝上で反転してこちらに向き直り言うてゐ。
その瞳に思わず俺はてゐの頭をそっと胸に抱くと、フェイスロックを決めてしまいそうになる。
「さあいってみようか」
そう思っている間にもポーションは俺の頬にピタピタとくっつけられる。
覚悟を決めた俺はてゐの頭に掛けていた手を解き、そのまま腕を下に持って行きまた力を加える。
すなわちてゐの体をかかえる様にして言った。
「口移し……できるものならやってみろ!」
そのときのてゐの表情の変化は随分と見物であった。
目を見開き口をぽかんとさせたかと思うと、すぐに目線を横にやり、顔を赤くした。
また数回体を振って逃げようとしていたが、廻した腕が多少緩んだだけで徒労に終わった。
「このままじゃ届かないよ」
幾らか後にてゐが言ってくる。こちらの胸に頭が当たる程度なのだから、そうだろう。
おどけた調子で腕をほどき解放するや否や、てゐが立ち上がる。
負けじとこちらも立ち上がる。すぐに座る。
「どうしたの?」
怪訝な顔をして見つめるてゐ。
「足が痺れた……」
子供程度の体重でも四半時程膝上に乗せていればこうもなるだろう。
「ということは……」
詐欺師が笑う。どうにも嫌な予感のするので、痛むが正座してすぐに膝で立てるようにはしておく。
「今ならやり放題?」
予感的中。
頬にぐいぐいとポーションの壜を押し付け、やれ飲めと催促してくるてゐ。
覚悟を決めて息を大きく吸い込み、その青い液体を一時に飲み下すと、喜ぶてゐの唇に口をつけ含んだ液体を流し込もうとする。
てゐも初め口を開けずにいたが、やがては口を開き液を受け入れた。
しかし双方嚥下することは無く、液は二者の間を行ったり来たりすることになる。そこに、
「ちょっとてゐ!」
機械仕掛けの神は何処かで見ていたか、スパーンと勢い良く障子戸が開かれ永琳が入ってくる。
それに驚き、双方共に口の中の液体を勢い良く噴出する。
「え、なにどうしたのかしら?」
突然のことに流石に戸惑う天才。
「いえ、何でも無いです」
咳き込みながら返す。
「それでお師匠様、ご用は何でしょう」
てゐも答える。
「あー、いえとりあえずこの子持って行くわね」
歯切れの悪い返事をしながら、俺の襟首をむんずと掴む永琳。
「さあ、さっきの薬飲んでもらいましょうか」
どうやら諦めていなかったらしい永琳は俺も捜していたらしい。
てゐに杵でどつかれたことは後で起こる腹積もりなんだろうか。
いってらっしゃい、とでも言うように暢気に手を振るてゐ。
「あ、そうだ」
俺が引き摺られていく最中、唐突に声が掛かる。
「一日三回だからまた後で来てね」
にこやかに言ってくるてゐ。
その笑顔に俺は今度は葛湯を持って来ようと決心した。
10スレ目>>389
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「口下手なんで一言だけ、好きだてゐ」
7スレ目896
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「てゐ!俺はロ○コンでも良い!俺はお前のその毒気に惚れたんだ!」
8スレ目 >>403
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「なあ鈴仙、俺てゐに嫌われてるのかなぁ」
「え?なんで?」
「バレンタインにチョコくれたんだけど、『わさび仕込んだろ?』って言ったら図星だったのか怒っちゃってなぁ」
「ひょっとして、まだソレ食べてないでしょ?」
「当たり前だろ?わさび入りと解ったら食わないよ。
その外にも、『〇〇、本当は好きなの』と言ってきたから『はっはっは。金目当てなら他をあたってくれ』って返したよ」
「…………それって、てゐが一ヵ月帰ってこなかった前日じゃない?」
「そうだよ? きっと急にまとまった金が必要だっだんだろうなぁ……金策に一ヵ月もかかるなんて」
「てゐを泣かせてる自覚ある?」
「あぁ、もちろん。
俺はてゐの嘘を見破るスペシャリストだからな。天敵として見られてるんだよ
でも、俺としては嫌われたくないんだよなぁ」
「ちょっと彼岸で裁判長に、乙女心を傷つけまくった罪を裁いてもらったほうがいいわよ」
10スレ目>>56
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やけに広く感じられる四畳半のド真中、俺は床に伏していた。
「…ああ、こんな事ならもっと友人作っておけばよかった。誰か見舞いに来ても良さそうなものの、朝から誰一人来やしねえ」
寂しさの余り切ないことを口走った途端、タイミングを見計らったように戸があいた。
「邪魔するよ」
黒髪、クセっ毛、そして兎の耳──
こういう時には来なくていいタイプの人(?)が来た。
「そういうのは口に出して言うものじゃないね。はい、薬」
そう言うとてゐは、タンスの上に薬の壜を置く。
俺は重い頭をゆっくり持ち上げ、タンスの薬を取って蓋を開けた。
「ツッコむ気力もねーよ。…これ、八意さんとこの?」
薬を手にとってふと、張ってあるラベルがなにやらおかしい事に気づいた。
よく分からない文字が並び、大きな髑髏が書かれている。
「そう。どんなしぶとい人間も、それ一錠でイチコロだって」
適量が分からなかったのでとりあえず一錠出し、ふらふらと台所で水を注いで一気に飲む。
しばらくしても死ななかったのでとりあえず安心だ。
「…ありがと。正直、まさかお前が見舞いに来るとは思わなかったよ」
その言葉を聞いて彼女は笑顔を浮かべ、
「賢い将は、敵が弱りに弱りきったところを討ち取るものなの」
と、言ってのけた。
「…の割には、毒薬もただの風邪薬。ま、これがてゐなりの見舞いって事かな」
「ね、確か戸棚に人参あったでしょ。食っていい?」
聞いてねえ。
「駄目。それは今度野菜炒めにしようと──」
「そっか、それじゃ仕方ないよね」
と言いつつ戸棚に顔を突っ込むてゐ。
「…聞けよ、人の話」
いや、聞いたからこうなったのか。
その後はしばらく、人参を齧るてゐとの他愛ない会話になった。
ってか、てゐが帰らないようにと戸棚にダンボール三つ分の人参貯めといた俺も俺だ。
「…なあ、てゐ」
「何?」
「お前、俺のこと嫌いだろ」
「うん。考えるとさぶいぼ立つ。話してると吐き気もする」
「俺が風邪ひいたって知ったとき、どう思った?」
「んー…一番最初、「よっしゃ!」って思った。すぐに「殺るなら今だ!」と考えた」
「…この薬は?」
「「○○を毒殺したい」って永琳さまに言ったら、結構反対された。けど説得してもらってきた」
「………じゃあ、最後。お前は嘘つきか?」
「何言ってるの?私、嘘なんかついた事もないよ?」
「……あ、そ」
セリフが流石に恥ずかしかったのか、てゐの頬が染まり始めていた。
「ああもう、ホント素直で可愛いなあお前は」
なんかが限界に達した俺は、半ば強引にてゐを布団の中に抱き寄せた。
てゐの方も抵抗せず、むしろ体を預けるように擦り寄ってくる。
「○○………ん…大好き」
ふと、ものすごく小さな声で放たれた、てゐの本心。
本来なら喜ぶべきその言葉を聞いたとき、ほんの一瞬ギョッとした。
この日の風邪は病気だったようだ。俺は既に「因幡病 末期」にかかっていた。
※因幡病…他人の言動の意味をすべて逆にとらえてしまう病気。
薬についてのてゐのセリフから、風邪薬を欲しがるてゐと○○にあげるのかと冷やかす永琳、
そして必死に否定するてゐが見えたら貴方はもう末期。
>>うpろだ1039
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紫の企画した神無月旅行、多くの少女達が、パートナーと共に、外の世界を満喫している。
そしてそのうちの一組が、海へ向けて走っていた。
ーー鳥取県、砂丘
「おーい○○、早く早くー」
「ま、まってくださいよてゐさん・・・・・・」
「なさけないぞー、男の子でしょ?」
「荷物全部背負わせて・・・・・・それはないでしょう・・・・・・?」
ここに居る少女は、永遠亭の兎、因幡てゐ。トレードマークの耳こそ、優曇華が弄って、
見えないようにしているものの、その特徴的なウェーブの髪と、同伴者をおもちゃのように扱うその性格は、
知る人が見ればすぐに彼女だとわかるだろう。
「ぜい・・・・・・・ぜい・・・・・・」
「やれやれ、ま、とりあえず休憩っと」
「は・・・・・・はひ・・・・・・」
息も絶え絶えで、ようやく男は、てゐに追いつく。そこは海を一望できる、見晴らしのいい丘だった。
もう秋も深いというのに、ダラダラ汗を流しながら、男は座り込み、荷物の中にあった水筒から、水分を補給している。
「まったく・・・・・・一体どうしたんですか? 鳥取に行きたいなんて」
「ちょっと思うところがあってね~」
「・・・・・・砂丘にいたずら書きは駄目ですよ?」
「しないわよ、もう~。私が来たのは、もっと高尚な目的のためよ!」
「てゐさんが・・・・・・高尚ですか・・・・・・?」
「あーもう、五月蝿いな~。黙ってついてくる! ほら、次はあっち行くよ!」
「ちょ・・・・・・まって・・・・・・せめてもう少し・・・・・・」
男の懇願には耳を貸さず、てゐは何かを探すように走り出す。男は、悲鳴をあげる体に鞭打ち、
必死でそれについていった・・・・・・
ーー数時間後
「・・・・・・死ぬ・・・・・・」
日も暮れかけたころ、ようやくてゐは走り回るのをやめて砂丘に座りこみ、○○は、砂丘に突っ伏していた。
それでもとりあえず、てゐに抗議の声を上げる。
「まったく・・・・・・一体・・・・・・何だって・・・・・・?」
だがその声は途中で止まることになった。てゐが、それまで見たことの無いような、どこか寂しげな表情を浮かべていたのに
気付いたからだった。
「・・・・・・どうしたんですか?」
「なんでもない・・・・・・」
「そうは見えませんが・・・・・・」
「なんでもないよ・・・・・・ただ、昔をね・・・・・・」
「思い出したんですか?」
「逆・・・・・・思い出せないのよ」
「・・・・・・?」
起き上がり、てゐの横に座る。やがててゐは、自分の過去について、ポツポツと、語り始めた。
「因幡の白兎、ってさ、知ってる?」
「ええ、島から、鮫を騙して海を渡ろうとして・・・・・・」
「そう。それね、私のことなんだ」
「・・・・・・そうだったんですか」
「あの時は、ひどい目にあったわ~、服は剥れるし、神には騙されて大怪我するし」
「はあ・・・・・・しっかり覚えてるんじゃないですか」
「最後まで聞け。でね、あの時、私が渡ろうとしたのが、因幡の国・・・・・・丁度、この辺りなのよ」
「へえぇ・・・・・・ですが、何故その・・・・・・あんまりいい思い出のない土地に?」
「・・・・・・故郷」
「故郷?」
「そう、あんたが時々、自分の故郷の話してて、それで、自分の故郷はどんなとこだったっけなって思って・・・・・・
でも、思い出せなくてね。ここに来れば、何か思い出せるかなって思ったんだ。どんな景色だったとか、
家族や仲間はどれだけ居たとか、楽しかったこととか、辛かったこととか、色々話そうと思ったんだけど・・・・・・思い出せないの」
「何も、思い出せないんですか?」
「淤岐島って所から、渡ろうとしたのは覚えてるんだ。けど、その前辺りからが、全然・・・・・・もう千年以上も前の話だから、仕方ないのかもしれないけどね」
「てゐさん・・・・・・」
「・・・・・・いつかさ、○○が死んじゃって、ずっと、ずうっと経ったらさ・・・・・・こんなふうに○○のことも、忘れちゃうのかな・・・・・・」
「・・・・・・」
「こうやって、景色を見ても思い出せないみたいに・・・・・・○○の写真とか見ても・・・・・・誰だっけて・・・・・・
思っちゃったりして・・・・・・こうやって話したりしてるのも・・・・・・全部・・・・・・」
てゐの声が、少しずつ涙混じりになってくる。長く生きる妖怪には、人間には思いもつかないような、悩みがあるのだろう。
てゐが泣くこと自体は、本人の嘘泣きやら何やらで、よく見ているが・・・・・・こうやって、感情を吐露するような泣き方は、初めてかもしれない。
「てゐさん・・・・・・」
「何・・・・・・?」
「その・・・・・・上手く言えませんが・・・・・・私は人間で、てゐさんは妖怪。そこにある隔たりは、大きいと思います」
「・・・・・・」
「けど、その・・・・・・てゐさんに取っては、悪い思い出でしょうが・・・・・・鰐との話や、大国主神との話は、覚えているのでしょう?」
「うん・・・・・・」
「だったら、私もそれと同じようになります。千年、万年経っても忘れないような、思い出に・・・・・・それも、最高にいい思い出に」
「○○・・・・・・」
「だからその・・・・・・ええと・・・・・・」
「・・・・・・口説き文句くらい、最後まで考えておきなさいよね」
「あ、あはは・・・・・・」
「でも・・・・・・気持ちは伝わった。ありがと・・・・・・」
「・・・・・・はい」
「・・・・・・目ぇ、閉じて?」
「・・・・・・」
言われるまま、○○は目を閉じる。そして、その口に・・・・・・
ジャリッとした食感が飛び込んできた。
「ぶっ!?」
「やーい! 引っかかった引っかかった!」
「このタイミングでこう来ますか!?」
砂団子をかまされ、うろたえる○○と、してやったりという表情で笑うてゐ。そこには先ほどまでの泣き顔は無かった。
「騙される方が悪いのよ! 悔しかったらつかまえてみなさい~」
「こ、この・・・・・・!」
言うと同時に、てゐは自分の荷物を抱え、走り出す。それを追い、○○もまた砂丘を走る。
「まったく! いつになったらその悪戯癖は治るんですか!?」
「一生治らないよ! ずっと付き合ってもらうからね!」
「ああもう、困った兎ですよ、本当に!」
「引っかかった時の間抜け面、、全部覚えておいてやるからね! 覚悟しときなさい!」
夜の迫る砂丘に、二人の声が響く。その声は二つとも、とても楽しげだった。
新ろだ57
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