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輝夜5

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orz1414

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「家の傍で遭難するとは、海の人の目をもってしても見抜けないな」

我が家から目と鼻の先にある竹林へ、竹を取りに足を伸ばしたのだが、何故か見覚えがない場所に出てしまった。
靄が掛かっていて奥を見通すことはできそうにない。
必要になったとはいえ、伐る時期ではないものを取りにいくべきではなかったか。
今更言っても仕方がないことを呟きつつ、どうしたものかと近くにあった岩に腰を下ろした。

「まずは手持ちの確認といっとくか」

持っているものを岩の上に順番に並べていく。
素人にはお勧めできない鉈、軍手、スポーツタオル。
携帯を持ってきてなかった、これでは助けを呼ぼうにも呼べない。

「中々に諦めが襲ってくる装備だ……」

ため息を吐きつつ、確認した持ち物を装備していく。
とりあえず、竹には悪いが目印となる傷をつけさせてもらうか。
一定感覚で十字傷を竹の幹に刻んでいく、こうすれば同じ道を通った時に気づけるだろうしな。
人間まっすぐ歩いているつもりでも曲がっていたりするからな。
そんな事をしながら、かれこれ何時間歩いただろうか。
既に辺りは薄暗く、日没直前だ。
どうやら今夜は野宿せざるを得ないらしい、風邪を引く季節ではないのが不幸中の幸いか。
野宿を決意してから、僅か数十分ぐらいの感覚で日は没した。
丁度いい岩なども見つからなかったが、空が見える開けた場所があったのでそこで適当に腰を下ろす。
足が痛い、体をしっかりと鍛え上げていたが、一日中歩き続けるのは少々堪えたらしい。
ふくろはぎなどを揉みながら、足を伸ばして体をほぐしていく。
人の目では見通すことのできない闇の中で、帰れるのかねえと心に不安がわき始める。
遭難一日目だが中々に精神的に追い詰められてるみたいだ。
参っているのを自覚すると次々に弱音を吐きたくなってくる、欝だ……家に帰って酒飲んで寝たい。
ぐだぐだとしながら地面の上に横になり、空を見上げる。
見上げて気づいたが今夜は満月だったらしい、とするとあの月では今頃ウサギが餅をついてるのか。
腹が減ったから、餅をついているのならその餅を俺に寄越してほしい。
思わずそう叫びたい衝動にかられたが、叫んでもより腹が減るだけなので諦めた。
目を瞑って体を休めているが眠気は来ない、これはつらい。
それでもこのまま時間さえ経てば、自然に寝付けるだろう、それまで我慢だ、我慢。
寝るという決意を固めて、幾分か過ぎた後だろうか。
何かが爆発するような音が連続して聞こえてくる、人がいるのか?
身を起こし、暗闇に包まれた周囲を窺ってみるが、特に何かが見えるということはなかった。

「空耳か?」

空耳だとすれば落胆せざるを得ない、きっと夢だったのだろうと自分を納得させ、改めて横になる。
……満月を後ろに背負い、人が飛んでいた。
思わず目を擦り、頬を叩いたりしたが夢ではないみたいだ。

「ありのままに起こったことを話すぜ……」

そんなフレーズがつい口から漏れる。
放心しながら浮かんでいる人を見ていると、どこからか光り輝く球体が無数に飛来してくる、まるで弾幕だ。
浮かんでいる人はそれらを軽やかに回避していく。
回避しながら向かう先には、炎の翼を背負った人影が狂ったかのように、大量の球体をばら撒いていた。
まるで御伽噺の世界だ、我を忘れて戦闘機のドッグファイトのような空中戦を観賞する。
何時間か経ったのだろうか、それとも数十分程度なのだろうか。
一際大きい爆音が響いた、どうやら決着がついたようだ。
炎の翼を背負った人影の一撃が直撃したらしい。
直撃をもらった人が煙を引きながら、落ちていく……こちらに向かって。

「こっちかよ!?」

どうするかと迷ったのがいけなかった、決断する前に受け止める羽目になった。
衝撃で地面に押し倒されつつも受け止めた人物――女の子を庇う様にしっかりと抱きしめる。
そして、筋肉痛で済めばいいなと、楽観的に考えながら地面を派手に転がり滑った。
10メートルは確実に転がったなと、自分の体が削った地面を見ながら、腕の中の女の子の安否を確かめる。
意識があるかどうかは分からないが、息はちゃんとしているようなので生きてはいる、ただし体の至る所に重度の火傷がある。
直にでも病院につれていかないと確実に死ぬだろう。
しかし、俺は遭難中……どうしようもない状態だ。
見知らぬ人物とはいえ、目の前にある命が失われていくのを見るのは流石に後味が悪い、なんとかしないと。
起き上がろうとしたところで思い出した、炎の翼をもった人影を。
空を見上げる、火球がこちらに飛んできていた。
追撃のようだ、御伽噺のようだからどこか安心していたのかも知れない。
だが、現実は非常である。
迫りくる火球から逃げようとして、足に力が入らず起き上がれなかった。
足を見ると関節が増えていた、さっきので折れていたようだ。
自覚すると同時に激痛が襲ってくる、そしてそれが決め手だった。
歯を食いしばり、少女を強く抱きしめ、火球に背中を向ける。
今の俺にできる事はこの程度だ。
熱いと自覚した時に宙を舞った感覚があった、それが俺が意識できた最後の感覚だった。






体中に走る痛みで目が覚めた、どうやら俺はまだ生きているようだ。
あの状態でどうやって助かったかは分からないが俺がこうして生きている以上、あの少女もきっと無事だろう。
体中に包帯か何かが巻かれている感触があることから、治療もされているらしい、誰だかは知らないがありがたいことだ。
目を開けようとして、目にも少しきつめに包帯が巻かれていることに気付く、これでは目が開けられない。
一瞬取ろうとしたが、取ると拙いだろうと思いなおし、腕を下ろす。
そして、治療されていることから、病院と判断してみて、手探りでナースコールを探してみるがそれらしい物は見つからない。
痛みに顔をしかめながら、体を起こし、どうしたものかなとため息を漏らす。
そんな時に扉が開くような音が聞こえてくる、誰かが来たらしい。

「あ、起きてる……てゐー、師匠呼んできて」

声の感じから若い女性の声だ、看護士の人かな。
彼女は体を起こしていた俺を寝かせると、色々と俺の体を触ってくる、検診してくれてるのだろう。
俺は丁度いいと思い、彼女に声をかけた。

「ところでどういう状況なのかを教えてもらえるとありがたい」
「ちょっと待ってね、そこらへんも含めて師匠が説明してくれるから」

看護士だろうと思われる彼女の師匠なら、きっと医者だな。
その言葉に納得した俺は師匠と呼ばれる人が来るまで大人しく待つ事にした。
その会話をしてから、幾分もしないうちに新しく扉が開く音が聞こえた。

「あら、本当にもう起きているなんて結構丈夫なのね」
「今軽く検診してみましたが脈等も安定しているので、もう大丈夫そうです」

声は柔らかく優しい感じだ、きっと綺麗な人なんだろう。
目が見えないのが非常に残念すぎる。
とりあえずは状況を説明してもらおう。

「そうね、何から聞きたいかしら?」
「俺と一緒に居た少女の安否から」
「あら、意外ね……彼女は無事よ、ピンピンしているわ」
「ならよかった、後は自身の状態とここがどこなのかを」

そして、師匠と呼ばれた医者――八意永琳の答えに俺は閉口することになった。
幻想郷、忘れられたものたちが流れ着く楽園。
まるで常世の国や桃源郷伝説だ、普段なら鼻で笑うところだが……意識を失う前に見た光景があるため否定できそうにない。
どうやら、俺はいつの間にか御伽噺の世界へ迷い込んでしまったようだ。
八意先生が言うには俺のように迷い込んだ外の人間を戻してくれる巫女がいるらしい。
怪我が治れば、その巫女に帰れるように頼んでくれるそうだ。
それまではゆっくり療養していいわよとのことだ。
治療代も払えない俺にそこまでしてくれる理由を尋ねたところ、俺が助けた少女は八意先生の主だそうで、そのお礼との事だ。
ただ全治三ヶ月以上はかかるそうだが……そこまで聞いたところで体力の限界が来たのだろう、妙に眠い。
そのことを八意先生に告げ、俺は起こしていた体を横たえる。

「何かあれば直に言って頂戴ね、それじゃおやすみ」

八意先生たちが部屋を退出する、俺はそれから直に眠りについた。




ふと目が覚める、傍に何かが居る気配がする。
気配は何をするわけでもなく、こちらを見ているだけのようだ、視線を感じる。

「誰だい?」
「あら、起きていたのね」

凛として透き通るような声だ、どことなく平伏したくなる。

「お礼を言いに来たわ」
「礼?」

礼ということは俺がかばったあの少女だろうか。
それを確認しようと俺が口を開く前に少女が答えてくれた。

「ええ、妹紅の攻撃を身を挺してかばってくれたお礼よ」
「巻き込まれて偶然そうなっただけだ、たいしたことはしてないよ」
「謙虚なのね、それでも助けてもらったことには変わらないわ……ありがとう」

本当に巻き込まれただけなんだがな。

「余り長居すると体に障るわね、今日はこれで帰るわ、おやすみなさい」
「ああ、おやすみ」

部屋から少女が居なくなり、部屋を静寂が支配する。
寝なおそうと思ったが目が冴えてしまっている、おかげで朝までのんびり考え事でもすることになりそうだ。





いつの間にか眠っていたのか、誰かに揺すられて目が覚めた。
どうやら、朝で朝食らしい。
目が見えない状態でどうやって食べようかと考えていたが杞憂だった。

「はい、あ~ん」

少女が粥をスプーンで掬って差し出しているようだ、口元に熱気が感じられる。
流石にこれは恥ずかしいので止めてくれるよう頼んだが、今の状態での介護を延々と語られた。
口を閉じて拒否の態度を示してみたが一向にスプーンが引くことはない、折れるしかないようだ。
大人しくされるがままにスプーンを受け入れた。
これが知人などに見られていたら、三日は部屋に閉じこもる自信がある。

「暇なんだな?」
「ええ、暇なのよ」

即答された、この少女は一筋縄ではいかない性格をしているようだ。
声を聞いたときに感じた印象は犬でも食わせておいたほうがいいみたいだなと思った。
することがないのかと思ったので聞いてみると。

「私は姫だから、何もしないのが仕事なのよ」
「そういうものなのか……」
「だから、暇つぶしに付き合って頂戴」

この日より少女――蓬莱山輝夜の暇つぶしに付き合うことが、俺の日課となった。
怪我人だから勘弁してほしいんだがな。





「○○、この間の続きを話して頂戴」
「この間というと……宇宙一かっこいいロリコン探偵の話か」

ここ永遠亭に来てから、かれこれ一週間は経った。
その間、暇つぶしに俺の部屋に姫さん――輝夜がよく顔を出してくる。
たまたま俺が知っているゲームや漫画の話をしたら、妙に気に入られて、強請られるようになった。
俺はさほど話上手ではないのだから、そうそう何度も強請られると困るのだが。
しかし、ベッドからまだ出れないので、話以外を強請られてもより一層困ることになるので、俺も強くは言えない。
ただ俺如きの話で一喜一憂してくれるのはとても嬉しいがね。
そして、話が佳境に入ったところで八意先生がやってきた。

「お楽しみのところ悪いわね、検診の時間よ、姫も後にしてくださいね」
「もう永琳ったら、もう少し待って欲しかったわ」
「検診が終わってから好きなだけ話せばいいじゃないですか」
「はーい、じゃあまた後でね、○○」

姫さんが渋々といった感じで話を諦めて、部屋から出て行った。
検診が終われば直に引き返してくるんだろうが。

「経過は良好……目はどうかしら? 痛みとか感じる?」
「いえ、特にはなにも」
「大丈夫そうね、じゃあ包帯を取るわよ」

目に巻かれていた包帯が取り除かれていく、徐々に感じられる光が強くなる。
しかし、右目にしかそれらが感じられない……どういうことだろうか。
包帯が完全に取り除かれた、ゆっくりと目蓋を開いていく、眩しい。
けれど、左目はやはり何も感じない。

「先生、左目が暗いままなんだが?」
「直に診るわ」

想像以上に綺麗な八意先生の手が、顔に触れる……柔らかい、思わずドキッとした。
頬が少し紅潮したが診断に集中しているようで気づかれていない、よかった。

「だめね、恐らく視神経が切れているわ……残念ながら失明よ」
「あー、ということは俺は今日から独眼鉄になるのか」
「意外と余裕あるわね」

実際は余裕などなく、かなりのショックを受けている。
茶々をいれたのは現実からの逃避だろう。
これで右目も死んでいたら、ショックで寝込んでいたのは間違いない。

「眼球そのものは無事だから、もう一度見えるようにこちらで何とかしてみせるわ」
「お願いします」

余り期待はしていない、見えるようになれば儲けものだ程度に思っておくのが適わなかった時にダメージも小さいだろう。
検診を終えた八意先生が部屋を出て行く、入れ替わるように姫さんが入ってきた、外で待っていたようだ。

「戻ってくるのが早いな」

苦笑しながら出迎える、そういえば姫さんの顔を見るのはこれが初めてか。
俺の目線に気づいた姫さんは、ぬばたまの黒髪を背中に流し、見る者を惹きつける笑みを浮かべた。

「目の包帯は取れたのね、よかったじゃない」
「ああ、おかげで姫さんの可愛い顔も見放題だ」
「ええ、じっくり見て頂戴、御代は後で頂くけどね」
「そいつは高そうだ、遠慮しておくよ」

ノリがいいお姫様もいるものだな、打てば響くのは話をしていて面白い。
この姫さんの暇つぶしに付き合っていれば、退屈しないでいられるだろう。
薄笑いを浮かべつつ、そんなことを考えていたら、姫さんが俺の左目を注視していた。

「ねえ、○○……その左目」

眼球が動いてなければ、そりゃ気にするか。

「大したことじゃないから気にしないでくれ」

視線から誤魔化すように俺は顔をそむける。
だが、そむけようとしたところを姫さんの手で顔を押えられてしまった。

「近い近い近い、姫さん顔が近い」

目と鼻の先に姫さんの美貌がある、これはまずい。
何が拙いかっていうと、俺の心臓がやばい、心臓がいってえ、緊張でキューっとしてきた。

「永琳は何と?」
「何とかして見せるだってさ」
「そう……なら安心ね」

姫さんが離れる。
ふぅ……心を落ち着けないと、流石に姫さんクラスの美少女のアップは緊張する。
姫さんは別に何も悪くないから気にしないでもらいたいんだがなぁ。

「どうせなら、いっそビームとか打てるようにしちゃわない?」
「そいつは名案だぁ……なんていうわけないだろ!」
「いいノリツッコミね、それでこそ○○……見込んだだけはあるわ」

杞憂でした、いい性格しすぎだな、おい。
こんな姫さんが主やってるから、八意先生も大変なんだろうなと思った。
しかし、そんな姫さんと付き合うのは中々に楽しい。
これなら幻想郷とやらの生活もずっと続いてもいいなと、その時の俺は思っていた。


うpろだ1313

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「地上も随分と変わったものね、風情がないわ」
「都心部だからな、仕方がないさ」

俺の隣で、高層ビルが立ち並ぶ風景を見回しながら、輝夜が不満を口にする。
服装も外界に合わせて、タートルカットソーの上に、ロングカーディガンを羽織り、靴はニーハイロングブーツだ。
流石は輝夜、何を着せても似合いすぎて、俺の理性が困る。

「まあ、いいわ……それより、○○のご実家はまだなのかしら?」
「ここから、2本電車を乗り継ぐから、後二時間ほどかかる」
「そう、じゃあ早く行きましょう、ここは不躾な輩が多いから」
「そうだな」

少しほど前、飲み物を買いに俺が数分いなかっただけで、輝夜の周りにはナンパの人だかりが出来ていた。
直、助けに駆け寄ろうとしたら、黙ってみてなさいと目で止められた。
その後は阿鼻叫喚だった。
最終的には、ナンパにきた男たちが「かぐや! かぐや!」と連呼する、調教された愚民になっていた。
数時間も放置していれば、集団デモ行動で通報されていたかもしれない、これがカリスマというものか……恐ろしい。





「永琳や鈴仙も今頃は、電車の中かしら」
「もう現地について、ホテルに入ってる頃じゃないかね」

緩やかに揺れる電車の中で、他愛もない会話を繰り広げる。
こういった何気ない時間が俺も輝夜も大好きだった。

「もしくは、どこぞでご休憩かもしれんよ」
「そこまでよ……と言いたいところだけど、それもいいわね、どう○○?」
「そいつは魅力的すぎる提案だが、時間はまだまだあるから、後の楽しみに取っておこう」
「そう残念ね」

艶やかに笑いやがって、人目がなければ確実に提案に乗っていた。

「それにしても、○○のご実家が楽しみだわ」
「ご期待に沿えればいいんだが、そんないいものじゃないぞ」
「それでもいいのよ、大事なのは○○……貴方の実家ということなのだから」

輝夜は本当に真綿で首を絞めるように、じっくり俺の心を溶かしていく。
もう抜け出せんな、抜け出す気など宇宙が滅ぼうともありえんが。


「着いたぞ」
「あら、至って普通ね」

輝夜の感想のようにどこにでもある一軒家だ、最後に見た時と何ら変わってない。
ちょっと感慨に耽りながら、鍵を取り出す。
鍵を開け、一足先に家に入り、輝夜に振り返る。

「ほら、いつまでも見てないで、とっとと入れ」
「はいはい、お邪魔いたします」

そのまま、輝夜を居間に案内する。

「きゃあっ」

そこで待ち受けていたのは何かが破裂するような音だった。
宙に紙のテープが舞う、パーティークラッカーだ。

「「おかえり~○○」」
「ただいま……つーか、輝夜をビビらせんな」
「「おお、熱い熱い」」

俺は音と同時に輝夜を抱きしめて、庇っていた。
そんな俺を見て、両親が茶々をいれてくる、これはうざい。

「さて、○○……その抱きしめてるお嬢さんはどちらさまかな?」
「初めまして、○○さんとお付き合いさせて頂いている蓬莱山輝夜と申します、宜しくお願いします」

俺の腕から逃れた輝夜が、居住いを正して、両親に挨拶をする。

「これはこれはご丁寧に、○○の父です」
「○○の母でございます」

そして、俺を見てニヤニヤするな。
でかしたとかいうな、親父。
もう「そこまでよ!」とか聞くな、お袋
輝夜もそれに乗るな!
くそ、突込みがおいつかねえ。




「あははははははは、面白い面白いわ、貴方のご両親」
「ネタにされてる俺は面白くねーよ」

風呂を済ませて、寝巻きに着替えた輝夜が、俺の部屋のベッドで笑い転げていた。
俺はそれを憮然とした顔で愚痴っていた。

「あら、いいじゃない……ここは暖かいわ、ご両親の愛があふれているもの」

恥ずかしげもなく、そういうセリフをよくいえるものだ、これもカリスマか。
流石は姫様、そこに痺れる! 憧れる!
……なわけがない。
等と適当なことを考えていたら、輝夜の顔が少し翳った。

「だとしたら、私はその暖かさを壊そうとしていることになるのね……」
「それは違うだろ」

輝夜、それは大きな間違いだ。
子供は、いずれ親から離れて、巣立って行くものなんだぜ。

「今回は八雲紫がたまたまこういう企画を立てたけど、次があるとは限らないじゃない」
「そうなったら、そうなった時に考えりゃいーよ」

そういって、輝夜の隣に腰掛ける。

「何より、俺がお前と一緒に居たいんだ
 その子供の意思を尊重こそすれ、否定する親なんてものは早々いねえよ」

特に俺の両親だしな、幻想郷のことを話したら、移住しかねん。
俺が真摯な説得に納得したのか、輝夜は俺に抱きついてくる。

「その言葉……嘘だったら、永遠に殺し続けてあげる」
「上等だ、逆に俺の愛で、永遠に殺し尽くしてやるさ」

そのまま、俺は輝夜をベッドに押し倒し……「そこまでよ」
両親が気づいており、翌日ひたすらからかわれたのはいうまでもない。


新ろだ58

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「ふぅ、流石に寒いねぇ」
俺こと○○は、一人渡り廊下に座り季節外れの月見をしていた
別に満月ですらなく、三日月とも半月とも呼べない中途半端な形をした月だけを肴にし、ちびちびと酒を呑む
場所は竹林の最奥、永遠亭
幻想郷に迷い込んだ際、妖怪におそわれその手当を受けたままなぁなぁで厄介になっている
本来ならば神社の巫女にあちら側へ送り返して貰うのが定石、というか普通一般にはみなそうするらしい
のだが、別段あちらでしたいこともなし、流れに任せてみるのも一興かなぁと思ったのが運の尽きとでも言えばいいのか
やたら俺に興味を持った人物が、そんな話をけしかけたのが事の発端ではあるのだが
まぁそれが誰かといえば
「あら○○、今自分一人で月見?またずいぶんと酔狂ね」
そう、こいつである
黒く、床にまでつくほどに長い髪を持つ、日本人なら誰でも知っているであろう御伽草子のヒロイン
かぐや姫こと蓬莱山輝夜その人である
まさか当の本人だとは思わなかったが、話を聞く限りどうやら本物らしい
流石に御伽草子の登場人物とお知り合いになれるとは思っても見なかったわけで
そんな人物から熱心にうちに住みなさいよ!とか言われたら承諾せざるをえないわけで
断れるわけ無いだろ、常識的に考えて
いやほら、それ抜いても美人だしね輝夜って
男として、いや漢として断れないじゃない?
有り体に言えば惚れたのさ、一目惚れさ
「ん、輝夜か。何か用でも?」
ほろ酔いの顔を傾けて、輝夜の顔を視界に入れる
酔ってでもいないとまともに直視できない
初心だねぇ、とよく言われました
「用がなくては話しかけたらいけないのかしら?」
なんて言いながらにこりと笑う
畜生、卑怯だ可愛すぎるぞこいつ
「別にそうは言ってないけどね、一応こういうのはお約束だろう?」
「そういうものなのかしらねぇ。でもそれにしても時季がはずれ過ぎじゃない?十五夜にしても違うし、雪見というには時期尚早だし」
ふぅ、と軽くため息を一つ
「前にも言った気がするが、あんまり盛大に騒いで酒を呑むのは好きじゃないだけさ」
そういういかにも酒が合いそうなイベントでは必ず大騒ぎになる
酒は静かにちびちびと、が好きな俺にとっては以ての外
故に神社の宴会へも輝夜と永琳に、というか主に輝夜に行こうと言われているが断り続けている
酒を呑まなければ騒ぐのも構わないが、酒がその場にあるのに呑まない、というのもつまらない
ふーんという声が聞こえたかと思うと、輝夜が横に腰掛けた
「…輝夜?」
「騒がなければ別に一人じゃなくとも呑めるわけね、だったら今ここで私と呑んでも問題はない、と」
ふふん、と得意げな顔をし上機嫌な輝夜
「ま、いいけどね」
言いつつちびちびと飲み続ける
酒の肴は今や微妙な月から輝夜との会話へと移行
やはり月などより美女の方が肴にはいい
先ほどより格段に酒が旨い
「ちなみにそのお酒何処から?」
「ああ、台所の奥にあったぞ。まったく、俺から酒を隠そうなんて百年早い」
「ああ、やっぱり」
なんか人を哀れむような目線を向ける
「やっぱりって何がさ」
聞きつつちびちびと、ではなく一度一気にあおる
「それ、永琳秘蔵のお酒よ?ばれて折檻で済めばいいわね」
ぶうぅー!
「げほっげほっそういうことは、もっとげほっはやくにだな…」
思わずあおった酒を吹き出す
酒が気管支に入るとろくな事が無い
というか痛い
「あっはっはっはっはっは!まぁまぁ、ばれない程度に呑んで戻せばよし」
「戻せなかったら?」
「頑張ってね♪」
にこり、と殺人級の笑顔を向けて一言
ひでぇ、あんたひでぇよ
「冗談だって。そのときは一緒に怒られてあげるわよ」
からから、と一頻り笑ってふぅ、と息を整える
「はい」
ずいっと手を出すは輝夜
「…ん?」
「だから、はい」
ずずいっと
「いやだから何さ」
俺にお手でも求めているのかこのお姫様は
「何って、私の分の盃は?」
ああ、そういえば一人で呑むつもりだったので一つしか持ってきていない
今から取りに行くのは面倒だし、何より興が冷める
さてどうするかと小考、一計を案じる
「輝夜、ちょっとこっちに」
こいこい、と手招き
はいはいと応じる輝夜
それを見てから盃に酒を流し込み、それを更に自分の口へ含む
疑問符を浮かべる顔を掴み、状況を把握される前に素早く流し込む
当然のごとく口移しで
「ん~~~!」
数秒の口づけは口に含んだ酒を移し終わった刹那に終了
…………って
何をしてるんだ俺は
「あら、以外と大胆なのね」
された輝夜は、月明かりではわかりづらいながらも若干頬を赤らめる程度の反応
「酔いが冷めて猛省する姿が目に浮かぶわねー」
くすくすと笑う輝夜には口移しをされたことに対する反応は特に無い
「…冷める前から既に猛省してるわい。というか、されて嫌じゃなかったのか輝夜は」
んー、と思案をし
「そういう貴方は何で口移しなんてしたのかしら?」
質問を質問で返す輩は以下略
その質問に答えろと言うのですか貴方は
盃が無かったからと言うにも、その盃を輝夜に使わせればよかっただけであるし、何よりもそのようなことに及んだ最たる原因は
「好きだったから…かなぁ」
やっぱそれに尽きるんだと思う
何のかんの言っても一目惚れだしね、俺
「あらあら」
頬を赤らめるは輝夜
ん?今のもしかして声に出てた…?
うわーい俺ってばだいたーん
今必殺の大暴露大会ですね
今まで一人でしか呑んでなかったから、自分がどう変わるかなんて把握し切れてなかったからかね
畜生、今日は厄日か
「それじゃあ答えね」
俺から一升瓶をひったくり、そのまま行儀悪くラッパ飲みの勢いで口に酒を含む
先ほどとは逆の関係で、酒を流し込む
酒を全て移し終わると、口づけは終了
「さぁ、私の答えは伝わったかしら?」
満面の笑み、恐らく自分が今まで見た中では最上級の笑顔を浮かべ
「これでも一目惚れだったんだからね?」
なんて、殺人的な一言まで発してきた
くらり、と目が回る
そのまま倒れそうになるのをこらえる
「さて、これでお互いの気持ちが確認できたわけだけど」
どうする?と蠱惑的な笑みを浮かべて誘ってくる
流石にこの輝夜なんて酒に溺れるのはまずい気がする
が、それも一興である気がしないでもない
いや、そうせざるをえない
輝夜から一升瓶をひったくり、同じように含みまた口移し
今度は口移し終わり、それを飲み終わっても続く長い口づけ
一分とも十分ともとれる口づけを終えると、その役割は交代する
酒が尽きるまでの無限ループ
どちらが終えるともわからぬ行為を繰り返し、酔いは深くなる



「…んー」
昨夜はそのまま寝てしまったらしい
節々が痛いがそれよりも頭が痛い
これは流石に
「おや、お早いお目覚めですね」
のみすぎた…
「え、永琳…お、おはよう」
ぎりぎりぎりとさび付いたように動かない首を動かして、ようやく顔が声の方向へと向く
そこには鬼の笑みを浮かべた永琳が仁王立ち
鬼の笑みって何かって?殺気びんびんな笑みだよコンチクショウ
「昨夜はずいぶんとお楽しみだったようで。私秘蔵の日本酒を空にして姫様を籠絡してさぞ楽しかったでしょうね」
ろ…籠絡?
日本酒は勢いで空にしてしまった気がしないでもないが、と思いつつも辺りを見渡すと
明らかに着崩れして、この地獄の状況はなんのそのすっげぇ幸せそうな笑みを浮かべて爆睡中のお姫様
んふふー○○~そこはダメよ~は・ぁ・と
じゃねぇですよ姫様
流石にその寝言は俺のデッドラインぶっちぎりですよ畜生
ぶっちぃんと
堪忍袋とか血管とかいろいろ混ぜて無いものも混ぜた物が一斉に切れた音
つまり俺の死亡フラグがたった音です
わかれ
「さて、これから○○は私の実験…もとい説教に付き合って貰いますが異論はありませんね?」
あるとか言ったらこの場でバラすとでもいいそうな迫力
高速で首を縦に振りまくる
むんずと首根っこをつかまれ、その場を引きずられて研究室へ連行
あわや実験体にされかけたところを遅れて起きた輝夜が気がつき事情を説明して平謝り
ついで俺と輝夜の二人で平謝りして五時間正座で説教の後開放
事なきを得た

「流石に足が痛い…」
「私もよ…」
お互いに開放された後、研究室を出ながらお互いにぼやく
うむ、流石にあの呑み方は危険すぎる
何より限度がない
今後はあんな呑み方は自重しよう
なんて思った矢先
「ねぇ、また今度あれやりましょう?」
今度は怒られないように私の部屋でね
なんて赤ら顔で言われたら、そんな豆腐如き脆い決心はすぐに崩壊
嗚呼、もう抜けられそうにもない


新ろだ160

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「暇ねえ・・・」

「暇ですねえ・・・」

と、ある竹林の奥の奥にある永遠亭で呟く二人

「○○ー、何か楽しいことないのー?」

「特にないですねえ・・・」

俺は○○。ごく普通の人間なのだが。
月から来た死なないお姫様に仕える人間。
ってだけで普通ではないかもしれない。

「もう・・・、なにか考えなさいよ。」

「そう言われましてもねえ。」

いつもなら永琳様や鈴仙がいるのだが、その二人は現在ほかの男たちと遊んでる。

従者で在りながら主と恋愛関係にあるというのは非常に失礼?なのかもしれないが、
姫様が望んできたことなので気にしないことにする。

「もう・・・、あなたは私のなんなのよ!」

この会話ももう何回したかも覚えていない。
それほど暇なのである。

「姫様の従者であり、輝夜の恋人ですよ。」

名前を言い換えてるのは自分なりのモットーである。
公私混合しない・・・ってのは違うか。
姫様は気にしていないようだが、やはりそれなりのケジメはつけておきたいし。

「暇ねえ・・・」

「暇ですねえ・・・」

っと、ここまでの流れはいつも通りだった。

「そういえば・・・」

姫様が口を開いた

「人間って本当に不便よねえ・・・」

「そうですかね?特に不便なことなんてないと思いますが・・・」

「不便よ。だって長くても100年・・・。赤子のときもあるから50年一緒に居れればいいほうなのよ?
 そんな短い時間で私を満足させれるのかしら?貴方は。」

確かにその通りかもしれない。
俺は普通の人間。
相手は死ぬことのない人間。

俺のほうが早く死ぬに決まってる。

「・・・俺が死んだら、姫様はどうしますか・・・?」

「そうねえ・・・、どうするかなんてわからないけど。
 とりあえず泣くと思うわ。
 泣いて泣いて、貴方のことを恨むわ。」

「恨まれちゃいますか。まぁ姫様を残して死ぬんだから当たり前ですよね・・・」

「貴方はどうするのかしら?私のために、何ができるのかしら?」

「俺は姫様の従者ですから・・・、命令されれば何でもしますよ。」

従者は命を懸けて主を満足させる。それが従者らしい。

「じゃあ私が貴方に死ぬな、って命令をすれば死なないのね?」

「勿論ですよ。まぁ永琳様の協力が必要になるでしょうが・・・」

「判ったわ。それだけで十分よ。
 ただし、○○。」

「生きてる間は、私のために尽くしなさい。
 私のために尽くし、死になさい。
 これが命令よ。」

「難しい命令ですね。」

「そうかしら?これでも譲歩したつもりよ?」

「俺としては、生きてる間は姫様のために尽くし、
 蓬莱人になっても尽くし続けたいんですがね。」

「ならばずっと生きてなさい。それでいいわ。」


主の満足気な顔。
それが恋人としての最高の笑顔である。
それを守るために俺は生き続けたい。

>>新ろだ426

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