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衣玖1

最終更新:

orz1414

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「ちょっと、話があるんだから聞きなさい」
「――なんでしょうか、総領娘様」

 天界にて、衣玖は天子に呼び止められた。
 彼女の自儘っぷりはのっけの一言からも伺える。
 またぞろ何か妙なことを考えているのだろう。
 空気を読むまでもない。
 恐らくそれは、○○という一人の男とのことについてだろう。

「相も変わらず○○に手出ししているんでしょう」
「竜宮の使いといえど、女ですので」
「私と○○とのことは口出しする癖にっ」
「恐れながら、貴方は比那名居の総領娘様であらせられるので」

 身分違いであると。
 種族の差はこの際、幻想郷においては些事だろう。
 しかしそれを指摘されると天子は得意げに唇を歪めた。

「ふっふーん。そこでこれよ!」
「どこでどれですか」

 彼女が取り出したるは一枚の紙。
 誓文の一語に始まるその文章に目を通す。
 そこには何やら長々と書かれていたが、要点を掻い摘んで言えば。

「……男、○○を比那名居の婿とし、比那名居天子と夫婦たらんことを……」
「ここに許す! どうよ。族長全員口説き落としてやったわ!」

 大方、緋想の剣を持ち出すなり、要石の件を持ち出すなりして脅したに違いない。
 いやいや、頭の軽い天人のことだ。面白そうだと喜んで判を押したとしても可笑しくはない。

「ともかくっ、これで○○は私のものなんだから。わかったらさっさと――」
「わかりました。諦めます」
「そう、諦め……って……。へ?」

 間の抜けた声を上げる天子。
 彼女の予想だともう少し抗するだろうと思ったのだが、拍子抜けだった。

「形がどうあれ、形を成したのであれば。天界の取り決めに口を出す訳にはいきませんし」
「あ、うん。そう? そうだよね。そうでしょ」
「お祝いの言葉を送らせていただきます。形だけですが」
「うん! ざまあみろ。してやったわ!」

 勝ち誇る天子をよそに、ふわりと衣を翻す。
 向かう先は、下界。

「ちょっと、どこ行くのよ。話はもう終わったんだから、後はあんたが泣いて悔しがる番でしょう」
「○○の所ですが、何か?」

 悪びれもせずに嘯いてみせる衣玖。

「はあっ? 私の話が見えなかったの? 泥棒魚はお呼びじゃないから、猫に食われろって言ってんのよ!」
「流れは読めますよ。だからこうして、○○の所に貴方との仲を許された旨、お知らせに行こうとしてるんです」
「……なんでそこであんたが行くのよ」
「私は衣玖。人間に重大なお知らせを伝えるのが仕事ですから。それに、この場合。私に彼と会って話す権利はあると
思いますが」

 惚れた男に最後の挨拶。
 ふーん、と天子はほくそえんだ。

「それもそうね。お別れの挨拶くらい許してあげるわよ。私ったら寛容な女ですもの」
「ありがとう御座います。では」

 お互いに心無い言葉と心にもない言葉を交わし、別れた。




「と、いうわけで。おめでとう御座います」
「どういうわけだかさっぱりわからない」

 ○○の家。
 開口一番に祝いの言葉をぶつけられればそれは戸惑う。
 呪いの一つも唱えそうな眼で睨まれながらであればなおさらだ。

「つまり。貴方は天界に昇って、毎日毎日呑めや歌えやのドンチャン騒ぎ。釣り糸を垂らしながら総領娘様を皮切りに
天女どもを侍らせて桃源郷の如きハーレムを楽しむことになるのです。死にもせず。死ねば良いですのに」
「最後の一言だけえらく実感篭ってましたね」

 大概にして空気の読めない○○でもその殺気くらいは読めた。
 見えないものは読めないが、色に出てバチリバチリと放電を繰り返す彼女の衣は目に嫌でも入るのだから。
 しかし、それにしても――

「ん~……。参ったなぁ……」

 いきなりは今に始まったことではないし、天子に始まったことでもないのだが。
 婿入りおめでとうと言われても、それは彼の預かり知らぬ所で決まった話だ。
 手放しには喜べない。
 諸手を上げて喜んでみれば、きゅいんきゅいんとドリル状に回転する衣に貫かれることは間違いない。
 降参だ!
 両手を挙げろ!

「嬉しくないのですか。総領娘様も容姿だけなら人並み以上ですのに。性格は人並みより異常ですが」
「いや、天子は嫌いじゃないけどね。見た目とか中身とかはひっくるめて置いておいて」
「っ、なら。問題はありませんね」

 伝えることは伝えたとばかりに彼女は踵を返す。

「問題しかないよ」

 その手を掴んだ。
 びくりと、感電したかのように震える衣玖。
 同時に、振りほどいて逃げ出したい衝動に駆られた。
 同時に、彼の手を引っ張ってどこかに飛び去りたい衝動にも駆られた。
 どこに?
 二人だけの、邪魔の入らない場所に。

「離して、下さい」
「話を、聞いてくれ」

 この時ほど彼女は自分自身の能力を悔やんだことはない。
 それは先程、勝ち誇った様子の天子に呼び止められた時よりも。

「好きでもない女と結婚できない」
「嫌いじゃないって、言ったじゃないですか」
「好きと嫌いじゃないは、別だ」
「嫌いじゃなければ好きにもなれますよ」

 無意味だ。この遣り取りは酷く無意味だ。
 彼女には見えている。
 彼が何を言いたいのか、彼が何を言うのか。
 ただそれだけが聞きたかったのに。
 でもそれだけは聞きたくない。

「好きな女は別にいるんだ」
「結婚前から浮気ですか、節操ないですね」
「俺が好きなのは彼女だけなんだ」
「一途に想われるその女性は、幸せですね」

 わかっていた。
 彼女もわかっていた。
 口に出さずとも、彼との間に漂う空気は読めていた。

「気づいていたんだろう、衣玖だって」
「何のことだか、わかりません」

 だから、それに浸って。
 ぬるま湯のような甘い空気に浸かって。
 割って入りたがる他の女性に勝ち誇って。

「俺の好きな人が誰なのか」
「そんなの、口にしなきゃわかりません」

 勝利宣言もないままに、勝った気でいたのだ。
 そしたら、これだ。
 割って降ってきた、空気も読めない相手に、試合終了を宣告されてしまった。
 本当、ざまあみろだ。

「なら言う」
「知りません」
「ずっと見てた。一目見たときからずっと」
「聞こえません」

 そんな、今更、今になって、今このときに、こんなときに限って。

「俺が――」
「いや、」

 お願い。

「好きなのは――」
「聞きたくない、」

 もっと聞かせて。

「衣玖。君なんだ」
「あぁ……!」

 これで最後だから。

「俺と、結婚して欲しい。衣玖と結婚したい。ずっと一緒にいたい」

 私も、私だって、私が一番。
 好き、好きで、好きだけど。

「――ありがとう、御座います。○○」

 そして、

「さようなら、私の愛した人」

 止める間もなく、彼女は飛び去った。
 彼の手に残ったのは羽衣と、僅かな温もり。
 彼の目に映ったのは涙の雫。
 ぽつりぽつりと、外には雨が振り出した。
 

 その後の○○の行動は早かった。
 その手に残った衣を纏い、愛しい女を追い空を翔る。
 道中の追っ手(天子やらその他少女たち大勢)の手やら足やら弾幕やらから、逃げ切り振り切り振り逃げて。
 ついに○○は山を越え雲を越え、天界まで飛び越えて。
 龍の世界に到着したのだ。
 幻想郷の創造神として崇められる竜神を前に、○○は言った。

「私は○○。幻想郷に住む只の人間です。どうか私の願いを聞いて欲しい」

 いと尊き龍の神、髭を揺らしてさも愉快げに笑った。
 創造神にして破壊をもたらす御身に、只人が物申すなど前代未聞。後世にも現れはしないだろう。
 試みに問うた。人でありながら龍に聞く、貴様の願いとは何ぞやと。

「私の願いは只一つ。竜宮の使いである永江衣玖。彼女との婚姻を龍神の名の下に認められたい」

 龍は一瞬驚き、その後げらげらと鬣をよじり稲光を震わせて笑いうねった。
 この男、御身に仲人をやってくれという!
 こんなにも面白い人間がいたのか、こんなにも愉快な人間が育ったか!
 人でありながら妖怪を娶らんと、人でありながら龍の御前に現れて。
 幻想郷、平和に退屈にやっていたと思ったら、随分と楽しげではないか。
 笑い通した龍は快く願いを聞いてやった。
 こんなにも笑ったのは何千年ぶりだろう、下界では雷鳴が轟いてさぞかし肝を冷やしたに違いない。
 いい気分だった。
 いい気分ついでに一つ条件をつけてみた。
 婚礼の儀を挙げるときは自分を呼べと。
 龍の前で誓いを成せと。
 そのときは美味い酒を用意しておけ。何せ肴は極上だ!

 礼を言って去る○○に、龍のうろこを一枚渡した。
 誓文代わりだ。龍に見合う筆なぞ無いし、判もまた同じなのだから。




 そんなこんなで色々あって。
 ○○の家、彼の前には飛び去った筈の衣玖がぷりぷりと怒っていらっしゃった。

「全く信じられません。冗談じゃありません。正気とは思えません。まさか追いかけてくるどころか龍神様にお目通り
するなんて、まともな人間のすることじゃありません」

 帰ってきて以来、ずっとこの調子である。
 いや、まだ軟化した方か。
 再会した瞬間にグーでパンチされ、浮かされたその後脅威の空中コンボを決められたことに比べれば。
 〆はサタデーナイトフィーバー。

「ちょっと、聞いてるんですか!」
「いや、聞いてない」

 んな、と怒りに言葉を詰まらせる衣玖。
 真っ赤に染まった彼女の顔。
 ここまで感情的になる衣玖は○○も初めて見る。
 それもまたいいなあ、などと思うあたり彼は凶行に走るべくして走るような奴だった。

「これ、衣玖に返さなきゃ」
「え、あ……」

 彼女の残した羽衣。
 これが無いと空を飛んでいくなんて無茶、到底できやしなかった。
 いや、そうなったらそうなったで他の(また恐ろしく無茶な)手段を講じただろうが。
 それをふわりとかけてやる。

「うん、やっぱり衣玖が一番似合う。一番綺麗だ」
「~~っ……そ、そんなことで誤魔化されませんからね! 大体……!」
「それでも俺は聞いてない」
「あ、貴方って人は――!」

 しかしやっぱり彼は聞いていないのだ。
 問に対する、その答えを。

「衣玖の答えを、俺は聞いてない」
「、ぁ……」

 礼と別れを一方的に告げられただけで。
 それじゃあ答えになってはいない。
 どうやら彼女も何のことか気づいたらしい。
 頬を桜色に染めるそれは怒りではない。

「ん? 忘れちゃったか。ならもう一回……」
「いいです! 覚えてますから、忘れられるはずないですから、て……っきゃー!」

 本音がポロリ。
 桜を通り越し、衣のように緋色に染まる頬を手で覆い隠す。
 これも○○の見たことのない彼女の姿。
 ああ、でも。
 これから一つ一つ知っていく、新しい彼女の魅力。
 彼だけに見せる彼女の魅力、自分だけの衣玖。
 それが○○には今から楽しみで楽しみで仕方がなかった。

「えーっと、ですね。その、なんというか。アレでソレなお話でしたが……」
「うん。俺が衣玖と結婚したいっていう話」
「言わなくていいんです!」

 漸く落ち着いて、また引っ掻き回されて、もう一回落ち着いて。
 右見て左見て天を見上げて、観念したように溜め息をつく。

「もう、ここまでやられて。この私が、他の答えなんて言える訳がないじゃないですか」

 全ての物事には流れがあって、それを例えば空気と言うのだ。
 そして彼女の能力は「空気を読む程度の能力」
 であるならば、言うまでもない。

「でも、口にしないと伝わらないこともあるらしいから」
「貴方が言いますか、それを」

 言葉は音だ。
 音を響かせるのは空気だ。
 音の葉は空気の流れに乗って、余人にもそれを伝えるだろう。
 だから、響け。高らかに。

「私も、同じです。一目見たときから、貴方を好きになった。愛してしまった。
 だから、こんな私でよければ。貴方の側に置いてください。末永く、いつまでも」
「是非もない。今から君は、俺の妻だ」
「はい、あなた」

 雨は止んだ。
 雷が空気を澄み渡らせた。
 差し込む晴れ間。
 幻想郷に、美しい七色の虹がかかっていた。




 了

>>うpろだ1168,1169


───────────────────────────────────────────────────────────


昔々、ある所に一人の男が住んでおりました。
男はいい加減、嫁も貰おうかという歳なのですが、いかんせん相手も見つからず寂しい日々を過ごしておりました。
そうした毎日にうんざりするある日、ふと、男は天に向かって呟きました。
「可愛い女の子でも降って来ないものか」
勿論、本気でそんな事が起こるなどと思っている訳ではないのですが、男はもう、藁にもすがる思いだったのです。
果たして、そんな悲壮な胸の内が天に通じたのでしょうか。ちりじりに浮かんでいた雲は俄かに一つ所に集まって大きな雲となり、その中心にぽっかり穴を開けたかと思うと、そこから一人の天女が降りてきました。
男は余りの事に呆気に取られてしまいましたが、天女の美しい仕草や穏やかな風情を目にするや否や、顔を綻ばせ喜びに咽んで言いました。
「嗚呼、なんとしたことか。かように美しい娘を私はついぞ見たことが無い。さては龍神様が先の頼みを聞いてくださったのだな。ありがたい。ありがたい。」
男は、もうすっかり目の前の天女を嫁に貰ったつもりで大喜びです。
しかし天女の方は少し困った様子で、自分が降りてきた理由を話し始めました。
「天上では近頃、我儘な天人様に加え鬼まで棲むようになり、また色んな人間や妖怪がやってきては騒ぎ倒す毎日。とても賑やかで楽しいのですが私は少し疲れてしまいましたので気晴らしに地上に参ったのです」
それを聞くと男はがっかりしてしまいましたが、ここで引き下がるわけにはいきません。一つ知恵を巡らせる事にしました。
男はわざと意地悪く笑って言いました。
「天女様、天女様、貴方は本当に美しい。しかし貴方を(羽衣が)ぱっつんぱっつんだと言う者がいる」
天女は少しムッとして、羽衣を取り払ってしまいました。
その姿は誰もが目を奪われるような魅力に満ちており、胸は豊かに膨らみ、腰は綺麗に括れ、尻は良く熟れた桃を思わせる様でした。
少し恥じらいながらもこちらを窺うような仕草に、男はどうにかなってしまいそうになりましたが、頭を振って正気を保ちます。
「天女様、天女様、貴方は本当に美しい。しかし貴方が空を舞うのは減量の為だと言う者がいる」
これには天女も困ってしまいました。なにしろこればかりはいくら否定した所で言い訳にしか聞こえません。
そんな様子を見て男は内心、しめたっとばかりに喜びましたが、努めて優しく言いました。
「こう見えて私はなかなか力持ち。一つ貴方を抱えてみましょう。きっと真綿のように軽いはず」
始めは天女も遠慮しましたが、男が余りに熱心に言うものだからとうとう折れてしまいました。
すかさず天女の膝と背に腕を添え一息に抱きかかえると、男はいよいよたまらなくなりました。なんだか良い匂いまでしてきます。
男の腕の中で天女は不安そうに問いました。
「如何でしょう」
「まだまだもっと。これだけじゃさっぱり判断つきません」
素知らぬ顔でそう言うと、男はトコトコと歩き出してしまいました。
天女は吃驚して男の顔を見上げます。男は重ねて何でもないという風に装いました。
「立ってるだけじゃつまりません。少しうろうろする位が丁度良いというものです」
これは妙な風向きになってきた、と天女は思いましたが、体勢が体勢なだけに強く出ることもできません。
何度声をかけても、まだまだもっと。と言うばかりで一向、下ろす気配もありませんでした。
そうしたやりとりを繰り返す内に、いよいよ男の家の軒先までやってきてしまい、流石に天女も黙ってはいられなくなりました。
「悪い人。貴方は私を騙したのですね。今すぐ私を下ろしなさい。でないと貴方を雷で打たなければなりません」
これを聞いては流石に男も惚けることはできず、正直に白状しました。
「天女様、申し訳ない事です。私は貴方を騙してこんな所まで連れて来てしまった。しかし、私は貴方を本当に好いています。二度と放したくはないのです」
男の真心からの告白に天女は心を動かされる思いでしたが、首を縦には振らず悲しそうに言いました。
「ならば、貴方を打つ他ありません」
そういうと天女は身体を青白く光らせ、激しい稲妻を身に纏いました。
哀れ男はショックに打たれ死ぬものと思われましたが、不思議な事に男は天女を抱きかかえたまま平気な顔をしています。
驚く天女に男は言いました。
「私は雷に打たれようとも貴方を放さない。どうか、私のお嫁になってくれませんか」
ついに天女は頷いて嫁となり男は大層喜んだのでした。





後日その話を聞いた男の友人はどうして雷が平気だったのかと尋ねると、男は笑って答えました。

「私の腕は彼女を運んでる間にとっくに痺れていたのさ」

>>うpろだ1177


───────────────────────────────────────────────────────────


畳の上に無雑作に散らばった札と、両人の足元にある数枚の札。百人一首という遊戯。
幻想郷では、外で廃れた何かが行き着く。ともすれば、今彼らが遊んでいるモノも、外ではあまり遊ばれなくなったのかもしれない。


「え――っと、ありあけの……つれなく見え……」

緊迫した室内に響く天子のどこか弛んだ声。当事者ではないから、と気が弛んでいるのだろう。
逆に、勝負がかかっている彼と衣玖からすれば、そんなことは全くもってない。
一語の聞き間違いが、一瞬の遅れを生む。刹那の勝負には、その少しでさえ決死に値する。
彼が持つはずだった余裕は、別の思考を展開していたから阻害された。


そして、心の隙間に入り込む鋭い音。
雑念が消えるには遅い。


見れば、相手の手の下に目標の札がある。目印となるように描かれた、あという平仮名が細い指の間から覗いていた。

「ふふふ……今回はいただきましたよ、○○さん」
「……まだ、負けたわけではありませんよ……」

幽雅に、それでいて秘めた妖しさを振り撒きながら微笑むのは、竜宮の使いである衣玖と呼ばれる女性。
所有権を得た札を、少しだけ自慢げに持ちながら、胸の前で揺らす。幻想的な水墨画で描かれた札が左右に動き、全く別の模様に見えた。
一本取られた彼も、そんな彼女に対し柔らかな微笑を投げ掛ける。いつも凛としている衣玖がまるで少女のようにはしゃぐのは、珍しいことである。
稀有なことと認めがならも、集中を開始させる。
札も少なくなってきた。数が僅かになってきてからこそ、一つの価値は一つを超える。
一度の間違いが勝負に大きな一石を投じるだろう。だから、前のように精神が振り回されてはいけない。

「これで同点……と。じゃあ、ちゃっちゃっと次いくわよ……」

主審から告げられた言葉に、衣玖と彼は崩れていた姿勢を直した。
勝負を裁く役目にあるのは、天人である天子。衣玖は、彼女に敬意を払わなければならない立場にある。
竜宮の意志を伝達する仕事と、天に昇ってただのんびりと日々を過ごす義務。常識的に考えても、どうしようにもならないことが世の中にはある。
衣玖はそんな環境に異を唱えようともしない。在るのは永江衣玖という自分。ならば、永江衣玖がおかれている仕事を全うするだけのこと。


天子は軽く札を選ぶ。次の詩も、簡単にはいかないらしい。


所詮遊戯と思うかもしれないが、予想外に身体全体を使う。
どの札がどこにあったかを覚えておく記憶力、視界に留まった札へ咄嗟に手を伸ばす反射神経、そして単純に物事を支配する運。
いくら記憶と反射を心掛けても、生者には限界という概念が存在する。
偶々頭に残っていた札が相手に近ければ、取られる可能性が増すだろうし、自分の傍にあればすぐに我が物と出来る。
結局は、運を味方につける為という理由で、努力を繰り返すのだろう。
結果は自ずとついてくるモノだ。努力と重ねた者と、怠った者。
どちらがより良い結末を手にするかは明白である。所詮、結果論に過ぎないのかもしれないが。

「ええと……音に聞く……高師の浜の……」

この緊張感。
弾幕勝負にも似た、高揚が身体を駆け巡る。

「……?」
「……」

視線を相手に移す。当然だが、俯いたまま札を物色していた。
札があるのは下、そして視線は畳と平行。これでは、見つかるはずもない。弛んでいた気を引き締め、もう一度札を見た。
他から見たら、相手の様子が気になって仕方がなかったと取られても仕方がないだろう。現に、札を注視し、瞳を微かに細める衣玖の姿は美しさすら感じた。
他人事のように頭に浮かぶ思考。勝負事に眼を奪われたなど、笑い話にしかならない。
同時に響く珠のような声。予想外という形を伴い、二人に降りかかった。

「……あ――っ、もう疲れた。お茶持ってくるわよ!」

主審兼詠み手が役目を放棄するという暴挙に出ても、勝負には何も影響しない。
詠まれた言葉さえ覚えていれば続行される。相手が忘れてしまったのならば好都合だ。
片方に与えられた状況は有利でしかない。勝利に結び付けてこそ、有利の価値がある。
襖が乱暴に閉められ、普段よりも大きな足音が耳を通り過ぎた。我侭だが、礼儀正しく躾けられた天子にしては珍しい。
もしかしたら、気に食わない出来事でもあったのかもしれない。
それが何なのか、考えるのは止めることにする。別に後でも問題はないだろう。

「……」
「……」

互いの視線が注意深く畳を行き来する。
いつの間にか、吐息のようなか細い声が両者から出ていた。

「お……お……」
「……お……」

生に執着する亡者の如く、ただ一つの文字を呟く。


「……見つけたっ!」

叫ぶと同時に動く。
獲物を狙う動物の瞬発力と、迷いを断ち成仏する亡霊の清々しさ。
お手付きの危険性は無視する。怖がっていては、栄光ある未来など平坦な結果にしかならないのだから。
発見と所有を声にしては決着がつかない。手に収めてこそ、初めて認められる。
彼は少し離れた場所にある札を体ごと狙う。一直線に開かれた道に、邪魔物は無い。

「まさかっ!」

少々遅れて、衣玖も動いた。彼女も位置を把握したのだろう。服が、ふわりと宙に舞う。
反応から札が無いと検討をつけていた場所であると分かる。似ている文字が続いていると、簡単な文字も見分けがつかないものだ。尚且つ、水墨画という流水のような筆跡ならば更にかく乱される。

「っ……!」
「……っ!」

位置的には衣玖に分がある。しかし、最初に目星を付け、行動に移したのは彼の方だった。
最後の抵抗に、衣玖は女性ながら身体で彼を防ぐ。別に勝負に負けると罰則が与えられるという訳ではない。
単純に、勝てる試合は勝ちたいだけだった。



「きゃっ!」
「うわっ!」



仲良く発生した声は混じり合い、一色になる。
無我夢中で札に手を伸ばした彼は、途中で動きを止められなかった。彼は衣玖とぶつかり、揉みくちゃになる。
次か、その後かに読み上げられ、出番が回ってくるはずの札が畳の上を滑る。
過去に遺された詩。何度も口ずさまれたであろうその詩は、今日限りは出番がなさそうだった。

そして、これはどんな因果か。
彼は竜宮の使いと天人と知り合いなだけ。



それ以上でも、それ以下でもなかった。



「……あ……」
「○、○……さん……」

彼の下には衣玖の顔。両手は彼女の顔の横にあり、崩壊をぎりぎりのところで防いでいる。
綺麗に整った目元は、下界のどんな女性が束になっても叶わないだろう。そんな瞳が、驚きで大きく見開かれている。
吸い込まれそうな中心に、視線が向けられた彼がいた気がした。
腕が崩れれば、彼は衣玖の折り重なってしまう。精神衛生的にも、他にも色々と宜しくない結果になるのははっきりとしていた。

「……ごめんなさい。ちょっと、熱くなってしまったわ」
「あ、そ、の……。こっちも本気になりすぎたというか、なんというか……」

一番いいのは離れることだ。頭は答えを出しているにもかかわらず、身体は動こうとはしない。
頭脳の命令を遮断しているかのような、冷たい感覚。
衣玖の萎れた声の返答にと、搾り出した彼の声は微かに震えていた。
このような状況になったのは、初めてではない。覚えている限りでは数度ある。
何度も気恥ずかしさから離れたのだが。
だから、直接感じる熱に対する耐性はついていない。


「お……でしたが、押し倒せ……とは、言ってませんでした……よ……?」
「す、すいません……」
「でも。……○○さん。今は……今だけは……」


衣玖の唇が、僅かに動いたのだけは覚えている。その後に、頭の裏を包まれた感覚が彼を支配した。
彼女が動く。彼は動けなかった。

「私達……だけで……っ……」

熱に浮かされた衣玖の表情。ほんのりと紅に染まった頬は、普段の雰囲気とは一線を博していた。
彼の頭の裏に回された衣玖の腕に力が込められ、彼の頭があっさりと落ちる。
視界が一瞬だけ闇に包まれる。闇が晴れると、言葉では表現出来ない何かが唇に張り付いていた。
それが衣玖の唇だと把握したのは、衣玖の身体の柔らかさが伝わってからのことだった。

「は……ぁ……○○さん……」

微かに洩れる吐息と、恋しさ秘める声。
押し付けられる唇を回避する方法など、彼は持ち合わせていない。嫌とも思っていない。
ただ、突然のコトに思考が追いついていかないだけ。
衣玖の求めにされるがままの彼は、呆然と衣玖の熱を感じていた。

「……ッ……」
「ん……っ。……あ……」

簡単に彼の唇を割り、衣玖の舌が口内に侵入する。彼の舌を捉えた衣玖は、淫らな交わりを開始した。
ぴちゃり、と水音が隙間から洩れる。
二人の唾液が混じった液体も洩れ、互いを求める潤滑油になった。






しばらく続いた交わりは、一端の終了を迎える。
どちらともなく離れた二人の唇にかかる銀の橋は、名残惜しそうに伸びる。


そして、離れなければならない状況を、彼らは心底名残惜しそうに思った。


ぷつん、と二人を繋ぐ糸が途切れる。
しかし、二人を包む熱が途切れることはなかった。

「あ……終わり、ですか……」

彼女は残念そうに呟く。途中で切れた、銀の糸は既に消えていた。

「……別に、貴方がよければ、私は……」

目を伏せ、頬を赤く染め。
か細い言葉を言われた日には、超える障害など二百由旬の果てに。
熱情に任せて衣玖を抱き締める。
雷を操り静電気を纏うからか、彼女の趣味か。身体にピタリと張り付いた衣玖の服装は、身体のライン十分に伝える。
柔らかい女性らしさの感触だけでも彼の頭が吹っ飛びそうになるのに、胸板に押し付けられる双壁は現実を溶かす。
これまで何度も中断してきた中で、一番滑らかに事が進みそうだった。もちろん、今更気後れなどしない。

「○○……さん……」

泣きそうで、どこなく嬉しそうな衣玖の呟き。
それは、完全に彼の枷を外す。

「だい……す、んっ……」

彼女の言葉を、唇を重ねることにより中断させる。
今度は彼から衣玖を求める。右腕を彼女の頭の裏に回す。これで二人、同じように互いに縛られた。
積極的に舌を絡め、互いを求める。
男女の関係に発展しようとしている現在、戸惑いは無粋というもの。
彼は衣玖の服の内部へと手を進め、小振りながらも形の良い胸を―――――









「あ――――っ!」









大地震が発生し、戸棚の物がたてた音でも、この悲鳴には負けるだろう。
視線だけを発信源へ向ける。
開いた襖の傍には、お盆を持った天子がいた。情事の現場を目撃したからだろうか、顔を真っ赤にしている。
その姿だけ見ても、このようなコトには不慣れなのだろう。教育上も見せ続けるのは宜しくない。

「……!」
「いっ……ぐっ……?」

咄嗟に離れようとした彼を押さえつける衣玖。あろうことか、彼の頭を包む腕に更なる力を込めた。
当然、口付けは深くなる。

「ちょっと! 衣玖、○○に何してんのよ!」

お盆を部屋の隅に片付けておいたテーブルの上に置いてから、天子は折り重なる二人に詰め寄る。
言葉を考えるに、目標は衣玖なのだろう。何故彼女を責めようと思ったのだろうか。
十分彼にも責任がある格好に違いない。彼が上にいる時点で、押し倒した結果なのは明白だ。
衣玖の上にいる彼を揺する天子。さすがにこうでは、途中で止めなければならなかった。

「……っあ……」

離れる彼と衣玖。
繋がりの深さを表すように、今度は舌と舌が糸で結ばれていた。その糸を、衣玖は迷い無く吸い取る。
邪魔が入ったというのに、浮いた感覚が地につくことはない。
その光景を目にした天子は更に赤くなる。わからない動作をしながら、目の前を否定しようとする。

「不潔! フケツよ、不潔! ふ――け――つ――! 唾液が、あんなに……うぅ……」

自ら情景描写をしていて、更に恥ずかしくなったのか。乙女のように縮こまる少女。
そんな天子を前にして、潤んだ瞳を向ける衣玖は、勝利者の面持ちで言い放つ。
言葉を発する前に慣らす為だろうか、舌で唇を撫でる様は淫靡の他にない。

「あらあら。総領娘様も、大人のキスはまだお早いみたいですね……」
「なっ! 竜宮の使いの分際で、な、な……何を言うの!」
「女に従者も天人もありませんよ。ただ確かなのは……」

くすり、と魔女のように笑い、そう言って。
衣玖は、未だに折り重なる彼の背に手を移動する。
まさしく、抱き締めている形となった。

「……好きな人に、種族も年齢も関係はありません。ああ……申し訳ございません……。総領娘様には、少しお早いコトでしたね」

言い切る衣玖が纏うは、恋する女性としての空気。
一直線に行為を彼に向ける姿勢に、何人たりとも介入は出来ない。
我侭で傍若無人な天人でさえも、理から外れはしなかった。





届く距離にあるのに、輪が気に食わない。
ならば、壊してしまえばいい。
けれど、壊すのは難しい。
じゃあ、輪の内部に入って一員になってしまえばいい。





「衣玖のバカ――! 私だって、お、おおお、大人のキスぐらい、出来るんだからっ!」

彼と衣玖の唇が触れるか触れないかの距離まで二人は近づいていた。
そんな彼の頬を、天子は両手で掴み、方向を変える。


天子の顔の前に。


良く見知った顔。惚けた表情は、抵抗の意志を見せない。
今は、情事の影響だろうか朱に染まっていた。
きっと、天子もだろう。自らの顔は鏡を見ないと分からない。だが、確信するだけの要素は揃っている。
一度深呼吸する。肺に入る空気は、何故か甘く感じた。

他人の甘さなど無視。個人が好む甘さは、他人とは交じり合わない。

「んっ!」

一思いに天子は彼に口付けた。
ただただ惚ける彼は、咄嗟に突き飛ばすことも出来ない。
それどころか、天子が彼をぎこちない動作で抱き締める。異性を抱き締めるのも、初めてだったのだろう。
もちろん、口付けも。

衣玖がしたように、舌を絡ませることはしない。天子は、唇を重ねるだけで精一杯だった。
彼の温かさを唇から認識するだけで、頭がぼんやりとして上手く考えられない。酒に酔ってしまった感じといえば、わかりやすいだろうか。
どこまでも、ぎこちなさを残した重なり。
彼は動かない。だから、主導は天子が握っていた。
その彼女から離れる。顔は熱湯を被ったかのように紅。潤む瞳は、口付けに費やした感情を露わにした。



衣玖が止めようとしなかった短い間。彼女が呆気に取られたのもあるのだろうか。



「はぁ……あ……。どうよ、私のファーストキスの味は!」
「え……?」
「畏れながら。……総領娘様、彼と最初にキスしたのは私です。初めてだから、と特別に価値を求めるのはどうかと存じますが……」
「なによ、煩いわね。乙女のキスは何事にも変えられないものなのよ!」

展開に取り残された彼。一番の幸せ者で、一番の被害者というべきだろうか、嫌がる素振りぐらいみせろというべきだろうか。
その横では、恋する女性と少女が、目標の男性を得る為に戦いを始めた。
天子も一杯一杯なのである。女性として数段上の衣玖が、目に見えるリードを得る。

「それは残念でしたね。私もファーストキスでした。これで同等ですね」
「ぐぐぐ……!」
「あの、総領娘様……いえ、天子様。人の恋路にズカズカと土足で踏み入れるのは無粋ではありませんか?」
「うわ――ん! 衣玖に○○取られたぁ! ○○取られたよぉ……」

影がある笑みを駆使し、天子を泣かした衣玖。その笑みは、全くもって天子を虐めることを目的としていた。
予想外に早く相手が折れたからか、少しだけ物足りなそうな衣玖。
そんな彼女が、彼と視線を合わせる。
やっと思考が展開に追いついてきた彼の目の前で。





「私の初めて、差し上げましたから。天子様なんかに、奪われないでくださいよ……?」
「むき――! 負けないもんっ! 衣玖なんかに負けないもんっ!」





確かに距離が縮まった彼ら。
もう、止まらない――――――



うpろだ1199

───────────────────────────────────────────────────────────

文月の十九の日(晴れ)


○○「衣玖ってさ、泳げるの?」

全てはこの一言から始まった


衣玖「ええ、竜宮の使いですから。一応」
○○「そっか、どっかに泳ぎにいかない?」
衣玖「わかりました。それでは準備しましょう」


幻想郷に海はないので、霧の湖で泳ぐことにした


衣玖「着きましたね」
○○「おっし、早速着替えるか」

さすがに衣玖の生着替えを見るわけにはいかないので
俺はその辺の草陰で着替えることにした


○○(いや、正直見たいとは少し思ってるけど、そんなことしたら……後が怖いからなぁ)

○○「あ、そういや、衣玖に水着渡してなかったか」

荷物は俺が運ぶことになっていたので衣玖の水着もこのバッグの中に入っていた

ちゃちゃっと着替え終わったので衣玖に水着を渡しに行こうとした所

衣玖「私の水着持ってませんか?」



うむ、あまりにも衝撃的だった





「衣玖は、服(下着を取った状態)だった」
つまりスッパ



衣玖「?○○さん?」
○○「い、衣玖……!?え、あ、み、水着ねっ!?は、はははは、はいこれっ!」

すかさず水着を差し出したのだが、衣玖は水着ではなく俺の手を取って

衣玖「いけないです!鼻血が出てます、手当てしないと」
○○「い、いや手当てじゃなくて、水着着て……」
衣玖「ほら○○さん、こっち向いてください」
○○「いやいや!そっち向いたら……下が」







そこまでよ!!








……どうやら俺は気絶してたらしい
気がつくと、服を着ていた衣玖に膝枕をされていた
とても暖かい膝枕だった

衣玖「……起きたんですか○○さん」
○○「あーそのーごめん」
衣玖「私のほうこそ、ごめんなさい」

○○「……」
衣玖「……」

○○「と、とりあえずお互い悪かったと言うことでこのことは終わりにしないか?」
衣玖「そうですね。それがいいです」
○○「それと……もう少し膝枕しててもらってもいいかな?」
衣玖「ええ、私も○○さんにもう少し膝枕をしてあげたかったところです」

その後、夕日が沈むまでずっと膝枕をしていてもらった





衣玖「それより、私に渡そうとした水着、不思議な形をしてましたが。あれは何なんでしょう?」
○○「え、あ、そ、ま、前に、衣玖に似合うだろうなぁ~って思って買ったんだよっ!?」
衣玖「そうでしたか、ありがとうございます○○さん」


まさか、スクール水着だなんて、このときの俺には言えなかった…

うpろだ22

───────────────────────────────────────────────────────────

 人里の通り。
 頬を晴らした男が、肩を怒らせ歩く女性に引っ張られていた。

「何もそこまで怒らなくてもいいと思う」
「いいえ、どこまでも怒ります」



 事の起こりはつい先程。
 男○○とその妻である永江衣玖はデートの最中だった。
 常日頃からやれ鈍感だ、朴念仁だと口煩く言われていた○○。
 ならばたまには自分も彼女のように空気を読んでやろうと思い至った。
 そこで、なんとなくいい雰囲気になったところで。
 彼から接吻をしてみたのである。

 衆人環視の中で。

 結果、縦横無尽に殴られた。



「あそこはキスする空気だと思ったんだけどなあ」
「人目のある処でする人がありますか」

 しかと見られた。
 視線が痛かった。
 周りにもそれなりの仲睦まじい恋人たちがいたのだが、彼らにできないことをやってのけてしまった。
 そこにシビれるわけもなし、憧れるわけもなし。
 多くの人目の中、堂々と口付けを交わす二人を見て彼らが思うことは只一つ。
 ああはなるまい、と。

「途中からは衣玖だってあんなに積極的に……ぐぇ」
「黙りなさい黙りなさい」

 首に巻かれた羽衣をぐいと引っ張られ、蛙の潰れたような声を上げる○○。

「ふむ、そうか。人前でキスさえしなきゃよいと。それでいて空気を読む。と、なると……」 
「ちょっと、何を考えてるんですか──」

 何やら不穏な空気を○○に感じ、振り向く衣玖。
 次の瞬間、いきなり抱きしめられた。

「ぇ、あ。きゃっ」

 すぐ目の前にお互いの顔。
 吐息がかかる距離。
 そしてまたしても往来。

「ちょ──! あれほど言って殴ったのにまだ……!」
「キスはしてない」

 確かに口付けには至らないものの、抱き合う姿勢はまさにそれそのもの。
 今にも唇が重なりそうで重ならない。

「そういう、問題ではなく……」

 至近距離で見詰め合う恥ずかしさに目を逸らす衣玖。
 人通りもある道のど真ん中。
 いきなり抱き合った二人は当然のごとく注目の的だ。
 降り注ぐ好奇と、そして期待の視線はまるで弾幕のようだ。

 ここだけの話だが、いや周知の話だが。
 竜宮の使いたる永江衣玖と只の人間○○の仲の良さは割りと有名であった。
 馴れ初めから現在に至るまで、やたらに周囲丸ごと引っ掻き回したもんだから当然といえば当然である。
 そんな二人がまたぞろ何かやらかすのかと、居合わせたものは判じた。
 要はいい見世物だ。

「ちょっと、離してくださいったら。ねえ──」

 腕の中で身じろぎする衣玖。
 彼女がその気になれば彼の腕などいとも容易く振り解ける。
 そうしない、いや出来ないあたり、彼女もなかなかのものだった。

「衣玖」
「ぅ、あ……」

 ギャラリーとなった周囲からどよめきが生じる。
 ○○が彼女の細い腰に回した腕、その力が強められた。
 より一層密着度を増して抱き合う姿はまさに。

「衣玖が嫌なら、しない」
「……ずるい、です」

 真正面に据える彼の顔はまさに真剣で真摯そのもの。
 こんなときに限って、こんなときにまでも。
 あのときのような真っ直ぐな目をする。

 おまけに周囲の空気。
 これからの展開を期待して待ち望んでいるよう。
 これではまるで彼女が拒んでいるのが悪いようではないか。

「、ん──」

 仕方なく、あくまで仕方なくといった風に。
 彼女は目を瞑り顔を持ち上げ、彼の胸に体重を預ける。
 音もなく重なる二人の唇。
 見物客は溜め息を漏らし、あるいは冷やかしの口笛を鳴らし、あるいは黄色い悲鳴を上げた。



 焦らした時間と同程度の間、口付けを交わしていた二人。
 ギャラリーも飽きて呆れて各々の道に戻っていた。
 漸く彼女を解放して、○○はさも自慢げに言ってのけた。

「どうだ衣玖。俺だって空気ぐらい読めるだろう」



 結果、古今無双に殴られた。


うpろだ1203

───────────────────────────────────────────────────────────

夕食を一足先に終わらせて蚊取り線香たきながら縁側で涼んでると後ろから子供がかけてきて隣にちょこんと座るんだ。
いつもは食器の片づけを手伝うはずだから。
「お片づけはもう終わったの?」
と訊くと、
「おかーさんが『おとーさんといっしょにまってなさい』だって。」
とか返ってくるんだ。
何のことか首を傾げてるとラフな格好の衣玖さんが台所から切れた西瓜とよく冷えたサイダーとコップを二つ、盆に載せてやってくるんだよ。
コップが足りないよ、と訊く前に盆を置いて台所に戻ろうとする衣玖さん。
その手を逃すまいとつかむ俺。
「まだ片づけが残ってますから。」
困った顔をするんだけど俺が頑なに離そうとしないのを見て、
「……片付けは手伝ってくださいね?」
と子供を挟んで反対側に座って、コップにサイダーを注いでくれる。
そこでコップが足りないことに気づいてまた困った顔をする衣玖さん。
飲みたくなったら俺の分を使えばいいよ、というとほんの少しだけ顔を赤らめながら「お言葉に甘えますね」と返してくれるんだ。

西瓜を食べながら子供と二人で種飛ばしやってるのを見て、
「あなたまでそんな子供みたいに……」
と苦笑する衣玖さん。
「いいじゃないか、たまには。」
「おかーさんもやろーよー」
「そうだな、どうだい、衣玖さんも?」
とか言うと今度ははっきりわかる程度に顔を赤らめるんだけど、空気を読んで一緒に種飛ばししてくれる。
そして三人で西瓜を食べ終わって、のんびり月を眺めるんだ。
子供を間に挟んで、子供の後ろで指を絡めて、のんびり空を見上げるんだ。
「きれーだねー」
「「そうだね……」」
不意に重なった言葉に二人で見詰め合って、顔を赤くしながら軽く笑いあって、子供から不思議がる目線を向けられる。

そのまま四半刻くらい月を眺めて、子供が夜風を寒がり出した頃合に、
「そろそろ片付けしないといけないかな?」
と唐突に口を開く。
そのまま空のコップとサイダーのビン、それから西瓜の皮が重なった皿を載せた盆を、今度は俺が持って、三人で台所に向かうんだ。
三人で台所に立って片づけをしてると衣玖さんが子供には聞こえないくらいの声で俺に、
「今日は私のほうが空気を読まれちゃいましたね。」
と囁いてくる。それに俺は
「衣玖さんの旦那やってるんだ、多少は空気読めるようにならないとな。」
と返すんだよ。
そんな言葉に衣玖さんはまた頬を軽く染めながら微笑んで、ちょっとだけこっちに体を寄せて、また洗い物を再開するんだ。

洗い物も片付いて、子供が寝静まって、風呂も済ませてまた縁側でのんびりしてると、今度は盆にお酒を載せて、さっきよりも上機嫌に衣玖さんが現れる。
間にはさむものが無くなって、ぴったり寄り添って座る俺と衣玖さん。
ふと盆を見るとお猪口がひとつしかないんだ。
今度こそ、と思い「お猪口、ひとつしかないよ?」と訊くと「あなたのを、使わせてくださいな」とか言ってくるの。
仕方ないなぁとか言い返すんだけど、内心では正直どきどきで。
で、衣玖さんが注いでくれたお酒を一口飲む。
それからもう一口、今度は口に含むだけ。
そしておもむろに衣玖さんに口付ける。
衣玖さんはいきなりのことに驚くんだけど、こっちは眼をつぶってるからそんな表情なんてわからないんだ。
衣玖さんの口が緩んだ一瞬に、口内の酒を流し込む。
そうして口を離し、目をあけると、目を見開いて、顔を真っ赤にしたままこっちを見てる衣玖さんが目に入る。
「あれ、一応空気を読んでやったつもりだったんだけど……ま、間違えたかな?」
衣玖さんの表情に焦って尋ねる俺。そんな俺に衣玖さんは、
「確かに読みは間違いですよ。でも、行動としては120点です。」
と微笑む。微笑みながら俺の手からお猪口を掠め取る。
今度は俺の口がふさがれる。
若干前の一口より温度の上がったお酒に喉を鳴らすと衣玖さんが口を離す。
「ふふ、今度は私の番ですよ。」

そんなふうにひとつのお猪口と二つの口でお酒を空けて、それからこんどは二人で月を見る。
さっきよりも幾分月は高くなってて、しっかり見上げる形になるから、二人の視界からお互いが消えて、存在を感じられるのは寄り添って触れ合ってる互いの体温だけで。
でも、それだけで十分で。
そのまま眠くなるまで二人で夜空を眺めてた。




――――――こんな時間がずっと続くといいな……
――――――衣玖さんは俺が嫌い?
――――――そんなまさか
――――――じゃあ続くさ、ずっとね

うpろだ1274

───────────────────────────────────────────────────────────

「うぎゃあああああああ!! 俺のシングルアクションアーミー(以下SAA)がぁぁぁぁ!!」

 俺、○○の目の前にはグリップの割れた銃器が机の上に置いてある。

「SAAでジャグリングなんかするんじゃなかった…」

 一丁だけでチャレンジしたが、手から滑り落ちてみごとに失敗。
 このSAAは2年ほど前、幻想郷に住み始めてから香霖堂で買ったものである。
 こいつを買って考えた仕事が探偵という仕事だ。
 え? なんで探偵になるのか?
 だって銃といえば探偵がはじめに思いつくし……
 そう言えば、こいつを使って『私の愛馬は強暴です』とか言って空き缶打ちまくって遊んだっけなぁ。(よい子は真似しちゃダメだよ お兄さんとの約束だ)
 近所迷惑で怒られたが。
 まぁ それは置いといて。
 里で探偵事務所を開業したものの、仕事の内容は駄菓子屋の店番や稗田家の庭の草抜き程度。
 多分俺が「何でも仕事を受け付けます」と宣伝したせいだと思う。
 それどころかあまり儲からないのでたいやき屋を副業として始めたら大盛況。
 今では○○探偵事務所という名のたいやき屋となってしまった。
 はい、説明終了っと。

「まぁ いいや。 香霖堂で新しい護身用武器買うか……」

 アーミーナイフも余分に2本持っているが、やっぱり心細い。
 妖怪相手に接近戦は怖しな。
 さて、どうやって香霖堂へ行こうか。
 途中で理性の無い妖怪に会わないことを祈って乗り込むか。

 コンコン

 椅子から立ち上がろうとすると玄関の方からノック音が聞こえてきた。
 どうせ駄菓子屋のおばちゃんかと思い、トボトボと玄関に向かう。

 ガチャ

「誠に申し訳ありませんが、今日は休業に……って、どなたです?」

 思っていた人物と違っていたのでついつい「どなたです?」って言ってしまった。
 扉を開けるとそこには美しい衣と黒いロングスカートを着た美しい女性が立っていた。

「お休みのところ申し訳ありません。 私は竜宮の使いの永江 衣玖と申します」

 と言い、彼女は頭をペコリと下げた。

「え……あ、自分は○○と言います」

 俺も頭をペコリと下げる。
 ついつい見惚れてしまったので反応が遅れる。
 幻想郷縁起は読破しているのだが、ひとつ聞きなれないキーワードがあるため聞いてみることにした。

「ん~ 竜宮の使いとは何です?」
「竜宮の使いとは龍神様のお言葉を聞き、その重要な内容の場合は地上に降りて人間や妖怪に伝えることが役目の妖怪です」
「一応妖怪なんだ…… で、あなたの言う龍神様のお言葉を伝えに来たわけですか」
「ええ、そうです。 近いうちに地震が起こることをお伝えに来ました」
「地震? うちの家は河童に建ててもらってるから耐震はあると思います。 そう河童が言ってましたので」

 実はこの事務所というか家は河童の『河城 にとり』に建ててもらった家だ。
 元々ボロ家に事務所を開いていたが、山を散策中に足をつって溺れているにとりを助けてあげて、その恩返しに改築してもらった。
 屋根にソーラーパネルが設置してあったりとあの頃のボロ家の面影はない。

「はぁ そうですか。 それなら大丈夫そうですね。 では次の人間に伝えなければいけませんので」

 彼女はそう言い、振り返りつつ飛ぼうとする。
 その際に俺は彼女の右腕から血が滴り落ちるのが見えた。

「あっ! ちょっと待って!」

 俺は無我夢中で彼女の左手をガシッとをつかんだ。

「なんですか?! もしかしてあなたも弾幕勝負をしたいというのですか?!」
「いやいやいや、弾幕うてませんから! そうじゃなくて、右腕怪我しているじゃないですか! 手当をしてあげますからとりあえず家に上がって」
「これくらいは大丈夫です。 妖怪は治癒能力高いですし、ほっといてもすぐ治りますよ」
「右腕から血がダラダラ流れているのにほっておけれない。 いいから応急手当させろよ」

 俺は彼女の腕をこちら側にやさしく引っ張る。

「わかりました…… ここはおとなしく治療を受けることにします。 あと……」
「はい?」
「○○さんって優しいですね」

 彼女は笑顔でそう言った。
 卑怯だ。
 笑顔でそんなこと言われると惚れてしまうじゃないか。
 彼女の笑顔は100億ルクスで目がぁーー! 目がぁぁーー!

「と、とりあえず中に入ってください」
「それでは、お邪魔させていただきますね。 って顔紅いですね。風邪ひいてます?」
「ゆ、ゆっくりしていってくれ」

 顔が赤いことについては華麗に(?)スルーした。




 とりあえず高校の保健体育で習った通りにやって応急手当てをした。
 こういう包帯を巻くタイプの応急手当は初めてなので少し雑になってしまったが。

「これでよし」
「ありがとうございます」

 接客ソファーに座っている永江さんが頭を下げた。
 とりあえず喜んでもらえたようだ。
 
「人助けをするのは人として当然です」
「私、人じゃありませんけどね」
 
 永江さんはクスクスと笑う。
 彼女の笑顔を見るたびに胸が締まるような感覚がする。
 重症だと自覚はしている。

「そうだ。 少しそこで待っててもらえるかな」
「ええ……なにをするかはわかりませんができれば早くしてくださいね」
「了解」
 
 そう言い、俺は玄関の隣の小売窓に移動した。
 もちろん永江さんにたい焼きを食べてもらうためである。
 小売窓の傍にはたい焼きを作るための鉄板が置いてあるが、幻想郷にはガスが無いので火を焚いて作ることになる。

「妹紅みたいな能力があればな…… まあいい作業開始」
 
 俺はそうボソッと言い新聞をマッチで燃やし、鉄板の下の木炭が入っている暖炉に放り投げた。
 文々。新聞が発火元になっているためよく燃える。
 まったく便利な新聞だ。
 別に紙ならなんでもいいのだがな。
 文がこのこと知ったら店が吹っ飛ばされるかもな。

「何かが燃える音がしましたけれども何をしているのですか?」
「それはできてからのお楽しみで」
 
 ソファーから俺の姿が見え見えだが何をしているまではわからないらしい。
 とりあえずお楽しみとして取っておいてあげた。



 

「はい お茶と当店自慢の手作りお菓子」

 トレイに乗せた茶とたいやきを接客ソファーに座っている永江さんの目の前の机に置いた後、俺は彼女の向い側のソファーに座る。
 ちなみにたいやきは10個ほど作ったので載せている皿はでかい。

「手当までしてもらったのに本当にいただいてよろしいのでしょうか?」
「いいのいいの。 人の厚意は素直に受け取れって」
「わかりました お言葉に甘えていただきます」

 彼女はまずたいやきを手に取る。

「この魚型はなんですか?」
「あぁ それはたいやきといってね、中にカスタードや餡子が入ってるんだ」
「へぇ~ なんかおいしそうですね」

 そう言い彼女はたいやきの頭の部分から口にする。

「あ……おいしいですね…… これ……」
「お気に召したようでなによりです」

 どうやら中身はカスタードだったようだ。
 どうでもいいが俺はカスタード大好き人間だ。

「○○さんもいただいてください。 私はこんなに食べれないので」
「さすがに作りすぎたかな? まぁ いただこうか」

 俺もたいやきを一つ手に取り、頭の部分をガブッとかぶりつく。
 永江さんと違って豪快な食べ方だ。

「そう言えば、先ほどまで誰と弾幕勝負してたのです?」

 それを聞いた永江さんは考え込む。
 思い出そうとしているのだろう。

「ん~ まず、なぜか天界にいた鬼ですね。 その後に山の烏天狗、そして屋敷の吸血鬼ですね」
「うはっ 全部強敵じゃないですか。 で、勝てたのですか?」
「ええ、何とか……」
「……結構強いのですね」

 もしかしたら俺はとんでもない妖怪を招き入れたのではないのか……
 美人だからそんなことは別にいいか。
 それに悪そうな妖怪じゃないし。
 その後、俺は永江さんと他愛無い話をいくつかした。
 外界にいたときの話や幻想郷に初めてきたときの話や……
 しかし楽しいひとときはすぐに過ぎるものである。

「では、そろそろ他の里の人間とかに伝えなければなりませんので」

 たいやきを二人で完食して、永江さんが口を開く。
 窓の方に目をやるともう日が暮れていた。

「わかった。 長居させてしまったな。 まぁ、ついでだからお土産も持って帰りな」

 俺はたいやきが5個ぐらい入った紙箱を渡す。
 永江さんは「ありがとうございます」と言い、素直に受け取った。

「ところで○○さん。 ひとつ御聞きしたいことがあります」
「なんでしょうかな」

 家から出たところで永江さんが質問する。

「私、妖怪の種族ですのに何で○○さんはこんなにも優しくしてくれるのですか」
「なんだ そんなことか」

 俺は外国のテレビ通販の男みたいにHAHAHAと笑う。

「優しくしてあげるのに人間も妖怪もない。 もちろん亡霊や死神、吸血鬼でも同じだ。 同じ感情を持つ生物だし、俺は差別はしない主義でな」

 亡霊は生物かどうかは置いておく。
 親父から女には優しくしろと言われているが、それも置いておく。

「変わった人ですね。 ○○さんは……」
「よく言われるよ」

 特に幼い妖怪あたりから言われる。

「そうだ 里の人間には俺が伝えておくよ」
「わざわざ、そんなことまでしなくれもいいですのに」
「いや、里には根っから妖怪が嫌いなやつがいますから。 あまり永江さんには会わせたくありませんので」

 例えば、いつぞやかの文々。新聞に載っていた秘密結社という組織。
 やつらは妖怪を幻想郷から追い出すと言ってる集団だ。
 強そうな人間ではないらしいが、永江さんには会わせない方がいい。
 何しでかすかわからん。

「どうしてもだめですか?」
「どうしてでもです」
「わかりました。 それでは里の方は頼みました」
「了解」

 俺はイキイキと敬礼する。

「あと、最後に聞いてもいいですか?」
「どうぞどうぞ」

 永江さんは夕陽のせいなのか顔を少し紅潮させて再び質問する。

「竜宮の使いは滅多に地上に顔を出しませんが、もし地上に来たときは……また、たいやきを御馳走してもいいですか?」
「もちろんだ。 1年後だろうが10年後だろうが50年後だろうが君が来るのを待ってるよ」

 我ながら照れくさいセリフだ。
 永江さんはますます顔を紅潮させる。

「あ、ありがとうございます。 そ、それではまた会いましょう」

 永江さんは土産を片手にピューと飛んで行った。
 俺は永江さんに向かって手を振る。
 永江さんも俺が手を振っているのに気付いて、手を振り返す。

「また会いましょう……か。 何年後になるだろうかな……」

 彼女がいなくなって急に寂しくなった感が残る。
 俺もまた会いたい……
 俺が胸に少し締め付けられる気持ちになったのは生まれて初めてだ。
 いや、小学校の初恋以来だろうかな。
 今度会った時には自分の思いを伝えてみようかな。
 今はそれよりも永江さんからもらった仕事を達成することにしよう。

「とりあえず、まずはあっきゅんと慧音さんに伝えておくか。 そのあと里の掲示板に――」

 ちなみにこの時、永江さんに再会するのは2,3週間後ぐらいになるのは俺は知る由もなかった。

うpろだ1284

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 夏にある異変が起こった。
 その異変とは博霊神社に大地震が発生して神社が倒壊したり、各地で異常気象が発生した異変である。
 いろんな奴が異変解決に(一部遊び半分で)乗り出したが、結局解決したのは霊夢らしい。
 そんでもって異変の元凶に立て直してもらったのだが、今度は紫さんが暴れてまた神社が倒壊。
 俺が神主だったら泣くな。確実に。
 今回に限り霊夢に同情するぞ。
 で、その後に霊夢の仲間たちに立て直してもらい、天界で起工記念祭を行った。
 ちなみに俺はこの異変に全く気付かなかった。


「というわけなの。 って聞いてる?○○」
「聞いてたよ」

 今は夏の終わりごろ。
 俺、○○は今回の異変について霊夢から聞くため博霊神社に来たわけだが…
 いつの間にか俺は霊夢の武勇伝を聞いていた様な気がする。
 竜宮の使いをフルボッコにしたとか~ 天人をフルボッコにしたとか~。
 あんなに優しい永江さんをボコすとは、この脳みそスプリングめ。

「それで萃香のわがままで開かれる今日の第二回起工記念祭に出席しろと」
「そうよ。あなた探偵事務所とかたいやき屋とか開いてるけど、どうせ仕事なくて暇なんでしょ」

 今日はたいやき屋は定休日です。
 探偵も仕事がありません。

「お前よりは暇でないわ」
「じゃあなぜここに来たのかしら」
「新しい博霊神社を見に来た。以上」
「結局は暇してるじゃない」

 霊夢は呆れた顔でお茶を啜った。
 俺もつられてお茶を啜る。
 うむ、縁側で茶を飲むのも悪くない。

「前からでもそうだが、何で俺を宴会に誘ってくれるのだ?」
「○○がここに度々来てくれるからでしょ。 で、宴会に出席するの?」

 あの宴会に参加すると無理矢理酒を飲まされるんだよなぁ。
 かといって不参加だと魔理沙が俺の家に突っ込んでくるし。

「OKOK 参加するよ。お前らの付き合いは長いからな」
「ありがと。それじゃ私は買い出しに行くからいつもの準備よろしくね」
「はいはい」

 霊夢は茶を飲み干したあと俺に向かって手を振って里のほうへ飛んで行った。
 いつも思うが宴会の食費はどうなっているのだろうか?
 気にしてしまったら負けだと思った俺は、さっさと茶を飲み干して準備に取り掛かることにした。
 まだ太陽が真上に昇っているからゆっくりでいいかな。
 ちなみにいつもの準備とはたいやき100個作ることだ。
 ……出費がつらいよ。
 大体、酒にたいやきは合うのか?
 そう思いながら家に戻った。






「え~と…今宵は博霊神社起工の祝いにご出席ありがとうございます。 
   つきましてこの不肖○○が乾杯「「「「かんぱーーーい」」」」の音頭…って気短っっ」

 いつも俺が乾杯の音頭を取ろうとするとこれだ。
 しかもみんな息ぴったし。
 一升瓶で乾杯してる奴もいるし。
 あ~あ、一気飲みまでしてる……
 それにしても今回の宴会は出席者が多い。
 氷の妖精もいれば閻魔様もいるし……
 閻魔の仕事大丈夫なのか?
 そんなことより永江さんを探してみるか。 


「あのー…」
「一升瓶で一気飲みは無理ですよって、あなたは…」

 声の元の方を向くとそこには二本の触覚らしきものがついた黒い帽子と美しい羽衣を纏った女性がいた。

「永江 衣玖さんですよね?」
「ええ、そうです。 この前はお茶を御馳走させていただきありがとうございました」

 と言い、永江さんはおじぎする。

「こちらこそ話し相手になってくれてありがとな。 あ、そうだ 一緒に酒を飲みませんか?」

 永江さんなら無理矢理飲ましてこないだろう。 
 それに今は彼女と飲みたい気分だ。
 俺はそう思い、永江さんを誘った。

「ええ、構いませんよ。 私もあなたと一緒に……」
「ん? 今なんと?」

 後半部分が聞き取れなかった。
 俺と一緒にどうたらこうたら…… 

「あ! いや! 忘れてください!」

 永江さん……真っ赤な顔ですよ。

「何何? 何のお話をしてるの~?」

 俺と永江さんの会話の中で誰かが割り込んできた。

「わっ! 総領娘様!」
「何そんなにびっくりしてるのよ」

 その人物は俺の見たことのない人物だった。
 水色のロングヘアー、帽子に桃が飾ってある。
 もしかしたら霊夢が言っていた天人だろうか?
 なんかもう飲んでいるせいか顔が赤い。
 俺がその天人を見ていると目が合ってしまった。

「ふ~ん…… そこの男! 名前を言いなさい」

 天人らしき人物は俺に向かってビシィと指をさしてきた。
 てか、名前はさっき言ったはずだ。
 こいつも聞いてなかったな。 絶対

「お、俺は○○だ。 というか名乗るなら自分から名乗りな」

 俺も天人に向かって指をさす。

「私は比那名居 天子。 よく覚えておきなさい」
「わかった。 死なない天使」

 ごめんわざとw

「ひ・な・な・い・て・ん・し よ! 間違わないで頂戴!」
「総領娘様、もしかしてもう酔っているのですか?」
「うるさい! 私は酔っていない! ヒック」

 酔っている奴がよく言うセリフだ。
 というかヒックって言ったし。
 絶対酔ってる。

「総領娘様、飲みすぎはよくないですよ」
「バーロー! そこに酒があるに飲まずにいられるかってんだ! それより○○! あんた衣玖を泣かせたら承知しないからね!」

 天子の指先が再び俺に向けられる。

「まだ私たちはそんな関係じゃありません!」

 永江さんが強く否定する。
 いや……そこまで否定しなくてもさ……

「あらあら何やっているのかしら?」
「あっ 何するのよこのっ!」

 スキマから紫さんが出てきて天子の襟部分を掴む。

「は~~~な~~~せ~~~」
「おほほほ それじゃお邪魔なしでお二人共仲良く……」

 そう言い紫さんは天子とともにスキマの中に消えた。
 といってもここから見える範囲で別の場所に移動しただけだ。

「えと…… 飲もうか」
「……そうですね」

 そう言いお互いに敷物の上に座った。
 俺はとりあえず永江さんのグラスに傍に置いてあった紅魔館産のワインを注ぐ。
 その次に自分のグラスにワインを注いだ。
 ちなみにこのワインのラベルには咲夜印のヴィンテージワインと書かれている。
 無論、紅魔館組が持ってきた酒である。

「それでは乾杯」
「ええ、乾杯」

 カチン

 乾杯した後、俺はワインを一口程度飲む。
 永江さんも俺に合せるように一口飲んだ。

「○○さんは神社の中心に要石が刺さっているのを知っていますか?」
「あぁ 霊夢から聞いたよ。 あれが抜けると壊滅的な地震が起こると言いたいのでしょう」
「知っていましたか…… すいません 総領娘様のせいでこんなことになってしまって……」

 永江さんは申し訳なさそうな顔で謝る。

「永江さんのせいじゃないですから謝らなくていいですよ。 
   それに抜けなかったらいいわけですし、そこは霊夢の奴にまかせておけば大丈夫でしょう」
「彼女を信用していらっしゃるのですね……」
「まあな あいつとは付き合い長いですし」
「もしかして……好きなのですか?」
「ブッッ!!」

 思わぬ返答をしてきたのでワインを吹いてしまった。
 一応永江さんにぶっかかっていない。

「別にそういうわけじゃないですよ! あぁ~ びっくりした……」
「そうですか。 よかった……」
「何がです?」
「あ! いや……なんでもないです……」

 俺は首をかしげる。
 

 ………
 

 ……
 

 …
 

「そうしたらリグルの奴が俺を蹴りやがってね……」
「大丈夫だったのですか?」
「一応大丈夫だったのだがな。 たかがGを銃殺したぐらいで…… ん?」

 俺と永江さんで仲良く会話していると後ろから何者かがこちらに向かって走ってくる気配を感じた。
 気配を感じ取った俺は振り向くといきなり萃香が飛び込んできた。

「○○~!!」
「グベッ!!」

 俺は吹っ飛ばされ、萃香に馬乗りされる形になった。

「○○~ 紫がね王様ゲームしようだって! ね! そこの竜宮の使いも~ ホラ!」

 おそらく紫さんのことだ。
 何か企んでいるに違いない。

「おもしろそうですね。 私は構いませんよ」
「俺はやだ」

 即決。

「じゃあ私と弾幕ゴッコする~?」

 そう言うと萃香は両手を上に挙げ、エネルギーを萃める。

「すいませんでした。 王様ゲームに参加します」

 幻想郷の女には逆らわない。
 それが今日の教訓さ……




「王様ゲームはじめるよー!」

 と、萃香が無邪気な声で言うと約15名の参加者が「イェーイ」やら「まってましたっ」と声をあげる。
 ちなみに酔いつぶれてる輩以外は強制参加である。
 参加者は霊夢や紫をはじめ、酒豪妖怪とあまり飲んでない人間。 つまり俺。
 永江さんも俺に合わせて飲んでくれたのであまり酔ってない。

「それじゃビンの中の割り箸を1本とって~」


第一回戦 ○○の番号は12番

「あ、私王様だわ」

 どうやら今回の王様は加奈子さんらしい。

「じゃあ、今から言う番号は十回戦目まで下着姿ね」

 え、MAJIDE?
 ってことは男は俺一人&人数割りと多めだから女性の白い肌を確実に拝めることができるのかっっ!
 さすが加奈子様!俺達にできないことを(ry

「12番」
「………うぇ?」

 夢は儚く散った…

「迷彩柄のトランクスね」
「紫さん…あまり…じろじろみないでください…」

カシャ カシャ

「宴会に変態誕生?! これはイケます!」
「ちょっ…文、この姿を撮らないでくれ! マジで!」


第二回戦 ○○の番号は4番

「こんどは私が王さまですね」

 次の王様は文か…

「⑨番の人が4番の肩を揉んでください」
「4番は俺だ。さ~て、誰がおれの肩を揉んでくれるのかな?」
「ふふふ、⑨番は私ですね」

 手を挙げたのは幽香… っておまっwww

「じょ…冗談じゃ…」
「あら、冗談じゃないわよ」

 そう言いながら幽香は笑顔でじりじり背中に近寄ってくる。
 俺は逃げようとするがあまりの恐怖で動けなくなった。

「や…優しくしてね…初めてd」

グキッ

 俺は死んだ。


第三回戦

 萃香が王様となり、命令で天子と紫が弾幕戦争開始。
 流れ弾が俺に当たり、死亡。


第四回戦

 霊夢が王様になり、命令で魔理沙が俺の脇腹を3分間くすぐる。
 俺は呼吸困難に陥る。
 以降、残酷な描写があったり、パチュリーストップが入るなどの理由で以下中略。

「次で最後にするね~」
「コレデ…解放…サレル…」

 約30回目で萃香がラストコールを発言。
 俺はもう頭をいじられた人みたいになっていると思う。
 精神的にも身体的にもボロボロだ。
 永林の薬を飲んだのが一番酷かった……
 あれはもう思い出したくない。

「あの……大丈夫ですか?」

 心配そうに永江さんが問いただしてくる。

「アッハァ! 大丈夫だよ アッハァ!」

 空元気で言ったが、俺もう何かに憑かれているかもしれない。

「何かとても大丈夫に見えないね~」

 常に酔っている萃香に言われたくない……


ファイナル

「結局最後まで王様になれんかった……」

 そもそも人数多すぎて王様を引き当てる確率が少ない。
 というか奇跡的だろ?
 30回程度もやって一回も王様になれないとか。
 ちくしょう… ついてねぇ… ついてねぇよ。 
 ちなみに俺の番号は2番だ。

「王様は私、ゆかりんで~~す」

 紫が少女ぶりながら手を挙げる。
 一番まともじゃないのがきた……
 しかも言動からして酔っている。
 そう思うと紫がこっちを見てニヤニヤする。

「最後だから派手なのにしましょうか」

 寒気がしてきた……
 俺をあてるんじゃねぇぞ……

「じゃあ~ 2番と7番は~ 唇と唇でキスをしてくださ~い」

 春が来た! ついに来た!

「フハハハハ 我が世の春が……はぁ~」

 思わずため息ついてしまった。
 正直に言うと嬉しい。
 でもなんか複雑な気分……
 7番が永江さんとは限らない。
 俺は永江さんのことが好きなんだ。
 それなのに他の奴とキスしろと?

「何ため息ついているんだ? 男なら喜べって」

 お隣の魔理沙は楽しそうに言っている。
 7番は誰なんだ! 早く答えろ! 俺は楽になりたい!

「7番は僕だ」

 そう言いふんどし姿の霖之助さんが手を挙げる。
 そ……そんなはず……
 いやーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!! 


















 って、あれ? いま危ない幻覚&幻聴がしたぞ。
 多分、永林の薬のせいだろう。
 そもそも霖之助さんは少女(一部少女なのか?)達に群れるのは趣味じゃないはずだからここにいないはずだ。
 俺もとうとう頭がイカレたな。

「さっきからショック受けたりホッとしたりしてなに百面相してるんだ。 右見ろ右」
「え?」

 魔理沙がちょんちょんと右の方向に指をさす。
 魔理沙に指示通りに右を向くととても美しい女性が手を挙げてるように見えた。
 目を擦って再確認すると隣にいる永江さんが手をあげていた。
 え? 永江さん?
 永江さんは今まで以上に紅い顔をしている。
 酒のせいでなくこの罰ゲームのせいだろう。

「私……覚悟を決めました」

 永江さんは悟った顔で言う。
 覚悟はできているか? 俺はできてない。 じゃなくて……
 彼女とキスするのはうれしいのだが…… こんなカタチでキスするとは……
 周りのやつは「キ~スしろ キ~スしろ」と囃し立てる。

「私とキスするのは嫌ですか……?」
「う…ぐっ……」

 そのつぶらな瞳でそんなこと言われたらキスしたくなるじゃないか!
 むしろキスしない男はいない! いないはずだ!
 こうなったらヤケだ!

「どうせキスするなら言ってやる! 永江さん好きだぁぁぁぁぁ!! 愛してるぜぇぇぇぇぇ!! 君がほしいぃぃぃぃぃ!!」
「え?! ん~~~~~!」

 俺は手を彼女の頬に当て彼女の唇を俺の唇で塞ぐ。
 唇がぷにぷにでやわらかい……
 このまま吸いつきたい気分だ。
 周りの輩は「おぉ~」と声を上げる。
 文は「これはスクープです! スクープです!」と言いつつ写真を撮りまくる。

「ん…… ぷはぁ   いきなり何ですか?!」

 恐らく告白のことを聞いてるのだろう。

「そのままの意味だ。 俺は永江さんのことが好きだ。 君の笑顔を見たときから……」
「……ふふふ。 よくそんな恥ずかしいこと言えますね……」

 永江さんはそう言いながら微笑んだ。
 俺もすげぇ恥ずかしい。

「私も…… 私もあなたのことが好きです。 あなたの優しさに惹かれてしまいました」
「ありがとう…… これからもよろしくな」
「ええ…… よろしくお願いします」

 俺は永江さんを優しく抱きしめた……

「あの……お願いしてもいいですか?」
「何だい?」

 永江さんは抱きしめられた状態でお願いする。

「永江さんとは言わずに…… その…… 衣玖と呼んでくれませんか?」
「いいですとも。 衣玖……」
「○○さん…… んっ……」

 俺たちは再びキスを交わした。
 今度は先ほどより深いキスを……
 最早周りのことは気にしない。
 俺は衣玖という存在だけに集中した。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「○○~ 私のおかげということを忘れないでね」
「もしかして紫が仕組んだの?」

 霊夢は不満そうに言う。
 人前であの二人がイチャイチャしているのが気に入らないのであろう。
 紫はまた杯に入った酒を飲み始める。

「ええ、二人の好きと嫌いの境界を探れば、こんなこと容易よ」
「紫もおせっかいね……」
「うわぁ…… 舌入れてるよアレ」
「あいつも人前ってことを考えなさいよ。 全く…」
 



ちなみにこの『宴会で告白事件』は翌日に号外としてばら撒かれたのは言うまでもない。

うpろだ1348

───────────────────────────────────────────────────────────

その日、天界では酒を愛してやまない鬼、伊吹萃香によって萃められた者達が、
もはや恒例となってしまった行事である(と言うにはあまりに俗っぽいが)宴会を行っていた。
無論それは萃香、もしくはその能力に付き合わされているだけという感も否めないのだが
基本的に幻想郷の住人はこういった行事が嫌いでは無い為か、皆満更でも無い様子だった。

「……っていう席で、何だいその仏頂面は」
「……萃香……」

ぶすっとふくれていた天人、比那名居天子は軽く溜息をつくと、自分の向いていた方向を指さした。

「あれよ、あれ」
「?」

萃香がそちらに視線をやると、そこには座り込んで酒を酌み交わしながら談笑する二人、
幻想郷入りした普通の人間〇〇と、竜宮の使いである妖怪、永江衣玖の姿があった。

「ああ、あれが面白くないの?」
「というか、じれったいのよ」
「じれったい?」

要領を得ない天子の言葉にかくんと首を傾げる萃香。

「あの二人、どういう関係に見える?」
「どういう? お互い好き合ってるんじゃないの?」
「多分ね」
「多分、って何さ。どう見てもそうじゃん」

ますます分からない発言に、萃香もいよいよしかめっ面になる。

「だって、なかなか進まないのよ、あの二人」
「……え、まだくっついてないの?」

萃香は目を丸くして驚いた後、やれやれと呆れ顔になった。

「〇〇と衣玖が会って、どれくらいだっけ」
「三年程かしら」
「ああやって二人きりでお酒を飲むようになったのは?」
「二年くらい前から」
「もう随分と長い付き合いじゃないか。〇〇は一体どれだけ衣玖を待たせるつもりなんだ?」
「死ぬまでだったりして」

言った後、洒落になってないなと後悔する天子。
死ぬ間際に想いを伝えて一方的に逝ってしまう、そんな人間も何人かは居たから。

「まったく、自分勝手だよ」
「天子が言うな」
「萃香もね」


――――


「衣玖さん、ちょっと聞きたい事があるんですけど……」
「聞きたい事?何でしょう……私に答えられる事でしたら」

衣玖が徳利を持ち、〇〇の猪口にもう何杯目になるか分からない酒を注ぐ。

「好きな人、いますか?」
「!?」

明らかな動揺を見せる衣玖。冷静な彼女のお陰で、徳利が手から滑り落ちあわや大惨事という事態は避けられたが
それでも注いでいた酒は猪口から僅かに跳ね飛んでしまい、それは〇〇の服の胸元に小さな円形の染みを作った。

「あ、あわわ、も、もうしわけ、ありま」
「お、落ち着いて下さい衣玖さん。そんなに酷くないですから」
「は、はい……で、でも、〇〇さんのお召物に……」
「こんなのすぐ乾きますよ」

しかし衣玖にはその言葉さえ聞こえていないのか、すっと〇〇の傍に寄り、
染み付いた部分を手持ちの布で甲斐甲斐しく拭き始める。

「ちょっと衣玖さん、そんなことしなくてもいいですよ」
「い、いえいえ、わわ、私の所為ですから……」

粗方綺麗に拭き取れたところで、まだ残っていないかと〇〇の胸元に顔を近付ける衣玖。
普段なら男性の近くに寄りもしないのに、今は動揺のあまり周りが見えなくなっているらしい。
衣玖から発せられる女性独特の香りが〇〇の鼻腔をくすぐる。
加えて衣玖の顔がすぐ傍にある所為で、〇〇は非常にこそばゆい思いをしていた。

「…………」

気恥ずかしくなって〇〇が目を衣玖から背けると、その先で天子と萃香が〇〇を見ていた。
と思いきや、天子が萃香を引き寄せ、ぎゅっと萃香の頭を抱き締める。
その後、首でくいっと何かを促す天子と、その腕に顔だけ包まれたままぐっと親指を立てる萃香。

「……いや、それは無理」

〇〇の眼下には、まだ残っていたしつこい染みと一生懸命に格闘している衣玖がいる。
天子が萃香の体でなく頭を抱き締めたのは、この状況から衣玖にそうしてやれということなのだろうが、
〇〇には理解できても、実行するにはあまりに度胸のいる選択であった。


――――


「これくらいしてくれないと、つまらないわ」
「どうでもいいけど、息ができない」

天子の腕の中で、もがもがと暴れ始める萃香。
天子はごめんごめん、と謝って萃香を解放してやった。

「ぷはっ。あ、でもさっきは驚いたよ」
「私も。あの〇〇が『好きな人、いますか?』なんて言うとは思わなかったわ」
「衣玖、凄い動揺してたじゃないか」
「好きな人からそう聞かれたら、誰だってそうなるわよ」

二人して笑い合う。

「じゃあ、酒でも飲みながら見物と洒落込みますか」
「そうしましょう、酒の肴には困らないしね」


――――


ずっと俺が恋い焦がれていた人が、今、自分の手の届く距離にいる。
ぎゅっと腕で抱き締めてしまいたいという衝動に駆られるが、その代償に自分は全てを失ってしまうかもしれない。
傍から見たら、いたいけな婦女子(?)に無理矢理抱き付く変態にしか見えない。幻想郷なら逮捕される前に殺される。
それに、彼女にも迷惑がかかる。好きでもない男に抱き付かれていい気分のする女性などいないだろう。

それでも、叶わぬ想いだと分かっていて、俺は彼女に惹かれてしまった。
だから、俺はこうやって好きな人と一緒に酒でも飲めるなら、それで満足だ。
……「好きな人がいる」と答えられたのならきっぱりと諦めて、二度と会わないつもりだったけど。
俺みたいな凡人より良い人はいっぱいいるからな、世の中。

「……〇〇さん?」

顔を下に向けると、そこには上目使いで不思議そうに自分を見つめる衣玖さんの姿。
そんな目で見ないで欲しい。そんな衣玖さんも素敵で、やっぱり抱き締めたくなる。

そもそも衣玖さんはそういった特別な仕草が無くても素敵だ。何かって言うと、それはもう全部。
まずその全てを包み込むような優しさに始まって、端整な顔立ち、きめ細かい肌、流麗な髪、
溢れ出る母性、艶やかな唇、謙虚な物言い、透き通った声、パッツンパッツンの羽衣、挙げればキリが無い。
これに加えて上目使いだ。俺の興奮度が有頂天になっちゃって、何か色々とはっちゃけそうに……

「……あ、う……?」

俺の胸に埋もれる衣玖さんの顔。衣玖さんの頭を抱え込んで離さない俺の腕。ぱさりと落ちた衣玖さんの帽子。
ごめん衣玖さん、無理だった。でも衣玖さんが悪いんだ、誘うような事ばかりするから。それに、我慢は体に良くない。

「………………」
「………………」

……やっぱり、殺されるよな……衣玖さん優しいけど、まがりなりにも妖怪だもんな。
その後は、閻魔になんか難しい漢字を羅列した罪状で、地獄へ落とされるのかな。
もしそうなったら、お前らの名前の方がよっぽど難しいよ、って文句言ってから落ちてやる。
それはともかく、いい匂いとか、服越しの衣玖さんの感触とか、匂いとか、匂いとか、何かあれだ。好きです。


――――


それから数秒だか数分だか経過したわけだが。

何故だ。衣玖さんの力をもってすれば、俺を電気椅子ならぬ電気衣玖の刑に処す事も容易いだろう。
何故抵抗しないんですか、衣玖さん。そして何故、宴会場なのに辺りがしぃんと静まり返ってるんですか。

静寂を破ったのは、俺の胸で呻く衣玖さんが発した声だった。

「あ、あの……苦しい……」
「おわ、すいません」

胸の温かい感触にすっかり溺れていた所為で、衣玖さんの事を完全に失念していた。俺はダメな奴だ。
確かに胸に押しつけられて圧迫され、座ったまま前屈みになった状態が続けば、息も腰もさぞ辛かったろう。
慌てて腕から解放すると、衣玖さんは姿勢を正し、その場で深呼吸を始めた。
そして、がしっと俺の頭をつかむと、それを自分の胸に押し付ける。

って、何してるんですか?

「さ、さっきは苦しかったので……お返し、です……」

俺の視界が衣玖さんの白い羽衣で埋め尽くされている。だから周りは見えないが、なんとなく状況は分かる。
絶対皆ポカンとしてる。だって、こんな大胆な衣玖さん見たことないし。

「確かに、これ……結構苦しいです」
「そ、そうでしょう……」

苦しいのは事実だ。二つの柔らかいモノに挟まれた俺の顔は、かなり呼吸できるスペースを狭められている。
しかしそれよりも、いい匂いで、柔らかくて、いい匂いがして、いい匂いがするから、俺の理性が飛びそう。

「……このまま、死んでもいいかも……」
「! だ、駄目です!」

ぐいっと俺の頭を胸から離す衣玖さん。ああ、ちょっと残念。いや、かなり残念。
呼吸困難で死ぬのは相当苦しいらしいから、さっきの俺はまだ全然余裕だったんだけど。
でも本気で心配してくれる衣玖さんを見ていると、俺もちょっとは大事に思われていたのかもしれない。
そんな衣玖さんがなんだか愛おしい。彼女の華奢な体を引き寄せ、腕を彼女の背中に回してしっかりと抱き締める。

「……あ……」
「これなら……お互い、苦しくない」

身勝手な抱擁に衣玖さんは少し驚いたようだったが、すぐに俺と同じように抱き返してくれた。
俺の肩口に少し朱が混じった顔を埋めて、蕩けそうな表情をしている衣玖さん。可愛い過ぎる。
抱き締め合う、という言葉が非常によく似合う状態になったが、俺はそこまで来て初めて、
好きだと言ってみる気になった。こういう状況でも無いと、ヘタレの俺には言えそうにないから。
でもどうせここまで来てしまったら、後は一直線じゃないか。

「衣玖さん」
「……はい」

耳元で囁いてみる。顔が熱くなっているのが分かる。

「衣玖さんの事が、好きです」
「私も、〇〇さんの事が好きです」


――――


結構な間、俺は固まっていたと思う。衣玖さんはその間ずっと、俺の首の辺りに顔をすりすりしていた。
猫じゃないんだから。何これ、俺の思考回路を奪ってどうしようと言うのですか衣玖さん。
とりあえず働かない頭で考えて、必死に言葉を絞り出す。

「……嘘だぁ」
「本当です」

さっきも今も、返事がやたらと早かったんだが、俺がそう言うと分かっていたのだろうか。
衣玖さんはこんな時でも余裕があって凄いな、と思ったらそうでも無かった。
この体勢の所為で衣玖さんの麗しきご尊顔は拝見できないが、耳がすこぶる真っ赤だった。

「清楚で可憐で美しい衣玖さんが、俺みたいな凡人を好きに?」
「清楚で可憐で美しい衣玖がどう思っているかは、私の知るところではありませんよ」
「……え……?」
「ただ、貴方の目の前の永江衣玖が、貴方を好いている事だけは確かです」

この人、本当に衣玖さん? こんなお茶目な人だったっけ。
実はここまで盛大なドッキリだったとか無いよね? そしたら俺本当に死ぬと思う。

「……やっぱり嘘じゃ……」
「はい、実は嘘です」
「ええっ!?」
「好きではありません。大好きですから」

衣玖さんがそう言った次の瞬間、俺の唇はあっさりと奪われていた。

「……私の、初めてです」

その後、全然足りないとばかりに、啄むように何度も唇を重ねてくる衣玖さん。何かをせがむ子供の様だ。
俺もやられっ放しは癪なので、少し強引に衣玖さんの唇を貪ってみる。


衣玖さんが離してくれたのは、どちらの物か分からない体液でお互いの口元が塗れた頃になってからだった。

「……ふぅ」
「……唾液でアーチって、本当にできるんですね」
「ふふ……作りましょう。これから、何度でも……」

赤い顔のまま、楽しそうに笑う衣玖さん。
俺はやっぱり、衣玖さんが好きだ。大好きだ。


――――


そのまま放っておくと宴会が静まったままなので、とりあえず二人をこちらの世界に引き戻す一同。
天子や萃香が至近距離に近付くまでは、二人ともまるで戻ってこなかったが。
誰もが今の出来事を肴に騒ぎたいとうずうずしていたが、今まで空気を読んで
どこかで区切りがつくのを待っていた。その分、反動も大きかったようで。

「そこはかとなく甘美な光景をありがとう、衣玖」
「……総領娘様……そ、その……」

早速、ニヤニヤした天子が衣玖に狙いを定める。片割れは萃香に捕まったらしい。
衣玖は先程落とした帽子を拾い上げ、それを目深に被って顔を隠した。

「私……〇〇さんが私の事を、す、好いてくれて、いるって聞いて嬉しくて、つい……」
「……何で今更照れるの?」

先程までの積極的な衣玖はなりを潜め、今はいつもの衣玖に戻ってしまったらしい。

「私、人間じゃないし、住む世界も全然違うし……絶対相手にされないと思っていました」
「その割には、随分とお早い返事だったわね。〇〇さんの事が好きですぅ~って」
「や、やめてください! 何ですか、その下手な物真似は!」

似てたと思うんだけど、と少々気落ちした様子の天子。割と本気でやっていたらしい。

「まぁ、あれはそういう空気だったからね。あなたも準備してたってことかしら」
「うぅ……も、もしかして、と思って……お返事の、用意を……」
「自惚れ屋ね」

かくんと項垂れる衣玖。空気を読める程度の能力は、ここでも十二分に発揮されていたようだ。

「あら、旦那が解放されたみたいよ」
「だ、旦那って……まだ……」

ぐったりした〇〇と、笑いを隠せないといった様子の萃香が二人に寄ってくる。

「いやぁ、人間って面白っ! 人の恥ずかしい話は聞いてて楽しいね!」
「お前は鬼か……」
「へへー、鬼だもん」

ケタケタと笑う萃香。天子もつられて笑い、〇〇と衣玖は居心地悪いことこの上無かった。

「〇〇ったら、自分みたいな凡人は絶対相手にされないと思ってたらしいよ」
「これは酷いわ。どこかの誰かも似た様な事を言ってたわよね~?」
「両想いの癖に、それをお互いで拒んでちゃ意味無いよねぇ?」
「ねぇ?」

顔を見合せて真っ赤になる〇〇と衣玖。

「これからはその反動で、人目も憚らずイチャイチャするわけね」
「イチャイチャ…………」
「これは子供が楽しみだわ。来年には一人くらい産まれてたりして」
「こ、子供って……気が早いですよ」
「冗談よ、冗談。ちゃんと避妊はしなさいよ」
「……だから、早いって……衣玖さんも何か……」

〇〇は手を振って否定しつつ、隣にいる衣玖に目を向けた。
もう茹蛸のようになってしまっているが、彼女は特に否定する素振りも見せず、ただ俯いているだけである。

「あら……衣玖はそう思ってないみたい」
「……え……」

ちらっと〇〇を一瞥した衣玖は、〇〇と目が合ったかと思うと、慌ててそっぽを向いてしまった。

「……衣玖さん……?」
「…………私は、その……」

〇〇から目を背けたまま、衣玖が言う。

「……〇〇さんさえ良ければ、いつでも……」
「…………!?」


――――


「甘酸っぱいわねぇ、桃のように」
「ねぇ天子。産まれるとかヒニンとか、何か子供に関係あるの?」

萃香が心底不思議そうに言う。

「……いやいや萃香、だって……」
「子供ってさ、鳥に頼んで持って来てもらうんだよね?」
「………………」
「……違うの?」

天子の大きな溜息。長年生きてきてそんなことも知らない鬼にがっかりしたらしい。

「萃香……〇〇と衣玖の子作りを見れば、きっと分かるわ」
「へぇー、子供って作るものなんだ」
「多分、今夜にでもやるわよ、あの二人」
「じゃあ、それを見に行けば分かるかな……天子も来るよね?」
「もちろん。うーん、テンション上がってきたわ!」

うpろだ1418

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深夜、床に就きながら考えていることがあった
「……最近、冷たいかもしれないなぁ」
俺は朝早く起き、彼女もそれに合わせて起きる
彼女が朝ごはんを作り、俺はそれを食べて、仕事に行く
仕事に言っている間は家事全般は彼女にまかせっぱなしだ
「……俺にできることないかなぁ」
そうだ、きっと俺にもできることがある
一日くらい、彼女に楽させてあげたい
このことを胸に留め、その日は就寝した






明くる日


それは前から計画していた彼女に楽させる日を作ることだった
そのためにはいくつかすることがあった
まず、俺は家事というものがほとんどできなかった
この幻想郷で家事の上手い人……そこで、白黒の魔法使いと住んでいる●●を訪ねた
彼は、俺に料理、掃除、洗濯、買い物の仕方など叩き込んでくれた
彼曰く「お前も嫁さん大事にしろよ。俺は彼女と一緒にいてとても幸せだからさ」
彼には今度ちゃんとした御礼をしたいと思う




計画実行の日


この日は俺も仕事が休みである
朝、彼女を起こさないように布団を抜ける
台所に立ち、朝食の準備を始める
途中、彼女が起きてきた
「おはようございます○○さん、今から朝食をを……」
「いいや、今日は俺が作るから。ほら顔を洗っておいで」
「そうですか、ありがとうございます」
彼女は洗面所に向かっていった
俺のほうも朝食が完成した
さっそくテーブルに並べる
見栄えは悪くない、味も自分では美味しいと思っている
彼女は喜んでくれるだろうか


「それではいただきます」
「いただきます」
彼女が一口、食べる
「味はどうかな?」
「……美味しいです。○○さんいつ料理習ったんですか?」
「それは良かった。それとそのことについてだが……」
俺は彼女に今日のこれからのことを話した
「心遣いありがとうございます。それではよろしくお願いします」
彼女の了承も得た
ここからが本番だ



さて、朝食も終わり、片付けに入る
「お手伝いしなくても大丈夫でしょうか?」
「ああ、これでもあの白黒の魔法使いの夫から家事を教わってきたからな、ある程度のことはできるから」
「そうですか、じゃあ私は居間でテレビでも見ていますので」
片付けも終わり、掃除を始める
寝室、台所、廊下、居間、玄関っと
外の掃き掃除を始めようとしたところに
「外は寒いので、これを巻いていってください」
彼女が羽衣をマフラーのように俺の首にかけてくれた
「うん、ありがとう」
外を掃く
彼女はいつもひとりで掃除しているのか
それを考えると、少し心が痛んだ




掃き掃除が終わり、次に洗濯だった
河童の協力と彼女の能力のおかげでこの家には洗濯機がある
おかげでいちいち手洗いしなくてもいいということだ
洗濯が終わり、外に干す
中には彼女の下着もあったが、この件はあまり触れないようにする
……言えるのは、彼女は着やせするタイプみたいだ




洗濯物を外に干し、次にするのは買い物だった
「買い物の時間ですか。私も行きます」
彼女がついてきてくれることになった
実際、何を買うかまではわからなかったのでとてもありがたい
「それじゃあ行こうか」
「はい」
マフラーみたいにしていた羽衣を二人の首に巻く
「少し…恥ずかしいかもしれません///」
「そ、そうだね///」







里に着き、買い物をする
途中、天子に会った
「なによーこんな昼間から夫婦っぷりを披露しなくてもいいじゃない」
皮肉げに言っていたが、実際彼女が俺らの後押しをしてくれていたものである
彼女に出会ったのも、天子が宴会に衣玖を連れて来てくれたからである
俺たちが付き合い始め、結婚を決めたとき天子はただ一言
「おめでとう」
と言ってくれた
彼女なりの言葉だったのだろう
その言葉はとても心に響いた




天子と別れ、買い物を終えて家に戻ってくる
洗濯物を入れ、お昼ご飯の準備を始める
彼女はずっとこちらを見ている
……少し恥ずかしい
「衣玖」
「なんでしょう?」
「……いや、なんでもない」
「はい」
きっと彼女に手伝ってくれと言えば、すぐにでも手伝ってくれるだろう
でもそれでは意味がない
彼女もきっと手伝いたいと思っているのだろう
でも言葉にしないところを見ると、空気を読んでいるかもしれない



お昼ごはんも終わり、家事の大半は終わった
そのときに彼女から
「○○さん、散歩に行きませんか?」
と誘われた
残りは晩御飯を作るのとお風呂の準備なので散歩に出ても問題はなかった
「よし、行こう」
俺と彼女は散歩に出た








「本当に今日はありがとうございます○○さん」
「いつも衣玖さんには世話をしてもらってるからね、たまにはこうしてあげないといけないって思ったんだ」
落ち葉の道を歩く俺たち
もう冬も近い

途中、彼女が立ち止まる

「……私はいつも家事が終わった後はこうして散歩に出ています。途中で総領主娘さまに会ったり、博麗の巫女に会ったりします。
 いつもあなたのことを聞かれるのです。それで私はこう答えているんですよ」
彼女が俺の手を取り、顔を近づける


「私は大切にされています。私は本当に幸せ者ですって」


そのままキスをする
唇に触れる程度のキス
唇が離れたとき、思わず彼女を抱きしめていた


「俺の方こそっ……こんなに良い奥さんをもらって幸せものだっ……」


いつの間にか俺は泣いていた
涙が顔を流れ落ちる
「ありがとう○○さん。そうですね……私達はとても幸せです」
彼女の眼にも涙が溜まっていた
俺はその涙を指で拭う


「これからもよろしく、衣玖」
「はい、私からもよろしくお願いします○○さん」









散歩から帰り、家に戻る
晩御飯の支度をする
「私も手伝います、二人で作った方が楽しいです」
彼女と一緒に立つ台所はとても楽しいものだった
そして晩御飯も二人で作ったかいあって
とても豪勢なものになった

「それでは、いただきます」
「いただきます」
「むぐむぐ…、やっぱり衣玖には勝てないなぁ」
「そんなことないですよ、○○さんだって努力してここまで作れるんですから」
「今度衣玖に料理教わってもいいかな?」
「はい、喜んで」
衣玖もすごく嬉しそうだった



豪勢だった料理もその姿をほとんど消し
後片付けをしているときだった
「○○さん、一緒にお風呂に入りましょう///」
彼女が顔を少し赤らめながら言ってきた
「…うん、わかった。先に入ってて、俺も後片付けが終わったら行くから///」
すっごく顔が赤くなっているのが自分でもわかった
「では、お先に失礼します///」




こういうときはどうすればいいんだろう?
とりあえずタオルは腰に巻いてっと
落ちないようにしないと
「そ、それじゃあ入るよ」
「え、あ、はい」
中から衣玖の声が聞こえる
戸を開け、風呂場の中に入る
衣玖は、湯船に使っていた
その……衣玖のタオルを巻いていてもわかるふたつのそれはやはり推測どおりだった
着やせするのか
「あ、あんまりじろじろ見ないでください……///」
「あ、ご、ごめん!」
とりあえず頭を洗い、身体を洗おうとすると
「お背中お流しします」
「あ、ありがとう」
正直、風呂に入っている間は理性が飛びそうで危なかった





風呂から上がり、先に上がっていて居間にいる衣玖に話しかける
「今日さ、一日衣玖の代わりに家事をやってきたけど、すごく大変だってことがわかったよ」
「そうなんです。だから○○さんも手伝えるときは手伝ってくださいね」
「ああ、いつでも言ってくれ」



「ふわあぁぁぁ……そろそろ寝ようか衣玖」
「そうですね…」
寝室に行き、布団を二枚引く
寒くなってきたので、毛布も出しておく
「そんじゃ明り消すよ」
「○○さん」
「どうしたの衣玖?」
「その、○○さんのふ、布団で一緒に寝てもいいですか?///」
「あ、うん、おいで」
「……○○さんあったかいです」
「そういう衣玖だって暖かいよ」
一つの布団で抱き合って寝る体制にいる俺たち
「その……二つほどお願いをしてもよろしいでしょうか」
「ん?」
「これからもずっと私といてください。ずっとずっと離れないでください」
「うん。俺はずっと衣玖のそばにいる」
「それと……さっきいつでも手伝ってくれるとおっしゃいましたよね」
「あ、ああ」
「その……子供が欲しいです……///」
「……///、俺も衣玖との子供が欲しい」
布団の中でキスをする
散歩に出たときとは違い、長く深く、お互いの愛を確かめ合うように
そこから俺は衣玖の服に手をかけ、そして……――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



























朝
目覚めると隣には衣玖の姿が
とても可愛らしい寝顔だった
「……う、…ん……」
「これからもずっとよろしく、衣玖」
「……○○…さん……」


新ろだ117

───────────────────────────────────────────────────────────

家で仕事中の俺の部屋に突然ノックする音がした
誰かと思って開けてみたら衣玖さんだった


「メリークリスマス」

「あ、メリークリスマスです」


簡単な挨拶を済まし、衣玖さんを部屋の中へと招き入れる
どうやら外では雪が降っていたみたいだ


「寒くないですか?」


彼女に問いかける



「そうですね……少し寒いです」

「今、暖かいお茶淹れますんで少し待っててください」

「ありがとうございます○○さん」




ここまでで、俺は一つ気にかかることがあった
……何で衣玖さんがうちに来たんだろう?



「お茶どうぞです」

「ありがとうございます」

「それで……今日は何の用事で?」





「今日はクリスマスですよ?」

何だ今の一瞬の間は?

「クリスマスといえば決まってるじゃないですか?」

ずいずいと近づいてくる衣玖さん

「恋人同士が一緒にいる日でもあるんですよ?」

顔がすぐ目の前に来る

「私は○○さんのことが――」






唇と唇が触れる






「これが今日のプレゼントです」

ああ、そうか

「ご満足いただけたでしょうか?」

この胸の高まりは

「できれば今日はあなたの隣で寝させていただきたいのですが――」



今度は自分からキスをしてみる



「――今のはOKの返事ということでよろしいですね?」
彼女がくれた最高のプレゼントということを


「ああ、今日は一緒に寝よう」


実感した――


新ろだ219

───────────────────────────────────────────────────────────

「もうすぐお正月ですね」

台所で片付け物をしている彼女が言う
確かにクリスマスも終わり、次に来るのは冬コミか正月くらいである

「そういや、幻想郷って正月に何か特別なこととかあるの?」

一応俺も外の世界から来た人間だが
こっちの流儀で正月を迎えなければいけないのだろう

「特にはないですね。神社で宴会が行われるくらいですが」

「衣玖はそれに出るの?」

「私は……どうしましょうか」

少し悩んでいるみたいだ
そして片づけをしている手を止めてこちらを振り返る

「○○さんはどうしたいですか?」

ここで俺に降ってくるとは何かとズルイと思う

「まぁ、それを衣玖に言われたらこう答えるしかないよな。俺と一緒に年越してくれって」

「もちろんその言葉を待っていました」

「ずるいな衣玖は」

「ええ、こうまでしないと○○さんは言ってくれそうにないですから」

「そんなところ全部ひっくるめて好きになったんだがな」

そしてまた片付けに入る












「私も――ですよ」

彼女の口から言葉が漏れる

「顔赤いぞ衣玖」

「し、仕方ないじゃないですか。あ、あんまり面と向かって好きといわれるとその……」

俺はおもむろに立ち上がり、台所にいる衣玖を後ろから抱きしめる

「恥ずかしい?」

「う……」

さらに顔を真っ赤にする衣玖

「少し早いけど、来年もよろしくな」

彼女が俺の手を振りほどき、今度は正面から体を当ててくる

「来年……だけじゃないですよね?」

そんななこと上目遣いで言われたら

「ああ、これからずっとよろしくな」

そう答えるしかないじゃないか










「と、とりあえず、離してくれませんか? か、片づけが終わらないので」

どうやら強く抱きしめすぎていたらしい

「おっとごめんよ」

「いえ、あの……後でもう少しお願いしますね……」

どうやら今夜も早くには寝れそうにないなと思った


新ろだ238

───────────────────────────────────────────────────────────

「起きてください○○さん」

肩を揺すぶられている、もう少し寝ていたい俺は反対方向へ寝返りを打つことにした
そしたらなんと、衣玖まで布団の中に入ってくるではないか
そして耳元で囁かれる、息がかかる

「んー……何、衣玖?」

うっすらと目を開けるとそこはまだ薄暗い闇の中
それでもとなりにいる衣玖のぬくもりだけはしっかりと感じることが出来た

「いえ、先ほどまで宴会でおおいにはしゃいでいて、疲れているのはわかります」

その通りだ、先ほど大晦日から年越しまで博麗の神社の宴会で大いにはしゃいでいたのだ
おかげで酒に酔い頭が痛いし、突然弾幕勝負の中に放り出されるし ……結局は衣玖が助けてくれたのだが
そして今はその宴会から帰ってきて、ゆっくりと休んでいるところである

「ですが……見ていただきたいものがあります」

すぐ隣からぬくもりが消え、障子が開く音がした。きっと縁側に出たのだろう
といってすぐに布団から出る俺ではない。手探りで近くにあるはんちゃを布団の中ではおり、外に出る決心をする
寝ぼけた眼をこすり、衣玖のことを気遣い、もう一着を探すが見つからない
仕方がないので、そのまま衣玖の後を着いていくことにする

「もう少しです○○さん」

縁側には衣玖が腰をかけていた。その隣に俺は座り、はんちゃを衣玖の肩にかけてあげる
自分は寒いが、まぁ衣玖が寒がる様子を見ているよりかは幾分かはましである
何が始まるのだろうと心躍らせながらその時を待つ

「今日は雲もないですし、きっと綺麗だと思いますよ」

その一言で衣玖が自分に何を見せたいか理解することが出来た
だんだんと空が白み始め、暗かった世界から青へ変わり、オレンジ色の光が見え始めてくる
やがてオレンジ色の光は大きくなり、世界を照らすように現れる

「ああ、こんなに素晴らしい日の出を見たのは初めてだよ衣玖」

衣玖に笑いかけると、衣玖もまた笑顔で返してくる

「はい、私もこんなに良い日の出を○○さんと一緒に見られてとても嬉しいです」

そして太陽が俺達を照らす――――

「大好きだよ衣玖」

「私も大好きです○○さん」






太陽が完全に出た後も俺たちはそこにいて、感動の余韻に浸るように、俺たちは肩を抱き合って座っていた

「……ねぇ○○さん」

「ん?」

「今年も……これからもずっとよろしくお願いしますね?」

「ああ、任せろ衣玖、こちらこそよろしくな」

そしてそのまま導かれるように俺たちは唇を合わせる――――


新ろだ245

───────────────────────────────────────────────────────────

「今日は何日ですか?」

朝ごはんを食べていると突然衣玖が訪ねてきた
確か、今日は……

「睦月の九日……1月の9日だね」

なんかあったかなぁ今日?
とりあえず箸を進める俺

「そうです、1月の9日です。つまり」

つまりなんだろう……?
あ、この卵焼き美味しいな

「私の日です」

はぃ?
……とりあえず一呼吸、そんでもって箸を置いて

「どうして?」

「1月9日、1と9、いとくです。だから衣玖の日です」

うん、道理は合ってるんだが
なんというか……

「え~っと、それで俺はどうすればいいんですか?」

「私の日ですよ?なので○○さんが今日一日私の物です」

「つまり……一日一緒にいて欲しいと」

「そうです」

なんかいつもと変わらない気がするなぁ……
まぁいいか

「それじゃ、今日の予定は何ですか衣玖?」

「とりあえずデートしましょう」


仕事も今日はお休みだし、こんな日が一日はあってもいいかな

















朝ごはんも食べ終わり、衣玖と里に出かける準備をする
いつものようにコートを羽織り、手袋をする
そして玄関で衣玖の準備が終わるのを待つ

少し待つと衣玖が自室から出てきた
彼女にしては珍しく黒いコートを着ていた
普段に劣らず大人びて見える衣玖に内心ドキッっとしていた

「あのですね……」

「ああ、似合ってるよ衣玖」

「ありがとうございます○○さん」

玄関を出た俺たちは手を繋ぎながら里へ向かった




「寒くないですか?」

歩きながら衣玖が尋ねる

「あー、まぁ寒いけど、手繋いでるから大丈夫かな」

「私もですよ、こうしていれば暖かいですね」

顔から火が出そうとはこういうことを言うのかな
すげぇ恥ずかしいんだけど

「そういえば、初めて会ったときのことを覚えていますか?」

初めて会ったとき……
確か……







「あの地震の時だな」









幻想郷で地震が頻発していたころ、
衣玖が俺の家に地震が来ることを伝えに来てくれたのだ


「この辺りに地震が来ます。早く避難してください」

「はぁ、ところであんたは?」

「永江衣玖と申します。それでは次のところに伝えに行かなければいけませんので」

「あ、衣玖さん、ま、また会えますか?」

「……運がよければまた会えるでしょう。それではこれで」












そう言って飛んでいったんだよなぁ
そんで博麗の神社で宴会があるって聞いて、行って見たら衣玖がいるんだもんな
















「あ」

「こんばんわ」

「どうもこの間はありがとうございました。おかげで怪我もなかったです」

「そうですか、良かったです」

「その、隣いいですか?」

「ええ、どうぞ構いませんよ」

衣玖の隣に腰をかける俺
衣玖の顔を見るとほんのりと赤くなっている


「衣玖さんは今日はどのくらい飲みました?」

「今日はですね……総領主娘様と鬼と……様々な方と酌み交わした気がします」

「そうなんですか、いいですね衣玖さんは。多くの友達がおらっしゃって」

「そんなことありません。実のところ皆さんとは最近仲良くなったばかりなのですよ」

「へぇー」

「もちろん、あなたのことも友達ですよ?」

「お、俺もっすか!?」

「そうです、こうやって話しているだけでもあなたと私は友達なのですよ」

「な、なんか照れますね」

「? そうですか?」


宴会の時に友達って言われて嬉しかったなぁ
今は衣玖のおかげでけっこう友達多くなったし


「……もう宴会もお開きのようですね、それでは私もこれで」

「あ、あの!」

「なんでしょうか?」

「良かったらうちにも遊びに来てください。この間の御礼もしたいので!」

「……わかりました。必ず伺いましょう」

「あ、ありがとう!」


昔の話をしていると里に着いた
そこで続きの話は茶屋ですることにした
茶屋までの途中に、魔理沙やアリスといった衣玖のおかげで仲良くなった面々とも会った












茶屋に着き奥の座敷に座る
とりあえず、あんみつを二つ頼み、話の続きをすることにした


「あの日はああやって別れたけど、まさか次の日に訪ねてくるとは思ってもいなかったなぁ」

「そうなんですか? 必ず伺うと言いましたのでなるべく早くお伺いした方が良いと思ったのですが」

「うーん、おかげでアレを聞かれちゃったしなぁ……」
















衣玖が訪ねてくる少し前
俺は一つの考え事をしていた


「これは……一目惚れだよなぁ……」

地震の時から宴会の時を経てずっと頭から衣玖さんのことが離れないのだ
何かあるたびに彼女の顔を思い出す

「好き……なんだよな俺は衣玖さんのことが」

そしてどうするべきか悩んでいた
この気持ちを素直に告白するべきか否か

「っあー!もうっ!俺は衣玖のことが好きだああぁぁーーーー!!」

思いっきり叫んでみる





















「はい、私もあなたのことは好きですよ」






















一瞬、何が起こったのかわからなかった
振り向くと玄関には衣玖さんがいて
顔を真っ赤にしてうつむいていた
というか、聞かれてた? そしてOKもらった?

「え、あ、い、衣玖さん? いつからそこに……?」

「その……「っあー!」のところからすでに……何度も御呼びしたのですが聞こえてないようでしたので」

ああっ!何と言うことだ
よりによって本人に告白を聞かれてしまうとは

「う……」

「わ、私もですね……初めて会ったときからこの胸の高まりが鳴り止まなくてそれで……ずっとあなたのことが気になってて……」

衣玖さんが少しずつ語り始める

「それで総領主娘様に相談してみたところ、「衣玖!それはきっと恋よ!」と言われました」

「それで気づきました、私はあなたに恋しているのだと」

衣玖さんが顔を上げてこちらを見る
俺はたまらなく恥ずかしくなって思わず目を逸らしてしまった

「私は……あなたのことが好きです」

もう一度告白された

俺は……俺は……











「俺も衣玖さんのことが好きだ」














「なんか話してると恥ずかしくなってきますね」

あんみつを頬張りながら、向かいに座った衣玖が言う
実際そうなのだ。俺も話しながら顔から火が出そうだ

「でもさ、あの時衣玖が告白聞いてなかったら今みたいな関係はなかったかもしれないでしょ?」

「そうですね……そこは空気を読める私ですから」

自分で言わないで欲しいと内心思いつつ、衣玖があんみつを食べ終わるのを待った
日は高く上り、日差しが舞い込む





「ごちそうさまでした」

「んじゃ、これからどうする?」

「とりあえず、お夕飯の買い物を済ませましょう」

「了解、あ、衣玖は先に店を出てて。お勘定は俺が払っておくから」

「ごちになります」

「どこでそんな言葉覚えたんだよ」

あんみつ二つといってもそこまで高いものではない
手早くお勘定を済ませ、外にいる衣玖の所へ向かう



















「あれ?衣玖?」

店の外には衣玖の姿はなかった
辺りを見渡すと、小物店の前にしゃがむ衣玖の姿があった


いらっしゃい、と店主が言う
そこには色とりどりのあざやかな小物が並んでいた

「あ、○○さん」

ようやく俺の姿に気づいたのか、衣玖が立ち上がる

「なんか欲しいものでもあったのか?」

「いえ、特に大丈夫です」

すこしその言葉に気がかりを覚えたが、その店を後にした







衣玖と買い物をしている間に気がかりが頭から離れなかった
なぜ衣玖は小物店でしゃがんでいたのか
大丈夫ですと言ったが、本当は欲しいものがあるのではないか?


衣玖に見つからないように店からそっと抜け出し、先ほどの小物店に向かった



店主がお店をしまう直前のところに間に合った
おお、さっきの彼女の連れかい?と店主が聞いてくる

「さっき彼女が何を見ていたか教えて欲しいんだが」

店主がごそごそと商品の中をあさる
そして俺に見せてきたのは

「指輪……?」

ええ、今ならこの値段でどうでしょうと、値段を見ると少しばかり高値であった

「もう少し……もう少しなんとかならないか?」

そういうと思ってましたよ、店主が頷く、そしてだまってその指輪を俺の前に差し出す
サービスだよ、あんな可愛い彼女を手放すなよ。と言って俺の背中を叩いてくる いてぇ

「ありがとうございます」

お礼を告げ、衣玖の元へ走り出す俺


















「まったく、どこに行ってたんですか?」

衣玖が怒りながら責め立てる

「いや~、さっきの茶屋に忘れ物しちゃって」

「それならそうと言ってください! 私、心配したんですから」

少し泣きそうな顔になる衣玖
思わず抱きしめてしまった

「きゃっ」

少し力を入れていたようで、腕の中で衣玖が少し動く
少し力を弱めると、衣玖が顔を覗き込んでくる

「……本当はこれを買いに行ってきたんだ」

衣玖に指輪を見せるとすぐに驚いた顔になった

「これ……さっきの小物店ので、よくこれがわかりましたね」

「店主に聞いたら、衣玖がこれを見てたって教えてくれてさ」

衣玖に指輪を渡す

「これは……こういうことでいいんですね」

迷わず左手の薬指に指輪をはめる

「ああ、でもな俺としてはちゃんとした指輪を買ってやりたいんだがな」

「もちろんそれまで待ってますよ……あなたの隣で」


新ろだ260

───────────────────────────────────────────────────────────

本日も晴天なり。博霊神社では巫女が掃除をしていた。その境内でくつろいで
いる一組の男女。竜宮の使いである永江衣玖と外来人である○○という男。
そんな--○○はくつろぐというより完全に寝ているが--二人がくつろいで
いると、霊夢が何か思い出したように手を叩いて、

「ねぇ衣玖、○○さんに二日後の宴会で手伝い頼める?」

と、言った。
衣玖は「またか……」という顔をして、

「なぜ、私に言うんですか?直接言えば……」

と、聞くと

「だって、あんたが言ったら大抵のことはやってくれるじゃない」

と、答えた。

○○。半年ほど前に外からやってきた。多少無愛想ながらも、手先が器用で力
もあり、物覚えもいいので里のほうで重宝されている人間である。
そしてどういう訳が、この隣にいる衣玖の言うことは大抵……いや、ほとんど
聞いている。大分無茶な要求でも彼女を通してなら--けっこう渋々ではある
が--聞くのであった。


霊夢が宴会の準備を依頼するのはもう何度目だろうか。確かに今まで一人、多
くても二人でやってきたのだ。その片方は酒ばかり要求して「いないよりマシ」
というものであったが、○○は「ありがたい手伝い」なのである。霊夢として
は頼まないほうがおかしい。
それもわかっており、なお且つ自身が手伝う気がない衣玖は○○に伝えるため
に彼を起こすことにした。

「○○さん?起きてください。」

現在が冬とはいえ、日向であれば絶好の昼寝日和といえよう。その上○○は昼寝
好きである。別にダメ人間という訳ではないが、本当によく寝ている。そのせい
か、『寝る子は育つ』とはよく言ったものでけっこうな長身である。その身体を
狭い--彼にとってはだが--境内で器用に折りたたんで寝ている○○をゆすっ
て起こそうとする衣玖。
少し不機嫌そうな呻き声を上げながらむくりと起き上がる。頭をぽりぽり掻きな
がら、とろんとした目で衣玖を見て呟くように、

「どうしたの衣玖?」

と、言った。若干ぼーっとしているが、意識ははっきりしているようだ。

「霊夢さんが二日後の宴会の手伝いを頼みたいそうです」
「んー……了解」

特段何も考えずに返答をする○○。それでいいのかと衣玖は思ったが、突っ込む
のがめんどくさいのでやめた。


--------------------


二日後。博霊神社。現在宴会準備中。

「○○さん、それはこっちのほうによろしく」
「んー」

生返事ではあるが、ちゃんと理解しているため問題はない。
黙々と作業しているため、終了も早いのは当然のこと。料理も酒も準備満タンで
ある。大食らいと酒豪が多い幻想郷では、宴会も一苦労である。

「おつかれさま。いつもありがとね」
「んー。で、片付けもいる?」
「できればね」
「了解」

宴会まで時間もあるため、とりあえず霊夢の出してくれたお茶を啜っていた。
本来なら彼はコーヒー派であるが、お茶も好きであるため、問題はない。ただ
単に一番がコーヒーというだけだ。

「ねぇ、○○さん。ひとつ聞いてもいいかしら?」

特に会話もなく、ゆったりとお茶を啜っていた二人であったが、突然霊夢が話
を切り出した。別に沈黙に耐えかねた訳ではない。話題もなく、互いがお喋り
ではないから黙っていただけである。

「なに?」
「頼みを聞いてくれるのはいいことなんだけど、衣玖の口からだと大抵聞いて
くれるよね?」
「・ ・ ・ 。そう?」

……どうやら自覚無しだったようだ。ならば根本の質問は無意味だろう。
霊夢は「なぜ衣玖の言うことなら何でも聞くのか」と聞こうとしていたのだが
当人がコレなのだから意味がない。
そう聞こうとしたことを○○に説明すると、考えごとをしているような顔にな
った。といっても、普通の人にはその表情の変化に気づかないだろう。

それからは特に会話もなく、宴会の時間となった。


--------------------


食えや飲めやの馬鹿騒ぎ。それがここでの宴会のマナーでありルールである。
最近は外来人も増えてきたため、話題も肴も中々に豊富であった。主には色恋
の話である。
人妖問わず、彼女らも乙女である。甘い物と話は大好物の一つだ。その話題が
切り出されたのは、

「ところで○○、一つ聞いてもいいかしら?」

妖怪の賢者、八雲紫の一言だった。
衣玖と飲んでいた○○だったが、いつの間にか近くにいた紫に話しかけられ、
紫のほうを顔だけ向ける。
若干のデジャブを感じながら続きを待つ。

「貴方はなぜ、竜宮の使いの言うことならなんでも聞くのかしら?」

デジャブどころではなかった。この質問は、宴会の準備が終わった後に霊夢に
聞かれようとしたことと、まったく同じだったのだから。
確かに、衣玖から--間接的にとはいえ--頼まれたことは全部聞いている。
月の頭脳、八意永琳からの依頼では、「山二つ離れた所にある薬草をうどんげ
と取ってきてほしい」というのも、二つ返事で承諾し、里の守護者、上白沢慧
音からの「寺子屋の手伝いをしたほしい」というのも、快く承諾した。
他にも、随分無茶な要求をされているのだが、衣玖の頼みなら全部聞いている
のだ。

皆も気になっていたのだろう、聞き耳を立てていた。当人は何かしらの返答を
考えているようだ。
当人である衣玖も無論気になる。無愛想ではあるが、優しくてどこか抜けてい
る彼に、何時の間にか心奪われていた。そんな彼が自分の言うことは聞いてく
れるのだ。本来なら衣玖が聞くべきことのような気もする。

「んー……そうだな……」

返答であろう次の一言にさらに聞き耳を立てる。やがて口を開いた○○から、
とんでもない爆弾が投下された。

「惚れた弱み……かな?」

吹き出す衣玖。騒ぐ野次馬。ニヤつく紫。爆笑している鬼もいれば、若干呆れ
ている魔女もいる。中にはショックを受けている者もいるようだ。

「そっ、そんなことを今ここで言わないでください!」

真っ赤になって抗議する衣玖。その顔はトマトもびっくりな赤さである。
まぁ、衣玖の抗議ももっともである。こんなところでこんなことを言っては冷
やかしくらいしか受けないのである。当然肴になっている。バカがアホみたい
に騒いでいる。

「聞いた聞いたー」「惚れた弱みですってー」「見て真っ赤よ」「対象的に彼
は無表情ね」「甘甘ですわー」

好き勝手騒ぐ。最早やりたい放題である。そんな中でことの発端である○○は
キョトンとしている。「何故騒いでいるんだ?」と言った顔をしている。

「そんな顔しないでください……」
「別に騒がれるようなことは言ってないが?」
「言いました。というかそれを無表情で言わないでください。真っ赤な私が間
抜けみたいです……」

聞かれたことを答えただけであり、言った本人はそんなつもりで言った訳では
ない。対象は紫な訳なのだから。
対象が違うのなら、本命に変えればいい。無表情から一遍、朗らかに無邪気に
微笑み、

「衣玖の事が好きだから」

と、あっけからんと言ってのけた。更に真っ赤になる衣玖。見たことのない○
○の表情に黙り見とれる野次馬ども。それほどに無垢で真摯な気持ちが表れて
いた。
ポヘーとしている衣玖に対して返答を言うように肘で求める紫。我に返る衣玖。
赤みが増しながらも、蚊の鳴くような声で、

「私もです///」

と答えた。
そこからは、爆発したように騒ぐ皆々。肴が美味いのだから酒も進むだろう。
弄られる○○と衣玖ではあるが、互いに微笑んでいる。
そんな中で突然衣玖を引き寄せる。何事かと思わせるより早く、衣玖の唇を奪
った。事が飲み込め引き離そうそするも、甘い痺れが思考回路を鈍らせ、その
身を○○に任せた。やがて舌が入り、ピチャピチャと淫らな水音が響く。
あらあらといった様子でニヤニヤしながら見つめる大人チームと、顔を真っ赤
にしながら目を手で蔽うも、隙間全開で見ているお子様チームに分かれた。
そのどちらでもない霊夢は「片付けの手伝いは無理ね」と考えながら二人の行
く末を思っていた。



新ろだ299

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冬とはいえ動けば汗はかく。激しく動くなら尚更だ。
ここ最近運動不足だったため、久々にキツイ仕事をしていた○○は、溜息混じり
ながらも清々しい顔をして家路についていた。

「ふー……疲れた疲れた。いい汗かいたし、帰ったら風呂にするか」

そう考えていたらすでに家の前についていた。鍵を取り出して開けようとすると……

「ん……開いてる……」

鍵が既に開いていたのだ。
こんなボロ屋に盗人が入るわけがないとは思いつつ、とりあえず南京錠を掛けて
いたのだが、それが外されていた。

「…………壊されていたのでなく……か……」

そう、壊されているのならここの妖怪ならお茶の子さいさいだろう。しかし『外
されて』いたのである。つまり……

「鍵を持っている奴が入ってるという訳か……」

誰だか用意に分かる……まったく……
そう考えながら家に入る。入って向かいたいのは風呂。向かうのは自室。そこに
は案の定……

「衣玖……起きろ……」

スヤスヤと可愛らしい寝息を立てて俺のベットで寝ている竜宮の使い、永江衣玖だ
った。
彼女と知り合ったのは一年ほど前。ここ幻想郷に来た時の第一発見者が彼女だった。
そこから色々あって……まぁ、一応恋人という仲になっている。
それからというもの時たまこうして俺の部屋のベットで寝ていたりする。

「んっ……あぁ……おかえりなさい○○さん……」
「ただいま。また?」
「……えぇ。落ち着くし好きなんで」

彼女がこうしている理由。それは『俺の匂いが好きだから』ということらしい。別
に匂いフェチという訳ではない。そのまんまの意味だ。

「まぁ、悪い気はしないがね……ところで風呂沸かしてる?」
「準備だけは。あとは焚くだけです」
「りょーかい。入ってくる」

そう言って風呂のほうに向おうとすると、後ろから抱きつかれた。まったく……

「汗そうとう掻いてんだが……」
「どうせまた掻きます」
「ベタベタしてんだが……」
「気にしません」

そう言いつつベットのほうに向かうように仕向けた。まったく……こりゃ二人風呂
はでだな……


追伸。第五ラウンド引き分け


新ろだ311

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