風が、駆け抜けた。
雪狼の牙の冷たさと鋭さを携えた風だ。
切り裂くように頬を撫でた風は、一息のまに森を抜け、妖怪の山にまで達しているだろう。
その後に、雪が来た。
空は晴れわたり、雲などどこにも見当たらない。
どこからか運ばれてきた粉雪が蒼天に散る。
風花。
ひらりはらりと舞い踊る六花を見上げながら、パチュリー・ノーレッジは、ちいさくため息をついた。
「……さむい」
「そりゃ、そうだろう」
いつものパジャマみたいな服に、うえから一枚ケープを羽織っただけの格好だ。
もう十二月も後半に入っているのだから寒かろう。
ときどき吹き抜ける、風の精霊たちの行く先を見送りながら、紅魔館の庭園に二人で居る。
昨夜、積もった雪が、花壇のうえにうっすらと残っている。
また、一陣の風。
おおきく翻ったパチュリーの髪が、陽光に照らされて輝く。
よく手入れされた、さらさらの髪だ。
外出をあまりしないのは、髪が傷むのが嫌だからだそうだが、なるほど、自慢して良いレベルだ。
彼氏としての贔屓目を除いても、素直に美しい。
例えるなら……月か。
太陽の光を享けて、静かに柔らかな光を放つ月。
本人の性格からして、そんなとこが妥当かなぁなどと、帽子の飾りを見ながら思った。
「やっぱり、さむい」
「外に出るって言ったのは、パチュリーじゃないか」
「でも……さむいものはさむい」
どうにも我が儘なお姫さまである。
「で、クリスマスツリーに使えるようなモミの木って、どこにあるんだ?」
「もうすこし森の方。館の裏手あたりになるかな」
「了解、監督」
今日はクリスマス。
毎年の如く開かれる紅魔館主催のパーティの準備係が、今年はパチュリーだったというわけだ。
やることはいつもの宴会と大した違いはないとはいえ、巨大なクリスマスツリーの準備だけはひと手間かけなきゃならない。
監督の号令一声。
俺は作業服(香霖堂で見つけた)と大工道具一式を装備して、現場の踏査に赴いたわけだ。
5メートル程度の大きさは必要とのこと。
木を切り倒したあとは、妖精メイドも総出で紅魔館のホールに運び込むことになる。
「この樹なんかどうだ?」
「ダメよ。こういう穴のある樹木には、何らかの虫がついてるの」
彼女についているのは本の虫だけど。
さすがに知識は人数十倍だ。
何が気に入らないのか、林のなかを難しい顔でふよふよと飛びまわっている。
物事を知る、ということは、こだわりにも繋がるわけで。なかなか「これで良し」というのが見つからない。
俺も探しているふりをして、下から確かめる。白青縞。これで勝つる。
「これが良いわね」
上空から声。
真下に居た俺は慌てて根本を見ていたように振舞う。
あくまで自然に、そして優雅に。
「この木?」
「ええ。この赤黒い色もご立派な形も黒光りしてるようなツヤも、申し分ないでしょ」
バレてたらしい。俺は五体投地して謝意を表明する。
これでダメなら究極の土下座、『水揚げされたマグロ』で完全服従の態勢を取るしかない。
「……まあ、いいわ。その変わり今日は働いて貰うよ」
「へいへい」
ぶつくさ言いながらも、手にしたノコギリの刃を幹に当てる。
パジャマ娘は後ろでみているだけ。
金符あたりを使えば、すぐ終わるんじゃないかなーなんて思ったりもしたが、口には出さない。
せっかく久しぶりに二人きりなんだから、時間は有効に使わなきゃいけないじゃないか。
普段はほとんど図書館に詰めっきりだし。
あそこには誰か彼かがやってきては騒ぎを起こしていくところだから。
騒がしくも楽しい日常に不満を持っているわけではないけど、それでもこうやって過ごせる時は貴重なんだ。
彼女も、そう思っているのだろうか?
「さむい」
まだ三分の一くらいしかノコギリの刃は到達していない。
後ろで見ていたパチュリーが寄ってきたので、俺は動きを止めた。
「どうした?」
「私もやってみたい。身体を動かせば温まるでしょ」
「そうだなぁ……」
俺が逡巡してる間にも、パチュリーは勝手にノコギリを握ってしまう。
まあ、いいか。危なそうだったら助け舟を出せばいいし。
邪魔になるからすこし離れる。
両手でしっかりとノコギリを持って、ぎこちなく動かし始める。
ゆっくり進み、ゆっくり引く。
ほとんど切れてはいないけど、手堅い動きだ。
やがて慣れが生まれたのか、だんだんと動きが速くなる。
と、そこで刃の進みが急停止。引っかかったのか。
「むー。むー。むーーー! ……むきゅ~」
あ、回線が切れた。
「ストップ。ちょっと貸してみ?」
「貴方の真似をしてみたけど、なかなか上手くいかないね」
パチュリーの言葉はちょっと嬉しかった。
彼女の後ろ側から、手を添える形で俺もノコギリを掴む。
背後から抱き締めるようなかたちだ。
こうしてみると、やはりパチュリーはちいさい。
俺の首くらいまでしか身長ないんだから当然か。
そのまま、ゆっくりと手を動かす。
「力を入れ過ぎるとダメなんだ」
「こうかな?」
「そうそう。ほら、すんなり入ってくだろ」
「ほんとね。ちょっと気持ち良くなってきたかも……」
「じゃあ……もうちょっと大胆に動かしてもいいか?」
「うん。手加減、しなくていいよ」
すぐ近くにある彼女から、ふわりと香るのは彼女の名の元となった花の香り。
たまたま香霖堂で見つけたのをプレゼントしたんだが、使ってくれてたのか。
「やめた。ゆっくりやろうか」
「どしたの?」
答える代わりに、彼女を抱く力を強くする。
それだけでわかってくれるだろう。
「そうしようか。でも、パーティーに間に合うように、ね」
「おーけー」
これは、日常の間隙にある、ちいさなイベントでしかない。
赤黒くツヤのあるご立派なクリスマスツリー候補を切り倒してしまえば、また騒々しくなる。
繰り返すけど、それが嫌なわけじゃない。
でも、こうやって二人で居れる時間を大切にしたいとも思う。(それがノコギリで木を切ってるだけってことでも)
これからも一緒に、ずっと一緒に……
新ろだ229
───────────────────────────────────────────────────────────
トントン、と玄関のドアを叩く音で、浅い眠りから目を覚ます。
続いて鍵の開く小さな金属音と、入ってくる客人の気配。
「起こしちゃったかしら?あぁ、いいから、そのまま寝ていて。大体の事情は聞いているわ」
聞き慣れた声に、布団の中で起こしかけた体を再び横たえ、顔だけを向けて挨拶を……
「お゛ー……おはよう、パチェ。いつも済まないねぇ……ゲホゲホ」
「……何の話?それにしても酷い声ね」
我ながら酷い声が出たものだと思う。
「それはまぁ、風邪引きだから。でもあんたがお見舞いに来てくれるなんて、たまには風邪も悪くな……っくしゅん!」
「馬鹿言っていられる余裕はあるみたいね。あと私は本を回収に来ただけよ。期日になっても返しに来ないから」
クールに返しつつ、炬燵の上に重ねて置いた本を、手に取って確認しつつ回収していくパチェ。
「つれないなぁ」
「……冗談よ。とりあえずこれ、次にあなたが読みたいのはこの辺ね?」
はい、と渡された本を見てみると、確かに以前図書館で目を付けておいたもの。
「凄いな、よく分かるもんだ」
「以前に貸した本の履歴と傾向から、この辺りかなって。合っていたなら良かった」
「さすがは大図書館の主ってところか。ありがとう」
「どういたしまして。っと、ちょっと台所使わせて貰うわね。どうせまともなもの食べてないんでしょう?」
ちょっと照れたように微笑んで、何やら持ってきた荷物を開け始める。
「お、何か作ってくれるの?」
「お粥、持ってきたから、温めればすぐに食べられるわ」
取り出したのは小さな鍋とエプロン。
「……私が作ったわけじゃないのだけどね。作ったのは咲夜。だから味と栄養は保証するわ」
「なるほど、咲夜さんなら確かだな」
色々と完璧な人だからなぁ。
パチェの手作りも食べてみたかった気もするけれど、また機会もあることだろう。
「そういう訳だから、少し待ってて」
「あいよー。その間に着替えでもしておくかな……おぉ?」
パチェが、エプロンを着けている。どうやらメイドのものを借りてきているようだ。
「……何よ?」
これは……なかなか……
「……意外と有りだな」
「……何がよ?」
「似合ってる」
「っ……ね、寝ぼけたこと言ってないでっ……私い、行くから」
わーお、真っ赤になってそそくさ出て行ってしまった。ストレートに言い過ぎたかなー。
新妻みたいな感じで、まで続けたらさらに大変なことになったのだろうか。
……あれ?むしろ俺が恥ずかしい事言った?なんだか今になって急に……あー。
結局俺もなんだか微妙な気分になりつつ、上の空で着替えることになりましたとさ。
全部風邪が悪い。
「なぁなぁ、アレやってくんない?『あーん』ってアレ」
「……馬鹿なことばっか言ってないでとっとと食べちゃいなさいよ」
などといつものようにあしらわれつつ、のんびりと食事タイム。
ちなみにエプロンはもう外してしまった。残念。
「……ほら、口開けなさい」
「あーん」
なんだかんだ言いながらもやってくれるパチェ。さすが、話が分かるね。
「うむ、やっぱり普通に食べるより美味い気がする」
これぞ病人の特権。ビバ風邪引き。
「そんなわけないでしょ。さ、とっとと食べちゃいなさい。薬も用意してあるんだから」
「あーい。って、薬か……苦いの?」
「子供みたいなこと言うわね。これは私が調合したもの。だから苦さと効果は保証するわ」
「苦さは保証しないでくれていいんだけどなぁ……大人でも子供でも苦いものは苦いし。我慢できるかどうかだけの違いだろ?」
余談ながら、俺は注射も嫌いである。大人の現実ってそんなものだと思う。
「苦さと効果が比例するとは言わないけれど、効果を求めればある程度苦くなってしまうものよ。我慢しなさい」
「はいはい、分かってますよー……っと、ご馳走様」
「お粗末様。治ったらちゃんと咲夜にお礼言っておくのね」
「分かってるよ。それじゃ、あとは薬かな」
「少し待ってて。水取ってくるから」
はい、と渡された薬包を手に、静かに眼を閉じて覚悟を決める。
「……何大げさに悲壮感を演出してるのよ」
「や、雰囲気って大事だよな、と思って」
気を取り直して、コップを受け取る。
薬包紙を開いて、粉薬を一思いに口の中へ。間髪いれずに水で一気に流し込む。
「おぉ、さすが、豪快ね」
飲み干したコップを置いて、しばし瞑目。
「……覚悟、していたよりは、苦く、なかった」
「負け惜しみね」
文字通り苦い顔の俺を見てニヤニヤしてるパチェは意地悪だと思う。
「うるせぃ。あーくそ、これは確かに効きそうだ。よく効くだろうな。そういう味がする」
そうであってくれないと報われない。
「保証するわよ。さ、片付けはやっておくから、あなたは横になってなさい。薬が効いてくれば眠くなると思うから」
「あいよー。悪いけど、頼むな」
「気にしなくていいわよ。任せておいて」
食器を魔法で浮かべて運んでいくパチェを見送って、布団に潜り込む。
エプロンは台所に置いてきたらしく、あの姿のパチェをまた見られなかったのがちょっとだけ残念だった。
薄っすらと目を開けると、ランプの柔らかな光が、薄暗い部屋を照らしている。
「あら、目が覚めた?」
俺の隣で、炬燵に入って本を読んでいたパチェが、俺の目覚めに気付いて、栞を挟んで本を閉じる。
「あー……そっか、来てくれてたんだよな。ごめん、眠っちゃってた」
「謝らなくてもいいわ。気分はどう?」
「んー、結構楽になってきたのかな。どっちかというと眠気が強いかも」
「それはよかった。どれ、熱は……」
パチェのひんやりとした掌が、俺の額に当てられる。
「……まだ少し、ってところかしら。それでもこの調子なら明日には治りそうね」
「そっか、ありがとな。薬が効いたみたいだ」
「どういたしまして。眠いのなら、無理しないで眠っていいから」
そう言って柔らかく微笑む。そして、はたと思い出したように質問。
「あ、そうだ。今日はここに泊まって看ていくけれど、来客用の布団とかある?」
「あー、ごめん、無いんだ。想定の範囲外でした」
「やっぱり。この部屋見た時点でそうじゃないかと思った」
軽く溜息をつくパチェ。
「まぁいいわ。一緒に入れてもらうことにするけど、伝染さないでね……あと、あなたは病人なんだから、手出しも駄目」
「……それはなかなか残酷だと思うな」
「そもそも起きている余裕もないと思うけれどね」
その通りでした。実際かなり眠気が強い。
「さて、そろそろ寝ましょう。私も今日はもう寝るから」
言って、ランプの明かりを落とす。
「最後に、ちょっとだけ。目を閉じて」
とりあえず言われた通り、目を閉じる。
「ん、何か?」
「おまじない」
小さく囁く声と、直後、柔らかな感触、そして、ほんのり伝わる温かさ。
「ぅん……、ちょっとだけ、私の魔力を分けてあげる。自然治癒の助けにくらいはなるはず」
目を開くと、すぐそばにパチェの照れ笑い。
「目が覚める頃には、きっと治ってる。また明日、ね」
そう言って、俺の横に潜り込む。
「ん、ありがと、パチェ」
「どういたしまして。それじゃ、おやすみなさい」
「うん、おやすみ」
囁いて、なんとなく、手を握る。ちょっとだけ驚いたような気配。
「これくらいならいいだろ?……そういえば」
「……何?」
「や、うちの鍵、使ってくれたの初めてだなぁ、って思って」
「……忘れててもいいのに。意識すると恥ずかしいのよ、結構」
少しだけ強く、握り返す掌。
「また使う機会もあるでしょ、そのうち、きっと」
「そうだな……でも、嬉しかった。それだけ言いたくて」
「……うん」
取り留めの無い会話が、なんだか温かい。こういうのが幸せってやつなのだろうか。
ほとんど八割方夢の中に足を突っ込んで、ぼんやりと考えてみる。
明日は、今日のお礼に何か美味いものでも作って、パチェにご馳走してやろう。それから二人で……
新ろだ286
───────────────────────────────────────────────────────────
ゆっくりと一文字一文字を大切に読んでいく。ページが進むたびに『知識』として自らに吸収されていく喜びを
感じ、更なる知を求めてページを進める。しかし焦らずゆっくりと……その意味を噛みしめて進める。時折瞳を
閉じて、思考する。その言葉に秘められた思いや意味を。そしてそれを自分なりの解釈をしてから瞳を開けてま
た読み始めていく。
静かに時が流れる。外からの音が届かぬ地下。そこに位置する図書館であるから当然だ。ゆえに邪魔するものなどなにもなく、集中して読書に励むことができるというものだ。
「まぁ、そんなセリフは、テーブルに足投げ出した上、その足を組み、読んでいる本が絵本じゃなかったらなか
かな様になっていたでしょうね」
「・ ・ ・ 。無粋だなパチュリー。人がせっかく感慨に浸っているというのに」
「何が感慨よ……もっと別の物に浸りなさいな」
横やりを入れたのはこの大図書館の主であるパチュリー・ノーレッジ。能力は『火+水+木+金+土+日+月を操る程度の能力』
俺との関係は恋仲。別に紆余曲折は経ていない。ここに通って会話して、いつの間にか好きになって……って感じ。単純故に、その絆は深い。
理由?俺が彼女とそうなってからかれこれ数百年が経っているからだろ。つまり俺はもう普通の人間ではない。
れっきとした『魔法使い』だ。人間頑張ればなんとでもなるというのを、改めて実感したのはいい思い出であったりする。
まぁ、なんだかんだで紅魔館住人たちとも仲はいいし、楽しく暮らしているからなんでもいいがね。
「つーか……別のものって……例えば?」
「自分で考えなさいな。私は本で忙しいの」
だったら話しかけなきゃいいってのは野暮なこと。互いにそれは分かってる。何を要求されているのかも。
「だったらパチュリーに浸って溺れるとしますか」
そう言って後ろから抱き締める。パチュリーも栞を挟んで微笑む。見つめ合ったのち、唇が重なり合ったそして
そのまま-------------
-----隙間送りになりました。文句は日本の法律に言って下さい-----
追伸。第七ラウンドパチュリーダウンによるTKO
ここまでくると後処理が大変とメイド長がぼやいていたのは内緒話
>>新ろだ416
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雪狼の牙の冷たさと鋭さを携えた風だ。
切り裂くように頬を撫でた風は、一息のまに森を抜け、妖怪の山にまで達しているだろう。
その後に、雪が来た。
空は晴れわたり、雲などどこにも見当たらない。
どこからか運ばれてきた粉雪が蒼天に散る。
風花。
ひらりはらりと舞い踊る六花を見上げながら、パチュリー・ノーレッジは、ちいさくため息をついた。
「……さむい」
「そりゃ、そうだろう」
いつものパジャマみたいな服に、うえから一枚ケープを羽織っただけの格好だ。
もう十二月も後半に入っているのだから寒かろう。
ときどき吹き抜ける、風の精霊たちの行く先を見送りながら、紅魔館の庭園に二人で居る。
昨夜、積もった雪が、花壇のうえにうっすらと残っている。
また、一陣の風。
おおきく翻ったパチュリーの髪が、陽光に照らされて輝く。
よく手入れされた、さらさらの髪だ。
外出をあまりしないのは、髪が傷むのが嫌だからだそうだが、なるほど、自慢して良いレベルだ。
彼氏としての贔屓目を除いても、素直に美しい。
例えるなら……月か。
太陽の光を享けて、静かに柔らかな光を放つ月。
本人の性格からして、そんなとこが妥当かなぁなどと、帽子の飾りを見ながら思った。
「やっぱり、さむい」
「外に出るって言ったのは、パチュリーじゃないか」
「でも……さむいものはさむい」
どうにも我が儘なお姫さまである。
「で、クリスマスツリーに使えるようなモミの木って、どこにあるんだ?」
「もうすこし森の方。館の裏手あたりになるかな」
「了解、監督」
今日はクリスマス。
毎年の如く開かれる紅魔館主催のパーティの準備係が、今年はパチュリーだったというわけだ。
やることはいつもの宴会と大した違いはないとはいえ、巨大なクリスマスツリーの準備だけはひと手間かけなきゃならない。
監督の号令一声。
俺は作業服(香霖堂で見つけた)と大工道具一式を装備して、現場の踏査に赴いたわけだ。
5メートル程度の大きさは必要とのこと。
木を切り倒したあとは、妖精メイドも総出で紅魔館のホールに運び込むことになる。
「この樹なんかどうだ?」
「ダメよ。こういう穴のある樹木には、何らかの虫がついてるの」
彼女についているのは本の虫だけど。
さすがに知識は人数十倍だ。
何が気に入らないのか、林のなかを難しい顔でふよふよと飛びまわっている。
物事を知る、ということは、こだわりにも繋がるわけで。なかなか「これで良し」というのが見つからない。
俺も探しているふりをして、下から確かめる。白青縞。これで勝つる。
「これが良いわね」
上空から声。
真下に居た俺は慌てて根本を見ていたように振舞う。
あくまで自然に、そして優雅に。
「この木?」
「ええ。この赤黒い色もご立派な形も黒光りしてるようなツヤも、申し分ないでしょ」
バレてたらしい。俺は五体投地して謝意を表明する。
これでダメなら究極の土下座、『水揚げされたマグロ』で完全服従の態勢を取るしかない。
「……まあ、いいわ。その変わり今日は働いて貰うよ」
「へいへい」
ぶつくさ言いながらも、手にしたノコギリの刃を幹に当てる。
パジャマ娘は後ろでみているだけ。
金符あたりを使えば、すぐ終わるんじゃないかなーなんて思ったりもしたが、口には出さない。
せっかく久しぶりに二人きりなんだから、時間は有効に使わなきゃいけないじゃないか。
普段はほとんど図書館に詰めっきりだし。
あそこには誰か彼かがやってきては騒ぎを起こしていくところだから。
騒がしくも楽しい日常に不満を持っているわけではないけど、それでもこうやって過ごせる時は貴重なんだ。
彼女も、そう思っているのだろうか?
「さむい」
まだ三分の一くらいしかノコギリの刃は到達していない。
後ろで見ていたパチュリーが寄ってきたので、俺は動きを止めた。
「どうした?」
「私もやってみたい。身体を動かせば温まるでしょ」
「そうだなぁ……」
俺が逡巡してる間にも、パチュリーは勝手にノコギリを握ってしまう。
まあ、いいか。危なそうだったら助け舟を出せばいいし。
邪魔になるからすこし離れる。
両手でしっかりとノコギリを持って、ぎこちなく動かし始める。
ゆっくり進み、ゆっくり引く。
ほとんど切れてはいないけど、手堅い動きだ。
やがて慣れが生まれたのか、だんだんと動きが速くなる。
と、そこで刃の進みが急停止。引っかかったのか。
「むー。むー。むーーー! ……むきゅ~」
あ、回線が切れた。
「ストップ。ちょっと貸してみ?」
「貴方の真似をしてみたけど、なかなか上手くいかないね」
パチュリーの言葉はちょっと嬉しかった。
彼女の後ろ側から、手を添える形で俺もノコギリを掴む。
背後から抱き締めるようなかたちだ。
こうしてみると、やはりパチュリーはちいさい。
俺の首くらいまでしか身長ないんだから当然か。
そのまま、ゆっくりと手を動かす。
「力を入れ過ぎるとダメなんだ」
「こうかな?」
「そうそう。ほら、すんなり入ってくだろ」
「ほんとね。ちょっと気持ち良くなってきたかも……」
「じゃあ……もうちょっと大胆に動かしてもいいか?」
「うん。手加減、しなくていいよ」
すぐ近くにある彼女から、ふわりと香るのは彼女の名の元となった花の香り。
たまたま香霖堂で見つけたのをプレゼントしたんだが、使ってくれてたのか。
「やめた。ゆっくりやろうか」
「どしたの?」
答える代わりに、彼女を抱く力を強くする。
それだけでわかってくれるだろう。
「そうしようか。でも、パーティーに間に合うように、ね」
「おーけー」
これは、日常の間隙にある、ちいさなイベントでしかない。
赤黒くツヤのあるご立派なクリスマスツリー候補を切り倒してしまえば、また騒々しくなる。
繰り返すけど、それが嫌なわけじゃない。
でも、こうやって二人で居れる時間を大切にしたいとも思う。(それがノコギリで木を切ってるだけってことでも)
これからも一緒に、ずっと一緒に……
新ろだ229
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トントン、と玄関のドアを叩く音で、浅い眠りから目を覚ます。
続いて鍵の開く小さな金属音と、入ってくる客人の気配。
「起こしちゃったかしら?あぁ、いいから、そのまま寝ていて。大体の事情は聞いているわ」
聞き慣れた声に、布団の中で起こしかけた体を再び横たえ、顔だけを向けて挨拶を……
「お゛ー……おはよう、パチェ。いつも済まないねぇ……ゲホゲホ」
「……何の話?それにしても酷い声ね」
我ながら酷い声が出たものだと思う。
「それはまぁ、風邪引きだから。でもあんたがお見舞いに来てくれるなんて、たまには風邪も悪くな……っくしゅん!」
「馬鹿言っていられる余裕はあるみたいね。あと私は本を回収に来ただけよ。期日になっても返しに来ないから」
クールに返しつつ、炬燵の上に重ねて置いた本を、手に取って確認しつつ回収していくパチェ。
「つれないなぁ」
「……冗談よ。とりあえずこれ、次にあなたが読みたいのはこの辺ね?」
はい、と渡された本を見てみると、確かに以前図書館で目を付けておいたもの。
「凄いな、よく分かるもんだ」
「以前に貸した本の履歴と傾向から、この辺りかなって。合っていたなら良かった」
「さすがは大図書館の主ってところか。ありがとう」
「どういたしまして。っと、ちょっと台所使わせて貰うわね。どうせまともなもの食べてないんでしょう?」
ちょっと照れたように微笑んで、何やら持ってきた荷物を開け始める。
「お、何か作ってくれるの?」
「お粥、持ってきたから、温めればすぐに食べられるわ」
取り出したのは小さな鍋とエプロン。
「……私が作ったわけじゃないのだけどね。作ったのは咲夜。だから味と栄養は保証するわ」
「なるほど、咲夜さんなら確かだな」
色々と完璧な人だからなぁ。
パチェの手作りも食べてみたかった気もするけれど、また機会もあることだろう。
「そういう訳だから、少し待ってて」
「あいよー。その間に着替えでもしておくかな……おぉ?」
パチェが、エプロンを着けている。どうやらメイドのものを借りてきているようだ。
「……何よ?」
これは……なかなか……
「……意外と有りだな」
「……何がよ?」
「似合ってる」
「っ……ね、寝ぼけたこと言ってないでっ……私い、行くから」
わーお、真っ赤になってそそくさ出て行ってしまった。ストレートに言い過ぎたかなー。
新妻みたいな感じで、まで続けたらさらに大変なことになったのだろうか。
……あれ?むしろ俺が恥ずかしい事言った?なんだか今になって急に……あー。
結局俺もなんだか微妙な気分になりつつ、上の空で着替えることになりましたとさ。
全部風邪が悪い。
「なぁなぁ、アレやってくんない?『あーん』ってアレ」
「……馬鹿なことばっか言ってないでとっとと食べちゃいなさいよ」
などといつものようにあしらわれつつ、のんびりと食事タイム。
ちなみにエプロンはもう外してしまった。残念。
「……ほら、口開けなさい」
「あーん」
なんだかんだ言いながらもやってくれるパチェ。さすが、話が分かるね。
「うむ、やっぱり普通に食べるより美味い気がする」
これぞ病人の特権。ビバ風邪引き。
「そんなわけないでしょ。さ、とっとと食べちゃいなさい。薬も用意してあるんだから」
「あーい。って、薬か……苦いの?」
「子供みたいなこと言うわね。これは私が調合したもの。だから苦さと効果は保証するわ」
「苦さは保証しないでくれていいんだけどなぁ……大人でも子供でも苦いものは苦いし。我慢できるかどうかだけの違いだろ?」
余談ながら、俺は注射も嫌いである。大人の現実ってそんなものだと思う。
「苦さと効果が比例するとは言わないけれど、効果を求めればある程度苦くなってしまうものよ。我慢しなさい」
「はいはい、分かってますよー……っと、ご馳走様」
「お粗末様。治ったらちゃんと咲夜にお礼言っておくのね」
「分かってるよ。それじゃ、あとは薬かな」
「少し待ってて。水取ってくるから」
はい、と渡された薬包を手に、静かに眼を閉じて覚悟を決める。
「……何大げさに悲壮感を演出してるのよ」
「や、雰囲気って大事だよな、と思って」
気を取り直して、コップを受け取る。
薬包紙を開いて、粉薬を一思いに口の中へ。間髪いれずに水で一気に流し込む。
「おぉ、さすが、豪快ね」
飲み干したコップを置いて、しばし瞑目。
「……覚悟、していたよりは、苦く、なかった」
「負け惜しみね」
文字通り苦い顔の俺を見てニヤニヤしてるパチェは意地悪だと思う。
「うるせぃ。あーくそ、これは確かに効きそうだ。よく効くだろうな。そういう味がする」
そうであってくれないと報われない。
「保証するわよ。さ、片付けはやっておくから、あなたは横になってなさい。薬が効いてくれば眠くなると思うから」
「あいよー。悪いけど、頼むな」
「気にしなくていいわよ。任せておいて」
食器を魔法で浮かべて運んでいくパチェを見送って、布団に潜り込む。
エプロンは台所に置いてきたらしく、あの姿のパチェをまた見られなかったのがちょっとだけ残念だった。
薄っすらと目を開けると、ランプの柔らかな光が、薄暗い部屋を照らしている。
「あら、目が覚めた?」
俺の隣で、炬燵に入って本を読んでいたパチェが、俺の目覚めに気付いて、栞を挟んで本を閉じる。
「あー……そっか、来てくれてたんだよな。ごめん、眠っちゃってた」
「謝らなくてもいいわ。気分はどう?」
「んー、結構楽になってきたのかな。どっちかというと眠気が強いかも」
「それはよかった。どれ、熱は……」
パチェのひんやりとした掌が、俺の額に当てられる。
「……まだ少し、ってところかしら。それでもこの調子なら明日には治りそうね」
「そっか、ありがとな。薬が効いたみたいだ」
「どういたしまして。眠いのなら、無理しないで眠っていいから」
そう言って柔らかく微笑む。そして、はたと思い出したように質問。
「あ、そうだ。今日はここに泊まって看ていくけれど、来客用の布団とかある?」
「あー、ごめん、無いんだ。想定の範囲外でした」
「やっぱり。この部屋見た時点でそうじゃないかと思った」
軽く溜息をつくパチェ。
「まぁいいわ。一緒に入れてもらうことにするけど、伝染さないでね……あと、あなたは病人なんだから、手出しも駄目」
「……それはなかなか残酷だと思うな」
「そもそも起きている余裕もないと思うけれどね」
その通りでした。実際かなり眠気が強い。
「さて、そろそろ寝ましょう。私も今日はもう寝るから」
言って、ランプの明かりを落とす。
「最後に、ちょっとだけ。目を閉じて」
とりあえず言われた通り、目を閉じる。
「ん、何か?」
「おまじない」
小さく囁く声と、直後、柔らかな感触、そして、ほんのり伝わる温かさ。
「ぅん……、ちょっとだけ、私の魔力を分けてあげる。自然治癒の助けにくらいはなるはず」
目を開くと、すぐそばにパチェの照れ笑い。
「目が覚める頃には、きっと治ってる。また明日、ね」
そう言って、俺の横に潜り込む。
「ん、ありがと、パチェ」
「どういたしまして。それじゃ、おやすみなさい」
「うん、おやすみ」
囁いて、なんとなく、手を握る。ちょっとだけ驚いたような気配。
「これくらいならいいだろ?……そういえば」
「……何?」
「や、うちの鍵、使ってくれたの初めてだなぁ、って思って」
「……忘れててもいいのに。意識すると恥ずかしいのよ、結構」
少しだけ強く、握り返す掌。
「また使う機会もあるでしょ、そのうち、きっと」
「そうだな……でも、嬉しかった。それだけ言いたくて」
「……うん」
取り留めの無い会話が、なんだか温かい。こういうのが幸せってやつなのだろうか。
ほとんど八割方夢の中に足を突っ込んで、ぼんやりと考えてみる。
明日は、今日のお礼に何か美味いものでも作って、パチェにご馳走してやろう。それから二人で……
新ろだ286
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ゆっくりと一文字一文字を大切に読んでいく。ページが進むたびに『知識』として自らに吸収されていく喜びを
感じ、更なる知を求めてページを進める。しかし焦らずゆっくりと……その意味を噛みしめて進める。時折瞳を
閉じて、思考する。その言葉に秘められた思いや意味を。そしてそれを自分なりの解釈をしてから瞳を開けてま
た読み始めていく。
静かに時が流れる。外からの音が届かぬ地下。そこに位置する図書館であるから当然だ。ゆえに邪魔するものなどなにもなく、集中して読書に励むことができるというものだ。
「まぁ、そんなセリフは、テーブルに足投げ出した上、その足を組み、読んでいる本が絵本じゃなかったらなか
かな様になっていたでしょうね」
「・ ・ ・ 。無粋だなパチュリー。人がせっかく感慨に浸っているというのに」
「何が感慨よ……もっと別の物に浸りなさいな」
横やりを入れたのはこの大図書館の主であるパチュリー・ノーレッジ。能力は『火+水+木+金+土+日+月を操る程度の能力』
俺との関係は恋仲。別に紆余曲折は経ていない。ここに通って会話して、いつの間にか好きになって……って感じ。単純故に、その絆は深い。
理由?俺が彼女とそうなってからかれこれ数百年が経っているからだろ。つまり俺はもう普通の人間ではない。
れっきとした『魔法使い』だ。人間頑張ればなんとでもなるというのを、改めて実感したのはいい思い出であったりする。
まぁ、なんだかんだで紅魔館住人たちとも仲はいいし、楽しく暮らしているからなんでもいいがね。
「つーか……別のものって……例えば?」
「自分で考えなさいな。私は本で忙しいの」
だったら話しかけなきゃいいってのは野暮なこと。互いにそれは分かってる。何を要求されているのかも。
「だったらパチュリーに浸って溺れるとしますか」
そう言って後ろから抱き締める。パチュリーも栞を挟んで微笑む。見つめ合ったのち、唇が重なり合ったそして
そのまま-------------
-----隙間送りになりました。文句は日本の法律に言って下さい-----
追伸。第七ラウンドパチュリーダウンによるTKO
ここまでくると後処理が大変とメイド長がぼやいていたのは内緒話
>>新ろだ416
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