私の背中には羽がある。
空高く昇った満月を、とあるビルの一室から見上げていた。
今私のいる部屋は、社長室。
四つの壁のうちの一つがガラス張りの窓になっていて、部屋には、高そうな机や椅子が置かれている。
私はそのガラス張りの窓から見える満月を眺めていた。
四つの壁のうちの一つがガラス張りの窓になっていて、部屋には、高そうな机や椅子が置かれている。
私はそのガラス張りの窓から見える満月を眺めていた。
『あの人』もこの月を見ているだろうか?と想いながら
私はこの会社の社長。昨年冬に先代の社長であるお父様の跡を継いで、この会社の社長に就任した。
私の会社は、ここ十数年でIT企業として、急成長した会社。
オオガミやジャジメントほどではないが、世界中に支社も持ってる。
私の会社は、ここ十数年でIT企業として、急成長した会社。
オオガミやジャジメントほどではないが、世界中に支社も持ってる。
ふぅ、と私はため息をついて椅子に座った。
社長就任後は忙しくて、大好きな本もあまり読めていない。かなり不満だ。
それに、時々、私はいつまでたっても自分の羽でカゴの外を、自由な空を飛び回れないんじゃないかと不安になる。逃げたくなる。
だけど、私は決して俯かない。逃げない。
カゴの外には、今の不自由な空の上には、『あの人』がいるから……
社長就任後は忙しくて、大好きな本もあまり読めていない。かなり不満だ。
それに、時々、私はいつまでたっても自分の羽でカゴの外を、自由な空を飛び回れないんじゃないかと不安になる。逃げたくなる。
だけど、私は決して俯かない。逃げない。
カゴの外には、今の不自由な空の上には、『あの人』がいるから……
カゴの中で、物心ついた時から背負わされた鎖に縛られ、羽を広げる事を諦めて、誰かがそれを引きちぎってくれる事を待っていた私に、鎖を引きちぎるのは自分自身だという事、もがく事を教えてくれた『あの人』。
未来の決められていた世界、感情なんか二の次だった世界から私を連れ出して欲しいと言ったら、
「君が望むなら、この世界から連れ出してあげる。」
と約束してくれた。
と約束してくれた。
私の鎖の正体を教えたら、
「そんなの無視すればいい。自分の道を歩けばいいじゃないか。」
と言ってくれた。
と言ってくれた。
羽を広げようとしてもダメで、諦めかけた時、
「羽が動かせないからなんだ?
前に進む事は、自分の道を進むって事は鎖を引きちぎる事だけじゃない!
それを引きずりながらでも、人は進む事ができるんだ!
空を飛べなくたって俺達は地を歩いていける。」
と励ましてくれた。
前に進む事は、自分の道を進むって事は鎖を引きちぎる事だけじゃない!
それを引きずりながらでも、人は進む事ができるんだ!
空を飛べなくたって俺達は地を歩いていける。」
と励ましてくれた。
物心ついた時から歩かされていた道で、みんなが同じ方向を指差す中で、
ただ一人、初めて違う方向を指差してくれた。
生きてきて、初めて良かったと思える幸せな時間、毎日が特別な日々をくれた。
彼のその言葉の一つ一つが私の羽を大きくしてくれた。
彼との幸せな日々が私の羽に鎖を背負っても飛び回れる力をくれた。
ただ一人、初めて違う方向を指差してくれた。
生きてきて、初めて良かったと思える幸せな時間、毎日が特別な日々をくれた。
彼のその言葉の一つ一つが私の羽を大きくしてくれた。
彼との幸せな日々が私の羽に鎖を背負っても飛び回れる力をくれた。
机の引き出しを開けて、大事に使っている枝折りを手に取る。
私の誕生日に、『あの人』からもらった四つ葉のクローバーの枝折り。
今までで一番温かかった、心のこもったプレゼント。
私の宝物。
この宝物を見て、あの幸せだった日々、あの聖夜を思い出す。
そうすれば、私の羽に力が戻ってくる。
私はまた上を目指して羽を広げられる。
いつか、『あの人』と肩を並べて飛べるように。
私の羽に縛り付けられた鎖は、まだ私には重すぎるけど、
いつか必ず、自由な空へ羽ばたいて『あの人』の元へ……
そう約束したから……
私の誕生日に、『あの人』からもらった四つ葉のクローバーの枝折り。
今までで一番温かかった、心のこもったプレゼント。
私の宝物。
この宝物を見て、あの幸せだった日々、あの聖夜を思い出す。
そうすれば、私の羽に力が戻ってくる。
私はまた上を目指して羽を広げられる。
いつか、『あの人』と肩を並べて飛べるように。
私の羽に縛り付けられた鎖は、まだ私には重すぎるけど、
いつか必ず、自由な空へ羽ばたいて『あの人』の元へ……
そう約束したから……
◇ ◇ ◇ ◇
ここは、どこだろう?
何もない。本当に何もない草原。
ただ、見上げれば、無限の空が広がっている。
ただ、見上げれば、無限の空が広がっている。
気づけば、私の背中には、羽がある。
でも、その羽には鎖が何重にも縛り付けられていた。
一つのグループ企業の社長という鎖。
でも、その羽には鎖が何重にも縛り付けられていた。
一つのグループ企業の社長という鎖。
試しに、羽を広げようとする。
羽は……広がった。
次に、羽ばたいてみる。
…少し飛べた。
もっと強く羽ばたいてみる。
もっと高く飛べた。
もっと、もっと強く羽ばたいてみる。
もっと、もっと高く飛べた。
でも、ある高さまで来て、急に、一段と羽が重くなった。
私は、そのまま、地に落ちた。
羽が痛む。
私は、そのまま、地に落ちた。
羽が痛む。
「……………さ…。」
けど、大丈夫。
羽が傷つくことは恐れないと決めたから。
羽が傷つくことは恐れないと決めたから。
「……………さん。」
もう一度、羽ばたいてみる。
だけど、またあの高さまで来て、地に落ちた。
私はまだ、不自由な空にいるのだろうか?
「………り…さん。」
もう一度、羽ばたいてみる。
だけど、またあの高さまで来て、地に落ちた。
私はまだ、不自由な空にいるのだろうか?
「………り…さん。」
そういえば、さっきから誰かが私を呼んでる気がする。
「………お…り…さん。」
上からだ。
誰だろう?と上を見上げる。
誰だろう?と上を見上げる。
そこにいたのは……
「……維織さん。」
「九条……くん?」
九条くんだ。
何でここにいるのか、何で九条くんにも羽があるのかなんて、どうでも良かった。
ただ、九条の飛んでる高さまで行きたくて、痛む羽を羽ばたかせる。
あと少し、もう少しで九条くんの元へ。
幸せだった日々、九条くんの言葉、九条くんへの想い、
それらを力に変えて羽ばたく。
それらを力に変えて羽ばたく。
そして、やっと、
「九条くん……」
「維織さん……」
この時をどれだけ待ちわびたか。
今私は、九条くんと一緒の高さを飛んでいる。
話したい事がたくさんある。
社長になってからの事。
少し前に読んだ本の事。
料理のレパートリーが増えた事。
最近、少しずつ笑えるようになった事。
社長になってからの事。
少し前に読んだ本の事。
料理のレパートリーが増えた事。
最近、少しずつ笑えるようになった事。
私が何を話そうか悩んでいると、九条くんが話し始めた。
「維織さん……俺は、維織さんに謝らないといけないことがあるんだ。」
「え?」
九条くんが私に謝る事ってなんだろう?
「……維織さん……俺は、君が俺の元に来る時まで待ってるって約束したけど……」
そこまで言って、九条くんは俯いた。
こんな九条くんを見るのは初めてだ。
こんな九条くんを見るのは初めてだ。
「……その約束を守れそうにないんだ。」
「え?」
何を言ってるんだろう、九条くんは。
九条くんが約束を破る?
そんな事、一度もなかった。
第一、私は九条くんと同じ所にいる。
九条くんが約束を破る?
そんな事、一度もなかった。
第一、私は九条くんと同じ所にいる。
「覚えてる?維織さん。
俺が鎖を引きちぎるのは自分自身だって言った事。
でも人はその鎖を背負っても歩いていけるって言った事。」
俺が鎖を引きちぎるのは自分自身だって言った事。
でも人はその鎖を背負っても歩いていけるって言った事。」
「覚えてる。忘れるわけないよ。
そして、今私は自分の鎖をそのまま背負って飛んで、九条くんと同じ所にいる。」
そして、今私は自分の鎖をそのまま背負って飛んで、九条くんと同じ所にいる。」
「ありがとう、維織さん。
君はもう自分の道を歩いていける。君の意志で、君の力で。」
君はもう自分の道を歩いていける。君の意志で、君の力で。」
「……うん。」
本当に、九条くんはさっきから何を言ってるんだろう?
これじゃまるで……
これじゃまるで……
「維織さんのカレー…美味しかったなぁ…」
別れのあいさつみたい。
「維織さんのピアノ…上手だったなぁ…」
よく見ると、九条くんの目が充血している。
「維織さんの…満漢全席…食べたかっ…たなぁ…」
九条くんは、涙をこらえているのだろうか?
「会えなくなる前に、維織さんの最高の笑顔…見たかったなぁ…」
「え?」
会えなくなるって、どうゆう事?
「じゃあね、維織さん。
もう、会えないけど…俺は、君が無限の空を自由に飛び回る事を心から願っているから…」
もう、会えないけど…俺は、君が無限の空を自由に飛び回る事を心から願っているから…」
そこまで言って、九条くんは、更に高い所に飛んで行こうとした。
「待って!」
九条くんがこっちを向いた。
さっきから何を言ってるの?
もう会えないって何?
どこに行くの?……
もう会えないって何?
どこに行くの?……
ダメだ。聞きたいことが多すぎる。
だから……
私は笑って見せた……九条くんが見たいと言った、私の笑顔を。
今できる、最高の笑顔を。
また、「笑うのが下手だね」って九条くんに言われるだろうか?
今できる、最高の笑顔を。
また、「笑うのが下手だね」って九条くんに言われるだろうか?
「……ありがとう。最高の笑顔だよ………維織………」
そう言って九条くんは飛び去ってしまった。
どこか満ち足りたような、でもなんだか寂しそうな顔をして………
どこか満ち足りたような、でもなんだか寂しそうな顔をして………
私も、九条くんを追って行こうとしたけど…
また急に羽が重くなって……また、地に落ちた……
◇ ◇ ◇ ◇
そこで私は目を覚ました。
どうやら、私は、眠っていたようだ。
さっきのは夢だったらしい。
変な夢だ。
あれは何だったのだろう?
どうやら、私は、眠っていたようだ。
さっきのは夢だったらしい。
変な夢だ。
あれは何だったのだろう?
コンコンとドアをノックして、秘書が入ってきた。
「社長、応接室にて雪白家のお嬢様がお待ちです。」
「わかった。今行く。」
九条くんの身に何かあったのだろうか?
もう会えないってどうゆう事だろう?
最後に見せたあの顔は何を意味していたのだろう?
もう会えないってどうゆう事だろう?
最後に見せたあの顔は何を意味していたのだろう?
私は、四つ葉のクローバーの枝折りを、机の引き出しにしまい、社長室を後にする。
先ほどまで見えていた満月は雲が差して見えなくなっていた……