勇気VS意地(前編) ◆wKs3a28q6Q
死後の世界があるとしたら、一体どんなとこなのだろうか。
極楽浄土などというところに、私が行けるとは思わない。
死後の世界があるとしても、私が見られるのは地獄だけ。
極楽浄土などというところに、私が行けるとは思わない。
死後の世界があるとしても、私が見られるのは地獄だけ。
私は大勢の人間を不幸にした。
そして大勢の命を奪ってきた。
だが、はっきり言って後悔はしていない。
あれは必要な事だったと思っているし、死刑になるのも当然だろうと思っている。
だから、後悔はしない。例え地獄というものに落ちようとも、砂漠の砂粒一つ程も後悔していないつもりだ。
そして大勢の命を奪ってきた。
だが、はっきり言って後悔はしていない。
あれは必要な事だったと思っているし、死刑になるのも当然だろうと思っている。
だから、後悔はしない。例え地獄というものに落ちようとも、砂漠の砂粒一つ程も後悔していないつもりだ。
――いや、目隠しは必要ない。最期まで風景を見ていたい。
ただ、強いて心残りを挙げるとすれば、あの男の名をちゃんと聞いておかなかったことだろう。
もう名前を思い出すことさえ出来ない。
もし仮に死後の世界があったとして、あの男が命を落とすことがあったとしても、再び出会う事はないだろう。
あの世からあの男の活躍でも見守っていてやるという選択肢も残されているが、生憎それほどロマンチックな性格ではない。
おとなしく、この世への想いは置いていこう。
もう名前を思い出すことさえ出来ない。
もし仮に死後の世界があったとして、あの男が命を落とすことがあったとしても、再び出会う事はないだろう。
あの世からあの男の活躍でも見守っていてやるという選択肢も残されているが、生憎それほどロマンチックな性格ではない。
おとなしく、この世への想いは置いていこう。
ズダダダーーーン!
そして、私の意識はそこで途絶えるはずだった。
いや、実際には少々意識が途切れていた。
だが、死んでなどいなかった。目をゆっくりと開き、そして拳を開いてみる。体は、思う通りに動いてくれた。
ほんの一瞬だけそこが死後の世界かとも考えた。今思うととても愚かな事だがな。
それほどまでにあり得ない事だったのだ、今にも処刑される所だった私が生き長らえるという事は。
いや、実際には少々意識が途切れていた。
だが、死んでなどいなかった。目をゆっくりと開き、そして拳を開いてみる。体は、思う通りに動いてくれた。
ほんの一瞬だけそこが死後の世界かとも考えた。今思うととても愚かな事だがな。
それほどまでにあり得ない事だったのだ、今にも処刑される所だった私が生き長らえるという事は。
どうやったのかは分からないが、私が生き長らえた事を理解したのはそれからすぐの事だった。
団長に似た男の告げた『殺し合い』宣言。それが私を『ここは地獄かもしれない』という戯言から目覚めさせてくれた。
仮にここが地獄だとしたら、殺し合いなどさせぬだろう。
地獄で行われると言われている拷問は、あくまで罪を償わせるために与えられた罰だったはず。
地獄とは犯罪の横行する無法地帯ではないのだ。あくまで贖罪を強要する場所であり、殺人という新たな罪を犯させる場所ではない。
だとするとここは死後の世界だなんていうファンタジックなものでなく、何かしらの意図があって行われる現実世界の残虐ショーの舞台という所だろう。
そして、正直これが政府によるものとは考えづらい。
闇組織へのみせしめとする気なら、最初から処刑の真似事なんかせずに殺し合いの場へ護送すればよかったのだ。
だとすると、これは政府とは別の組織――もしくは、政府でも極限られた人間しか知らないような特別な機関――によるものだろう。
(カメダ、か……)
外見が似ていて、名前がカメダ。団長の言っていた“本物”なんだろうか。
確か組織を裏切ったと言っていたな。もしかしたら、これはカメダが裏切った組織の人間や彼らに関わった者を見せしめにするためのショーなのかもしれない。
団長に似た男の告げた『殺し合い』宣言。それが私を『ここは地獄かもしれない』という戯言から目覚めさせてくれた。
仮にここが地獄だとしたら、殺し合いなどさせぬだろう。
地獄で行われると言われている拷問は、あくまで罪を償わせるために与えられた罰だったはず。
地獄とは犯罪の横行する無法地帯ではないのだ。あくまで贖罪を強要する場所であり、殺人という新たな罪を犯させる場所ではない。
だとするとここは死後の世界だなんていうファンタジックなものでなく、何かしらの意図があって行われる現実世界の残虐ショーの舞台という所だろう。
そして、正直これが政府によるものとは考えづらい。
闇組織へのみせしめとする気なら、最初から処刑の真似事なんかせずに殺し合いの場へ護送すればよかったのだ。
だとすると、これは政府とは別の組織――もしくは、政府でも極限られた人間しか知らないような特別な機関――によるものだろう。
(カメダ、か……)
外見が似ていて、名前がカメダ。団長の言っていた“本物”なんだろうか。
確か組織を裏切ったと言っていたな。もしかしたら、これはカメダが裏切った組織の人間や彼らに関わった者を見せしめにするためのショーなのかもしれない。
……ああ、ほら。見たことのない者だったが、素人には見えない身のこなしをしていた(ついでに格好もある意味尋常ではなかった)男が虫けらのように殺された。
ある程度の実力者を集めて延々とそのような虐殺映像を録画しているのだとしたら、そのビデオテープは恐怖による統制を図る組織には持って来いの物となるだろう。
では、その恐怖政治に少しでも貢献できるように殺し合いに尽力するべきだろうか?
正直な話、今までのように素直にYESとは答えられない。
私はもう、舞台を降りた人間だ。幸福の芽を育てるための悪として生き、そして人々に安堵を与えるために惨たらしく殺された。
少なくとも、ニュースではそう報道されるはずである。
私を収容していたあの国は、保身を捨て己の顔に泥を塗りたくりながらも素直に事実を報道するほど、立派な体質をしていないからな。
だとすると、悪で在り続ける意味を失ってしまった事になる。
如何に悪事を働こうと、私はあくまで死者扱い。上層部のトップシークレットとして扱われ、ひっそりと処刑されるのだ。人々に安堵を与えられぬまま、ひっそりと。
とはいえ、結束してカメダに立ち向かおうとする輩の前に悪として立ちはだかることも考えたが、そんな連中が大勢いるのかも怪しいところだ。
それに、今後の世界のためにもカメダという悪は在り続けた方がいいと思う。
それならばいっそ、カメダに不満を持つ者を纏めてカメダの前に立ち塞がるか?
カメダという悪の華を育てるために、自ら肥料になりに行くか?
ある程度の実力者を集めて延々とそのような虐殺映像を録画しているのだとしたら、そのビデオテープは恐怖による統制を図る組織には持って来いの物となるだろう。
では、その恐怖政治に少しでも貢献できるように殺し合いに尽力するべきだろうか?
正直な話、今までのように素直にYESとは答えられない。
私はもう、舞台を降りた人間だ。幸福の芽を育てるための悪として生き、そして人々に安堵を与えるために惨たらしく殺された。
少なくとも、ニュースではそう報道されるはずである。
私を収容していたあの国は、保身を捨て己の顔に泥を塗りたくりながらも素直に事実を報道するほど、立派な体質をしていないからな。
だとすると、悪で在り続ける意味を失ってしまった事になる。
如何に悪事を働こうと、私はあくまで死者扱い。上層部のトップシークレットとして扱われ、ひっそりと処刑されるのだ。人々に安堵を与えられぬまま、ひっそりと。
とはいえ、結束してカメダに立ち向かおうとする輩の前に悪として立ちはだかることも考えたが、そんな連中が大勢いるのかも怪しいところだ。
それに、今後の世界のためにもカメダという悪は在り続けた方がいいと思う。
それならばいっそ、カメダに不満を持つ者を纏めてカメダの前に立ち塞がるか?
カメダという悪の華を育てるために、自ら肥料になりに行くか?
そんな自問自答を繰り返す内に、また一人が殺された。
先程とは違い、今度は無力そうな少年である。恐怖心を煽るという点で感心せざるを得ない巧妙な人選だ。
そして今の光景のおかげで、ひとつ問題が現れた。彼以外にどれだけ無力な人間がいるのかということだ。
別に、無力な者を殺さないというポリシーを持っているわけではない。
勿論殺したいなんて思わないが、必要とあらば犠牲になってもらうぐらいの覚悟はある。
問題は他の参加者があまりにも脆弱な場合、倒されるべき悪として君臨しても普通に勝ち残ってしまえそうだということだ。
死ぬのが怖くないわけではないが、今更意味もなく生き長らえても仕方がない。
普通に最後の一人になる意味など何もないのだ。
とは言え、カメダという『世界の倒すべき悪』を成長させるために立ちはだかろうにも、部下が脆弱ではそれも叶わない。
カメダの予想していなかった形で――つまりは首輪を外すという形でカメダの前に立たないと、カメダにとっての『障害』にはなれぬというのに。
先程とは違い、今度は無力そうな少年である。恐怖心を煽るという点で感心せざるを得ない巧妙な人選だ。
そして今の光景のおかげで、ひとつ問題が現れた。彼以外にどれだけ無力な人間がいるのかということだ。
別に、無力な者を殺さないというポリシーを持っているわけではない。
勿論殺したいなんて思わないが、必要とあらば犠牲になってもらうぐらいの覚悟はある。
問題は他の参加者があまりにも脆弱な場合、倒されるべき悪として君臨しても普通に勝ち残ってしまえそうだということだ。
死ぬのが怖くないわけではないが、今更意味もなく生き長らえても仕方がない。
普通に最後の一人になる意味など何もないのだ。
とは言え、カメダという『世界の倒すべき悪』を成長させるために立ちはだかろうにも、部下が脆弱ではそれも叶わない。
カメダの予想していなかった形で――つまりは首輪を外すという形でカメダの前に立たないと、カメダにとっての『障害』にはなれぬというのに。
ならば自分がどう動くべきか。
その答えが出る前に、殺し合いに巻き込まれた人間と遭遇してしまうはめになった。
謎の技術により場所を移動させられた後、近くの森の中で息を潜めて考え事をしていると、息を荒げて一人の男がこちらに向かって走ってきたのだ。
――しまった、気付かれたか。
奇襲対策として後ろに川が来るような位置に陣取っていたのだが、逃走がしにくくなることを考えると失敗だったかもしれないな。
そう思うと同時に、この短時間で暗闇に紛れた自分を見つける男の力量に若干の感心を覚えた。
迎え撃とうにも、こちらに支給されたのはモデルガンとラッキョウ一瓶。
屈強そうな男と肉弾戦になれば、鍛えているとはいえ勝てるかどうかは五分五分だ。
腰を低くしたままで相手の動きに注意を払う。
走ってきた坊主頭の男は、手にしたバットを勢いよく振るった。
その答えが出る前に、殺し合いに巻き込まれた人間と遭遇してしまうはめになった。
謎の技術により場所を移動させられた後、近くの森の中で息を潜めて考え事をしていると、息を荒げて一人の男がこちらに向かって走ってきたのだ。
――しまった、気付かれたか。
奇襲対策として後ろに川が来るような位置に陣取っていたのだが、逃走がしにくくなることを考えると失敗だったかもしれないな。
そう思うと同時に、この短時間で暗闇に紛れた自分を見つける男の力量に若干の感心を覚えた。
迎え撃とうにも、こちらに支給されたのはモデルガンとラッキョウ一瓶。
屈強そうな男と肉弾戦になれば、鍛えているとはいえ勝てるかどうかは五分五分だ。
腰を低くしたままで相手の動きに注意を払う。
走ってきた坊主頭の男は、手にしたバットを勢いよく振るった。
「………………」
辺りに響く風を切る音。
太い二の腕で繰り広げられるスイングは先程と同じ軌道を描く。
その動作を何度も何度も繰り返す。
その行為を、私はよく知っていた。しあわせ島で何度も見ている。
『素振り』
端的に言うと野球の練習だ。勿論、今の場とは本来まるで縁のないものだ。
それをあの男はやっている。怪しすぎて罠に見えてくるが、冷静に考えてあんな隙まみれの罠を張る意味がない。
こちらの予想を上回る策を用意されている可能性も大いにあるが、それ以上にフェイクの可能性が高い。
ここで警戒しすぎて接触の機会を逃すのは愚の骨頂。どう動くにしろ情報は貴重なのだ。
それに、まだ殺し合いが始まって一時間も経っていない。
仲間と同盟を結び罠を張るには時間が足りないだろう。
勿論、元からの顔見知りとすんなり同盟を結べた、というなら話は別だが、例外を考えだしたら切りがないからな。
辺りに響く風を切る音。
太い二の腕で繰り広げられるスイングは先程と同じ軌道を描く。
その動作を何度も何度も繰り返す。
その行為を、私はよく知っていた。しあわせ島で何度も見ている。
『素振り』
端的に言うと野球の練習だ。勿論、今の場とは本来まるで縁のないものだ。
それをあの男はやっている。怪しすぎて罠に見えてくるが、冷静に考えてあんな隙まみれの罠を張る意味がない。
こちらの予想を上回る策を用意されている可能性も大いにあるが、それ以上にフェイクの可能性が高い。
ここで警戒しすぎて接触の機会を逃すのは愚の骨頂。どう動くにしろ情報は貴重なのだ。
それに、まだ殺し合いが始まって一時間も経っていない。
仲間と同盟を結び罠を張るには時間が足りないだろう。
勿論、元からの顔見知りとすんなり同盟を結べた、というなら話は別だが、例外を考えだしたら切りがないからな。
そんなこんなで、現在の状況に至る。
私が付きつけるのはモデルガン。暗闇のおかげで距離さえとっていれば本物と見間違えてもおかしくはない。
それを突き付け情報を引き出そうとする私と、銃を突き付けられ顔を顰める坊主頭という構図だ。
情報交換の際、最初に聞くべき事項は一つ。相手に交戦の意思があるか否かだ。
交渉の余地さえないような相手と話せば分かるような相手とでは、その後の対応を変えねばならないからな。
だから私は真っ先に尋ねた。「お前は殺し合いに乗っているか?」と。
「やれやれだぜ」
すると、目の前の坊主頭は呆れたような声をあげた。
拳銃を突きつけられたこの状況で、何故そんな声を出せる?
何か策でもあるのだろうか。
……いや、とてもじゃないがそういう風には見えない。
敬語の喋れなかったあのヤパーナのように、おそらくこれがこの男の自然体なのだろう。
「せっかくあの天道を倒したのに、出場停止になるような馬鹿な真似をするつもりはないぜ」
……よく分からないが、殺し合いには関わりたくないらしい。
まあそうだろう、普通なら誰だってそう思う。
だがしかし、ここは『普通』が許されない世界なのだ。
殺し合いに関わらずして、生き残る術はない。止めるにしても、乗るにしても。
「この首に付けられたものが何か、お前は分かっているのか? 分かっていて、尚も殺し合いはしたくないと言うのか?」
言い終わると同時に、坊主頭が手にしたバットを振り上げた。
回避できるよう足に力を込め意識をバットへと集中させる。
しかしバットは先程と同じ軌道を描き、私の警戒は徒労となった。
坊主頭は素振りを再開させて言う。
「俺には野球しかないからな……殺し合いなんて言われても、よく分からないぜ」
そう言い、坊主頭はバットを振るう。
殺し合いという状況下、深夜の森で素振りを続ける一人の男。
どう考えても異質な光景のはずなのに、まるでそれが正しい姿だと錯覚してしまいそうになるほどに、自然な動作で素振りをしている。
顔も、フォームも、その滲み出るオーラでさえも、「素振りをするのが当たり前」と言っているように見えた。
恐怖を打ち消すための素振りでもなく、誰かを撲殺するための素振りでもない。
完全に、野球馬鹿による日課の素振りだ。
(やれやれ……なかなかに凄い事だが、素直に褒めていいものか分からないな)
異常な状況下にあっても平静を失わない点は評価できるのだが、適応能力が0とも取れるこのマイペースっぷりはマイナス要素にも思える。
何にせよ、カメダの前に立ちはだかれる程の力も、壁となって現れた私を倒す力も持っていないと見てよさそうだ。
私が付きつけるのはモデルガン。暗闇のおかげで距離さえとっていれば本物と見間違えてもおかしくはない。
それを突き付け情報を引き出そうとする私と、銃を突き付けられ顔を顰める坊主頭という構図だ。
情報交換の際、最初に聞くべき事項は一つ。相手に交戦の意思があるか否かだ。
交渉の余地さえないような相手と話せば分かるような相手とでは、その後の対応を変えねばならないからな。
だから私は真っ先に尋ねた。「お前は殺し合いに乗っているか?」と。
「やれやれだぜ」
すると、目の前の坊主頭は呆れたような声をあげた。
拳銃を突きつけられたこの状況で、何故そんな声を出せる?
何か策でもあるのだろうか。
……いや、とてもじゃないがそういう風には見えない。
敬語の喋れなかったあのヤパーナのように、おそらくこれがこの男の自然体なのだろう。
「せっかくあの天道を倒したのに、出場停止になるような馬鹿な真似をするつもりはないぜ」
……よく分からないが、殺し合いには関わりたくないらしい。
まあそうだろう、普通なら誰だってそう思う。
だがしかし、ここは『普通』が許されない世界なのだ。
殺し合いに関わらずして、生き残る術はない。止めるにしても、乗るにしても。
「この首に付けられたものが何か、お前は分かっているのか? 分かっていて、尚も殺し合いはしたくないと言うのか?」
言い終わると同時に、坊主頭が手にしたバットを振り上げた。
回避できるよう足に力を込め意識をバットへと集中させる。
しかしバットは先程と同じ軌道を描き、私の警戒は徒労となった。
坊主頭は素振りを再開させて言う。
「俺には野球しかないからな……殺し合いなんて言われても、よく分からないぜ」
そう言い、坊主頭はバットを振るう。
殺し合いという状況下、深夜の森で素振りを続ける一人の男。
どう考えても異質な光景のはずなのに、まるでそれが正しい姿だと錯覚してしまいそうになるほどに、自然な動作で素振りをしている。
顔も、フォームも、その滲み出るオーラでさえも、「素振りをするのが当たり前」と言っているように見えた。
恐怖を打ち消すための素振りでもなく、誰かを撲殺するための素振りでもない。
完全に、野球馬鹿による日課の素振りだ。
(やれやれ……なかなかに凄い事だが、素直に褒めていいものか分からないな)
異常な状況下にあっても平静を失わない点は評価できるのだが、適応能力が0とも取れるこのマイペースっぷりはマイナス要素にも思える。
何にせよ、カメダの前に立ちはだかれる程の力も、壁となって現れた私を倒す力も持っていないと見てよさそうだ。
「そうか……おかしな事を聞いて済まなかったな」
そうと分かれば、この男は用済みだ。
カメダの前に立ちはだかる場合、メンバーは厳選せねばならないだろう。この坊主頭ははっきり言って邪魔になる。ならば、始末をしておくのが得策だ。
そして参加者の前に立ちはだかる場合でもこいつは殺すべきなのだ。倒される事で人々に幸福感を与える悪には、実績が必要なのだ。この島で何人も殺したという実績が。
「私の名前はヘルガだ。殺し合いに乗るつもりは毛頭無い」
だから、モデルガンを下ろす。
モデルガンでは人を殺せないから、という理由だけではない。
知人の情報を聞き出すことで仲間集めを有利に進めたり、『仲間と偽って近付いてから殺害した』という事実を作りアンチ殺し合い派の自分に対する憎悪を強めたりと、ここでモデルガンを下ろしておく利点は多い。
「俺は越後、越後竜太郎だ」
言いながらも、坊主頭――越後竜太郎は素振りを決して休まない。
よほど野球が好きなのだろうか。
誰に命令されたでなくここまで練習に一生懸命になれるとはな……
そうと分かれば、この男は用済みだ。
カメダの前に立ちはだかる場合、メンバーは厳選せねばならないだろう。この坊主頭ははっきり言って邪魔になる。ならば、始末をしておくのが得策だ。
そして参加者の前に立ちはだかる場合でもこいつは殺すべきなのだ。倒される事で人々に幸福感を与える悪には、実績が必要なのだ。この島で何人も殺したという実績が。
「私の名前はヘルガだ。殺し合いに乗るつもりは毛頭無い」
だから、モデルガンを下ろす。
モデルガンでは人を殺せないから、という理由だけではない。
知人の情報を聞き出すことで仲間集めを有利に進めたり、『仲間と偽って近付いてから殺害した』という事実を作りアンチ殺し合い派の自分に対する憎悪を強めたりと、ここでモデルガンを下ろしておく利点は多い。
「俺は越後、越後竜太郎だ」
言いながらも、坊主頭――越後竜太郎は素振りを決して休まない。
よほど野球が好きなのだろうか。
誰に命令されたでなくここまで練習に一生懸命になれるとはな……
「……ところで、さっきから素振りをしているが疲れないのか?」
懐柔し、より多くの情報を引き出すたまに、私は自ら話を振る。
あまり話題の引き出しは多くないが、適当に野球に絡んだ雑談でも振っておけばいいだろう。
「やれやれだぜ。ダッシュをやったら、次は素振りって決めてるからな。
自分が好きでやってることなのに、疲れて止めたいなんて思うはずがないだろう?」
疲れていないかを聞いたのであって、止めたいかどうかを聞いたわけではないのだが。
だが、まあいい。頭の悪い者との会話のキャッチボールが上手くいかないことくらい、幸せ島で何度も何度も経験済みだ。
ここは大人の対応をすべき。さらりと流す事にしよう。
というか、バットを振るう前にこちらに向かって走っていたのはダッシュの練習だったのか。
本当にマイペースな男だなこいつは。
「それにしても……いいフォームだな。試合で活躍する姿が目に浮かぶ」
私の言葉に興味を引かれたのか、素振りをする腕が一瞬だけ停止する。
「ヘルガさんは野球が分かるのか?」
若干嬉しそうに言いながら素振りを再開する越後。
先程の言葉に嘘はない。これだけ綺麗なフォームをしている男なら、あのヤパーナらと共にあの国とチームともいい勝負を出来るかもしれない。
もっとも、しあわせ草無くしてはあのチームに勝つことは不可能だろうがな。
「ああ、知っている。昔はよく見ていたからな」
嘘は言っていない。だが、詳細も言わない。
組織やあの島の事をわざわざ口にするのは愚の骨頂だ。
「へへ、そうか。やっぱ楽しいよな、野球」
子供のような笑顔を向け、越後が素振りの手を止める。
数えてはいなかったが、おそらく100は振っていたろう。ようやく1セットを終えたという事か。
「ヘルガさん。ボールを持ってないか?」
……どうやらまだトレーニングは続くらしい。
一体いつまでやるのだろうか。
「いや、悪いが持っていない。私に配られたのはこの拳銃とラッキョウだけだ」
「そうか……」
ラッキョウに特にツッコミを入れることもなく、越後は残念そうにする。
「やれやれだぜ。ボールがあったら、折角だしキャッチボールでもしようと思ったんだけどな」
…………は?
いかん、一瞬無防備に間抜け面をしてしまった。
まさかキャッチボールに誘われる日が来ようとはな……
自分が“上”にいたしあわせ島の頃とは違うという事を、意外な形で改めて思い知らされた。
懐柔し、より多くの情報を引き出すたまに、私は自ら話を振る。
あまり話題の引き出しは多くないが、適当に野球に絡んだ雑談でも振っておけばいいだろう。
「やれやれだぜ。ダッシュをやったら、次は素振りって決めてるからな。
自分が好きでやってることなのに、疲れて止めたいなんて思うはずがないだろう?」
疲れていないかを聞いたのであって、止めたいかどうかを聞いたわけではないのだが。
だが、まあいい。頭の悪い者との会話のキャッチボールが上手くいかないことくらい、幸せ島で何度も何度も経験済みだ。
ここは大人の対応をすべき。さらりと流す事にしよう。
というか、バットを振るう前にこちらに向かって走っていたのはダッシュの練習だったのか。
本当にマイペースな男だなこいつは。
「それにしても……いいフォームだな。試合で活躍する姿が目に浮かぶ」
私の言葉に興味を引かれたのか、素振りをする腕が一瞬だけ停止する。
「ヘルガさんは野球が分かるのか?」
若干嬉しそうに言いながら素振りを再開する越後。
先程の言葉に嘘はない。これだけ綺麗なフォームをしている男なら、あのヤパーナらと共にあの国とチームともいい勝負を出来るかもしれない。
もっとも、しあわせ草無くしてはあのチームに勝つことは不可能だろうがな。
「ああ、知っている。昔はよく見ていたからな」
嘘は言っていない。だが、詳細も言わない。
組織やあの島の事をわざわざ口にするのは愚の骨頂だ。
「へへ、そうか。やっぱ楽しいよな、野球」
子供のような笑顔を向け、越後が素振りの手を止める。
数えてはいなかったが、おそらく100は振っていたろう。ようやく1セットを終えたという事か。
「ヘルガさん。ボールを持ってないか?」
……どうやらまだトレーニングは続くらしい。
一体いつまでやるのだろうか。
「いや、悪いが持っていない。私に配られたのはこの拳銃とラッキョウだけだ」
「そうか……」
ラッキョウに特にツッコミを入れることもなく、越後は残念そうにする。
「やれやれだぜ。ボールがあったら、折角だしキャッチボールでもしようと思ったんだけどな」
…………は?
いかん、一瞬無防備に間抜け面をしてしまった。
まさかキャッチボールに誘われる日が来ようとはな……
自分が“上”にいたしあわせ島の頃とは違うという事を、意外な形で改めて思い知らされた。
「……キャッチボールなどという目立つうえに無防備な行為をして、『人が来たらどうしよう』とは考えないのか?」
素直な疑問を口にする。
越後の思考は私の予想の斜め上をZ軸方向に突っ走っていくからな……
自分で下手な予測をするより、本人に聞いた方が手っ取り早いし確実だ。
「やれやれだぜ。そしたら3人でキャッチボールをすればいいじゃないか」
駄目だこいつ……早くなんとかしないと……
「いや待て、ちょっと待て。お前は私の質問の意図を理解していないのか?」
いかん、あまりの会話の通じなさに頭が痛くなってきた。
しあわせ島の連中は話が通じる方だった、なんて思う日が来ようとはな……
「どういうことだ?」
「だからだな……殺し合いに乗った者、そうじゃなくても疑心暗鬼に陥った者がやってきたらどうするつもりだと聞いたんだ。
手にボールしかない状況でどうするつもりだ? 相手が拳銃を持っていたとしても逃げ切る自信があるというのか?」
睨みを効かせ、脅すように越後に問う。
しかし越後は、動じる様子もなく平然と答えを返した。
「やれやれだぜ。一緒に野球をすれば、信頼しあえる仲間になれるんだぜ?」
「いや、だからだな……」
もう本当に駄目だこいつ。キャッチボールを拒絶されるという発想自体がないようだ。
楽天家なのか、それとも天然物のクサレ脳ミソをしているのか……後者に思えるのが恐ろしいところだな。
「というか、野球をしたからと言ってそんな簡単に信頼が芽生えるわけがないだろう」
何というか、綺麗ごとにも程がある。
スポーツで世界が平和になるのなら、初めてオリンピックが開かれた日は世界から戦争が無くなった日として歴史の教科書に太字で載っているだろうに。
「やれや「それはもういい」
口癖なのか知らないが、少しばかり聞き飽きた。
こちらも暇というわけでは無いのだ、さっさと喋ってもらいたい。
「……やれやれだぜ。初対面の人間ばかりなのに入ったばかりの野球部で強い結束が生まれるのは、野球が友情を生み出す力を持ってるからなんだぜ」
言い直したな……まあいい、もうこれ以上余計な事で時間を取られたくはない。
この際口癖は聞き流しておくとしよう。
それよりも今はこの無茶苦茶な理論だ。大真面目にこんな事を言うとは……コイツの頭には知能の代わりに蟹味噌でも詰まっているのだろうか。
「それは最初から『楽しくやろう』と考えているという前提の元での話だろう。
今のように疑ってかかる前提の状況では話が違う」
「……やれやれだぜ」
ふう、と溜め息を吐く越後。
そう言うであろうことは予測していた。
さあ、聞かせてもらおうか。お前の考える、この状況を野球で打破する方法を。
「俺は十波程じゃないとはいえ、馬鹿だからな。状況がどうのって言われてもよく分からないぜ」
「……はあ?」
「だから俺はどんな時でも変わらないぜ。ヘルガさんも、俺の中じゃもう立派な野球仲間だしな」
唖然とした。何を言っているんだこいつは。
格好つけているだけなのか、本心からそう思っているのか。
何にせよ、コイツが馬鹿という事はよく分かった。
本人が思ってる以上に馬鹿だ。オリンピックに『馬鹿』という競技があればメダリストになれただろう程に馬鹿だ。
そもそもに質問の答えになっていないというのに。多分、ハムスターよりも知能指数が低いだろう。
素直な疑問を口にする。
越後の思考は私の予想の斜め上をZ軸方向に突っ走っていくからな……
自分で下手な予測をするより、本人に聞いた方が手っ取り早いし確実だ。
「やれやれだぜ。そしたら3人でキャッチボールをすればいいじゃないか」
駄目だこいつ……早くなんとかしないと……
「いや待て、ちょっと待て。お前は私の質問の意図を理解していないのか?」
いかん、あまりの会話の通じなさに頭が痛くなってきた。
しあわせ島の連中は話が通じる方だった、なんて思う日が来ようとはな……
「どういうことだ?」
「だからだな……殺し合いに乗った者、そうじゃなくても疑心暗鬼に陥った者がやってきたらどうするつもりだと聞いたんだ。
手にボールしかない状況でどうするつもりだ? 相手が拳銃を持っていたとしても逃げ切る自信があるというのか?」
睨みを効かせ、脅すように越後に問う。
しかし越後は、動じる様子もなく平然と答えを返した。
「やれやれだぜ。一緒に野球をすれば、信頼しあえる仲間になれるんだぜ?」
「いや、だからだな……」
もう本当に駄目だこいつ。キャッチボールを拒絶されるという発想自体がないようだ。
楽天家なのか、それとも天然物のクサレ脳ミソをしているのか……後者に思えるのが恐ろしいところだな。
「というか、野球をしたからと言ってそんな簡単に信頼が芽生えるわけがないだろう」
何というか、綺麗ごとにも程がある。
スポーツで世界が平和になるのなら、初めてオリンピックが開かれた日は世界から戦争が無くなった日として歴史の教科書に太字で載っているだろうに。
「やれや「それはもういい」
口癖なのか知らないが、少しばかり聞き飽きた。
こちらも暇というわけでは無いのだ、さっさと喋ってもらいたい。
「……やれやれだぜ。初対面の人間ばかりなのに入ったばかりの野球部で強い結束が生まれるのは、野球が友情を生み出す力を持ってるからなんだぜ」
言い直したな……まあいい、もうこれ以上余計な事で時間を取られたくはない。
この際口癖は聞き流しておくとしよう。
それよりも今はこの無茶苦茶な理論だ。大真面目にこんな事を言うとは……コイツの頭には知能の代わりに蟹味噌でも詰まっているのだろうか。
「それは最初から『楽しくやろう』と考えているという前提の元での話だろう。
今のように疑ってかかる前提の状況では話が違う」
「……やれやれだぜ」
ふう、と溜め息を吐く越後。
そう言うであろうことは予測していた。
さあ、聞かせてもらおうか。お前の考える、この状況を野球で打破する方法を。
「俺は十波程じゃないとはいえ、馬鹿だからな。状況がどうのって言われてもよく分からないぜ」
「……はあ?」
「だから俺はどんな時でも変わらないぜ。ヘルガさんも、俺の中じゃもう立派な野球仲間だしな」
唖然とした。何を言っているんだこいつは。
格好つけているだけなのか、本心からそう思っているのか。
何にせよ、コイツが馬鹿という事はよく分かった。
本人が思ってる以上に馬鹿だ。オリンピックに『馬鹿』という競技があればメダリストになれただろう程に馬鹿だ。
そもそもに質問の答えになっていないというのに。多分、ハムスターよりも知能指数が低いだろう。
「まあでも、ボールがないならしょうがない。素振りの続きでもするとするぜ」
今の私をしあわせ島の連中が見たら、笑いの種にしていただろう。
それほどまでに間抜けな顔を、今の私はしていると思う。
「ああ、でもヘルガさんが素振りしたいならバットは貸すぜ。腕立て伏せもしないといけないからな」
越後に対して、ではない。
正直、この数分の会話で越後のクレイジーさには慣れてきた。非常に嘆かわしい事だが。
だから、今私がマヌケ面でポカンとしてしまっているのは、もっと他の原因からだ。
「ん? どうしたん――」
私の様子に気付き、私の視線を越後が追う。
そして、越後が固まった。越後でさえも固まった。
それほどまでに、目の前の存在はイカレていた。
「フンフンフンフンフンフンフン! フンフンフンフンフンフンフン!」
ピエロ。どこからどう見てもピエロ。
非常に不気味なメイクを施したピエロが、ジャグリングを披露している。
「フンフンフンフンフンフンフン! フンフンフンフンフンフンフン!
フンフンフンフンフンフンフン! フンフンフンフンフンフンフン!」
呆然としていた意識が、近付いてくるピエロを見て一気に覚醒する。
攻撃される可能性に思い当ったから、というわけではない。
奴がジャグリングに使っているのが、デイパックの中身であることに気付いたからだ。
パンにペットボトル、コンパスにサッカーボール、そして四角い謎の箱がいくつか――
あの箱は私のデイパックには入っていなかった事から察するに、奴に支給された武器なのだろう。
あの形状の武器というと、爆弾の可能性が高い。
「越後、逃げるぞ! 奴は爆弾を持っている可能性がある!」
義理で越後に声をかけると同時に、ピエロから離れようと走り出す。
「フンフンフンフン…………ハッ!」
だがしかし、それも中断せざるを得なくなった。
ピエロが、四角い箱の内の一つをこちらに向かって投げてきたのだ。
越後より先に行動に移ったからか、箱は明らかに私の方に向かってきている。
「く……っ!」
撃ち落とそうにも道具がない。
今後を考えるとここでモデルガンを手放したくはないし、何より飛来する箱にぶつけられるほどコントロールに自信はない。
衝撃を少しでも防ごうと身を屈め適当な茂みへと身を投げようとして、目撃した。
異常な速度で私に追いついてきた越後の姿を。
そして奴は箱を掴むと、そのまま流れるような動作で箱をピエロへと投げ返した。
ピエロと越後の狭間で爆発する四角い箱。やはりあれは爆弾だったか。
それにしても、まさか越後が私を助けるとはな。本当に仲間だと思っているということだろうか?
正直、意外だ。口先だけのロマンチストでもおかしくはなかったんだがな。
今の私をしあわせ島の連中が見たら、笑いの種にしていただろう。
それほどまでに間抜けな顔を、今の私はしていると思う。
「ああ、でもヘルガさんが素振りしたいならバットは貸すぜ。腕立て伏せもしないといけないからな」
越後に対して、ではない。
正直、この数分の会話で越後のクレイジーさには慣れてきた。非常に嘆かわしい事だが。
だから、今私がマヌケ面でポカンとしてしまっているのは、もっと他の原因からだ。
「ん? どうしたん――」
私の様子に気付き、私の視線を越後が追う。
そして、越後が固まった。越後でさえも固まった。
それほどまでに、目の前の存在はイカレていた。
「フンフンフンフンフンフンフン! フンフンフンフンフンフンフン!」
ピエロ。どこからどう見てもピエロ。
非常に不気味なメイクを施したピエロが、ジャグリングを披露している。
「フンフンフンフンフンフンフン! フンフンフンフンフンフンフン!
フンフンフンフンフンフンフン! フンフンフンフンフンフンフン!」
呆然としていた意識が、近付いてくるピエロを見て一気に覚醒する。
攻撃される可能性に思い当ったから、というわけではない。
奴がジャグリングに使っているのが、デイパックの中身であることに気付いたからだ。
パンにペットボトル、コンパスにサッカーボール、そして四角い謎の箱がいくつか――
あの箱は私のデイパックには入っていなかった事から察するに、奴に支給された武器なのだろう。
あの形状の武器というと、爆弾の可能性が高い。
「越後、逃げるぞ! 奴は爆弾を持っている可能性がある!」
義理で越後に声をかけると同時に、ピエロから離れようと走り出す。
「フンフンフンフン…………ハッ!」
だがしかし、それも中断せざるを得なくなった。
ピエロが、四角い箱の内の一つをこちらに向かって投げてきたのだ。
越後より先に行動に移ったからか、箱は明らかに私の方に向かってきている。
「く……っ!」
撃ち落とそうにも道具がない。
今後を考えるとここでモデルガンを手放したくはないし、何より飛来する箱にぶつけられるほどコントロールに自信はない。
衝撃を少しでも防ごうと身を屈め適当な茂みへと身を投げようとして、目撃した。
異常な速度で私に追いついてきた越後の姿を。
そして奴は箱を掴むと、そのまま流れるような動作で箱をピエロへと投げ返した。
ピエロと越後の狭間で爆発する四角い箱。やはりあれは爆弾だったか。
それにしても、まさか越後が私を助けるとはな。本当に仲間だと思っているということだろうか?
正直、意外だ。口先だけのロマンチストでもおかしくはなかったんだがな。
「やれやれだぜ……何とか助かったみたいだな」
全くだ。いい肩してるよ、お前は。
ポジションは外野手といったところかな?
「……礼を言おう。助かった」
「気にするな。俺のつばめ返しの威力は108倍まであるぜ」
意味が分からない。が、まあ、分からなくても問題ないだろう。
それより今はあのピエロだ。アイツをどうするか考えねば。
「それより……おい、そこのお前! いい肩してるし、一緒に野球を……」
「はあ?」
正気かコイツは。
まさか本当に襲ってきた相手を野球チームに誘うとは……正気の沙汰とは思えない。
昔読んだコミックに出てくるサッカーチームのクレイジーなキャプテンを彷彿させる。
「お前は状況が分かっているのか!」
越後の腕を引っ張り、自分の潜んだ茂みへと引っ張り込む。
ピエロの奴はと言うと、未だにジャグリングを続けながらこちらへゆっくりと近付いてきていた。
「分かってるぜ。あのピエロを説得して草野球チームを作るんだろ? それで島中の人間で野球をやれば一見落ちゃ「黙って聞け」
駄目だ、こいつといるとどうもペースを乱される。
ピエロがまともな精神をした殺人者だとしたら、目の前で仲間だったはずの越後を惨殺することで私という残忍な者がいると参加者に広めることが出来たんだが……
正直まともに話が伝わるとも思えないし、あのピエロはここで討伐しておきたい。
そうすれば武器も無事に手に入る。越後は……どうすべきだろうか?
「奴の狙いはおそらく私だ。近くにいる貴様でなく、私の方を狙ってきたからな」
これは嘘だ。恐らく逃げようとした方を襲ったというだけだろう。
越後の利用法として、囮に使うという事が挙げられる。
越後の逃走を阻止しようとした隙を突いて、奴との距離を一気に詰める。
自分が爆発に巻き込まれる位置ではさすがに爆弾は使わないだろう。
ジャグリングで両手を塞いだ相手に負けるほど弱いつもりはない。
もっとも、奴を倒した際爆弾が落下して爆発する、なんてことになったら洒落にならないが。
だがまあ考えていても始まらない。このまま行くと生存の可能性は0%だ。それならば僅かな可能性に賭けた方がいい。
「だから貴様は先に逃げろ。ここは私が引き受ける」
せめてエアガンなら威嚇くらいできたのだがなと思いながらモデルガンを構える。
見た目だけでも多少の牽制にはなるだろうか。
そんな事を思っていると、越後が何やら身を屈めたのが視界の端に映った。
次いで、綺麗な軌道を描きながら宙を舞っていたサッカーボールが軌道上から弾き出されるのが見える。
「やれやれだぜ。事情はよく分からないが、狙われてるんならヘルガさんの方が逃げるべきだと思うんだぜ」
そう言って、再び越後がバットを振るう。
その直前に放り投げていた小石は猛スピードでピエロ目掛けて飛んでいき、そしてジャグリングの輪の中から小型の箱を弾き出した。
綺麗な球形をしていない小石をここまで正確に飛ばすとは……どうやら野球に関しては本当に化け物なようだな。
「それに俺はバットがあればあれを撃ち落とすくらいわけないからな」
にまりと笑い、再び越後が小石を飛ばす。今度はペットボトルをジャグリングの輪から弾き出した。
いや――ペットボトルだけではない。
呆然としたピエロは爆弾の一つを受け止め損ね地面に落とした。
いや、“受け止める気がなかった”と言った方がいいかもしれない。
ジャグリングに使っていたものが残らず地面に落ちるのも構わずに、棒立ちでこちらを見つめている。
全くだ。いい肩してるよ、お前は。
ポジションは外野手といったところかな?
「……礼を言おう。助かった」
「気にするな。俺のつばめ返しの威力は108倍まであるぜ」
意味が分からない。が、まあ、分からなくても問題ないだろう。
それより今はあのピエロだ。アイツをどうするか考えねば。
「それより……おい、そこのお前! いい肩してるし、一緒に野球を……」
「はあ?」
正気かコイツは。
まさか本当に襲ってきた相手を野球チームに誘うとは……正気の沙汰とは思えない。
昔読んだコミックに出てくるサッカーチームのクレイジーなキャプテンを彷彿させる。
「お前は状況が分かっているのか!」
越後の腕を引っ張り、自分の潜んだ茂みへと引っ張り込む。
ピエロの奴はと言うと、未だにジャグリングを続けながらこちらへゆっくりと近付いてきていた。
「分かってるぜ。あのピエロを説得して草野球チームを作るんだろ? それで島中の人間で野球をやれば一見落ちゃ「黙って聞け」
駄目だ、こいつといるとどうもペースを乱される。
ピエロがまともな精神をした殺人者だとしたら、目の前で仲間だったはずの越後を惨殺することで私という残忍な者がいると参加者に広めることが出来たんだが……
正直まともに話が伝わるとも思えないし、あのピエロはここで討伐しておきたい。
そうすれば武器も無事に手に入る。越後は……どうすべきだろうか?
「奴の狙いはおそらく私だ。近くにいる貴様でなく、私の方を狙ってきたからな」
これは嘘だ。恐らく逃げようとした方を襲ったというだけだろう。
越後の利用法として、囮に使うという事が挙げられる。
越後の逃走を阻止しようとした隙を突いて、奴との距離を一気に詰める。
自分が爆発に巻き込まれる位置ではさすがに爆弾は使わないだろう。
ジャグリングで両手を塞いだ相手に負けるほど弱いつもりはない。
もっとも、奴を倒した際爆弾が落下して爆発する、なんてことになったら洒落にならないが。
だがまあ考えていても始まらない。このまま行くと生存の可能性は0%だ。それならば僅かな可能性に賭けた方がいい。
「だから貴様は先に逃げろ。ここは私が引き受ける」
せめてエアガンなら威嚇くらいできたのだがなと思いながらモデルガンを構える。
見た目だけでも多少の牽制にはなるだろうか。
そんな事を思っていると、越後が何やら身を屈めたのが視界の端に映った。
次いで、綺麗な軌道を描きながら宙を舞っていたサッカーボールが軌道上から弾き出されるのが見える。
「やれやれだぜ。事情はよく分からないが、狙われてるんならヘルガさんの方が逃げるべきだと思うんだぜ」
そう言って、再び越後がバットを振るう。
その直前に放り投げていた小石は猛スピードでピエロ目掛けて飛んでいき、そしてジャグリングの輪の中から小型の箱を弾き出した。
綺麗な球形をしていない小石をここまで正確に飛ばすとは……どうやら野球に関しては本当に化け物なようだな。
「それに俺はバットがあればあれを撃ち落とすくらいわけないからな」
にまりと笑い、再び越後が小石を飛ばす。今度はペットボトルをジャグリングの輪から弾き出した。
いや――ペットボトルだけではない。
呆然としたピエロは爆弾の一つを受け止め損ね地面に落とした。
いや、“受け止める気がなかった”と言った方がいいかもしれない。
ジャグリングに使っていたものが残らず地面に落ちるのも構わずに、棒立ちでこちらを見つめている。
「ん? 分かってくれたみたいだな。それじゃあ俺はアイツを野球に勧誘してくるぜ」
棒立ちのピエロを見て、戦意を失ったと思い込む越後。そんなわけないだろうに。
だが、今はチャンスだ。爆弾を取りこぼした今なら、奴を容易く抑えられるかもしれない。
そのためにもまずは爆破されないであろう安全圏までこの隙に接近すべきかと思ったが、何故だか体が動かなかった。
今動くのはヤバいと、私の中で誰かが囁く。
その第六感を正しいと証明するかのように、ピエロの顔が見る見る内に怒りの色に染まっていった。
「ピエロはボ~クなんだぞ~」
言葉からもその怒気が伝わってくる。
さすがに事態が呑み込めたのか、越後もピエロの様子を窺うように見つめている。
全く、厄介な事をしてくれたな、この野球馬鹿。
何だかよく分からないが、あの越後の行為はピエロの神経を逆撫でする結果になったようだ。
「そ~んなボ~クにとって代わろうなんて、100年早いんだなあ~」
筆箱の中身を引っ繰り返すピエロ。
そしてその中から取り出したシャープペンシルと消しゴムを加え、先程より大きな軌道を描かせながらジャグリングを再開させる。
よく分からないが、不気味だ。いや、むしろよく分からないこそ不気味なのだろう。
「やれやれだぜ……ピエロには興味がないが、コントロールに関することじゃ負けるつもりは更々ねーぜ」
……越後、貴様もう少し考えてから物を喋れ。ピエロの顔が露骨に怒りに染まっていくぞ。
完全に踏んだな、地雷。
「フンフンフンフンフンフンフン! フンフンフンフンフンフンフン!」
宙を舞う物体の速度が速まっていく。凄まじい速度のジャグリングだ。
一見隙が大きいように見えるが、こちらが動いた途端爆弾を投げられてもおかしくはない。
さて、どうするか……
「だからヘルガさんは先に逃げててくれ。何、大丈夫だって、何を投げられたって打ち返せばいいんだからな」
再び笑顔が笑みを向ける。
まあ、そう言うのなら止めはしないが……
本当に見ず知らずの人間にそこまでするとはな。久し振りに、ほんの少しだけいい気分になれた。
僅かにだが感謝の気持ちもある事だし、しばらく越後を殺すのは止めておこう。
必要に迫られないのに殺すのはいい気分ではないからな。
「分かった、なら待ち合わせ場所は……」
ピエロに意識を集中させたまま地図を取り出し合流場所を決めようとするが、結局それは叶わなかった。
私の体が宙を浮く。
見ると、私を突き飛ばした越後が体勢を立て直して飛んできたシャープペンシルを打ち返していた。
越後が叫ぶ。「行け」と。
私の視界が水色に切り替わり、酸素の供給がストップされた。
(馬鹿者が……)
川に突き飛ばすなら、事前に言わねば息が長続きしないだろうが。
それに、集合場所も決めずにどうするつもりなのだろうか。
急に突き飛ばさねばならない程、切迫した状況には思えなかった。
確かに一刻も早く移動はすべきだったが、あれだけ正確に飛来物をミート出来る動体視力があるのだ、飛来したのが一目で分かる大きな箱でないことくらい分かりそうなもの。
だとすると、おそらく越後の奴は……
(やりたい事があるのに、私なんかのために命を捨てるとはな……)
川の流れに身を任せる。
奴の意思は無駄にはしない。私はこのまま流れていくとしよう。
しあわせ島で長年共にやってきた者同士でさえ、他人は見捨てて一人だけ逃げようとしていたのにな……
まさか、出会ったばかりの人間を逃がすために死を覚悟して戦う馬鹿がいるなんて。
(今度こそ……名前くらいは覚えておこう。誇り高きヤパーナ・越後竜太郎の名前を……)
棒立ちのピエロを見て、戦意を失ったと思い込む越後。そんなわけないだろうに。
だが、今はチャンスだ。爆弾を取りこぼした今なら、奴を容易く抑えられるかもしれない。
そのためにもまずは爆破されないであろう安全圏までこの隙に接近すべきかと思ったが、何故だか体が動かなかった。
今動くのはヤバいと、私の中で誰かが囁く。
その第六感を正しいと証明するかのように、ピエロの顔が見る見る内に怒りの色に染まっていった。
「ピエロはボ~クなんだぞ~」
言葉からもその怒気が伝わってくる。
さすがに事態が呑み込めたのか、越後もピエロの様子を窺うように見つめている。
全く、厄介な事をしてくれたな、この野球馬鹿。
何だかよく分からないが、あの越後の行為はピエロの神経を逆撫でする結果になったようだ。
「そ~んなボ~クにとって代わろうなんて、100年早いんだなあ~」
筆箱の中身を引っ繰り返すピエロ。
そしてその中から取り出したシャープペンシルと消しゴムを加え、先程より大きな軌道を描かせながらジャグリングを再開させる。
よく分からないが、不気味だ。いや、むしろよく分からないこそ不気味なのだろう。
「やれやれだぜ……ピエロには興味がないが、コントロールに関することじゃ負けるつもりは更々ねーぜ」
……越後、貴様もう少し考えてから物を喋れ。ピエロの顔が露骨に怒りに染まっていくぞ。
完全に踏んだな、地雷。
「フンフンフンフンフンフンフン! フンフンフンフンフンフンフン!」
宙を舞う物体の速度が速まっていく。凄まじい速度のジャグリングだ。
一見隙が大きいように見えるが、こちらが動いた途端爆弾を投げられてもおかしくはない。
さて、どうするか……
「だからヘルガさんは先に逃げててくれ。何、大丈夫だって、何を投げられたって打ち返せばいいんだからな」
再び笑顔が笑みを向ける。
まあ、そう言うのなら止めはしないが……
本当に見ず知らずの人間にそこまでするとはな。久し振りに、ほんの少しだけいい気分になれた。
僅かにだが感謝の気持ちもある事だし、しばらく越後を殺すのは止めておこう。
必要に迫られないのに殺すのはいい気分ではないからな。
「分かった、なら待ち合わせ場所は……」
ピエロに意識を集中させたまま地図を取り出し合流場所を決めようとするが、結局それは叶わなかった。
私の体が宙を浮く。
見ると、私を突き飛ばした越後が体勢を立て直して飛んできたシャープペンシルを打ち返していた。
越後が叫ぶ。「行け」と。
私の視界が水色に切り替わり、酸素の供給がストップされた。
(馬鹿者が……)
川に突き飛ばすなら、事前に言わねば息が長続きしないだろうが。
それに、集合場所も決めずにどうするつもりなのだろうか。
急に突き飛ばさねばならない程、切迫した状況には思えなかった。
確かに一刻も早く移動はすべきだったが、あれだけ正確に飛来物をミート出来る動体視力があるのだ、飛来したのが一目で分かる大きな箱でないことくらい分かりそうなもの。
だとすると、おそらく越後の奴は……
(やりたい事があるのに、私なんかのために命を捨てるとはな……)
川の流れに身を任せる。
奴の意思は無駄にはしない。私はこのまま流れていくとしよう。
しあわせ島で長年共にやってきた者同士でさえ、他人は見捨てて一人だけ逃げようとしていたのにな……
まさか、出会ったばかりの人間を逃がすために死を覚悟して戦う馬鹿がいるなんて。
(今度こそ……名前くらいは覚えておこう。誇り高きヤパーナ・越後竜太郎の名前を……)
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| GAME START | 越後 竜太郎 | 勇気VS意地(後編) |
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