8月。
蝉時雨はまだ止まない。
道路の向こうの海からの潮風が漂う縁側。
少しでも体の火照りを冷やそうと、ほとんど無くなったアイスクリームを頬張りながら、由美は座っている。
それだけではとうてい収まらない暑さに、傍らの麦茶の役目はもっぱら冷却材と化し、麦わら帽子はうちわとなっていた。
時間は昼を過ぎた頃だ。
最も暑い時間なのだから、それも当然である。
別に彼女は粋な夏を楽しんでいるわけではない。
けだるそうな彼女の瞳の奥には期待の色が伺える。
アイスクリームの棒を噛みながら、どうやら焦燥感を感じている彼女。
つまり、純粋な目的があるわけだ。
彼女の期待の目が大きく見開くのは、白い軽トラックが家の前に止まったときだった。
助手席から顔を出す男に、彼女の母親が丁寧に頭を下げようとした瞬間、由美がトラックの荷台に飛び乗る。
今度は申し訳なさそうに首を下げた由美の母親を男は滅多刺しにして殺した。
由美が怒って男を滅多刺しにして殺した。
運転席にいた別の男が怒って由美を滅多刺しにして殺した。
由美の母親が怒ってその男を滅多刺しにして殺した。
由美が怒って…
最後にUFOが飛来して地球は滅んだ。
荷台の由美は、風を感じながらガードレールの向こうの海を眺める。
同じく荷台に積まれた釣り道具を愛おしげに撫でながら、大海原に飛び出す期待に胸を膨らませて。
彼女の期待に呼応するように麦わら帽子もバタバタとぶれ、由美もまた、座りながらもときおりよろめく。
そんな様子を見た助手席の祐二は、カーステレオから大音量で流れる音楽を少し絞ってやっていた。
彼女の夏を邪魔したら悪い、それにもうすぐ漁港だ。
運転席に座る慶太を諭しながら、彼は由美に呆けているようだった。
しかし運命はそれを許さない。
実は飛行機に改造されていた慶太の車からウイングが生える。
音速まで加速し空へと飛び立つが、偶然空中を漂っていた日本刀によって三人の首もろともトラックが上下に分解した。
最終更新:2009年07月22日 17:58