グランドに熱く降り注ぐ陽射しは何処までも白く、私達の背中を染めていき、何個もある校舎の窓ガラスに、ギラギラと反射していった。
夏の光を吸い込んだ様な楠や桜等の緑はぐんと伸び、その姿を輝かせている。
ああ、なのになのに。その光景はここからではまるで、別世界のもののようじゃないか。
ボク等が居たのは冷房のきいた校舎内。外が光を目立たせていても、ここからではまったく意味がなく、流れていく風景。
「智識?! おい!智識!?起きろ!」
(あぁ、なんて煩い。少しは静かに出来ないのか、この部品人間は)
薄れゆく意識の中、ボクは途切れそうな、叫ぶような声に曖昧なまま流されていた。声の主は『右』という、ある能力者に創り出された『部品』だ。
そう、ボクは・・・図書室へ、億千さんの小間遣い、右と一緒に本を返しに来ただけなのに・・・。なぜ、ボクはこんな風に倒れているのか?
突然と、何の前触れもなく倒れた棚。それに下敷きにされたボク、故風智識(こかぜ ちしき)は、ただただゆっくりと意識を白くさせていった・・・・・・。
___あなたが、今まで記録してきた事を、その本に刻まれた時間を、私に見せてほしい___
目が覚めると、ボクはそこに居なかった。 居ないというのは、正確ではないか、ボクは実体を現実に忘れている様で、そこには意識しかなかった。
(ああ、この声は・・・この世界であらゆる情報と時間をそのままに記録してきたボクに、その意味を与えた者の・・・。)
___少しでいいの。あなたを思い出すのに苦労したわ。さぁ、今からわたしが言う年の記録を見せて___
この方は・・・名前は・・・。
___名前は忘れてしまったわ。昔、あなたが呼んでくれていた様に呼びなさい___
「相変わらず、少女の様だ」
ボクに話し掛けるその声は、とても透き通った、悪意の欠片もない純粋なものだった。
この方が創造した世界は、とうに汚れてしまったというのに・・・。
くすくすと彼女が微笑む。姿は見えない。見たこと、ないな。そう言えば。
「あの日から今までを、記録してきました。 その中でも、貴女が望むのは、42703429ページから42703767ページまでの、この記録ですね」
ボクの意識の前に、一冊少し大きな本が現れる。その本はかつてボクが、彼女に与えられた過去現在未来のあらゆる物や、者、事柄等をそのままに記録した本だ。
見た目は普通の魔導書とあまり変わりはしないが、物理法則を無視したそれには、凡そ考えられない情報量の文字羅列が大きく長く広げられていた。
___ちゃんと記録してあるようね___
「そりゃあ。そういうふうに出来てますから。ところで、主」
___大丈夫、覚えてるわ。栞でページを挟めば、その時代に行けること、ページを破れば、事柄や物、者は消え去り、時代は良くも悪くも変わること。あとは・・・___
得意気にいいかけて、彼女は黙った。表情が分からないと、苦労するんだな。
___書き換えだなんて。あの娘みたいね___
あの娘・・・あの朱い髪の女のことか。
「似てるのは、仕方ないですよ。どれも貴女が創ったことですから。でも、情報なんてどうせ設定下の真理。アイツには一蹴されますよ」
眼鏡をクイっと押し上げ・・・れない。 仕方ない、今のボクに実体はないのだから。
___うん、そういう設定だものね___
『倒されては、崩されては、壊されては、殺されては、無にされてはならない存在って、可哀想ね。』などと彼女は言うけれど、見えはしないが多分、とても楽しそうにしているんだ。設定なんて、彼女の前では確定された一つの能力でしかないのだから。
設定を支配するアレに勝つのは、クソゲーではあっても無理ゲーではない。だなんてよく言えるね。
ボクは、自分の能力と出来ることをわきまえてるから、そんな事、死んでも言えないよ。・・・多分。
あ、でも、能力勝負がこの世の全てを決めると言ったら間違いだ。クイズなら勝てるかもしれない。
___アレの口癖かしら___
? ああ、『能力勝負の例』か。
「いえ、ボクが思ったことです。多分」
___曖昧ね___
「漠然と広がったものが思考ですから とボクは思うのです」
___うん、あなたのそういうところ、何だか好きよ___
さいですか。 とボクは適当に受け流し、記録案内に移った。
「記録を歩く間に、また記憶をなくされては困りますので・・・ボクも一緒にいきますよ というか・・・」
ボクはそこで区切った。ここからは予測の範囲だから。
___うん、その為に呼んだんだもの___
声で笑う彼女に、呆れるボクが問い掛ける。
「やはり、あれは必然でしたか」
図書室の棚が、何の前触れもなく倒れるなんておかしい。
___うん。あなたと一緒に居た子を使っても良かったのだけど、そうすると怒ってお願いを聞いてくれそうにないから・・・___
「・・・まぁ、絶対怒ってますね。」
右や委員長に何かしたら、ボクは許しはするけど、必ず怒るから。出来ることなら許さない。でも、痛いのと恐いのは嫌だ。
___忙しいのに、ありがとう___
「そういうなら、連れてこないでくれよ」と心で呟き、ボクは時代を振り返った。
最終更新:2012年09月16日 12:06