とある小さな村に、白い髪に白い肌を持つ若い男の科学者がいた。身体の弱い男は、深紅の瞳を持つ美しい妻と、双子の子供と静かに暮らしていた。
決して裕福というわけではなかったが、男は幸せであると断言できていた。「僕には家族と、この家族を抱きしめる腕だけあればあとは何もいらない」それが彼の口癖だった。
本当ならいらない才能。それは後に彼を絶望に陥れる種となる。
家族は毎晩、テーブルを囲んで仲良く楽しそうに食事をとる。と、そこに一通の手紙がくるのだ。手紙の包みは赤かった。
それは王からの伝令。「たくさんの命を瞬く間に滅ぼせる武器、兵器を作れ」とのことだった。
―――戦争で使うつもりか…!―――
王は残酷で冷酷。もし断ろう者なら、すぐさま公開処刑もしくは、酷い拷問が待っているだろう。だが、男はどうしても、首を縦に振ることが出来なかった。この才能をそんなことに利用するなら、死んだ方がましだった。
男はその夜に逃げた。 子供を抱えた妻の腕を引き、暗い夜道を走った。
後ろから聞こえる足音…彼等を裁く者は、王の従者であり美しき剣士。 彼女の剣先が、満月にさらされ輝く。
振り上げた凶器は容赦なく、男の腕から、彼の大事なもの全てを奪い取った。妻の瞳、男の腕、双子の子供たち。
「制裁です。ですがこれで貴方は、その腕で人を殺せる兵器を作ることはできない。 双子はいただくわ。争いを終わらせるために。」
女は淡々としゃべり、だけどどこか愁いを帯びた瞳で家族から双子を奪った。男は気を失う。気付いた時には三日後。瞳を失った妻に全てを聞いた。
―――――――何故、これほどに追い込まれ奪われねばならないのか?
低い声で男は呟く。
「次は、僕が奪う番だ。まずは腕。次に光を。 そして、全ての人間に終わることない苦痛を与える。」
心の中に誰もが持つもの、それは禍禍しき黒き門。憎しみと怒り…負の感情を封じたそれを、一度開ければもう戻れることなどない…。
「いやああああぁぁ! やめてッ! あああああああああああああ」
悲鳴を上げ、崩れさる者の声。それを聞き歪んだ笑みを浮かべる男。 優しき彼は、もういない。
繰り出される紅は、妻の目の色。安堵さえした狂気。
「あの家族には、悪いけどこれで終わらせられるはずなの。貴方達、力を貸して ――に、永遠の眠りを…」
孤塔にて、従者は呪いをかける。だがこれは別の話だ。
紅時に二人現れる、白と紅の男女。
「小さな子ども、知りませんか」と聞かれたならばそれは、かの夫婦だろう。
男の腕は魔物のように爪は長く、鋭い大きな手。今もなお、人々の腕と目を取りながら、徘徊をし続けているらしい…。
最終更新:2012年09月20日 18:53