[Chapter -6] しぃ
ビルが、道が、橋が。
プログラムによって街が作られていく。
そんなときに、私は作られた。
AI No.5、管理ID、S4169iC。
コードネーム、C。それが私の本名だった。
先にいたAIたちに、コードネームから「しぃ」と呼ばれるようになるのに時間はかからなかった。
街はどんどん作られていく。
何もなかった場所にビルが建ち、道路ができる。
そしてある日を境に建物は作られなくなった。街が完成したのだ。
[Chapter -5] 研究者たち
ついに完成した。
50年前――2015年に立ち上がった「Dream Linkage Project」の集大成が、いま目の前にある。
「博士…ついに完成しましたね」
「うむ…しかし実際に実験台にしたのは研究員しかおらん。次のステップへ行くにはやはり一般人に参加してもらわんとならん」
「そうですね…カプセル3000個も作りましたしね」
より正確なデータを得るためにはその分だけ数を増やさなくてはならないが、3000もあれば十分だろう。
「しかし、どうやって3000人もの被験者を集めるんですか」
「今の世にはネットというものがあるではないか」
「あー…最近研究に没頭しすぎて忘れておりました」
「…没頭するのもほどほどにな」
シティカメラを使ってAIたちに実験概要を教える。その時のAIたちの反応はどこか意味ありげだった。
とりあえず応募サイトを作成する。2chにも書いておけば多分応募は来るだろう。
[Chapter -4] ギコ
休日。
いつものように2chに接続し、いつものように書き込みを見ていた。
「まーた2chか」
フサギコはコーヒーを淹れつつパソコンに向かう俺を見ている。
「そんなんだから成績ガタガタ落ちるんだよ」
「うるせーなゴルァ!それよりさ、これ見ろよ」
「あー?」
242 : 以下、名無しに代わりましてVIPがお送りします [] 2065/6/14(日) 00:27:32.08
O県A市の研究所で科学実験
人と人との夢をつなぐ実験だとさ
ttp://www.oishi-labo/dream-linkage-project/
「これどう見たってうちの近くの研究所だよな」
「『oishi-labo』…大石研究所か」
とりあえずそのURLのサイトに飛んでみる。
Dream Linkage Project
人間の至福の時、それは睡眠であると多くの人が口にします。
「俺は食ってる時が一番良いって答えるけどな」
「わりとどうでもいい」
そんな睡眠時間に見る素敵な夢――その夢を他人と共有できたら素晴らしいと思いませんか?
大石研究所が延べ50年もの研究を重ねてたどり着いた究極の装置があります。
それは――Dream Linkage Machine II
「IIってことはIは失敗したのか」
「こまけぇこたぁいいんだよ!! …ってことじゃね?」
さらに読み進めていく。
8月16日(日)に装置の実験を行います。この実験に協力してくださる3000名の被験者を募集しています。
予定に差支えがなければ下部の応募フォームに必要事項を明記の上、ご応募ください。
締切は7月31日です。応募多数の場合は抽選となります。
「…やってみるかゴルァ?」
「面白そうじゃないか、応募するぞ」
カタカタとキーボードをたたく音が響く。
「2名、と。俺の名前で出すぞゴルァ」
「勝手にしろ」
「よし、応募完了だゴルァ」
ご応募ありがとうございました。抽選であなたが選ばれた場合、8月9日以降に被験証明書を郵送します。
[Chapter -3] しぃ
やがてシティカメラが作られると、モニター越しにこの街と私たちが作られた経緯が研究者によって説明された。
この街は人と人との夢をつなぐ計画――「Dream Linkage Project」のために作られた街で、私たちはその道案内と街の制御をするために作られたAIである、と教えられた。
「ということはだ、ここは俺たちの街じゃないってことだな」
シティカメラの通信が切れたあと、モララーがつぶやいた。
「初耳だモナ。そんな役割は嫌だモナ」
「確か実験当日は8月16日って言ったな。2か月先か」
モララーは考え込んだあと、こう言った。
「俺にいい案がある。この街を被験者に使わせないためのな」
「何だモナ」
「俺たちには俺たちの武器があるが、被験者から加害されたときにしか出せない。だが逆に言えば、最初から加害フラグを立てておけば、武器の出し入れは好きにできる。これを利用して――」
少しためてから、こう言い放った。
「被験者を片っ端から殺していく」
[Chapter -2] ギコ
8月9日になった。自由な夏休みを満喫し、実験に応募したこともすっかり忘れていた。
ふとポストに何かが入る音がした。見に行くと封筒がポストの中に入っていた。
「何だゴルァ…大石研究所?…あ、あれか、当選したのかゴルァ!おいフサ!当選したぞゴルァ!」
「何だ何だ騒がしい…当選?ああ、実験のやつか」
とりあえず開封する。中には1枚の紙とカードのようなものが2枚入っていた。
おめでとうございます。
抽選の結果、あなたが選ばれましたので、被験証明書を郵送させていただきました。
被験証明書は受付の際に必要となりますので必ずご持参の上、8月16日(日)に大石研究所までお越しください。
大石研究所所長 大石博之
顔写真には応募する際にPCのカメラで撮らされた写真が使われていた。
「もうちょっといい顔しときゃよかったなゴルァ…」
「そこかよ」
「だって無表情だぞゴルァ。ピースの一つでも入れたかったぞゴルァ」
「証明写真でピースする奴が居るか」
それにしても16日が楽しみだ。どんな実験だろうか。
しかし、この時にはまだ、俺たちが重大な事件に巻き込まれようとしといる事には誰一人として気づく者は居なかった。
破滅へのカウントダウンは、もうすでに始まっていた。
[Chapter -1] しぃ
8月16日。実験当日になった。
2か月前に立てられた計画のもと、体を鍛えるようにというモララーの話があったけど、私は特に何もしていなかった。
「みんな、加害フラグは立ってるな」
モララーの声とともに、みんな一斉にうなずいた。
「俺は天候を操れる。つまり天に何か異変があれば俺が操った結果だ」
「つまり何だモナ」
「被験者が来てすぐは良い奴でいるんだ。20分まではな。20分経ったら、俺が皆既日食を起こす。太陽と月が完全に重なり合った時が合図だ。そしたら計画開始だ」
「…」
私はこの計画には正直参加したくなかった。
被験者をこの手で殺すなんて、私にはとてもできない。
「お前はそんなに嫌か」
モララーが私の肩に手を置く。
「…」
「まあ、俺たちの計画を邪魔しなかったら、お前は何してくれてても良いがな」
「…」
「お、そろそろ始まるぞ。みんな位置についとけ」
ついに被験者がやってきた。
最終更新:2012年12月16日 13:31