「言うとおりに進んでください」
いつか、私のタクシーに乗せた女がこういうことを言ってきたんです。
思えば、ここで不審に思ってりゃあこういうこともなかったんでしょうけどね。
私ゃ何の疑いもなく、そのまま車を走らせました。

「次の交差点を右へ」
「次のを左へ」
「1km先を右へ」
こう言われるうちに、どこ進んでるか、どこ目指してるか分からんくなったんです。
で、気づくと林道に入ってたんです。
街頭もなく人気もない、昼間でも暗ーい道ですよ。
私ゃだんだん怖くなってきてね、女に尋ねたんですよ。
「お客さん、本当にこの道で合ってるんですかい」
「ええ」

ふとバックミラーに目をやると、後ろの席に居るはずの女が居ないんですよ。
声したのに、ですよ?
ありゃあ、と思って車を停めて、運転席降りて後ろの席確かめに行ったんです。
でも女は居ない。
どーなってんだと、運転席に戻ろうとして前を見たらね・・・

そのすぐ先、崖だったんですよ。
そりゃあ落差100mはありそうな高ーい崖の上で。
あっけにとられて、崖しばらく見てたらね、後ろから低ーい声でさっきの女がこう耳元でささやいたんですよ。


「・・・死ねばよかったのに」


私みたいなタクシーの運転手さん、こういう女にゃあ、注意した方がいいですよ。

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最終更新:2012年12月16日 15:09