石像があった。
その石像は不思議な形をしていた。
奇妙な形と言っても過言ではない。
石像はとある寂れた町のほぼ中心にあり、奇妙な雰囲気を発しているにも関わらず、村人には慕われていた。
しかし、その石像が、いつ、誰が造った物であるかは、町人にも知られていない。
町が出来る当時からあったのかはわからないが、この町にずっとあり、町をずっと見守ってきた。
そんな、身も蓋もない想像を浮かばせるが如く、年期が入り、そして町に馴染んできた。
石像は古い。
過去、地震や台風などの天災に見舞われたが、それでもびくともしなかった。
そんなこともあって、古さは微塵も感じられなかった。
倒れない石像として有名な観光の名所にもなっていた。
ある日、一人の考古学者がその石像に目を付けた。
今まで倒れた事がなく、いつ造られた物かわからないならば、もしかしたら過去の事がわかるのではないか、と考えたからだ。
考古学者は知り合いの物理学者と共にその町へ訪れた。
二人は初め、その放埒として威風堂々とした雰囲気と、そのモニュメントにも近い形をしながらも凄絶な大きさを誇る石像に目を奪われた。
しかしながら、いつまでも圧倒されている訳にはいかない。
物理学者は像の形についての研究を始め、考古学者は材質についての研究を始めた。
考古学者は調べ始めると、その強固な造りに、なるほどこれは倒れないな、と一人感心していた。
物理学者は高さや材質など、細かく調べ、そして、倒れないのは何故か、その計算を始めた。
その日は風が吹いていたが、像は倒れる気配は見せなかった。
そして数日後。
像の研究をしている考古学者の元へと、像の耐久性の計算の為、大学に籠もっていた物理学者が急いで帰ってきた。
そして物理学者は言う。
「この石像はおかしいです!この形で立っていられる訳がない!もうとっくの昔に倒れているはずです!」
物理学者は周りにいた町人にも聞こえるような大きな声で、矢継ぎ早に言った。
「この石像はいつ倒れてもおかしくないですよ!」
その日、彼がそう言ったその瞬間、その石像は倒れた。
晴れた、穏やかな日、それはそれではなくなったのである。
余談にはなるが、その時、下敷きになり、亡くなった人がたった一人だけいたそうだ。
最終更新:2013年01月14日 00:32