車で家族旅行なんていつ以来だろう。

運転しながら記憶の断片を手探りで探す。

いつかの北海道以来だろうか。

あの時は青函トンネルが一番の盛り上がりだった。

もちろん、入ってしばらくしたら子供達はつまらなさそうに寝入ったが。

確かにトンネルは同じ景色の連続だ。

入ったばかりならまだしも、入ってからしばらくしたら、好奇心の塊の世代はつまらなく思うだろう。

そんなこんな以来の家族4人での旅行だった。

向かう先は前回とは真逆の方向に当たるものの、気分としては似たものがある。

東京に向かうのは自分にとっても久しぶりのことだ。

住んでる地域が存外田舎なので、都会にはえもいわれぬ憧れのようなものはなくはない。

まあ、そうだからだろうか、ガソリンを入れ忘れていた。

山道の下道であるに加えカーナビに頼るしかない知らない場所なのでガソリンスタンドがあるのか幾分、不安ではあったが、いらぬ心配をしたらしい。

道の向こうから、ガソリンスタンドの看板が見えてきたのだった。

無人だった。

看板にセルフとは書かれてはいない。

さらには、ちゃんと営業はしているらしい。


しかし、人はいなかった。

探してみようと車を降りた。

要所要所は灯りが点いているので、まさか営業していない訳はないだろう。

しているのなら誰かいるはずだ。


そう思い探すのだが、どこにも誰もどこにも見あたらない。


出発したとしてこの先にガソリンスタンドがまたあるかはわからない。


仕方ない車に戻ろう。


そう思い、車に足を向けた。


その後、車に乗り込んだ後の記憶はない。



目が覚めると、見慣れない天井だった。


なんだこのありきたりの展開は。


しかし、思い出そうにも車に乗った後のことは思い出せない。


ボケが始まったのだろうか。いや、まだそんな歳では…。


一人で勝手に悩み、一人で煩悶している。


悩みのフォーカスがズレている気がしなくもない。


「目が覚めましたか」


傍にいた医者が声をかけてきた。


……こいつ、話し掛けるタイミングバッチリだな…。


まあ、世の中そういうものなんだろう。




後々、医者に聞いた話なのだが、

「ガソリンスタンドでガスが爆発したらしいです。すぐ近くで爆発したのに奇跡的にも、全員軽傷だったので、すぐ退院できますよ」

とのことらしい。

しかし一つ気になる点があった。


「ガソリンスタンドの店員がいながら誠に申し訳ない事件ですね」

「いや、そのりくつはおかしい」


つい反射的に言ってしまった。

店員なんかいなかったじゃないか。

なるほど、仕事をサボっている時に事件が起きたら問題だから隠そうとしてるのか。

そんな考えも、壊れかけた現場の防犯カメラによって打ち砕かれるのだった。



こうして、少々不安な点も残るが、ガソリンスタンドの爆発に、奇跡的に全員軽傷であった家族は無事帰って行った。



この事件はこれで終わり。

…だと思われたのだが。






事件発生から2年後、爆発に巻き込まれた家族、ガソリンスタンドの店員、爆発の時に近くを歩いていた人、全員が、全く火の気のない廃倉庫で焼死体となって見つかった。


現場には燃えた跡はなく、その倉庫は3年以上使われた形跡はないという。

シャッターも扉も最近開けられた形跡はない。


警察は事件として捜査しているが、犯人は未だ見つかっていないそうだ。

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最終更新:2013年01月14日 00:36