遊歩道の街路樹は街灯を受けて不細工に車道を彩っている。
底冷えした車道には車はほとんど通っていない。
晩春の夜の冷え込みは昼の暑さの分だけ過度に感じる。
だんだん暖かくなる季節だが、夜は冬のように寒い。
何もかもを忘れて走るには最適なのだが、良哉は何分体力がないので長くは走れない。
「はあ…」
息を切らして立ち止まると明滅した街灯が不吉にこちらを見下ろしている。
どうして自分はここで立ち止まったのか。わからないが、わかりたいとも思わなかった。
_いいんだ、いいんだこれで。
単なる自己暗示にしかなっていないことは明白だが、それでも良哉はそう自分に言い聞かせる。
新しく訪れた町は予想以上に冷たく、卒業の余韻を残し、浮かれていた良哉には厳しいものがあった。
今までの生活とは決別しないといけないんだ…。
そう決意して自分から別れを告げた。先程別れを切り出してからまだ20分弱しか経っていない。
急なことで戸惑うのは自分も同様で、告げた直後に一方的に電話を切ってからまだ気持ちの整理はついていない。郁美から折り返しの電話がないということはそういうことなのだろう。
後悔の念は絶えないが、後ろばかり振り返っていても仕方がない。
袖を払い、安物の腕時計を見ると20:47分を指している。スーパーは21時までだが、今から入れば嫌な顔はされても買い物くらいはできるだろう。
せっかく外出したのだからそのまま帰るのも勿体ない。良哉はそのままスーパーへ向かった。
スーパーに入ると、レジのアルバイトにあからさまに嫌な顔をされたが、別に気にはしない。
クラシックなバックグラウンドミュージックが店内に流れているが、聞いたことのない曲だった。
一通り回ったが、めぼしいものはすべて売り払われ、棚は空いている箇所が目立っている。
棚の中は安いものだけがすべて売り切れていて、誰からも必要とされなかった負け犬だけが残っていた。良哉は、自分はどっちなのだろう、と考えたが、答えは終ぞ出なかった。
何か適当に買っていこうかと棚に手を出したところで、結局無駄遣いになるから、と思い至り、そのままスーパーを出た。
背後でシャッターの閉まる音を聞きながら携帯を開くと、不在着信が何件か入っていた。昼間にマナーモードにしたままになっていたらしい。
かけなおそうかと思ったが、ディスプレイに表示された名前を見て、やめた。
結局自分には荷が勝ちすぎていたのだ。それが原因だったのだ。
何気なく空を仰いだが、曇った空には、何も映ってはいなかった。
「来た時とは違う道でも通って帰るか…」
着信音を設定して良哉は家を目指した。
彼は家に着くまで、一度も振り返らなかった。
思い出は、いつもきれいだけどそれだけじゃお腹がすくわ。
本当は切ない夜なのに、どうしてかしらあの人の涙も思い出せないの。
最終更新:2013年04月17日 15:54