「私が死んだら泣いてくれる?」
いつも通りの帰り道、何気ない表情でいきなりそんなことを聴いてきた。
「さあな、その時にならないとわからないな」
いきなりで理解が追い付かなかった俺はそう言って適当に誤魔化した。そうやってはぐらかしただけであいつは表情に翳りを見せる。
「でもまあ……、泣いてるとは思うよ。一応お前だしな」
そう言って微笑むとあいつも一緒になって微笑んで「一応ってなによ!」と起ったフリをした。
それだけでよかった。
今思えばどうしてその時に全て語ってくれなかったのだろうか。
あいつは死んだ。
先天性の持病が悪化したらしかった。
持病のことすら聞かされてなかったし、死ぬまで何も話してくれなかった。
俺は泣けなかった。
あいつが死んだという実感はあったがそれ以上に状況への戸惑いと不甲斐なさへの苛立ちだけが殊更に募った。
あいつが死んで葬式も通夜もずっと泣けなかった。
でもいつもの帰り際、少し広くなって少し寂しくなったいつもの道を通った時。
「ああ、俺はあいつが死んでも泣けないんだな」
呟いた時、不思議と寂寞の念が襲った。
空が以前より近く感じた。それでもたぶん俺よりあいつのほうが近いけれど。
最終更新:2013年10月10日 16:52