昔むかしのお話です。あるところに、二人の子供がおりました。
一人は史上最大、大天才といって差し支えない頭脳の持ち主でした。
別荘を買ってほしいと父に強請ったり、派遣された家庭教師等に言い放題言っておりました。そしてその頭脳で研究したり、更には国をも治めるようにもなりました。
親が子を平凡にするために家庭教師を派遣した程、何も彼もが常人と違い、出来過ぎたのです。
もう一人は心を失い、何も彼もが分からず、言い成り状態になっていました。
何を考えているのか、何を思っているのか、何も彼も自身にも他人にも解りませんでした。
何も彼もが常人と違い、常人にあるべきものを失っていました。
そんな二人の会話です
「彼女に飲み物をやれ、何がいい」
天才は、従者に言う。
「…」
従者はオレンジジュースを指差した。
「僕はいつものブラックコーヒー。彼女には、オレンジジュースを」
「畏まりました」
天才の御傍にいた男は部屋を出ていった。
「…で、どうだ」
「…何が…?」
「いや、お前のような児に聞いても無駄か」
「あの…何を」
「お前も僕も、常人とは違う、異児だ」
「……」
『異児』という言葉に従者は俯く。
「お前はその異名をどう思う」
「…別に…いい」
「お前は異端だからな、変わったように思うだろうし」
「…あなたは?」
「そうだな。異能児だから国も治めることもできたんだぜ」
『〇〇だから』。そんな差別的な言葉に少しムッとなる従者。
「異能児は天才。なら異端児に何の得があると…」
「…さあな、だが神は我々を殺し損ねたようだからな。だが異児は直に…死ぬ」
最後の言葉に従者は複雑な表情をした。
「あなたはもう、死んでいるんでしょう?何故…死に急ぐの?」
「僕はあの男に裏切られて被弾した。さっき部屋を出てったあの男だ」
「…お待たせしました」
噂をすれば、何とやら。張本人が御注文のお品を持ってきた。
「今わたくしの噂をしていませんでした?」
「……昔のことを、な。そこに置け」
明白に言わず、テーブルを指差す。
「畏まりました」
男はゆっくりと飲料を置いた。
「何かございましたら、私めに御連絡を」
男はそれだけ言って部屋を出た。
「…異端児」
「……」
「警告はしておく、お前は直に死ぬ。…精精楽しんでいきたまえ」
その言葉はまるで、従者の幸せを願っているように聞こえたが…。
「……まあ、無理だろうがな」
『異端児』…。何も彼もが違いすぎており、あるべきものを失った児。
「………そうね」
救いようない天才の言葉に、従者はそれだけしか発せなかった。
最終更新:2014年09月05日 21:59