これは、ある男が廃れた宮殿を撮影した映像である_



『ここが…宮殿です』
時刻は深夜零時過ぎ_男は宮殿の入口を撮影していた。
この宮殿は曾て魔神と22の使いが棲むという言い伝えがあり、それを恐れてかこの地に立ち入る者が少なかったが、ある日突然この宮殿が廃退してから、様々な理由でこの地を訪れる者が増えた。ある者は考古学のため、またある者は度胸試しのために。しかし「夜になると女性の声がする」「不可解な物音が聞こえる」「人影が居た」など、気味の悪い噂が広まる所為で最近は後者が目的で訪れる者が多い。
『では…中へ入ります』
男は瓦礫を跨いで入り込んだ。

中は華やかな装飾品が並び、当時の面影が其の儘残っているようだ。
『果たして本当に魔神は現れるのでしょうか…?』
レポーターのように言いながら何か写らないかと周囲を撮影しながら、男は恐る恐る通路を進む。
『…あれ?』
男は通路の端に誰か立っているのを見かける。王冠を被った、長い金髪の女性だ。
『(な…何で、こんな時間に女の人が…)』
男は身の毛を弥立ちながら彼女を見ないように通り過ぎようとする。女性は動く素振りどころか、此方を見向きしない。
『(…見ない振り見ない振り…!)』
女性の顔を見ないようにして通り過ぎた時_

__…お兄様……__
女性の小さな声に思わず身震いして硬直した。振り向こうにも振り向けない。
__…何をしに此処へ……__
返事をするべきか迷ってしまった。返事をすると恐ろしい事が起こるという定番な風説があるからだ。
__…入ってはいけませんよ。邪…が……__
女性の声が透き通り始め、聞こえなくなった。

男は暫く動けなかったが、勇気を振り絞ってビデオごと振り返った。
しかし誰もいなかった。女性の姿も見えない。
『…おかしいなあ』
男はそう呟いて前方にカメラを向けたその時_


目の前に先程の女性が悲しげな表情で俯いていた。
『うわ!わあああああ!!』
男は悲鳴をあげて全速力で走って引き返した。転びそうになりながらも身の危険が走っていることを感じていた。
『(こんな時間に女性がいるなんて有り得ない!絶対普通じゃない!)』
男は転がるように宮殿を出た。

映像はここで終わっていた。




__……助けて……御主…を…__


最奥の一室の真ん中で、透き通った女性は悲しげに呟き、消えた。

消えた先の机上には、ガラスの箱に仕舞われたカードの束があった。

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最終更新:2014年09月05日 22:04