—アドベンチャー、冒険。どこかに行くというのは、ワクワクが止まらないんだ。そう、今だって、ね―
「おーい、いくぞー?」
外から友人の声がする。そうだ、今日は冒険の日だ。
私は窓を開け「今行く―」と返事をし、着替えて外へ。
「まったく、いつも須藤が最後じゃないか。」
「まあ、いいんじゃない?山は逃げないさ。」
「琴ちゃん、大丈夫?」
三人の楽しげな会話を聞きながら私は微笑む。
「うん、平気。じゃあ、いこっか!」
「さー、ついた。三つ峠山だ。」
山が好きなクラスメートの服部大樹がキラキラした目で三つ峠山を見ている。その目は小学生そのものだ。
「大樹、尚樹さんは?」
服部大樹の友人、そして私のクラスメート(大樹もいっしょだけど)の鍵谷勝が聞く。
「ああ、山の中で会うって。先に行っててっていってた。」
「はいはい;じゃ、三つ峠山に登るよ、ファイト―?」
「オーッ!」
私、三つ峠とか山は苦手だけど、ここまで来たら登らなきゃ…!
と、須藤の思いも含め、四人は意気込むのだった…
登りはじめてから30分後、大樹が声を上げた。その先には、先ほど話していた先輩、今浪尚樹さんが立っている。
ここで彼の説明をしておこう。彼は大学一年生。元々内気な自分を変えるために登山を始めたと言っていて、様々な山へと挑戦している。
山への愛は本物で、一度卒業生の話を聞く会という事で私たちの学校に来た時、約40分程山の話をし続けた。聞いていたのは大樹と鍵谷君と宮崎さんと…あといろいろ。先生は完全に聞いてなかったなぁ…;
その尚樹さん・・・先輩がこちらを見て近づいてくる。
「やあ、大樹君!」
「先輩!ここにいたんですね!」
「ああ。みんなで来てるみたいだけど、大丈夫かい?」
「あっ、大丈夫です!先輩は…」
先ほどの三つ峠山といい、先輩といい、テンション上がりやすいなぁ。
と思う須藤であった。
「よーし、三合目だね。」
鍵谷君が息をついてリュックを下す。今浪さんも全然疲れてないみたいだ。
「なんだよ、もう疲れたのか?」
と服部の声も聞こえるけど。鍵谷君は全然疲れてないみたいで、すぐにリュックを背負った。
「いやいや、このくらいで疲れてられないよ、女子より先に疲れるわけにはいかないからさ。」
「ま、俺が言わさないけどな、「疲れた」なんて。」
…二人とも元気そうに笑って…いいなぁ;
そんな私を見たのか、宮崎千紘ちゃん(私たちの間では「ちーちゃん」だけど)は心配そうにこちらを向く。
「大丈夫?少し休む?」
「いや、大丈夫、平気平気。ありがとうね!」
「うん、なら大丈夫だよ、みんな、もう四合目に行ってるみたいだから、私たちも行こう!」
と言うと四合目への道に向かって走り出した・・・
…だけど、山登りってきついなぁ;
あの菊地くんでさえ「山・・・あんまり知らないけど、しんどくはないかな。」って言ってたし。
というか、横浜のほうに山ってないよね。どういう事だろう?
そんなこんなで四合目、五合目と登って行った私たち。
「…ここらで30分ほど休みますか?」
「そうだね大樹。…みんなはそれでいい?」
今浪さんはちょっと考えてから私たちに言う。
「あっ、はい!」「大丈夫ですよ!」
「よーし、じゃああっちで何か食べようか!」
…と、その時。
「あれ、須藤か?」
「…ん?あっ!」「菊地ー!」
「なんだ、服部に鍵谷も…久しぶりだなぁ。」
私に限らず、服部と鍵谷君、ちーちゃんを見て安心したような顔の祥吾君。あ、彼の説明をしてなかったね。
彼、菊地祥吾君は、全国共通で「横浜の超新星」って呼ばれてて、ピアノとかヴァイオリン、アコーディオンなどの楽器演奏に加え、クライムも飄々とこなして、反射神経もよくって……まあとにかく、凄い子なんだ!だけど、そのせいなのかマスコミが家に来るのを拒絶して、一応横浜の中学を卒業するときにこっちには来たんだけど、どこから聞きつけたのか私たちの学校にも押しかけてくるから大変で…まあその時は学校内の地下道から私の家に避難しているんだけどね!
「…全国共通のあだ名で呼ばれないところとしては最適だし、気持ちいいな、ここは…」
と空を見上げながら祥吾君が言う。
「それはいいけど、お前、山について勉強するっていってなかったか?」
と疑問を思いっきりぶつける服部。ストレートだよね、服部って・・・
だけど祥吾君はそんな服部の言葉をさらりとかわすように
「いやー、調べてたらさ、金子恭平って奴が資料をくれてさ、とりあえずその資料持って来てみたんだよ。」と返す。ちーちゃんがみてみたら、「わわ、本当に資料ばかりだ。しかも埼玉の山についての情報ほとんど乗ってるよ;」というくらいだ。
「金子もやるねぇ…俺にはまねできないや;」と服部がつぶやく。たしかに、こんなこと私にもできないよ;
「ところで…俺は初対面ですか、初めましてでしょうか?」と今浪さんに向き直る。あれ、今浪さんって祥吾君にあってないんだっけ、と鍵谷君に聞くと、いや、わからないやと返されちゃったけど。
「…いや、多分どこかで会ってるはずだよ。」と返す今浪さん。と、ふと見てみると、私、服部君、鍵谷君、ちーちゃんはいつの間にか黙っていた。
「ふむ…」と考え込む。数秒間の間だが、彼の周りに「集中オーラ」が漂っている。…本当に見えるわけじゃあないけれど。
「……」
「………」
「…………」
「……………」
「………………あっ。」
と、ようやく祥吾君が声を上げた。それにつられたのか、私を含めての4人も声を上げる。
「思い出した?」
「はい。去年の夏。僕が横浜で開く最後のピアノコンクールの時。あの日は、横浜・F・マリノスの飯倉大樹選手や、横浜DeNAベイスターズの石川雄洋選手なども来てくれました…。すべての講演が終わった後、僕に花束を渡してくれた中村俊輔選手の後ろにいた、あれ、貴方だったんですか?」と微妙に細かい説明を。私は兄がサッカー好きだから飯倉大樹とか中村俊輔は分かるけど…
「ああ、そうだよ。僕の名前は今浪尚樹。君は菊地祥吾君といったね。よろしく!」と手を差し出す。
「はい、よろしくお願いします。」と手を出し、二人は握手するのだった。
「あ、あの~…」
「どした、ちーちゃん。」と服部が言う。すると
「ごめんなさい、お腹、空いちゃって…食べませんか?」
というちーちゃんの一言により、私たちは五合目で休むことになりました。
40分後。
「よーし、そろそろ山頂かな。」
山頂に近づいてきた所で、服部が言う。うう、山頂…
「…ことちゃん、怖くないよね?」
「うん、怖くないわけじゃないけど、そこまで拒否はしてないよ;」
ああ…本当に優しいなぁ、祥吾君と仲良くしているちーちゃんだからこそ気が回るのかな…優しい。
そんなことを思っていると、前にいる服部と今浪さん、その後ろにいる鍵谷君が足を止める。
「さて、ついたぞ、三つ峠山の山頂だ!」
「おお、山頂はこんなに景色がいいのかぁ…」
と祥吾君が感動したように言葉を放つ。私も同じだ。高いところは苦手だけど、前には木々が広がり、青空がどこまでも広がって…歌の歌詞でそういうのがあったような気がするけど、そういうのじゃ表せない、言葉にできない景色だった。やっぱり富士山だけじゃないよね・・・、それ以外にもいいところはあるよね…と思ってる。おそらくみんな思ってるんだろうけどさ;
「いや…流石山だよ。」
「尚樹さん・・・ここ、「峠」ですよ;」
「…」
まあ、確かに峠なんだけど。さすが服部、お笑い芸人志望なんだか気配りというか隅々までつっこみを忘れないというか;関西弁じゃないけど、何となく味がある…
「さて、写真とりにいきましょうか。」
「ええっと、写真を撮る場所は…;」
「よーし、みんな準備できた―?」「あっと、すみません、写真撮ってくれませんか?」
「準備完了!じゃ、お願いします!!」
—そんなわけで、三つ峠山の登山が終わったわけです。
「須藤、きのうはごめんな、三つ峠、楽しかったか?」
次の日の朝早く、服部から電話がかかってくる。
「えっ、私は楽しかったよー、ありがとうね!」
「あっ、ああ。いろいろ、感謝したいな、と思っててさ。」
「・・・えっ?」
『感謝』か…大樹から私に感謝って言うのは初めてだった…
「えっ、ちょ、どういうこと?山に連れて行ってくれたのは服部だし、感謝するのは私の方だよ…;」
「んー、まあそうなんだけどさ・・・」
そういうと言葉を失ったのか、静かになる服部。電話越しだけど、近くで話しているような、そんな感じになる。
「あはは、須藤って、山嫌いだから、峠にしたんだけどさ、喜んでいてさ、ちょっと…嬉しくなったんだ。」
「あ、そ、そうだったんだ…」
服部の思いが少しだけ、ほんの少しだけど、わかった気がする…
「中途半端で悪いけど、学校だからな、続きは学校で会おうぜ。じゃな!」
「あ、う、うん!」
登校中、ちーちゃん、鍵谷君と会い、昨日のことについて凄く話し合った。
学校につくと、校庭で服部がサッカーをしていて、三つ峠の話がやまなかった。
授業への鐘が鳴れば、サッカーをしていた服部たちは戻ってきて、給食の時間中もずっと三つ峠や、他の山の話について話していた。
「須藤さん。」
帰り道、鍵谷君、服部、菊地君、吉田さんと歩いているとき、不意に鍵谷君が口を開く。
「ななな、なんですか?」
「今度の日曜、また山に行こうと思うんだけど…」
「はっ、はい。」
「メンバー、服部はいけないんだって。それで、僕と、須藤さんと、弥紗ちゃん、あと、ちーちゃんと駒月くんでいくんだけど、大丈夫?」
いけない服部の前で言うのはどうかと思う…とおもうんだけど…
「あ、だいじょうぶですよ!で、行先はどこですか?」
「あ…えーっとねぇ…」
といい、鍵谷君は黙ってしまった。
「鍵谷さん、ごにょごにょ…」
黙っている鍵谷君に鍵谷君の隣を歩いていた吉田さんが何やら話しかけている。
あ、吉田さんは、私のクラスメートで、可愛いから男子から下駄箱にラブレターを入れられるんだよ。いいなぁ…
……じゃなくって!埼玉県の環境とかは、頭に入ってるんだって!賢いし、凄いよねぇ…
………じゃなくって!スポーツも好きなんだって!ずっと埼玉に住んでいるのに、好きな選手は千葉の選手なんだって!人の好きなものってわからないよね…
とにかく、吉田さんは可愛くて、賢くて、スポーツも好きで、私たちと仲良くしてくれて、良い人なんだ!
「…へー!よし、そこに行こうか!」
吉田さんの説明(?)を聞いた鍵谷君は私に向き直ると
「須藤さん、今度の行き先は、伊豆ヶ岳だ!」
「イズ…ガ…タケ…?」
「伊豆ヶ岳って言うのは、山頂直下には男坂という鎖場があり伊豆ヶ岳の名所となっていたが、岩場が崩れやすく危険なため現在通行禁止となっている所。また女坂では2012年に崩落があり通行止めとなったんだ。山頂との通行は、男坂と女坂の間に設けられた迂回路を利用するんだよ!
そして山頂からは埼玉西武ライオンズの本拠地、西武ドーム、空気の澄んだ快晴の日には都心の高層ビル群や浅間山、男体山まで見渡すことができるんだ!」
と吉田さんがポンポンポンポン情報を言ってくれる。これは記憶の天才だよね…
「で、帰りに埼玉西武の野球の試合を見ようというのが予定。大丈夫?」
と鍵谷さんが言ってくれる。あ、私、チケットを買うお金ないんだけど…
「ああ、それはもう弥咲ちゃんが買ってるんだって。元々弥紗ちゃんと弥咲ちゃんは会員で、10人までなら600円でホームかビジター、好きなところを取れるチケットを買ってるみたいだよ。」
「そ、そうなんですか…」
凄いなぁ…と、とりあえず五日後の土曜日かぁ!よーし!
「あ、そうだ、今浪さんは来ないんですか?」
すっかり忘れてたけど、三つ峠山の時凄くお世話になった、大学生の今浪尚樹さん!
「あー、先輩はね、午前中に用事があって、山には来れないんだって。だけど、野球にはくるみたいだよ。」
「そ、そうですか…」
野球には来るんだ…すごいなぁ、もしかして、今浪さんも野球好きなのかも。
「よし!ということで五日後の土曜日!伊豆ヶ岳に行くぞー!ファイト―?」
「オーッ!」
って、ここは山じゃないんだけどね…
というつっこみを心の中でしながら、みんなで意気投合するのだった…
…あれ、そういえば私、なんで鍵谷君と話したとき敬語だったんだろう…?
五日後。
「おっ、きたきた!」
「おーい!」
「こーん!」「おはようございますー!」
今挨拶した二人は、左が駒月君、右が、昨日たくさんの情報をくれた吉田さん!で、その後でちーちゃんも来て準備万端!
「おはよー。さて、行こうか!」
「楽しみっすね!」「そうだね…あれ、駒月君って伊豆ヶ岳は初めてだっけ?」
電車の中で駒月君と鍵谷君が話し始める。それまで誰も話題を持ってないからみんな鍵谷君のほうに注目するけど。
「あれ、下調べで恭平が行ったんですけど、俺たちは行きませんでした。鍵谷さんは行ったんでしたっけ?」
「ああ、僕と恭平君と大樹と吉田さんで行ったんだっけな、あの時は面白かったよ?」
面白かった…って、何があったんだろ;
「あのね、初めて行ったときに…、…聞きたい?」
「聞きたいです!」
ここで話を聞かないのはもったいない、ぜひ聞きたい!と思ったんだろう、私を含める4人が口をそろえた。
「…結構興味があるんだ; まあいいや、えーっとね…」
初めて下調べに行ったとき、恭平君がすごい知識でさ、行き方と、一番近いルート、ここが危険とか、ここは人どおりが多いとか、完璧に調べてくるんだ。吉田さんも大樹もぽかーんとしててさ、僕もびっくりだったよ。普段は前に出ないのに、自分の得意なものだとこんなに喋るんだ…ってさ。
でさ、実際に登ろうってことになって、「じゃあ、俺が行く」ってことで大樹が先頭に立って、次が恭平君、で吉田さん、最後が僕…ってなったんだ。恭平君、高所恐怖症みたいでさ、怖い表情とか見せなかったけど、4合目についたとき、ちょっと震えてた;
で、最後のほうに差し掛かった時、大樹が「あっ!」っていってさ、なんだと思ったら、湧水があって。恭平君にも予想外だったみたいで、「まさか、こんなところに…」って驚いてた。
丁度紙コップを持ってたからさ、湧水よそって飲んてたんだ。そしたらさ、よくわからない鳥が来て、大樹と吉田さんのコップとってっちゃってさ…
「えっ、あっ!」ってのが大樹の反応。
「ん…?あれっ!?」ってのが吉田さんの反応。だけど、それ以上に恭平君が驚いててさ、「今のは、ホシゴイか?」って驚きながらも冷静に言うんだw
「うわ、すげ、ホシゴイだ、初めてみたよ…」って凄い喜んでたw
そんなこんなで山頂ついたときは、ホシゴイよりも、高いところへの怖さが勝ったみたいで、また震えてたけど、帰りも通常通り帰ってきてさ、楽しかったよ!
そういえば、帰りはヤマシギを見たような…あれ、山登りしてたんじゃなかったっけ;
「って言う話なんだ。」
「凄いな…」
「楽しそうですね!」
『次は、正丸~、正丸~、お出口は、左側です。』
「おっ、そろそろだね。降りる準備しようか。」
「はい~」
「…伊豆ヶ岳、この奥ですか?」
「そうだね、結構遠いけど、きっと大丈夫だよ。恭平君も登れたしさ。」
「…はい!」
「よーし、じゃあ歩こう!」
丁度1時間ほどたったころかな?
「よし、ここが伊豆ヶ岳だ!って、みんな大丈夫?」
「え、あ、ははは;」
「ふう…」「長いですね…」
「…」
ああ、伊豆ヶ岳ってこんなに長いんだ…ちょっと、いや、かなり疲れちゃったかも…この前行った三つ峠山よりもレベルが上だし…
「みんな、休憩する?山で長時間休憩するのは危ないし…いったんここで休もうか?」
最終更新:2014年12月31日 14:11