オーストリア、ウィーン。
ここは、音楽の都市…聖地なんだ。

だけど…俺はここで…

「おい、リュクサン!お前、また先生になんか言われてたな!」
「テストの点がいいのは先生に答えを教えてくれてるからだろ!?」

「…何言ってんだ。俺はあの先生の教科係だったろ?言われるのは当たり前…ぐはっ!?」
「クールに決めやがって、むかつくぜ!」
「膝…蹴り…だと…、お前ら、俺がそんなに気に入らないか…」
「ああ、気に入らないさ!だから傷つけるんだろう!!」
「くっ、ああ…」

いじめられてる。今はもう苛められてないけど。
だけどさ、学校に行かなくなって居場所をなくした俺は、オーストリアの街を徘徊してた。
でも、学校帰りのあいつらに見つかって、今までと同じように苛められたよ。
みんなが考えてるいじめとは違って…、本格的さ。殴る、蹴るは勿論、捨てられた子供みたいに、見た目もぼろっぼろにされてさ…。
怖い!怖い!!
またぼろっぼろにされると思うと、ホントに恐怖心が半端じゃなくて…
親には言わず…というよりほぼ恐怖に追われながらだからいつのまにだな。俺はフランスに来てた。
フランスっていってもひろくてさ…どこだ…?と思ってなんも食べずに一週間くらい徘徊してた。
最後のあたりかな…ピサの斜塔を見て「ここは…フランスのパリか…?」ってとこで意識が消えた。

意識が…消えた…
ってことは、何にも考えられなくてさ、「ああ、俺…死んだのかな?」と思ってた。
まあ、苛められてた俺には、このくらいの人生が妥当だよ…って諦めきった時、誰かが俺の名前を呼んでるんだ。
聞いたことない声だけど、明らかに「リュクサンくん、リュクサンくん!」って呼んでるんだ。
自分の意思じゃないけど、目が覚めた。そしたら目の前にいたのは、なんか…見たことがないようなあるような人だった。
「ええと…誰ですか?」
いきなり目が覚めたし、自分が喋れてるかわかんなかったけど、ちょっと言ってみた。
するとその人は、ちょっと慌てた様子で
「いや、ああ…えーっと、ごめんね!ピサの斜塔の観光が終わって外に出たら君が人ごみで倒れてたから…つい…僕の家まで;」
ああ…ここはこの人の家だったのか…なんか広いな…
「あ、えーっと、僕はロッド!普通に仕事をしている大学生だよ。よろしく!えーっと、君の名前は…?」
「あ…リュクサン、カノープス・リュクサン。」
「リュクサンくん!よろしくね!」
「ああ…はぁ…」
助けてもらったことには感謝するけど、流石にすぐには信じられないよ…
「とりあえず、身体への傷が多すぎる。少しだけの治療はしておいたから、今日は寝ておこう。」
「ああ、はい…」
まあ、悪い人ではなさそうだ。あいつらも攻めては来ないだろうし、今日は寝よう…
だけど、親とか大丈夫かな…


翌日。
「リュクサン!おめーはいつもうぜぇんだよ!」
「クールに決めんなよ!マジだせぇわwww」
「お前みたいなやつは…!死んだ方がましだぁぁぁ!!」

「…はっ!!」
…なんだ、夢か。
にしても怖かったなぁ…意識をなくした時くらいふかく眠ったからかな…ああ、怖い。
にしても今何時だろう。外から輝きの光が差し込んできてるからもう7時?
とりあえず、ロッドさんにお礼言わなきゃな…


「ロッドさーん、ロッドさーん?」
あれ、ロッドさんがいない…どこ行ったんだろ…あれ、手紙だ。

「リュクサン君へ 昨日はよく眠れた?僕はこれから仕事に行ってくる。帰りは夕方の6時ごろになるから、それまで待っててね;」

ああ、仕事か…、そういえば、仕事してるって言ってたなぁ…
あ、うーん…
ロッドさんが仕事してる間、ちょっとフランスを回ってもいいよな…行ってこよう。



「ボス。実はですね…」
「…なに、それは本当か?」
「はい。あのリュクサンと名乗る者、ただならぬ力を感じました。ぜひとも我が怪盗グループに入るべきですが…どうでしょうか?」
「そうだな…まあ、入るかどうかはそのリュクサンという奴次第だ。まあ、その能力を私も見てみたいものだがな。」
「わかりました。」
「うむ。では、下がってよろしい。」
「…え、あの、本日の私の仕事は。」
「仕事か。そのリュクサンという奴を連れて来い。少なくとも一週間の間だ。頼んだぞ。」
「ふむ…了解いたしました。」


「へえ、これがピサの斜塔か…」
図鑑だっけな、なんかで見たけど、本当に斜めなんだ…
あんまり遠くに行くとロッドさんに迷惑かけるし、このくらいでやめとくか。

「おい。」

聞いたことがある声に、俺は自然と鳥肌が立った。
それも、前よりずっと、邪気を孕んで。

「お、お前は…」
「よう、久しぶりだな…?リュクサン。」
「くっ…!」

やばい、まさかここまで追いかけてくるとは…!!
どこまで執念が強いんだよ…!!

「なっ…!」
「くくくっ、あの時の続きだな…!」

「あぐっ!うはぁっ!!」
「かっかっか!!やっぱこいつは苛めがいがあるよ!!」
「はぁ…はぁ…ぐうっ!?」
「おらおら、まだ終わんねーぞ!!」
「ぐはっ!ああっ!!うわぁぁっ!?」

「はっ…こんぐらいでヘタレやがって。」
「まだおわんねえって言ったろ!まだまだ続くぜ…!」

くっ、かはぁ…
一日休んだだけでは、完全に傷は治ってないし…今度こそ…終わりか…

「でりゃっ!!」
「ぬあぁっ!」「うおっ!」

…?誰だ?
「お前ら、一人にそんなよってたかって、恥ずかしくないのか?」
「ああ?」
「お前らは、人を痛めつけて何も感じないのか!?」
「あ?何言ってんだこいつ。」
「こいつもやっちまおうぜ!」
「いくぞー!」

だめだ、あの人もやられる…!
しかし…

「うがっ…!」
「な、何故だ…」
「強い…!だが、俺の仲間がこれだけとは思うなよ!」

あっ、あいつら…!どこまでもやるつもりか!
いくら正義感が強い人でも、こんな数じゃ…

『シャドー・クロー!!』
「なっ、なっ…!?」


「がっ、がはっ…!」
まさか、倒した…!?あれだけの人数差で!?
「リュクサンくん、行くよっ!」
へっ!?へっ!?
俺はよくわからない状況下で、誰かと一緒に走った…


「…はっ!?」
と目を覚ますと、そこはロッドさんの家だった。
昨日と同じような気がするけど、ま、いいか。
「リュクサンくん、大丈夫?」
「は、はい…、助けてくれて、ありがとうございます…;」
「いやいや、大丈夫だよ。それにしても、さっきの奴らはひどいね。一人に対してたくさんの数で苛めて…」
「いや…はは、俺が教科の先生に持ち物とかを聞きに行くと、それを「テストの答えを教えてもらっている」と勘違いされて…」
「そうなんだ…、あ、はい、ココア。」
「ありがとうございますー;」
ロッドさんは優しいなぁ…、さっきも俺を苛めてたやつらを瞬殺しちゃったし…

「そうだ。ロッドさんって、どんな仕事してるんですか?」
「っ…!!」

仕事をしてるんだ?という言葉を発した時、ロッドさんの様子が変になった。
どうしたんだ…?
「…リュクサンくん。僕は…実は…怪盗をやってるんだ。」

怪盗?怪盗?…あの物を盗む?
えええ!?

「やっぱり驚くよね…、怪盗ってのは、物を盗む仕事なんだ。だけどね、物を盗むのは、悪い人からだけなんだ。ほら、政治家にも悪い人はいるでしょ?当選するために賄賂を贈ったりするやつとかさ。」
「あっ、あの…」
いきなり…いきなりそんな説明されても…、でも、悪いことしてる…のか?
「えーっ、と…」
さっきまでのロッドさんとは全然違う、雰囲気が全然違う…
落ち着いてない、優しくはあるし、怒ってもないのに…慌てている…
「…」
「……」
「ロッドさん。」
「あ…あの…」
「ええっと。僕に…何をしてほしいんですか?」
「……君には…」
「…」
「…君には…怪盗になってほしいんだ。僕たちと同じく。」
「…へっ!?」

実は、この時のロッドさんは、なんか、自信に満ちてたんだよね。なんでだろ…
もちろん、俺は驚いたよ。優しい言い方だったけど「怪盗になれ」って言ってるんだから…

「…はぁ…」
「どう?来てくれないかな…」

そんなこんなで、俺は怪盗グループってところに行くことになったんだ。

「よっ!ロッド。つーか、お帰りか?」
怪盗グループにつくなり、一人のお兄さんが話しかけてくる。
「ああ、リクルスか。そうだね。…あ、ボスは?」
「えっ、ああ…ボスは、さっきリュゲルとモンブラン買いに行ったよ。ところで…そっちの子は?お前の弟?」
とそのお兄さんは俺を見て言う。
「あはは、違うよ。この子はリュクサンって言って、この前ボスと話してたでしょ?この怪盗グループに入るかどうかで話してたさ。その子だよ。」
「ああ…、結構大人しそうだけど、大丈夫なの?」
「ああ。平気だと思うよ。能力とかは…まだわからないけど。」
と二人の会話を聞きながら周りを見回す。すると、さっき言ってたリュゲルさん(?)とボス(?)みたいな人が近づいてくる。
「ロッド。リクルス。そんなところで何をしている。」
「えっ、ボス!」
「お帰りなさいませ。」
とボスを見た瞬間、急に敬語を使いだした二人。とりあえず、この人がボスってことは間違いなさそうだ。
「うむ。ところで、こ奴は…あれか?この前話していた奴か?」
とボスらしき人が俺を見て言う。
「はい。まさしく、この者がこの前話していた者です。」
「ふむ…お主、名をなんと申す。」
いきなり話しかけられて、ちょっと…いや、かなりびっくりした。けどさ、応えなきゃいけないよね。
「え、えーっと。カノープス・リュクサンといいます。歳は16歳で、オーストリアから来ました。」
それを聞いたボスはちょっと納得したような顔つきになり
「ほう。リュクサン…か。よろしくな。我はマリッガ・スウィールと申す。これからよろしく頼む。」
「あ、よろしくおねがいします…」
なんだろう、この人、あんまりボスっぽくないような…
俺が、そう思った瞬間だった。
「…ところで、お主は足が速いのか?」
「…!!」
え…なんで分かったんだ!?
この人、俺をみただけで…何故?
「速いのか?速くないのか?」
「えっ、あっ、は、速いですっ!」
しびれをきらしたような顔で言われて、俺は途惑いながら言うと、マリッガさんは「…そうか」と言って立ち去った。
マリッガさんが立ち去ったからかな、自然と全身の力が抜けちゃった。
「リュクサンくんって、足が速かったんだ…」
つぶやくように言うロッドさんの横で、リクルスさんが何かを調べてる。
「あ、50mで4秒36でした。学校の最高記録でしたので、よく覚えてますけど…」
「ほー…あ、この怪盗グループにもいるんだよね、足が速い人二人。会ってみる?」
「…え、いいんですか?俺、ここに来たばっかりですけど。」
「いいよ。今その二人に連絡取れたし。今から三人で行こうよ。」
「…はい。」

そんなこんなで、俺はロッドさんとリクルスさんとその二人に会いに行くことになった。
早速一人目の部屋に行くと、板に「Thousand」って書いてある。えっと、サウ…ザ…
「サウザンド、意味は「千」だったな。」
「うん。さて、リュクサンくん、行くよ?」
「あ、はい…」
どんな人が待ってるんだろう…そう思い、ドアを開けると、そこには一人の少女(と言っても年上かも)が布で何かを編んでいるところだった。
その人はこっちを向くと「あ、ロッドさん、リクルスさん、どうしたんですか?」と言った。あ、知り合いなんだ…
「やぁ、ナチュラル。元気?」
「あはは、大丈夫ですよー、この通り元気です!ところで…その子は?」
とナチュラルさんは俺を見る。ロッドさんと話してるところから思うんだけど、優しそうな人かも…
「ああ、すっかり忘れてた。この子は新加入のリュクサン。で、足が速いって言うから、おなじく足が速いナチュラルに会いに来たんだ。」
そういうのと同時に俺は自己紹介。年齢と名前とあと足が速いことを伝えた。
その人は「へぇ…凄いね…あたしでも5秒が限界なのにさ…」と言った。
「で、このリュクサンくんとさ、仲良くしようっていう事でここに来たんだ。な、いいだろ、仲良くしようや?」
とリクルスさんが言うと、ナチュラルさんは「もちろん!この子、私と気が合いそうだし!」と言ってくれた。
「ああ、ありがとう!じゃ、また!」
といってロッドさんとリクルスさんは俺を連れて部屋から出た。
「…よし。じゃ、次はトレインだな。」
「そうだな…あいつはちょっと無口みたいなところがあるからな…リュクサンくん、気を付けてな。」
トレインさん…どんな人だろう…
俺はいろんな期待を含めながら、トレインさんの部屋「Firearms」に入ってった。
トレインさんはドアに背を向け、紅茶を飲みながらパソコンに集中していた。
「おーい、トレイン。」
そうリクルスさんが呼ぶと、トレインさんはこっちを向き「なんだ。」とだけ言いまたパソコンに戻る。
…と思いきや俺に気づいたみたいでまたこっちを向く。
「…そいつは?新加入だよな。」
「ああ、リュクサンって言うんだ。足が速いって言うからさ…」
「そうか。」
トレインさんはそういい、ロッドさんが何か言うのを遮り、さらに続ける。
「…で、そいつを俺んところで面倒見ろと?」
「違うよ。このリュクサン君とおなじ、足が速い人同士で仲良くしようぜって言う事でここに来たんだ。ってことでトレイン。リュクサンくんと仲良くしようよ!」
とロッドさんが言うと、トレインさんは少し考え込んだ後
「…リュクサンっていったっけ?仲良くするけど、それには条件がある。」
と言った。条件付けるのってはじめてだよね…と思うのはロッドさんである。
「…なんですか?条件って。」
俺が聞き返すと、トレインさんは少し笑って
「…この俺に、50m走で勝ってみろ。そしたら、仲良くしてやる。」
と言い放った。
驚いた俺より先に、リクルスさんがすぐに言い返す。
「ちょっと待て!50m走で勝負って…それじゃ勝ち目無いだろ!」
「…どうだ、リュクサン。やるか?」
リクルスさんを無視して俺に問いかけるトレインさん。俺の思いはたった一つ。

…トレインさんに、勝つことだけだ!!

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最終更新:2015年03月15日 02:57