ある公園のほぼ中央、芝生の中心に僕は居た。
辺りは次第に暗くなり、夜の帳(とばり)が落ち始めていた。
人の数は減っていき、初秋の暁の肌寒さがしみじみと感じられた時の話である。


第一話 no no cry more


暁時、僕は見ていた。
ある風が強く、妙に騒がしい1日だった。
1組のカップルが公園の一角にあるベンチに居た。
デパートの帰りに公園に立ち寄ったようである。
まだ少年のあどけなさを残す青年が先にベンチに座った。
デパートでの疲れも甚だのようである。
青年はその恋人にも席を勧めた。しかしながら、返事は帰って来ることはなかった。決して。

辺りは完全に夜になり、青年は一つの命を思い出した。
「ごめんよ…ごめんよ…」
青年は頭を抱え、声を発しながら静かにないた。
青年の泣く声は一晩中続いた。そして僕はただただそれを見ていた。
僕だけが彼を見ていた。

彼女は彼を見てはいなかった。
命とは忘れるものであろうか?僕にはいまだにわからない。
命とは何?

わからない。



第二話 エンドレス


ある日、僕は見ていた。
これは、ある夢のような幻灯の話である。
その日も風が強く、1日中雨が降った次の日の話である。

雨上がり、濡れた芝生の上を5歳くらいの少年が走る。
この少年は公園が大好きで、毎日のようにここに通いつめていた。
少年の一番のお気に入りは滑り台。この公園の滑り台は元々、別のアトラクションと一体になっており、結構な高さを持っていた。
少年はいつもの通りアトラクションを登り、滑り台へと進む。そして滑り台から滑りだす訳である。
少年は滑り台を滑って行った。いつまでも、どこまでも。
いつもより遥かに長い間滑っているが元来滑り台が好きな少年は全く気にしない。しかし、いつまでも下に着かないとさすがの少年でも不安になる。滑り台は下へと延々続く。
彼は半ばべそをかきながら滑り台を滑っていく。しかし下にはまだ着かない。後ろを振り替えるとどこまでも悠久のように滑り台は続いていた。
少年はついに、自分の好きな滑り台で泣いてしまった。

夢から覚めた後、少年は滑り台を見に行ったそうである。そしてこともないようにいつものように滑りだす。
好きなもので泣いた彼を芝生の上から僕だけが見ていた。
ずっと見ていた。

じゃあ僕は何?



わからない。

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最終更新:2011年09月17日 19:16