「ゆかりさんかー、よろしく。」
シグが呑気な口調で言った。
「す、すごいよ…本当にこんな事が起こるなんて……」
おや?木の影から出て来たのは入り口で帰った筈のクルークではないか。
「あれ?クルーク、プリンプタウンに帰ったんじゃなかったの?」
アミティが問いかけた。
「う、うん、そのー、実は気になっちゃってさ、あの後こっそり後をつけたんだ。」
「あら?貴方らしくないわね、尾行なんて。」
「そうかな?……じゃなくて、そうかい?そんなイメージがなかったのなら光栄さ。」
「じゃあ、これからは尾行くんって呼ばせてもらいますわ。」
「呼べるものならどうぞご自由に。」
「まぁまぁ、事情は知らないけどそれくらいにしてね♪」
紫が口喧嘩を止める。
「で、紫さん…だっけ、貴女がこの怪奇現象の正体なんですか?」
今度はアルルが聞く。
「あら、そんな呼ばれ方をするとは心外ね。こっちは人助けのために態々そこの二人を入り口まで運んであげたのよ?まぁ、スキマ使ったからラクチンだったんだけどね。」
紫はアミティとシグを指差しながらそう言った。
「やっぱりあの時助けてくれたんですね♪」
「ええそうよ。」
「ありがとーございます。」
「いいのよ♪こっちも人助けができてうれしいから♪」
その時、紫は一瞬はっと何かに気がついたような顔をした。
「……そうだ皆、異世界に興味ってあるかしら…?」
「いせかい?何かの会?」
シグが聞いた。
「違うわよ、こことは違う世界の事よ♪」
「パラレルワールド、ですか?」
今度はりんごが聞いた。
「うーん、違うわね。とにかくこことは違う世界よ。興味ないかしら?」
「そこには良い美容法はあるのかしら?」
「勿論よ。」
「美味しいカレーは?」
「勿論♪」
「珍しい虫。」
「ええ、勿論よ♪」
「でも、君はどうせそんな自慢を聞かせるだけなんじゃないのかい?」
クルークがそう言ったが、
「いいえ、折角の縁だもの、皆を異世界へ御招待しちゃうわ♪」
「うそっ!?」
全員が驚いてそう叫んだ。
「本当よ。」
皆ワクワクしているが、特にラフィーナはいかにもワクワクしている。
「で、でも準備とかしなくちゃいけませんわ…」
「大丈夫よ♪準備ならいらないから♪」
「じゃぁ、今すぐいけるの?」
「ええ♪」
「行こう、珍しい虫が待ってる。」
目が本気のシグが言った。
「それじゃあ、いいかしら?」
「うんっ!!冒険なら大歓迎だよ!」
「新しい発見に期待します♪」
「美容のために!!」
「カレーのために!!」
「虫のために!!」
「(フフフ……)」
「それじゃあ、異世界、『幻想郷』へごあんなーい!!!」
瞬間、アミティ達の足場が裂け、例のスキマが出現した。
アミティは
「え!?」
と驚き、シグは
「?」
と気づいていない。
「行ってらっしゃーい♪」
紫がそう言うのとともに、アミティ一行の体が落下を始める。
「わああぁぁぁ!!!!」
落ちて行く……すごいスピードで体が下へ下へ落ちて行く…怖い、こわい!!
しかしそんな恐怖をものともせず、あの時のように意識が遠くなっていく………
森でアミティ達の落下を確認した紫はスキマを閉じた。
直後、紫の背後の空間にヒビが入り、
バリィィィン!!!
と盛大な音を立てて割れた。その中から一人の男ががでてきた。
「いたいた…ったく、何やってんだよ。」
「あら、何って、逸材探しよ。」
「そうじゃない。今のやりとり、全部見せてもらったぞ。」
その赤髪の男は言いながら割れた空間に手をかざしている。
そうすると、何故かその空間は元通りになった。
「あら、見られていたの、あのやりとり。」
「ったく、あんな子供達を巻き込んで良いような異変じゃないんだぞ。」
「分かってるわよ。でも、貴方も感じたはずよ、あの子達、特に赤い帽子の女の子の内から力を。」
「ああ感じた。しかしそれを発揮できなければ宝の持ち腐れだぞ。」
「それはあの子達次第よ♪楽しみね♪」
「…後でたっぷり説教してやろうか?」
最終更新:2011年12月26日 21:17