_黒き魂宿りし武具、白き魂宿りし防具は、時を司る竜の化身。
竜の化身を手にした者は、時を操る覇者となる。
時を操る者は即ち、生きた証を奪われる。
死す時「覇者」はこう言うだろう、「私は生涯孤独であった」と_
~魔導師side~
…パタンッ
「…ふう」
少女は分厚い本を閉じ、それを戻そうと棚へ向かう。
…また背が縮んだ。
さっきまで届いた5段目の棚。今はそれが高く思える。
「何でこんな事になった…」と、
不安げに呟いた少女の声は、部屋じゅうに空しく響き渡る。
何故だろう、何時もなら「誰も居ない」事が気休めとなるのに。
今は逆に人が恋しい…いや、数日前からと言うべきか。
数日前といえば、休暇前の最後の仕事で、凶暴な魔物を相手にさせられた。
久しぶりに死と隣り合わせになった感覚がある。
…もしや、その時に使った「魔法」の反動だろうか。
だとすると、これが初めてじゃないから暫く安静にすれば良い。
けれど何故だろう。
心が休まらない、そんな大したことじゃない筈なのに…
…いかん、考えすぎて頭が割れる…視界もボンヤリしてきた。
ふと、少女はベッドの上にのぼり、その上に置いてあるナイフに手を掛けた。
_その後、何が起こったか…彼女自身は覚えていない。
~霊体side~
俺は、何時ものようにナイフの宝玉越しに外を見ていた。
この持ち主に拾われる以前は、頻繁に外に出てその時の持ち主を良い様に使っていたのだが、
今では滅多に外に出ることが出来ない。
無理に出ようとしたが、結果、更に鍵を掛けられた。
はじめはただのサディストかと思ったが、最近になって、どうもそうではないと思い始める。
今まで俺を使ってきた奴とは、畏れている事が違うのではないか、と。
突然、宝玉の外が闇に包まれた。
また持ち主が危険な実験を始めたのだろうか…
危険とは言っても、辺り一帯が爆発したり、毒ガスが部屋に充満する程度で、俺自信に直接影響を及ぼすものではないが…
…にしては、例の狂気染みた雰囲気を感じ取れない。
それに…数日前からそうだが、あまりに静か過ぎる。
これは、一度外に出て状況を確認するべきか…
俺にとって生命活動の核である、紅い宝玉に傷が付いていないか丁寧に確認した後、
宝玉の外へ、霊体を飛ばした。
~家主side~
屋敷の管理を任されて10年近くになるが、気が休まる事は無い。
セキュリティは外部はもとより、内部の者により毎日の様に破壊される始末。
それ以外にも家賃の取り立て、屋敷の修理、年下の世話…数え上げればキリが無い。
そもそも数年したら他所の土地へ移り住む予定だったのだが…此処の住民に任せたら屋敷が数ヶ月ともたん。
…今日は珍しく、魔導師と近衛兵以外は泊り込みの用事があるらしい。
女二人は学校の旅行、青二才は…大方僻地へ情報収集でもしているのだろう。
そして残った魔導師と近衛兵もこれから仕事に行く。今日は久々にゆっくり寛げる。
…筈だったのだが。
_ガタッ!
30分ほど前からだろうか、あの魔導師の部屋から物音が絶えない。
始めのうちは「また実験か」と聞き過ごしていたのだが、一向に静まる気配が無い。
全く、性懲りも無く熱中しやがって。
また暫くの間、実験器具を取り上げなければならないな。しかしあの量の器具を如何にして運び出すか…
などと考えつつ、魔導師の部屋のドアを開けたのだが、そこで俺は目を疑った。
_ガチャッ
「レ…レゾル!?」
「…騒がしいぞ貴様等…何だこの有様は、隠し子か?」
「か…っ!?隠し子な訳あるか!」
「では何だ、説明しろ近衛兵…何故魔導師が幼くなっているのか」
家賃搾り取る時の目付きをするんじゃねぇ。全く…
最終更新:2013年08月29日 00:25