「あの人は一体誰なんだい?」
「さあ……」

先程より、リビングでこんな問答が繰り返されている。
「さあ、じゃなくて……得体の知れないのを家に入れて大丈夫?」
「だって庭に倒れていたし……」
何時も以上に突っ掛かってくる萌黄に対し、何ともおぼつかない調子で返す藍。
二人がかりで男を二階へと運んだものの、あの男が何者なのか分からない。
そして、萌黄にはそれ以上に気になる事があった。

「大体、耳が尖ってて身体が冷たいなんてさ……西洋の怪物みたいじゃないか」
例えば、吸血鬼…男の着ていた、あの黒い襟の立ったマントは、まさしくそれを連想させる。

萌黄の主張に対し、藍は
「それっぽいコスプレをした人だと思うなあ」
と、あくまで人間であるという意見を崩さない。
彼女の脳内に「架空上の生物」という文字は無いのである。

その発言に呆れたのか、はたまた言い争いも馬鹿らしくなってきたのか、
萌黄はついに自分の主張を取り下げる。
「まあ……怪しい人には変わり無いからね?うかつに動いちゃいけないよ?」
それでもやはり不安は拭いきれず、藍に念を押すが……

「そうだね。……あ、そろそろ様子見に行く?」
「うかつに動いちゃいけないって今言ったばかりじゃないか……」

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最終更新:2012年06月19日 21:50