口論の後、女があまりにも口を開かぬ。
あの憎たらしい日の光を浴び、窓の外の景色に釘付けになって動こうとせぬのは、
我が何者かを既に知っているからか?
「貴様、名を何と呼ぶ」
女は人形のように動かない。
気付いていないのか、応じる気がせぬのか。またも頭に血が上りそうになる。
「おい」
「あ……はい、何ですか?」
「名は何だと聞いている」
女は暫く考え込む。本名を教えるか否か、で迷っているのだろうか。
そうして、女はキョトンとした顔付きで答えた。
「縄なんて何に使うんですか」
……は?
「縄?」
「え、だってそう言ったじゃあありませんか」
聞き間違えるか普通。この女、どうやら縛り付けにされたいらしい。
「名前だ。貴様の名前を教えろ」
「ああ、そっちですか。私は藍です、それから…あれ?」
女…藍とか言う奴は、何かを探すように辺りを見渡す。
一体何を探しているのか……我は程なくして見当が付いた。
「あの男ならば何処かへ行ったぞ」
「え?いつの間に……じゃあ此処で待っていてくださいよ、呼んできますから」
そう言うと、女は先程の男と同様に、出入り口らしきものの向こう側へと姿を消した。
最終更新:2012年08月02日 06:34