[Intermisson 5] 兄者
「ハッキングできたぞ!」
ようやく研究室のPCと繋がった。
「…流石だな兄者」
続々とPCの前に人が集まる。
「で、何か分かったの?」
「まだ繋げただけだ。これから調べていくんだ」
相手のPCの中に潜り込んでいく。
その中で、この街に関係がありそうなものをピックアップしていく。
「結構簡単そうに見えるんだけどなあ」
「難しいんだぞこれ。PCによっては門前払いもあるからな」
「まあそれをかいくぐって侵入するのがハッキングなんだろ」
「…少なくとも俺はスーパーハカーではない」
「じゃあ一体何なんだ」
「単なる趣味ハッカーだ」
「…それが一番危ないんじゃない?」
そうこうしていると、様々なファイルが出てきた。
「『Dream Linkage Project.pdf』…これかな」
PDFファイルを開く。論文のようだ。
「ドリームリンケイジプロジェクト?」
「簡単に言えば『夢を繋げる』ってことかな」
「『人体に生じる<夢>とは一体何なのか。…ここに私たちは夢を共有するという…』」
「その辺はいいから読み飛ばせ」
「えーっと…」
[管理AI]
<夢>に出てくる人物として、AIを用意する。
AIは5つあり、それぞれ制作順に「R2354mA」「M7341nO」「E8348tS」「T2643wO」「S4169iC」をIDとして指定する。
さらに私たちの間で順に「Mo-Ra」「Mo-Na」「8」「2」「C」というコードネームを付けることにした。
またAI間でも呼びやすいよう順に「モララー」「モナー」「八頭身」「つー」「しぃ」という名前を付ける。
「AI間でも呼びやすいよう、って研究者もお茶目だな」
「続きだ続き」
AIに危害を加える人物もいることを想定し、それぞれに「戦闘能力値」と「武器」を指定する。
これはこのような人物への反撃手段としての設定であり、必ずしもAI自らの意思で使えるわけではないということを付け加えておく。
能力値は高い順に「Mo-Ra」>「Mo-Na」>「2」=「8」>「C」と設定する。
また武器は、前述の順に長剣、杖、鞭、短剣、弓矢を設定し、標識となるよう武器を光らせておく。
武器は普段は持ち歩かず、攻撃時のみ空間から取り出すことが出来る。
なお、AI同士では原則として攻撃しあうことは無い。
「つまりはどこからともなく出せるってわけか」
「だからつーは短剣をあんなに出せたのか」
「武器が光っていればAIと見て間違いないんだな」
AIには<夢>を制御する役割も持つ。
「Mo-Ra」は天候、「Mo-Na」はライフライン、「8」は物体、「2」は空間、「C」は<夢>全体の制御を行う。
また、ひとつのAIが倒された時、他のAIがそのAIの制御能力を受け継ぐ事ができる。
例えば「Mo-Ra」が倒されると、他の4つのAIは「天候」の制御を受け継ぐ。
AIが全て倒されると、<夢>を制御する者がいなくなるため、<夢>は消え去ることとなる。
「…つまり、どういうこと?」
「裏を返せば…AIを全て倒せば俺達はここから脱出出来るのか」
「しかしそれなりにリスクも高くつくぞ」
「うむ…」
まだ他にもファイルはあるので、とりあえずはこのPDFファイルは閉じる。
しかし、一瞬だがさらに続きの文章があることを目撃した。
最後に、「C」についての付記事項を記しておく。
万一、<夢>が非常事態に陥った時、無闇にログアウト者を出さないよう「C」はログアウト地点を閉鎖させる事が出来る。
また、30年程前に前例のあった「AIの反乱」の対策として、…
ファイルをさらに探っていく。
「『Nightmare City Management System.exe』…開いてみるか?」
「.exe…この街が消えそうな一番危険なファイルなんじゃないか」
「まあ論より証拠だ、開いてみるぞ」
(人の話聞いてるのか…?)
弟者はそんな顔をした。
開いてみても別に問題はなかった。
[Nightmare City Management System]
→Login State
AI State
City Configure
City State
Quit
「…弟者、英語分かるか?」
「兄者、そこまでとは思わなかったぞ」
英語は苦手だ。
「一番上ってログイン状況じゃない?stateは『状態』だし」
「ふむ、一応見てみるか」
Enterキーを押す。…出てこない。
Spaceキーを押す。…出てきた。
[Login State]
→Login
529
Logout
1
Others
2470
Back
「529?じゃあ今生き残ってるのって529人ってこと?」
「6分の1か…」
「ログアウト者が1人いるよ」
「誰だろう」
カーソルを合わせ、開いてみる。
[Logout Member]
No.2359
→Back
「被験者No.2359って誰だ」
「誰か近い奴居るか?」
「…俺は2360だ」
後ろで横になっているフサギコが呟いた。
「ギコが俺のひとつ前だから2359はギコだ」
「ギコが…?」
「ギコの奴ログアウト出来たのか」
「そりゃ北に向かったからな。ログアウト地点は北にある」
「まあ奴が無事だって事は証明されたな」
画面を戻す。
[Login State]
→Login
516
「おい、ログイン人数減ってるぞ」
「じゃあ今もAIが虐殺を続けてるって事か」
「次は『AI State』だな。ちょうど良い項目があるじゃないか」
[AI State]
Mo-Ra
Login:In
Mo-Na
Login:In
8
Login:In
2
Login:In
C
Login:In
→Back
「うわ…まだ全員生きてる」
「じゃあ誰が倒すんだ?」
「…」
「…賭けだ。俺達が倒しに行くぞ」
「ホントかよ?」
「俺達が行かなかったら誰が行くんだ。少なくともこれらの情報はまだ俺達しか知らないんだ」
「…行くぞ」
[Intermisson 6] しぃ
ギコくんをログアウトさせた直後の話。
モララーに向かって矢を放つ。
それはモララーの横をかすった。威嚇弾として放った。
剣を下ろしてモララーが着地する。
「どうしてログアウトさせた」
「…ギコくんを助けるためよ」
「被験者に情でも移ったか」
「そんなのじゃない」
「じゃあ何なんだ」
「…」
この感情が何なのか、私にも分からなかった。
私の性能にも限界がある、ということなのかもしれない。
「まあいい、奴はどうせすぐに戻ってくる。必ず始末してやる」
「…」
モララーはそう言うと、どこかへ飛び去った。
被験者の二度の侵入は前例がないけれど、もしギコくんが帰ってきたら…
でも、それは心の奥にでもしまっておくことにする。
私は街に戻った。
私の横を、軽トラが過ぎ去っていく。
[Intermisson 7] おにぎり
「…」
1は無言だ。黙って荷台に乗っている。
軽トラを全速力で走らせる。時速は120キロだ。
ほぼ碁盤目状になっている街をぐるぐる回っている。
オレンジ色に光る何かを利用しながら向かってくる身長の高い三人組はまだ追ってきていた。
「…なあ」
「…ん」
少なくとも寝てはいないようだった。
「このままログアウト地点まで行くか?」
「…どっちでもいい」
「…じゃあ行くか」
北の方角にハンドルを切る。車は逃げるのに有利だ。
トンネルを抜けても三人組はまだ追っていた。しぶとい奴らだ。
何をそこまで俺達に執着するのかさっぱりわからなかった。
…少なくとも1は感づいているようだったが。
橋を渡っていると、反対側から誰かが歩いてきていた。
ピンク色の猫だ。多分女の子だろう。
浮かない顔をしてとぼとぼと歩いていた。何があったんだろう。
橋を渡りきって、いよいよログアウト…と思っていたのだが。
「…なんだこれ」
大きな壁がそこにはあった。
意地でもログアウトさせないという敵側の執念だろうか。
三人組にぶつからないように切り返し、橋の方に戻る。
しかし。
プスン。
「…あ、ガス欠だ」
最終更新:2012年09月03日 20:18