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深夜の自然公園に2人の人影。屈強な長身の影と平均的な男子高校生の2人連れは、この下らない聖杯戦争に巻き込まれた佐藤和真とそのサーヴァント空条承太郎だった。
当面外へ出ずにネットで情報を集める予定の和真だったが、『GALAX』の象徴『X』が使用不能となり、情報を集める事が出来なくなった為に、外出して他の参加者と接触する事を余儀無くされたのだ。
こんな時間に出歩いているのは、まさか真昼間から殺し合いを始める馬鹿が居る訳が無いだろうと判断したから。
もし仮に、昼の往来で暴れる様な奴がいるなら、そんなイカレとは接触するのは御免被る。
そうして外に出た和真は、戦闘に向いていそうな場所として予め目をつけていた、この自然公園にやって来たのだった。

「何か判った事有る?」

「お前と同じだ。此処で高熱を操るサーヴァントが戦った事しかわからねえ。地面が硝子状になってる位だ。生身の人間ならひとたまりも無いだろうな」

二人が調べているのは、大道克己とルキアの交戦した形跡だった。
他のマスター及びサーヴァントとの接触を求めてやって来た自然公園だが、見つかったのは戦闘の痕跡のみ。
互いに炎を操る仲間を持つもの同士、痕跡から戦ったサーヴァントの能力の一端を知ることが出来たが、それ以外は皆目不明だった。

「靴跡から判断するに、此処で戦ったのは四人。その内で一番小さい奴は随分と身軽だな。かなり動き回っているのに足跡がほとんど無い」

ということは無かった。テレビのモニターに映る、闇に包まれた部屋を飛ぶ蝿を精密にスケッチ出来る『星の白金(スタープラチナ)』の眼を以ってすれば、この程度は造作も無いことなのだ。

「そんなことまで判るのか」

「生前やったネズミ狩りに比べれば楽なもんだ」

答えた承太郎は、バスケットコートの方に目線を向けた。

「向こうで戦ったのはランサーだな。地面に石突の痕が有った。結構派手に動いてダウンまでしているのに、ランサーの相手は殆ど動いていない。かなりの手練れだぞ」

「おお……」

外見に合わない観察眼を発揮する承太郎に、和真は素直に感心する。
このランサーが身に纏う歴戦の凄味は伊達では無い。

─────でもネズミ狩りって?

実はコイツも俺の様にロクでも無い事に巻き込まれたことがあるのだろうか?

「そんなに驚くことも無いさ。何しろ向こうさんの事に関しては、サッパリなんだからな」

尋ねようとした矢先。承太郎が和真の後ろに視線を向ける。
承太郎の視線の先には、爛と輝く双眸を覗かせた黒い男が在った

逸見エリカは聖杯に対する関心など欠片も無かった。
如何なる願いも叶える聖杯など知った事では無い。
叶えたい願いが無い訳では無い。だがその願いは、エリカが己の力でその手に掴まなければ意味が無い。
西住姉妹は、杯などに願って並ぶことが出来る程度の矮小な存在などでは決して無いのだ。
杯などに願って並んだところで、己が決して満たされぬであろう事は承知している。
この事態はエリカにとってみれば降って湧いた災難。戦車の行進を阻む地雷原の様なものだった。

─────だが、それでもエリカは戦う。戦う事を選んだ。

この程度の戦いを制せずして、己が目指す場所へは辿り着けない。
寧ろこの戦いを、己が糧としてより更なる高みへと登る。
それ位の気概がなければ、到底己の目指す場所へは届かないだろう。

それは、いきなり知らぬ場所で、未知の戦いを強いられた少女が、不安と重圧に押し潰されない為の、精一杯の虚勢かもしれない。
だがそれでも、逸見エリカは戦う事を決意した。敵対するもの悉くを降して凱旋する事を選んだ。
あの背中に追いつく為に、あの背中に並ぶ為に。
どの道、古の罪人の如く、顔に刻まれた令呪が敵を呼び寄せる。
ならばその前にこちらから見つけて打ち倒す。
幸いにしてエリカのサーヴァントはとても強い。一対一ならばまず勝てる。
高い火力に頑健な肉体を併せ持つアヴェンジャーは例えるなら重戦車。しかもこの重戦車はエリカの知るそれとは違い、超高速で機動する上に整備も手間入らずで燃費も良いという戦車乗りの理想を体現した破格の性能を持つ。
戦車道とは異なる全く未知の戦いに臨むに辺り、エリカには恐怖は有っても不安は無い。それ程までにエリカはアヴェンジャーを信じていた。
このサーヴァントを以って制覇する。そうして己はあの高みへと到達する。


その決意の元、戦闘に向いていそうな場所として目をつけていたこの場所にやって来たのだ。
こんな時間にこんな場所にいるのなら、戦う意思有りと見做しても良いだろう。
そして発見したのは、一昔前の不良のような格好の男と冴えない少年。

─────例えるなら、精々三号戦車といったところね。

ステータスを確認したエリカは胸中に呟く。向こうのサーヴァントの性能は此方と比するべくも無し。ケーニヒスティーゲルの装甲に四号長砲身の火力を持つアヴェンジャーとは勝負にならない。
聖杯戦争は重量制限の無い強襲戦車競技。重量制限により極端な性能差が出ない様に配慮されている強襲戦車競技から制限を外してしまえば、
事前の作戦や乗り手の練度では無く、純粋に戦車の性能が勝敗を決する最大の要因となるだろう。
聖杯戦争であれば、高い性能を持つ重戦車たるアヴェンジャーは、圧倒的な強者として戦場を支配できる。
だがそれでもエリカは図に乗って襲い掛かる真似はしない。
ステータスが戦車の性能だとするなら、スキルは搭乗員の能力を表す。此処が明らかで無い限り、侮ることなどできはしない。
第二次対戦時の東部戦線でも、兵の練度の差で、赤軍のT34に性能で劣るドイツ戦車が拮抗出来た様に。
だがこれはそう気にする必要は無いだろう。三号ではティーガーには決して勝てないのと同じで、重要なのは地力なのだから。
気にするべきなのは宝具。例え脆弱なサーヴァントでも宝具次第では強力なサーヴァントを撃ち破ることが出来る。
只の歩兵で有ってもパンツァーファウストを使えば重戦車を撃破する事が出来る様に。
故にエリカの方針は速攻。相手に宝具を使う事を許さず、速度を以って衝撃し火力を以って屠る電撃戦。アヴェンジャーはこの方針を可能とする能力を充分に有する。
撃てば必中 守りは固く 進む姿は乱れ無し 鉄の掟 鋼の心。その西住流の流儀にのっとり速やかに撃破する。
それでも不意打ちという発想に至らないのは、思考のベースが戦車道という競技で有るが故か。

「あの程度ならこれからの戦いの演習にちょうど良いわ、宝具を使わせずに仕留めて……どうかした?」

興味深げに学生服のサーヴァントを見つめるアヴェンジャーに、エリカは訝しげに問いかけた。

「お前の方針に異は無い。俺はサーヴァントだからな。だが、あの男…最初に当たるのがあの様な男とは……ククッ…マスター、お前には感謝するぞ」

「…?まあ良いわ、私は姿を隠して指示を出すから」

この戦いは戦車道でいうフラッグ戦。エリカが倒れればその時点で終わる戦、故にエリカは姿を隠す。いくら年齢や外見に比して体力が有ると言っても、エリカは肉体を用いた戦闘訓練を積んではいない。直に戦うのは敗北に繋がると言って良い。
第一戦力的には豆戦車でしか無いエリカを戦力として数えるなど有り得ない。
一応それなりに備えは用意したが、使う羽目になるのは避けたい。結果としての死ならともかく、積極的に人を殺すのはやりたく無い。

「最初は宝具を使わないで、誰かに見られていないとも限らない」

「ランサー、マスターの姿は見えるか?」

「いいや。巧く隠れているな。気をつけろ、不意を衝いて襲ってくる可能性が有る」

サーヴァントは自動操縦型のスタンドの様なもの、倒すのならばマスターを殺すのが楽な上に手っ取り早い。その為、事前にマスター狙いの可能性は重々言い含めて有った。
言われずともその可能性は和真も充分に認識している。現れたサーヴァントは承太郎に任せ、自分は周囲を警戒する。
承太郎は前に出てマスターを後ろに庇うと、何時でも星の白金(スタープラチナ)を出せる様にして、サーヴァントと対峙する。

「で、何の用なんだ?正々堂々正面から来るのは、話し合いでもしに来たと思って良いのか?」

「この場は戦場。ならば対峙すれば為すべき事は一つ」

「正面から来るってのは、相当自信が有るみてーだな。時にそっちのマスターは何処だ」

承太郎が気にしているのは相手のマスター。承太郎には危惧していることが一つ有る。承太郎の宝具でも有る能力、幽波紋(スタンド)は基本性能や能力次第ではサーヴァントとも五分に渡り合える。サーヴァントにかかり切りになっている時に不意を打たれれば対処するのは難しい。
そうでなくてもスタンドは不意打ちや暗殺に最適なのだ。もし仮にスタンド使いがマスターならば、和真が狙われればあっさりやられてしまうだろう。
和真の立ち回りの巧みさと阿漕さを計算に入れても、生存は難しい。そう承太郎は踏んでいた。
という訳で和真が退避するまで時間を稼ぐべく、こうやって問答しているのだ。

「教えるわけが無いだろう。知りたければそちらで探せ」

【奴のステータスはどうなんだ?】

【宝具かスキルか不明だけど全く見えない】

【やれやれだぜ】

まあステータスが判らないのはどうでも良い。生前体験した戦闘全てがそうだった。正面から対峙してくれているだけましだと思おう。攻撃して来る奴を探す手間が省ける。

「クハハハハハハハ!!」

哄笑と共にダンテスが奔る。より一層、その双眸を爛と燃え立たせ。
その眼に映すは承太郎のみ、退避する和真には目も呉れず承太郎に襲い掛かる。
承太郎は動かず、只ダンテスとの間合いを測る。
さらに高まる哄笑。ダンテスが身体の周りに黒い霧を纏い、その中から蒼黒い炎に包まれた右手が繰り出される。

「星の白金(スタープラチナ)!」

承太郎の傍に現れる人型の像(ビジョン)。承太郎以上の上背と体格を持つ、古代の拳闘士を思わせる屈強な戦士の像が、黒霧に右の拳を繰り出す。
貫手と拳がぶつかり、大質量の巨岩同士が激突したかの様な轟音を残し、二人は互いに有利な位置を求めて場所を変える。

「オラァ!」

スタープラチナの拳が唸り。

「ていや!」

ダンテスの貫手が蒼黒い炎を帯びて奔る。

スタープラチナとダンテスの正面からの攻防は五分。然し。主導権はダンテスに有った。
承太郎から2mしか離れられぬ上に飛び道具を持たぬスタープラチナに対して、戦場を縦横に駆け巡り、前後上下左右から猛攻を仕掛けるダンテスの優位は絶対。
スタープラチナの攻撃が来ると見れば距離を取り、機を窺って思いもよらぬ方向から当たれば致命となる攻撃を繰り出す。
並の三騎士なら軽く屠るこの猛攻を、承太郎はスタープラチナの性能を、生前に培った戦闘経験と勘とでフルに引き出して尽く防ぎ、隙を見て効果的な猛撃を加えていく。
両者の攻防はスタープラチナとダンテスのみを見れば五分と五分。しかし其処に歴戦のスタンド使いである承太郎の経験と観察眼と頭脳が加われば、優劣は明らか。
戦場を支配しながらダンテスは徐々に傷付いていく。

「おお!」

熾烈な攻防の中でも、鉄塔の如く揺るがなかった承太郎に僅かに生じた隙を突いて、左─────承太郎から見て右に回り込んだダンテスが、未だ繰り出した右拳を引き戻せぬ承太郎の背中に左の掌打を撃ち込む。

「オラァ!!」

それを読んでいた承太郎がスタープラチナに強烈なサイドキックを繰り出させ、ダンテスを蹴り、大きくよろめかせた。

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!!」

そこへ撃ち込まれるスタープラチナの左右の拳による突き(ラッシュ)。ダイヤモンドすら打ち砕く無双の拳が立て続けに黒霧に覆われたダンテスの身体にに吸い込まていく。

「オラァ!」

拳に突き上げられ、完全に宙に浮いたダンテス目掛け放たれる渾身の右ストレート。砲弾の如き勢いで射出されたダンテスは4mも飛んでから漸く両足を地面に接地、深い二条の溝を10m程掘って停止した。

─────なんだコイツは?

承太郎が感じた手応えは大質量の鋼。生前押し潰され掛かったロードローラーが軽量でヤワに思える程の感触。
実は人間では無いのでは?などと思いつつ、承太郎は間合いを詰め、再度ラッシュを見舞おうとする。
拳を振るうスタープラチナに対して、ダンテスは不意に右手を突き出し、レーザーの如き蒼黒い炎を承太郎の胸目掛けて照射、鋼すら秒と持たずに貫く熱線が承太郎の胸を貫くべく飛翔する。
至近距離からの、今まで使わなかった飛び道具による完全な不意打ち、その速度とタイミングに、避ける術など有りはしない。

「オオオッ!!」

だが、ダンテスは知らぬ。スタープラチナの速度が、光を越え時を置き去りにする程のものだという事を。
故に結果は承太郎にとっての必然、ダンテスにとっての虜外。左腕を一振りして熱線を霧散させたスタープラチナが、驚愕から棒立ちとなったダンテスに再度のラッシュを叩き込む。

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァァッッ!!!」

再度宙を舞うダンテスの体は、公園に植えてあった樹木に激突。衝撃で幹を粉砕してなおも飛翔、派手に擦過音を響かせて、公園の地面に今度は背中で溝を掘る羽目になった。

─────おかしい、何だって魔力が増えてやがる。

先のラッシュの時に感じた違和感を確かめる為に、念入りに殴ってみたがやはり思った通りだった。
ダメージを受ける度に魔力が増えている。
生前出会った奴等には、スタープラチナのラッシュにも耐える頑丈な奴や、首だけになっても生きていて、人の御先祖様の肉体かっぱらって生きていた奴がいるが、そのどれとも違う。
ポルナレフが倒したというスタンド『悪魔(エボニーデビル)』と同タイプの性質を持つのかも知れない。

「いや、強い、強いな。宝具だろうその像もだが、それを操るお前も強い。余程場数を踏んだと見える。そてにしてもその宝具…お前の精神の形か?ならば納得がいく。その雄々しさ、勇猛さ、その強さ」

ダンテスは心からの称賛を承太郎に贈る。己を支える精神は、暗い牢獄の中で己の燃え盛る憎悪を炎とし、固く誓われた復讐の意思を鉄槌として、鍛えに鍛えられた鋼。
対して眼前に立つランサーを支える精神は、暴風吹き荒れる嵐の夜に道を示す眩い輝き。
如何なる汚濁も曇りも歳月も、その輝きを鈍らせることなど決して無いその有り様は、正しく黄金。
しかも黄金の柔さなど微塵も無い。巨大な巌の如き強さを持った、金剛石の様に決して砕けぬ黄金。
ダンテスには解る。この精神は自分の其れと同じく、常人には想像もつかぬ苦境を幾度も越えて鍛え上げられたものだと。
共に余人の及ばぬ強い精神を抱く者同士ながら、その有り様と輝きは全く逆。
ダンテスは初戦からこの様な敵と巡り合わせてくれたエリカと運命にに心からの感謝の念を抱いた。


立ち上がるダンテスの姿はあれだけの猛打を受けたにも関わらず無傷。
元々の耐久力の高さに加えて、増えた魔力を注ぎ込んで傷を回復させているのだ。

「生半可な攻撃は効かねえって事か」

ジリジリと距離を詰めながら呟く承太郎。スタープラチナ共々、その眼はダンテスを捉えて離さない。


【アヴェンジャー、ランサーの宝具は前…というより一方向にしか攻撃出来ないみたい。それにさっきからの様子だと、余りランサーから離れられない様だから、貴方の宝具ならランサーの宝具の射程外の死角からランサーを直接叩ける】

何処かに潜んで戦闘を見守っていたエリカが指示を送ってくる。

【見るべきところは確と見ている様だな】

【まさか宝具を使う程の相手とは思わなかったけど】

エリカの指示を受け、ダンテスは宝具を発動する。

「此処から先は精神の比べ合い。あの牢獄で俺を支え、今も尚突き動かすこの黒い復讐の炎。お前の黄金の精神は、黄金の精神が作り出すその像は、受けて立てるか?」

高まる魔力。加速する思考。


「虎よ、煌々と燃え盛れ(アンフェル・シャトー・ディフ)」


アヴェンジャーの宝具。時間や空間と言った形無き牢獄すら脱する巌窟王の精神が具現。今此処に。

─────!?

承太郎は驚愕した。いきなりダンテスの姿が眼前に在ったからだ。目線を逸らすどころか瞬きもしていないのに。

「オオオ!!」

更に動いて右側面に廻り込んだダンテスの、野獣の如き咆哮と共に繰り出される、炎熱を纏った右の貫手が、スタープラチナの胸を深々と抉り、承太郎の胸から鮮血を噴き出させた。

「オラオラァッ!!」

即座に放たれる反撃の左右の拳は虚しく空を切り、既に承太郎の上空5mに移動していたダンテスが、蒼黒い炎を光条として撃ち放つ。
これを承太郎は横っ飛びに飛んで回避。光条が地面を穿ち、散弾の様な勢いで飛来する破片をスタープラチナで叩き落とす。
哄笑とともに襲い来る第三撃、後ろから飛来する熱線。それと同時に第四撃、左側面から奔る貫手。
第五、第六、第七…重ねられる攻撃は時差(タイムラグ)がスタープラチナにすら捉えられぬ超高速の多重連撃。この攻撃に承太郎が動揺せず、致命傷を避け続けられたのは、優れた第六感の働きも有るが、生前に同様の攻撃を見たことが有るからだ。

─────銀の戦車(シルバーチャリオッツ)と同じ芸当を使いやがる。

J・P・ポルナレフ。共にDIOを倒した仲間の事を思い出す。出会ったときはDIOに肉の芽を植え付けられ、敵として自分たちと戦った。その時に披露したのが、甲冑を脱ぎ捨てて行う多重残像を作り出す程の超高速機動だったのだ。

─────あの時アブドゥルはどうやってチャリオッツを倒したっけな。

思い出してみたものの、どうにも自分には無理なので諦める。というよりアブドゥルもチャリオッツを破ったわけでは無いし。

【今まで本気じゃなかったのか?】

【さあな。だが、ヤバイ事になった】

焦りを含んだ和真からの念話に対する答えも惜しんで、承太郎は考える。
本気になったのか?宝具かスキルの効果でも使ったのか?そんな事はどうでも良い。
問題はあの速度で動き回る上に、飛び道具を使うことだ。常にこっちの射程距離外に位置し、そこから延々と攻撃を受け続ければ、待っているのは削り殺されて死ぬという結果だけだ。
どちらか一つだけならば対処できる、だが二つ同時となると流石に対処は困難だ。
考えながら承太郎は直感に従って右に飛ぶことでダンテスの放った熱線を回避、外れた熱線が立木に直撃し、幹を粉砕した。

2人の戦闘を見つめながら、エリカは勝利を確信していた。ランサーを見た目から只のチンピラと判断したミスを素直に認める。然し、其れでもアヴェンジャーの勝利を疑わない。
ランサーは確かに強い、あれもまたアヴェンジャーに劣らぬ重戦車。並のサーヴァントならとうにリタイアさせているだろう。だが、アヴェンジャーは耐えている。あのランサーの宝具の猛攻に。そして受けた痛みを充分に魔力として蓄えた。
今が宝具を使う時。アヴェンジャーの宝具ならば、鉄壁と言って良いランサーの宝具を避けて、側背からの攻撃が可能。

─────如何に正面からの攻撃に強い戦車といえど、後ろから攻められると弱いものなのだ─────

そう考えてエリカはアヴェンジャーに念話を送り、宝具を使わせた。
結果は上々。思ったよりもランサーが粘っているが、直に撃破できるだろう。

そう思って僅かに気を緩めた時、不意に服の中─────背中に何かが突っ込まれた。
驚愕して叫びそうになった矢先、強烈な脱力感がエリカを襲った。
突如として自分を襲った感覚をエリカは知っている。アヴェンジャーの性能を知る為に行ったテストの時、魔力を使い過ぎた結果起こった脱力だ。
猛烈な疲労の中、何とか後ろを向いたエリカは、ランサーと共に居た冴えない少年の姿を認めた。

「この…離れろ……変態…」

押し退けようとエリカは少年─────佐藤和真目掛けて両手を伸ばした。



公園の中を和真は走る。このままではランサーは負ける。そうなる前に何とかしなければならない。
とはいえ今の和真に出来る事が有るとすれば、相手のマスターにドレインタッチでも喰らわして、魔力枯渇状態に追い込む事位だ。
あのサーヴァントの猛攻は、かなりの魔力を消費しているだろうから、ドレインタッチで魔力を奪えば、主従共々行動不能に追い込める。
そう考えて和真は、敵マスターを求めて公園を移動し、エリカを見つけたのだった。
千里眼で観察し、サーヴァント同士の戦いに気を取られていて、周囲の観察を疎かにしている事を確認。潜伏スキルを用いて背後からにじり寄る。
そして背中に手を突っ込むと、エリカの反応に一切構わずドレインタッチを発動させた。傍目から見れば只の変態だが、心臓に近い皮膚の薄いところからドレインするのが効率良いんで仕方が無い。
一気に気絶する位に魔力を吸い上げたのにも関わらず、エリカは此方を振り向き。

「この…離れろ……変態…」

押し退けようと両手を伸ばし─────漸く気絶した。
そして妙な姿勢で気絶し、脱力したエリカの背中に手を突っ込んでいた所為で、和真はエリカに覆い被さる様にして倒れ込んだ。

余りと言えば余りな状態に、慌ててエリカの背中に廻したままになっている右手を引き抜いて、離れようとした矢先、立木の幹を熱線が粉砕した。

「ウソだろ!?全然力が落ちねえ!!」

あのサーヴァントが破格の魔力量を誇るのか?其れとも他に理由が有るのか?そんな事を考えたのも一瞬。和真はこの苦境からの打開策を得る為に、敵サーヴァントの観察を始めた。
エリカに覆い被さったまま。

そしてダンテスの動きの特徴に気が付いた。

【なあ、ランサー。アイツが攻撃してくる方向なんだが……ずっとスタープラチナを避けているだろ。仕留めに来る時もスタープラチナを避けて来るんじゃ無いか】

【確かにな】

本体よりも大きく頑強なスタープラチナを避けるのは当然だろう。問題は何処から来るか?右か左か後ろか上か、それとも下か。裏を描いて正面か?
承太郎考える事を止めた。只々感覚を研ぎ澄まし何処から襲って来ても即応してスタープラチナの拳を撃ち込むことだけに集中する。
ダンテスの動きはシルバーチャリオッツに比べれば洗練を欠く、動きを捉えられればスタープラチナで充分対処可能。


直後に承太郎は巌窟王を捉える/捕らえる事など不可能だと知ることになる。


「オオオオオオオオオオ!!!」

ダンテスの咆哮、狂獣すら正気に返って逃げ出す程の雄叫びと共に、蒼く黒く燃え盛る虎が獲物を狩るべく奔り出す。

「オオラァッ!」

正面から突っ込んで来たダンテスに渾身の拳撃を放とうとして─────スタープラチナは停止する。

承太郎はダンテスに囲まれていた。上に、右に、左に、後ろに、そして前に、総勢十を越えるダンテスが、5m以上離れた場所から両掌を承太郎に向けている。

此れこそが巌窟王が宝具“虎よ、煌々と燃え盛れ(アンフェル・シャトー・ディフ)”の真骨頂。如何なる牢獄も踏破する巌窟王は、時間と空間という無形の檻にすら囚われぬ。
この攻撃は多重残像の域を越え多重分身。その全てが実体。虚像など有りはしない。

─────銀の戦車(シルバーチャリオッツ)もこんな芸当は出来ねえぞ!時間でも操ってんのか!?

対処する術が浮かばぬ承太郎の隙を見逃さず、ダンテスの放つ漆黒の恩讐が殺到する。奔騰する殺意。全方位から飛来する火線が承太郎を骨も残らず焼き尽くす。


そしてダンテスは知る事になる。『世界』を支配する暴帝の、万象を縛る時の牢獄を脱した白銀の星の輝きを。


承太郎の立っていた場所を中心に巨大な火柱が立ち昇り、生じた爆発が空気を掻き乱す。荒れ狂う暴風が植えられた樹々の枝を折り、石塊を飛ばす。

「のぅあ!?」

すぐそばの樹に拳大の石がめり込んで、驚いた和真が頓狂な声を出し。

辺りが静寂を取り戻した時、承太郎もスタープラチナも、その影すら残さず消え失せ、承太郎のいた場所には爆撃跡の様な穴があいていた。

「ラアアアアンンサアアアアアア!!!?」

綺麗さっぱり消し飛んだ承太郎。影も形も有りはしない。
とりあえずヤバイ。この女が眼を覚ませば最初にやることは俺を殺させる事だろう。
あのサーヴァントがコッチ来る前に逃げよう。そう思って身を起こそうとしたら、
目の前にサーヴァントの姿。

─────死んだ。

此処にはあの駄女神は居ない。エリス様も居ない。つまり死んだらそれっきり。ジ・エンド。

サーヴァントの手がゆっくりと上がり。

「後ろから散々殴り廻してくれた礼は…タップリさせて貰うぜ」

九回裏二死満塁ツーアウトで、相手のバッターの打ったホームランがギリギリでファウルになった様な気分。
承太郎はダンテスが止めに来たその時、スタープラチナ・ザ・ワールドを発動。その場から離れて霊体化していたのだ。
そして今ダンテスの背後で霊体化を解いたにのだった。

「ラアアアアンンサアアアアアア!!!」

「貴様!?」

サーヴァントが振り返り、身構え様としたその時。

「オラ×610」

燃えるゴミを五回ゴミ出し出来るオラオララッシュがダンテスの前面部分全てに撃ち込まれた。
木立をへし折りながらぶっ飛んで行ったダンテスが見えなくなって少し経つと、何処かにぶつかったのか、爆発音が響いて来た。

「チョット見てくる。どうにも仕留め切れた自信が無い。こんな奴は初めてだぜ 」

承太郎が姿を消して直後。

「お前…何をやっているんだ?」

因みに和真は今だに気絶したエリカに覆い被さったままである。
その状態で最も出会いたく無い人種に和真は出会ってしまった。
その制服を見間違えることなど有りはしない。
揃いの制服を着た巨大なアフロの男と細目の男が、汚物を見る様な眼で和真を見下ろしていた。

「斎藤君、確保」

細目の男の指示にアフロが無言で頷き和真に手錠を掛けた。

和真は預かり知らぬ事だが、今夜此処が戦場となったのは今回でで三度目。回を追うごとに激しくなる轟音と震動に、遂にキレた近隣住民が警察に通報したのだった。

【E-3自然公園/1日目 夜(22:43)】

【佐藤和真@この素晴らしい世界に祝福を!】
[状態] 魔力消費(小)
[装備] 無し
[道具] 無し
[所持金] 貧乏
[思考・状況]
基本行動方針:脱出優先。聖杯は手に入るなら欲しいけど優先順位は低め。
[備考]
1.アヴェンジャー(エドモン・ダンテス)と交戦しましたが、クラスもステータスも確認出来ていません。
2. 襲って来たサーヴァントのマスター(逸見エリカ)を認識しまぢた。
3.気絶した逸見エリカに覆い被さった状態で手錠を嵌められました。
4.警察署に連行される模様です


【空条承太郎@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態] 魔力消費(小)
[装備] 無し
[道具] 無し
[所持金] マスターに依存
[思考・状況]
基本行動方針:マスター護る
1. 殴り飛ばしたサーヴァント(エドモン・ダンテス)が再起不能(リタイヤ)かどうか確認する。
[備考]
1.アヴェンジャー(エドモン・ダンテス)と交戦しましたが、クラスもステータスも確認出来ていません。
2. 襲って来たサーヴァントのマスター(逸見エリカ)を認識しまぢた。



【【マスター】
 逸見エリカ@ガーズル&パンツァー及び劇場版並びにスピンオフ「リボンの武者」】
[状態] 魔力消費(極大) 気絶
[装備] 一応の備えとして安全靴を用意している。他にも何か持っている。
[道具] 何か持っている。
[所持金] 一般学生並み
[思考・状況]
基本行動方針:勝ち残り、生き残り、この場を脱して西住まほ・西住みほの元に戻る事が目的であり、聖杯は副産物に過ぎない
[備考]
1.ランサー(空条承太郎)と交戦ステータスを確認し、宝具『スタープラチナ』を認識しました。
2. ランサーマスター(佐藤和真)を認識しました
3.限界に達した魔力消費で気絶しています
4.警察署に保護される様子です


【巌窟王 エドモン・ダンテス@Fate/Grand Order 】
[状態] 肉体的ダメージ(大)
[装備] 無し
[道具] 無し
[所持金] マスターに依存
[思考・状況]
基本行動方針:マスターに従う
1. ????????
[備考]
1.1.ランサー(空条承太郎)と交戦ステータスを確認し、宝具『スタープラチナ』を認識しました。
2. ランサーのマスター(佐藤和真)を認識しました
3.現在E-3)自然公園の何処かに居ます。




※(E-3)自然公園にランサー(空条承太郎)とアヴェンジャー(エドモン・ダンテス)の戦闘でかなりの損壊が発生しました。
木立が何本も折れ、地面に爆撃跡の様な穴が空いています。




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09.LES ART MARTIAUX [[]]



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16.一期一会 02.裏切りの魔女「お前らちょっとそこ座れ」




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初めの一捲り~「争」の章~ 佐藤和真
ランサー(空条承太郎)
逸見エリカ
アヴェンジャー(エドモン・ダンテス)
最終更新:2023年10月13日 11:13