「聖杯戦争、ねぇ」
「えぇ、もう大変な事に巻き込まれちゃったなーって、ナハハハハ」
市役所の一区画、そう広くはない会議室で、二人の男が会議机を挟んで談笑している。
その脇では二人が余り注目してないにも関わらず、
淡々と己を職務を遂行すると言わんばかりにニュースを流すテレビがあった。
ニュースキャスターは淀みない様子で最近この町で起きている行方不明事件について
話しているが、やはり二人には余り関心が無いようであった。
その元凶が他でもない二人の男のうちの片割れという事を考慮すれば無理もないが。
「俄かには信じがたいが…そう言えば後藤さんは?」
「今日は眠っておられます。最近ずっと後藤さんが出ずっぱりでしたから」
大柄な方の男、人を喰らう寄生生物(パラサイト)三木は、そう言ったのちぶんぶんと右手を振った。
その表情は所謂オーバーリアクションと言われる類の物であり、見るものに違和感を抱かせる。
だが落ち着いたもう片方の男性、人間である市長広川は、構わず三木に付き合う。
種族は違えどまるで長年からの知己の様な雰囲気が二人の間にはあった。
「そのサーヴァントとやらを実際に見せられたら信じない訳にはいかんが…件の英霊様を見せてくれるかね?」
「今は霊体化してもらってます…おーい、出てきていいよー」
優し気な口調で三木がそう言うと音もなく空中に禿頭が肥大化した奇形児の様な老人――アサシンが現れる。
禿頭のアサシンは空中に浮いたまま一言「なんぞ」と、呟き広川を見つめた。
これには流石の広川も一瞬少し狼狽した様子を見せ、三木はそれがおかしくてたまらなかった。
実際パラサイトをして変わり者と称される人間である彼が驚くのは非常に珍しい。
挨拶しろとアサシンに命じると、「ぬらり、ひょーん」と呼称し、パフォーマンスの如く姿を全裸の幼女に変えて見せる。
だが、これは逆に広川がアサシンをそう言う『超常現象的存在』として納得させ、落ち着かせてしまった様で、アサシンも三木も少しがっかり。
やっぱりNPCとして再現された存在でもこの人は変わっている。
そんな変わった存在だからこそ、荒唐無稽な聖杯戦争という催しを語るに至ったのだが。
「ふむ、それで私はどう協力すればいい?」
「切り替え早いですねー…取り敢えず今まで通り食堂の管理お願いします」
食堂、とは広川一派の定めた人間を喰らう狩場のことである。
三木が元いた世界とは違い、この世界は彼の仲間である寄生生物が少ない。
この市役所に勤める数十体の寄生生物以外は三木は外で仲間に出会った事がなかった。
その分秩序だった食事ができ、今の所問題はないのだが。
「この町はいいですよね、前の場所より警戒心が薄くて釣れやすいや」
「前に君は食事を見られて慌てて逃げ出したことがなかったか」
う、と三木が痛いところを突かれた子供の様に声を上げる。
あんまりこの世界では簡単に食事ができるものだから、数日前に油断しすぎて一人の男に食事を見られていた事があったのだ。
何とか気づいて始末できたが、既に通報されていた様で慌てて顔を変え男の財布のにあった身分証だけ確認してその場を離れた。
その見ていた男性が警察関係者や著名人などでは無く、アイドル事務所の
プロデューサーだったのは幸運だったと言えるだろう。
外ハネが印象的なアイドルの写真を財布に張り付けていたのを三木も見た。
その後特に騒がれる事もなく、広川の根回し等もあって事件は通り魔の犯行として処理された。
おそらく一生解決することのない迷宮入りの事件に名を連ねる事となるはずだ。
ちなみに後藤さんは、警察と戦ってもよかったのだがなと言っていた。
失点を犯した自身が言うのもなんだが、餌が手に入りにくくなりそうで正直御免こうむりたい。
「しかし大丈夫なのかね、君の説明では裁定者(ルーラー)と呼ばれる者が四人目を光らせていると聞いたが」
「それについては大丈夫だと思います。今のところアサシンの分を含めても決められた食堂と時間だけしか食事は取って無いっすから、お陰で痩せちゃいますよ、アハハハハ!」
そう、痛い目を見たおかげで三木はその軽い気質とは裏腹にアサシンの魂喰いによる魔力の貯蓄と自身の食事をきっちり時間を守って行っている。
ルーラーはNPCに向け無策に危害を加えるものにはペナルティを与えるが、全参加者に平等という性質上、秩序だった行動をする者には手を出しにくいはずだ。
もし人喰いそのものを禁じるのならば何のために自分を呼んだのだ、という話である。
後藤さんなら例の如く全方位喧嘩外交でもいっこうに構わんと言い出しそうであるが。
「それならば支援は今まで通り隠蔽工作と、加えて奇妙な刺青をした者の情報提供という事で」
「えぇ、お願いします。その代わり聖杯は広川さんの言うとおり地球(みんな)の未来のために」
三木/後藤にとってはとどのつまり聖杯などどうでもよかった。
偶然巻き込まれただけであるし、願いなどない。
ただ己の、人間で言う脳にあたる所にずっと聞こえるこの種を喰い殺せという命令に従い、闘いたいから闘い、殺したいから殺す。
その結果聖杯が得られたのなら、必要としている協力者、つまり広川の意向に沿う形で使おうと決定したのだ。
話は無事纏り、テレビを消すと広川は席を立つ。
三木もさて、と、少し伸びをして立とうとした瞬間、傍らのアサシンが三木のタンクトップの裾を引っ張り、時計を指さした。
時間は午後八時半を少し回ったころ、あと少しで夜食の時間である。
連日の魂喰いのお陰で魔力は十分にあるが、あればあるほど良い。
それに、今日は初めての”練習”の日である。
「どうしたかね」
「いやぁ何でもありませんよ、もうすぐ食事と練習の時間ってだけです」
言いながら三木は外に出る支度を済ませる。
彼の顔は相変わらず笑っていたが、見る者の第六感的に伏魔を感じさせる、そんな笑みだった。
■
月光を浴びながら、派手なコートを纏った男――ランサーは黙々と歩く。
その背におぶわれ安らかな寝息を立てるは中学生ほどの外見の美少女。
無論、少女は
二宮飛鳥であり、男は
駆紋戒斗である。
「おい、もうすぐ着くぞ。いい加減起きたらどうだ」
先ほど全身甲冑のセイバーと本戦初陣となる激闘を繰り広げたが、背のマスターはこれといった外傷は当然ながら負っていない。
魔力消費は大きかったがそろそろ歩くくらいはできるはずだ。
意思はできる限り汲むつもりだが、甘やかす気はない。
「ZZZ……」
そろそろ起きる?否であった。
完全に寝入っている。
ゆらゆらと揺れる肩口周りのエクステが電灯の光を反射してキラリと光るのを見ながらランサーは少し思った。
先ほどまで言っていた『覚悟』とは何であったのか。
「…どの道もうすぐ着くのなら同じか」
敵意には敏感かつどこまでも不服従な戒斗であったが、こう言った無防備な信頼には余り強く出ない性分であった。
無理に起こして今後のコンディションや関係に影響を出しても面白くはない。
そう無理矢理納得付け帰路を急ぐ。
その顔はいつもの仏頂面であったが、雰囲気はどこか穏やかなものだった。
……それをじっと見ている者がいるのも知らずに。
■
枯れ木のような老人を思わせる風体の人形、
シルベストリは民家の上で離れていく二人の背を見つめながら、自身もそっと後を追う。
あのバーサーカーに襲われた後、再度の襲撃を避けるためにあそこのエリアから移動し、
暫し行動を共にすることにしたサチコという名の少女の要望で、落ち着ける場所で話をする事になった。
その際にマスターの少年、宗次郎から周囲の索敵と警戒を命じられ今に至るのである。
サチコのサーヴァントであるアヴェンジャーの前にマスターを一人置いていくのはもし裏切られればという危惧はあったが、マスターが大丈夫と言って憚らぬため、
何かあれば令呪で呼ぶようとだけ伝え、この役目に就いた。
実際にマスターであるサチコの臆病さと善良さを鑑みればバーサーカーに襲われた直後、恐怖が残っている状態で裏切られる心配は少ないはずだ。
アレが演技なら大したものだが、そんな腹芸を彼女ができるとも思えない。
現時点では“答え”は期待できず、特筆すべき力も無いようだが”御しやすい”という点においては同行者として及第点だろう。
【アイドル】という他人を笑顔にする枠割(ロール)についているのにも興味をそそられる。
しかし、あの主従は何と言っても姦しい。
答えを出すまでの推移は見守りたいが、あの手の少女たちと群れるよりも自分にはこういった仕事の方が性に合っている、ハズだ。
マスターがそこまで察して命じたのならば大したものだが、そんなことはないとシルベストリは考えた。
彼は少々奔放に過ぎる。人を使う仕事には向かないタイプの人種だろう。
尤も、そのマスターのお蔭でまた一組、新たな主従を補足できたのだが。
どんなに魔力の放出を抑えても、実体化している以上は完全に抑えられるものではない。
それこそ、本職の暗殺者のクラスでもない限りは。
あの派手なコートのサーヴァントがどのクラスかは一見すると分からないが、アサシンでないのは確かだ。
(幾分か消耗しておるようであるし、ここで宝具を開放すれば首を断つのはたやすいが……)
『刹那のからくりサーカス』
最古の四人のうちの二人を瞬殺した宝具である剣技を以てして奇襲をかければ、確実に背におぶわれている少女の方は葬れる。
右半身を僅かに沈め、抜刀の構えをとる。
が、
(――――それは、私の目的にも、命令に背く、か)
対話も無く殺してしまっては自分の目的である【笑顔の意味】には近づけない。
無論マスターの命令とあればここで切り伏せるだけだが、それならば余計にマスターに伺いを立てるべきだろう。
そう判断したシルベストリは、目の前の主従を追跡しつつも、マスターに念話を送った。
■
「美味しいですね。ここの珈琲」
「そうですね。本当は夜のカフェインはボクのカワイさの大敵なんですけど、この紅茶は美味しいです」
時は少し戻り、あの赤いバーサーカーの襲撃から少しあと、幸子とアヴェンジャー、宗次郎の三人はE-4の住宅街にあった喫茶店に身を寄せていた。
「しかしこんな時間まで空いてる茶屋があるとは思いませんでした」
「此方としても、こんな時間に若いお客様が来るのは珍しいですよ。普段はサラリーマンの方がよく来るんですけど」
黒髪の眼帯をした大学生くらいの給仕の青年ははにかみながら宗次郎に答える。
住宅街にあるここは所謂『隠れ家的名店』であるらしい。
値段も少ない学生層の客を取り込もうとしているのか、学生割引が利いて非常に格安だ。
(それにしても……)
幸子は思う。
ついさっきあんな恐ろしい怪物(バーサーカー)に襲われたのに、目の前の男の子は軽すぎないか?
自分はだいぶ平静が戻ったとはいえまだ少し怖いと言うのに。
ちら、と視線をずらし、アヴェンジャーがいるであろう方を見る。
霊体化しているから姿は見えないけれど、アヴェンジャーも同じ『カワイイボク』である以上思っている事は同じのハズだ。
何と言うかこう、もっと話すべきことがあるのではないだろうか。
幸子は談笑していた店員がカウンターに戻ったのを検めてから意を決し、話を切り出した。
「あのー、瀬田さん。少しお尋ねしたいことがあるんですけど…
って言うかカワイイボクをスルーして店員さんと話をするとは何事ですか!」
「ああ、スミマセン。こう言う茶屋に入ったの初めてで。
それで、聞きたいことってなんですか?」
「失礼かもしれないですけど……何でコスプレしてるんですか?」
青を基調とした和服もそうだが、何よりも目を引くのは腰の日本刀だ。
日本をサムライやニンジャが跳梁跋扈している国と勘違いした外国人や映画村ではあるまいし、
どこの世界に帯刀して街を練り歩く高校生がいるというのか。
幸子の困惑はもっともであったが、当の本人は目をパチクリとさせ、
何を言ってるんだこいつは、と言う顔をしていたが(非常に納得がいかない)、
数秒後風体の事を尋ねられていると合点が行ったようで、また元の笑みを浮かべ、答えた。
「学校の制服や洋服もいいんですけど、やっぱりこの格好が一番落ち着くんですよね、
この格好なら廃刀令の出てるここでも輿水さんの言うように『こすぷれ』と勘違いしてくれますし」
「廃刀令って…まさかホンモノじゃないですよね……」
【本物ですよ。言ったでしょう、荒事にも慣れてる様ですって】
「ひゃいっ!」
突然のアヴェンジャーからのカワイイ念話に身をすくませる幸子。
まさかそんなと思いながら、けれどももう一人の強くてカワイイボクが言ってるのだからと、困惑した表情を浮かべざるを得ない。
そんな幸子の顔を見た宗次郎は仄かに苦笑し、鞘にしまわれたままの刀を静かに彼女の眼前へと突き出した。
店員たちからは席の角度的に見えない死角だ。
「確かめてくれていいですよ。少し輿水さんには重いかもしれませんから気をつけて」
「はい……」
そう言われた幸子は目の前の黒い鞘から出た白刃を凝視し、おずおずと慎重に受け取った。
重い。
刃物など包丁とカッターナイフ位しか刃物と縁のなかった幸子でもすぐにわかる存在感だった。
「ホンモノじゃないですか!は、犯罪ですよ!」
「ハイ静かに」
予想通りの反応をされる前にテーブルから身を乗り出し、幸子の口を塞ぐ。
モゴモゴと声を上げようとする幸子を制しながら落ち着いた頃を見計らって、宗次郎はゆっくりと座に戻った。
「瀬田さん……あなた一体何なんですか?」
【ボクも聞きたいですね】
「大した者じゃありませんよ。ただのアテの無い旅の剣客です」
二人の幸子の問い(もっとも、片方は霊体化しているため聞こえないが)に宗次郎はことも無げに答えた。
目の前の幸子は納得のいっていなさそうな顔をしていたが、事実なのだから仕方がない。
そう言えば自分もまだ聞いていないことがあった。
今度は此方が問う方だと言わんばかりに微笑を浮かべたまま、宗次郎は口を開く。
「今度は僕が聞いてもいいですか、輿水さん」
「な、何でしょう。カワイイボクが答えられることなら答えてあげますよ!」
最早虚勢ここに極まれり、と言った様相で幸子は応えた。少し涙がにじんでいる。
宗次郎が物腰の柔らかな少年でなければ逃げ出していたかもしれない。
「貴方、弱肉強食ってどう思います?」
ハ?と固まる幸子も置いて宗次郎は続ける。
その表情は笑顔だ。
いつもの通りの、笑顔。
『楽』だけを張り付けただけの様な、笑顔。
「弱い者は強い者の糧となって死ぬ……自然の摂理の事です。
正しいと思いますか?
僕は、正しいと思っていました」
脳裏を過るのは幼き日の記憶。
味方はおらず、重労働と虐待の責め苦を受けながら、それでもただ笑みだけを浮かべて愚直に生きていたあの頃。
そんな自分を志々雄真実という男は解き放ってくれた。
力という生きる手段をくれた。
生きる事とは、戦うことだと教えてくれた。
生きる事とは、弱者を喰らって生きる事とだという真実を教えてくれた。
「だから僕は弱いままじゃいけない、強くなくちゃいけない」
けれどある時、宗次郎はまた新たな真実を見た。
それは強さにも色の様に種類があるという事。
志々雄真実の様に他者を踏みにじり支配する力もあれば、
緋村剣心の様に他人を守ることで力を発揮する者もいる。
「その、はずだったんです」
そう話を区切って、宗次郎はじっと幸子を見た。
彼女は戸惑っている様だった。
当然だ、目の前の少女の人生は生死を賭けた戦いとは無縁のものだったのだろう。
殺意を向けられるのも、おそらく今日の、あの赤いバーサーカーと金髪の男からが初めて。
それ位は、宗次郎にもわかった。
だから、答えられるハズが無いと、タカをくくっていた。
「…………」
自分が分からない事なのだから、目の前の女の子が答えられるハズがない、と。
故に、彼は気づいていなかった、彼女の目じりに水滴は浮かんでいないことに。
そして数分ほど経った後、目の前の少女は真剣な眼差しで、
「……ボクには正直、瀬田さんが言っている事はよく分かりません。
その摂理っていうのが正しいのかも、断言はできないです。
―――でも、その考え方はとても寂しいと思います」
容易に、宗次郎の”世界”を飛び越えてみせる。
「寂しい?」
「はい。どんなにキラキラして輝いてるものでも、どんなに素晴らしいものでも、弱かったら意味がない、死んじゃうしかないとされてしまうのは寂しいです」
「弱くても、素晴らしいモノがあると?」
ありますよ、と自信満々に、彼女は答えた。
「例えばそう、このボクです!
ボクは戦ったりは事務所の方向的にNGですけど、それを補って余りあるカワイさでしょう!!」
そう、宗次郎の天剣がこの世界に置いても変わらない様に。
彼女にだって、不変のものはある。
宗次郎の問いを受けた時、幸子の中で一人の男が甦った。
勿論、彼女の、厳密に言えば記憶を取り戻す前の輿水幸子のプロデューサーである。
あの日、デートの約束をしたプロデューサーは死んでしまった。
余りにもあっけなく、未だ逮捕されていない犯人の凶刃に斃れた。
宗次郎の理論ではこの世界のプロデューサーは弱くて、価値が無かった事になる。
それは違うと感じた。
贋作でも、記憶を取り戻す前の輿水幸子が抱いていた彼への想いは本物で、強大で、
無意味なものなんかじゃ無かったと、断言できる。
例え元の幸子が帰るべき世界で本物のプロデューサーが待っているとしても、それは変わらないのだ。
それを初対面の人に言うのは流石に恥ずかしいし、ほかの人に言ってもこの気持ちは伝わらないだろうから、もう一つの変わらぬモノを挙げたけれど。
「そんな有名アイドルでカワイイボクと知り合えた幸運。
瀬田さんは感謝しなきゃいけませんね!」
もしこれが今後の事だとか、戦うしかない状況になったらどうするとか、そんな質問だったら答えられなかったはずだ。
しかしこの問いなら、率直な自分なりの思いを提示することができた。
きっとプロデューサーのお蔭だ。
すっかり何時もの調子でずびしと宗次郎を指さし、年相応のささやかな胸を張る。
「……正直、そんな答えが返ってくるとは思いもしませんでした」
さしもの宗次郎も、彼にしては珍しく目を細めたまま僅かに驚愕した様子を見せた。
志々雄の愛人、夜伽の由美ですらここまで自分の容姿に自信を持っていないだろう。
それを見た幸子はさらにドヤ顔を浮かべる。
「フフーン♪やっと笑顔以外の顔をしましたね」
「あ、バレてました?」
まさか作り笑いの事も看破されていたとは。
アイドルとは一体何なのだろう?
そんな彼の疑問も置き去りにするスピードで幸子はさらにドヤ顔を深めた。
「当然ですよ。ボクはアイドルですから、
ファンの方が本当に笑顔になってるかくらい見抜けます!」
「そうかぁ。凄いですね、あいどるって
僕は輿水さんの事これっぽっちも知りませんでしたけど」
「えぇっ!?」
眼を剥く幸子を見てクスクスと笑う。
『楽』しかなかった様な先ほどまでとは違い、本当に『楽しさ』を感じている様に。
無論これは幸子の解であり、宗次郎の解ではない。
自分の答えでなければ、緋村剣心の言っていたように前に進んだとは言い難い。
それでも、彼女の答えはあの古惚けた時代で宗次郎がどれだけ縮地で駆けても手の届かなかった物だったのは確かだ。
「ありがとうございます、輿水さん」
「トーゼンです。答えてあげたんだから瀬田さんも帰るのに協力してくださいよ?」
「はいはい、分かりまし―――」
【マスター、新しいサーヴァントを発見した】
ぺこりと幸子に下げていた宗次郎の脳内に声が響く。
無論、アサシンのものだ。
「? どうしたんですか?」
「……アサシンさんからの連絡が入りました。そろそろ出ましょうか
すいませーん。お勘定!」
顔が強張る幸子をそっちのけで、足早に勘定を済ませる。
その顔は、またさ今までの『楽』を浮かべた笑顔に戻っていた。
「………悪い人じゃないみたいですけど、変な人ですね」
一言呟いた後、幸子は手を引かれ、二人は足早に店を後にする。
(そういえば、強くてカワイイボクは途中から静かでしたね?)
■
中途から、忸怩たる思いでアヴェンジャー・輿水幸子は二人の問答を見ていた。
あの彼女が一言も発することなく、息を潜めていたとすら表現できるレベルでただ、じっと。
それはタイミングにして、宗次郎の問いかけから。
―――でも、その考え方はとても寂しいと思います。
―――どんなにキラキラして輝いてるものでも、どんなに素晴らしいものでも、弱かったら意味がない、死んじゃうしかないとされてしまうのは寂しいです
―――ボクは戦ったりは事務所の方向的にNGですけど、それを補って余りあるカワイさでしょう!!
もう一人の、”夢から醒めたボク”の解(こたえ)を聞いたとき、思わず息が詰まった。
無理もない。だって、
、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、
その答えは輿水幸子本人であるはずのアヴェンジャーすら予想できなかったのだから。
分かっていたはずだった。
それでも、『夢から醒めたボク』と、『醒めない夢を見たボク』の違いを唐突に、不意打ちの様に自覚してしまった。
英霊として世界に召し上げられる程武功を上げ、歌い、踊り、絢爛に生きた彼女は宗次郎の語った弱肉強食の理を心中で否定していた。
人の生き方は強さや弱さの二つで測れるものではないと。
夢から醒めた自分もそう思うはずだと、きっと否定すると信じて疑わなかった。
しかし、夢から醒めた自分はその理を否定しようとせず、ただその考えは寂しいと告げた。
それを夢から醒めた自分に力が無いからだとか、宗次郎に気を使ったのだろうとか言い訳するには容易い。
けれど、力を手に入れてしまった、騎士として戦い抜いてしまった”強くてカワイイボク”には出せなかった答えだ。
一見同じようでいて、それでいて0と1の様に致命的なまでに違う解答。
その純然たる事実はアヴェンジャーの心に名前の付けようのない感情の澱を作った。
「嫌、ですね……」
“優しくてカワイイボク”なら抱くはずのない、必要のないはずの感情。
それを抱いたことが更に、お前は聖杯を獲ったとしても帰れないと、耳元で囁かれている様な気分だった。
大鎌をぎゅっと握りしめ直して、この世界で出会った知らない男の子に手を引かれる自分を見ながら彼女もまた店を出ようとする。
瞳に映った、呆れた顔をして男の子を見る”優しくてカワイイボク”の姿に、アヴェンジャーはやはり形容しがたい感情が渦巻くのを感じた。
それを敢えて一番近い言葉にするのなら、憎しみに限りなく近い羨望と、
如何なる時もカワイイ自分に対する憎悪が裏返った様な生々しい愛情。
(帰り道は、まだまだ見つかりそうにありません……)
いや、
そもそも、帰り道など残されているのだろうか。
―――――アヴェンジャーは自身のスキルにより魔力が満ちるのを感じた。
■
「何だ貴様」
念話を送ろうとしたその刹那、尾行していた長コートのサーヴァントの声が響く。
シルベストリは若干の驚愕を覚えて念話の送信を断念した。
自分の気配遮断は未だ効力を発揮しているはず、気付かれる様なミスは犯していない。
考えられるとするならば索敵の類の宝具やスキルだが、
あの長コートのサーヴァントが気配察知の類の能力を持っていたならば、もっと早くに気付いていなければおかしい、それに奴は無防備な姿を自分に晒しすぎだった。
となれば、残る可能性は一つ。
シルベストリは視線を少女と長コートのサーヴァントの前方に向ける。
「新たなサーヴァント、か」
嫌に呑気な笑みを浮かべた大柄の男と、禿げ頭の背の低い怪老が、横に並んで進路を塞いでいるのをシルベストリはその眼に認めた。
■
「何だ貴様」
剣呑な雰囲気を出しながら、ランサーは男達に問う。
「いやー、君サーヴァントだろ?あ、俺三木ね。こいつはアサシン。
まさか練習の日にサーヴァントに会えるなんてツイてるなぁ、アハハハハハ!!!」
「ツイておるぞ」
刺すようなランサーの視線も一向に介さず、三木はバカの様に笑った。
傍らのサーヴァントと思しき老いぼれも追従し非常にランサーのカンに触る。
即刻叩きのめしたい所だが、ここは制止するべき時だ。
マスターである飛鳥が寝ている時に戦闘に入るのは愚策に他ならない。
ランサーはその背に身を預けているマスターを一瞥した。
「マスター……」
「ああ、今起きたよ」
どうやら既に起きていたらしい。
それならばさっさと自分で歩けと文句の一つも言いたかったが、今は後回しだ。
飛鳥を横に降ろし、ランサーは問うた。
「あのサーヴァントのステータスは」
「低いね、軒並みEだしさっきのセイバーと比べるべくもない。ただし宝具は…嫌に高い」
「つまり宝具頼みの雑魚か」
その言葉に三木が手厳しいなぁとまた笑う。
タンクトップとジーパンのその姿はとても魔術師には見えないが、一般人とも思えない図太さだ。
ただの馬鹿か、それともその能天気さを支える裏付けがあるのか…
ランサーは少しの黙考ののち、飛鳥に指示を出した。
「マスター、お前はそこの横路地から先に家に帰っていろ」
「いいのかい?そうするとボクはキミの”証明“をその瞳に収められない訳だけど」
「またさっきのセイバーとの戦いの時の様に地に這いつくばられたら面倒なだけだ」
脳裏を過るのは先ほどのセイバーとの戦い。
戦闘後とはいえ魔力消費によって飛鳥は一時間ほど意識を失っていた。
無論、単独行動のスキルのお蔭で命に別状はなかったが、しばし行動に支障をきたしたのは確かである。
加えて、十全の状態の時に戦ったセイバー戦とは違い、これは今日で二戦目だ。
また飛鳥がああなるリスクは大いにあった。
戦闘時に倒れられた場合さらに最悪。
それならば、早々に安全な場所に戻らせた方がランサーとしても安心して戦えるという話である。
飛鳥もそれは分かっている様で、少し軽口を叩いたが直ぐに納得したように肯定の意を示す。
「それじゃあ、ボクとキミの帰るべきセカイで待ってるよ!」
「何かあれば令呪で呼べ」
ぴょんとランサーの背から飛び降り、走っていく飛鳥を見て三木とアサシンは目を丸くした。
その横のアサシンもそれを真似して目を丸くする。
「れれっ?帰っちゃうの!?」
「何故ぞ」
「フン、これで貴様らを何の憂いも無く叩き潰せるというわけだ」
今までずっと笑い仮面であった三木がここで初めて顔を渋くした。
アサシンもそれを真似をして、二つの渋面が並ぶ。
「俺も今日起きたばっかりでハラ減ってるのになぁ。
それにあの子は君にとってのボディみたいなもんなんだろ?」
「何が言いたい?」
「そうだったら俺が思うに、あの子を殺せば勝ちなんだと思うんだけど
アサシンみたいに君らサーヴァントが後藤さんでも殺せないのなら、
俺がやれる訳無いしねぇ」
そう、アサシン――
ぬらりひょん星人が現れた日、三木の同居人である後藤は自らのサーヴァントと既に一戦交えていた。
マスターの中でも非常に高い戦闘能力を誇る戦闘マシーンである彼らしい行動だろう。
しかし、アサシンは幾ら斬った所でまるでプラナリアの如く分裂再生を繰り返し、
田村玲子が最強と称した寄生生物後藤ですら、遂に殺しきることはできなかった。
この事から三木と後藤はサーヴァントは物理的攻撃では滅ぼす事は困難であると踏んだ。
ならば、サーヴァントにとってのボディ/マスターを狙えば良い。
「マスターを殺すか。どうやって?させると思うのか、俺が」
相手方の狙いは分かった。
ならば、此方は真っ向からその狙いを粉砕してやるだけ。
ランサーはその手に、ベルトのバックル型の黒いバックルを顕現させる。
それを腰に装着すると一瞬紫電が放出し、三木が「おおっ何だぁ!」と驚愕の声を上げた。
三木に構わず、次いでバナナの意匠が施された錠前を取り出す。
「変身」
『バナナ!』
―――――刺し貫く鮮黄の槍(バナナアームズ)
喧しい電子音と己の鬨の声を合図にして、ドライバーのコネクタに滑らかな動きで接続。
『ロックオン!!』
クラスAの錠前であるバナナロックシードはここに起動し、空にジッパー状の孔が開く。
そして、馬鹿に大きいサイズのバナナがランサーの頭上へと落ちた。
「バ、バナナ……バナナ!?」
「何ぞ、何ぞあれ?」
『バナナアームズ!ナイトオブスピアー!』
面食らう三木とその足元で跳ねるアサシン。
それを尻目にカッティングブレードを倒すと、赤と黄を基調とした装甲がランサーのその身を包む。
これにて全ての工程は完了、専用アームズウェポン、バナスピアーを握りしめ臨戦態勢に移行する。
「覚悟しろ、三木、アサシン」
「いや…なんだこれは…たまげたなぁ…」
パチパチと三木は手を叩いてランサーを称えた。
彼ら寄生生物は基本的に合理的かつ鈍感だが、感情が存在しない訳ではない。
知的好奇心が高い個体も希少だが存在する。
無論、ランサーには興味のない事だが。
「しかし手強そうだなぁ、君のマスターは魔術師なのかい?
あの子もバナナの味がするのかな」
「……貴様、やはり人間ではないな」
「あ、分かるかな」
そう言って三木は自身の腕をまるでゴムの様に滑らかに変形させ、鉄のように硬質化させてみせる。
ランサーはそれを見ても三木のオーバーリアクションとは対照的に、大きく動じる事無くただ、僅かに眉を潜めて体勢を落す。
やはり、薄々感づいていたがこの男は危険だ。
弱者を喰らい生きる事が当たり前の存在だ。
ランサーと近しい存在意義を持ちながら、彼の理想とする新世界には決して相入れない敵。
ここで殺す。
「分かるさ、貴様からはインベスと同じ臭いがする!」
直後、アスファルトを強く踏みしめランサーが駆ける。
一息で彼我の距離を詰め、アサシンへバナスピアーの強烈な薙ぎ払いをお見舞いした。
対するアサシンは即座に対応し、それを自分矮躯を活かして横跳びで初撃を躱す。
が、甘い。『この』アサシンのスペックでは追撃までは躱せない。
ランサーは槍が躱されたと見ると即座に足を振るい、ロゥキックを放つ。
丁度跳んでいたアサシンは空中で防御も出来ず、その巨大な頭に蹴りを受け―――
「っと、そうはいかない」
その蹴りを阻むは硬質化させた三木の左腕。
寄生生物の生物として突出したポテンシャルの高さはサーヴァントの攻撃を妨害する事は可能とする。
舌打ちをしてランサーは三木の左腕を断とうとするが、相手のスピードもさる者、常人では視認することも叶わない速度で腕を引っ込める。
アサシンもその頃にはキルゾーンから逃れていたが、奇妙なことに反撃は来ず、そのまま最初の交錯は果される。
「やる気があるのか貴様ら」
決定打は持っていないせよ、サーヴァントの攻撃すら妨害が可能なマスターと二対一の状況で攻め手に出なかったアサシンにランサーは憤りを隠せない。
だが、アサシンはそんなランサーの怒りなど全く意に介さず、感情のくみ取り難い瞳で見つめ返すだけだ。
「うーん、やっぱり俺とアサシンだけじゃ厳しそうだなぁ」
「それならさっさと倒されるがいい」
あくまでヘラヘラとした三木の態度も、ランサーの静かな怒りに油を注ぎ続ける。
こんな奴らにいつまでも付き合っていられるか。
冷静に状況を分析しながら、一気に勝負を決めるべくカッティングブレードに手をかけた。
元より、狙うは短期決戦だったのだ。
あのアサシンの身のこなしであれば、アーマードライダーバロンの必殺技であるバナナスカッシュであれば押し切れる。
宝具の存在が懸念点ではあるが、机上の空論に怯えるほどランサーの肝は細くない。
奥の手を使わせる前に仕留める。
恐れを知らぬその鋼の如き意志で勝負を決めるカードを切ろうとした、その時だった。
「興味深いぞ」
短い言霊が、戦場の空気を明確に変える。
ここでアサシンが初めてランサーの前に進み出たのだ。
「あー良かったね。アサシンが本腰で相手してくれるみたいよ」
「…その必要はない、
貴様らこれで消え失せろッ!!」
カッティングブレードがそのまま倒され、火花が散った。
それと同時にバナスピアーが、巨大なバナナの様な質量をもったエネルギーを放出させる。
地面を掘削しながらソレは肥大化し、アサシンへと迫る。
一時間前に交戦した甲冑のセイバーのステータスならば十分に耐えきられただろうが、眼前のアサシンのステータスならばそうはいかない。そのはずだ。
だが、なおもアサシンは動かず、ただ致死の攻撃を待ち受ける。
そして、アサシンの相貌が見開かれたと同時に、黄金色のエネルギーが寸分違わず着弾した。
刹那、衝撃。
激しい光の交錯と、もうもうと立ちこめる砂塵にも構わず、ランサーは正面を凝視する。
「…………ッチ」
彼のアサシンの魔力は、未だ消えてはいない。
否、それどころか数秒前まで感じなかった魔力がさらに二つ、増えている―――
砂煙が晴れる。
気味が悪い程に先ほどまでと同じ世界が、そこにあった。
けろりとした顔で立っているアサシン、ニヤニヤと張り付けた様な笑顔を浮かべる三木。
違うものと言えば、破壊された路面、
加えて、アサシンに使えるように左右の守りを固める二体の異形。
どちらも優に三メートルはありそうな巨躯であった。
一体は黒装束を纏い白い袴を履いており、背の白き翼と一つ一つが水晶玉程もありそうな首に嵌めた数珠が目を引く
表情は主を害する標的への憤怒、その貌は紅よりもさらに朱い色をしていた。
主に鞍馬等の伝承で著名な怪異、天狗である。
もう一体は白い束帯で身を包み、漆黒の鳥帽子を頭に乗せている。
一見すれば平安の貴族を思い起こしそうな格好だろう、b
来ている者が天狗とは対照的な無表情を浮かべた狗でさえなければ。
これこそがアサシンの宝具の一端。
――――『百鬼夜行(大阪ミッション)』である。
この二体の妖(あやかし)が、バナナスカッシュを着弾の直前にはたき墜としたのだ。
「フン、何かと思えば数で勝負と来たか……」
あくまで尊大な態度を崩さないランサーだが内心では舌打ちが抑えきれない。
早期での決着を望む彼にとってこれは考えうる限り最も避けたい最悪の状況であった。
アサシン本体に加え眼前の二体の化け物を相手取るのは、マスターへの負担を強いらずには厳しいと言わざるを得ない。
ステータスを観ずとも分かる、この二体は一山幾らのインベスなどとはワケが違う。
ゲネシスドライバーを使えば勝機も見えてくるが、マスターの残存魔力を考えれば難しい。
こうなると三木本体を狙うか、撤退も視野に入れるべきか。
撤退する自分を見て笑う三木を想像すると、それだけで腹を衝く様な苛立ちが湧いてくるが、背に腹は代えられない。
だが、そんな彼の目算を正しく嘲笑うかの様に状況は最悪から頗る付きの最悪へと変わる。
「そう言えば、さっきどうやって君のマスターを狙うか聞いてたよね、ランサー君?」
「貴様にそう呼ばれる筋合いはない」
今、ランサーと、三木は確かにそう呼んだ。
ちなみに飛鳥は一度もこの男の前でクラス名を呼んでいない。
これだけバナスピアーを振るっていれば看破されるのは当然かもしれないが、それにしても馬鹿面に似合わない冷静さと洞察力だ。
真に警戒すべきは、アサシンではなくあのマスターかもしれない。
と、いつの間にか三木に意識を誘導させられていたランサーに対し、三木は勝ち誇った笑みで口を開く。
「まぁそう言わないでよ……つまり、こうするんだ」
「……ッ!? 行かせん!!」
三木の言葉が放たれると同時に、狗神が三木をその肩に担いだ。
不味い。
直感的に理解したランサーは即座に展開できる全魔力を脚部に集中させる。
その魔力を活かしてバロンが出せるトップスピードで三木めがけ突貫、首を叩き落とすのだ。
何としてもこれで仕留めるほかない。
マスターを喰らう事に執心していたあの怪物を行かせてしまえば、自分のマスターの、あの少女は否応無く窮地に立たされる。
最高速度でのバナスピアーでの全力刺突。ゼロカンマ秒で到達しようとしたそれは―――しかして、打ち取るには至らず。
ただでさえ正面突撃は読みやすい攻撃なのだ。
まして焦燥が奔った状態のランサーでは、刺突が例え音速を超えていたとしても狗神は兎も角も三木を仕留めるのは不可能だっただろう。
さらに天狗が待ち構えていたのだから、なおさらである。
まるで巌の様に佇む天狗は、バナスピアーをガッチリと捕え離さない。
「ぐ…離、せッ!!」
掴まれたバナスピアーを巡り、力比べが始まるがどうにも分が悪い。
やはり、アサシンが呼び出したこの天狗は、並のサーヴァントを凌ぐ力を有している。
否、既にここにいる怪異は天狗と狗神のみに非ず。
浮世絵にでも出てきそうな妖怪たちが気付けば数体、ランサーの退路を塞いでいる。
その時、閑静な住宅街でかつて屍戦士達が体験した地獄が、再現されつつあった。
「フフフフ、勝ったな!!!」
「待て、貴様尻尾を巻いて逃げるつもりか!?」
狗神の肩に腰掛け去っていく三木をありったけの殺意を籠め一喝するが、取り合ない。
三木はネがカルイのだ。
「――――邪魔だァッ!!」
怒りのままに槍を支点として体を半回転させる。
浮き上がった体を捻り、天狗の側頭部に憤怒を込めた蹴撃を叩きこんだ。
予想外の反撃に天狗も対応が利かず、直撃を受け吹き飛ぶ。
だが、ここで彼にできた反撃は打ち止め。
既にランサーの視界からは三木と狗神は消え失せていた。
残ったのは退路を塞ぐ数体の怪異、そして天狗とアサシン・ぬらりひょん星人。
「………いいだろう。貴様らをここで瞬殺して、三木も殺す。それだけだ」
ここまでの逆境化に置いてもランサーの戦意は衰えを知らない。
むしろ、さらに燃え上ってると言っても良い。
あのマスターは戦う術を持たない、だが、戦わないマスターが弱者とは限らない。
自分が戻るまできっと持ちこたえるだろう。駆紋戒斗は己のマスターを信じた。
信じるほかなかった。
声も無くアサシン達に無言の殺意を募らせ、その手にゲネシスドライバーを出現させる。
最後の宝具の使用も考えたが、この短時間でそこまで魔力消費を強いてはマスターの命に関わる。
最早撤退も難しくなったこの状況ならば、此方の方が適当だろう。
そんなランサーのゲネシスドライバー見て、ぬらりひょんは、
「興味深いぞ」
何が興味深いのかはアサシン自身にしか分からない。
直後、変身音が夜の闇に響き渡った。
【E-4/1日目 夜(22:00)】
【ランサー(駆紋戒斗)@仮面ライダー鎧武】
[状態] 健康
[装備] ゲネシスドライバー&レモンエナジーロックシード、ソニックアロー
[道具] 戦極ドライバー、ロックシード一式
[所持金] 無し
[思考・状況]
基本行動方針:願いを叶える
1.アサシンを倒し三木は殺す。
2. セイバー(モモン)に対し(本人は否定しているが)再戦を望んでいる。
[備考]
1. セイバー(モモン)の宝具は目の当たりにしてますが、宝具だと感づいているかは不明です。
2. 「運命超越す緋色の王(ロード・バロン)」を除く全ての宝具を解放しています。
3.アサシン(ぬらりひょん第一形態)のステータスを確認しました。
4.三木が人間でない事に気づきました。
【ぬらりひょん@GANTZ】
[状態] 健康
[装備] 無い
[道具] 無い
[所持金] 無し
[思考・状況]
基本行動方針:ぬらりひょーん
1.バナナ…興味深いぞ。
[備考]
1.D-4エリアに宝具『百鬼夜行』を発動しています
2.
二宮飛鳥&ランサーを確認。ステータスを把握しました
■
「ふむ、あのランサーの主従が脱落するのも最早時間の問題だな
運のない者達だ」
気配遮断によってランサー主従にも、禿頭のアサシンの主従にも捕捉されなかったもう一体のアサシン、
シルベストリは両者の立ち合いから顛末までを見届けるに至った。
介入しても良かったが、アサシン主従がどう出るやも分らぬ不確定要素を敬遠して見送ったのだ。
そのお陰でじっくり観察することができ、あのアサシンの宝具はどうやら怪異を呼び出す類の物であるらしいと推察ができた。
それはあの二体の側近だけではないようで、住宅地の周囲を見渡せば至る所に痩せ細った鬼、餓鬼が蠢いて居る。
よくよく確認すれば仕事帰りのNPCが夜の闇に紛れて何人か貪られていた。
恐らく同一の宝具であろう。
魂喰いによって自動的に魔力を賄おうとするとは、何とも大胆で低燃費な。
その様な分析をしつつもシルベストリは今度こそ己のマスターへ念話を送り、簡潔に説明を吐いた。
【――――成程、大体状況は掴めました】
【それで、どうするマスター】
【その二人のマスターは、シルベストリさんが欲している”答え”は持っていそうですか?】
少々予想外のマスターからの、問い。
これが聖杯狙いの魔術師であれば、アサシンの宝具やスキルの詳細をまず探っただろう。
シルベストリは僅かに間をおいてから答える。
【……二人とも持ってはいないだろうな、一人はそもそも人間では無いようだ、
そしてもう一人はもうじきこの舞台から永遠に脱落する】
【本当に?】
再びマスターから放たれる問い。
いや、これは最早駆け引きに近いだろう。
【すまないが意図を測りかねる。マスターは何が言いたいのかね】
【その女の子かランサーさんは、僕と貴方が答えを持っているかもしれない。
それを一言も話さず見殺しにするのは――――寂しくないですか?】
寂しい。
その言葉に体内の歯車が軋み、疑似体液が揺れる感覚を覚えた。
―――おじさんは、寂しかったんでしょ!
魂から切り離された少年の言葉が、何もないずっと続く白い部屋が、記憶を駆ける。
【……自動人形(オートマータ)に寂しいという感情は存在しない】
【何か気に障ったのなら済みません。
何が言いたいかというと僕はまァ、死にたくはないですけど今は聖杯が欲しいワケでもないですし
僕達が答えに近づける可能性があるのなら、その子を助けるのも良いと思うんですよね】
【もしランサーのマスターが聖杯を求めていたとしてもかね】
この返答には彼も押し黙った。
念話を通した二人の間に沈黙が降りる。
【―――じゃあ言い方を変えましょうか。
ここでその子を助けて、三騎士のランサーさんに恩を売っておくのは悪い事じゃない】
成程、感覚的な話ではなく利を見据えた判断という方向に切り替えたらしい。
だが、純粋に戦力の強化をはかるなら老爺のアサシンのほうについたほうが合理的である。
【詭弁だな、利を求めるならアサシンの主従に協力すべきだ】
哲学する自動人形、シルベストリは冷徹な態度を崩さない。
だが、そんなシルベストリに腹を立てる様子もなく、宗次郎は負けじと言い放った。
【やだなぁ、アサシンは貴方がもういるじゃないですか】
殺し文句もいい所だ。恥ずかしげもなく。
あの少年のにこやかな笑みがありありと想像できる。
彼なりの打算もあるだろうがここまで期待されては、演じるほかない、か。
フ、とシルベストリはその深い皴が刻まれた頬を歪めた。
【―――と、僕達のほうも相手をしなきゃいけない方々がもうすぐ来そうなのでこれで】
【物の怪の類かね】
【えぇ、それじゃお願いしますね】
それを最後に念話が切られる。自分が断るなど一片たりとも思ってもいない様な声であった。
ここからマスター達のいた喫茶店の前までは少し距離がある。
ならばあの怪翁の宝具の射程距離は多めに見積もって一エリアほどになるだろうか、と類推する。
とは言え、マスターの所にはアヴェンジャーがいる以上さして問題ではない。
先に果たすべきにマスターに命じられた命令だ。
自動人形は主人に仕えるが定め。主人に課された使命には全力をもって答えねばならない。
さわ、と揺れるスズランの花に優しく手をやる。
自分にスズランの花を売ってくれた少女の顔が、何故か浮かんだ。
「さて、間に合うか」
脚部のバネに力を込め、老兵は月輪に飛ぶ。
■
「あの、瀬田さん…」
「何ですか?」
少し肌寒い夜の気温を感じながら、言葉とともに手を離した。
視線を頭一つ分下げれば、出会った時と同じ様に不安げな顔をした女の子がいる。
「新しいサーヴァントを見つけたって…やっぱり戦ったりするんですか?」
「まぁ、そうなるかもしれませんね。もう闘ってるみたいですし」
彼女が何と言いたいか、彼にもなんとなく分かった。
多分、考えているのはあの赤いバーサーカーとの戦いのことだろう。
誰だって、初めて自分を殺そうとしてくる者の事は忘れない。
宗次郎も、志々雄から貰った脇差しで斬殺した家族の顔を忘れた日など一日も無い。
「何とか、ボク達みたいに戦わずに済ませられ……」
「難しいでしょうね」
即答であった。
「僕たちみたいに聖杯狙いにもつかず、かと言って聖杯を破壊するでもないと立ち位置は、
両方の人たちを敵に回すかもしれないって事なんです」
「でも…」
幸子にも宗次郎が言っている事は理解できる。
けれど、彼女はまだ守られるべき子供だった。納得まではできない。
年齢的に言えば宗次郎もそう変わらないけれど、志々雄真実に出会った雨の降る夜、
剣を振るったその時から彼はただの子供ではなくなった。
極意は殺生。剣術とは殺人術。
それは弱肉強食の理を持たずとも侍の概念が廃れつつある明治の世でなおも刀を持ち続けた剣客たちが共有した真実。
勿論のこと宗次郎も例外ではない。
例外では無いが―――それが今の彼の全てという訳でも決してない。
その証左として、彼は目の前の少女に告げる。
「まァ、闘うとしても本当に自衛のためだけですから安心してください」
「……本当ですか?」
「はい。火の粉を払うだけですよ」
約束する。
そこまでは言えなかった。
いずれ出るかもしれない答え次第では、嘘になってしまうかもしれないから。
緋村さんなら何と言ったのだろうか。
「―――じゃあ、今がその火の粉を払う時ですね。アサシンのマスターさん」
そんな宗次郎の言葉に反応したのは、霊体化を解き現れた彼女のサーヴァントだった。
大鎌を担ぎ、角を生やしたアヴェンジャーは、マスターの少女とは違いどこか苛立たしげな顔をしている。
同じ顔でも、表情次第で大分印象が変わるものだ。
言ったらさらに怒らせてしまいそうなので「ハイ」とだけ相槌を打ち、腰の刀に手をかけた。
「な、何ですか二人とも!」
「決まってるでしょう。カワイイボク達を狙う悪者のご登場ですよ」
また一人だけ状況が掴めていない幸子をアヴェンジャーが制する。
路地の曲がり角を睨みつけながら。
十数秒後、二人の警戒の通り、その『悪者』は姿を現した。
「ほほほほほほほほ」
「はははははははは」
ひっとアヴェンジャーの後ろで控える幸子が悲鳴を漏らす。
出てきたのは阿亀と般若の面をそのまま長身痩躯の人間に張り付けた様な畸形。
十中八九、禿頭のアサシンが召喚した怪物であろう。
その風体、腰に差された日本刀も目を引くが、幸子が嫌悪感を覚えたのは二体の表情だ。
二体の怪異は笑う、ニタニタと、げてげてと。
相対する自分達を嘲笑するように。
加えて、歪む口元は生臭い赤色で染まっていた。
まるで小梅さんが観るホラー映画の怪物の様。
「まったく、カワイイボクをこんなお化けの前に連れ出すために、ボクをダシにするなんて
アサシンのマスターさんはエスコートがなっていませんね」
「ごめんなさい、でも放っておくわけにもいかないでしょ?」
「それはそうですけど……はぁ、仕方ありませんね…」
彼女としても聖杯戦争で余計な犠牲が出るのは望むところではない。
怪物とも騎士団にいた頃に怪物退治もさんざん経験した。
目の前の二体に比べればぴにゃこら太の方が一万倍程可愛げがあるけれど。
「取り敢えず僕が引き付けますので、後詰は頼みます。僕だけじゃ勝てないみたいなので」
「貸し一つですよ。後、勝手に斬られて後ろのボクにスプラッターな光景だけは見せないでください」
「善処します」
マスターの方の幸子を守れる様アヴェンジャーが後退するのを一瞥し、宗次郎が前衛に立つ。
目の前の妖を見ても、人生に緊張という二文字を感じたことのない彼は全く動じる様子はない。
すると、それに呼応するように目の前の阿亀と般若も腰の刀を抜いた。
「最後の言葉を聞こうか…」
般若が口をきく。
その威容は正に剣鬼。
迂闊に動けばその腰の刃が鞘走り、宗次郎の胴を断つだろう。
そんな状況にも関わらず、当の本人は呑気に手を顎にやり考え込む。
「瀬田さん…」
電柱の陰で、幸子は宗次郎の名を呼ばずにはいられなかった。
どんな剣道少年でもあんな怖い鬼にはきっと勝てない。隣の阿亀の人も怖い。
それなのにあの人はサーヴァントも連れずに向き合っている。
それがどんなに危険か分かっているはずのアヴェンジャーも、鎌を向けて牽制しているが、それだけだ。
自分とそう変わらない歳の、片方は自分そのもの人なのに、どうしてこう違うのだろうか。
と、そこで宗次郎が顎から指を離し、口を開く。
「思ったより、大した事なさそうですね。
これなら緋村さんや志々雄さんのほうが強いや」
一閃。
かつて屍戦士を一刀のもとに切り伏せた般若の居合いが放たれる。
その速度、幸子には振るった般若の腕がブレたようにしか見る事叶わず。
その実は横一文字の、受ければ上半身が泣き別れる事必至の斬撃であった。
その白刃の鋭さ、彼女はこの刹那、宗次郎の死を疑っていなかった。
阿亀もニヤニヤ嘲笑を浮かべていた事から同じく、疑っていなかったはずだ。
「――――やっぱり速さは凄いけど、殺気が見え見えです」
「「! ?」」
彼が、二体の怪異の背後に現れるまでは。
確かに般若の一閃は速かった。速度と技量で言えば一流の剣客を凌ぐだろう。
だが、その怪物としての剣気を隠すのは不得手だったらしい。
いかな速度を以てしても、殺気や剣気を隠せなければどう攻撃するつもりなのか、明治のひとかどの剣客には予想が立てられるのだ。
二体の怪異が志々雄真実や緋村剣心より弱いとした根拠がここにあった。
素人相手なら速度と膂力だけで十分真っ二つにできただろうが、宗次郎の天賦の剣才はその隙を見逃さない。
「はッはッはッはッはッ
クサイ、クサイ、キデンはクサイぞ」
「斬りたいのう、斬りたくて堪らぬぞ」
予想外の難敵の登場、しかし心底楽しそうに二人の鬼畜生は更なる死合を求めた。
対する幕末の悪鬼が育てし、最強の修羅は動かない。
一手の読み間違いが直死に繋がる相手を前に、不敵に微笑む。
「それじゃあ行きますよ、縮地」
トントンと、足の感覚を改め、
同時に、剣気が満ちる。
時空を超えた舞台の上で、羅刹達による剣舞が始まる。
【E-4(住宅街)/1日目 夜(22:15)】
【
瀬田宗次郎@るろうに剣心-明治剣客浪漫譚- 】
[状態] 健康
[装備] 無銘の刀
[道具] 無い
[令呪] 残り三画
[所持金] 学生相応
[思考・状況]
基本行動方針:答えを探す。答えによっては聖杯を獲るのも吝かではない。
1.目の前の怪異を倒す。
[備考]
1.
百夜ミカエラ&バーサーカー(
黙示録の獣)を認識。ステータスを確認しました。
2.輿水幸子&アヴェンジャー(輿水幸子)を認識。ステータスを確認しました。
3.輿水幸子と行動を共にする事にしました
【輿水幸子@アイドルマスターシンデレラガールズ】
[状態] 健康
[装備] 無い
[道具] 無い
[令呪] 残り三画
[所持金] 学生だがアイドルなので一般学生よりは多い
[思考・状況]
基本行動方針:答えを探す。『ボク』と共に居る
1.瀬田さん…
[備考]
1.百夜ミカエラ&バーサーカー(黙示録の獣)を認識。ステータスを確認しました。
2.瀬田宗次郎&アサシン(シルベストリ)を確認。ステータスを把握しました
3.瀬田宗次郎と行動を共にする事にしました
【輿水幸子@グランブルーファンタジー】
[状態] 健康
[装備] 大鎌
[道具] 無い
[所持金] マスターに依存
[思考・状況]
基本行動方針:輿水幸子へと帰る。
1.小梅さんの見る映画みたいなスプラッターホラーな展開にはなりませんように。
[備考]
1.百夜ミカエラ&バーサーカー(黙示録の獣)を認識。ステータスを確認しました。
2.瀬田宗次郎&アサシン(シルベストリ)を確認。ステータスを把握しました
3.瀬田宗次郎と行動を共にする事にしました
4.瀬田宗次郎&アサシン(シルベストリ)が、人を殺し慣れていることに薄々感付いています
■
さて、どうしたモノか。
ランサーのマスターである二宮飛鳥は、恐らく彼女の十四年の生涯で一番の『非日常』を肌で感じていた。
自らのサーヴァントにあの場を任せ、自身の家まで退避する算段をつけたまではよかった。
しかし、その後が完全に誤算だった。
(……あんなのがいるとは聞いてないよ)
横路地から顔を出し、こっそりと様子を伺う。
「けけけけけけけけッ」
「うはははは」
「きききききッ」
道路を我が物顔で徘徊する小鬼に一つ目の化け物、髪の長い幽霊の様なヒトガタに
蜘蛛をそのまま人間にした様な異形。
正しく魍魎跋扈。
異界にでも来てしまったのかと錯覚してしまいそうな景色であった。
じわ、と手に汗がにじむ。
どれだけ異端を気取っても飛鳥の感性は女学生のソレをそう逸脱してはいない。
世辞にも醜悪ではないとは言えぬ怪物達の行進を見て生理的な嫌悪感を抱くのは無理からぬ話であった。
(どう見てもボクに友好的な相手では無さそうだね…)
あの怪異たちがどこから沸いて出たのかは分からない。
だが、あれが聖杯戦争に纏わる存在というのは解る。
飛鳥は慎重に魍魎たちの様子を横目で伺いつつ、手に刻まれた紋様を見る。
(使うべきかな…でも)
あの怪物達は自分に気づいていないようだし、反対方向に進んでいる。
このままやり過ごせるかもしれない。
もしそうであれば令呪の使い損というものだ。
もしランサーが優勢の状況で呼び出されてそれが空振りだった場合どう思うか。
(きっと怒るだろうなぁ)
とは言え、あの怪物達が危険な事には変わりない。
極論を言ってしまえばただのプログラミングされた人形とはいえ、
NPCがあの怪物たちの犠牲になるかもしれないと思うと無視はできない。
周囲を確認し、怪物達がまだ気づいていないのも再び確認する。
「ランサー……」
魔力を籠め、己が僕の名を呼ぶ。
今すぐここに瞬間移動を以て馳せ参じろと。
「令呪を以て命じる。今すぐここへ―――」
「おっとそうはいかない」
「!?」
言い終わる前に軽薄な声が響いた。
淡い光を放つその手に、万力の様な力がかかる。
大柄な男の手が、彼女の細い手首を掴んでいた。
彼女には男を知っていた。あのアサシンのサーヴァントのマスター、三木だ。
後ろには狗神が控えている。
「ぎッ……あっ……」
「やぁ、いい夜だね」
軽い声も耳に入らず、握られる手の力の強さに思わず呻き声を上げる。
三木はそんな飛鳥を見てさらに深く笑んだ。
尤も、その笑みには粘ついた雰囲気はなく、彼が加虐趣味者ではない事が伺える。
純粋にどうする?という好奇心だけを浮かべているような、そんな笑みだった。
例えるなら、虫の足をもいでその後よたよたと這いずる様を見物する子供の表情が最も近いと言えるかもしれない。
何の事は無い、後藤だけではなく彼も期待していたのだ。
魔術師という存在との戦いを。
「で?どうするの。魔術師の戦いってやつを教えてくんない?」
「…ッ!ボクは、魔術師何かじゃ……」
眼尻に涙を貯めながら必死に飛鳥が答える。
当然三木が納得する事はなく、あれ?と両手を組んで考え始めた。
「あれー、魔術師ってのがマスターをやるワケじゃないのか……
まぁ確かに、俺や後藤さんも魔術師じゃあ無いもんなぁ」
(な、何なんだ……)
目の前の軽薄さすら、今の飛鳥にとっては恐怖の対象でしかない。
うんうんと勝手に納得し、ひとしきり頷くとグルンと首を飛鳥の方に回す三木に反射的に叫んでいた。
「ラ、ランサー!」
「だから駄目だって」
みし、
という音が聞こえた気がした。
三木の痛烈な膝蹴りが飛鳥の腹を抉ったのだ。
「ばッ…うぁッ……げほっ!げほっ!」
眼球が上を向き、猛烈な吐き気が臓腑で爆散する。
痛い。痛すぎる。
これまでの人生で彼女が経験したことのないような凄絶な痛み。
しかし、寄生生物という存在を知っていればこれは望外の幸運と言わざるを得ない。
まだ三木が『食事』ではなく、闘いと思っていること。
そして、両手を変形させていなかった事。
もしこの二つの要因が無ければ、彼女は今、硬質化した触手で叩き斬られていただろう。
「やっぱり普通の女の子みたいだね…それじゃ俺や後藤さんとは戦いになるわけもないか
それならアサシンの友達に足止めしてもらうこともなかったかな」
「とも、だち…?」
「そう、君が熱心に見てた路地の先にいたでしょ?あれ全部アサシンが出したんだよね」
あの妖怪たちは目の前の男のサーヴァントが出したというのか。
自分だけでなく周囲のNPCも襲うやもしれぬのに。
「そんな事をしてキミは…ルーラーが黙ってるとでも…」
腹を押さえながら、なけなしの勇気を振り絞って弱弱しく尋ねる。
しかし三木はそんな問いを笑って一蹴した。
「多分大丈夫なんじゃないかな。範囲も時間も絞ってあるし、
聖杯戦争が始まる前に蓄えた魔力を使っててあんまり人も襲ってないはずだから。
ま、いざとなったらルーラーとやらと闘うのも悪くないかもね」
三木はモラトリアム期間に魂喰いをして魔力を蓄えていた事を朗々と語った。
元より、後藤程ではないが彼もルーラーのペナルティをそこまで重く視ていない。
例え主従の情報を公開され討伐令とかいうものを出されても顔を自在に変えられる寄生生物には恐れる事は無いし、さらにサーヴァントは隠密行動の得意なアサシン。
令呪没収なら確かに痛いが、今の所アサシンと意識の合致は取れているし、しばらくは必要になりそうな局面は来ないはず。
加えて、ここで飛鳥を仕留めれば三木は敵主従の排除、ひいては聖杯戦争の進行に合理的な手段を取ったというだけ話になる。
「さて質問にも答えたし……食べるとするかなぁ」
冥途の土産と言わんばかりに話していた三木だが、ここで彼の両腕が粘土の様な質感に変わり、人ではあり得ないほどに伸びていく。
少女は、まだ腹部に受けたダメージのせいで動くことができない。
ただ茫然と、その様を眺める他なかった。
(何だい…あれは……)
霞む視界の中、変わっていくのは両腕だけではなかった。
ぴしり、と三木の顔に亀裂が入り、また柔軟性のある質感に変わっていく。
その風体は最早人からかけ離れ、『口だけ頭』。パニック映画のエイリアンそのもの
背後には、アサシンが出したと言うさっきの妖怪たちの姿もあり、口々に喰えー、喰えーと囃し立てている。
飛鳥はここで食べるという言葉の意味を知る事となった。
正真正銘、そのままの意味で自分はこれから捕食されるのだ。
(フッ、まったく…こんな、終焉とは、ね)
怖いを通り越して笑えてくる。
望んだ非日常は、優しいものではなかった。
恭しく世話を焼いてくれ、彼女をここに来るまで育ててくれた日常とは違って。
力なき者が求める非日常は、全てが悲劇へと帰結する。
「……いや、だ。ランサー…………」
絶望の笑みの先にあったのは、純然たる拒絶。
当然だろう、非日常に憧れを抱いていただけの彼女が、こんな結末を受け入れられるはずがない。
例え覚悟を決めていても、そこまで潔くなれるはずがなかった。
尤も、そんな飛鳥を見ても目の前の怪物は何の感慨も抱くことはない。
家畜の命乞いに耳を貸した人間がいない様に。
硬質化させた触手が振り上げられる。
その様、思いあがった者に死を与える死神の鎌の如し。
そして、
「それじゃあ」
それが、最後。
知覚すら叶わぬ情け容赦なき白刃が振り下ろされ―――
静寂。
…。
……。
……………。
「あ、れぇ……?」
三木のどこかとぼけた声が響く。
何故か逆さまになった視界の端で、歯車を抜かれた人形のように崩れ落ちる妖怪達と首を失った自分の四体を捉える。
次いで、「選手交代だな……」と言う声を聞いた。
「ぇ…… 」
飛鳥も茫洋とした面持ちで眼を開き、血を吹き出し倒れ伏す三木と、自分の前に立つ者を見た。
最初はランサーが来たのかと期待した。だが違う。
立っていたのは、右手から刀身が伸びたサーベルを構えた老人。
「グルルルルァッッ!!!」
唯一老人の剣旋から唯一逃れた狗神が老人に迫る。
「疾いな…」
シルベストリは一言そう呟くと、白い束帯に身を包んだ狗神の剛腕を独楽回しの様に回避。
飛鳥を抱えて後跳びに距離を取った。
「大事はないかね、少女よ」
「アナタは…サーヴァント、なのかい?」
「如何にも、故あって君をひとまず助けることになった」
答えながら、狗神と先程首を断った怪物のマスターをシルベストリは睨む。
グルルルルと未だに威嚇の唸りを上げる狗神の背後に、信じがたい光景があった。
首がなくなったはずの胴の右腕が動いたのだ。当然脊髄による反射などではあり得ない。
頭を破壊されれば、自動人形ですら一部を除き行動不能に陥るのというのに。
右腕は先程の粘土のような質感で首に纏わりつき、右腕から移動するように癒着。
それを飛鳥も眺めてしまい、小さな嗚咽を漏らす。
やがて右手だったモノは姿を変貌させ、顔の輪郭を形作った。
「まるで任せてはおけんな……三木、戻ってこい」
三木とは違い、まるで能面のような無表情の男。
その男が死んだはずの三木の名を呼ぶと、三木の首がその形を変えていく。
スライムの様になり、ひょこひょこと男の方に駆けるとそのまま喪った右腕に収まった。
「いやー完全に油断してました。申し開きもない」
「お前に任せていては命が幾つあっても足りん」
丁々発止のやり取りを交わしながら、三木が右腕に戻っていく。
それを見て少女は慄き、老人はその瞼を細めた。
狗神に守られていたモノは、これにて完全体と相なる。
しなやかな肢体はギリシャの彫刻の様な荘厳さ。
その眼に滾らせるは、標的への氷点下の殺意。
「やはり君は人間ではないようだ……失礼だが名があるのならば聞いても?」
「後藤。見ての通り、単なる野生動物さ
……お前も、人間では無い様だが」
ああ、とシルベストリは答え剣を収めると、スタスタと背を向けて飛鳥の方へ歩く。
狗神は無防備に思えるその背に今にも食いつかんと言う形相を浮かべていたが、後藤は待てと本物の犬畜生に命じるように制止する。
そんな怪物達を尻目にして、漸く身体からダメージが抜けてきた飛鳥に、シルベストリは静かに告げた。
「少女よ、これからここは猛獣を扱う舞台になる。観客席まで下がってもらおう」
「ボクは偶像(アイドル)だから本当は最後までステージに立たなきゃいけないんだけど…
生憎、猛獣使いは未経験でね。お言葉に甘えてランサーが来るまで鷹揚の、見物をさせて貰、おうか、な………」
飛鳥は何とか何時もの調子で答えようとするが、覚束ない。
腹部に受けたダメージのせいではない。これはつい一時間前に感じた感覚だ。
魔力消費による意識の混濁。
何とか意識だけは失わない様にするが、何時まで保つものか。
シルベストリは問いを投げたかったが、この様子では答えられるハズなしと断念。
彼女を抱え、邪魔にならない所に運ぶと丁重に下す。
再び霞む視界で少女が観た老人の表情は、どこか寂し気で、優しい顔をしていた。
■
そして、老兵は二体の猛獣に対峙する。
「待ってもらって済まない」
「なに、仕掛けるタイミングが計り難かっただけだ。
それにやはり闘いは正面からの方が、愉しい」
獰猛な唸り声を上げ続けている狗神と違い、マスターの方はいたって冷静だ。
否、冷静どころかその顔は笑い、これから起きる闘争を心待ちにしている様にも思えた。
「死ににくい所と言い、我々と対峙した時に浮かべる笑みと言い、どこか似ているが…
人間と同じく、血は赤いのだな。」
「赤くない相手と戦ったことがあるのか?」
両手を硬質化させ、無数の刃を形作っていく合間に後藤が尋ねる。
シルベストリは無言で肯首した。
彼の座に残された記録でその者達とハッキリと戦ったという情報は無い。
曖昧模糊。しかし、“自動人形“というスキルを持っている以上、彼が知らないはずは無く。
「我ら自動人形(オートマータ)を討つことだけに二百年執着した宿敵(しろがね)達は…
冷たく昏い闇色の血をしていた」
言いながら、彼も半身を沈める。
その構えは、瀬田宗次郎が扱う様な、東洋の抜刀術の構えに酷似していた。
二体一でも彼が臆する様子は寸毫程も存在しない。
「―――――さて、ゲェムを始めよう」
■
物語は回りだす。
まるで複雑に歯車の噛み合う、からくりの様に。
そして多くの人々が出会う様は、芸人たちの飛び交うサーカスのよう。
そんな舞台の上で―――彼らは何を求め、何を想い踊るのだろうか。
【E-4(住宅街)/1日目 夜(22:10)】
【シルベストリ@からくりサーカス】
[状態] 健康
[装備] 左手及び、身体に内蔵された剣。
[道具] 無い
[所持金] マスターに依存
[思考・状況]
基本行動方針:宗次郎と共に答えを探す。
[備考]
1.百夜ミカエラ&バーサーカー(黙示録の獣)を認識。ステータスを確認しました。
2.輿水幸子&アヴェンジャー(輿水幸子)を認識。ステータスを確認しました。
3.輿水幸子と行動を共にする事にしました。
【後藤@寄生獣】
[状態] 健康
[装備] 無し
[道具] 無い
[令呪] 残り三画
[所持金]タクシーに乗って「何がおつりはいいからねだ!」と罵られる程度。
[思考・状況]
基本行動方針:闘う。
[備考]
1.宝具『百鬼夜行』により、狗神を従えています。
2.アサシン(シルベストリ)を認識。ステータスを確認しました。
【二宮飛鳥@アイドルマスターシンデレラガールズ】
[状態] 魔力消費(大)、腹部にダメージ(大)、意識混濁
[令呪]残り3画
[装備]
[道具]
[所持金] 貧乏(一般学生の小遣いレベル)
[思考・状況]
基本行動方針:生きて帰る。
[備考]
1.セイバー(モモン)の宝具は目の当たりにしてますが、宝具だと感づいているかは不明です。
2.予選時にランサーに「覚悟」を見せつけたそうです。
3.アサシン(シルベストリ)を認識。ステータスを確認しました。
4.アサシン(ぬらりひょん)を認識。ステータスを確認しました。
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最終更新:2016年11月10日 19:52