+ ラムリス
<基本データ>
PC名:ラムリス
PL名:ゆめころん
コード名:アリス
スタイルクラス:サポーター
レイヤークラス:ミスト
ワークス:ブリゲイド

<ライフパス>
出自:高貴な血筋
経験:加害者
動機:独占
邂逅:感謝-マカーオーン
コードフォルダの形態:アクセサリ(ピアス)
コードへの感情:無関心

<自由記述欄>

+ 過去

 全てが退屈だった。
 退屈な人生。退屈な世界。退屈な人間たち。
この世界に私を満たしてくれる物なんて何一つなかった。
 彼に、西陵理人に出会うまでは。

 初めて彼と出会ったのは、10年ほど前の社交パーティー。虚栄心を満たすための権力者たちの下らない催し。当時、子が成せなかった大企業の経営者の養子として生きていた私は、このパーティーに参加させられていた。思いのままに姿を変えられる私は、こうしていつも適当に気の向いた人生を飽きるまで過ごしていた。
 西陵理人の第一印象は、大人しい子だった。名家の後継として育てられた子供たちは皆、しっかりとした礼儀作法を身につけさせられていたが、彼は一際大人びていた。既に学問の才覚を現していたからか、理知的な印象を受けたのを覚えている。

 二度目の出会いは、私がブリゲイドとして活動していた時。利己的な欲求を満たすために好き勝手暴れる人間たちを見るのは少し面白かったが、それもすぐ飽きた。結局は何をしてようが人間は人間だ。下らない。そんなとき、西陵理人が現れた。私たちを見るなり激昂した彼の目には純粋な怒り。真っ直ぐな憎悪。燃え上がるような殺意。どれも私の知らない、見たことのない感情が宿されていた。あまりにも一途なその想いは、美しくすらあった。猛獣のように暴れる彼の姿に、以前見た英知の面影はなかった。一体何が彼をこうしたのか。何故彼がレイヤードになっているのか。どうして彼は、私に襲いかかってくるのか。

 西陵理人から逃げた私は、彼の過去を調べた。成る程、ブリゲイドに恨みを持つ訳だ。目の前で両親を殺され、更には無理やりコードを植え付けられるとは。
 今はレギオンに所属し、正義のために働いているらしい。暇つぶしに姿を変え、彼の働きぶりを眺めに行って、驚いた。子供の頃に見た時よりもずっと知的で、冷静で、真面目で誠実で。そんな彼が、どうしてあんなにも。彼を狂わせたのは、ブリゲイド。ブリゲイドが彼に与えた絶望。人間を、西陵理人を完成させた魔法。あんなにも人生を謳歌していた彼が、人生の絶頂の日に散るなんてあまりにも、あまりにも滑稽で愛おしい。
 私の人生で、初めて私の理解の範疇を越えた彼の絶望は、私の心をこれでもかというくらいに揺さぶった。
 何もかもが予定調和で、何もかもが推測可能な未来なんて、つまらなかった。
 私の思い通りに行く世界が退屈で仕方がなかった。貴方に会うまでは。彼が私に初めて手を振るった日を思い出す。理性も知性も失い、ただ絶望のままに動く彼の姿を脳裏に思い浮かべるだけで、体が疼くほどに愛おしくなった。彼を絶望に落とした事件への感謝が尽きない程だ。しかし、それと同時に、西陵理人という聡明な人間の理性をあれほどまでに破壊した、彼の両親が羨ましくなった。

 それからは、ずっと彼のことを観察していた。彼の好きなもの、嫌いなもの、よくすること、避けること。好きな食べ物、苦手な生き物。生活スタイル、人間関係、コミュニケーション、仕事内容。服の選び方、歩く速度、目線の動き、癖、相手による言動の違い。時には一般人を装って接触して、時にはブリゲイドの構成員をけしかけて。彼の全てを知りたかった。彼の感性が、知性が、人間性が、快不快が、好き嫌いが、幸不幸が、思想が、理想が、情操が、言動が、衝動が、感動が、喜びが、怒りが、哀れみが、楽しみが、頭の先から爪先まで彼を構成する全てが。

「理人さん、今日も一緒にブリゲイドを倒しましょうね」

 今の私は、彼の相棒。彼の理想の姿。愛しい彼の、一番近く。
 西陵理人は、私の言葉を聞くなり、その瞳を少しも揺らすこともなく、確かな意思で一言だけ「ああ」と返した。今日も彼は真摯で利発で優秀で優しくて格好いい。

 少し口元が緩みそうになり、慌てて掌で隠した。
「貴方の隣にいる女はね、貴方が憎くて仕方がないブリゲイドの人間だよ」と今すぐにでも明かしたくて堪らない。再び絶望を与えたとき、彼が一体どんな顔をしてくれるのかが、見たい。知りたい。もう誰にも壊させない、私の愛おしいお人形。彼を壊していいのは私だけ、私以外許さない。でもそれはまだ、今じゃ無い。彼にとって私の存在が不可欠になった時。私を心から愛してくれた時...いつか来る絶望の日を、避けられない終焉を、ゆっくり、ゆっくりと、今か今かと待ちわびている。


+ その後

 敵との戦闘。相手の繰り出した必殺の攻撃。一目で食らえば戦闘不能になると分かる、巨大な一撃。全力でカットを試みるも貫通され、理人の身体を貫いた。
 戦線を離脱した理人抜きでどうにか倒すことは出来たものの、皆満身創痍の体だった。

 私は急いで倒れ伏す理人に駆け寄った。理人は気を失っているのか、私が彼を抱え起こしても、彼の体は静止したままで、なんの反応も示さなかった。

「理人……? 死んでません、よね……?」

 それは余りにもか細い声だった。
 自分で吐いた後、それはもうびっくりしてしまうほどに。小鳥の囀りよりも、遥かに小さな消え失せそうな響き。身体がガタガタと震えて、思っているように声帯が機能しない。何度唇を震わそうとも、それは虚しく、ただ鮮血のように真っ赤な彼女の瞳をゆらゆらと揺らすだけだった。
 声にならない声で、何とか理人を起こそうと、生きていることを確認しようとした。
 少し、理人の眉が動いた。ゆっくりと瞼を開き、しばらく焦点の合わない瞳を泳がせていたが、ようやく決死の表情で自身を見下ろす私を、捉えてくれたようだ。

「……ああ、ごめん。少し、意識が混濁していたみたいだ。心配をかけて済まない」

 目を覚まし、気遣いの言葉を投げかけてくる理人を見て、ほうっと安堵の息を吐く。身体の震えが止まり、手に、足に、頭に血液が循環していくのが分かる。今にも握り潰されそうに苦しかった胸の痛みも、彼が生きてると分かった瞬間に、いつもの高鳴りを取り戻していた。

「ごめんなさい、理人。貴方を守ると誓ったのに、守れなかった。ラムリスのせいです。ラムリスが弱いから。こんなラムリスは、もう要りませんか……?」

「そんなことはない。ラムリスは、大事な存在だよ。俺が、お前とずっと一緒にいることが、その証明だろう」

「本当に……? 一番大事ですか? 理人、ラムリスを見捨てないでいてくれますか……?」

 少し、怖い。拒絶されるのが。声が震えているのが自分でも分かる。彼に、理人に捨てられたら、私は。胃のあたりがきゅうっと締まるように痛む。瞳から涙が零れ落ちそうになるのを必死で堪えた。
 理人の目を見ることが出来ず、伏せていた顔に、彼の手が添えられる。促されるままに面を上げると、理人の真っ直ぐな眼差しがこちらを捉えていた。

「ああ、勿論だ。俺はお前のことを、ずっと大切に思ってる」

「……嬉しい。ラムリスにとっても、理人が一番です。ラムリスには理人しかいません。ねえ理人、愛してる」

 思わず溢れた一言。秘めていた理人への想い。ついに言ってしまったと強張る私の背に、理人の腕が回される。しっかりとした力で強く、強く抱きしめられた。

「俺も……お前のことを愛してる」

 その言葉に、緊張のあまり固くなっていた表情が、ようやくほころぶ。こちらも腕を回して力を込める。ああ、温かい。理人をこんなにも近くに感じられるなんて。彼に、こんなにも強く求めてもらえるなんて。ずっとこうしていられたら。この幸せを、そして今から訪れる絶望を、いつまでも抱きしめていたい。彼の肩に、歓喜の涙がぽたぽたと滴り落ちた。

「そっか……。私ね、貴方がブリゲイドに来たあの時から、ずっと貴方のことを追いかけていたの。ずっと貴方が大好きなの。嬉しいな」

 これから告げるのは、私の真実。西陵理人を愛し、西陵理人に愛された私の、本当の姿。共に肩を並べ、彼に気に入られようと奮闘してきた相棒のラムリスではなく、彼を愛し彼を壊した絶望を与えようと想いを馳せ続けていた、醜い私。

「ブリゲイド……? どういうことだ、俺とお前に出会ったのは、お前がレギオンに入ってきた時のはずだ」

 揺り籠の中で、温め続けた安寧。精一杯の愛を注いだ、私なりの結晶。それは、今日のための絶望の増幅。シーツに血を垂らした時のように、水が波紋を描くように、ゆったり、ゆったりと広がっていく絶望の残響。

「ううん、違うよ。初めての出会いは、もっと前かな。まだ貴方の両親が生きていた頃。貴方が社交パーティーに連れられていた時。ミストの能力で、今とは違う姿だったから、気づかなかったよね。貴方がまだ幼かった時、貴方がレギオンに入った時、ブリゲイドを恨み戦った時……、ラムリスは全部知っています」

「私、貴方がブリゲイドに改造されたことをずっと前から知っている。貴方にコードを埋め込んだマカーオーンは、私の上司。ねえ理人、ずっとずっと貴方の隣にいた女は、貴方が潰したくてたまらなかった、殺したいほど憎んだブリゲイドだったんだよ、ねえ、それでも“愛してる”と、私のことを、愛してると言ってはくれますか...?」

 長年連れ添った相棒が、心から信頼していたパートナーが、時間をかけて少しずつ好意を募らせていった少女が、両親を殺し自分を改造した組織の一員だと知って、彼は一体どんな反応をするのか。
 理人は、目を見開き戦慄の形相を表して、与えられた事実を飲み込もうと必死に頭を働かせているようだった。しばらく逡巡するように瞳を揺らして、自身の信念と、積もった憎悪と、私との思い出と、彼の心と。それらを秤にかけて、一つの結論を出そうとしている。

「…………それでも……俺は、ラムリスを、お前がブリゲイドだったとしても……ラムリスのことを、一人の女性として、愛してる。ずっと、お前を愛していた」

 「愛してる」という彼の言葉が、頭の中で反響した。ひとつ、またひとつとパズルのピースがハマっていく。段々と、終わりに近づく足音がしている。これから先、いや、これまでの人生の中で、理人にとっての最大の絶望、そうであってほしい、私からの身勝手な最愛の絶望がもうすぐ、叶えられようとしている。

「本当に……? ラムリスは、理人の相棒になってからもずっと、ブリゲイドとして活動してきた。いつでも辞めることが出来たはずなのに。それでも?」

 しっかりと私の目を見据えて理人は答える。今度はより強く、はっきりと。真実を知っても変わることのない、ずっと私が求めていた言葉。

「それでも、俺はお前を愛しているよ、ラムリス」

日常が
壊れゆく。

それは、私が待ち侘びてた、終焉。
物語の、結末。
長年温めた雛が孵る時。
ついに、きた。この時が。

 少し、目を閉じると、過去のことが蘇る。彼と歩いた桜並木。レギオン本部の近くの人気の無いカフェ。休日の、何でもない日常品を買うためだけのショッピング。どれもこれも、くだらない日常。それでも、隣に西陵理人という男がいるだけで、こんなにも思い出はキラキラと輝き、鮮明に脳裏に浮かんだ。
 それは、いつだって私の思い通りに動いた退屈な人生で、どれも初めてのことだった。くだらないと、ずっと見下してきた人間の愛という感情に、いつの間にか私も支配されていたのだと思い返す。

「私も、理人を愛してる。……今までも、これからも。だから理人、私のことを忘れないでね。ずっと愛していてね」

 理人は私の言葉に、一瞬だけ怪訝な表情を浮かべたが、それでもすぐに気を持ち直し、口を開こうとする。彼が何を言おうとしているかは分かっている。私がかける、彼を縛る神父の契り。
「勿論、ずっとお前だけを愛している」
 切望した瞬間。私が貴方にかける呪い。2人が結ばれた瞬間消えゆく、陽炎の恋。私が植えつけた、消えようのない契りを、貴方の心に。漸く、待ち侘びていたこの日の絶望を、私が今から見られないことが残念だ。そして——彼ともういられないのが悲しいと、思ってしまった。
 心が、身体が、全てが満たされてゆく。爪先から順に感覚が溶けてゆく。ミストの身体が分解され、光の粒子が宙を舞う。今、悲願が叶う。私がここで消えゆくことで、完成する魔法。抱きしめられていた彼の腕が空を切った。
 理人は何がなんだか分からないといった顔をしながらも、喪失を恐れ、涙を流していた。にっこりと微笑んで、理人へと顔を近づける。最後の口付けは、彼に届いてくれたのだろうか。
 消失する直前に、アリスのコードを埋められた、真紅のピアスが空中を滑り落ち、地面で弾けて甲高い音を鳴らすのが聞こえた。
 それは、幸せの鐘の音。二人を祝福する、天使たちの喇叭。彼を縛る、優しい呪い。


<参加回>
+ 藍 彩霞
<基本データ>
PC名:藍 彩霞
PL名:Shin
コード名:メフィストフェレス
スタイルクラス:サポーター
レイヤークラス:ヴェール
ワークス:四季財団

<ライフパス>
出自:レイヤード
経験:交易者
動機:ビジネス
邂逅:ビジネス/信用
コードフォルダの形態:携帯端末(タブレット)
コードへの感情:反面教師

<キャラクターシート>
ここにURLを貼る
(キャラシのテンプレートはこちら→https://log.kuzumochi.work/cl 作者:くずもち様)

<自由記述欄>

四季財団の社員。武器、設備、薬品などの営業を行い、各地を渡り歩いている。
トレジャーハンターのレイヤードのもとに生まれ、各地を渡り歩きながら生活していた。その間に適合するレイヤーを発見し、親からレイヤードとしての訓練を受ける(訓練と言ってもほとんど実戦のようなものだったが)。自由に生きる両親のことは少し苦手ではあったが、嫌いではなかった。しかし自分は自分の生き方をするために独りで生きることを決める。その目的は、平穏な生活をすることであった。彼女は40歳までには引退し、隠居生活をするライフプランを設計したが、そのためには多くの金を手に入れる必要があった。戦闘のほかに交渉の才能に恵まれた彼女は四季財団に入社し、仕事を順調にこなしていく。最近復興中のシェルターがあると聞き、これは営業の好機だと考えて駆けつける。
人の心理をコントロールするのが得意であり、顧客は乗り気で購入するが後になって冷静になるといらないものを買わされていることが多い。顧客からの印象をよくするために自分のコードのことを「契約の天使」メタトロンだと話している(「契約」ということばをよく話すことに納得してもらえるので)。レイヤー装備も聖職者に見えるためちょうどいいと考えているが、本人に信仰心は全くない。

<参加回>
+
<基本データ>
PC名:葎
PL名:ぴるかす
コード名:赤い靴
スタイルクラス:チェッカー
レイヤークラス:アームズ
ワークス:フリーランス

<ライフパス>
出自:指導者
経験:戦いの日々
動機:捜索
邂逅:貸し/貸しがある→目取真諒
コードフォルダの形態:ファッション(ブーツ)
コードへの感情:割り切り

<自由記述欄>
【設定】
各地でレイヤード達の指揮を任されている崎原家に生まれた長男。幼い頃から英才教育を施された。
仲の良い弟がおり、身体が弱く人を傷付けることを嫌う弟を前線に出さないことを条件に10歳の頃から前線に立ちレイヤードを指揮していた。
レイヤードの中には彼の指揮下についたことがある者も、彼の名前や優秀な指揮官としての噂を耳にしたことのある者もいるだろう。
幾たびもの戦闘において何度も死にかけており、身体中に傷跡がある。数年前に当主であった父親が死んだ後、弟に家系を継がせるために死を偽装した。
身一つで飛び出した葎は、立ち寄ったクレイドルやシェルターで依頼を受けて日銭を稼ぎつつ己が気の向くままに旅を続けている。

__ずっと昔から、それこそ物心ついた頃からずっと何かを求め続けている。
自身を構成する一番重要な何かが、ぽっかりと抜けてしまっているような気がしてならない。
それが物なのか、人なのか、或いは場所なのかは分からない。けれども、早く見つけなければという焦燥感ばかりが募って仕方がない。
狂わんばかりに求め続けている"何か"を見つけた時、俺はようやく安堵と平穏を手に入れられる気がするのだ。

【サンプルボイス】
一人称:俺
二人称:(苗字)さん、(名前)

「初めまして、やんな?俺の名前は葎。諸事情で苗字はないから、気軽に葎でええよ。よろしく」
「堅苦しいの苦手やから、多少馴れ馴れしくても許してな?」
「“元”指揮官でもまだまだ現役やねん。お前らみたいなやつに負けるほど、俺は弱ないよ」


<参加回>
+ ルナ・サングロード

https://picrew.me/share?cd=5WvFlNJuNk 
<基本データ>
PC名:ルナ・サングロード
PL名:つむり
コード名:ドラキュラ
スタイルクラス:チェッカー
レイヤークラス:シャドウ
ワークス:レギオン

<ライフパス>
出自:病弱
経験:閉じた世界
動機:被験者
邂逅:
コードフォルダの形態:本
コードへの感情:親しみ

<自由記述欄>
そこそこ裕福な家庭に生まれた少女。
幼い頃から病弱で、外に出ることはめったになく
本に囲まれて生活していた。
外の世界のことは本を通して知り、外に出たいと思い続ける日々。
そんなある日、病気の治療の一環としてレイヤードになる。
吸血鬼のコードが適合してから、元気を取り戻しつつあり
野外での活動もできるようになった。
現在は外の世界のいろいろなものに興味津々。

「ルナっていいます。よろしく、おにいちゃん、おねえちゃん」
「おそと、たのしいね。しらないものが、いっぱいあるの!えへへ、もっといろんなものを、みたいなあ」
「ん、からだ?だいじょうぶ、ちょっとまえよりも、ずっとうごけるよ」

<参加回>
+ ルゼ・アプリェール

(絵、つちの)
<基本データ>
PC名:ルゼ・アプリェール
PL名:りちょう
コード名:ジェームズ・モリアーティ
スタイルクラス:サポーター
レイヤークラス:マージ
ワークス:ネームレス

<ライフパス>
出自:任意/病弱な家族(汎用特技:医術の心得)
経験:戦いの日々/危険区域
動機:烙印/力から解放される →[???/約束を果たす]
邂逅:しがらみ/ギリアム・レイン
コードフォルダの形態:インプリント(左手首)
コードへの感情:嫌悪→???

<自由記述欄>


personal profile

性別:男性
年齢:15歳
身長:150cm
髪色:灰白
瞳色:蒼
生年月日:2/14
主たる担当職務:情報収集/後方支援
備考:�ェ繧ゥ譁�ュ怜喧縺代ヱ繧ソ繝-----
――――――――――警告――――――――――――
ネームレス構成員ではないことを確認しました
一部情報項目をロックします


一人称は「僕」、細身で小柄な少年。
良識的で大人しく、時折年相応の好奇心を見せることがある。

一応ネームレス所属のエージェント。
とはいえ戦闘能力がそこまで高いわけでもないし、ずば抜けて賢い訳でもない。たしなみ程度にクラフトも仕えるが、別に命中精度が高いわけでもないし威力もない。
ないない尽くしの一般通過レイヤード、に見える……通常は。

戦闘中かどうかに関わらず、稀に一人称が「私」に変わることがある。
その際はかなり尊大な物言いをし、目的の為には手段を選ばない冷徹な性格となる。同時に、思考力が大幅に上昇するようである。
本人曰く、コードの人格が身体の主導権を乗っ取り、表に出ている状態である、とのこと。

+ Unlock――2021/09/24
+ Passed Pawn
後述の通り、「コードの人格」など存在しない。
僕らはただの二重人格者。ふたつでやっと一人分の、犯罪の帝王のなり損ないだ。いや、「だった」という方が正解か。

この構図を作り出した「僕」――"ルゼ"(表人格)がそれを自覚し、しかも"教授"(裏人格)を否定しきれなかったその時、僕等は最早従前同様の僕等では居られなくなった。
※詳細は「Endgame Study」の項を参照。

故に現在、急速に人格の統合、再編が進んでいる。
だがさてはて、かつて分かたれた二人格を足せば、僕は「ルゼ・アプリェール」に戻るのだろうか?







おや、これは丁度良い・・・・・・さて、例え話をしよう。
ここに、ある人から貰った真っ赤な林檎がある。
鋭い包丁ですぱっと、それを二つに両断した。
虫食いや、茶色い痕が目立つ半分は使いあぐねて生のまま置いておいた。
残りの半分は皮を剝き芯をくりぬいて、砂糖とレモンでコンポートに仕立てた。バニラアイスなど添えたら絶品かもしれないね。

では、君はこれを元の林檎に戻せるか?
僕には出来ない。

両者を組み合わせて最高のデザートに仕立てることは出来る。
けれど、切る前の林檎には2度と戻せない。




二人格それぞれが独自に成長した要素、あの日壊死して以降治る見込みの無い要素、それぞれの抱える「足すべきではない」要素、片方だけが保持する記憶、コードによって後付けされた数多の知恵……そういったものがある以上、僕は元には戻れない。

両者から必要な部分を剥ぎ取り混ぜてツギハギしたそいつは、もう"ルゼ"でも"教授"でも、ましてや"ルゼ・アプリェール"でもない。





……というわけで、僕は誰だろうね?
あの子達の言葉を借りて、今は「最悪のプランナー」とでも名乗ろうか。






とはいえ、僕の出番は、もう少し先だ。
"ルゼ"と"教授"は手を組んだ。

一人格としての自分達が消える前に、世界にどうにか存在の爪痕を残したい、らしい。
狙うは青龍、或いは「恐竜――イミテーション」。有数の脅威たる超巨大ベクター1つ、落として見せたらたいしたものではないかね。

やり残した取引・約束が幾つもある、らしい。
特筆すべきは名も無き画家――"三回見たら死ぬ絵"とのそれ。確かにあれは、あの子達がケリをつけなきゃいけない。一人未満の"ふたつ"を"二人"と見なしてくれた彼に、あの子達が心底感謝しているのを、僕は知っている。
剣の青年と、赤焔の娘と、商人の娘と――そして最大の好敵手たる探偵、最後の魔術師と。
ちょっとしがらみが多過ぎやしないかい?まあ僕はいいけどさ。






僕はもう暫くの間、未完成の観測者であり続ける。

僕等に最高の敗北を味わせた■■■だけが、ここに記されたほぼ全てを知っている。
あのひとへの万雷の喝采、一つきりの拍手、そして思い付く限り最大の賛辞を以て、この独白はおしまいだ。

あとはそうだね、"教授"に習って似合いの表題でもつけたら、こんなものでも少しは体裁が整うかな。
なら、これなんてどうだろう――
+ ライフパス
もうすぐ訪れる「複合人格」完成時のライフパス。一部感情が変化している。
※データ面では変更はありません。肉体や経験が消えたわけじゃないのでね。フレーバーのみ。



PC名:ルゼ(?)
便宜上「ルゼ」と名乗り続けはする。変えると面倒なので。
今の所は自称「最悪のプランナー」。再編によって徐々に完成しつつある複合人格。
PL名:りちょう
コード名:ジェームズ・モリアーティ
スタイルクラス:サポーター
レイヤークラス:マージ
ワークス:ネームレス

<ライフパス>
出自:任意/病弱な家族(汎用特技:医術の心得)
複合人格もやっぱり医者は嫌いらしい。これは"ルゼ"由来。
経験:戦いの日々/危険区域
こんだけ戦ってるからね。何も変わるわけがない。
動機:継承/成長する
もう誰にも曲げられないように、こんな世界に潰されないように、僕が僕であり続けるために、僕等の戦場、世界という盤上へ帰ろう。
そして僕の戦場は、あの子達が敷いてくれた道、遺された棋譜から始まっている。
邂逅:尊敬/ギリアム・レイン
"教授"から引き継いだ感情。
遥か先を行く策士、偉大なる先達。そのやりかたをそのまま真似ることは出来ないししないが、自分を駒として託せる指揮官として仰いでいる。
コードフォルダの形態:インプリント(左手首)
コードへの感情:親しみ
「"犯罪の帝王"のやり方でしか為し得ないことがある。まあ、決して世間にもてはやされる手法じゃ無いけれど」
「肉弾戦に弱い?そもそも攻撃が不得手?上等。そうして油断した相手を、頭脳戦で潰してお目に入れよう」
自分のコードに対し自分の本質と近縁である事から生じる親近感と、師として仰ぐ尊敬の念と、すこしのプライドを持っている。これは"教授"由来でもあり、"ルゼ"由来でもある。"ルゼ"は結局、自分のコードにそれなりに納得して折り合いをつけられたようだ。


下記のss二つは、ルネ・アプリェールの項の「過去」と対応している……というか、回答編になっている。見比べると面白いかもしれない。クソ長いので注意。

+ ルゼ・アプリェールの過去 表
僕はルゼ、今はただのルゼなのだ。



とある小さなシェルターの、一般家庭の出である。
両親と、双子の妹と暮らしていた。

妹はよく体調を崩し、寝込むことが多かった。
妹は家からほとんど出られず、絵にのめり込んでいた。

双子として生まれたが、対照的に、ルゼは元気一杯、風邪ひとつひかない健康な子供だった。
病弱な妹が不憫でならず、外で自分が繰り広げた大冒険の話をよく語ってあげた。意地っ張りの妹は、時々むくれつつも、目を輝かせて冒険譚を聴いてくれた。妹の笑顔が大好きだった。

ある日、レギオン職員を名乗る一団がシェルターに来た。
コード適合者を探すためだという。そして、シェルターの住人全てを調べていった。

ルゼ達双子は適合者だった。
「職員」が渡したコードを、ルゼは迷いなく受け取った。

ルネは調律に手間取った。目が覚めても、また暫く体調を崩し寝込んでしまった。
ルゼは「センスがある」と言われた。新しく得た力は、妙にしっくりと身に馴染んだ。

「職員」側から、ルゼをムサシ・クレイドルに送らないか、との話が出た。クレイドルでなら、レイヤードとして専門教育を受けさせられる。レイヤードなら、栄達を望める、と。
シェルターの住民達の祝福と、そして羨望を一身に受けた。


ルゼは知っている。

貴重な自衛戦力を失いたくないシェルター側は、妹を代わりに送ることを提案した。でも「職員」はそれを一笑に付した。ルゼを選んだ。
「いくらなんでも、アレはないでしょう」
「適合に時間がかかりすぎて、使いこなすどころの騒ぎじゃない」
「大体、そう長く持たないでしょう。コードの使い損だ」
「それに引き替え、この子は優秀ですよ。ここで腐らせるには惜しい。もっと強くなれる」

集会は終わり、様々な気持ちの混ざった心を抱えて、ルゼは帰宅した。眠いから寝た。すやぁ。


旅立ちを告げたとき、妹は少し寂しそうな顔をした。
罪悪感を心の底に押し込んで、支度に没頭した。
別れまではあっという間。

「お手紙、いっぱい書いてね……にいちゃもご存じのとーり、わたしすごくひま……だから……ふにゃぁ」

妹の目が潤んでいたのは、きっと眠気のせいだけではない。ふにふにしたほっぺたを引っ張ると、いつも通り「ふにゃぁ」と鳴いた。頬から手を離し、しっかりと抱きしめて言葉をかける。

「分かってるって!僕が面白い手紙をたくさん送りつけてやる、なのだ!せいぜい手紙にうまらないように、な!」

ルゼの人生、8年間分の全てだった場所…ある小さなシェルターが、地平線の向こうに消えていった。




新天地への不安と希望を抱いて進む旅路、数日後の夜。
迂闊に置かれていた「職員」の資料に目を通したのは、ほんの出来心だった。

全部嘘だった。
ここに居たら殺される。

滲み霞んだ記憶の中、そう思ったことだけが鮮明に思い出せる。


その後どうしたのかは、何故か思い出せない。
「気がついた」時には、別の一団に保護されていた。

「保護したくれた」のは、ネームレスの隊員だった。
どういうことか、何があったのか、と聞くと、彼らは一様に残念そうな顔をした。

そしてこの時以降、「教授」が現れるようになった。

「君の無様さにはほとほと呆れるばかりだよ。私なら、もっと上手くやってみせる」

時気まぐれに身体の主導権を乗っ取り、ルゼに替わって饒舌に語る「教授」……モリアーティは、ルゼの故郷が嫌いで、ルゼの生き方が嫌いで、それら全てを否定して踏みつけた。目的の為には手段を問わない策士たる「教授」は、ルゼが憧れた「英雄」の姿とは遠くかけ離れ、到底認められなかった。認めたくなかった。この状態で故郷に帰ろうなんて思えなかった。

コードの摘出を希望したが、「無理だ」と言われた。
精神と直結するマージタイプの中でも、ルゼのケースは特に精神との結び付きが強い。無理に剥がせば廃人になる、と言われればどうしようもなかった。

今日も白面を付け、「ネームレス」として任務を遂行する。何時か自分のコードを摘出出来たら、この力と折り合いを付けられたらいいな。そうしたら、安全なおうちに帰ろう。

家族はきっと心配していると思う。連絡を取ろうかとも思ったが、今の自分の状況を知らせたくないという心が先に立った。
そういうことにしておいて。

任務の合間、ふと手元のタブレットに目を落とす。
ストレンジ・ラボの内部資料、そしてレギオンの任務報告書、その幾つかには妹の名前があった。
変わったのは自分だけじゃなかった。
様々な言い訳を重ねて、手紙はまだ一通も出せていない。

今、一番怖いのは、自分が完全に「教授」に染まること。
「教授」の出現を完全に制御出来るなら……切り替えが出来るならまだ良かった。日常の思考の隅に、気がつけば「教授」の考え方が染み込んで、少しずつそちらに染まっている。自分が徐々に自分でなくなることが怖い。

あれはコード、僕は僕、のはず、なのだ。

+ ルゼ・アプリェールの過去 裏
出自:任意/病弱な家族(汎用特技:医術の心得)
経験:戦いの日々/危険区域
動機:守護/”もうひとりの自分”の精神を守る
邂逅:尊敬/ギリアム・レイン
コードフォルダの形態:インプリント(左手首)
コードへの感情:同一視

僕はルゼ、そして――――――私もまた、ルゼ・アプリェール、だ。

マージタイプのコードとはいえ、その自我は厳重に封印されている。コードが使用者の思考に影響を与えることがないとは言えないが、別個の人格として体を乗っ取るようなことは…普通はない。
もしもこれがレガリアであれば……可能性はあった。が、ルゼはマージだ。

もう一度告げよう。私……「教授」は「ルゼ」だ。世間の言い方を借りるなら、「交代人格」と呼ぶのが妥当だろう。



乖離性同一障害…本人にとって堪えられない状況に当たったとき、その時の記憶、感情を切り離す。その記憶が成長し、別の人格…「交代人格」として表に現れることを指す。(wikipedia参照)




どこにでもある小さなシェルターの、ごくごく普通の一般家庭。
とある少年と、その両親と、病弱な妹が暮らしていた。

少年は、妹を早々に見限った親の期待を一身に浴びて育った。
その重圧を心の底に押し込んだ。

病弱な妹は世間を知らなかった。
妹が不憫だったのは本当だ。
だから外で自分が繰り広げた「大冒険」の話をよく語ってあげた。妹は、目を輝かせて冒険譚を聴いてくれた。

そんな冒険ばかりがあるはずがない。その話は多分に誇張を含んでいた。しかし盲目的なまでに兄を慕う妹はその誇張を丸のみして、尊敬の眼差しを兄に向けた。
嘘だったなんて言えなくて、誇張は増える一方だった。
沢山の嘘と、罪悪感を心の底に押し込んだ。


そんなとき、レギオン職員を名乗る一団がシェルターに来た。

双子は適合者だった。
「職員」が渡したコードを、少年は迷いなく受け取った。

これでもう嘘をつかなくていい。
本当に「すごいにいちゃ」になれる。
そう夢を見て、少年の心は少し軽くなった。

妹は調律に手間取っていた。
少年は「センスがある」と言われた。新しく得た力は、妙にしっくりと身に馴染んだ。
知らず知らず抱いた哀れみと優越感に気づいて、嫌悪とともにそれらを心の底に押し込んだ。

「職員」側から、少年をムサシ・クレイドルに送らないか、との話が出た。
シェルターの住民達の祝福と、そして羨望を一身に受けた。
突き刺さる目線に、居心地の悪さを、心の底に押し込んだ。


少年は知っている。

シェルター側は、妹を代わりに送ることを提案した。でも「職員」はそれを一笑に付した。少年を選んだ。

僕を選んでくれたんだ。

「――――この子は優秀ですよ。ここで腐らせるには惜しい。もっと強くなれる」

強くなりたかった。もっと広い世界を見たかった。この機会を逃せば次はもうない。このシェルターは一生を過ごすには狭すぎる。本物の「冒険」がしたかった。

だがしかし、このシェルターとその周辺こそが少年の人生の全てだった。いきなり広い世界に飛び出せると言われても………高揚の跡を埋めるように、戸惑いと不安が徐々に広がった。そして、後に残すもののことも、気がかりでなかったと言えば嘘になる。

でも、誰にも相談出来なかった。少年に期待する人、嫉妬する人、憧れる人は居ても、少年が相談出来る人は居なかった。溢れかえりそうな気持ち全てに蓋をして、心の底に押し込んだ。


妹に旅立ちを告げたとき感じた『罪悪感』も、おまけのおまけで心の底に押し込んだ。


これで正解のはずだ。
これから僕はもっと強くなる。立派になる。
心の底に押し込んだ諸々とも、きっとお別れできるはずだ。


少年の人生、8年間分の全てだった故郷は、地平線の向こうに消えていった。




…だから、旅路の途中、迂闊に置かれていた資料に目を通したのは、ほんの出来心だったのだろう。

全部が嘘だった。

膨らませた希望が、心の底を塞ぐ蓋の重石だった。
それが、全て崩れた。
心の底に押し込んできた全てが、溢れかえった。

生来の臆病な気質故の慎重さ。
誰かに押し付けられた理想への反抗心。
嘘をつく度に磨かれた演技力。
妹が憧れる「にいちゃ」にはそぐわない、と目を背けた冷徹さ。
溢れ出したそれらに方向性を示したのは、確かに「犯罪の帝王」の叡知だったのだろう。

目を背け、忌み嫌ってきた「冷徹な策士としての才能」が、ついに陽の目を見た。

コードの力と、それを躊躇せず振るえる人格が揃えば脱走は容易だった。

ほんとうに?
もしかするとそれは、困難な旅路だったのかもしれない
だが、それについて、『教授』は言及しない
それについて「ルゼ」が自覚することは、ない

ひょんなことからネームレスのエージェントと出会い、少年はその一員となった。
彼らは、少年を有用だと判断したのだろう。

過度な期待を押し付けられることもなく、有能な上司の下で自分の才を存分に振るえる環境は、少なくとも生家よりは少年に合っていた。

だから、家族に、故郷に連絡を取る必要は感じない。

もうお分かりだろうが、コードの摘出は何も解決しない。コードと精神との結び付き云々は「僕」に摘出を思い止まらせる為の方便だ。

任務の合間、ふと手元のタブレットに目を落とす。
ストレンジ・ラボの内部資料、そしてレギオンの任務報告書、その幾つかには妹の名前。
彼女もまた、自分の人生を歩みだしたのだろう。
まだ「僕」を彼女に会わせるわけにはいかない。影から時折見守るくらいの距離がきっと、丁度良い。

心優しき兄も、冷徹な策士…「教授」も、どちらもルゼである。
だから、「教授」の考え方がルゼを侵食しているのではない。無理に分かたれたものが、徐々にひとつに戻ろうとしているだけである。

「教授」はコードに憧れ、コードの名を名乗っている。
弱い自分を隠し守るために、あえてコードそのものになりきっている。

交代人格である「教授」は「僕」を知っている。その愚鈍さに呆れ、手を焼いている。だが……「僕」の心が折れないように、汚れ役を担っている側面も確かにあるのだ。


「僕は僕」………何も知らずそう言えるうちが華だ。
事実を突きつけられた時、少年は何を思うだろうか。





とまあ、こういうことだ。
ここまでお付き合い頂きどうも、酔狂な人。


まだ言っていないことがあるだろう、と?表にも裏にも、重大な事実誤認、或いは余白、欠落があるかもしれない、と?

さてはて何のことやら。




+ The spider’s thread
少し昔の話をしよう。

これは、壮大な伝説でも、心に染みるような哀切な悲劇でもない。
誰の目にも留まらない、些細な話だ。


1

あるところに小さなシェルターがひとつ。
危険の多い環境でも、皆で団結して、助け合って暮らしていた。

その中のひとつ、ある家族。
生真面目な機械工と働き者の妻、そして双子の子供――病弱な女の子と、少し賢い男の子。
彼等のルーツはそのシェルターには無かった。『大侵攻』以前に外つ国から来て、そのまま戻れなくなった夫妻がこの地に居付き、そこで生まれた双子を育てていたのだ。

双子の妹、女の子はとても身体が弱かった。
ほぼ寝たきりに近く、時折酷い発作を起こしては苦しんでいた。
シェルター内の診療所では症状の緩和で手一杯。旅の医者に診せても、芳しい成果は得られなかった。

延命と症状緩和の為の薬は、荒廃した世界ではそれなりに値が張った。
夫妻はいつも、忙しく立ち働いていた。彼等はそうして、なんとか人並みの暮らしを保っていた。
双子の兄、男の子は聞き分けのいい、そして優しい「良い子」だった。多忙な両親に代わって妹の面倒をよく見ていた。時折ご近所さんの手伝いをしてお駄賃を貰ったり、大侵攻前の遺跡での資材回収に加わったりと、子供なりに出来ることをしていた。

そこは小さなシェルターだった。
住民は皆顔見知り、家族のように仲の良いシェルターだった。
だから、一家の抱える事情も皆知っていた。
その事情に同情して、入れ替わり立ち替わり、様々な形で手を差し伸べた。
みんな優しい、いい人ばかり。
一片の悪意も、そこには無かったのだ。


嗚呼、なんて優しい話だろう。


2

ところで。
双子の兄の方……と呼び続けるのも面倒だ。ここからは「彼」と呼称しよう。
彼は賢かった。
賢くて、同時に愚かだった。

「ねえ、父さん。ききたいことがあるのだ」
「……どうしたんだ、■■?」
「あのね、今日ね、おとなりさんからおすそ分けをもらったのだ。その時に、おとなりの、お兄さんとおはなしして、あの、その……」
「父さんは疲れてるんだ。言いたいことははっきり言いなさい」
「『君のおうちはいつも大変そうで、“かわいそう”だから』って……。お兄さんだけじゃなくて、ほかの人にも、なんどか言われたことがあるのだ。ねえ、でも、ぼくはかわいそうって言われるの、なんか嫌なのだ。なんか、バカにされてるような、キミたちはちがうって言われてるよ――」


その言葉は続かなかった。


パシリ、と乾いた音が響いた。

「……お前にはがっかりだ、■■」
「父さんは、お前がそんな酷い子だなんて思ってもみなかったよ」
「いいかい、人の善意を疑うなんて、そんなことは絶対にしちゃいけない、恥ずべき事だ。みんなだって暮らし向きは決して楽ではないのに、私達のことを気遣って、良くしてくれているんだよ。血の繋がりもない、ただ隣人であるだけの私達に。
それをお前は、お前はそんな穿った目で見て、恥ずかしくないのか!!!!!!」

「ごめんなさい」

今後二度と、そういう事を言うんじゃない。
その言葉を最後に、会話は終わり。その後暫く続いた父親の険しい目線も、時の経過と共に緩んでいった。


嗚呼、なんて優しくて、ステキな話だろう。


3

実際の所、彼の推察は完全な誤りでは無かった。

シェルター内において、『アプリェールさんとこはかわいそう』『大変そう』『お気の毒に』。これは常套句、常識だった。
可哀想な一家、気の毒な一家。


そして、その一家に手を差し伸べる、“優しい“自分たち。


彼の一家に手を差し伸べることで、自分達の優しさを再認識し、団結を深めていた。ただそれだけの話。
そこに、意識的な悪意はない。害意もない。

だがしかし、コミュニティにおいて彼の一家に割り振られた役割は、「皆に手を差し伸べられる弱者」であった。
意識的な悪意はなく、害意もない。
しかし決して“対等ではない”。
下の立場の者への哀れみ。そして自分達がそれよりはマシである、という事実を再認識しての安堵。
どこぞの物語にあった名言をお借りしよう。
「哀れみは、砂糖を塗した支配欲」。
そうやって「可哀想な存在を気にかけてやる、優しい人間たる自分達」に酔っていたのだろうよ。

彼は賢かった。
そして生来の気質か、他人より少しばかり目聡かった。
相手の僅かな所作、覗き込んだ目の奥の微かな暗がり――そんな僅かな兆候から、相手の無意識下の真意を察するくらいには。

けれども先刻述べた通り、年相応に愚かでもあった。
それを素直に親に言うくらいには。
そして、「酷い子」「悪い子」になることを恐れるくらいには
――折角気づいた事実に蓋をして、見ないふりをするくらいには。

斯くして彼は、全てを自分の心に仕舞い込んだ。
きっと全ては自分の勘違い。
いい子になるため、「そんな事を考えてはいけない」のだ。
そして、一瞬でも疑念を抱いた己を恥じた。

妹の分までかけられた期待を背負って。
周囲が望む理想にぴったりの、「優しく素直な良い子」で在り続けるために。

「みんなやさしいひとなのだ」

嗚呼、なんて優しくて、ステキで、愚かで、歪んだ話だろう。
限界一杯まで溜め込んだ歪みと引き換えに、彼は変わらぬ日常を生きていた。





しかし残念なことに、その歪な均衡は脆くも崩れ去った。
“可哀想な一家“の”可哀想な双子の兄妹“は、誰もが羨む力を手に入れてしまったのだ。


4

人情の機微に疎く、そして得た力を喜ぶばかりの妹。やはり身体が弱く、調律に手一杯だった彼女は気づかなかった。
望外の幸運に喜ぶばかりの夫妻も気づかなかった。

一通りの歓喜が過ぎ去った後、彼だけが気づいてしまった。
祝福、期待、羨望の言葉……薄っぺらい言葉が、表面をなぞるように通り過ぎていく。

「コード適合、おめでとう。凄いね!」
「これで、このシェルターも安泰だ。もう、流れの人に頼り切りじゃなくても良くなるね」
「格好いいねぇ。ちょっと羨ましいな」

周囲の温度感、振る舞いや向けられる眼差しのかすかな変化。それだけでも、察するには十分だった。
彼等双子は、望まれていた在り様から外れてしまったのだ。シェルターの異物になったのだ。

彼に適合したコードは一体化型。その中でも、知識・経験の読み取り、思考能力の強化を主としたものだった。
調律、訓練は一見順調だった。けれどその影で、彼の精神には多大な負荷がかかっていた。
彼が思っていた以上に、心は大きく磨り減っていた。

事ここに至ってもなお、コードの力を得てもなお、彼は賢くて、しかし愚かだった。
そして彼は正直者ではなかった。
周囲の変化に気づいていない風を装って、なんとかこれまで通りの日常に縋り付こうとした。それが無理な事を薄々察しつつ、誰にも助けを求められないまま全て抱え込んだ。
また、見ないふりで誤魔化そうとした。

だが、これまでの日常に生じた綻びは、既に見ないふりを出来る域を超えていた。
得た力、周囲の変化――そして、その少し前から生じていた、家族の変化。

父親の部屋の棚に、最近そっと加わったカームタブラ――現在はクレイドルによって製造・使用が禁止されているはずの、精神安定剤。
几帳面な母親がよく整理しているはずの机から、一枚、二枚と零れ落ちた請求書。




斯くして、結末は訪れる。


「――この子は優秀ですよ。ここで腐らせるには惜しい。もっと強くなれる」


彼に、いや、彼に「だけ」、外に出る機会が与えられたのだ。


5

彼は迷った。逡巡した。
そして、その機会に一縷の望みを懸けた。

妹を、そして夫妻――両親を見捨てて。
手紙をたくさん書くから。立派になって、いつか迎えに来るから。
そうやって幾つかの誤魔化しを重ねて、しかし結局、彼は「逃げた」のだ。

「これで正解のはずだ」
「これから僕はもっと強くなる。立派になる」
「心の底に押し込んだ諸々とも、きっとお別れできるはずだ」

そうやって必死に言い訳をしながら、自分だけ助かるために、逃げ出したのだ。




斯くして、彼は死んだ。
彼の名前は『ルゼ・アプリェール』。

「小さくて弱い妹を守る兄」、「可哀想なアプリェール家のお兄ちゃん」、「大変なご両親を支えてあげている、立派な子」。
そういった役割を全て放棄して逃げ出し、そして縋った相手に裏切られたその時、『ルゼ・アプリェ-ル』は死んだのだ。


後は皆様ご存じの通り。
そこで目を覚ました「代理人」がこの私、というわけだ。



6

ではここで一つ、問を投げようではないか。



一体誰が、『ルゼ・アプリェール』を殺したのかね?



彼を裏切った、例の「職員」達か?
確かに彼等の関与は大きいよ。明確な悪意があったのも、彼等くらいのものだろう。
しかし、答は否。
彼等とて別に、このような形で『ルゼ・アプリェール』が死ぬことを予期し、望んでいた訳ではないだろうな。しかもその悪意も、直接向けられたものではない。書類や状況証拠から、『ルゼ・アプリェール』が読み取ってしまっただけだ。
その点については、一番側で「見ていた」私が証言して差し上げよう。

では、シェルターの人間達か?
確かに彼等の目線、無意識の心情は、長年に渡ってじりじりと『ルゼ・アプリェール』を蝕んでいたよ。ゆっくり、しかし着実に一歩一歩追い詰め、私という別の人格を生成する端緒になるくらいには、ね。
だが、答は否。
彼等に害意、悪意の有無を問うても、きっと驚愕した間抜け面しか見られまい。
彼等は彼等の日常を守っただけだ。そして、無意識下の心情……それは果たして罪に問えるのか?人間誰しも、暗い心情の一つや二つ、心の裡に飼っているものだろう。そんなものをいちいち引きずり出して糾弾していては、人間の社会なんて成り立たない。

ならば、犯人は両親か?
『ルゼ・アプリェール』の悩みを否定し、良い子たれと強いた両親か?
確かに、彼等も無罪とは言えまい。彼等がもう少し聡明だったなら、息子の悩みをまっすぐ受け止めていたなら、ここまでこじれはしなかっただろう。
けれども、答は否。
彼等もまた追い詰められていた。それはここまで来た君達にはもうお分かりだろう。
それに、彼等もまた、『ルゼ・アプリェール』に悪意があった訳ではない。立派な子に育って欲しいと願った、その心は本物だった。
少なくとも、私の見立てではそうだ。

或いは、コードか?
人のほの暗い側面をよく知るコード。『ルゼ・アプリェール』の本質――抱く理想にそぐわない本質を映し出した、“犯罪の帝王”モリアーティのコードか?
あの馬鹿――『ルゼ』が出した答に一番近いのはこれだ。
あいつはコードが嫌いだ。冷徹非情な策士たるコードが嫌いだ。
あいつはコードが嫌いだ。自分から「日常」を奪ったコードが嫌いだ。
(とはいえ、これはあの馬鹿の身勝手な意見、完全な責任転嫁である。私としては、尊敬するあの方がこんな扱いを受けるのは誠に遺憾だ。全く以て本質と外れていること甚だしい。いつかガツンと文句を言って……失礼。少々興奮しすぎた)
兎に角、コードさえ得なければ、あの歪な「日常」はもう少し長く続いていたことだろう。
そして今でも、もしコードの力を手放せれば、あわよくばあの「日常」に戻れるのではないか――あの馬鹿はそう考えている。
だがしかし、それは本当に幸せなのかね?折角得た武器を投げ捨て、か弱い弱者に逆戻りして、生涯哀れまれつつ生きるのが正解なのか?確かに命の危険はない。が、また以前同様、精神はじりじりと摩耗していくことだろう。それは最早、遠回しな自殺と変わりない。だから私はそれを認めないし、許さない。
話が逸れて失礼。まあ、答は否だ。コードに適合しなくても、あのままでは別の形の終焉――それこそこちらは原義通りの“死”が、訪れていたことだろう。コードはこの件の本質とは関わりが無い。

さて、残る候補はかなり絞られてきたことだろう。
犯人は、双子の妹――「ルネ・アプリェール」かね?
私は、今の『ルゼ』を彼女に会わせる気はない。
彼女のことは別に好きではない。
もし彼女の存在が無ければ、全ては大きく変わっていただろう。
しかしながら、ここもやはり答は否。
彼女だって、身体が弱く生まれたい、とか、家族を追い詰めたい、とか、そんな事を望んだ訳ではない。身体が弱いことそのものを罪だと詰るのは、お門違いな話だろう。彼女からの過度な期待は『ルゼ・アプリェ-ル』を追い詰める一端となったが、そこには本当に、それこそ一欠片ほどの悪意もなかった。
それにある種、「守らねばならない者がいる」ということが、『ルゼ・アプリェール』を支えていた節すらあるのだ。

彼女も無関係ではない。
が、犯人でもない。


さて、最後に残った候補。きっと、これに辿り着いた者も多いのではないか?

そう、最後の候補は『ルゼ・アプリェール』本人。
「彼は殺されたのではない。自らアイデンティティを放棄した、つまり、自殺ではないか?」

これまで挙げた中では、もっとも筋の通った説だ。
だがしかし、これで全てを片付けるというなら、私は全力でそれを否定しよう。

「家族を捨てて逃げる」という選択をしたのは、紛れもなく『ルゼ・アプリェール』本人だ。
だが、その選択肢を呈示したのは「職員」達。その選択肢を後押ししたのは、彼の家族の状況。その選択肢に逃げ込むよう彼を追い詰め、少しずつ壊したのは、シェルターの人間達や両親、妹など、彼の日常に居た人々。
なあ、これは果たして、本当に自殺と言えるのかね?


誰もが関与していて、しかし誰も犯人ではない。
強引な理論を押し通すなら、『ルゼ・アプリェール』本人を含む、当時の環境全てが犯人。
結局、こんな曖昧な結論こそが、件の問の答だ。

用いられた凶器は人間の無意識、人間の本質。
取り回しが難しく、下手をすれば自分を傷つける。
しかし、上手く使えば一切手を汚さずして、相手を死まで追い込める。
その恐ろしさを身に染みて知っているから、私はそれを自分の武器だと定義した。


7

さて。
こんなご時世だ、地獄なんてそこら中に転がっている。
血塗れの過去を持つ者もいるだろう。長年にわたり身体的に痛めつけられた過去を持つ者もいるだろう。全てを一夜で失った者もいるだろう。その中において、これは比較的生温い部類に入るのかもしれない。「その程度で悩むなんて」という意見も、容易に予想できる。

だから最初に述べておいただろう?
「誰の目にも留まらない、些細な話だ」と。

他所と違って、血のひとしずく、刃のような言葉一つすらそこには無かった。
しかし確かに、あれは、人ひとりを殺すに足る地獄だった。



だから私は人を信じない。また誰かを信じて、誰かの望むままに生きて、そして緩やかに、遠回しに殺されるなんて御免だ。

だから、『ルゼ』はルネ・アプリェールに会いたがらない。会わせられない。
私達の方から、彼女の手を離した。
ある種見殺しにした。
追い詰められた末の結論とはいえ、守るべき相手を破滅が見えているところに置き去りにして、自分だけ助かろうと逃げた。
私はともかく、『ルゼ』はその罪悪感を未だに抱えている。後生大事に引きずっている。

だから、私も『ルゼ』も、もう「ルゼ・アプリェール」とは名乗らない。
確かに書類上は今でもそうだろう。しかし、私達の中で、それは既に死者の名だ。



以上で、私のとりとめもない一人語りは終わりだ。
あとはそうだな、似合いの表題でもつけたら、こんなものでも少しは体裁が整うかね。

なら、これなんてどうだろうか――



+ mission record 2-1
新しい任務指令。
旧東京区域での、「異常なコード」を持つエンフォーサーの調査、討伐、コードの確保。

旧東京区域にはあまり長居したくないのだが・・・・・・まあ、ギリアム卿の策に必要なら仕方ない

交戦記録によると、そのコードは「名も無き踊り子」らしい。
ただし、広範囲、かつ強力な精神汚染作用を持つ。
熟練のレイヤードすらたやすく精神崩壊させるほどだとか。
↑「名も無き」なのにそんなに強いの???

明らかに異常だ。また、精神汚染能力は居住地等で悪用されれば相当不味い。早急な確保が急務だろう。
私たちを起用するのは最善策だろうな。まだ精神がまともなエージェントを廃人にするリスクを負うよりは、既に半ば精神を病んでいる者を投入する方がリスクも少ない。

確保ー悪用される前に。
収容ー害を成さないように。
保護ー人類の敵でないなら。
――Strange Code Protocol
なんか難しそうな言葉なのだ。

※他隊員とも連携 出来る気がしないがな
※臨機応変に、他の人と協力 したくないがな
※とりあえずオクタマ・シェルターへ。なんかぜんぜん情報がない 単純に君の調査力不足だろうが


追記。端末のセキュリティに欠陥を発見。通信内容が傍受されていた可能性有り。要警戒。


オクタマ・シェルターに到着。
みんな、貼り付けたような笑顔で歌っている。気味がわるいのだ。
とりあえず精神汚染対策に、耳栓をつけてみた。 
同感。早急に任務を済ませて帰りたい。

まだ正気っぽい人たちに声をかけた。
田中太郎、さん・・・・・・?←どこからどう見ても偽名だ
フウさん
東条さん
↑何かこちらを見て話していた。気にしすぎかも知れんが、こちらも警戒すべきか
須黒さん
美藤さん

この状況の原因は、おそらくターゲットのエンフォーサー。
樹海の奥に、居所がありそうだ。近くに居て当然。
あと、早く済ませないとマズそうな気がする。
いくら私達でも、長時間精神汚染に晒されて無事な訳がない。まして、周りの連中が無事な保証はもっとない。樹海の真ん中で、発狂した連中に囲まれるのは御免被る。
精神汚染の話をいちおうそれとなーくしてみた。けど、ネームレスの情報って事を言えないので、いまいちまともに取り合ってもらえたかあやしい。
あの言い方で通じる訳があるか。馬鹿か?いや馬鹿だった

樹海の奥で、ターゲットのエンフォーサーと遭遇。
「名も無き踊り子」だった。
その後、自らを『大団円』と名乗る。
二言三言問いかけをした後、ベクターを残して去って行ってしまった。
この問いかけの後から、美藤さんが、あの笑顔を浮かべたまま動かなくなってしまった。
精神汚染の影響の顕在化か。タイムリミットが近い。
とりあえずベクターは倒した。
みんな強くて、すごいな。
それにひきかえ、僕は相変わらず弱いし、足を引っ張ってばかりだった。

動かなくなった美藤さんは、フウさんの出した薬で麻痺させて、輪になって歌ってる人たちのところに行けないようにはしておいた。
そういえばあれ・・・見たことない薬だな・・・・・・
そろそろ、ルゼ君の消耗が激しい。敵との相性もあまり良くない。エンフォーサーの誘いに乗る一歩手前だった。そろそろ交代すべきか
フウの出した薬、明らかに一般に流通する代物ではない。彼女と、彼女と行動を共にする東条への警戒を強めるべき。

さっき受けた毒のせいで、ちょっとふらふらする。
薬を飲めば、多分、なんとか ならん



消耗の程度が一定以上になったため、交代した。
恐らく、敵は近い。
ここで、敵を倒した後の事を少し考えることにする。
無事にエンフォーサーを討伐できたとして、そのアイソレイトコアをただ何事もなく研究班に届けられるのか。このままだと答は否。
同行者の動向、ここの地理的環境、この二つが障害となりうる。
他エージェントへの救援要請も検討した。が、精神汚染のリスクを考えると、少なくともエンフォーサーを討伐するまではここに呼びたくはない。
他同行者の実力は先程見た。エンフォーサーの討伐にはきっと十分だろう。だが、彼等が敵に回ったら?
ハッタリや交渉がどこまで通じるかは未知数だが、どうにかするしかない。ギリアム卿の仰せのままに。

戦闘に勝った
"憎い"エンフォーサーを 倒せた
私は 幸せだ
この幸せを 分かち合わねば ならない

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気がついたら、シェルターに戻ってきていた。
歌っている人たちの輪の中央。

さっきまで一緒にいたはずの人たちも、輪に加わってしまっているのだ

それと


なにか、すごく、違和感がある。
何かが、欠けてしまった気がする。

あいつが出ていた間に、一体何が

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(Everlasting Happy Ending・・・? )
+ a sealed move for 2-4
『君は一つ、嘘をついている。自覚は?』
途中まで書かれた任務報告書、それに一体化するように混ぜ込まれた雑記だった。
じゃまだなぁ、と思いつつDeleteで消していく。必要な文まで削らないよう、しゃくだけどざっと文面を確認しなきゃいけない。
『……いや、嘘だと語弊があるかも知れん。自己暗示、予言の自己成就、或いは認知的不協和解消の為の正当化。実態と全く異なる、『そうであってほしかった』という過去、『こうなりたかった』という現在を掲げる。そうであったと認識を歪める、現実に斯く有れと望む。そしてその理想像を『自分』として他者に見せる。君にしか影響も価値もなかったような、あまりに小規模でつまらないが、しかし君の核心を突く歪みだ。こまで書けば流石の低能でも気づくか?いや気付け。その程度の脳味噌はあるだろうが』
言葉づかいがいちいちおおげさなのだ、と思う。僕自身はあまり詳しくないけれど、あいつは大体大仰で傲慢で偉そうだととか。きっとその一環に違いない。

思い当たる節は、なくはない。だけどそれを認めれば、僕は僕でいるための大事なひとかけらを失う気がする。だから考えない。これ以上の熟考をしてはいけないと、警鐘が鳴った気がした。

難しい言葉ばかりなのが幸いして、内容はすぐには頭に入ってこない。それをいいことに、文字の表面だけ、すぅっとなぞるように読み飛ばす。Delete、そしてScroll。早くしないと、報告書が遅れてしまう。

『基本私は出たいときに出る。君の都合なぞ知ったことでは無い。君が如何なる人間であろうが私には関係ない』
『君との対話は必要ない。私は私として勝手に動く――私は君とは違う。同じフィールドに降りるつもりはない』
数ヶ月前に読んでいたらきっと、ここまで読んだあたりで腹を立てていたことだろう。でも、今は何故か、本当に何故か、かすかな安堵があった。
そうだ、違うんだ。だってほら、あいつだってそう認めてる。

でも、まだ続きがあった。
『ただし』
『自らのアイデンティティを過去に求めている癖に、その過去を歪めて何とする』
『自分が戦う理由を歪めるのは、いかがなものか?』
『元来私は、嘘だか暗示だか知らんがソレに口出しする気はなかった。君が好きにすればいい話だ、とな。凡愚の小細工までどうこうする暇はない。ただ―――これからの任務に於いて、あるいは任務外であっても、ソレは致命的な隙になりうる。その可能性を見た故、こうして態々貴重な時間を割いてまで指摘してやったのだ。感謝したまえ』

過去。戦う理由。いつかこの力から解放されて、元通りの……もとどおりの、ぼく、は……あのころの、僕は……命の危険は今より無くて、これまでに会った人たちほどひどくもつらくもないはずで、でも



考えるのを止める。心の奥底に箱を作る。
文の内容、ここまで思ったことを全てそこに放り込んで、出て来ないようにしっかり蓋をした。昔からの得意技だ。

その間も手だけは勝手に動いていた。
雑記は削除され、これから続きを書かないといけない任務報告書だけが、目の前に残った。



数刻前。

赫い目の少年が、同じ端末を操作していた。
「導入はこれでいい。小難しく書いておけば、きっと読み流すだろう。ここで熟考されれば、不都合な方に思考が傾く……コードとの関係性、とかな。流石にそれは時期尚早だ。気づかなくていい。今まで通りに戻せれば最高だがそれは贅沢か」
「書く場所、配置もこれでいい。別ファイルに入れでもしたら、きっと永久に読まれない。読まざるを得ないものの、しかも所々に挟みこめば、まず間違いなく読まれる。しかも読後すぐ消されるから流出その他色々を考慮しなくて済む。そして、”私達”の記憶力は悪くない。少なくともこの程度の内容、一読すれば脳裏に刻めるだろう」

「一度は仕舞い込まれるだろう。だがこの先、違和感が生じればまずその箱を開けることになる。なるべく迂遠に、遠回しに、今度こそ分離しないように書いた。時間をかけて、少しずつ、内容を噛み砕ければそれが一番良い」
「いわば遅効性の……毒か、薬か。どちらになるのだろうね、これは」


端末に指を滑らせる。確認と校正を終えたのか、暫くして手を離し、凝った肩をほぐすように大きく伸びをした。
「代わってやれても、救えはしない。こちらからの接触だって、したくもないし避けた方がいい」
「だがこれは、これだけは私しか指摘できない。悪化、あるいは突然の崩壊を避ける為、私が打つしかない手だ」
疲れたように目を擦る。肉体的な疲労だけが原因、というわけでもなさそうだ。

――私からの封じ手は、以上だ。
続きは、次に目覚めた時にでも宜しく。


+ little summary2-4
+ 前編
天秤機関に「シェルター内で連続殺人事件が発生している」との匿名通報があった。通報者は現在連絡が取れない状態である。
これの調査のため、かたりさん、レーゲン君、助っ人としてユミネさん(自分の戦力を商品とした)が向かう。

旅の途中で、牡丹さんが当該シェルターに到着。曰くありげな様子に興味を覚え、介入。

ルゼが匿名の呼び出しに応じる。相手は「三回見たら死ぬ絵」(バベルコードが機能不全らしいが、いちおうエンフォーサー)。「自分が何者であるか知りたい」という彼と「異常コードについて知りたい」ルゼによる契約が発生。彼曰く「ここのシェルターに僕の同胞がいるから倒してコード剥いで解析して」だとさ。仲間意識はないらしい。

というわけで旧西東京第20シェルターに全員集合。

ベクターの出没数は少ない地域(過去の大規模掃討作戦+ヒポ先生討伐による情勢の安定化)であり、シェルター自体の防備もしっかりしている。


しかし、来たPCは例外なく守衛に「早く立ち去れ」という旨の警告を受ける。内部の人は会う人会う人皆目の下に隈を浮かべ、何やら重度のストレス環境下に居る様子。しかし、PC達が事情を聞いてもまともに教えてもらえない。
+ 後編
☆情報収集項目
  • 旧西東京第20シェルターについて 分野:居住区域・噂話
2:外敵脅威が少なく、更に水や食糧などの生活に必要な物資はシェルター内でだいたい賄える為、かなり閉鎖的な雰囲気が感じ取れる。ただその分住民同士は皆顔見知りであり仲も非常に良かったのだろう。
3:誰が味方で誰が敵なのかわからず、それでいて誰かわからない犯人が紛れ込んでいるといったこの状況から、住民は強いストレスに晒され偏執病を患っているようだ。

  • エンフォーサーについて 分野:エンフォーサー・歴史
1:このシェルター近辺に居るとされているのは「名もなき妖狐」であるようだ。
2:能力については推測することしか出来ないが、「人に化ける」「人を化かす」ことに長けていることが推測される。幻覚対策を行っておくに越したことはないだろう。
3:エンフォーサーには自らの外見を変えることのできる個体も存在した。彼あるいは彼女がシェルターの住民に姿を変えて犯罪を行う、ということも可能かもしれない。

  • 連続殺人事件について 分野:居住区域
2:居住区から少し離れたところに地面の色が不自然に変わっている場所がある。掘り起こしてみると、そこには腐敗した死体が埋まっていた。

通報者(ルゼより少し年上くらい)の証言
○平和で、敵も滅多に来ないこのシェルターで、突然殺人が起きた
○誰かが「あいつが怪しい」と言い出した、でもそう言われた奴も死んだ
○頭がおかしくなりそうだ、誰も外には居たがらない
<かたりちゃんが推理と交渉を振る>
通報者の青年からの追加情報が出る
○実は、自分の父が近所の兄さんを殺す現場を見てしまった
○でも、父はそんな人じゃない
○(変な様子は?という質問に対し)今ここで、まとも(以前と同じ)奴なんていない

この時点で、妖狐対策に合い言葉を出す。
ユミネちゃんの苗字を合い言葉にし、当のユミネちゃんだけは確認出来ないためルゼの苗字を伝えて合い言葉とした。

☆アサルトに突入する
ミドル途中でルゼ→教授に交代、合い言葉効果で妖狐疑惑は免れた。
ユミネちゃんから教授へ「父親の情報を買い取らせて」という依頼が入った。
かたりさんから教授へサシで話そうという提案があり、応じたところかたりちゃんの口調が「妾」へと一瞬代わり、彼女もまた人格にコードの影響を受けている(これはあくまで本人談)と明かされる。
レーゲン君から「モリアーティ」の危うさについて指摘され、議論が繰り広げられるも、なんだかんだで一旦落ち着いた。

☆ラストバトル
エンフォーサー「名もなき妖狐」改め「死体に非ず」との推理大会より
  • 彼女の異常コードの力はただ「顔の潰れた死体」(アルケオン製の死体っぽいなにか)を生産するのみ。データ的には3d10の軽減。
  • 彼女はそれをシェルター近くに何回か置いただけ
  • それを見たシェルターの人間が、「内部に人殺しがいる」と勘違いし、疑心暗鬼に。平穏を守ろうと、それを隠蔽。
  • そのうちに「外部に通報しよう」という人(大人ではない)が現れる。そして、シェルターの人間によって殺された。
 実はコレが、最初の事件。下手人はシェルターの人間達。
  • 「げに恐ろしきは、『死体に非ず』、とな!!」
+ result
話し合いの末、「結局全てはエンフォーサーのせいだった」というある意味優しい嘘で、すべてを片付けた。
その後、該当シェルターでは自殺者が何人か出たとか。
+ Comment by "J"
総評するなら、比較的楽しく、そして学ぶところの多かった案件だった、といったところか。

その先はまあ、おいおいまとめることにしよう。

+ a sealed move for 2-6

確認だ。君はネームレス関係者かね?
▼Yes
 No

確認完了。では、情報を公開しよう。


a password protected file for Gilliam Rain
+ ...
宛先:ギリアム卿
報告者:ルゼ・アプリェール/J

報告
この報告書は交代人格である「私」が記述しています。

旧東京地域における調査任務中、「情報に関する協力関係を築きたい」という匿名連絡を受けました。
罠の可能性を見当した上で呼び出しに応じた所、相手は「三回見たら死ぬ絵」を自称する「エンフォーサー」でした。本人曰く「バベルコードが一部機能不全を起こしている」と言うことで、その場で私を殺害することはありませんでした。

完全に信用すべきではないと思われますが、「異常コード」に関する未知の情報を保持していました(詳細は下記添付)。彼はこちらが保持している(彼では入手出来ない、人類側視点の)情報を要求しており、対価としてエンフォーサーという立場から得られる情報を提供するとのことです。目的は「自分が何者であるか知ること」だと称しており、その目的を達成した時点で満了となる取引を持ちかけられました。その場では彼我の戦力差を鑑み、「乗る」という回答をして去りました。

どうやら、同じ異常コード保持者同士でも、相互を仲間として認識しているわけではないようです。事実、今回の回収したアイソレイトコアは、彼からの情報提供に基づき入手しました。

如何なる理由があれど、相手がエンフォーサーである限り共存は不可能です。しかし、彼の持つ情報の価値を鑑みるに、取引をする価値があるのではないでしょうか。取引によってなるべく情報を引き出しつつ、同時に契約満了までに彼の弱点を探り、契約満了後即座に討伐する、という策を提言致します。

付記1
(得た情報一覧が記されている)

付記2
もしこの取引に乗り続ける、ということであれば、彼との接触は「ルゼ」に任せ、「私」が卿からの指示を受ける、という形を取ることを提案します。
また、こちらからどの程度まで情報を渡すかの匙加減については、私が単独で判断するのは不適当であると思われます。卿、及び解析班の指示をお待ちします。

付記3
私も「ルゼ」も、連絡先はほとんど広めていません。また、「三回見たら死ぬ絵」は、「大団円」討伐について、またその場に現れた「終わりなき英雄譚」について把握していました。エンフォーサーにはエンフォーサー同士の情報網、情報入手手段があるようです。こちらでも気をつけますが、情報管理体制の一層の強化を提言します。


「異常な人間を追いかけるためにその思考をトレースするのはいいが、下手をすればそちらに呑まれるぞ?」
「呑まれたことも手段にするなら良いが、ただ呑まれるだけなのならば、それはーー単なる社会の敵だ」
「それは面白くないだろう?」

さて。彼女にかけたこの言葉。
これをすこし改めて、告げるべき相手がもう一人。

けれどあの馬鹿には、私の言葉は届かない。
いや、届くかもしれないが、届いたとしてもそれは私の意に反する働きをするだろう。今以上に事態を悪化させるだろう。

大団円」の残した棘は、まだ刺さったままだ。
あの失態の傷跡は大きい。
傷口はまだ塞がっていない。

前の封じ手は、遅効性の”毒”と化したようだ。
ああ、これは再度の失態。

故に、次の封じ手は趣向を変えた。
あの馬鹿を動かせば事態が悪化する。
前の封じ手で動かした駒はあの馬鹿。この封じ手で動かす駒は私。

全く、今回の任務のような頭の使い方の方が好みなんだがな……


――私からの封じ手は、以上だ。
続きは、■■の判断を待つばかり……。


+ Immediate report : for personal use
2-9後(四神編突入時)にまとめた、ルゼ&教授の個人用メモ兼中の人の状況整理メモ。
長文故、リンクのみ失礼。
https://privatter.net/p/7154290

+ Endgame study
長文故、リンクだけ貼っておきます。
考えすぎた譚。気付いてしまった譚。
https://privatter.net/p/7909339


+ 卓外での行動/交流指針
+ 卓外での行動指針・単独
卓外でも、ベクターに襲われるなどの危機があれば随時「教授」と入れ替わっている模様。

ただ、どちらも単独での行動自体はあまり変わらない。
基本は任務のため、各地で異常コードに関わる資料や物証、風説の収集に当たっている。詳しくは本編次第だが、行動範囲はまあ広い。
レギオン系の宿舎等を必要に応じ抑えつつ、居場所を転々としている。
ただ、ムサシ・クレイドルへの長期滞在だけは忌避している。双子の妹(なるべく顔を合わせたくないし所在も知らせたくない)の活動拠点がムサシ周辺だからである。

以上 2021/03/20


<参加回>
+ ルネ・アプリェール
(絵、つちの)
<基本データ>
PC名:ルネ・アプリェール
PL名:りちょう
コード名:鳥山石燕
スタイルクラス:ブレイカー
レイヤークラス:シャドウ
ワークス:ストレンジ・ラボ

<ライフパス>
出自:病弱
経験:大怪我
動機:探究心
邂逅:刺激ーリンダ・チェン
コードフォルダの形態:インプリント(右手首)
コードへの感情:憧れ

<自由記述欄>

ラボNo.19228 ルネ・アプリェール 14歳 専攻:芸術(絵画)


絵を描くのが大好き。
蒼と白、表紙の色が違う2冊のスケッチブックと、絵の具を持ち歩いている。白い方は名状しがたき絵が大量に載っている。
白いスケッチブックの方、"使い切っちゃった”なぁ、なの。

ふにゃぁと鳴く。
中性的な容姿を生かして人をからかうのが趣味である。
なので呼ぶときに「ちゃん」とか「くん」とか言うとすねます。
呼び捨て推奨。
+ 過去
+ 出自
とある小さなシェルターの、一般家庭の出である。
両親と、双子の兄と暮らしていた。

当時のルネはしょっちゅう体調を崩しており、一日ほぼ家に居た。
退屈を紛らわすために絵にのめり込んだ。

兄とは、喧嘩友達のような関係だった。
意地をはって張り合ってはみるものの、元気な兄に、兄が語る外の世界に憧れていたのは確かだ。

ある日、レギオン職員を名乗る一団がシェルターに来た。
コード適合者を探すためだという。そして、シェルターの住人全員を調べていった。

ルネ達双子は適合者だった。
「職員」が渡したコードを、双子はそれぞれ受け入れた。

兄にはセンスがあった。目が覚めてすぐ、器用にコードを使いこなして戦ってみせた。
ルネは調律に手間取った。目が覚めても、体調を崩ししばらく寝込んだ。

「職員」側から、兄の方をムサシ・クレイドルに送らないか、との話が出た。クレイドルなら専門的な教育も出来るし、レイヤードなら栄達も望める、と。シェルター中が祝福した。




ルネは知っている。

貴重な自衛戦力を失いたくないシェルター側は、ルネを代わりに送る事を提案した。でも「職員」はそれを一笑に付した。
「いくら何でも、アレはないでしょう」
「適合に時間がかかりすぎて、使いこなすところまで行っていない」
「大体、そう長くは生きられないでしょう?コードの使い損だ」

ってな感じで、集会から帰ったパパとママが愚痴っているの、寝付けなかったから聞いちゃった。でも興味ないし寝直した。ふにゃぁ。



数日後、「職員」に連れられて兄は旅だった。

「お手紙・・・いっぱい書いてね・・・・にいちゃもご存じのとーり・・・わたしすごくひま・・・だから・・・ふにゃぁ」
「分かってるって!ぼくが面白い手紙をたくさん送りつけてやる、なのだ!せいぜい手紙にうまらないように、な!」



たくさんどころか、結局手紙は一通も来なかった。


半年間音沙汰がないのを不安がったシェルターのお偉いさんが、なけなしの伝手をたどり、更に半年かけて兄と「職員」について情報を集めた。


結論。
一行の足取りは途中で途絶えていた。
そして、レギオン側からは、「そのような一団の派遣記録はない」という回答が返ってきた。
+ 幕間
兄は居なくなってしまった。お手紙は0通。踏んだり蹴ったり。

でも、ルネには目指すべき人が出来た。
自らのコード、鳥山石燕――石燕のじっちゃんである。
長い調律の間、石燕の人生、石燕の絵、そしてそこから飛び出た妖怪達を夢に見ていたルネはその画風に憧れるようになったのである。

「じっちゃんが・・・ほんとのじっちゃんだったら良かったのに、なの・・・」

話す相手も居ない。両親とは最低限の会話しかない、相変わらず体弱いから外出しない。

暇だから毎日絵を描いた。画材なんて買ってもらえないので、庭の地面に落書きするか、裏紙をこっそり拝借してお絵かきをしていた。

もっと暇だから、百鬼夜行の影を呼び出して遊んだ。訓練も何もしていないので、ちまっとしか呼び出せないけれど、わりと楽しかったようだ。

ルネは知らなかった。
役に立たない、おまけに得体の知れない子。
ルネに無関心だった両親が、徐々にルネを疎みだしていたことを。
+ 経験
にいちゃが居なくなって、2年経った。寒い寒い冬の頃だった。
シェルターに届くはずだった物資が、届かない。

何人かが偵察に行った。
輸送ルート沿いに、ベクターが出現していた。
ベクターをどかさないと、物資は来ない。
このシェルターは周りと離れていて、早急の支援は望めない。
このシェルターに、ベクターを倒せる戦力は・・・・・・

とまあ、こんな感じで焦る人々をよそに今日も絵を描いていた。
「わたしにはどうしようもない、なのだ・・・・・・ふにゃあ」

甘かった。




そんなある日の朝、寒くて目を覚ました。

寒くて当然だろう。だって屋外だったから。
辺りを見渡すと、一面の雪景色。

立ち上がったら、足下の鞄に気づいた。
中にはカームタブラがすこしと、折りたたんだ紙が一枚。



「ベクターを 倒せ 
           二度と帰ってくるな 役立たず」


まだ死ぬのはごめんだ。
帰るのはもっとごめんだ。
あんなところ、頼まれたってもう帰ってやるもんか。

「危険地帯ではな、つよい心がだいじ、だって!」
にいちゃが言ってた。
にいちゃみたいになれたらよかったのになぁ。


気がつけば、すぐ近くまでベクターが来ていた。
わたしの二倍くらいの大きさ。

これはむり。

痛いなー、雪、まっしろできれいだなー、とか思いつつ、雪の上で伸びていた。
目を閉じるちょっと前、声が聞こえた気がした。

「ひゃっはー!素材!素材が狩れるぞ!!」

気のせいか。
+ そのあと
その後のことは、ちゃちゃっと書いておこう。

大怪我をしたルネを発見したのは、珍しいベクターを狩りに来たストレンジ・ラボの研究者(と書いてマッドサイエンティストと読む)だった。

次にルネが目を覚ましたら、そこはストレンジ・ラボの拠点のひとつであった。
研究者達が、一応連れ帰って手当してくれたらしい。
本来なら、「治ったら出てけ」と言われそうなところだが・・・・・・

思い出して欲しい。ルネは絵が好きだ。めちゃくちゃ大好きなのだ。

寝食を忘れるほどに執着する研究(追究)対象がある、という一点において、ルネはラボの大人達と非常にウマがあった。俗に言う類友。

なんだかんだあって、ルネはストレンジ・ラボに所属することになった。
+ いまのルネ
現在のルネは、先述のようにストレンジ・ラボの構成員である。

普段は拠点内に籠もって絵を描いている。
わりと居候に近い身(だれも気にしないが)なので、時々みんなの手伝いもしている。
ルネが来てから、当該拠点の発明品にエキセントリックなデザインが増えたのは気のせい・・・・・・ではない。

体が弱いのはもう大丈夫。
ラボに居た、薬学専門のレイヤード、素敵な先輩が治してくれた。
彼が処方した薬を飲んでれば、一応人並みには動ける。人並み以上は無理だが。どことなく兄に似た先輩に、ルネはよく懐いた。

戦闘についても、それなりには出来るようになった。でもまだまだ兄には敵わない、と当人は思っている。

で、絵のネタになりそうな、面白そうな情報が来たらお散歩(意訳)に出かける。
必要物資はラボから拝借していく。
代わりに、みんなが喜ぶお土産(ベクターの欠片とか旧時代の遺産とか、珍しい植物とか調味料とか)を持って帰るのが約束だ。
わりと好奇心は強めなので、お散歩の頻度は高い。
自衛のため、街を出たら百鬼夜行(シャドウ)を出しておくのはお約束。

ラボの大人はいい人(ただし常識はない)ばっかりだが、同い年の子がなかなか居ない。
背伸びしてさらに大人っぽくなろうとした結果、「自分より年上っぽい、かっこいいムーブしてた奴」な兄の影響がところどころ見られる。
(シェルター時代から、さみしさを紛らわすべく兄のまね――口調とか、からかい癖とか、ファッションとか――をしてたのが、中途半端に定着しちゃったのである。)
このころ、一人称がぼくになった。

絵に集中出来るようになったからか、画材がいろいろ使えるようになったからか、絵の腕前は上がった。

大好きな絵は好きなだけ描ける。
毎日が、新しいことでいっぱいである。
おなかいっぱいご飯を食べて、ちょくちょく楽しいお散歩をする。

なんだかんだいって、わりと現状には満足しているのである。

「なのに、時々さみしいのは・・・なんでだろ、なのだ・・・」


+ おまけ
ラボのメンバーから、スケッチブックをいっぱい貰った。
ひとつだけ、”ぼくたち”の目とおんなじ、蒼い表紙のがあった。

「にいちゃ、げんきかな・・・なの・・・・・・」

正直、にいちゃのゆくえは気になるのだ。
でも多分、だいじょぶ、なの。
にいちゃは世界一つよくてかっこいい、のだ。ちょっとえらそうなのがむぅっってなるけど。
そう簡単にくたばるなんて、ありえない・・・のだ。

あいつらのことはもう知らないけど、にいちゃにはきっとまたいつか会える、かも、なのだ。

きーめた、そのときのために、にいちゃにもお土産を用意しといたげよう、なのだ。
にいちゃが気に入っていた、きれいな絵(ぼくの趣味とはちょっとちがうのだ)を、このスケッチブックいっぱいに描いといてやろう。きっとびっくりするだろな、なのだ。ふーっふっふー♪

のこりのスケッチブックは、描きたいものを描くのだ!
むしゃくしゃするとき、それを全部どーんってすると、いい絵のもとができるのだ。・・・これは、ちょっと怖いってみんなに言われるのだ。
いつか、石燕のじっちゃんが描いた妖怪達みたいな、「こわいけど、かわいい」絵になるといいなぁ、なのだ。



ルネはまだ知らない。「にいちゃ」は、実は今・・・・・・

+ tips:インプリント
右手の腕時計(クラフトエディター、もちろんラボで改造済み)をずらすと、手首をくるりと一周する、バーコードのような模様がある。本人はこのデザインが「おしゃれじゃない」から、気に入らないらしい。……多分入れた人はデザインも何も考えてなかったんじゃないかなぁ。
+ ある絵描きの得た"光"
全てに背を向けて、絵に没頭する絵描きがいた。

片割れの……そして数多の英雄の後ろ姿を何も出来ずただ見送り、鉄錆にも似た血の匂いに晒され、悲嘆の叫びを聴き、そしてその全てから逃避するため全身全霊で絵を描いた。

いつか、石燕のような画家になることを夢見て。
いつか、にいちゃのような立派な英雄になることを夢見て。


ほんとうに、そうだったのか?

絵に行き詰まり、どうにもならないと思っていたそのとき。
ある戦いの果てに、ちっぽけな絵描きは答えを得た。


その答えは、あえてここには書かないでおこう。



あぁ、でも変化の兆しがちらちらと。

破り取られた白いスケッチブックのページ。輪郭がぼやけ、形が不明瞭になった百鬼夜行の影。そして、寂しげな、しかしどこかさっぱりしたような笑顔……
+ 『And they lived happily ever after…?』
ストレンジ・ラボのとある支部。その片隅に、ルネ・アプリェールのアトリエがある。アトリエ、といってもそう広い訳ではない。画材や過去作、イーゼルなどに占拠され、足の踏み場の方が少ないくらいである。ここしばらく主は不在であったが、何故かあまり埃は溜まっておらず、いつでも使える状態が保たれていた。

「ふんふんふーん♪なのだー♪」
そんなアトリエに、ついに主が帰還した。
軽快に鼻唄を歌いつつ、アトリエの奥のソファに飛び込む。ソファの上で暫しぴょんぴょんと跳ねるその様は、どこからどうみても上機嫌な小動物にしか見えなかった。

ひとしきり跳ね終わったあと、流石に傷に障ったか、「あででで………なの」などと言いつつ座り直した。

改めて、手中の物を見る。
激闘の末に帰還したラボ。夏影先輩がルネに渡してくれたそれは、ストラボの職員用名札だった。

「ラボNo.19228 ルネ・アプリェール 15歳 専攻:芸術(絵画)」………書かれている文字を、改めて確認するようになぞる。それはルネのアイデンティティーだった。その行動は、ここが、こここそが、自分の落ち着ける「おうち」なのだと再確認する儀式のようなものでもあった。

「……あれ?………かわいい!!なの!!!!」
そして名札の隅に、金色の桔梗の花の印を見つけた。
それまでついていなかったそれはしかし、スタイリッシュな名札にしっくりと馴染んでいた。

名札を再び首にかけ、脳内を駆け巡る思い出に暫し浸る。

膨らみ続けた不安に押し出されるようにして始まった冒険だった。かつて聞いた物語のように美しいことばかりではなかったし、悩むことも、苦しむことも、逃げたくなることも沢山あった。

自分の非力さを痛感させられた。一人では、決して乗り越えられなかった。

悩みを受け止めてくれた人がいた。迷いなく戦う背中を見せてくれた人がいた。道を示してくれた人がいた。未来を信じてくれた人がいた。そして、待っていてくれる人達がいた。それに……

疲れからか、瞼が重い。
ソファの上、お気に入りの毛布を被る。
意識が、徐々に沈んでいく。

………それに、最後に全てを語るべき相手…「にいちゃ」がいた。いつか、いつか、自分のしてきた冒険を全て語るのだ。寝たきりの日々を彩ってくれた冒険譚、そのお礼として。

ストレンジ・ラボの妖怪画家は夢を見る。
ここに、ひとつの物語が、その幕を下ろした。

And "they" lived happily ever after…?????
――――――――――――――――

アトリエでルネが眠りについた丁度その頃。
場所は海を挟んで遥か彼方、グルームレイク・クレイドルに切り替わる。

そこはコンピュータールームだった。沢山の情報機器に囲まれたまま、突っ伏すように寝ていた少年が目を覚ます。

「うわ、もうこんな時間!?まずいのだ…」

寝癖のついてしまった髪がぴょこん、と跳ねた。
直後、部屋の扉が開く。つかつかと入ってきたのは、艶やかな赤毛を結い上げた少女だった。

「推測通り、流石に起きたわね。それ以上寝られると業務計画が狂うから、丁度良かったわ」
「す、すみませんなのだ…です……」
「用件だけ端的に。昨日頼まれてた情報、入手出来たのよ」
「わ、ありがとうございますなのだ!!」
「礼は不要よ。どうせ遅かれ早かれ、全体通達で手に入るくらいのものですし。まぁ、ここまで個人名の入った資料を求めるのは貴方くらいでしょうけど」

それではこれで、と少女が立ち去る。その背中を見送って、少年は渡されたメモリを端末に差し込んだ。手が少し震える。

遅めの朝食として栄養バーを齧りつつ、内容を読み込む。
「東方十聖の討伐作戦は成功……良かった……いや、まだ安心には早い、なのだ」
はやる気持ちを抑え、慎重に読み進む。
作戦参加者一覧のある一点で、画面をスクロールする手が止まった。

ルネ・アプリェール:生存

その1ヶ所を読み終えて、ふぅ、と肩の力を抜いた。
「すごいのだ、ルネ………おめでとう、なのだ」

少し寂しげな笑顔を浮かべて、少年…ルゼは端末を閉じた。
重たい身体を引き摺るようにして立ち上がる。

「そろそろ、次の任務……今度は何なんだろ、なのだ……」

仮面の執行者は目を覚ました。
ここに、もうひとつの―新たな物語が、その幕を開ける。

To be continued…………

<参加回>
+ レイブン・テル

(絵,まりも)
<基本データ>
PC名:レイブン・テル
PL名:Lemo
コード名:アルジュナ
スタイルクラス:ブレイカー
レイヤークラス:アームズ
ワークス:フリーランス

<ライフパス>
出自:生存者
経験:犠牲者
動機:復讐
邂逅:保護者 大城豊子
コードフォルダの形態:武器
コードへの感情:割り切り

<自由記述欄>
年齢:19歳 性別:男
身長:178cm 髪型:金髪のオールバック

フリーランスのレイヤード。
活気のある好青年という言葉がよく似合う。
近所の子供によく好かれ、一緒になって遊ぶこともしばしば。

数年前にベクターからの襲撃に遭い当人は瀕死状態、一緒にいた妹とは死別した。
この時にベクターに対する敵愾心も生まれるが、それと同時にこの事件の対応に対しても強い怒りを持ち、世界に対しての復讐心も孕むことになった。それ故に組織には属さず、フリーランスで活動している。

「子供を守ること」
自分が幼いころに妹を亡くしたことが信条に根付いている。
未来ある子供を失うわけにはいかない、ある種の強迫観念に駆られている。

+ -人-が-英雄-の弓を引く
これはまだ語るべきではない物語。


<参加回>
+ ロイ・パーカー
<基本データ>
PC名:ロイ・パーカー
PL名:まりも
コード名:沖田総司
スタイルクラス:ブレイカー
レイヤークラス:アームズ
ワークス:レギオン

<ライフパス>
出自:レイヤード
経験:捜索
動機:憧れ
邂逅:刺激
コードフォルダの形態:インプリント
コードへの感情:親しみ

<自由記述欄>
レギオン所属のレイヤード。一見クールだが、根は頑固で正義感が強い。
趣味はバイク、好きな食べ物は焼き林檎、コーヒーはブラック派、好きだった色は赤。
レギオン所属を希望したのは同じくレギオン所属のレイヤードである父の影響が大きい。たくさんの命を救い闘い続ける父の姿に憧れ、自身も同じような人々の希望になりたいと願った。

ある時のことだ。彼は人命救助の任務を受けた。彼は全力で救助に向かったが、ある少年を助けることができなかった。彼は心苦しく思いながらも、それを少年の母親に報告した。母親は、目も当てられないほど酷く嘆き悲しんだ。そして息子を助けてくれなかった彼に叫んだ。
「どうして助けてくれなかったのよ、この人殺し!」
きっとこの母親はこの発言を覚えていないだろう。が、彼は心に刃を突き立てられたような気がした。その刃はいつまでも彼の心に刺さったままでいる。

助けられない人がいるということに対して「自分が殺した、自分の力不足のせいで死んだ」という強迫観念に囚われている。自分は本当に正しいのか、と信念を揺らがせている。所詮は借り物の正義、紛い物の誠。
<参加回>
+ ロマン・ヴェルヌ

<基本データ>
PC名:ロマン・ヴェルヌ(Romain Verne)
PL名:天道 蠱毒
コード名:ジュール・ヴェルヌ(R&Rvol.184収録)
スタイルクラス:サポーター
レイヤークラス:リベレーター
ワークス:レギオン

<ライフパス>
出自:指揮官
経験:渡り鳥
動機:忘却
邂逅:イアソン/先達/尊敬
アイソレイトコアの位置:胸
コードへの感情:誇り

<キャラクターシート>

<自由記述欄>
 レギオンに所属するリベレーターのレイヤード。紺色の髪に薄青色の瞳を持つ少年の姿をしているが、実年齢はもっと上。戦闘時には味方を支援するのを得意としており、また、平時の情報収集も得意としている。
 おとなしそうに見えて好奇心旺盛なのでそれなりにトラブルメーカー。大きな問題にならないギリギリを突こうとしてくるので逆に厄介なタイプ。普段はおっとりふわふわした言動をするが、有事の際にはハキハキとしゃべるようになり、指揮官らしく指示や檄を飛ばす。素は前者で後者は気を張っている状態らしく、安心できる状況になると反動でふにゃふにゃになってしまう。また、人間の価値観をまだ十全に理解していないようで、とても子供とは思えない達観した発言が飛び出すことも。

「ぼくはロマン・ヴェルヌだよ。ロマン、って、すてきな響きだろう? ぼくがつけたんだ」
「わあ、あそこのクレープ、とってもおいしそうだねえ。ぼくのおこづかいで買えるかしら……?」
「にんげんは殴られたらすぐに死んでしまうものね。そういうことなら、ぼくは前に……え? ほかのひとが行くって? むう。ぼくだって戦えるのになあ」

「ぼくはエンフォーサーだったころ、たくさんのひとを殺したんだ。全部覚えてるのさ。それでね、たまに思うんだ。ぼくはたくさんのひとを殺したのに、なんの罰も受けずにこうして暮らしていていいのかなって。にんげんは悪いことをした人には罰を与えるんだろう?」

 エンフォーサーだった頃は、アイソレイトコアが見えにくい位置にあるのを利用して人々に紛れて情報収集を行い、他のエンフォーサーに得た情報を提供したり、ベクターを引き連れ指揮官としてヘイブンやシェルターを襲ったりしていたらしい。元々は旧イギリスや旧フランス近辺の出身で、そこから東へ東へと旅を続けてきたとか。
 彼が言うには、旧東京区域に滞在中、ある日気がついたらリベレーターになっており、ベクターや他のエンフォーサーに追われていたところ、他の任務中のレイヤードに助けられ、彼らが所属するムサシ・クレイドルのレギオンの支部に転がり込むことに。エンフォーサーからリベレーターになった前後になにかがあってもおかしくないはずだが、不思議なことに彼は何も覚えていないらしい。

+ 2-15 After Talk
 白状しよう。ぼくには、人の心、というものがまだよくわからない。
 フウさんが朱雀さんを想う気持ちも、ユミネや薫さんが、彼女と行きたいと思ったのも、進さんがフウさんを応援したいと言ったのも、あの閉ざされた扉の前で皆が浮かない顔をシていたのも、よくわかっていない。
 共感できない、と言ったほうが正しいかもね。知識として、人がどういうときにどういう感情を抱くのかは知っているつもりだ。だから、推測はできた。でも、それは「理解」できている、というのとは、やっぱり違うだろう?
 だから、ぼくにはまだ人の心がわからない。
 でも。
 先の戦いから、なんだか何かが掴めそうな予感がしている。
 こうしてレイヤードとして仕事をこなすうちに、それがわかるかもしれない、そんな予感が。もしそれが正しければ、それはとても喜ばしいことだ。だってそれは──ぼくが、未だに、自分がエンフォーサーだった頃の記憶を憎みきれないぼくが、「人」として生きる手がかりになりうるのだから。
 ぼくはもう、殺戮兵器などではない。だから──本心から、そうではない、と胸を張って言えるように、ぼくはなりたい。

+ 幕間
 自分の思い描く『英雄』を演じる……というのは、正直にいえば、面白くできるか不安だったのだけれどね。でも、存外うまく行ったみたいだ。なにより、楽しかった。他者との交流で千差万別に物語が紡がれていくこと。それが、TRPGという物語生成システムの真骨頂なのかもしれないねえ。
 さて、現実のぼくらだって、負けてはいられないな。なにせ、ムサシ中のレイヤードたちが集い集って強大な敵に立ち向かう、そんなまさに物語のような局面にぼくらは相対しているんだ。こんなときこそ、『英雄』たちには輝いて、そして勝ってもらわなくっちゃあね!
 そうだなあ。いい機会だし……。すこし、最近のぼくの思考を整理しておこうかな。もしもこの作戦で命を落とすとしても、一リベレーターが自分の心理状態を自己分析したもの……なんてていでこれを残しておけば、少しは役に立つかもしれないし。
 今回のTRPG会……卓、というのだっけ。はとてもとても楽しかったのだけれど、その「楽しい」っていうのは、普通の人間が感じる「楽しさ」とは少し違うのかもしれない。
 前にも書いたけれど、ぼくは人の心がわからないんだ。これは「共感ができない」と言った方がより正しいのだと思う。実際、ぼくはあの卓の中で演じられていたキャラクターに感情移入することはできなかった。思考上での再現性が高いから心情や状況に基づいたセリフが出せるだけで、実際にその感情を自分が感じているわけではない、ということだ。ぼくのキャラクター、ラウルが唐突な口づけに戸惑って照れていたとき、傍目から見たぼくはきっとずうっとにこにこしていたろうね! まあ、あれはぼくがそもそも恋愛感情というものを感じたことがない、というのもあろうけれど……まあ、ともあれ。ぼくがぼくのキャラクターを演じているとき、ぼく自身はそのキャラクターと同じ心情であるわけではなかった。そして翻ってみても、ぼく自身がなにかを感じたり、あるいは思考によってひとの感じたことを推測したりすることはあれど、誰かが感じた感情を写し取ったみたいにぼくも感じる、というのは、いままでに経験がやっぱりなかった。そのうちできるようになるのかな? 今はわかんないや。でも、できるようになったら、それはなんて素敵だろう、と思うのさ。
 じゃあ、どうしてぼくは「楽しい」と思ったのか。もちろん、考えてデータを組んで、サイコロを振って一喜一憂して、敵を倒して達成感を得て、というのもあるけれど。やっぱり『新しい物語』なるものを観測すること自体が嬉しいんじゃないかなあ、と思うんだ。いの一番にあんな感想が出るところからも、きっとそう。そして、その観点からエンフォーサーだったぼくの行動や思考を見返すと、やっぱりその傾向はあるみたいだった。これはおかしな話だと思うけれど、ぼくはエンフォーサーだったときも、『憎むべき人類の敵』として意図的に振る舞ってきた節がある。あるシェルターにベクターたちを差し向けたときにね。幼い兄妹が逃げるのが見えたんだ。ぼくはそれを追わなかった。その気になればすぐさま追い付いて殺してしまえたけれど、追わなかった。彼らは愛すべき家族や友人を奪ったベクターを憎み、それを指揮するエンフォーサーを憎んだだろう。そうした人間はさ。よく『英雄』として働いてくれるんだ。もしもコードに適合できなかったとしても、何らかの形で『英雄』を助けたり、彼らに寄り添ったりすることが多い。そうだ。それこそが人類という『英雄』と、ぼくらという『敵』の織り成す『物語』だ。だから、ぼくは『英雄』に殺されて然るように、彼らがぼくらとより激しく、より「楽しく」戦ってくれるように身を振っていた。その末路として死ぬのであれば本望だと、なんなら今でも思っているさ。……どうにも、もう叶いそうにないけれどね。まあ、それならそれで、やりようはいくらでもあるとも。お話の登場人物に『英雄』と『敵』しかいないなんて、そんなことあるわけないのだから。
 まあ、そんなわけで。目下の課題は、彼女たちの物語のひとつの節目を見守ることと、その中でヒントを得ることだ。もちろん、準備を抜かるなんて、そんなことはしない。必ずや勝たせてみせるさ。彼女たちと、ぼくの未来のために。

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最終更新:2022年04月20日 00:06