PBW(Play By Web)とは、プレイヤーの人々が書き記した「行動指針」に基づいてGMが物語を紡いでいくゲームです。とはいえ、その「行動指針」の書き方がよく分からない人も多いと思うので、ここでは、ラガドーン内PBWの第一弾であるPBW企画「見習い魔法師の学園日誌」(2020年4月〜9月)における模範例の一部を(プレイヤーの方々の許可を貰った上で)紹介させて頂きます。

 まず、この企画におけるPC達は全員「エーラム魔法学校に通う見習い魔法師」という設定でした。その上で、初回の時点でGMからは以下のリンク先に提示されているような五種類の「クエスト」を提示しました。


 これに対して、PCの一人である シャーロット・メレテス は、以下の「クエスト1」の「選択肢C」を選びました。

+ 初回のクエスト1
クエスト1「学長との面談」
 エーラム魔法大学の学長センブロス・ストラトスが「赤の教養学部」の現状を確認するために来訪することになり、何人か学生達との面談をおこなうことになった。これは、現在の魔法大学を束ねる最高権力者である彼とコネを作る好機であるし、経験豊富な超一流の魔法師から話を聞くことが出来るという意味でも、貴重な機会と言えるだろう。
+ センブロス
行動指針
A、学長の機嫌を取ることに専念する
B、学長に対して自己アピールする
C、学長に何か質問する
D、学長に何か直訴する
E、その他

 その上で、彼女は以下のような行動指針を自由記載欄に記入していました。

+ 初回のシャーロットの行動指針
【前日】

  • 学長と面談が出来るとのことで、聞きたいこととかをノートにまとめて準備することに。
 (当代屈指の魔法師と名高いセンブロス学長とお話できる機会、無駄にはできません…!)
 (時間を無駄にすることなく、風紀委員の名に恥じない立派な受け答えをしなくては…!)

  • 考えをまとめる所に頑張りすぎてそのまま書けずに寝落ち。翌朝起きると目の前のノートは白紙。
 (…むにゃ、朝ですか…? おはようございます…)
 (はうっ、ノートに何も書かずに寝てしまいました。しかも、考えていたことも寝てしまったせいでうろ覚えですっ!)

【当日】

  • 書き直す時間は無かったので、そのまま面談へ。

  • 学長先生に会うと、学長先生のことをキラキラした目で見つめてる。
 (あれが、立派な魔法師の姿。目標にしなくては!)
 (…って、見ている場合じゃありません。ちょっとでも話をまとめ直さなくては!)

  • 面談スタート、ちょっと緊張でたどたどしい。
 「赤の教養学部所属、風紀委員もしています、シャーロット・メレテしゅ…!(←噛んだ)」

  • 焦って聞きたかったはずの内容が頭から飛んだ結果、つい正直に聞いてしまう。
 「そのっ、学長先生!」
 「真面目に授業を受けて、規律正しく生活していれば、立派な魔法師になれますか?」

  • 口に出してから、先生の返答が返ってくるまでの間にちょっと後悔。
 (…あ、これじゃあ、目的のために真面目にしてるみたいだ…)


 このように、彼女の場合は「台詞やシチュエーション)」などをかなり具体的に指定しています。GMはこの内容を踏まえた上で、以下のような「結果報告」を提示しました(読んでもらえば分かりますが、ほぼ行動指針の内容をそのまま載せています)。

+ 初回の結果報告内におけるシャーロットの登場場面
1、学長との面談

(当代屈指の魔法師と名高いセンブロス学長とお話できる機会、無駄にはできません…!)

 魔法大学の学長であるセンブロス・ストラトスと「赤の教育学部」に所属する学生達との面談の前日、魔法学校で風紀委員を務める12歳の少女 シャーロット・メレテス は、聞くべきことをノートにまとめて準備していた。

(時間を無駄にすることなく、風紀委員の名に恥じない立派な受け答えをしなくては…!)

 だが、結局その日の夜の間に彼女は考えをまとめきることが出来ず、ノートも白紙のまま寝落ちしてしまう。

(……むにゃ、朝ですか……? おはようございます……、はうっ、ノートに何も書かずに寝てしまいました。しかも、考えていたことも寝てしまったせいで、うろ覚えですっ!)

 結局、書き直す時間も無かったので、彼女はそのまま面談へと向かうことになった。魔法学校の大広間で多くの生徒達が緊張した面持ちで待ち望む中、センブロス学長(下図)が到着すると、彼女はキラキラした目で学長を見つめる。
+ センブロス

(あれが、立派な魔法師の姿。目標にしなくては! …って、見ている場合じゃありません。ちょっとでも話をまとめ直さなくては!)

 そんな思いを抱きつつ、彼女はたどたどしく緊張した様子で真っ先に手を挙げる。

 「赤の教養学部所属、風紀委員もしています、シャーロット・メレテしゅ…!」

 呂律が回らず、名前を噛んでしまったことで、彼女は聞こうとしていた内容が丸々頭から飛んでしまった。彼女はつい咄嗟に、日頃から考えていたことをそのまま聞いてしまう。

「そのっ、学長先生! 真面目に授業を受けて、規律正しく生活していれば、立派な魔法師になれますか?」

 彼女はそう口にした直後に、自分の言ったことを軽く後悔する。彼女にとって「規律正しく真面目に生きること」は、魔法師を志すこと以前の問題として「当然守るべき規範」である筈なのに、これではまるで、目的を果たすために真面目に生きているように聞こえてしまう。それは彼女にとっての本意ではない。彼女はハルーシアの名門貴族出身ということもあり、魔法師学校への入学前から、人々の模範となるような生き方を常日頃から心掛けてきたのである(実践出来ているかどうかは別として)。
 だが、センブロスはそこまで彼女の発言を深読みすることもなく、淡々と答える。

「それは立派な魔法師になるための必要条件ではあるが、十分条件ではない。どれだけ真面目に規則正しく生きていても、魔法師になれない者もいる。それが現実だ。しかし、仮に魔法師になれなくても、真面目に規則正しく生きる習慣を子供の頃から身につけておけば、たとえ別の道を歩むことになったとしても、必ず役に立つだろう」

(続けて読みたい場合は こちら


 一方、別のPCである マシュー・アルティナス は、以下に示された「クエスト4」を選び、選択肢「A」と記入しました。

+ 初回のクエスト4
クエスト4「悩める新入生」
 新入生のビート・リアンは悩んでいた。彼は入学前から無意識のうちに「物体浮遊」の魔法を身につけていたのだが、その発動が制御出来ず、心が動揺すると無意識に周囲の物品を動かしてしまうため、今は魔力抑制装置を付けている。彼は一刻も早く克服したいようだが、まだ幼い彼にはそれが難しく、余計に焦って心を乱しがちになっている。
+ ビート
行動指針
A、心を制御するためのコツを伝える
B、気晴らしになるような何かを提案する
C、焦る必要はないと諭す
D、魔法師以外の道へ進むことを勧める
E、その他

 その上で、彼が自由記載欄に記入した内容は以下の通りです。

+ 初回のマシューの行動指針
 困ってる子は放っておけない。悩んでる人を見かけたら声をかける。
 まずは話し合い、相談から。何に思い悩んでいるのか、どう解決したいのか、そのためにはどうしたらよいのか。共に考え、実践する。授業等の公的な時間を割くことはないが、その間も悩みの解決法に思いを巡らし、空き時間があれば手伝いに行く。
 最後まで彼を見捨てることはない。いかに時間がかかろうと、解決が絶望的であったとしても、彼の心の拠り所として自分は在りたいと考えている。励まして欲しいのならば励ます。信じる。別の道を示して欲しいのなら一緒に探す。提案する。相手の求める、期待する言葉を与える。だって、優しさとはそういうものだから。

「心を落ち着けたいのなら、まずは自分の心を知ることから始めたらいいんじゃないかな。どうして自分は心を乱しているのか、自分はどうしたいのか、どうなってほしいのか。そして、これからどうすれば良いのか。ゆっくりと考えて、気持ちを整理すれば、落ち着いて物事に臨めると思うよ」

「大丈夫、君がうまくできるようになるまで僕はずっと手伝うよ。焦らなくていい」


 彼の場合は、相手がどんなリアクションを示すかについて、いくつかのパターンを想定した上で、それらに対して自分がどのように対応するのか、という大枠の方針だけを綺麗にまとめてくれています。GMはこの内容を踏まえた杖で、以下のような「結果報告」を提示しました。

+ 初回の結果報告内におけるマシューの登場場面
 数ヶ月前に魔法学校に入学したばかりの8歳の少年、ビート・リアン(下図)は悩んでいた。彼は入学前から「心が動揺すると、無意識のうちに周囲の物品をランダムに動かしてしまう」という現象を引き起こしており、当初は自分が悪魔か何かに取り憑かれたのではないか、と考えていたのだが、それが「無意識のうちに静動魔法に目覚めた子供」の初期症状だと知らされ、諸々の葛藤を乗り越えた上で、同じ静動魔法師であるアルジェント・リアンの養子として、エーラム魔法学校の一員となることを決意した。
+ ビート
 ビートのように、入門前から無自覚ながらも魔法を発動させていた子供は魔法師としての資質が強いと言われ、周囲からはエリート扱いされることが多い。だが、ビートは精神面の不安定さを克服出来ず、すぐに心を乱して魔力を暴発させてしまうことから、自ら望んで(義理の叔父にあたる)メルキューレ・リアンが作成した「魔力抑制装置」を常に装着している。ビートは一刻も早く克服して、一人前の魔法師になりたいと願っているようだが、その焦りが余計に彼の心を乱し、抑制装置を外せなくなるという悪循環に陥っていた。
 そんな彼は現在、幼年者としては珍しく「一人寮」に住んでいる。これも、「もし万が一、自分が力を暴走させてしまった時に、他人を巻き込まないように」という彼なりの配慮なのだが、そんな彼の元に、ある時、一人の先輩が訪ねてきた。

「はじめまして。僕は マシュー・アルティナス 。よろしくね、ビートくん。君が悩みごとを抱えていると聞いて、話を聞きに来たんだ」

 マシューは13歳の男子生徒である。彼は子供の頃、幼い女の子を助けようとして、魔法の力で他人を傷つけたことがある。その時、助けた筈の女の子からも怯えた目を向けられ、その時の彼女の顔が今もマシューは忘れられない。マシュー自身がそんな過去を持っていることもあってか、「力を制御出来ずに悩んでいる子がいる」という話を聞いた彼は、まずは彼と話をすることを通じて、その心の悩みの解決に協力しようと考えたのである(そして、それは彼にとっては、今は亡き母に言われていた「他人に優しくありなさい」という言葉の実践でもあった)。

「あ、はい、えーっと、その、わざわざ、すみません……」

 ビートは、自分のためにわざわざ一門も違う先輩が訪ねてきてくれたことに恐縮しつつ、うつむき気味に慣れない敬語でぎこちなく答える。

「さて、立ち話でよければこのまま話すし、中に入れてくれるなら中で話す。外の方がいいなら、歩きながらでも、公園でも、僕の部屋でも、どこでもいいよ。君にとって話しやすい場所を選んでくれればいい」
「えーっと……、それじゃあ、その、この部屋で……」

 そう言って、ビートはマシューを部屋に招き入れると、マシューは優しい口調で話し始める。

「君は、心が不安定になることに悩んでいるらしいけど、心を落ち着けたいのなら、まずは自分の心を知ることから始めたらいいんじゃないかな。どうして自分は心を乱しているのか、自分はどうしたいのか、どうなってほしいのか。そして、これからどうすれば良いのか。ゆっくりと考えて、気持ちを整理すれば、落ち着いて物事に臨めると思うよ」

 マシューのその言葉に対して、ビートは少し考え込んだ上で、ポツリポツリと語り始めた。

「俺、エーラムに来てから、ずっと、馴染めずにいるんです。てゆーか、多分、俺、そもそも人付き合いが下手なんです。ここに来る前、ブレトランドの孤児院にいたんですけど、そこでも、なかなか馴染めなくて、そこで普通に皆と話せるようになるまで、随分時間がかかって、ようやく話せるようになったと思ったら、エーラムに誘われて……、色々迷った上で、ここに来たんですけど、やっぱりというか、なんというか、ここの他の生徒達とも、またなかなか馴染めなくて……」
「君は、この学校に馴染みたいと思っているのかい?」

 マシューはあえてそう問いかけた。ただ魔法師になりたいというだけなら、必ずしも周囲の者達と親密になる必要はない。孤高の道を歩み続けて立派な魔法師となった者はいくらでもいる。むしろ、過剰な馴れ合いは堕落への道だと諭す教員もいるくらいである。もちろん、マシューとしても友人を作る行為を否定する気はない。しかし、苦手意識を克服してまで友人を作らなければならないかを判断するためには、まずそもそもビート自身の意志を確認する必要があると彼は考えていた。

「そう言われると……、馴染みたいのかどうかは、よく分からないです。ただ……、俺は孤児院にいた頃、馴染めずにいた頃よりも、皆と馴染み始めた後の方が楽しかった…………。だから、多分、また周りと馴染めなくなったことで、寂しくなってるんだと、思います……」
「なるほどね。一人でいることは確かに寂しい。それはそうだろう。じゃあ、それならなぜ、君はあえて『一人部屋』に住んでいるのかな? 抑制装置を付けている今なら、魔力の暴走の心配はないんだろう?」
「師匠はそう言ってるけど、でもやっぱり、もし万が一、ってことを考えると……、いや、メルキューレさんのことを信用してない訳じゃないけど、でも…………、いや、その、実は、最初は同居人はいたんです。でも、一緒に住んでた時に『俺が暴走して、そいつを魔法で投げ飛ばしてしまう夢』を見てしまって、それ以来、ちょっと、一緒にいるのが怖くなっちゃって……」
「そうか……、君は優しいから、他人を傷つけたくなくて、それで、誰も近寄らせようとはしないんだね……」
「優しいのかどうかは分からないけど、でも、怖いんです、この力が」
「だったら、一つの選択肢として、その力を封印してもらう、という道もあるよ。そうすれば、君はまた元の仲が良かった孤児院の皆と一緒に暮らせるようになる」
「それは、師匠にも言われました。逃げたければいつでも逃げればいい、って。でも、俺は逃げたくないんです! 俺はこの力をちゃんと正しく使えるようになって、一人前の魔法師になって、そして、借りを返したい奴がいるんです!」

 今まで弱々しい様子だったビートの語調が、ここに来て急に強くなった。どうやら彼は自分の力を制御出来ないことに葛藤しつつも、「魔法師になりたい」という明確な強い意志を持っているらしい。そのことが分かった時点で、マシューの中でも一つの方向性が見えた。

「分かったよ。君はどうしても魔法師になりたい。それが君の一番の意志で、そこは絶対に変わらないんだね?」
「はい、そこは絶対に譲れません」
「そのために、孤独な道を進むことになったとしても、それに耐えられるかい?」
「それは……、分かりません。まだ、そこまでの覚悟が出来ないから、気持ちが揺らいでしまっているのかも……」
「いや、別にそこで無理に覚悟を決める必要はないよ。他人を傷つけないために孤独な道を選ぶのも、どうにかして他の皆と仲良くやっていく道を探すのも、どちらも君の自由さ。まだ今の時点で、どちらの道を選べばいいのか分からないなら、気持ちが定まるまで、ゆっくり考えればいい。前の孤児院にいた頃だって、時間はかかったけど、最終的には仲良くなれたんだろう?」
「はい、そうです。でも、俺にはあまり時間が無いんです。一刻も早く魔法師になって、彼女と契約出来るようにならないと……」

 そこまで言ったところで、ビートは急に口籠もる。その頬は少し紅潮しているように見えた。

「今はそれ以上は言えないんだね。じゃあ、そこまで無理に踏み込みはしない。でも、話したくなったら、いつでも僕に話してくれればいい。大丈夫、君がうまくできるようになるまで僕はずっと手伝うよ。焦らなくていい」
「……どうして、そこまでしてくれるんですか? 俺、別にアルティナスの門弟じゃないし、そこまでしてもらえる立場でもないのに」
「困っている人がいるのに、助けない理由はないよ。それが誰であろうとね」

 マシューはそう告げた上で、ひとまずビートの部屋を後にする。これまで、師匠にすら話したことがなかった胸の内をさらけ出せたことで、ビートの中で鬱屈していた何かが、少しだけ取り払われた気がした。そしてまた、自分の気持ちを言葉にすることによって、今の自分の悩みをある程度客観視出来るようになったビートは、改めて自分の気持ちに向き合い始めるのであった。

(続けて読みたい場合は こちら


 他にも、それぞれのプレイヤーごとに様々な形で行動指針を書いて送って下さいました。GMとしては、「プレイヤーがPCにやらせたいこと」さえ伝わる書き方になっていれば問題ないので、ご自身の記述スタイルで書きたいように書いて頂ければ幸いです。

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最終更新:2020年12月24日 16:21