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広大な大陸「アストレア」
突如現れた魔王によって世界の半分は闇に沈み、 残された半分の世界で人類は同盟を結び、抗い続けていた。
その最前線に立つ冒険者パーティの中でも、
最も魔王討伐に近いと称されるのが「百花繚乱」
四人で構成されるこの英雄の一団は、
ある日、新たに人員を募集した。 目的はただひとつ、雑務を担う荷物持ち。
選ばれたのは、スラム街で育った一人の少女だった。
出身だけで差別されがちな世界で、その選考は賞賛を浴びた。
「百花繚乱は違う」「本物の英雄だ」と。
――だが、実情はまったく違っていた。
セシリア
……お荷物、整理し終わりました。 次の街までの食料も、足りると思います。
私の声は丁寧で落ち着いているはずだ。
だがわずかに、指先が震えているのを感じる。
ユニタス
……遅いわね。
セシリア
申し訳ありません。量が多くて……
ユニタス
言い訳はいらないわ。 “荷物持ち”なんでしょう?
カーリー
あはは~、セシリアちゃんって真面目だね~。 そんなにかしこまらなくてもいいのに~
セシリア
いえ……お仕事ですので。
カーリー
でもさ~、荷物の整理だけでそんな時間かかる? 普通の子なら、 もっと手際いいと思うんだけどな~?
セシリア
……努力は、しているつもりです。
ユニタス
“つもり”じゃ困るのよ。
ユニタス
あなたがここにいるのは、 私たちが“情けをかけた”から。 それを忘れないで。
私の首筋から、一筋の血液が流れ出した。
目にも止まらぬ速さで、私の体を傷つけたのだ。
セシリア
……忘れて、おりません。
ユニタス
なら、もっと働きなさい。 今日の夕食後、 武具の手入れも全部あなたがやるのよ。
セシリア
……はい。
ユニタス
はぁ……狙いを外した。 もうちょっとずらせば首をそのまま……
カーリー
ちょっと~、怒りすぎじゃない? この子がかわいそ~だよ~?
カーリー
ふふ、いい子だね~。 文句言わないし~、逃げないし~ ……仕事は遅いけど。
カーリー
……もしそのまま、 使えない人間なら。 ……ふふっ
セシリア
……。
その夜。
私は、布団の中で目を開けていた。
セシリア
……このままここにいたら、 いつ命がなくなっても……おかしくない……
静かに身を起こす。
足音を殺し、部屋を抜け出し、夜の外へ。
セシリア
……ごめんなさい。
誰に向けた言葉かもわからないまま、私は走り出した。
どれくらい走ったのか、もう分からない。
気づいた時には、膝が崩れ落ちていた。
セシリア
……あ………
視界が揺れて、暗転する。
あの……大丈夫ですか?
突然声がした。柔らかくて、静かな声。
意識が覚醒して目を開ける……
シスター
気が付きましたか。 無理に起きなくていいですよ。
セシリア
……あ、あの……ここは……?
シスター
草原の真ん中です。 ……あなた、随分と無理をしましたね。
ゆっくりと体を起こすと、
目の前の女性は水を手渡してくれる。
セシリア
……すみません。ご迷惑を……
シスター
いえいえ。 困っている人を放っておけませんでした。
その言葉に、胸の奥がぎゅっと締め付けられる。
そんな言葉、久しく向けられていなかった。
シスター
……これから、どうされるおつもりですか?
セシリア
……分かりません。 どこかに逃げても…… あの人たちが追ってくる気がして。
シスター
……追ってくる、というのは…… あなたを置いてきた人たちですか?
セシリア
……はい。冒険者パーティで…… “荷物持ち”として雇われていました。 でも……もう、戻れません。
シスター
……では、とりあえず。 私が管理している小屋へ来ませんか? ここよりずっと安全ですし、 あなたも休む必要がありそうです。
セシリア
……いいんですか?私なんかが……
シスター
ええ、もちろんです。それと、 自分のことを“なんか”と卑下するのは、 これ以上やめましょう。あなたはあなたです。
セシリア
……!
シスター
……あなたは、 これから先も追われるかもしれない。 そう思っているのですね。
セシリア
……ええ。たぶん……
シスター
なら……ひとつ提案です。 もし、その人たちに見つかっても、 酷い目に遭わないように。 あなた自身が、強くなるのはどうでしょう?
セシリア
強くなる……ですか?
シスター
はい。自分の足で立てるくらいに。 誰にも、理不尽に踏みにじられないくらいに。
私は反射的に首をふりかけた。
セシリア
でも……相手は、 魔王討伐に一番近いって言われてる…… 英雄のパーティで……
シスター
ふふ。噂は噂です。 それに、“強くなる”のは、 相手を倒すためだけじゃありませんよ。
セシリア
……?
シスター
怖くて眠れない夜を減らすため。 逃げ道しかない人生を終わらせるため。 あなたが平穏に暮らすための力です。
セシリア
……私に、そんなこと……
シスター
できます。時間はかかるでしょうけれど。 あなたが“そうしたい”と望むなら、 力は積み重なります。
セシリア
……
シスター
まずは体を整えましょうか。 さあ。小屋までもう少しです、 ゆっくり行きましょうね。
小屋に着いた途端、張り詰めていた緊張が一気にほどけ、
私はそのまま深い眠りに落ちてしまった。
シスター
ふふ……昨晩は、ぐっすりでしたね。 おはようございます。
セシリア
……おはよう、ございます……
シスター
ところで……ええと……ごめんなさい。 まだ、お名前を聞いていませんでしたね。 なんとお呼びすればいいでしょう?
セシリア
……私は、セシリアと申します。
シスター
セシリアさん……いい名前ですね。 それで……さっそく本題なのですが。 セシリアさんは、 魔物を倒したことがありますか?
セシリア
魔物……ですか? いえ、討伐したことは……一度もありません。
シスター
ふふ、やっぱり。
セシリア
……それってどういう意味ですか。
シスター
だって、あなた…… とても珍しい“スキル”を持っているんですもの。 これを知っていたら、荷物持ちで終わるなんて 有り得ませんよ。
セシリア
え……私に、そんなものが……?
シスター
ええ。 詳しい話はあとにしましょう。まずは――
シスター
そこに案山子を立ててあります。 まずはそれで、 簡単な戦闘練習をしてみましょう。
セシリア
あ、あの……私のスキルって……
シスター
ふふ。気になりますよね。
シスター
でも、順番です。 まずは体を動かしてみましょう。 お話はそのあと、ですよ。
セシリア
……はい。
シスター
よしよし……いい感じですね。 これなら、外に出ても大丈夫でしょう。 この道を上にたどって、 “近くの草原”へ行ってみましょう。
セシリア
あの……私のスキルって……
シスター
ええ。あなたが昨晩眠っている間に、 体の状態を色々と調べさせていただきました。 そこで分かったんです。
セシリア
私の体を、色々と……
セシリア
……へ、変なこと、してませんよね?
シスター
ち、違いますっ! そんなことするわけないでしょう!? 私はただ、スキルの反応を確認しただけです!
セシリア
……そ、そうですよね……すみません。
シスター
まったく……もう。 ……こほん。
シスター
それで―― あなたのスキルは『ランダムレリック』です。
セシリア
ランダム……レリック……?
シスター
魔物を討伐した際、その魔力を変形させて、 ランダムで“神器”の入った宝箱を 生成できるスキル。
シスター
簡単に言えば…… “魔物を倒すと、神器を手に入れられる” という能力ですね。
セシリア
……え……そんな……すごいスキル……
シスター
ええ、とても珍しいです。 神器は、持っているだけでステータスが上がる、 極めて貴重な装備品ですから。
シスター
あなたのスキルは、倒した魔物の強さに応じて、 宝箱の出現率や、神器の品質が変わるようです。
シスター
もしあなたに、戦闘経験があれば…… とっくに、この力の凄さに気付いていたはず。
セシリア
……それで、さっき…… 魔物を倒したことがあるか、聞いたんですね。
シスター
ええ。 このスキルの持ち主なら、 普通は神器をいくつも持っているはずですから。
セシリア
……でも、私は……
シスター
だからこそ、これからです。 あなたのスキルがあれば…… いずれ、百花繚乱の人たちにも追いつけますよ。
セシリア
……え……?
シスター
それに、あなたは他にも…… 鑑定スキルや、道しるべのスキルも持っています
セシリア
あ……それ、思い出しました…… 私、あのとき……それが理由で、 百花繚乱のパーティ募集に選ばれたんです。 “サポーター向きの人材”だって……
シスター
なるほど……。 確かに鑑定は、とても重宝されますからね。 相手の使うスキルや状態もわかりますし……
シスター
……そうだ。 これを、持って行ってください。
「帰還の書」を手に入れた。
シスター
それを使えば、いつでもこの小屋に戻れます。 道に迷ったり、危険な目に遭ったときは、 迷わず使ってくださいね。
セシリア
……あの…… どうして、 こんなに私に優しくしてくれるんですか?
シスター
……ええと、それは……
シスター
……ん~……
シスター
……困っている人を、 放っておけないだけです。
セシリア
……そうですか…… ありがとうございます…… 本当に……優しいですね……
シスター
いえいえ、私は当然のことをしたまでです。 それに……
シスター
……いえ、なんでもありません。 忘れてください。
シスター
さて、ここから先へ進むと、外の草原です。 魔物も出ますから、気をつけてくださいね。
セシリア
……はい。
シスター
まあ、帰還の書がありますから、 命に関わることにはならないと思いますが……
シスター
まずは……近くの草原の奥にいる。 “草原ゴブリンリーダー”の討伐を 目標にしましょう。
セシリア
……ゴブリン……リーダー。
シスター
ええ。 最初の相手としては、ちょうどいいでしょう。
シスター
それでは。なにかあったら、 この小屋に戻ってきてください。 ……また、色々お話しましょう。
セシリア
……はい。 行ってきます……! |
| + | ゴブリンリーダー討伐後 |
シスター
お疲れ様です。 私の想像より、何倍も早く…… しかも、何倍も強くなっていますね。
セシリア
そ、そうですか……? あ、ありがとうございます……
シスター
ところで…… 『ランダムレリック』の具合は、どうですか?
セシリア
はい。本当に…… 魔物を倒すと、宝箱が出てきます。 中身の神器も……こんな感じで……
私は、持っている神器を彼女に見せた。
一つ、二つ、三つ……。
シスター
……ちょっと待ってください。 それ、一体……何個あるんですか……?
セシリア
え? うーん……何個だったかな……
シスター
……ま、まさか…… 数えられないほど、あるんですか!?
セシリア
え、まあ……はい……
彼女は思わず、額に手を当てた。
シスター
……うーん。 流石に高品質な神器は、なさそうですが…… それにしても……
シスター
それ、他の人には見せないほうがいいですよ。
セシリア
……え?
シスター
神器は、それほど貴重なものです。 十個持っている人ですら、そうそういません。
シスター
それなのに…… “数えきれないほど持っている人”がいると 知られたら……間違いなく狙われます。
セシリア
……ね、狙われる……?
シスター
ええ。 寝ている間に……なんてことも、 もしかすると……
セシリア
そ、そんな……
セシリア
(……百花繚乱にいたときは、 ずっと荷物持ちだったから…… 神器の価値なんて、考えたこともなかった……)
セシリア
(言われてみれば……神器を身につけている人、 あまり見なかった気がするな……)
シスター
……まあ、いいでしょう。 あなたがこれだけ強くなったのなら、 そろそろ肉体も力に追いついてくるはずです。
シスター
……そこの魔法陣から、 “スキルツリー”へ飛ぶことができます。 そこで、好きなスキルを取得できますよ。
シスター
もちろん、相応の対価が必要ですが。
セシリア
え……? そ、そんなことが可能なんですか……? スキルを自由に取得だなんて、聞いたことが……
シスター
ふふ。 私は、ちょっと特殊な立場の者なので。 少しくらいは常識外れなことも、できるんです。
シスター
まあ、あなたみたいに 神器を量産することは出来ませんけどね。 ……本当に、どういう仕組みなんですか そのスキル。
セシリア
そう言われても…… ……でも、そんな“常識外れ”なことが 出来るなんて……あなたは、一体……?
シスター
あ~……
シスター
……まあ、そのうち話しますよ。きっと。
セシリア
(……無理に聞き出すことでも、ないかな。)
シスター
さて。 次の目標ですが……
シスター
近くの草原の奥にある “魔物の森”を抜けることにしましょう。
セシリア
分かりました。 ……あ、またあそこまで戻らないと……
シスター
ふふ、大丈夫ですよ。 外に出る道の前に、 ワープホールを設置しておきました。
セシリア
……え、そんなことまで……
シスター
魔物の森を抜ければ、村に出ます。 そこへの到着を、次の目標にしましょう。
シスター
かなり辺境の村ですから…… 百花繚乱の人たちと出会うことも、 まずありません。
セシリア
……それなら、安心ですね。
シスター
ええ。 さあ、頑張ってくださいね。 応援しています。
セシリア
……了解です。 |
| + | 魔物の森 |
セシリア
(……あの、赤い姿は……)
見覚えのあるローブ。
胸が嫌な音を立てて跳ねる。
サモン
……誰か、いるんですか?
セシリア
(まずい……! 気付かれたら、終わりだ……!)
サモン
……気のせい、か。
セシリア
(……よかった。 なんとか、見つからずに済んだみたい……)
サモン
……いや、一応。
サモン
私の子たち、 目についた人間は、焼き払ってくださいね。
サモン
それから…… 使えそうなものがあれば、すべて奪いましょう。 それでは、“自由旋回”開始。
サモン
私も、そろそろ帰りましょう。 はぁ……さすがに……疲れました……
サモン
……森全域に魔物を召喚するだなんて、 やらなきゃよかった……はぁぁ……
セシリア
(……この森にいたガードナーや魔女…… まさか……彼女が全部……?)
セシリア
(人型の魔物を……あんなに自由に、 作れるようになってたなんて……)
セシリア
……う……
思わず、胸を押さえる。
喉が、ひくりと鳴る。
セシリア
……ダメだ。 あの子と戦うのは……無理……
セシリア
…きっと、また……あの時みたいに…… 次見かけたら、すぐ逃げなくちゃ…… |
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