「機動戦士GUNDAM SEED―Revival―」@Wiki

誘惑の曙光…?

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朝の涼やかな空気は、岩山をくりぬいたつくりのこのアジトの中でも変わらない。
 昨日、襲撃から戻ってきたばかりの仲間たちは、今もまだそれぞれの部屋の中で疲れた身をベッドに沈めたままだろう。
 そんな早朝に俺が通路を歩いているのは、むろん早起きの習慣があるから、ではない。
 なんとなく目を覚まし、のどが渇いていたことに気づき、
 横着してベッドの中から水差しをとろうとして手を滑らせ見事に割ってしまったから、だ。
 ……一週間ぶりに綿の上で寝られたんだ、多少は横着になったっていいじゃないか?
 昔から横着な奴だった、と言われてるわけでは……なくもない、か。

 それだけじゃ廊下を歩いている説明になってない? ……確かにな。
 割ったかけらを集めているうちに、手を切った。 これでもういいだろう?

 ……ほうきとちりとりをちゃんと取って来ず、手ぼうきでやったのがまずかった。
 さらに追い討ち、部屋に絆創膏すらない。ナチュラルの感覚だったら、いや普段の感覚だったら
 そんなことなど面倒くさがらずにちゃんとやれよ、というところなんだろうが、
 こう、体だけじゃなく精神的にも疲れていたんだ、そうなんだよ。
 そうでもなきゃこんな間抜けな理由で、医務室になんか行くもんか。

 かちゃ、と医務室のドアノブを回す。
 ドアにはまったすりガラスのむこうでぼんやりと光るデスクランプの存在で、
 もう「センセイ」が居ることは判ってる。
 いつもどおりに、ちょっと手ぇ切っちまった、絆創膏くれ、と声をかけようとして。
 俺は言葉を呑んだ。


「センセイ」は、たしかに居た。
 机につっぷし、あのウェーブのかかった薄緑の髪を卓上に散らせて。
 しずかな朝の光の中、かすかに上下動する白衣の肩。
 机の上にたたまぬままに置かれた眼鏡。
 彼女も昨日は負傷者の手当てのやり直し(野郎の適当な応急手当だけではいろいろ問題があるのだ)、
 持ち出した医療品の整理、カルテの記入、等々、残留組メンバーの中でもずばぬけて遅くまでおきていたことは、
 ほろ酔い気分で前の廊下を通り過ぎたときの部屋の明かりで判っている。
 そうか……そのまま寝ちまったんだな。
 いくらコーディネーターとはいえ、いくら医師とはいえ、純粋に体力的にいえば、やっぱりふつうの女。
 無理に起こすことはない、絆創膏のあるところは知っている。
 適当に取って、適当に出ていこう。
 ……薄緑の髪が飾る白い頬、朝の陽光と蛍光灯の白っちゃけた世界の中で、紅く輝くかすかに開いた唇に
 数旬目を奪われたままだったことは、……ほっといてくれ。

 変わりばえのしない、灰色に塗られた事務机。その一番したの引き出しの中に、
 絆創膏やら消毒薬やら胃薬やら、そういうよく使う医薬品の在庫があるのはここに足しげく通う人間には常識だ。
 いまだ眠りから覚めぬ彼女を起こさないように、静かに、静かに、身をかがめる。
 そーっと、そーっと、引き出しをあける。動き出す一瞬をいかに静かに過ぎ去らせるか、それが勝負だ。
 どこからともなく戻ってくる、ガキの頃の悪戯気分。
 あけた引き出しから取り出す紅十字の描かれた薄い缶。これまた静かに静かにと缶のふたをあけ、
 中から取り出す紙包みひとかたまり。絆創膏ゲットだぜ、とガキのころの口癖が
 十数年ぶりに口をついて出たのは、苦笑いするところだろうか。

 静かに引き出しをしめ、いざ立ち上がろうとしてふと「センセイ」のほうに目をやる。
 しゃがみこんだ俺。椅子に座り机に突っ伏して眠る「センセイ」。
 横を向く俺。目の前に現れる彼女の腰つき。


 白衣を羽織って隠れがちな、彼女の体のライン。
 それでも唯一判る、シャツをたわわに持ち上げる双乳のラインのおかげか、黙っていれば端正な顔立ちのせいか、
 このレジスタンスの中で彼女に「憧れ」以上の感情を持ってしまってる奴が幾人かいるのは知っている。
 知っているが、……こんな至近距離で彼女の腰つきを、そして短めのタイトスカートから伸びる太腿のラインを、
 こうまじまじと見られる特権の持ち主はどうやら一人もいないようで……
 ブラウンのストッキングに軽く締め付けられていながら、存在を主張する太腿。
 女なら当然だろ、と叫ぶ理性の声を押し流す、魅惑的な量感を撒き散らす腰つき。
 タイトスカートとシャツでところどころ中断されながらも鮮やかに描かれる誘惑のラインの、
 その続きがどうなっているのか、見たい、というもうどうにも止まらない衝動に手が動き出したのは、
 ……ああ、言い訳はしないさ! どうかしてたんだ、あのときの俺は。
 ただ、誓っていい、これだけは彼女も保証してくれるはずだ、俺が触ったのは白衣のすそだけだって。
 彼女の肉体そのものには指一本触れていない。これだけは俺と彼女の名誉にかけて誓っていい。

 俺の目から彼女のからだを隠す白衣の、そのすそをそっとつかみ、ひらく。
 早鐘のように打ち続ける胸の鼓動、何故か震える手。息苦しいほどに胸の中がしめつけられる気分だ。
 白衣がうつぶせの彼女の脇で抑えられていた格好で、引く手につたわる抵抗。
 今からしてみれば思いとどまる最後の瞬間だったその場所で、俺は衝動に身をゆだねてしまう。
 くい、と手を引く。白いとばりはわずかな抵抗を残して開かれた。

 見て、しまった。
 シャツを透かして存在を主張する腰まわり。
 そこから突然の破調。重力の力も借りて、豊かに布地を押し上げる、大きな、大きな「存在」……。
 次の瞬間、俺は目をつぶった。強く、強く、目をつぶった。
 その「存在」の大きさに、「存在」が描く曲線の放つ磁力のようなものの力に、ある種の恐怖をすら覚えて。
 ほんのわずかな瞬間だけだったが、その「存在」はほんの外見だけで、俺の心を溶かしかけたのが、判った。
 あのまま見ていたら……。
 踏み越えてはならない一線を、俺は確実に越えていた。いまでもそう思う。
 既に踏み越えてるぞ、という批判は甘んじて受けよう。俺も俺らしくなかったことは認める。


 いまだ乱打が収まらない心臓を必死でなだめつつ、俺は立ち上がる。
 一瞬前まで自分を包んでいた理由なき高揚感のかわりに這い上がってくるのは、
 未だ目を覚まさぬように見える彼女の横顔、その眺めを見るたびに増してくる罪悪感。
 眠っている女を、それも「センセイ」を、あんなことの対象にしちまうなんて。
 時計を見れば、そろそろ皆もおきてくる時間帯が近づいてきている。
 罪滅ぼしに、と、側の戸棚から彼女愛用のマグとインスタントコーヒーを取り出す。
 薄く淹れたコーヒー、ミルク入り砂糖やや多め。寝起きに飲むにはあまり濃いのは身体に悪いだろう、と思い、
 あとは彼女の好みのままに。

 ことり、机に湯気と香ばしい香りを放つマグが音を立てる。
「……んむ、ぅ……?」
「センセイ」はゆっくり身を起こす。寝ぼけまなこではあるけれど、日頃見られぬ素顔の彼女は
思っていたよりずっと綺麗で……。
 彼女の視線がマグに移り、それを支える手にうつり、俺の顔へと移る。
 そばの眼鏡をかけ、彼女はにこりと微笑う。
 俺も釣られて思わず笑い……「おはよう」と声をかけた。
 そして彼女も俺の手からマグを受け取り、一口すすって……

「……シンっ?! いつの間にっ?!」
「あ、ああ、絆創膏もらいに来ようと思ってな。よく寝てたし昨日は疲れてるだろうと思って、
 そんでコーヒーでも淹れてやろうかと思ってだな……」 
「そうなの?」
「う、うん、ああ、そう、その通り」
「……ふーん。ま、ありがと」
 眼鏡の向こうでにやりと笑う彼女。
「じゃ、もらうもんはもらったから、これで失礼する」
 と言い放って去ろうとした俺の背後から、ぽつりと彼女曰く。

「……やりたいことはやったから、の間違いじゃないの?」
凍りつく、俺の背筋。 振り向かずとも、彼女が堕天使さながらの笑みを浮かべていたことは、嫌というほど判った。

 俺がその日を当分の間「厄日」として記憶していたのは、まぁ、そういうわけさ。
 何があったか、何をやらされたか、……そこは、おまえたちの想像に任せる。
 ひとつだけ言っておくなら……年上の女は、怖い。


  • 710氏の描くセンセイ画がなければこんな話にはなりませんでした。
    と、責任転嫁。なんか色気あるのですよあのイラスト。 -- 書いた奴 (2005-11-01 02:25:15)
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