「機動戦士GUNDAM SEED―Revival―」@Wiki

女神一人、少女一人

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 ガルナハンに来てからは、いろんなことがありました。
 私がオーブに居たころには、想像もつかなかったようなことがたくさん、ほんとにたくさん。
 その中でも、今この状況はかなり予想もしてなかったことのひとつに入るな、と思います。
 頭の上には満点の夜空。上がる湯けむり。自然温泉に入る私。
 そして湯気の向こうで輝く、黒い、ほんとうに黒い髪のひと……。

「おまえが、ソラ=ヒダカか?」
「……はい?」
 基地の中が妙にざわざわしていた一日。なんでもレジスタンスの有力な後援者の方が来られたんだ、という
話を聞いてたのですが、そんな一日のお昼過ぎのこと。
 大食堂から洗い場まで食器を入れた籠を持っての往復にいそしんでいた私に、そんな声をかけてくる人がい
たのです。
 普段ならもうちょっとむっとした声を返してやるところでしたが(忙しいんです!)、その見知らぬ声がど
ういうことなのかは私だってわかります。
 仲間でなければ入れないこの場所、それもほとんどが男の人ばっかりというこの場所で、聞き覚えの無い女
性の声……ときたらもうだいたい想像はつきます。
「は、はじめまして!ソラ=ヒダカです」
 偉い人、もしくは偉い人の身内。頭下げといて間違いはありません。
 がしゃ、と食器の入った籠を下ろした音が響き、その人は軽く手を振ったようでした。頭を下げていたせい
でぜんぜん見えませんでしたが。
「ああ、呼び止めて済まなかったな。ユウナから話は聞いていたので、つい……な。ロンド=ミナ=サハクだ」
「ロンド=ミナ=さ……サハク!?」
 オーブ出身者として、知らないわけがないその苗字。

 オーブの先々代代表・ウズミさまの配下で共に自爆された五大氏族のひとつ、
 カガリさまの統治が始まってからは名を聞かなかったけど、オーブの代々続く名門で……
 どうしてそんな方がここに…… いったい何故……
 そんな言葉が頭の中をぐるぐる回ってる私を前に、ロンド=ミナ=サハクさまは言われるのです。
「ミナ、でよい。ここではユウナもただのユウナ、シンもただのシン、人の価値を決めるのは能力と志。
 ……そうなのだろう?」
 これがシンさんやユウナさんだったら「必ずしもそうでもないような気もします」とまぜっかえすのもアリな
んでしょうが、……そのときの私には、そんなことなど思いもよりませんでした。
 綺麗な黒髪の綺麗な女の人。この基地の誰よりも背の高い(ヒールを抜きにしてもこの方より背の高い人は
あまり居ないと思いました……)、鋭い目の女の人。微笑っているのに、押しつぶされそうな威圧感。
 だから、私はその方の次の言葉に、意味もわからず「は、はいっ!!」と答えてしまったのです。

 ミナ様の言葉の内容を思い出して、倒れそうになるほどに動揺する、わたし。
「良い温泉があると聞いた。今夜はそこで湯浴みをさせてもらう、案内してもらえるな?」

 ……なんでこんなことになっちゃったんだろう。何度目になるかわかんない自問自答は、結局あのときミナ様
に気圧された自分の言葉に戻っちゃう。
 まさか、まさか、こんなVIPの方と同じ湯に浸かってるなんて。
 本当であれば一生話すこともないほどの家柄の方です。
 いや、ちょっと前までだったらただの「雲の上の人」で済まされるはずの相手です。
 なのに、どうして、私こんなとこで温泉浸かってるんだろ。
 それどころか私、ミナ様の背中流したんだっけ。
 身長あんなに大きいけれど、やっぱりその身体は女の人の背中で。
「コーディネーターが珍しい……というわけでもないだろうに。緊張しているのか?」
 そんな言葉を濡れて輝く黒髪のむこうから囁かれ、焦りまくって手桶を落としちゃったりもしたけれど。
 そんな私をどう思ったのか、さらにとんでもないことを言い出されるミナ様。
「ソラ、交代だ。今度は私が背中を流してやろう」
「?! ち、ちょっと、そんなことされたら、私、ちょ、失礼すぎ……」
「私が許すといっているのだ。それとも、滅びた氏族の女には背中も晒せぬか?」
「ち、ちょ、そういう問題じゃ……」
「ほら、座れ」
 ぐいと私の肩を押し下げた手は、柔らかく、でもその力はものすごく強く……。
 逆らえません。

 天国のお父さん、お母さん、リヴァイブのみんな、シンさん、わたしなんだかとんでもないことになってます……
 髪の毛まで洗ってもらっちゃいました。もしかして私、遊ばれているんでしょうか……。

 一緒に浸かるなんて失礼すぎます、と一応抵抗してみる私ですが、「そう言うな」と抱きかかえあげられてそのま
ま湯船へ。
 私は肩まで浸かってちっちゃくなってて、
 ミナさまは胸までお湯に浸かり、背中をへりにもたれかけ身体を伸ばしてて。
 髪も、腕も、脚も腰も、綺麗だなぁ……。「コーディネーター」って、こういうことなんだろうか。
 昔、学校の美術の時間で習った「黄金分割」って言葉が、なんの脈絡も無く思い出されます。
 ……男物っぽい服着てたからわかんなかったけど、ムネもおっきいし。
「ナチュラル」って、こういうことなのかな、と自分を振り返ってしまいます。

 ユウナはよくやっているか、シンは暴れたりしてないか、日頃の食事はどうしている、若い女の身で不都合はない
のか、湯船でいろんな質問をなされるミナさま。
 私はできるかぎりそれらの質問には、正直に答えた、つもりです。
 シンさんについてはちょっと美化入ってるかもしれないけど。
「そうか……たまの地球だから、いつもと違うものを観たかったのでな。
 突然のことでそなたには迷惑をかけた」
 もう質問は終わりだということか、笑顔でミナさまがおっしゃられます。
 そのときはじめて彼女のことが「怖くてえらい人」じゃなく「年上のお姉さん」に見えました。
「いえ……私もお世話になってる身ですから。
 でも、ひとつだけ聞いていいですか?」
「いいぞ、私に答えられることなら、な」
「ミナさまは、どうして、『リヴァイヴ』を助けて下さっているのですか?」
「……そうだな。統一地球圏連合、そしてその背後に控えるラクス・クライン。
 これらが私の考える『国』とは違う、ある種の恐ろしいモノを世界に広げつつあると思えるのが理由のひとつ」
「恐ろしい……もの?」
「自らの掲げる理念のためなら、民が傷つくことを恐れないという考え。
 そうした考えの下に運営される国……それは、『国』という名の牢獄にすぎん」
「……」

「理念のために人を殺す。それは『リヴァイブ』もその他のレジスタンスも、そして私自身も同じことだろう。
 だが、それを『国』がやってしまってはいけない。
 ふつうの集団なら、誤っていると思えば抜けられる、止めることもできる。
 だが、国とは、一度その中に生れ落ちてしまえばなかなか抜けられぬ存在なのだからな……
 シンのように。私のように。そしてソラ、そなたのように、な。
 故郷のこと、今でも思い出すのだろう? だから、温泉を選んだのだ。そなたと話せる場として、な」
「……そうだった、んですか……」
「……」
「……あ、あの」
「なんだ?」
「理由のひとつ、というと、ほかには?」
「そうだな。……アメノミハシラを巣立った男、そのことがまだ忘れられぬ……とでも言っておくかな」
「?! そ、そんな、だってアレだって、その、喧嘩っぱやいし、口も悪いし、背もミナさまより低いし、その、
あの……」
 突然の言葉に慌てふためく私。そんな私の頭をぽんぽんとなでながらミナさまは言うのです。
「シン、とは一言も言っていないぞ?」
 からかわれた、と気づいて真っ赤になる私を見つめるミナさまの笑顔。
 この方がこんな悪戯っ子のような顔を見せる人って、どれだけ居るのでしょうか。

 ミナさまが宇宙に帰られてから、「やれやれ、肩凝ったぜ」とため息をつく男連中を横目に、
 私は内心くすくすと笑うのです。ミナさまだって、ふつうのお姉さんなんだよ、とつぶやきながら。


  • 影の軍神とか言われててもやっぱ二十代のおねーさんですから。
    たまには普通におねーさんぶらせてあげたかった。 -- 書いた奴 (2005-11-01 02:32:48)
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