「機動戦士GUNDAM SEED―Revival―」@Wiki

「潜入作戦」

最終更新:

Bot(ページ名リンク)

- view
だれでも歓迎! 編集
 風が木々の枝を揺らし、髪の毛を優しくなでていく。
 森の間、蔦で偽装されたその場所に、少年は居た。
 周囲には誰もいない。上空からの監視もない。
 とくん、と心臓が鳴った。
 しっかり枯葉はまいてある。踏めばばりばりと音がする、確実に気づけるはずだ。
 ソラはまだ洗い場に居た。当分ここには来ないはず。

 一度でいい、あの娘のものを見てみたいんだ……
 対象が物干し台にかかってる下着でさえなければ、もうちょっと聞こえはいいのだろうが。

 抜き足、差し足、忍び足。
 自分の踏みしめる草の立てる音にすら心は乱れる。
 ばれたらヤバイ? そんなことは考えない。
 一歩一歩進む先、薄暗がりの中に「輝く」白や薄緑やライトブルーのその物体、その物体の放つ異様なオーラを感じれば、もはやあとは足を進めるだけ。
 背筋の寒気はスリルの産物。露呈の恐怖は魅惑のスパイス。
 第二次性徴期まっさかりのコゾーに火がついてしまえば、そこらへんの常識論は通用しない。
 ……いや、それじゃいかんのだが、誰も彼のそういう青い煩悶に気づいてなかっただけ、なのである。
 これが20世紀前半くらいの社会体制であれば、仲間入りの儀式として商売女と一夜を過ごさせることもあったのだろうが、残念ながら今はコズミック・エラ。そんな思春期青少年の手前勝手な欲望発散型社会儀式など、とうに廃れきっている。

 まぁ、それで性犯罪やらかしてりゃ世話ないのだが、そういう大人の分別がないのがこの時期の青少年の衝動というもの。
 かくして彼、シゲト・ナラは「リヴァイブ」女子用物干し場への密入国を遂行中、というわけである。

 五メートル。四メートル。三メートル。二メートル。
 五歩、四歩、三歩二歩一歩……がしり、と干し竿を支える支柱を掴む。
 足取りを重くする何かをようやく振り払うかのように、シゲトは前を向いた。

 立ち働くときに屈んだ彼女のお尻の線に浮かび上がる下着のライン。
 すっとすれ違ったときに襟元にかすかに覗いたブラの肩紐。
 熱を出して医務室で一晩過ごしたあの夜、冷たい掌で額の体温測ってくれたセンセイの、白衣の間の胸元からちらりとのぞいた胸乳の白さ、それを半分覆っていたカップ。
 狭い通路を荷物抱えてすれ違いかけたときに、自分の手に押し付けられる格好になっていたコニールのあのショートパンツ。荒い目の生地の下から広がり彼の指を包み込んだ弾力は未だに忘れない。
 上半身だけパイロットスーツをはだけ、Tシャツ一枚で彼の手からアイソトニック飲料のボトル受け取ったシホ。
 長時間の戦闘の汗で蒸された肌はおんなの香りを撒き散らし、そのフェロモンに魂を抜かれかけた彼の視線は身体にはりついて乳房のラインを一部はっきりと示すTシャツに注がれ……成り代わりたいと思ったTシャツも数歩先に。

 目の前の光景を前に、脳のライブラリからあふれ出す「過去の」記憶。毎夜毎晩彼を煩悶させる、一瞬の色香の記憶。
 ああ……刻が見える。

 熱に浮かされたような気分のまま、手が勝手に伸びる。
 その先にあるのはブラジャー。サイズから見てソラのものであるのは疑いない。
 もっと威圧的なカップサイズを誇るあのライトブルーのものも視野にちらりと入ったが、
 ここで手の延ばし先を変えるのは彼の胸中の想いを踏みにじるかのようで納得できなかったのだ。
 ……自分のやってること自体がすでにそうだろ、というツッコミは、この場合するだけ無駄だ。
 思春期の青少年とはそういうものだから。

 あと、10センチ、7センチ、6センチ、5センチ、4センチ、3センチ8ミリ、3センチ4ミリ、3センチ3ミリ、
 ……あとすこし、あとすこしで、ずっと想像し続けた「もの」に触れられる。
 接近する手の速度が急速に衰えているのが良心の呵責のなせる業であることに、彼はまだ気づかない。
 手がひらかれる。あと少し、この手を閉じれば、閉じれば、閉じればついに……!

「何やってんの、あんた」
 ほいと無造作に投げかけられた、声。
 慌てて引っ込めた手の勢い、反射的に跳ね上がる体の動き、それらが彼の体のバランスを崩し、あわれシゲト・ナラは地面を相手にファーストキス……。
「ここに来るな、来たらどういう扱いうけるか覚悟しとけ、って、あたし言わなかったっけ?」
 穏やかな、実に穏やかで優しげな声が背後から響く。
「あ、わ、こ、これ、は、こに、こ、こにーる、さん、ち、ちが、い、ちがうんです、その、あの」
「今朝から妙にそわそわしてて、怪しいと思ったのよ。洗濯物とりに来て見たらわざとらしく枯葉散らしてあるし……
 その手で入口の監視を、って、それ教えたのあたしでしょ? 通用するとでも思った?」
「……ひ、あ、わ、わ、わわ、」
 腰が抜けた。 こわばる筋肉、動かぬ体でのた打ち回りながら必死に逃げようと。
 コニールの手が、その彼の襟首を無情にも掴み。

 鼻水たらしかけ、泣き出す五秒前というシゲトの顔をぐいと自分のほうに向ける。
「ひ、おね、おねがいしまふ、そら、そらには、そらにわぁ……」
「あんたが最初に誰の下着掴もうとしてたかも、きっちり見てたからねー。こんな男社会の中で頑張る女の子の下着ドロなんて、いったいどうやって処分してやろーか。仲間内でのA級性犯罪は死刑、って、これも判ってることよね。でなきゃ追放……」
「……ご、め、ごめん、なざい、ごめんなざい、ごにーるざぁん……」
「……」
 猫の如く襟首つかまれ持ち上げられながら、べそかきながら必死のシゲト。
 コニールはにやりと笑い、手を離す。
「……?」
「ま、最初に見つけたのがあたしだったからね。以後反省し二度とこんな類の真似をしない、と誓い、あんたが言うこと聞くんなら今回に限り黙っててやってもいいわよ? 執行猶予付き有罪判決、そんなとこね」
 軽く手を振りながら背を向け歩き出すコニール。ポニーテールとお尻が左右に振れる。
「わ、わわ、ま、まってください、どうしたら黙っててくれるんですかぁーっ?!」
「そうねぇ、どうしようかなー?」

 風が木々の枝を揺らし、洗濯物を優しくなでていく。
 森の間、蔦で偽装されたその場所には、いまはもう誰もいない。




  • 900祭の煩悩をナマで食らう思春期少年。そんなに責めてやりなさんな、と。 -- 書いた奴 (2005-11-03 00:56:34)
名前:
コメント:

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
ウィキ募集バナー