「機動戦士GUNDAM SEED―Revival―」@Wiki

遭遇

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 湯気がほわほわとあたりの視界を遮る。かすかな硫黄の匂いが、故郷の思い出と重なる。
 岩陰に脱いだ着衣をたたみ、手ぬぐい一枚と手桶を持って板の上を歩く。目指すは岩間にのぞく湯溜まり。俺たち「リヴァイブ」自慢の温泉だ。

 ざばりと肩を流し、頭から湯をかぶり、手ぬぐいを濡らして身体をこする。石鹸なんて贅沢なもんを使いたがるのは女性陣かリーダーくらい。男だったらそこらへんは根性でこそぎ落とせ、というわけだ。
 最初はやや悩んだが、二年も居れば慣れもする。
 硫黄分のせいか暖まり具合も良いし汗じみた臭いもしなくて済む、このレジスタンスの士気維持のためにも重要な施設なのだ……ってホントかよ、まったく。

 俺としちゃ、生まれ故郷の記憶と重なって素直に懐かしいってだけだ。プラントには当然のことながら温泉なんかあるわけなかったからなぁ……。

 洗い終えたら、二度身体を流し、冷えかけた頭にもう一度湯をかぶる。そして湯だまりに身体を沈め……今週も生き延びたことを感謝する、その時間。

 の、はずだった。

 俺が身体を沈めた音に、湯気の奥の影が動く。
 誰か先客が居たか? 服は無かったのにどういうことだ。
 獣か、それとも……。湯の中ですかさず身を起こす。
 これでも元ザフトレッド、格闘術は同期の中でも「出来る」と評判だったんだ。
「……誰だ」
 押さえた口調で誰何の声をかける。

 それへの反応はむろん無く、俺は機先を制すべく湯煙の中に身を躍らせ……
 なんて展開には、むろん、ならなかった。
「誰だってちょっと待った、あんたこそなんでここに居るのよ?!」
 摂氏41度の湯の中で、凍りつく、俺。
 夜風が軽く地表を、草木を、俺の頬を撫でていく。 取り払われた湯煙のブラインド。
「……こ、に、い、る……」
「……」
「……」
「……」
 沈黙。 ただただ沈黙。

 そういえばこんなこともあったっけなステラ君のことは
 いつまでも忘れないよあははああ今からこいつがひと声
 さけべばおれのじんせい終わりだなあはははははははは
 明日から女性陣全員に白い視線で見られてひさしぶりに
 あだ名がらっきーすけべにこていされてからかわれるか
 とりあえず今ここでおれはどうしたらいいのかなただち
 にうしろむいて謝ってすむのかなあははははははははは

「……ま、まぁ、出るときだけ目ぇつぶっててくれれば、いいけど」
「……は、あ?」
「それとも今すぐ大声上げて人呼んだほうがいい?」
「い、いや、後ろ向くから、じゃなくて出るからいますぐ」
「……出なくて、いいわよ」
「?!」
「あんただって久しぶりのお風呂でしょ? 基地の中で臭いにおいばらまかれちゃたまんないわよ。ゆっくり浸かりなさい、これ命令」
「おまえに命令される義理は……」
 と、言いかけて、コニールが口元にその手でメガホンをつくってるのをみて言葉を止める。
「……あるな」
「そういうこと。あたしが出るときには目ぇつぶってなさいよ」
「……はい」

 といっても、何を話しゃいいんだ。
 普段のように軽口を叩ける空気じゃないだろ、これ。
 頭上には月、あたりを染める蒼い光。
 ときどき優しく吹く風に揺らされる湯煙。
 どこかから聞こえる虫の音。
 数メートル、……いや、手を思い切り伸ばせば届くくらいの距離に肩まで身を沈める若い女、ひとり。
「……おまえさっきもっと遠くに居なかったか?」
「どうせお湯も白いんだし、あんたが見たがるようなとこは見えないからね」
「だ、誰が見た……なんでもないです」
 ちくしょう。なんでこの状況で俺がこんなに立場弱くならにゃならんのだ。

 立場を強くしたいと思うなら。
 コニール、あいつは女だ。 シン・アスカ、俺は男だ。
 男と女が生まれたままの姿で隣り合っている。
 器量が悪いわけではない。むしろ上出来、いや大概の男なら振り返るのがあたりまえの器量よし。
 性格だって、たしかに口は悪いし喧嘩っ早いが面倒見もいいしあれで優しいとこもある。
 性的魅力だって無いわけがない、むしろ白い湯のおかげで助かってるのは俺のほうなんだ。

 ……正直に言おう。
 このまま肩を抱き寄せ唇合わせ、湯の中にかすんで消える乳房を掴み、そのまま一気に……
 そんな妄想が頭の中をぐるぐる回りっぱなしだったんだ、あのときの俺は。
 だが、……いや、だからこそ、こんな形で、そういうことをするのは。
 後ろめたい? いや、許されない。

 何年前かの再会からこのかた、こいつは俺のワガママだけはなんでも耳を傾けてくれた。
 望むモノがあれば、こいつに出来ることなら、なんでもかなえてくれた。戦場で背中を任せてくれた。任させてもくれた。
 そんなこいつとの関係を、こんなカタチで、どうにかしてしまうようなこと。
 それは「畏れおおい」、そう、畏れおおいという言葉がぴったりだった。

 もう肩も触れ合いかけるほどの距離にいる彼女。
 湯のにおいに混じって漂いくる、彼女の髪の香り。
 見下ろす先の、細い肩。浅黒い、けれど人一倍きめ細かな肌。湯の中に消える乳房の曲線。
 こらえろ、……こらえろ、俺。

 押さえ切れなかった衝動が、ぽろりと口から飛び出す。
「か……」やばい、なんだこの素っ頓狂な声は。
「か?」俺の顔を見上げてたずね返される。
「か……肩で、も、抱いて、やろう、か?」
 ガチガチに固まった舌、震える喉。こわばる笑顔でこんな台詞吐いて、どうするんだ、俺。

 そして、彼女は満面の笑みで言うのだ。
「いいよ? 誰も見てないし、……シン、あんたが、そうしたいんなら」
 駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ! 俺!
 ざばっ、と水音を立てて立ち上がる。
「出る! お先に!」
 そんだけ叫んで俺はその場を逃げ出した。逃げ出すしか、なかった。
 あいつにゃ敵わない。俺には覚悟が無い。あいつにゃ敵わない、女にゃ敵わない……
 敗北感、いっぱいで。

 その翌日から口を利いてくれなくなったコニールの機嫌が直るまで、
 ずいぶん四苦八苦させられたことは、まぁ、別の話だ……。

  • コニシン。コニ攻めは我が真理。あなたも叫ぼう! -- 書いた奴 (2005-11-03 02:30:10)
  • 全 面 的 に 賛 成 だ ! ! -- 通りすがり (2007-10-01 23:05:13)
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