「機動戦士GUNDAM SEED―Revival―」@Wiki

リヴァイヴの受難

最終更新:

Bot(ページ名リンク)

- view
だれでも歓迎! 編集
 ズン……ズン……
 朝靄の中を、人が進む。
 いや、それは厳密には人ではない。人ではあり得ない大きさ―――そう、巨人。モビルスーツ(以下MS)と呼ばれる身長が二十メートル近くある巨大な戦闘機械だ。
 巨人の周囲には切り立った山々―――それだけだ。大小様々、巨人よりも大きいものも小さいものもある。それらが山脈を作り、余所者を阻害する地形を作り出していた。―――天然の迷宮である。
 迷宮は数々の自然災害、とりわけ“ブレイク・ザ・ワールド”と呼ばれるユニウス7落下事件を経て一層余人には立ち入ることの出来ぬ地形へと生まれ変わっていた。拍車をかけたのがニュートロンジャマーの存在で、衛星写真や航空写真が満足に撮れないという事実がこの地帯に土着の人々以外立ち入れないという状況を作り出していた。レジスタンス“リヴァイヴ”にとっては格好のアジトである。
 巨人は、そんな山岳の迷宮を黙々と歩いていく。この時代のMSにしては少々無骨で野暮ったいデザインのシルエットは、どういう経緯かダスト(塵)と呼ばれていた。………巨人に意志があるのなら、一言文句を言いたいところだろう。
 「………一言文句を言うのであれば、『何故シンはそうも迂闊なのか』と言うところか。」
 巨人の意志ではないが、それを代表して(?)AIレイがダストのパイロットに文句を言う。ダストを操縦するパイロット、シン=アスカは憮然とした表情でその文句を黙殺した。
 「俺だって、こんなザマになったんだ。お互い様だろう。」
 シンはびしょびしょになった我が身を省み………クシャミを漏らした。空調があまり良く効かないのだ。
 『―――悪かったって。まさかパイロット席に浸水するようになるとは思わなかった。』
 ダストのメインメカニック、サイ=アーガイルが通信パネルの向こうで済まなそうに両手を合わせて謝っているのが見える。シンとて、サイがどれほど無理をしてダストのメンテナンスをしてくれているか、知っている。………知ってはいるのだが、
 「いや、良く解ったよ。サイは俺よりこのポンコツを大事にしてるってね。」
 最早何度目かの嫌味をサイに投げかける。その度にサイは謝り、辟易した―――そういう感情までインプットされているのかは不明だが―――AIレイが、
 「まあ、浸水テストなのに子供のように頭からダストを水に飛び込ませる方もおかしい、という事実も存在するな。」
 等とシンにとっても痛い事実を突きつけるので、シンもストレスの遣り場を求めてサイにぶつけてしまう。………要するに先程からずっと、この三人は痛いループを繰り返していたのである。
 「しかし………シン、何だってこんなに急いで『ダストの浸水構造を何とかしてくれ』なんて言うんだ?そりゃ、防水が出来ないのはMSとしても欠陥には違いないが、動けなくなるほどの酷さじゃ無かっただろう?」
 サイもさすがに辟易したのか、話題を転換する。………まあ、その話題転換も常識的な軍隊ではあり得ない内容で、貧乏所帯リヴァイヴの本領発揮(?)である。現に少尉のシグナスなどは冷房が効かない(!)仕様だ。「このままじゃ敵に殺される前にシグナスに蒸し殺される」というのは、嘘偽り無い本音だろう。まあ死んでないということは、生命維持ぎりぎりの水準までは空調が効いているのだろうが。
 「まあ、な………急いでいる訳じゃない。けどな………。」
 シンは、珍しく言い淀んだ。口下手だが、ストレートな物言いの男が珍しいことである。………だが、AIレイはシンという青年が本来奥手で、優しい人間だと知っているので、彼のこうした風情はむしろ彼本来の性質なのだと理解出来る。だから、AIレイはこういう風に言うのが自分の仕事だと知っていた。
 「………サイ、シンにも考えがあるのだろう。シンもシンなりにリヴァイヴの事を考えている。それは察してやって欲しい。」
 AIレイに言われて、サイは少しびっくりしたようだった。が、直ぐに思い直す。
 「まあ、俺は構わないけどね。………レイにまで言われると立つ瀬が無い。シン、風邪を引く前に帰ってこい。ダストはもう一度隅々まで整備してやるよ。」
 「ああ、解った。」
 そう言って、サイの映像は消えた。………シンが帰ってくるまで寝るのだろう。ここ数日、サイはほんの仮眠ぐらいしか取れていないのだから。
 シンはしかし、もう一度クシャミをして「風邪を引かないのは無理かもしれんな。」と愚痴を漏らした。


 リヴァイヴの朝は早い。というより、リヴァイヴの人員は常に三交代制で休息を取るシステムになっている。まあ、この辺は軍隊ならば当然といえるシステムだ。ただ、このシステムにはリヴァイヴという組織がつくづく只の軍隊では無いという要素もしっかり内蔵されていた。
 「今日の仕事は………歩哨か。」
 「私は清掃ね。」
 「俺、今日も洗濯かよ………。」
 食堂前のどっからか調達されてきたホワイトボードには、日々の交代勤務における当番が事細かに記されている。戦闘中などの特別な場合を除き、リヴァイヴメンバーはあらゆる業務が当番制となっている。欠員や怪我人が出た場合でも支障を来さないように、というユウナの思惑から発生したシステムである。通常ならばこんなシステムは軍隊などという縦社会ではあり得ない構図なのだが、
 「下積みは大事だよねぇ、みんな♪」
 ………等という通常では有り得ない上司が存在する場合は話は別であった。
 メンバーは起床後ホワイトボードを見て業務を開始する。おかげでリヴァイヴ内のチームワークは決して悪くはならないのだ。………どこで共同作業をする羽目になるか解らないのだから、出来るだけ仲良くしておこうという集団心理までユウナは考えていたのだろうか。………その悪趣味な仮面からはおおよそ伺い知れないが。
 当番制はユウナが毎日決めている。本人が独断と偏見と乱数で決めていると言っているのだから、間違いは無いだろう。メンバーも別にそれについて文句を言う気も無い。一応仮にも曲がりなりにも間違いなく誰がなんと言おうとユウナは紛れもないリヴァイヴのリーダーなのだから。………メンバーの誰もが深呼吸して深く考える事も往々にしてあるリーダーだが。
 とはいえ―――今、中尉とセンセイは心の底から真剣に苦悩していた。
 「私は、リーダーを尊敬しています………が、何事にも厳然とした間違いが存在すると、今も理解を新たにしているところであります。」
 「私も―――リーダーを支えようという気持ちに変わりはないわ。でも………これは、考え得る限り最悪の人事よ………。」
 中尉とセンセイはホワイトボードの一点を凝視し、動かなくなっている。疑問に思った他のメンバーがそのポイントに視点を巡らすが、次の瞬間には怪訝な顔をして去っていくだけだ。………リヴァイヴメンバーの中で唯一、その圧倒的なまでの危険性を感じ取れたのは中尉とセンセイのみであった。平時より聡明さを讃えられる二人は何とかこのリヴァイヴ全体の危機に対抗しようとして思いを巡らし、しかし―――ホワイトボードの上部に子供のような字で書き殴られた文章を読み直し、溜息を漏らす。
 『当番制は絶対命令。誰も逆らうことは許しませんよ~ん♪』
 リヴァイヴでおよそ、唯一とさえ言える絶対至上命令。………こんな事に使う軍隊は絶対に今まで歴史上に存在しない。
 しばしの長考の後、中尉とセンセイは顔を見合わせた。
 「何とか、最善を尽くしましょう………。」
 「不詳、微力ですが………全力を尽くします。」
 中尉とセンセイは、お互いの手を取り合い、見つめ合った。それは男と女、というより出征兵士達の出陣の儀式のようであった。
 ちなみに、彼らが凝視していたポイントにはこう書いてあった―――

 ―――食事当番 リーダー&大尉
 と。


 ソラ=ヒダカは寝起きは悪い方では無い。むしろ孤児院では最も早起きで、『ニワトリ起こし』等という謎の異名を与えられたものだ。………ソラ自身はニワトリなど百科事典でしか見たことが無かったが。
 とはいえ………早朝六時頃、未だ爆睡中のコニールと最近の日常変化で疲れ切っているソラは、突然のセンセイの襲撃に全く対応が出来なかった。
 「起きなさい!!急いで!!」
 通常、センセイは決してそんなヒステリックな叫び声は出さない。
 「な、何?………敵襲!?」
 「………ほえ?」
 二人とも、何とか対処しようとするが―――低血圧なコニールは一息に立ち上がって貧血を起こし、ソラは布団の暖かみを健気に守ろうとした。が―――次の瞬間、とてもセンセイとは思えない強引さで二人は叩き起こされる。
 「急いで支度して!すぐに出発するわよ!」
 ―――敵襲ではない。それだけは二人にも解った。だが………じゃあ何なのか?
 訳も分からず二人は身支度を調えさせられると、あっという間に車に押し込まれ―――まるで逃げるようにソラ達三人はリヴァイヴアジトを後にした。


 「………中尉………どーしたんスか?顔色、良くないッスよ………。」
 中尉のあまりの普段との変わりように、さすがに少尉が訪ねる。中尉は、まるで死んだ魚のような目をして中空を眺めていたが―――少尉の方にぎぎぎっ、と向き直る。
 「少尉―――我々兵士とは、常日頃から死を覚悟し、毎日を過ごしている。だが―――人間とは弱いものだ。解決策は無限にあるはずなのに、人は自らの良識によって解決策を失う。良識とは、人を導くものではない。人に、法という規範を与えるものであってだな………。」
 ………目がイッてるんですが。
 「ちゅ、中尉………?」
 「………しかる後に、人は死を覚悟する。だが、我々兵士は『瞬間の死』を覚悟しているだけだ。『これから永続的に来る苦しみ』を覚悟する事は、極めて難しいと言うことだ。」
 「あの、中尉………?」
 少尉は、ようやく気が付いた―――中尉が泥酔しているという事に。
 「珍しいッスね。中尉がこんな朝っぱらから酒かっくらうなんて。」
 軍隊としては褒められる行動では無い。………が、少尉ならいざ知らず超が付く堅物の中尉が、である。リヴァイヴメンバーの誰もが我が目を疑っていた。
 「なに、私は今日の当番は非番だ。構うことは無い。」
 「いや、そーなんですけどね………。」
 ………だからといって納得出来ない事実である。
 「非番とはすなわち、『アジトでの休息及び待機』―――私にとって軍命は絶対である以上、私は誠心誠意この後の状況に対処しなければならない―――。」
 「………はぁ………。」
 少尉は、そこで会話を打ち切った。………会話になっていない、と少尉は思えたのだ。だが実際はちゃんと会話は成立しており、中尉は持ち得る権限をフル稼働して少尉や、他のリヴァイヴメンバーへ注意を喚起していたのだ。
 「………まぁ、中尉だって色々あるだろうな。良い男なんだからな。」
 ―――少尉の不幸は、己の尺度でしか物事を計算出来なかったことであろうか。いや、それともこれから起こる危険にたいして何ら理解を示さず、対抗策を打たなかったことだろうか。ともあれ、危険とは常に理解しがたい所から起こり得るのである。

 少尉が去ると、中尉は一人酒を煽り、言った。
 「誰も解らないか―――我々軍人は、上司への換言はともかく、罵詈雑言など以ての外だ。まあ、いい………どうせ、食事時になれば嫌でも解るだろう………。」


 その頃、厨房では―――。
 「わははははははははは!こりゃあ良い!!良いぞ、良いぞおおおお!!どわはははははははははははは!!!!」
 「なんとエレガントかつエキセントリックかつエキサイティング!!今日の朝食はこいつで決まりですねぇ♪」
 「ふはははは、男は素材で勝負よ!!中尉はかつて、涙を流さんばかりに喜んで食ってたものさ!!」
 「なぁんとグレイトなお話!このユウナ、感動いたします!」
 「まかせとけリーダー!!この大尉、戦闘だけじゃねぇってとこを見せてやるぜ!!」
 「なんとパワフルな!!このユウナ、未だ大海を知らぬ事を実感致します!!」
 「おうよリーダー!!俺ぁこの方面ならリーダーに指南出来るぜ!!」
 「なんと頼もしい!このユウナ、感服致します!!」
 「まーかせとけって!わーっはっはっはっはっは!!!!!」

 ………中尉の恐怖は、おおよそ現実のものとして仕上がりつつあった………。


 「………は?」
 ソラとコニールは間の抜けた答えをしているな、と自分でも思う。
 「今、何て………?センセイ。」
 数瞬早く立ち直ったソラが、改めて問い直す。………センセイは、嘘や偽りを言う佇まいではない―――心の底から本気で、という雰囲気だ。
 「だから―――『生でヘビが食べたいの?』と聞いたのよ。」
 「………はぁ。」
 ソラにも―――コニールですらぴんと来ない。
 アジトからしばらく走った後、センセイの運転する車は地平線が左右に広がる干魃地帯を疾駆していた。―――何時も思うがソラには何処をどう走ればアジトからここへ抜け出して来れるのか全く解らない。ガルナハンのアジトはそれほどの迷宮に守られているのだ。
 それはともかく、センセイは続ける。
 「何時だったかしら―――その話を聞いたのは。私は皆の健康管理をチェックするため、メンタル・ケアにも精通しています。それは知っているわね?」
 「はあ………。」
 「まあ、そりゃ………センセイだし。」
 ソラとコニールは適当に相づちを打つ。………それ以外にどうしようもない。
 「兵士、特に歴戦の兵士にはメンタル・ケアは必須なのよ。………それはそうでしょう?戦場という過酷な環境で生き延びるために、彼らは何を犠牲にしなければならないのか?良識・常識………あらゆる識を犠牲にして得られた知識に、何があるのか?………貴方達は知らないでしょう?」
「はあ………。」
「まあ………ねぇ………。」
 ソラとコニールは、何が何だか解らない。センセイは核弾頭クラスの危険物取り扱いを説明しようとしているのが何となくは理解出来るのだが。
 二人の様子をセンセイは観察し―――やはり無理だったかと嘆息する。しかし、同時に『この二人の生命の危機を救えるのは自分しかいない』と改めて実感する。
 「とにかく、しばらくは私の言うとおりにしなさい。さもなければ命の保証は出来ませんからね。」
 ………何処の誘拐の脅し文句であろうか。
 ソラとコニールは顔を見合わせ―――それだけは意志を共有出来た。自分達の理解出来ない事が起こっているということだけは。


 恐怖とは、どのようなものだろうか?
 人が恐怖を感じる時、それは往々にして『言及しがたき』ものである。
 それは人の意識、というより本能的な物であり―――恐怖を感じるのはどのように訓練された兵士でも変わりはない。恐怖に対する訓練とは基本的に必要最小限なものであり、それの範疇外には普通人と何ら変わりはない。
 故に―――食卓に並べられた『名状し難き朝食』は戦闘員、非戦闘員問わず誰しもに生理的な恐怖を経験させた。すなわち『己の運命への絶望』である。
 「こ、これは………。」
 少尉の額から脂汗が流れる。まさにヘビに睨まれたカエルの如く。
 というより、実際に少尉の目の前にはヘビがいた。大きめのサバイバルナイフによって豪快に首を七割ぐらい切断され、そこから今も滴る血潮はつい先程このヘビが終演を迎えたことを容易に感じさせる。………ヘビに表情があるのなら、苦悶の形相であることだろう。そして、ヘビはスープの様な代物にこれまた豪快に放り込まれていた。過大表現をせず、あえて平たく言うなら「黄色いスープにヘビが首を切られて丸のまま放り込まれた」後の惨状、だろうか。どのテーブルの上にもサバイバルナイフが突き立っているのをみれば『ナイフがどうやってヘビを殺害したか』は理解出来る。が、それが食卓にあるのが全面的に理解出来ない。
 「な、なあオイ………これ、何だと思う?」
 「俺に聞くな………俺だって聞きたいんだ。」
 ―――誰もが思う。誰もが直感する。そして、誰もがその事実を受け入れたくない。しかし、終末の笛は唐突に雷鳴の如く吹き鳴らされた。
 「さあみんな!美味そうな朝食だろう!?さあ食ってくれ!!」
 ………明るく陽気な大尉の声は、シベリアの永久凍土すら凍り付かせるブリザードだろうか。或いは、地獄の底で味わえるという絶望とはこれのことだろうか。
 ―――やっぱり………。
 誰の心にも、去来する共同意識。同じ釜の飯を食う者達が共有出来る連帯意識であろうか(違う)。そして、もう一つ―――リヴァイヴならではのリーダーの絶対命令が当のリーダー本人からもたらされる。
 「皆、我々に『食事を残す』という意志はあり得ませんからね♪」
 ………トドメ以外の何者でもない。
 絶望に喘ぐリヴァイヴメンバー。しかし、たった一人だけこの難題に立ち向かおうとしている者が居た。誰であろう―――中尉、その人である。
 中尉は、かたんと椅子から立ち上がり、静まりかえるメンバー全員にこう告げた。
 「皆、良く聞いてくれ………。この黄色いスープはカレー粉を水に溶かしたものだ。このスープを大事に、大事に使うんだ………。」
 中尉は、何かを悟った顔をしていた。それは、死を恐れぬ兵士の顔―――この世の全ての栄光をもかなぐり捨てても尚、戦うことの出来る男の顔である。そして―――中尉は大きく深呼吸をし、決然とした顔で料理(?)に向き合い―――おもむろに戦いを開始した。
 それは、正視に耐えぬ光景だった―――日頃の中尉を知る者にとって、それはあってはならぬ光景であったろう。涙を流し、しかしそれでも皆の先陣に立って戦う意志を表し、それを貫く―――それは、あってはならない。しかし、その姿は誇り高きレジスタンス魂を全身で現す男の姿だった。
 「ちゅ、中尉!」
 「中尉!!」
 誰もが、見守る。祈り、縋る。その姿は全ての罪を背負い、許した姿にも例えることが出来るかもしれない。永劫とも思える戦いの果て―――しかし中尉の目の前の皿からヘビが消え去った時、人々は爆発した。
 「うおおおおおお!!」
 「中尉!中尉!中尉!」
 「リヴァイヴ!リヴァイヴ!」
 中尉は高々と両手を上げ―――しかし次の瞬間崩れ落ちる。人々がわぁっと中尉を助け、そっと横たえる。
 「………皆………戦え………リヴァイヴには敗北は無い………命ある限り、戦うんだ………。」
 そう言い残すと、中尉の全身から力が抜けた。―――気絶したのだ。
 「中尉ィィィ―――!!!」
 「………俺達は、俺達は………!!」
 人々は、中尉の男気に触れ、涙を流す。………そして、人々の意志は強固なる意志で結ばれた。俗に『ヤケになった』とも言うが。
 人々は、それぞれを見渡しながら、意志の疎通を確認した。―――すなわち、『俺も食ってやるからテメーも食え。』である。
 そして―――戦闘が始まった。絶望的な、しかしある意味リヴァイヴらしい戦闘である。


 「―――『ヘビ食い』?」
 ようやくソラは、その単語に辿り着いた。それが、一体何なのか良くは理解出来ないが。
 「………とても美味しいそうよ。大尉には。」
 センセイは―――悲しそうに首を振る。
 「なんでまた、そんなモンを………。」
 普通なら、コニールの様な感想を持つだろう。
 「極限状態の戦場―――それが、全ての引き金としか思えないわね………。」
 センセイが言うには、大尉はかつて相当悲惨な戦場に居たらしい。食料は尽き補給線は途絶え、友軍の支援も絶望的―――そんな中、ご馳走といえば『ヘビ』だったそうな。
 「栄養満点、アレ一つで俺は満足だ―――そう言う大尉の顔に一点の曇りも無かったわ………。」
 センセイは、はらはらと涙を流していた。それは、一人の医師として患者を救えなかった悔恨か。………それとも、予想される逃げてきたアジトでの地獄絵図か。
 「でもさ、食事当番って二人一組でしょ?いくら何でも相方が止めるでしょ?」
 コニールの言い分は正しい。………大尉と他の誰かの組み合わせなら、中尉もセンセイもこれほど恐怖はしなかった。………そう、相方がユウナで無かったら。
 「リーダーは―――人の上に立つという資質の面では非常に優れているわ。広く物事を見ようとし、そして常に見識を広めようとしている。人の意見を良く聞き、自分の意見とする―――素直で、朗らかで………リーダーとしては理想よ。でもね………あの人は、相方が暴走する人間の場合、一緒になって暴走するのよ………。」
 『………。』
 ………解るような気がする。
 「とにかく、医薬品よ。―――きっと皆、絶望的な戦いを繰り広げている。私達に出来るのは一刻も早い医療と―――今日の食事当番が終わる夕食後まで帰らない、という事よ。」
 「………それ、逃げたってだけじゃあ………。」
 突っ込むコニール。しかし、それに対してセンセイは容赦しない。
 「―――食べたい?『ヘビ』。」
 「………遠慮します。」
 冷ややかな視線がソラに向けられ、慌ててソラも首をぶんぶんと振る。
 「結構。じゃあ移動開始しましょう。」
 日が中天に上る。―――これからガルナハンは暑くなる。だが―――背筋にうすら寒いものをソラは感じていた。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
ウィキ募集バナー