統一地球圏連合政府中央政庁は、オーブのオロファト市中心部の官庁街、そのやや西寄りにそびえ立っている。高さは400メートル弱、100階を越えるその姿は、天を貫く柱にも雲海へと繋がる門にも例えられ、統一連合の権威の象徴として威容を誇示していた。
中央政庁の最上階は1階が丸々、首席代表専用のフロアとなっている。豪奢な内装の施された廊下を、濃い藍色の髪の青年士官が歩いていた。
年の頃は20代前半、若々しい引き締まった体躯を、統一連合正規軍の第一種軍装で包んでいる。
胸元の階級章は少将。だがその緑眼と秀でた額が特徴的な整った容貌を見れば、若年に似合わぬ階級を疑問に思う者は殆どいないだろう。現主席の側近中の側近である近衛総監アスラン=ザラを知らぬ者は、軍には皆無なのだから。
くるぶしまで埋まる柔らかな絨毯の上を歩き、やがてアスランは目指す部屋の前へとたどり着いた。木造の重厚な扉を叩く。形式じみたやり取りの後、扉は内側から広げられた。
扉の奥に広がっていたのは、高級ホテルの客室を思わせる広々とした部屋だった。主席が休息や仮眠を取るためのプライベートルームだ。
万事において気取らない主のhtmlプラグインエラー: このプラグインを使うにはこのページの編集権限を「管理者のみ」に設定してください。を反映したのだろう。室外とは対照的に部屋の内装や調度は、よく吟味されているものの華美とは程遠い。
「お迎えに上がりました、主席」
背筋を伸ばし、アスランは敬礼をした。
窓際で眼下の市街を見下ろしていた人影が、ゆっくりと振り向く。金に近い琥珀色の瞳が真っ直ぐにアスランへと向けられた。
「ご苦労、ザラ少将」
統一連合首席代表カガリ=ユラ=アスハは、今年で23歳を迎えた。
いつもは妙齢の女性にも関わらずオーブ首長服の上下で通しているものの、今日は式典に備えてドレスに着替えている。
オーブの民族衣装を現代風にアレンジした薄緑色のドレスはカガリに良く似合っていた。大胆に開いた首筋から肩にかけてのラインを隠すように、純白のマントを羽織っている。数年前から伸ばし始めた金髪は、結い上げず自然に背筋の中程まで流されていた。
よく見ると、どこか少年じみた顔にも薄っすらと化粧が施されているのに、アスランは気づいた。
「まだ時間に余裕はあるが、そろそろ行くとするか」
上品に微笑むカガリに、アスランは一礼した。
中央政庁の最上階は1階が丸々、首席代表専用のフロアとなっている。豪奢な内装の施された廊下を、濃い藍色の髪の青年士官が歩いていた。
年の頃は20代前半、若々しい引き締まった体躯を、統一連合正規軍の第一種軍装で包んでいる。
胸元の階級章は少将。だがその緑眼と秀でた額が特徴的な整った容貌を見れば、若年に似合わぬ階級を疑問に思う者は殆どいないだろう。現主席の側近中の側近である近衛総監アスラン=ザラを知らぬ者は、軍には皆無なのだから。
くるぶしまで埋まる柔らかな絨毯の上を歩き、やがてアスランは目指す部屋の前へとたどり着いた。木造の重厚な扉を叩く。形式じみたやり取りの後、扉は内側から広げられた。
扉の奥に広がっていたのは、高級ホテルの客室を思わせる広々とした部屋だった。主席が休息や仮眠を取るためのプライベートルームだ。
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「お迎えに上がりました、主席」
背筋を伸ばし、アスランは敬礼をした。
窓際で眼下の市街を見下ろしていた人影が、ゆっくりと振り向く。金に近い琥珀色の瞳が真っ直ぐにアスランへと向けられた。
「ご苦労、ザラ少将」
統一連合首席代表カガリ=ユラ=アスハは、今年で23歳を迎えた。
いつもは妙齢の女性にも関わらずオーブ首長服の上下で通しているものの、今日は式典に備えてドレスに着替えている。
オーブの民族衣装を現代風にアレンジした薄緑色のドレスはカガリに良く似合っていた。大胆に開いた首筋から肩にかけてのラインを隠すように、純白のマントを羽織っている。数年前から伸ばし始めた金髪は、結い上げず自然に背筋の中程まで流されていた。
よく見ると、どこか少年じみた顔にも薄っすらと化粧が施されているのに、アスランは気づいた。
「まだ時間に余裕はあるが、そろそろ行くとするか」
上品に微笑むカガリに、アスランは一礼した。
空調の効いた中央政庁から出ると、オーブの暑い空気が広がっている。カガリとアスランは、黒塗りの公用車の後部座席に乗り込んだ。
深々とシートに腰を落とすと間もなく、滑るように公用車は動き出す。前後に、SPを乗せた護衛車両が半ダースほど続いた。
車が公道に出てしばらくすると、カガリがうんざりした表情でドレスの裾をつまみ上げる。
「やっぱりこういうヒラヒラした服は苦手だ。気を抜くと裾を踏んで転びそうになる」
心底うんざりした声のカガリに、アスランは苦笑した。20を過ぎて猫の被り方を覚えても、こういう素の部分は変わらないな――そう思いながら、アスランはカガリをたしなめる。
「折角の晴れの式典なんだ。こういう演出が必要なのは分かってるだろう」
こうやって2人きりになると、ついアスランの口調も昔の俺お前のそれに戻ってしまう。
ちなみに公用車の前後は特殊な偏光ガラスで区切られているため、後部座席のやり取りは運転手に届かないようになっている。
「分かっているさ、それぐらい」
口をとがらせたカガリは、窓の外に視線を移す。
オロファトの市街を行き交う人々に混じって、要所要所に青とグレーに塗り分けられたMSが立哨していた。
治安警察省特別機動隊保有の無人MS、ピースアストレイだ。旧式化したかつてのオーブ軍主力機MBF-M1アストレイを再利用し、高性能AIを搭載した機体である。武装もスタンロッドや放水銃といった対人非殺傷兵器が中心。当然ながら対MS戦闘能力は低いものの、暴徒鎮圧やデモ隊の誘導などで大きな成果を挙げていた。
街並みを眺めていたカガリがしばしの沈黙の後、ぽつりと口を開いた。
「豊かだな、オーブは」
「何かあったのか?」
その声の微妙な響きに気づいたアスランが水を向けると、ややあってカガリは答えた。
「ついさっき、西ユーラシア総督からの報告があってな」
ああ、と頷くアスラン。それでカガリの言葉にも納得できた。
深々とシートに腰を落とすと間もなく、滑るように公用車は動き出す。前後に、SPを乗せた護衛車両が半ダースほど続いた。
車が公道に出てしばらくすると、カガリがうんざりした表情でドレスの裾をつまみ上げる。
「やっぱりこういうヒラヒラした服は苦手だ。気を抜くと裾を踏んで転びそうになる」
心底うんざりした声のカガリに、アスランは苦笑した。20を過ぎて猫の被り方を覚えても、こういう素の部分は変わらないな――そう思いながら、アスランはカガリをたしなめる。
「折角の晴れの式典なんだ。こういう演出が必要なのは分かってるだろう」
こうやって2人きりになると、ついアスランの口調も昔の俺お前のそれに戻ってしまう。
ちなみに公用車の前後は特殊な偏光ガラスで区切られているため、後部座席のやり取りは運転手に届かないようになっている。
「分かっているさ、それぐらい」
口をとがらせたカガリは、窓の外に視線を移す。
オロファトの市街を行き交う人々に混じって、要所要所に青とグレーに塗り分けられたMSが立哨していた。
治安警察省特別機動隊保有の無人MS、ピースアストレイだ。旧式化したかつてのオーブ軍主力機MBF-M1アストレイを再利用し、高性能AIを搭載した機体である。武装もスタンロッドや放水銃といった対人非殺傷兵器が中心。当然ながら対MS戦闘能力は低いものの、暴徒鎮圧やデモ隊の誘導などで大きな成果を挙げていた。
街並みを眺めていたカガリがしばしの沈黙の後、ぽつりと口を開いた。
「豊かだな、オーブは」
「何かあったのか?」
その声の微妙な響きに気づいたアスランが水を向けると、ややあってカガリは答えた。
「ついさっき、西ユーラシア総督からの報告があってな」
ああ、と頷くアスラン。それでカガリの言葉にも納得できた。
CE73年に勃発した第二次汎地球圏戦争――ロゴス戦役において、地球で最も大きな被害を受けた国はユーラシア連邦だった。
まず開戦のきっかけとなったユニウスセブン落下の際、破片の1つが中心部である西ヨーロッパを直撃。ローマ市が消し飛び、穀倉地帯のフランスも大打撃を受ける。
続いて以前からユーラシア政府の施政に反発をしていた黒海沿岸部で分離独立運動が起こる。敵の敵は味方、との判断からこの地域はプラントに支援を要請し、プラントもザフトの派遣で答えた。
対抗して地球連合も第81独立機動軍やオーブ遣欧艦隊を増援として投入するも、地中海を舞台とした一連の戦いで敗退する。反連合の動きは、ロシアや東欧といったユーラシア東部全域に広がった。
追い詰められた地球連合軍は非常手段に訴える。ユーラシア政府の黙認の下に超大型MA、GFAS-X1デストロイを投入して独立運動の鎮圧を計ったのだ。だが、モスクワやベルリンといった4つの大都市の壊滅と100万人以上の死傷者という悲劇の末、デストロイは撃破され、この暴挙は失敗に終わる。
激怒した『東』ユーラシアは、CE74年5月のメサイア攻防戦に前後して『西』ユーラシアに独立と宣戦を布告。以降、翌75年5月にピースガーディアンとオーブ軍を中心とした連合軍が介入するまで、約1年に渡って泥沼の東西内戦が続く。
ユーラシアの欧州半島からシベリアに至る広大な版図は、分断されたまま統一連合に編入される。その分断ラインが旧西暦時代のいわゆる<鉄のカーテン>にほぼ沿っていたのは、歴史の皮肉だろうか。
それでも東ユーラシアは、かろうじて主権を持つ加盟国としての体裁を保っているものの、西ユーラシアは自治権すら放棄した直轄領として、統一連合政府から派遣された総督に統治されている。
現在の西ユーラシアは、莫大な数の領域内難民と壊滅した経済、戦禍で荒廃した国土を抱えこみ、統一連合から投下される援助物資を頼りにかろうじて復興が始まった状態だ。
欧州が人類の中心の1つだった時代は、過去のものとなっていた。
まず開戦のきっかけとなったユニウスセブン落下の際、破片の1つが中心部である西ヨーロッパを直撃。ローマ市が消し飛び、穀倉地帯のフランスも大打撃を受ける。
続いて以前からユーラシア政府の施政に反発をしていた黒海沿岸部で分離独立運動が起こる。敵の敵は味方、との判断からこの地域はプラントに支援を要請し、プラントもザフトの派遣で答えた。
対抗して地球連合も第81独立機動軍やオーブ遣欧艦隊を増援として投入するも、地中海を舞台とした一連の戦いで敗退する。反連合の動きは、ロシアや東欧といったユーラシア東部全域に広がった。
追い詰められた地球連合軍は非常手段に訴える。ユーラシア政府の黙認の下に超大型MA、GFAS-X1デストロイを投入して独立運動の鎮圧を計ったのだ。だが、モスクワやベルリンといった4つの大都市の壊滅と100万人以上の死傷者という悲劇の末、デストロイは撃破され、この暴挙は失敗に終わる。
激怒した『東』ユーラシアは、CE74年5月のメサイア攻防戦に前後して『西』ユーラシアに独立と宣戦を布告。以降、翌75年5月にピースガーディアンとオーブ軍を中心とした連合軍が介入するまで、約1年に渡って泥沼の東西内戦が続く。
ユーラシアの欧州半島からシベリアに至る広大な版図は、分断されたまま統一連合に編入される。その分断ラインが旧西暦時代のいわゆる<鉄のカーテン>にほぼ沿っていたのは、歴史の皮肉だろうか。
それでも東ユーラシアは、かろうじて主権を持つ加盟国としての体裁を保っているものの、西ユーラシアは自治権すら放棄した直轄領として、統一連合政府から派遣された総督に統治されている。
現在の西ユーラシアは、莫大な数の領域内難民と壊滅した経済、戦禍で荒廃した国土を抱えこみ、統一連合から投下される援助物資を頼りにかろうじて復興が始まった状態だ。
欧州が人類の中心の1つだった時代は、過去のものとなっていた。
「どうやら、今年の冬は餓死者を出さずにすみそうだ」
昨CE77年、北半球は記録的な冷夏となった。ユニウスセブン落下から続く異常気象が原因だった。
統一連合政府も、プラント製の合成食料の増産等の対策をとったが後手に回り、特に東西ユーラシアでは500万もの餓死者を出す惨事となる。
結果、統一連合の威信は大きく揺らぐ。今年の1月から4月にかけては反統一連合勢力による一斉蜂起、いわゆる90日動乱が起こった。
「こうやってオーブの人間が平和と繁栄を謳歌する一方で、飢えと寒さに怯える人達もいる。矛盾だな」
「そうだな――」
90日動乱では、アスランもユーラシア戦線に出征している。
実の所、近衛総監という地位は、ほとんど名誉職に近い。平時にはカガリの側近兼護衛、戦時には切り込み隊長。もっとも、その立場を不満に思ったことはないが。
その時に見たユーラシアの状況を思い出しながら、アスランは言葉を選ぶ。
「今の世界にオーブの力が必要なのは分かっているだろう」
統一連合は、メサイア戦後にプラントを併合して世界有数の国力を手にしたオーブが中心となり、二度の大戦で疲弊した各国を纏め上げる事によって成立した。統一連合軍もその中核は、旧オーブ軍とクライン派ザフトである。
「オーブが揺れれば世界が揺れる以上、オーブ市民の不満を呼ぶような政策は取れない。違うか?」
たとえ統一連合の元首であっても、現実にカガリが拠って立つ足場はオーブなのだから。
「そのためには、ユーラシアの人達を見捨てろと?」
「彼らからの搾取の上で、オーブが鼓腹撃壌を楽しんでいるわけじゃない」
「そういう問題じゃないだろう!」
思わず声を荒げるカガリ。
「世界のためだ。泥を被る覚悟ぐらいしろ」
「嫌な話だ……」
少し俯いたカガリの肩に、アスランは手を置いた。
「安心しろ。何があっても、俺がお前を守る」
「え?」
きょとんとした表情で顔を上げたカガリに、アスランは真摯な眼差しを向ける。
一瞬、ほんの一瞬だけかすかに頬を赤らめるカガリ。だが次の瞬間には、もぎ放す様に視線を外すとそっぽを向いた。
「ば、馬鹿! そういう事は私じゃなくメイリンに言ってやれ!」
「え、いや、そういう意味じゃ――」
妻の名を出され、急にしどろもどろになったアスランを横目で見ながら、カガリはふんと鼻を鳴らした。
(まったく、私を袖にしてまで一緒になったんだ。幸せにならんと許さんからな)
その小さな呟きは、アスランの耳まで届かなかった。
昨CE77年、北半球は記録的な冷夏となった。ユニウスセブン落下から続く異常気象が原因だった。
統一連合政府も、プラント製の合成食料の増産等の対策をとったが後手に回り、特に東西ユーラシアでは500万もの餓死者を出す惨事となる。
結果、統一連合の威信は大きく揺らぐ。今年の1月から4月にかけては反統一連合勢力による一斉蜂起、いわゆる90日動乱が起こった。
「こうやってオーブの人間が平和と繁栄を謳歌する一方で、飢えと寒さに怯える人達もいる。矛盾だな」
「そうだな――」
90日動乱では、アスランもユーラシア戦線に出征している。
実の所、近衛総監という地位は、ほとんど名誉職に近い。平時にはカガリの側近兼護衛、戦時には切り込み隊長。もっとも、その立場を不満に思ったことはないが。
その時に見たユーラシアの状況を思い出しながら、アスランは言葉を選ぶ。
「今の世界にオーブの力が必要なのは分かっているだろう」
統一連合は、メサイア戦後にプラントを併合して世界有数の国力を手にしたオーブが中心となり、二度の大戦で疲弊した各国を纏め上げる事によって成立した。統一連合軍もその中核は、旧オーブ軍とクライン派ザフトである。
「オーブが揺れれば世界が揺れる以上、オーブ市民の不満を呼ぶような政策は取れない。違うか?」
たとえ統一連合の元首であっても、現実にカガリが拠って立つ足場はオーブなのだから。
「そのためには、ユーラシアの人達を見捨てろと?」
「彼らからの搾取の上で、オーブが鼓腹撃壌を楽しんでいるわけじゃない」
「そういう問題じゃないだろう!」
思わず声を荒げるカガリ。
「世界のためだ。泥を被る覚悟ぐらいしろ」
「嫌な話だ……」
少し俯いたカガリの肩に、アスランは手を置いた。
「安心しろ。何があっても、俺がお前を守る」
「え?」
きょとんとした表情で顔を上げたカガリに、アスランは真摯な眼差しを向ける。
一瞬、ほんの一瞬だけかすかに頬を赤らめるカガリ。だが次の瞬間には、もぎ放す様に視線を外すとそっぽを向いた。
「ば、馬鹿! そういう事は私じゃなくメイリンに言ってやれ!」
「え、いや、そういう意味じゃ――」
妻の名を出され、急にしどろもどろになったアスランを横目で見ながら、カガリはふんと鼻を鳴らした。
(まったく、私を袖にしてまで一緒になったんだ。幸せにならんと許さんからな)
その小さな呟きは、アスランの耳まで届かなかった。
○ ● ○ ●
沿道で歓声を上げる群衆の中に、黒衣の青年――シン=アスカの姿があった。
「統一連合樹立3周年記念式典か。いい気なものだな、独裁者。今日が貴様の命日になるのも知らずに」
小声で吐き捨てるように呟くと、シンは足早にその場を立ち去った。
街路の角を何度か曲がり、路地裏に停車していた古い型のバンの助手席にに乗り込む。シンが固いシートに腰を下ろしてドアを閉めると、バンはくたびれたモーター音と共に発車した。
「コニール、状況は?」
バンの運転席でハンドルを握っている若い娘に、シンは問いかけた。
「今の所は予定通りだね。サハラの虎や南米の連中は、もう配置についてる。いけすかない、バラに十字のお歴々もね」
コニールと呼ばれた娘が答える。年の頃は20前、よく日に焼けた肌は褐色、頭の後ろで括られた髪は茶色だった。気の強そうな眉が特徴的な顔立ちは、どこか猫を思わせた。
「ふん、どうやら幸運の女神は、まだ俺達にそっぽを向いていない様だな」
「女神さまはどうでもいいけどね」
ハンドルを切りながら、コニールがシンにどこか剣呑な口調で言う。
「1時間前に公園で騒ぎを起こしたの、あんただろう?」
「捕まるようなへまはしないさ」
「オセアニアのみんな、かんかんだったよ! うまくごまかしといたけどさ」
悪びれずに肯定するシンに、コニールは声を荒げた。
「まったく、連絡役で間に入ってるあたしの身にもなってよ」
「元々、この作戦に参加する予定だったのは俺とレイだ。勝手についてきたのはお前だろうが」
「なっ――」
あまりの言い草に、激昂しかけるコニール。だが寸前で思いとどまると、深々と溜め息をついた。
「あんたねえ。その前後左右360度に喧嘩売って回ってる態度、何とかしなよ」
「性分だ。今さら変えられん」
「……あっそ」
再び溜め息をつくコニール。と、そこに第3の声がかけられた。
〈シン、この作戦で俺達リバイブの役割は、あくまでサポートだ〉
不思議な事に、バンの中にはシンとコニール以外の姿は無かった。もっとも注意すれば、その3人目の声が合成された電子音声だと気づくだろうが。
〈オセアニア解放軍はこの作戦の下準備に、少なからざる時間と人員を費やしている。それを忘れるな〉
「ああ分かっているさ、レイ」
素っ気無く、レイと呼ばれた声の主に答えるシン。その眼は街並みの向こうに覗く式典会場、クライン=アスハ平和祈念スタジアムに向けられていた。
「統一連合樹立3周年記念式典か。いい気なものだな、独裁者。今日が貴様の命日になるのも知らずに」
小声で吐き捨てるように呟くと、シンは足早にその場を立ち去った。
街路の角を何度か曲がり、路地裏に停車していた古い型のバンの助手席にに乗り込む。シンが固いシートに腰を下ろしてドアを閉めると、バンはくたびれたモーター音と共に発車した。
「コニール、状況は?」
バンの運転席でハンドルを握っている若い娘に、シンは問いかけた。
「今の所は予定通りだね。サハラの虎や南米の連中は、もう配置についてる。いけすかない、バラに十字のお歴々もね」
コニールと呼ばれた娘が答える。年の頃は20前、よく日に焼けた肌は褐色、頭の後ろで括られた髪は茶色だった。気の強そうな眉が特徴的な顔立ちは、どこか猫を思わせた。
「ふん、どうやら幸運の女神は、まだ俺達にそっぽを向いていない様だな」
「女神さまはどうでもいいけどね」
ハンドルを切りながら、コニールがシンにどこか剣呑な口調で言う。
「1時間前に公園で騒ぎを起こしたの、あんただろう?」
「捕まるようなへまはしないさ」
「オセアニアのみんな、かんかんだったよ! うまくごまかしといたけどさ」
悪びれずに肯定するシンに、コニールは声を荒げた。
「まったく、連絡役で間に入ってるあたしの身にもなってよ」
「元々、この作戦に参加する予定だったのは俺とレイだ。勝手についてきたのはお前だろうが」
「なっ――」
あまりの言い草に、激昂しかけるコニール。だが寸前で思いとどまると、深々と溜め息をついた。
「あんたねえ。その前後左右360度に喧嘩売って回ってる態度、何とかしなよ」
「性分だ。今さら変えられん」
「……あっそ」
再び溜め息をつくコニール。と、そこに第3の声がかけられた。
〈シン、この作戦で俺達リバイブの役割は、あくまでサポートだ〉
不思議な事に、バンの中にはシンとコニール以外の姿は無かった。もっとも注意すれば、その3人目の声が合成された電子音声だと気づくだろうが。
〈オセアニア解放軍はこの作戦の下準備に、少なからざる時間と人員を費やしている。それを忘れるな〉
「ああ分かっているさ、レイ」
素っ気無く、レイと呼ばれた声の主に答えるシン。その眼は街並みの向こうに覗く式典会場、クライン=アスハ平和祈念スタジアムに向けられていた。