「機動戦士GUNDAM SEED―Revival―」@Wiki

第一話Aパート前編(DC私案)

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  静かな森の中を、風が緩やかに吹いていた。
  木々が枝を揺らすたび、ちろちろと瞬く木漏れ日が、地面に複雑な模様を描く。
  そんな森の中、一本の木の下に佇む黒髪の青年。目立つ赤い瞳を隠すサングラスの下、眉がゆがむ。
  青年は知っている。その木の根元に、桃色の携帯電話が埋まっている事を。
  前回、彼がここを訪れた時、木は赤い葉をつけていた。青年の記憶の中で、今も変わらずはじけるように笑う妹の、その肩に降っていた落葉の色。今は青い葉をつけるその木の根元に、青年はしゃがみこむ。
  黒く柔らかな土をその傷だらけの手で堀りだす。肘のところまで埋まるまで掘りぬいた穴の底に見つかったのは、金属の箱。
  青年はその箱を開け、変わらず存在している携帯電話の横に、小さな金属片をそっと添えた。
  <LHM-BB01 MINERVA>――鏃を思わせるシルエットのフネと、その名を記したペナント。蓋を閉め、青年は箱をそっと穴の底に戻す。
  埋め戻された跡とわからぬよう、青年は腐りかけの落ち葉を撒きなおした。サングラスを外し、幹に手を触れ、小さな声で呟きだす。
「父さん、母さん、お久しぶりです。ごめんな、マユ……俺はまだお前のところには行ってやれない。でもな、今日は代わりに俺の仲間を連れてきたんだ」
  青年は、懐から1枚の写真を取り出した。写されているのは旧ザフトの軍服を着用した1群の男女。
  その1人1人を指差しながら、青年はもういないはずの人達に語りかける。
「みんな、これが俺の妹のマユさ。仲良くしてやってくれ。 マユ、こいつがレイ。俺を最後まで信じてくれた、一番の親友だ」
  金髪を長く伸ばした秀麗な顔立ちの少年。
「こいつがルナ。口うるさい奴だったけど……俺の大事なひと、だった」
  快活に笑う、赤毛の少女。
「こいつはヨウランとヴィーノ。軽い奴らだけど、親切で気のいい連中だ」
  緑の作業服を着込んだ2人組の少年。
「この人が俺の上司のタリア艦長。怒らすと怖いけど、これでけっこう優しいとこもあるんだぜ? 」
  皆の中央で静かに微笑む白服の女性。
「で、隣がアーサー副長、それにブリッジクルーのアビー、バート、マリク、チェン――みんなほんとにいい奴らだったんだ。だから、俺が行くまで大人しくしてんだぞ、マユ……」
  1人、また1人と続ける度に歪みだした青年の声は、もはや涙声としか呼べぬものに変わってしまっている。
  そのまま言葉は途切れ、静かな森に響くのは青年の嗚咽。
  しばし後、青年は目元の赤みを隠すように、サングラスを深くかけ直す。そして木に背を向け、歩き出した。
  彼の大切な人々、その全てを奪い去った者たちへの復讐の念を、再び心に刻みつけながら。
「父さん、母さん、マユ、ステラ、ルナ、レイ、ハイネ、ミネルバのみんな……俺は、俺は帰ってきたぞ……」


    ○  ●  ○  ●


  ――かつて、戦争がありました。
  遺伝子操作を受けて生まれたコーディネイターと、自然に生まれたナチュラルとの間の抗争に端を発した戦争は、世界中の国々を巻き込み、休戦を挟みながら、ようやく3年前にオーブ連合首長国主導の下、終結しました。
  オーブの代表カガリ=ユラ=アスハさまは史上初の統一地球圏連合政府の主席になり、弟のキラ=ヤマトさま、お二方の親友であるラクス=クラインさまと世界をお治めになり、人類史上初の恒久平和を完成させたのでした――


  CE78年9月25日、オーブ気象庁は今年の雨季の明けを宣言した。
  毎日のように叩きつけられて来たスコールはぱたりと途絶え、天頂にぎらぎらと輝く太陽が、ヤラファス本島に広がる首都オロファト市を鮮やかに照らし出していた。
  旧世紀の昔、いまだオーブの民が農業と漁業で生計を立てていた時代には、炎天下の日中に午睡をとる習慣もあったという。だが現在の住人の大半には、そのような贅沢は許されていない。
  しかし上着を脱ぎ、汗を拭きながら道を行く市民の雰囲気は、個人差こそあれ押し並べて明るい。『南海の宝珠』から『世界の首都』へ。この5年間でオーブが成し遂げた躍進は、社会全体に見えざる活気をもたらしていた。
  特にこの日は、午後からの統一地球圏連合政府樹立3周年記念式典を控え、街は会場へと向かう人々や警備についている一般警察で混み合っている。
  二度の大戦で被った戦災の陰など、もはやどこにも見当たらない。
  オーブの人々にとって未来とは、常に明るいと心底から信じられるものだった。


  ソラ=ヒダカは、この季節のオーブが少し苦手だった。
  強い日差しは東洋系のナチュラルにしては色白なソラの肌には少々厳しく、アスハ記念女学校の制服に包まれたほっそりとした体は汗をにじませていた。
「日傘、持ってくれば良かったかな」
  小さく呟いて手を太陽にかざし、15という年齢の割にはまだ幼さの残る顔を庇う。と、そこに涼やかな風が吹いてきた。肩まで切伸ばされた柔らかな茶色の髪が、ふわりと舞い上がる。市街の西部に広がる森林公園からの風だった。
  腕時計に空色の目を向けると、時間はまだ10時を回ったばかり。アルバイト先の喫茶店の開店時間にはまだ時間がある。少しの間、公園で涼をとるぐらいの余裕はありそうだ。
  そう決めたソラが公園へと足を向けたその時、風に一枚のポスターが舞った。
「あ」
  そこに載っていた若い男女の姿に気付き、ソラは慌ててポスター拾い上げた。地面の汚れがついてないことに気付き、ほっと胸を撫で下ろす。
  2度の大戦、およびそれに続く昏迷期に平和と融和の理想を高らかに歌い上げ、今も統一連合の象徴として特別顧問を勤める<平和の歌姫>ラクス=クライン。
  そして彼女の理想の下に集った親衛隊ピースガーディアンを率い、数多の戦場で勝利をもたらした最強のMSパイロット<守護者>キラ=ヤマト。
  敬愛する2人の載ったポスターを放置できず、ソラはそれを手にしたまま公園に向かった。


  ――今の世の中に不満を持つ人はほとんどいません。
  皆、にこやかに笑いながら過ごしています。
  ちょっとムシャクシャしても、ラクスさまの歌声を聞けば、幸せな気分になれます。
  時々、街中で「この世界はおかしい」と叫ぶ人を見かけますが、すぐに警察の方が連れ去って行きます。
  何でも、精神を患った可哀相な人なんだそうです――


  公園に足を踏み入れたソラは驚いた。公園の東口付近にちょっとした人だかりができていたのだ。
  目をこらすと人波の向こう、ちょうど噴水の前あたりに、2人の警官に連行される恰幅のいい初老の男性の姿があった。
「どうしたんですか、おばさん?」
  周囲の人だかりの中に知り合いの主婦を見つけて、ソラは尋ねた。
「あらソラちゃん。あのね、あのおじいさんが今日の式典を狙うテロリストかもしれないんだって」
「え!?」
  驚くソラ。あの老人とはこの公園で何度か顔を合わせており、世間話をした事もある。
  プラント併合後にオーブへと移り住んだコーディネイターらしい。声は大きいが穏やかな人柄で、とてもテロリストの様には見えなかった。
「何でも昔はザフトの軍人で、5年前の戦争ではカガリ様やキラ様のお命を狙った事もあるそうよ」
  怖いわねえ、と言い残して主婦は立ち去った。残ったソラは、何ともなしに離れる事も出来ず、ぼんやりと様子を見ていた。
「ふん、5年も前の作戦に言いがかりをつけ、こんな老いぼれさえ令状無しで拘禁するか! ラクス=クラインも余程に後ろめたいところがあると見えるわ! あの女狐らしい事だな!! 平和の使者が聞いて呆れる!!」
  不意に、大人しく連行されていくかに見えた老人が、大声を張り上げた。あからさまな罵声に、周囲の空気が凍る。
「黙れ、このクソじじい!」
  人の輪から激昂した学生風の若者が飛び出し、老人を殴りつけた。呻き声を上げる老人。さらに数人が続き、老人を地面に引き摺り倒す。
  警官が慌てて止めようとするが、たった2人ではとても捌き切れない。私刑に参加する人間の数は、あっという間に10人近くまで膨れ上がった。
「ひっ」
  呆然と見ていたソラは、老人の頭から流れる血に気づいて悲鳴を上げた。思わず駆け寄り、老人を蹴ろうとしていた男の背にしがみつく。
「もうやめてください! このままじゃ、おじいさんが死んじゃいますよ!?」
  だが興奮した男は聞き入れず、乱暴にソラを振り払う。
  尻餅をついたソラの手からラクスとキラのポスターが離れ、ひらひらと風に舞った。


  ――世界は平和でした。
  カガリ様の統治の元、人々は皆幸せでした。
  私もそう信じていました。
  この日、あの人に出会うまでは――


  風に舞うポスター、正確には印刷されていたラクスとキラの姿に、数人が注目した。ポスターは、しばしの浮遊の後に地面へと落ちた。気づいた数人がそれに駆け寄ろうとする。
  一番近くにいたのは、黒い上下を着てサングラスをかけた、20代前半とおぼしき黒髪の青年だった。彼の方に、煽られながらポスターが飛ばされていく。
  当然ながら青年は立ち止まり、膝を曲げてポスターの方に手を伸ばし――はしなかった。 
  彼はそのまま歩みを止めず、まったくの無造作に、ポスターを踏みつけた。
  一瞬の沈黙の後、誰かが叫ぶ。
「不敬罪だ!」
  その声に、半ば暴徒化していた男達が振り返った。新たな標的を見つけた彼等は、青年へと詰め寄る。
「貴様、自分が何をしたのか分かって――」
  最初に老人を殴った学生が青年の胸倉をつかみ、そしてそのまま垂直に崩れ落ちた。青年の鮮やかな右フックが、一瞬で学生の意識を刈り取ったのだ。
「なっ!?」
  予期せぬ反撃に戸惑う男たちの中に、青年は気負いのない足取りで踏み込む。
  桁違いの強さだった。数の違いなどものともせず、あっという間に男達の半数を叩きのめす。
「ううう……」
  突然の乱闘に呆気に取られていたソラは、ようやく解放された老人の呻きで我に帰った。
「だ、大丈夫ですか?」
  しゃがみ込んで老人を助け起こし、そこでソラは視線に気づいた。最後の1人を地に這わせた青年、いつのまにサングラスを外したのか、その下に隠されていた真紅の双眸が、ソラと老人に向けられていた。老人が小さく息を呑む。
  一瞬の後、青年は踵を返すと、何事もなかったかのような足取りで公園を後にした。
「ま――待てっ!!」
  ようやく我に戻った警官のうち1人が青年を追い、現場に残った1人が無線機に増援を求める。
  結果、老人の呟きを聞いたのはソラ1人だった。
シン=アスカ……生きていたのか?」


  ――シン=アスカ。
  何の疑問も持たなかった私の平凡な生活は、この時、終わりを迎えました――





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