「機動戦士GUNDAM SEED―Revival―」@Wiki

ソフィストたちの宴

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「まずは、個人的な思い出話から始めることをお許し願いたい」

自席から立ち上がりそう話を切り出した。
目に映るのは、議長席、主席の席を中心に、議員の席が半円状に並ぶ統一連合議会議事堂議事会場だ。

「私が、自らの稼ぎをもって、自らの住居を構え、自らの生活を営みだした時のことだ。そのとき、自分が自分の足を持って、立ち得たことを知った。おおよそ、二度と感じたことがない規模の満足を得た」

統一連合政府議会大西洋連邦代表にして、大西洋連邦大統領ジョンソンは言葉を続ける。

「どのように孤独であるときでも、生きている限り、あなたはあなた自身と離されることは無い。あなたにとって、私にとって、自身の力は最後のもっとも頼りになる支えなのだ。例えば、私の妻はディナーのメニューやバカンス先の選択で、つねに私をやりこめる名交渉人であるからして、すばらしく頼りに成るのだが……」

会場内に失笑がわいた。
内心のガッツポーズをおくびにも出さず、本題を切り出す。

「……もちろん、常に一緒と言うわけには行かない。しかし、私は常に私自身と共にいる。ならば私は私の価値を落すような真似をする気にはなれず、また賢明なる同輩諸氏にも同じ振る舞いを勧める。そして、あえて言うが、組織が大になり、その権能が大になればなるほど、個人の持つ力の価値は下がるのだ。言うまでもないが、統一地球圏連合政府はすでに強大である。これ以上さらに他組織の持つ権限を吸い上げるべきではない」

息を吸う。
吐く。
別方面から論を組み上げる。

「さて、私は先日、八つの新聞社の助けを借りて、世界各所でアンケート調査を行った。詳しくは、別の資料をあたっていただくとして、要点をあげると、つまりあなたは世界の反対側にどの程度関心をもっているか?と言う質問への答えなのだが、七割の回答が、ネガティブであった。無理からぬことだが、自分の生活を、と思うものがいまだ大半であると言うことだ」

――まあ、オーブやスカンジナビア……余裕のある国は別だがね。

皮肉っぽい分析はやはり面には出さない。

「東ユーラシア、西ユーラシアへの難民支援が、滞りなくとは言えない状況であるのは諸氏も聞き及んでいるとは思う。また、これは自国の恥だが、我が国が南アメリカ合衆国を統治下においたとき……」

ブーイングが、主に南アメリカ合衆国代表の席から飛ぶ。

「……国営企業の大幅なリストラと赤字部門の削減を行ったが、これは僻遠地住民の事情を無視した行いであり、現地住民の怒りを買い、また現に不便の実害を受けてはいない彼らの同胞の怒りも買ったと言うことを事実として報告させていただく。これは、先に述べた己の郷土以外への無理解にある。現実を踏まえ、今必要なことは、市町村レベルの……あるいはNGOといった、住民により密着した機関の権限強化であり、離れた立場にある者のいらざる介入の制限である。その観点から言っても、主権返上などは状況への逆行でしかありえない。諸氏の賢明な判断を希望するや切である」

拍手。
源は大西洋連邦や東アジア共和国、南アフリカ統一機構と言ったこちらのシンパの代表達だ。

――……演説一発で、反対派を引き込めるなんざありえんか。

やはり内心で肩をすくめながら腰を落すジョンソン。

かわって立ち上がったのはニルソン……スカンジナビア王国の代表で元は大臣だった人物だ。
議会内部における親オーブ派の巨頭でもある。

「大西洋連邦が多くの難民の受け入れを行ってきた、あるいは今も行っていること。ジョンソン大統領が、民間企業の経営に携わっておられた頃、難民支援に力を尽くしていたことは存じております。そのような方と席を同じくできるとは光栄の至り」

まずはジャブから。
けして、悪意から言うのではないというポーズだ。

「しかし、やはりもっとも大きな支援を成し得たのは、統一地球圏連合政府であると言うことも、付け加えておいて問題はないでしょう。足らぬという批判を、200万の死者を重くわきまえ、厳粛に受け止めること。これを前提にする必要が厳としてありますが」

そしてニルソンは、議場全体を見渡した。

「食糧危機がありました。いまも続いてます。恥ずかしながら、我々はこれを満足に解決しきっていません。問題があります。餓えた人々の下へ食料を運ぶにも、運ぶことを邪魔するテロリストたちを排除するにも、力が足りません。合わせようではありませんか。力を」

視線が、主権を返上していない国家の代表たちの上を行き交う。

「あるいは、こう言われるかもしれません。そのようなことは、滅多に起こらない。ユニウスセブンが落ちてくるようなことは、百年に一度もあることではない、と。しかし、それに備えるのが政治と言うものです。そのためにいるのが、政治家と呼ばれる存在です。ポピュリズムに流されるべきではありません。起きてからでは遅いのです。一人の人間ができる備え、ただ一国でできる備えには限界があるのですから」

――しかし、私にとっちゃ、不景気下にある有権者の生活向上が主問題で、そっちに予算つぎ込みたいんだよね。

大統領は思考する。

――で、我が国はボロ負けこそしたけど、国土が戦場になったわけではないし、そもそもの蓄積がでかかったか
ら、マシな方と言えばマシな方なわけで、うちの国富はもって行かれる側になる。困る。私は大西洋連邦のために行動する者だからして。

利己的を自覚しながら考える。
とは言え、彼は大西洋連邦市民から給料をもらっている身の上だ。納税者には忠誠を見せねばならない。
また、そこを百歩譲って、大西洋連邦の富を提供したとしても、前述の通り現地が望まぬやり方だから……有能で高潔な者ほど、自力で立つことを欲するものだ……上手く行かないと思っているわけで、そちらの面からも問題は無い。

――だが、まあ正直には言えないな。

思い悩みながら、発言を求める。
許可されたところで、立ち上がる。

「巨大な権力は、その狭間で巨大な利が不可避的に動く。そして、利を見て耐えれる者ばかりではない。そして、巨大な権力機構ともなれば、当然、人数は膨大になり、耐えられない者が入り込む率は増える。腐敗は避けられないことだ」

すでに起きていることをジョンソンは知っている。東ユーラシアへの支援が、どれほど間に蒸発していることか。
これまた、黙しておくべきことだが。

「そこでそれに対処するシステムが必要になる。これまた巨大なものになる。人と物と金が費やされる」
――もう費やされてるが。

統一地球圏連合の軍と警察の規模を思い返す。

「無駄だ。未来に禍根を残す役回りは、ポピュリストたる汚名以上に避けたいところだ。諸氏も同じと信じたい」
「聞き捨てならない!」

声が、議場を貫いた。
声の主は、柔らかな金髪の勝気そうな女性だった。
カガリ=ユラ=アスハ統一地球圏連合主席。
彼女は、怒りの瞳でこちらを見ている。
真っ直ぐすぎる純粋すぎる目で。

「あなたは腐敗する気か?」
「もちろんそのようなつもりは無い」
「私もだ。では、私やあなたに関しては、先の懸念はいらないということだ。皆はどうか?」

議場に漂うのは、戸惑いの気配。
当然だ。
いや、実は賄賂をがっぽり取るつもりでして、縁故人事もガンガン推し進めようと思っております、などと口走るバカはいない。
主席は言う。

「積極的にしようとするものはいないと見える。肝心なのは一人一人の自覚だ。それさえ忘れないなら、それらは問題にはなりえない」
「……主席は楽観的過ぎる」

かろうじて、そう言うのが精一杯だった。

――ええい、くそ。見えないものはどうなるか、わからないとして行動しなければならないのは、俺のような類の生き物にとって当たり前すぎて、とっさになぜ必要なのかの事例が出てこん。

懊悩するジョンソンの耳に別人の声が届いた。

「議長。よろしいでしょうか?」

鈴のような、玲瓏な声。
そう言う評が思い浮かぶ。
声だけで、議場は静まり返る。

平和の使者
「歌姫」
そして事実上の世界の支配者。
ラクス=クライン

彼女には、もちろんこの場への出席の権利がある。
ではあるが、ほとんど行使してはいないはずだ。
なぜここに?
そういう疑問が形にならないまま漂う。
そんな中、歌姫はジョンソンに視線を向ける。
穏やかな微笑まじりの表情だ。
だが、その瞬間、陽気で百戦錬磨であるはずの大統領は、心中が揺らめきだしたのを実感した。

――なんだこれは?

例えるなら、断崖絶壁を覗き込んだ感覚。

――なるほどな。どうして、あの程度の論に、いい大人が次々と傅くのか、と思ってはいたが……冷や汗とともに実感する。

――……こういう事か?シーゲル=クライン。いったい娘にどんなコーディネイトをほどこした?

「ジョンソン代表」

歌姫は言う。

「あなたの本当の願いはなんですか?」
「もちろん、選挙の公約の通り、大西洋連邦の復興です。市民の生活の向上です」

言ってから気がつく。
自分が、敬語を使っていたことに。

「すばらしいことです」

微笑むラクス。

「でも、そのために銃は必要ないのではありませんか?」
「……東アジアの格言に、盗人を見て縄を編むと言う言葉があると聞く。すなわちそれだ」

強い言葉をひねり出す。
なぜだかそれに労力が要る。

「いったいどこの国が大西洋連邦相手に戦争をしようというのです?連邦の関わった戦争は、すべてあなたがたが起こしたものではありませんか」

――仮想敵国筆頭は、あんたらだよ!

やっぱり、そんなことは言えない。

「では聞くが、何ゆえ統一地球圏連合は、各種軍備を増強しているのだ?宇宙軍、地上軍の二軍はともかく、警察軍の増強はいまも続いている」
「皆様が武器を放棄していただけましたら、それらの数も減らしましょう。テロリストの皆様が武器を下ろしていただけましたら、さらに減らせましょう。わたくしたちの望みは、世界が単色で染まらぬこと。それをなすための、武力を可能な限り減らすところにあるのですから」

――それはあなたの色で染めることではないのか?ラクス=クライン。

思わずそう問おうとした。
だが、それはジェームス=ジェファーソン=ジョンソンの発すべき問いではない。
反問で相手に返すなど、あまり品の良いディベート技術ではない。
代わりにこういう。

「残念ながら、我が国市民は、それをいまだ望んではいない。そして私は、その国民の信託を受けている身だ。裏切りはできない」


ざぶざぶと、顔を洗う。
議員控え室の洗面台で、だ。

「……なんだあれは?」

顔をタオルでぬぐいながら、ジョンソンはつぶやいた。
思い浮かぶのは、戦慄すら招く歌姫の姿。

「あれではまるで……」

言いながら、首を振る。

――いかんいかん。その先を言語かした日には、まるでブルーコスモスではないか。

気分を切り替え口にする。

「敵の実態に迫れたのは幸いか。これで次はもっと格好よくできる」

まこと楽観的に、大西洋連邦の大統領は結論付けた。

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