「機動戦士GUNDAM SEED―Revival―」@Wiki

第14話「ソラ・ヒダカ、故郷に帰る」アバン(by仏師さん作)

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「帰国便の到着まであと二時間を切りました!」
「報道のほうはどうなっている!?」
「アスハ主席、クライン顧問、御二方とも空港への御到着を確認しました!」
「ヤマト隊長は10分後、ザラ監察官は25分後にご到着予定です!」



――『ソラ・ヒダカがとあるジャーナリストにより、誘拐先のレジスタンス組織から救出された』――



このニュースにより、統一連合の情報管理省は蜂の巣を突付いたような騒ぎになっていた。

「レジスタンスを『凶悪なテロリスト』と強調するより、無事に帰国出来たことを重点的に報道させます」
「そりゃまた……なんでだ?」

何時もの様に執務室でやる気なさげにコーヒーを啜っていたバルトフェルドの前に、大量の書類を抱えたダコスタが報告に来ていた。

「『あの』ジェス・リブルが『発見者』ですので……」

そうダコスタに言われてバルトフェルドは苦笑いする。

「あ~、『あの』ね。まあ、それなら迂闊に報道管制しないほうが良いねぇ」
コーヒーをひと啜り。

「『野次馬』相手は荷が重いと思うなら替ろうか、ダコスタ君?」
「いえいえ、馬一頭ぐらい見事に捌いてご覧に入れます」

バルトフェルドにからかわれると、ダコスタは即座に切り返す。

「……昔はもうちょっと可愛げがあったんだがなぁ」
「良い上司に揉まれましたので」

苦笑いするバルトフェルドにダコスタはすまして応え、二人ともつい吹き出してしまった。
が、双方、次の瞬間には表情を引き締める。

「彼女だが、レジスタンス側に『仕込まれて』る、と思うか?」
「五分五分でしょうかね。まあ、最終判断はライヒ長官が判断するんでしょうけど」
「帰国イベントが成功するまで『可哀想な少女』のままで居てくれんと、コッチとしても困るんだがなぁ」



「ソラ・ヒダカはお咎め無し?」

治安警察本部内のエレベータ内部に、男女3人がいた。
ライヒ直属の部下で、治安警察でも恐れるものは多い。
だがどれも苦虫を潰した様な表情をしている。

「情報管理省の連中に貸しを作る積もりか……」

エレベーターの壁に凭れながら、そうサザーランドが呟く。
慇懃無礼、人に媚びるような、それでいて高みから見下すような態度で、言葉を交わしたもの全てに不快感を与えて来た男。
治安維持局保安部に属し、いわゆる「裏仕事」を生業としてきた。
だがその「普段の」オスカー・サザーランドを知る者が見たならば、とても同一人物とは思えなかっただろう。
まるで覇気が無く、人生に膿み疲れたようなこの男が。

「ジェス・リブルが現地で配信した記事を、今更間違っていると報道出来ませんから。現時点での市民の情報管理省と『野次馬』へ対する信頼性を比較した場合、『野次馬』に軍配が上がります」

と冷めた匂いを含んだ女性の声が差し挟まる。
エルスティンだ。
ライヒ長官の姪の娘だが、叔父と同じくどこか冷たい印象が似ていた。
まるで機械仕掛けの人形のような正確さと、無慈悲さで細かい情報を伝える。
サザーランドとエルスティン、この二人は何所か似ていた。
性別が違う。年齢が違う。他人に対する態度が違う。
だが、何故かよく似た、同時に決定的に違う「匂い」を二人は共有していた。

するとやや老いた褐色の巨漢、エイガーがぼそりと呟く。

「今更、情報管理省が何をしようが慌てるものでもあるまい。それはそうとオスカーの坊主。お前さん、またなんか「仕掛け」たな?ルタンドを二個中隊、こっちでカリカリに仕上げた上に東ユーラシア仕様に偽装して送ったろう。パイロットも含めてな」

老兵にそう問われてサザーランドは気だるげに応える。

「ああ、ソレですか。ちょっとした嫌がらせをレジスタンスの皆さんにしようかと。なんせ、前任者があんな目に遭わされた訳ですから」
「オスカー。長官の意向を無視する積もりですか?ならばソレは重大な背任行為です」

エルスティンが剣呑な空気を含んで二人の会話に割って入ってきた。

「打てる手は打っておく。それが私のポリシーですからね。長官や隊長の許可が下りるまでは仕掛けませんから御心配なく」



その頃、当の長官と隊長は、ライヒの執務室に居た。

「ソラ・ヒダカ、このままでよろしいのですか?」

メイリンにそう言われ、決裁する書類を眺めていたライヒが目を上げる。
一瞬、瞑目。まるでどうでもよい事を聞かれて思い出そうとしているようなそぶりで。

「なるほど。確かに彼女がオーブ内部での協力者に仕立てられている可能性はゼロでは無いな」
「それならば・・・」

そう畳み掛けるメイリンを片手で制し、

「が、『S』が君の報告通りの人物ならば、洗脳などの可能性はまず無かろう。違うかね?」

そう言われれば黙るしか無い。

「一応、警備名目で監視班を1チーム貼り付けます。よろしいですね?」

メイリンはそう抗弁する事くらいしか出来なかった。



「ソラ、無事に着いたかなぁ?」

シゲトがダストの整備、と言うより修理、いや、復元?の手を休めて呟いた。

「あー、無事に着いたんじゃないか?」

作業する手は止めずに、投げやりに相槌を打つサイ。
実に、本日113回目である。
流石にサイとてウンザリしてくる。
第一、サイにとってはソラの帰国より気がかりな事があった。

(シンのヤツ……大丈夫なのか?)

ボロボロになってアジトに戻ってきたダストを見た瞬間、サイとシゲトはそのまま昏倒しかけた。
動いているのが奇跡としか思えない惨状で、元通りに修理するまでどれだけ時間と手間が掛かるか想像も出来なかったからだ。
が、そのダストからシンが降りて来た時。
何時もなら悪態やら品のない冗談やらで迎えるスタッフが、何も声を掛けられなかった。
ソレほどまでにシンの放つ空気は他者を拒んでいた。
コニールですら、シンの後ろをついて歩くのがやっとで、結局、シンが自室に入る瞬間にようやく話しかけられた。

「シ、シン・・・?」

おずおずと声を掛けるコニールに、ようやく気付いたといった風のシンが振り向く。
次の瞬間、コニールは絶句した。

(ここに来た頃のシンと同じ・・・)

暗い、奈落への落とし穴のような表情。

「どうしたんだよ、コニール?」

シンが穏やかに微笑む。
無理矢理に顔を『笑顔』と言う鋳型に押し込める様に。

「あ、いや、怪我、なかったのかと思って……」

次の瞬間、シンの表情が一変した。

「俺が?あんな連中に?あの程度の奴らに?あんな、抵抗できない奴しか殺せないような奴らにかよ?」
クックックッ、と愉しそうに嘲笑う。
(シン……!)

コニールはギュッ、と唇を噛み締めると、シンを手招き。

「なんだよコニール?」

ジェスチャーで自分と同じ目線になる様にシンを誘導。
シンはいぶかしみながらも、コニールと目線を合わせる。
そして、そっ、と目を閉じ、シンへ顔を近づけ……
シンとて朴念仁と言われてはいるが、ここまでされて気付かないほどの阿呆ではない。
コニールと同様、そっと瞳を閉ざし、唇を……
と思った次の瞬間。

「いい加減正気に返れ、このバカ!!」

ごす

怒声と鈍い衝突音と共に、シンは額に物凄い衝撃と、鼻の奥に焦げ臭い匂いを感じ、もんどりうって転倒する。
コニールが至近距離で頭突きを食らわして来たのだと判ったのは、意識がようやくクリアになってからだ。

「コ、コニール……なに考えてんだよ……」

衝撃でふら付きながら起ち上がると、コニールは眉間を押さえて蹲っていた。

「シン、お前……アタマ馬鹿みたいに堅いのな……どんなコーディネートされるとそこまで堅くなるんだよ……」
涙目で見当違いな文句を言ってくる。

「頭突きに特化したコーディネートなんかされてねぇよ!むしろそんな奴居たらコワいだろ!」
「いや、世の中広いから中にはそんなヤツも……」
「コーディネートだってタダじゃないんだからそんな事に金掛けねぇよ!第一、論点間違ってるだろ!」
「なんだよ!」
「なんだと!」

一瞬睨み合う二人。がどちらからとも無く笑い出す。
そのまま二人して笑い転げ、一頻り笑うとシンは立ち上がった。

「あー、コニール?」
「なにさ?」
「気、使わせたみたいだな……悪ィ」
『実際、戴したものだと俺は思う。俺ではシンのメンタルケアは無理だった』

いままで黙っていたレイもコニールに頭を下げた。

「ソラやセンセイにまで嫌な所を見せるところだった。助かったよ」
「……あのさ、シン。ソラの事なんだけど……」


「そう、か。帰ったか。これで良かったんだよな」
『そう言う割には割り切れていないようだか?』

自室のベットの上でシンが一人ごちるのに、レイが指摘してきた。

「いや、オーブに還す事は良いんだ。たださ、こう……」
『ちゃんとした別れの挨拶をしたかったか?だが、事態が動いたんだ。今度のチャンスを逃したらいつ帰れるか判らなかったろう』
「ソレはそうなんだけど、な」
『手紙でも書いてやれば良い。ジェス・リブル経由ならなんとかなるだろう』



オーブへ戻る飛行機内で、ソラでずっと黙り込んでいた。
ジェスやカイト、果てはハチまでアレコレと気を使って話し掛けて来てくれたが、とても誰かと会話する気分では無かったのだ。

(みんなとちゃんとお別れしたかったのに……)

シンとドムクルセイダーの死闘の最中、「正規軍の動きが読めなくなった、今帰国しなければ次のチャンスがいつか判らない」と慌しく出立せざるを得なかったのだ。
確かに、好んでガルナハンへ連れて行かれた訳ではなかった。
リヴァイヴの方法論を肯定する事も出来なかった。
だが、それでも、親しくなった人達と別れるのは寂しいものなのだ。
まして、おそらく再び会う事はないのだから。
落ち込むソラをなだめるのを諦めたジェスとハチ(カイトはそれでもアプローチを止めなかった)の元に、オーブ本国からの通信が入った。

「オロファトの……軍の方に着陸しろ?」
『ああ、また宣伝省がなにかイベントを企画したんだろう』
「俺達は客寄せパンダじゃないんだけどな」
『だが、ソラが有名になれば治安警察も迂闊な事は出来なくなるな』
「不自由の替りに安全を得る、ってか。まったく……」
『なら、他にアイデアがあるのか?』
「無いから忌々しいんだよ!」

飛行機がオロファトの空軍基地に到着し、タラップが機体に接続すると、開け放たれた気密ドアから熱帯の空気が流れ込んできた。

(ああ、オーブに帰って来たんだ……ちゃんと帰ってこれたんだ!)

黙りこくっていたソラだが、流石に心が躍った。
カイトにエスコートされ、ソラがゆっくりとタラップを降りると信じられない光景が広がっていた。

〔おかえりなさい、ソラおねえちゃん〕

孤児院の「兄弟」達が手書きの横断幕(所々誤字があるのはご愛嬌だ)を持って一斉にソラを出迎えたのだ。

「おねえちゃん、おかえりなさーい」
「おつかれさまー」
「おつとめごくろうさんです」
「おみやげはー?」

もはや声にならない。ソラはそのまましゃがみ込んでしまった。
ぼろぼろ涙が止まらなくなり、我知らずにしゃくりあげていた。

「おねえちゃんなんでないてるの?」
「泣かないでお姉ちゃん」

そんなソラにそっとハンカチを差出す人物があった。
それを受け取り涙を拭い。礼を述べようと顔を上げると、そこには。

「き、き、き、き、き、き」
「き?」
「キラ様!?な、なんで?どうして……」

パニックに陥り卒倒しかけるソラ。
そして周りを見まわした瞬間、追い討ちを掛けられた。

「なんでカガリ様とラクス様とアスラン様までここに居るんですか?!」
「なんで、って……出迎えに来ただけじゃないか」

絶叫するソラにカガリが事も無げに応える。
それを聞いた瞬間、ソラの精神は限界を超え――


気絶した。


こうして、ソラ・ヒダカの長い一日が幕を上げた。

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