「機動戦士GUNDAM SEED―Revival―」@Wiki

デスティニーブラスト 炎の魔神

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 ――来たれり、来たれり
 その翼は蝙蝠のように
 その腕は全てを切り裂く槍のように
 その瞳は炎のように燃え上がり
 ……ただ、大河の渡り方を血を流す事でしか知らぬ愚かな悪魔――


 クアアァァ……
 背中の翼が、エンジンの機動と共に輝き出す。ゆっくりと広がり、そこから紅い光が漏れ始める――それは、まるで己の内の炎を映し出すかのように紅く。そしてますます輝きが強く、鋭さを増していくと……
 ゴッ!
 それまで膝立ちをしていた体が、弾かれたように動き出す! 暴力的で、攻撃的なその瞳が射抜く先――即ち“敵”の元へ。
 「敵モビルスーツ、来ますっ!」
 幸いにしてデスティニーブラストの獲物に選ばれなかった者は、そう言う暇もあった。だが……。
 「……は、早過ぎるっ!!」
 “獲物達”は、ピースガーディアン――この世界屈指の筈の、優秀なパイロット達。だが、その者達を持ってしても、初動を捉える事すら出来ない。圧倒的な早さの、圧倒的な獰猛さの踏み込みだった。その戦いの中、初めてデスティニーブラストの獲物となった男の機体、フリーダムブリンガーは一瞬で懐に潜り込まれ――壊された。なんの気無しに振るわれた右腕、そこから発現された光の玉が鈎爪の様に振るわれ、紙屑のように引き裂いていったのだ。
 数瞬の後に、死に方を察したのか――裂かれたフリーダムブリンガーは爆散する。
 それは、確かに早過ぎる事だった。……誰もが呆気に取られる程に。
 フリーダムブリンガーは、誰にとっても無敵の存在――その筈だった。ピースガーディアンの誰もがそう思っていたし、そのつもりだったのだ。……だが、これは。
 誰もが唾を飲み込む――冷水を浴びせられた気分だ。
 「……怯むな! 奴は武器を何も持っていない! せいぜい格闘戦用の武器のみだ!」
 そう。今の時点で奴、デスティニーブラストは背中に武器を持っていない。ビームライフルも、サーベルも。かってのデスティニーを知る者がいれば、今デスティニーブラストが持ち合わせているのは頭部バルカンと両の掌から生み出されるパルマフィオキーナのみ。対して、こちらはフル装備のフリーダムブリンガーが六機。たった今一機撃墜されたので五機だが――負ける要素は、無い戦力差の筈だ。だからこそ、ウノ=ホトは叱咤もする。
 「距離を取り、一斉射を浴びせろ! 二番機、三番機は前衛でガード! 後の機体は集中攻撃を行うっ!」
 フリーダムブリンガー達は、一斉に動き出す。その群舞は一糸乱れぬもので、確かに彼等が屈指のパイロットである事の証明であった。


 「……守りの布陣か。それしか出来ないって事か……?」
 その男は、その搭乗機と同じように紅い瞳をしていた――燃え上がるような、血の色の瞳。見据えるものは、モニタに映し出されているフリーダムブリンガー達の群舞。何機かが一斉にこちらに向かって所持している武装を全て撃ち出す“ハイマットフルバースト”の体勢を取る。
 「数撃てば当たる、か。……その程度の度胸しか無いのか?」
 男はせせら笑う。口の端をほんの少し歪めて。
 今は、その言葉に反応するものは居ない。それでも、その男は喋る事を辞めようとはしない。……今はもう居ないけれど、それでも『友』と会話しているように。
 (――そういう奴等だ。気にせず揉み潰せ、シン)
 それは、間違い無く幻聴だろう。だが、確かにシンにはそう聞こえていた。
 「ああ、解ってる――全て、砕き尽くす!」
 その瞳が真っ直ぐに奴等を射抜く。視線だけで焼き尽くすかのように。


 ――デスティニーブラストが中空に躍り出る。
 『……撃ってこいっていうの?』
 三番機、レイラ=ウィンはビームサーベルとシールドを構えて白兵戦体勢を取る。それは二番機のシラヒ=ホス=ホデリ機も同様だ。
 「舐めてくれるぜ。……地上に被害が出ない空中に出るだと?」
 シラヒは舌打ちをする。普通に考えれば、逃げるのが筋だと思うからだ。
 (最新鋭モビルスーツとはいえ、たかがレジスタンス風情が……なんだよ、その堂々とした態度は!? ムカつくんだよっ!)
 我知らず、シラヒは怒りを抑える事が出来なかった。スラスターペダルを操作し、気が付けばデスティニーブラストに斬り掛かっていく!
 『シラヒ!? 何を……ああ、もうっ!』
 慌ててレイラ機も後を追う。あの機体相手に、単機で攻め掛かるのは愚の骨頂だと思うからだ。
 『二番機、三番機何をやっている!? 持ち場へ戻れ!』
 ウノの指示が大声で伝えられる。だが、シラヒの返事は素っ気なかった。
 「……倒せば良いんだろうが、アイツを!」
 今更後に引けるか――そんな思いがシラヒを満たす。こういうのは思い切りが大事だと、経験で知っていた。今引けば、眼前の敵は襲いかかってくる――そういう類の隙は見せたくないのだ。
 「ウオオオオアアァッ!!」
 裂帛の気合いと共に、ビームサーベルで斬り掛かる! 敵はまだ動いていない――やれる!と思った瞬間。
 なんのモーションも無く――デスティニーブラストが間合いを詰めてきた。手には輝き――パルマフィオキーナ!
 「馬鹿なっ!」
 幾ら速度が早くとも、こんな動きは出来ない筈だ。どんな機体でも、初動に必ず方向性がある。その違和感がシラヒを戸惑わせた。……しかし、それも一瞬の事。
 「この程度でっ!」
 更にスラスターペダルを押し込み、ショルダーチャージをやらせる。サーベルの目標を今更変えられない――だが弾き飛ばせば済む、そう判断しての事だ。
 しかし……。
 ボウッと軽い音がして、敵機が掻き消える。一瞬何事か判らなかったが、直ぐに判った。
 「幻影なんぞで、馬鹿にするか!」
 そう――ノーモーションで攻撃してきた、そう思ったのは単なるデスティニーブラストの幻影……それを生み出し、撃ち出してきただけの事だ。目をやれば、先程の位置から敵機は何ら動いていない。武装の準備もしていない、防御態勢も取っていない――それがシラヒの勘に触る。
 「ムカつくんだよっ!」
 シラヒはスラスターをそのまま、一気に斬り掛かる! 初めからの予定通りに。
 ――だが。
 ボウッ
 ……再びあの音。斬り掛かったのも幻影だったのだと、直ぐに気が付く。だが――ならば奴は何処だ?
 ぞくりとする。背筋に冷水を掛けられたように。……シラヒを救ったのは、レイラの通信だった。
 『シラヒ、前!』
 シラヒは釣られて前にペダルを倒す。要するにそのまま前進したのだ。結果としてそれがシラヒを救った。
 ガォン!
 シラヒは背中に圧力を感じた――そしてその時にようやく悟った。デスティニーブラストがシラヒ機の背後に回り込んで来ていた事を。そして、自分が今正に死にかけていた事を。
 シラヒ機は背後バックパックが残らず破壊されて墜落していく。デスティニーブラストは追撃をしてこなかった。それは、レイラ機が直ぐ側まで来ていたからだろうが。
 (あの時――レイラが『後ろ』と言っていたら、俺は……)
 シラヒの性格から言って、振り向いて居たろう。……ならば、死んでいたのだ。改めてレイラに感謝しつつ、こう思っていた。
 (レイラ、逃げろ。……奴は化け物だ……)
 墜落しながら、シラヒはそう思った。願い続けた。


 シラヒ機が落とされ、レイラ機はそれを追った――それを悠然と、追撃すら掛けずに佇むデスティニーブラスト。それは、ウノをして檄する光景である。
 (……この我々を、子供扱いか!)
 レイラ機は、シラヒ機が撃墜された瞬間から直ぐにシラヒ機を追っていた。それは、戦士としてはあるまじき事だった――だが、普段のレイラを知るウノは「さもありなん」と思えてしまう。レイラは優秀なパイロットではあるが、優秀な戦士ではない。……それを知りつつ登用したのはウノ自身なのだ。
 ウノとても、彼等が攻め掛かった瞬間にハイマットフルバーストの指示を出せなかった。味方に当たる可能性を考慮しても倒すべき相手――そう、断ずる事が出来なかった。シラヒ機が撃墜され、レイラ機が戦列を離脱してようやく、と云った所だ。
 「撃てえぇっ!」
 ウノの掛け声と共に、空に幾状もの火線が伸びていく! それらは確かに敵機であるデスティニーブラストの居た空間を突き刺していくが……。
 ボウッ
 ――またも、この音。ほんの寸前、幻影を生み出しつつデスティニーブラストは回避行動を取っていた。
 「怯むな、撃て撃てっ!」
 もはや言わずとも、フリーダムブリンガー達は撃ちまくる。それらを右に左に避けまくるデスティニーブラスト。射撃の内幾つかは当たるが、その度にそれが幻影であると気が付く。
 (……かつての大戦で、デスティニーは“欠陥機”とまで罵られた。だが、それは間違いでは無いのか……?)
 ウノは慄然とする。
 デスティニーブラストのしている事はウノにも判る。平凡なジグザグ軌道による回避運動――違うのはその頂点に来る度に違う方向に幻影を撃ち出している事だ。たったそれだけの事――だが、それだけでもデスティニーブラストを捉えきる事が出来ないのだ。
 (デスティニーの機動性能は、おそらく最高クラス。肉眼では捉えるのも難しいスピードだ。……だからこそ幻影が生きる。本体を認識するのが難しい以上、本体と幻影を区別する方法は撃ち抜く以外無い。……何と言う事だ。相性が悪すぎる。遠距離攻撃に特化されたフリーダムブリンガーとは……)
 ウノは悟った。デスティニー系列のモビルスーツを倒すには、白兵戦で倒すしかないのだと。さもなければ、驚異的な命中精度を誇る射撃能力を持ち得なければ不可能なのだと。前者の代表はアスラン=ザラが為し得、後者の代表はキラ=ヤマト……。そのどちらも、ウノ達には為し得ない事なのだ。
 デスティニーブラストが近づいてくる。その事実は全機が知っている。だからこそ、射撃はいよいよ熱を帯び、狂乱の様になっていく。だが、そんな熱気をデスティニーブラストは涼しく避けていく。
 そして――いよいよデスティニーブラストが攻撃に出る!


 例えば、アスラン=ザラのパイロット特性で最も優れた所を上げるのなら『白兵戦に於ける絶対的な強さ』であるだろう。これがキラ=ヤマトになれば『遠距離射撃時に於ける圧倒的な命中力』となる。両名の出鱈目な強さの証明とは言い辛いが、それでも彼等の強さの指針はこうした所から区別出来る。
 では、シン=アスカに於けるパイロット特性で最も優れた所は何か? それは『初動攻撃圏内の正確な把握』であるだろう。これはどういう事かというと、『遠距離から急速接近し、絶対命中距離で的確な攻撃を繰り出す事が出来る』と言い換える事が出来る。要するに“強襲”に特化したパイロットと云えるだろう。
 “強襲”とは、意外と難しい技法である。相手の理解が及ばない距離、配置から一息で相手に襲いかかる――そんな単純な事の如何に難しい事か。彼我の距離を正確に把握し、尚かつ自機の瞬間的な前進距離、そして武器の射程の把握、更に相手の回避行動の速度等々――そこには様々な要因が付きまとう。有効な行動であったとしても、使いこなすのは難しい技法なのだ。それは、知識だけではなく本能的な“体感”がどうしても必要になるからだ。
 だが、もしもそれを正確に、確実に出来る者が居るのなら。そして、それをプレッシャーに出来る者が居るのなら。――今、ウノ達が感じている戦慄は、紛れもなくそうした要因によって生み出されている類のものだった。
 「……もう、いいか」
 言下に『飽きた』と言っている。ぞんざいな扱いだ。
 シンは機体を上空に、上空へと飛ばしていた。眼下にはオロファトの街並みが広がっている。なるべくなら、街に被害を出したくは無かったのだ。先程レイラ機を見逃したのも、その理由からだ。機体が街に落ちないのなら、それに超した事は無い。それに自分に対して殺気を持たない相手は別に攻撃する意図も無いのが、シンという人間だった。……だから、今眼下で空しく攻撃を続ける輩に、『いい加減にしろ』と言いたくもなる。
 「所詮は、ピースガーディアンか……」
 (オーブに被害を出したくないから、見逃してやろうと思っていたが……)
 シンは、コンソールに鋭く指を走らせる。デスティニーブラストの“封印”を解くのだ。
 この機体には、幾つかのリミッターが設けられている。単純に、この機体は最大出力を出し続けると様々な不利な要因が顕現するからだ。即ちエネルギー切れ、パイロットへの過剰な負担、機体剛性への過負荷などだ。シンは、オーバーロードを『三十秒』と設定すると眼下に向き直る。
 「塵も残さず、消し飛ばしてやる……!!」
 そう言うと、シンはデスティニーブラストの出力を急速に上げていった。


 最初は、何事かと思った。
 「……なんだ?」
 映像に、ノイズが奔る。単なる故障かと思った。……だが、直ぐに違うと悟る。
 「ECM(ジャミングシステム)か!?」
 ウノは、直ぐに各機に呼びかける。
 「来るぞ! 防御態勢!」
 その言は、直ぐに間違いではなかったと全員が感じた。敵――デスティニーブラストの“光の翼”が更に拡大されていくのが見えたからだ。
 「なんという出力だ……」
 ウノはごくりと唾を呑む。どれ程の出力を持ち合わせているのか、検討も付かない。通常のモビルスーツでは有り得ない出力、それが紛れもなくデスティニーブラストに内包されている。
 バチバチバチッ
 雲と干渉し、光の翼が拡大されていく。それは、機体の三倍程あったろうか。……とても、一機のモビルスーツが持ち得るエネルギーゲインでは無い。そして、その両の掌――そこに展開され始めたパルマフィオキーナも、通常の大きさではなかった。顕現された二つの光の玉は、一つがそれだけでモビルスーツの上半身位すっぽりと入る大きさだ。……破壊力など、想像したくもない。
 (――駄目だ。防御なんてしている相手じゃない。……防御なんか出来る攻撃が来る訳が無い!!)
 それはウノを除く、残ったピースガーディアンの隊員全ての思いだった。それが、生と死の境だった。
 「……お前達!?」
 攻撃動作に映る部下達に、数瞬気を移した――その瞬間、それまでの比ではない戦慄がウノを貫いた!
 (来たっ!)
 もはや、本能の命ずるまま。ウノは機体を直下に落とす。地面スレスレに降下させたのだ。それは全く本能的な事で、どう防御したら良いのか、ウノは寸前まで判らなかった。


 ――それは、まるで流星の様にやってきた。
 光の粒子を靡かせて、両の掌に雷光を持ち、炎のように燃えさかりながら。
 あまりの早さに、その飛んできた当人も「行き過ぎた」と感じた程に。
 しかし、“光の翼”は満遍なく効果を発していた。デスティニーブラストに向かって撃たれていた攻撃を弾き飛ばし、そして翼に触れた敵機ですら弾き飛ばしていく。馬鹿みたいな出力がそれだけで敵機を切り裂いていく――それは、そういう類の光景だった。
 あっという間に残り二機の内、一機が切り裂かれる。だが、それはまだマシな方だった。最後まで射撃していた機体には、最悪の運命が訪れる事となった。
 もはや流されるまま撃っていた射撃が、市街地に落ちていったのだ。それが、目の前の破壊神の最後の理性を切る行為だと知らずに。
 両の掌にあった雷光――それを打ち合わせる。その瞬間、途轍もないエネルギーの奔流が最後に残ったフリーダムブリンガーを貫いた。……貫いたと云うより、機体そのものを消し去ったと言えば良いのだろうか。
 光が消えた後、そこには何も残らなかった。本当に何もかも吹き飛ばして。
 悠然と去るデスティニーブラストを、ウノは到底追う気になれなかった。
 ……それから暫くして、防空担当の空軍が出動してきて、ようやくウノは震える手を操縦桿から離す事が出来た。

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