月下の狂犬モーガン・シュバリエ大尉がオロファト宮殿に呼び出されたのは、ガルナハン攻略戦の少し前。
まだまだ寒風の吹きすさぶ季節のことである。
「正規軍所属モーガン・シュバリエ大尉であります。」
「よく来てくださいましたシュバリエ大尉。」
歌姫ラクス・クラインは聖母のような笑顔でモーガンを迎える。
「大尉の勇名はよく存じておりますわ。」
「光栄ですな、ラクス・クライン。」
統一連合の首魁を目の前にして流石の老獪なモーガンも、若干の緊張を隠せない。
「あなたをここへお招きしたのは他でもありません。」
「先日の治安警察への一時編入命令の件でありましょうか?」
数日前、モーガンは深刻な人手不足となっている治安警察東ユーラシア支部への編入命令を受けていた。
「その通りです。かの地は強力な反政府勢力によって長年の苦戦を強いられています、あなたのような歴戦の勇者の力が必要とされています。」
「それだけでありましょうか?」
その問いにラクスは意味ありげな微笑を浮かべた。
「シュバリエ大尉、あなたは軍内でも指折りのベテラン将校で知られ、なおかつクラスAの空間認識能力者でもある。いわば軍人という人種に関しては、誰よりも知り尽くしたエキスパートといえますわ。」
「買いかぶりすぎです。」
モーガンは肩をすくめる。
「いいえ大尉、わたくしは今回の任務に関して誰よりもあなたが適任であることを確信致しております。」
「東ユーラシアへの助っ人がですかな?」
「それもあります、ですが無論もう一つの任務についても忘れて欲しくはないのです。」
ラクスの顔からいつのまにか微笑が消えた。
「治安警察長官ゲルハルト・ライヒ、この人物を大尉はどう見ますか?」
「気に入りませんな。」
モーガンは率直だった。
「奴は己の仲間を売って今の地位についたと聞きます、事実なら好きになれそうにはありません。」
「大尉は実直な方ですね。」
ラクスは僅かに微笑む。
「とはいえ彼が統一連合発足において大きな役割を果たしてくれたことは事実です、この点において私は彼を評価します。・・・・ですが最近の彼の動向は私を少し不安にさせることも多々あるのです。」
ラクスはそう言ってジッとモーガンを見つめる。
そしてモーガンにもようやくラクスの真意が見えてきた。
この歌姫はなにやら不穏な気配に気づきつつあるのだと。
自分はそれを事前に察知するための鈴として治安警察に送られるのだと。
「ラクス・クライン、自分はやはりゲルハルト・ライヒという男を好きにならねばならんようです、そして彼からも大いに好かれる必要があると考えます。」
「良いことです。」
ラクスはニッコリと美しい笑顔を見せる。
「東ユーラシアは激戦区と聞きます、大尉も十分お気をつけください。前にも後ろにも・・・・・・・」
「その言葉、肝に命じておきましょう。」
モーガンは一礼してラクスの執務室を後にした。
まだまだ寒風の吹きすさぶ季節のことである。
「正規軍所属モーガン・シュバリエ大尉であります。」
「よく来てくださいましたシュバリエ大尉。」
歌姫ラクス・クラインは聖母のような笑顔でモーガンを迎える。
「大尉の勇名はよく存じておりますわ。」
「光栄ですな、ラクス・クライン。」
統一連合の首魁を目の前にして流石の老獪なモーガンも、若干の緊張を隠せない。
「あなたをここへお招きしたのは他でもありません。」
「先日の治安警察への一時編入命令の件でありましょうか?」
数日前、モーガンは深刻な人手不足となっている治安警察東ユーラシア支部への編入命令を受けていた。
「その通りです。かの地は強力な反政府勢力によって長年の苦戦を強いられています、あなたのような歴戦の勇者の力が必要とされています。」
「それだけでありましょうか?」
その問いにラクスは意味ありげな微笑を浮かべた。
「シュバリエ大尉、あなたは軍内でも指折りのベテラン将校で知られ、なおかつクラスAの空間認識能力者でもある。いわば軍人という人種に関しては、誰よりも知り尽くしたエキスパートといえますわ。」
「買いかぶりすぎです。」
モーガンは肩をすくめる。
「いいえ大尉、わたくしは今回の任務に関して誰よりもあなたが適任であることを確信致しております。」
「東ユーラシアへの助っ人がですかな?」
「それもあります、ですが無論もう一つの任務についても忘れて欲しくはないのです。」
ラクスの顔からいつのまにか微笑が消えた。
「治安警察長官ゲルハルト・ライヒ、この人物を大尉はどう見ますか?」
「気に入りませんな。」
モーガンは率直だった。
「奴は己の仲間を売って今の地位についたと聞きます、事実なら好きになれそうにはありません。」
「大尉は実直な方ですね。」
ラクスは僅かに微笑む。
「とはいえ彼が統一連合発足において大きな役割を果たしてくれたことは事実です、この点において私は彼を評価します。・・・・ですが最近の彼の動向は私を少し不安にさせることも多々あるのです。」
ラクスはそう言ってジッとモーガンを見つめる。
そしてモーガンにもようやくラクスの真意が見えてきた。
この歌姫はなにやら不穏な気配に気づきつつあるのだと。
自分はそれを事前に察知するための鈴として治安警察に送られるのだと。
「ラクス・クライン、自分はやはりゲルハルト・ライヒという男を好きにならねばならんようです、そして彼からも大いに好かれる必要があると考えます。」
「良いことです。」
ラクスはニッコリと美しい笑顔を見せる。
「東ユーラシアは激戦区と聞きます、大尉も十分お気をつけください。前にも後ろにも・・・・・・・」
「その言葉、肝に命じておきましょう。」
モーガンは一礼してラクスの執務室を後にした。
モーガンが就任の挨拶に治安警察本部を訪れたのはそれから一週間後、屈強な治安警察官たちに胡乱げな視線を向けられながら一直線に長官室へと向かう。
途中の通路でオスカーとかいう若い将校がモーガンにちょっかいをかけた。
笑顔で足をかけてきたのでお返しに相手のつま先を容赦なく踏みつける。
途端オスカーは女の様な悲鳴を上げて、泣きながら足を押さえ床を転げまわった。
と、その時モーガンは何者かががそれをあざけるような不可思議な気配を感じた。
(誰だ!?)
それはその場に誰かがいたというより、まるで心の中を直接覗かれているような気味の悪い感覚だった。
その不思議な感覚をなんとか振り払って通路を通り過ぎ、ようやくたどり着いた長官室で待っていたのは噂のゲルハルト・ライヒ長官、それに赤毛の女司令官メイリン・ザラ、そして男装の少女将校エルスティン・ライヒだった。
「月下の狂犬か・・・これは頼もしい男が着てくれたな。」
そう言ってライヒはニタリと口元を歪めた。
(想像通り腹黒そうな男だぜ。)
それがモーガンの率直な感想だ。
「あたしは保安部長のメイリン・ザラよ。」
対してメイリンは不機嫌な面持ちで値踏みするようにモーガンを眺める。
自分より遥かに軍歴の長いモーガンに己の地位を奪われないかと危機感を抱いているのかもしれない。
(ま、いい女ではあるがね)
もとより派閥競争に参戦する気のないモーガンは、そんな不謹慎なことを考える。
(それよりも問題はこの娘だぜ。)
最後のエルスティンは先ほどから一言も発せず、無表情なままモーガンをじっと見つめている。
(コイツだな、さっきオレの心に触れやがったのは。)
数分前の通路での不可思議な出来事がモーガンの脳裏に蘇った。
治安警察随一の手練れ、シャム猫。
同時にモーガンと同じく高い空間認識能力の保持者。
「どうだエルスティン、大尉から何か力を感じるか?」
ライヒがシャム猫に問う。
「はい、伯父様。シュバリエ大尉からは私と同じ力の存在を感じます。」
「ふむ。」
「強い力をお持ちのようです。」
「結構。」
ライヒは意味ありげに微笑し、両手を顔の前で組んだ。
「大尉は空間認識能力者の存在についてどう考えるかね?」
「上層部からは一種の突然変異的事象であると教えられました。」
ライヒの問いにモーガンはそう答える。
「それだけかね?」
「それだけ、と言いますと。」
「空間認識能力者こそ人の革新、そうは考えられんかな?」
「人の・・革新ですか・・・・」
一顧だにしたことのない言葉を口にされ、モーガンは困惑した。
「空間認識をドラグーン兵器の操縦術としてしか認識できん無能な輩どもには理解できまいが、本来の空間認識とは兵器の操作などという狭い分野のみで応用されるような矮小なものではないはずだ。」
「はっ。」
「大尉にもいずれわかる、いかに世界が過小な評価を君自身に下していたかがな。」
「勿体無いお言葉です。」
(この狂犬を懐柔するつもりか?その手に乗るものかよ。)
モーガンは心の中でそう毒づいてから、慌ててエルスティンの方を見る。
(まさか、聞こえちゃいないだろうな?)
当のエルスティンは相変わらずの鉄面皮で何を考えているのかは窺い知れなかった。
「ともかくも君には期待しているよシュバリエ大尉、東ユーラシアはいつでも人材不足だ。」
「ご希望に沿うよう、ベストを尽くします。」
モーガンは敬礼すると長官室を後にする。
部屋を離れ際、メイリンがモーガンを睨み小声で釘を刺してきた。
「べっべつにアンタのことなんてこれっぽっちも脅威に思ってないんだからね!」
「へいへい、分かったよお嬢ちゃん。」
「あんですと!!」
激昂するメイリンを無視し、与えられた個室に向かおうと歩き出すモーガン。
が、通路の角を曲がった途端ギョッと立ちすくむ。
どこをどう先回りしたのかエルスティンが立っていたのだ。
「お前さん、どっから!?」
「モーガンさん、伯父様が言っていたお話あれは本当です。」
「人の革新がどーたらとかいう話か?オレ向けの話じゃないな。」
「空間認識能力者は兵器としてのみ扱われるべきではありません。」
「お嬢ちゃん、昔はメビウス・ゼロ部隊なんてエース部隊があってな。それはそれで軍内での待遇は悪くなかった。」
「空間認識を正しく用いれば、世界をより良き方向へと導くことも容易です。」
「選民思想だよ、それは。」
「そうでしょうか?」
「なら今すぐこの場で空間認識の素晴らしさとやらをオレに証明できるかい?」
モーガンは両手を広げておどけて見せる。
「拝命しました。」
「何?」
あまりにエルスティンがあっさりと応じたので虚を突かれるモーガン。
対し、エルスティンはモーガンの頭部をいきなり両手で引き寄せ、自分の額とモーガンの額をつき合わせる。
「私が先導すれば大尉には視えるはずです。」
「一体、何が?」
問いかける暇もあればこそ、直後にモーガンの視界は暗転し一瞬の内に意識が消えかかる。
焦って目を見開いたその時、モーガンは信じられないものを見た。
途中の通路でオスカーとかいう若い将校がモーガンにちょっかいをかけた。
笑顔で足をかけてきたのでお返しに相手のつま先を容赦なく踏みつける。
途端オスカーは女の様な悲鳴を上げて、泣きながら足を押さえ床を転げまわった。
と、その時モーガンは何者かががそれをあざけるような不可思議な気配を感じた。
(誰だ!?)
それはその場に誰かがいたというより、まるで心の中を直接覗かれているような気味の悪い感覚だった。
その不思議な感覚をなんとか振り払って通路を通り過ぎ、ようやくたどり着いた長官室で待っていたのは噂のゲルハルト・ライヒ長官、それに赤毛の女司令官メイリン・ザラ、そして男装の少女将校エルスティン・ライヒだった。
「月下の狂犬か・・・これは頼もしい男が着てくれたな。」
そう言ってライヒはニタリと口元を歪めた。
(想像通り腹黒そうな男だぜ。)
それがモーガンの率直な感想だ。
「あたしは保安部長のメイリン・ザラよ。」
対してメイリンは不機嫌な面持ちで値踏みするようにモーガンを眺める。
自分より遥かに軍歴の長いモーガンに己の地位を奪われないかと危機感を抱いているのかもしれない。
(ま、いい女ではあるがね)
もとより派閥競争に参戦する気のないモーガンは、そんな不謹慎なことを考える。
(それよりも問題はこの娘だぜ。)
最後のエルスティンは先ほどから一言も発せず、無表情なままモーガンをじっと見つめている。
(コイツだな、さっきオレの心に触れやがったのは。)
数分前の通路での不可思議な出来事がモーガンの脳裏に蘇った。
治安警察随一の手練れ、シャム猫。
同時にモーガンと同じく高い空間認識能力の保持者。
「どうだエルスティン、大尉から何か力を感じるか?」
ライヒがシャム猫に問う。
「はい、伯父様。シュバリエ大尉からは私と同じ力の存在を感じます。」
「ふむ。」
「強い力をお持ちのようです。」
「結構。」
ライヒは意味ありげに微笑し、両手を顔の前で組んだ。
「大尉は空間認識能力者の存在についてどう考えるかね?」
「上層部からは一種の突然変異的事象であると教えられました。」
ライヒの問いにモーガンはそう答える。
「それだけかね?」
「それだけ、と言いますと。」
「空間認識能力者こそ人の革新、そうは考えられんかな?」
「人の・・革新ですか・・・・」
一顧だにしたことのない言葉を口にされ、モーガンは困惑した。
「空間認識をドラグーン兵器の操縦術としてしか認識できん無能な輩どもには理解できまいが、本来の空間認識とは兵器の操作などという狭い分野のみで応用されるような矮小なものではないはずだ。」
「はっ。」
「大尉にもいずれわかる、いかに世界が過小な評価を君自身に下していたかがな。」
「勿体無いお言葉です。」
(この狂犬を懐柔するつもりか?その手に乗るものかよ。)
モーガンは心の中でそう毒づいてから、慌ててエルスティンの方を見る。
(まさか、聞こえちゃいないだろうな?)
当のエルスティンは相変わらずの鉄面皮で何を考えているのかは窺い知れなかった。
「ともかくも君には期待しているよシュバリエ大尉、東ユーラシアはいつでも人材不足だ。」
「ご希望に沿うよう、ベストを尽くします。」
モーガンは敬礼すると長官室を後にする。
部屋を離れ際、メイリンがモーガンを睨み小声で釘を刺してきた。
「べっべつにアンタのことなんてこれっぽっちも脅威に思ってないんだからね!」
「へいへい、分かったよお嬢ちゃん。」
「あんですと!!」
激昂するメイリンを無視し、与えられた個室に向かおうと歩き出すモーガン。
が、通路の角を曲がった途端ギョッと立ちすくむ。
どこをどう先回りしたのかエルスティンが立っていたのだ。
「お前さん、どっから!?」
「モーガンさん、伯父様が言っていたお話あれは本当です。」
「人の革新がどーたらとかいう話か?オレ向けの話じゃないな。」
「空間認識能力者は兵器としてのみ扱われるべきではありません。」
「お嬢ちゃん、昔はメビウス・ゼロ部隊なんてエース部隊があってな。それはそれで軍内での待遇は悪くなかった。」
「空間認識を正しく用いれば、世界をより良き方向へと導くことも容易です。」
「選民思想だよ、それは。」
「そうでしょうか?」
「なら今すぐこの場で空間認識の素晴らしさとやらをオレに証明できるかい?」
モーガンは両手を広げておどけて見せる。
「拝命しました。」
「何?」
あまりにエルスティンがあっさりと応じたので虚を突かれるモーガン。
対し、エルスティンはモーガンの頭部をいきなり両手で引き寄せ、自分の額とモーガンの額をつき合わせる。
「私が先導すれば大尉には視えるはずです。」
「一体、何が?」
問いかける暇もあればこそ、直後にモーガンの視界は暗転し一瞬の内に意識が消えかかる。
焦って目を見開いたその時、モーガンは信じられないものを見た。
モーガンが立っていたのは暗黒の宇宙空間の真っ只中であったのだ。
しかも呼吸は問題なく出来るし、全く不快感もない。
「なんだこれは!一体!?」
慌てて、周囲を見渡すと辺りに幾つもの光点が明滅しているのに気づく。
現れては消えることを繰り返すその光の正体はモーガンには一目で理解できる。
戦闘の光だ。
そちらに目をこらすと、光達のなかから一直線に一つの光点がモーガンに向かって直進してくる。
恐るべきスピードで急接近してきたそれはモーガンが見たこともない機体、漆黒のガンダムだ。
「うおおっ」
謎のガンダムともろに正面衝突しそうになり、悲鳴を上げるモーガンだったが、ダークカラーのガンダムはそのままモーガンをすり抜けてさらに後方へと加速していく。
「映像のみです、直接的な害はありません。」
いつからそこにいたのかモーガンの傍らでエルスティンが諭すように発言した。
「あのガンダムはなんだ!いま見えているのは!?」
「あれは私達のCEには存在しないガンダム、平行する無数の分岐の一つ。」
「分かるように言え!」
エルスティンは利き手を上げ、指を僅かに動かした。
それに呼応するかのようにモーガン達の周囲が揺らめき、東西南北に空間の揺らめきで区切られた複数の宇宙空間が映像化する。
全ての宇宙でモビルスーツ同士の戦争が繰り広げられていた。
見たことのないモビルスーツもあれば、よく見知ったモビルスーツもいた。
「あんなモビルスーツなどオレは知らんぞ!?あ、あれはジンのようだが。」
「ジンはどの世界でも大活躍です。」
エルスティンが解説する。
各宇宙で、見たこともない機体に見たことのないパイロットが乗り込み、スーパーエース級の戦闘を繰り広げる。
そんな無数の映像をしばらくの間呆然とほうけたように見つめていたモーガンだったが、パチンッというエルスティンが指を鳴らした音で我に返った。
その音と共に急激に周囲の宇宙空間が歪み始め、またしてもモーガンの視界が暗転する。
ハッと気づいた時には既にモーガンは元の治安警察本部内通路にエルスティンと共に立っていた。
辺りを見回すが、どうやら時間はあれから殆ど経っていないらしい。
「オレに何をした?」
「ですから空間認識能力の真の応用を。」
「あの時見えたのは一体・・・・・・」
「全てが過去、あるいは現在に同時進行するCEの可能性です。」
「信じられん。」
「私は大尉に(刻)をお見せしました、ザラ本部長にすら見せたことはありません。何故私があなたに真の空間認識能力を明かしたのか、その理由を考えておいて下さい。」
そう言ってエルスティンはモーガンに背を向けた。
残されたモーガンの脳裏にライヒの言葉が響く。
(空間認識能力者こそ人の革新、そうは考えられんかな?)
しかも呼吸は問題なく出来るし、全く不快感もない。
「なんだこれは!一体!?」
慌てて、周囲を見渡すと辺りに幾つもの光点が明滅しているのに気づく。
現れては消えることを繰り返すその光の正体はモーガンには一目で理解できる。
戦闘の光だ。
そちらに目をこらすと、光達のなかから一直線に一つの光点がモーガンに向かって直進してくる。
恐るべきスピードで急接近してきたそれはモーガンが見たこともない機体、漆黒のガンダムだ。
「うおおっ」
謎のガンダムともろに正面衝突しそうになり、悲鳴を上げるモーガンだったが、ダークカラーのガンダムはそのままモーガンをすり抜けてさらに後方へと加速していく。
「映像のみです、直接的な害はありません。」
いつからそこにいたのかモーガンの傍らでエルスティンが諭すように発言した。
「あのガンダムはなんだ!いま見えているのは!?」
「あれは私達のCEには存在しないガンダム、平行する無数の分岐の一つ。」
「分かるように言え!」
エルスティンは利き手を上げ、指を僅かに動かした。
それに呼応するかのようにモーガン達の周囲が揺らめき、東西南北に空間の揺らめきで区切られた複数の宇宙空間が映像化する。
全ての宇宙でモビルスーツ同士の戦争が繰り広げられていた。
見たことのないモビルスーツもあれば、よく見知ったモビルスーツもいた。
「あんなモビルスーツなどオレは知らんぞ!?あ、あれはジンのようだが。」
「ジンはどの世界でも大活躍です。」
エルスティンが解説する。
各宇宙で、見たこともない機体に見たことのないパイロットが乗り込み、スーパーエース級の戦闘を繰り広げる。
そんな無数の映像をしばらくの間呆然とほうけたように見つめていたモーガンだったが、パチンッというエルスティンが指を鳴らした音で我に返った。
その音と共に急激に周囲の宇宙空間が歪み始め、またしてもモーガンの視界が暗転する。
ハッと気づいた時には既にモーガンは元の治安警察本部内通路にエルスティンと共に立っていた。
辺りを見回すが、どうやら時間はあれから殆ど経っていないらしい。
「オレに何をした?」
「ですから空間認識能力の真の応用を。」
「あの時見えたのは一体・・・・・・」
「全てが過去、あるいは現在に同時進行するCEの可能性です。」
「信じられん。」
「私は大尉に(刻)をお見せしました、ザラ本部長にすら見せたことはありません。何故私があなたに真の空間認識能力を明かしたのか、その理由を考えておいて下さい。」
そう言ってエルスティンはモーガンに背を向けた。
残されたモーガンの脳裏にライヒの言葉が響く。
(空間認識能力者こそ人の革新、そうは考えられんかな?)