「機動戦士GUNDAM SEED―Revival―」@Wiki

第3話「塵芥のガンダム」Cパート

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現地に到着してから待つこと約一時間。
ソラはとても退屈していた。
いつのまにかコニールは運転席の椅子を倒して寝息を立てている。
ロマは時折、電子双眼鏡を覗いて周囲を見てみたり、時折通信機を片手に誰かと話していた。
何をやっているのかはソラにはさっぱり分からなかったが、あえて聞く気も湧かない。
何か適当な読み物でも、例えば文庫小説の一冊でも手元にあればなあー、と思ったがどだい無理な相談。
仕方ないのでソラはシープの後部座席に寝転んで、ぼーっと天を仰いでみる。
緩やかな午後の風に乗って、雲がゆるゆると流れていた。
両手をすっと伸ばして手のひらをかざしてみると、指の合間から空が覗いている。
ここの空の青はオーブの空の青よりちょっと薄いかなあ、と何となく感じた。

(――本当に私、帰れるのかな……オーブに……)

リヴァイブの基地を出てからずっとジーブで揺られている間、胸の片隅にはずっとそんな不安があった。
漠然と、そして根拠は無いのだが今でもそれは燻っている。
でも――。

(なんて広いんだろう……)

そんな不安も今この瞬間だけは消えていく。
無限に続くコーカサスの大地。
遮るもののないコーカサスの大空。
心地よい静寂が支配する無人の荒野は、荒涼としていながらもどこか清々しいものすらあった。
そんな世界の広大さに、ソラはただ圧倒されていた。

(世界ってこんなに広いんだ……。昔読んだ本で『何処までも続く広い大平原』ってあったけど、あれ嘘じゃなかったんだ……)

不意に一陣の突風が駆け抜けていく。
土埃が眼に入らない様に、すっとソラは瞳を閉じた。
乾いた風が通り過ぎるのをじっと肌で感じる。
それが地平の彼方に吹き去った後には、また辺りに静寂が戻ってきた。
果ての無い世界がどこまでも一繋ぎに続いていく様は、何もかも忘れさせるほど心地よかった。

(人ってちっぽけなんだなあ……。私も本当に小さいんだ……)

世界の片隅。
本当に自分の今まで居たオーブというのはその程度でしかないと思った。
あんなに広いと感じていたオロファト市の街並みが、ひどく小さく感じる。

(けれどその大きな世界で人は争って……。馬鹿みたい。こんなに広いのに……)

初めて宇宙に出た人もこんな感じだったのだろうか?
流れる雲を眺めながらふとソラは、幼い頃に読んだ人類初の宇宙飛行士ユーリ=ガガーリンの伝記を思い出した。

「お、迎えが来たかな?」

突然、電子双眼鏡で遠くを眺めていたロマが声を上げる。
その声にソラはもちろんコニールも慌てて飛び起きて、彼の視線の方へ振り向く。

「き、来たの!?リーダー?」
「ほ、本当ですか!?」

驚く二人にロマは「ああ」と短く返す。
瞳を輝かせてソラは地平線の向こうを凝視する。
遠すぎるのかまだ何も見えないが、やっと帰れるという期待に彼女の胸が高鳴った。
たまらずじゃれつく子犬のようにはしゃぐ。

「どこ、どこですか!?」
「まだ肉眼じゃ遠すぎて見えないよ。最大望遠でやっとという所だし……ん?」

とその時、ソラには分からなかったが、仮面の向こうではロマの眉間が不快感に歪んだ。
電子双眼鏡の映像に数機の航空機の影が映る。
鋭敏なシルエットから、それは戦闘機だとすぐに分かった。

(3…、いや…4機?人一人迎えに来たにしては、やけに大げさ過ぎないか?それにヘリや輸送機じゃなくて戦闘機だって……!?)

冷たい予兆が背筋を走る。
ロマは双眼鏡から目を離さないまま、コニールに命じた。

「コニール。ジーブのエンジンかけて、いつでも動けるようにスタンバっといて」
「う、うん。分かったわ」

耳慣れた駆動音とともにエンジンがアイドリング状態になる。

「どうしたんですか……!?」
「ソラさん、そのままシートに座ってちょっと待っててくれる?」
「は、はい」

ロマの口調はあくまで優しい。
だが彼の体から緊張感が漂っているのがすぐに分かる。
ソラはただそんなロマを黙って見つめるしか術がなかった。



――ロマが自分達のいる場所に向かってくる、四つの機影を見つける10分ほど前。
彼らがいる荒野の一点を目指して、コーカサスの大空を飛ぶ四機の機体があった。
先頭とそれに左右に続く機体は、鮫にも似た鋭利なノーズを持った戦闘機で翼下にミサイルを装備している。
戦闘機の名は統一連合軍主力可変モビルスーツ『マサムネ』。
5年前の大戦でオーブが開発した、主力可変モビルスーツ『ムラサメ』のバージョンUP機種である。
そしてマサムネ隊に率いられて最後尾で飛ぶ機体は、黒にも近いモスグリーン一色に染められた大型モビルスーツ輸送機だ。
彼らはダイヤモンド編隊を組み、一糸乱れず整然と飛行している。

さらにその数時間前。
正確にはロマ達一行がソラを引き渡すための目的地に着く二時間前の事。
コーカサス州の州都ガルナハンからそう遠くない近郊の町サムクァイエットにある軍事施設、東ユーラシア共和国コーカサス方面軍サムクァイエット基地。
基地司令ドリュー=ガリウスは、司令官執務室にて書類仕事の合間に入れたブラックコーヒーに口をつけた所で、副官からその報告を受けた。

「何ぃ?オーブにある治安警察省から通達だと?」
「ハッ!たった今、本国の国防省経由で当基地に届きました」
「ふんっ、治安警察のバカ共が。また人の縄張りでデカイ顔をしようというのか」

ガリウスは部下の目の前であるにも関わらず、公然と吐き捨てた。

「連中め……。各国の軍や警察に介入する権限を持っているからといって、いい気になりおって……」

ラクスやカガリの手によって世界がひとつになった現在でも、現在でも東ユーラシア共和国をはじめ各国はこれまでの様に独自の軍隊や警察を持つことができる。
しかしそれまでの世界と各国の立場は、以前とは大きく異なっている点があった。
それは統治する政治システムである。
世界を統べる統一地球圏連合政府は各国の上位に位置し、連合政府には議会や各省庁、軍隊まで設置されている。
ゆえに連合政府にの議会はもちろん、連合直下に属する省庁や軍も、各国の内政に関与したり命令を下す権限を持っているのである。
そのため当然のことながら、治安警察も連合政府を構成する一省庁として、下位にある東ユーラシア共和国をはじめとした各国政府――無論、それぞれの国の軍や警察も含まれる――に命令権や介入権を持っていた。
忌々しげに呟く上官に、副官はオロオロと困惑するばかりだ。

「で、ですが司令、これは一応東ユーラシア共和国政府公認の通達でありますのでし……」
「判っておるわ。儂とて本国の命令に逆らおうなどと考えてはおらん。だがな、それでも祖国を余所者にいい様に引っ掻き回されるというのは、癪に障るのだ!」

苦いコーヒーを一気に喉に流しこむ。

「で、その通達の内容は何だ?少佐」
「ハッ。これです」

ガリウスは部下が差し出す通達内容が印刷された紙を無言で受け取る。
相変わらず不機嫌なままで。
ところが通達の内容に目を通した途端、彼の目の色がにわかに変わっていった。
険しい表情がみるみる内に和らぎ、含み笑いすら漏れてくる。
司令の変化に、副官は恐る恐る尋ねた。

「ど、どうかしましたか?司令」
「クックックッ。なかなか面白い事ことになったぞ、少佐。治安警察の連中、上手く仕込みおった」
「は?」
「チーズでネズミをおびき寄せたから一網打尽にしろとある。珍しいわ、奴ら手柄をこっちにくれるつもりか」
「ネズミ……ですか……?」
「見てみろ」

ガリウスは通達内容が書かれた紙を部下に返す。

「これは……!?」

ようやく彼にも司令の機嫌が直った理由が分かった。
通達の内容はこうだった。

――統一地球圏連合樹立三周年記念式典を襲撃した反政府組織『リヴァイブ』が、誤って誘拐したオーブ人の少女を帰国させために第三者に引渡しを依頼するという。
事前にその情報を掴んだ治安警察はその第三者に成りすまし、本日彼らとの会合の場を設ける事に成功した。そこで東ユーラシア共和国コーカス方面軍はただちに現地に急行し、速やかに彼らを逮捕するように――というのである。

さらわれたオーブ人の少女も、その時に保護するのだろうと副官は理解する。
ところが即座に司令から下された命令は、驚くべきものだった。

「すぐに部隊を編成しろ!まんまとおびき出された奴らが、のこのこ出てきた所を一気に殲滅するぞ!」
「せ、殲滅ですか?ですが司令、通達には民間人の人質がいるとありますが……!?」
「だからどうした?死ねば人質もあるまい」
「巻き沿いにするのですか……?」

副官は絶句する。
だが無常な命令に躊躇する部下をガリウスは切って捨てた。

「貴様も今この国で一日何人死んでいるか知っておろうが。いまさら一人二人増えたところでどうという事は無いわ!今は我が国を騒がす不逞の輩共を、一気に叩き潰す絶好のチャンスなのだぞ!」
「ですが司令……」
「このコーカサス州の独立・自治権獲得を掲げ、我が東ユーラシア共和国に抵抗を続ける反政府組織『リヴァイブ』。
奴らは治安警察に言われるまでも無く、この地に構える我ら軍や警察にとって極めて厄介な存在なのだ!
この地方に住む連中を見てみろ!どいつもこいつも我が共和国政府よりも、あんな奴らを支持しておる!おかげで奴らの協力者は数知れず、潰すどころかこっちが煮え湯を飲まされた事も、一度や二度ではない!それは貴様も知っておるだろう!」

司令の怒鳴り声に副官はたちまち萎縮する。

「基地司令としてもう一度命令する!目標撃滅のために直ちに部隊を編成し、現地に向かわせろ!人質がいるからといって容赦するな!」
「ハッ!」

ガリウスの怒鳴り声を背に、副官は司令官執務室を慌てて出て行った。
その一時間後、三機のマサムネと大型輸送機がサムクァイエット基地を発進していった。
そして――。


蒼天の空の下、編隊を先導して飛行する隊長機はそれぞれ左右後方から随伴してくる二機を、コードネームで呼びだし、命令を伝えた。

「カクテルリーダーよりカクテル2、カクテル3各機へ。目標地点到達まであと5分。ここで任務の再確認をする。我々の任務は敵目標の撃破ならびに、その事後確認である。敵目標は小型であるから射程圏内に捕捉次第、ミサイルで攻撃せよ。仮に第一次攻撃が失敗し、敵目標が逃走した場合は直ちに追撃に移る。繰り返す、敵目標を捕捉次第、第一次攻撃をかけよ」
《カクテル2、了解》
《カ、カクテル3、……りょ、了解!》

緊張を含んだ初々しい応答が返ってくる。
編隊の一角を担うマサムネの一機に乗るのは今年、士官養成学校を卒業したばかりの新米少尉であった。

「レイルズ少尉。落ち着いてやれ。訓練通りすれば問題ない」
《ハ、ハイ!マニングス隊長!》
「お前の初陣だ。帰ったらバーで一杯祝杯を上げよう」
《あ、ありがとうございます!隊長!》

まだ声に漂う少年の残り香に、隊長アデルは軽い笑いを浮かべる。
彼にとって、二個小隊も動員した今回の任務は格好の慣らし運転のようなものだった。
今回の相手は、ただの土着民兵組織で、ザフトや革命軍の様な熟練した大規模軍隊ではない。
その程度の目標に遠距離から狙撃し、確認して帰還する。
ただそれだけの事。
アデルからすれば赴任初の任務にしては肩慣らし程度にしか思えなかったし、新兵の実戦訓練には丁度いいだろうとも思えた。
そこで彼は養成学校出たての新米少尉を連れてきたのだった。
今のところ新米少尉の機体は編隊を崩さず、ピッタリと所定位置に付いてきている。
それを視界の隅で確認しつつ、アデルは最後尾を飛んでいる輸送機にも告げた。

「ウイスキー1はそのまま待機。敵の増援に備えよ」
《了解。カクテルリーダー》
「各機高度を下げろ。これより攻撃態勢に入る」

高空を飛ぶ三機のマサムネは滑る様に雲下へと降下していく。
鈍重な輸送機もゆっくりと機首を下げ、彼らの後に続く。

《ウイスキー1よりカクテルリーダー》
「こちらカクテルリーダー。どうした」
《目標を対地レーダーで捕捉。データを転送する。照合せよ》
「了解」

アデル機の計器にも反応が出る。
輸送機から送られたデータが火器管制システムと同調していく。

「こちらでも捉えた。各機データ照合。攻撃準備」
《カクテル2、目標確認》
《カクテル3、目標確認しました!》

照準スクリーンにジープに乗る三人の姿が小さく映る。
距離が遠いのか、画像はぼやけ詳細は分からない。
だがそれで十分だった。
赤いマーカーが目標に重なって点灯した。



ロマは電子双眼鏡から見える編隊から、ただならぬ気配を感じとっていた。
彼らは降りてくるどころか連絡すら入れる様子も無い。
それどころか殺気すら漂ってくる。

「ちょっとヤバいかな……」

ロマはコニールに注意を呼びかけようとした。



――その時。

「目標ロックオン………ファイア!!」

アデルが叫んだ。
それと同時に、三機のマサムネが一斉に翼下の対地ミサイルを放った。
放たれた三本の金属の矢は、空に白い軌跡を描いていき――。

――命中、爆発した。

凄まじい音響とともに、巨大な爆煙が屹立した。
膨れ上がった真っ赤な火柱は一瞬で地面をえぐり、蒸発させる。
粉々に粉砕された土砂や岩が吹き飛ばされ、噴流となって辺り一面を押し流していく。
さっきまでジープのあった場所は次の瞬間、跡形も残さず無残なクレーターと化していた。

《綺麗に直撃しました!やりましたよ、隊長!》

通信用スピーカーから新米少尉がはしゃぐ声が聞える。
だがアデルはそれに答えない。
彼の中に微かな違和感が生まれていたのである。

(……何故逃げなかったのだ?撃たれたのは見えていたはずなのに、ジープの三人は全く動かなかった。どんな人間でも死が迫れば何とか生きようとして、逃げるたり反抗したりして必ずあがくはずだ。なのに奴らは全く動かなかった……)

――オカシイ。
少なくない戦場を潜り抜けた経験がそう告げていた。
数秒の思索の後、もしやとアデルはひとつの結論にたどり着く。

「これより目標地点の上空に向かい、撃破を確認する!カクテル2、カクテル3は散開し周囲の警戒にあたれ!」
《ハッ!了解です!》
《りょ、了解です。隊長!》

命令を受けた僚機がそれぞれ南北に散っていく。
するとすぐさま報告が飛び込んできた。

《隊長!こちらカクテル3!南西2kmに識別コード不明の小型物体を捕捉しました!我々から離れるコースを移動中です!》
「そいつを追尾、撃破しろ!それが本命だ!」
《了解!》

疑惑が確証に変わる。
部下の報告にアデルはニヤリと笑った。



約束の場所から南西に2km離れた丘陵地帯。
ここは起伏の激しい渓谷地帯に至る入り口で、さらに数km南下すれば木々の生い茂る山深い山道に入るルートにある場所である。
その一角にある小高い丘の上で、ロマは完全に色を失っていた。
つい一時間前まで自分達がいた場所が、一瞬で破壊され尽くされた惨状を目の当たりにして。
三機のマサムネが放ったミサイルは鋭く大地に突き刺さり、自分達がいた一帯を跡形も無く吹く飛ばしたのである。
放たれた轟音は、緩やかな丘の上で見届けていたロマの周囲の空気まで揺るがしていた。
”嫌な予感”が当たったのだ。
すぐさま背を向け、一気に下に駆け下りる。
そして下で待つソラとコニールに、大声で叫んだ。

「”デコイ”がやられた!交渉が軍に洩れていたんだ!すぐここも見つかるぞ!」
「わかったわ!ここじゃ目立ちすぎる!逃げるよ!二人ともベルト締めて!」

直ぐにジープのエンジンを始動。
助手席に乗ったロマがシートベルトを締めるのを確認すると、コニールはジープを発進させた。

「……ど、どうしたんですか!?今日は……、今日はオーブに帰れる日じゃなかったんですか!?」

青ざめた顔でソラは叫ぶ。
未だ状況を理解出来ていない――否、状況を理解したくない。
そんな想いがありありと浮かぶ。
すっかり混乱している彼女に、コニールは早口に言った。

「軍の連中にバレたのよ!アイツ等、アンタが居ても見境無いわよ!」
「そんな!私が狙われる理由なんて無いでしょ!?ちゃんと話せば……!」
「少し黙ってな!舌噛むよ!」

アクセルを目一杯踏み込み、一気に速度を上げる。
三人の乗るシープはフルスピードで丘陵の谷間を走り抜けた。
荒い砂利道で激しく車体が揺れ、上下に踊る。
まるでロデオの様だ。
そんな中、隣の助手席ではロマが苦悩していた。

(『親愛なる友へ』なんて結びの言葉など、叔父上は使わない。やはり……)

手紙の行間、文末からにじみ出た奇妙な違和感。
それがぬぐえなかったために彼は万が一を考え、待ち合わせの場所に自分達を模した囮のバルーンダミーを設置し、そして遠く離れた安全な所で様子を覗いていたのだ。
疑惑が空振りですんだ場合も考えて、あらかじめ通信機も置いて。
しかし――。

(ああ、叔父上……!)

最悪の想像がロマの脳裏に浮かぶ。
だが今は悲嘆に暮れている場合でない。

「コニール!例の地点に向かってくれ!とにかく安全圏まで逃げる!」
「やってるわよ!……リーダー!」
「!?」

車載レーダーに敵影が映る。
発見されたのだ。



コックピットのレーダーモニターに表示されていた光点が消える。

《――振動。それに異常な熱量もセンサーで感知された。爆発だ》
「……リーダーの予感が当たったってわけか」
《どうやら敵はリーダーの仕込んだ”デコイ”に引っかかったようだな》

シンは出発直前のブリーフィングを思い出す。
ロマは彼とコニール、中尉の三人にこう言っていた。

――今回のソラ君の“迎え”に若干不審な点があるんだ。そこで君達には予想される危機に際して備えて欲しいんだよ。ちょっと嫌な予感がするんだよね。取り越し苦労だったらいいんだけど。
――本来なら裏をとって行動すべきでしょうが、今回はその時間も無いのですね。
――そうなんだよ、中尉。
――リーダー、そんなに不安なら今回の件は流したらどうかしら?
――そうはいかないだろ、コニール。これを逃せば次のチャンスがいつ巡ってくるか分からないんだ。
――シン……。確かに私もそう思うけどさ、でも。
――いつまでもソラをここに置いておく訳にはいかない。あの子はオーブに帰るべきなんだ。
――……。

あの時の会話が脳裏に浮かぶ。
だがロマの危惧は当たり、結果はこのザマだ。
また俺は博打に負けたか、とシンは内心舌打ちする。
しかしまだ勝負は終わったわけではない。

「リーダー達は?」
《北東の方角、距離500を毎時60kmで逃走中。シン、援護に出るぞ》
「わかった」

ただちにコンソールを叩き起動システムを立ち上げる。
眠っていたスクリーンに次々と映像が映し出され、エンジンの始動とともに機体が鼓動しはじめる。
目覚めのごとく。

「レイ!」
《……メインエンジン、駆動系チェック完了。各部センサー、レーダーチェック完了。各武装、FCSチェック完了。エネルギー残存量82.05%。限界稼働時間、46時間58分14秒。レンジ2に敵1機を捕捉。全システムオールグリーン》
「よし……!」

巨大な鋼鉄の戦士がカモフラージュシートを、マントのように脱ぎ捨てる。

シン=アスカ。ダスト、行くぞ!!」

フットレバーを一気に踏み込み、ブースト全開。
豊潤な大地の色に染められたモビルスーツ――ダストガンダムは一気にコーカサスの大空へ舞い上がっていった。

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