「機動戦士GUNDAM SEED―Revival―」@Wiki

第22話「その名はストライクブレード」Bパート

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 スレイプニールの作戦室。ラドルが座長となり、大尉たちとシホたち、シン、他の主要なメンバーが若干名、それに加えて友軍であるローゼンクロイツの部隊長という構成で会議が進められた。

 作戦はいたってシンプルなものである。

 リュシーとユーコのエゼキエルが偵察任務中にマシントラブルを起こした振りをして、帰還途中にわざと敵に発見される。彼女たちとスレイプニールを追撃する敵を、巧妙に渓谷地帯に誘い込み、一気に殲滅するというものだ。

 舞台となる渓谷地帯は東西にかけて丘陵が広がり、その中心を河が通り、徐々に扇形に広がっているといった形状をしている。その両側の丘の上にはローゼンクロイツの友軍が事前に部隊を展開させてある。狙撃用の装備を施したダガーLやザクウォーリア、対MS用ランチャーを搭載した軽車両を中心とした部隊である。

 渓谷の上部からは彼らが援護射撃を行い、ひるんだ敵をスレイプニール隊が一気に反転攻勢するというシナリオなのだ。

「しかし、敵もそろそろ地形の情報を手に入れているかもしれん。雪上の戦闘にも慣れてくるころだろう。あまり相手の不手際を期待しすぎるのもどうかと思うが」

 あまりにも作戦としては大雑把過ぎるのではないか、という疑念が大尉には拭えない。逃げる敵を深追いして、渓谷に入り込む愚を敵がみすみす犯すだろうか。

 実は今回の作戦は、もともとローゼンクロイツ側から提案されたものである。アイデアの主である、かの部隊長はそんな大尉の懸念を一笑に付して見せた。

「そのような弱気でどうする。もともと天の時、地の利、人の和のすべてに我等が勝ると力説したのはリヴァイブの方々だったはずだが?

 それに、ここ最近、この地域に展開されている統一連合の部隊構成を見ただろう。寒冷地仕様もろくに施されてないルタンドが中心なのだぞ。陸上戦の能力などたかが知れている。

 よしんばマサムネあたりが出てきたところで、この悪天候では、まともに航空形態に変形して空から援護することもできまい。

 作戦は必ず成功する。われらの大勝利という形でな」

 力説する部隊長に、少尉が露骨に侮蔑の表情を浮かべる。彼は法螺も吹くし軽口もたたくが、こういう保証もなしに安請け合いをするような人間は嫌いだった。とりわけ仲間の命がかかっているような場面では、なおさらのことである。

 その視線を受けて、部隊長の口の端がゆがむ。何か文句があるのかとでも言いたげな視線を、大いにあるさとばかりに真っ向から受け止める少尉。雰囲気が険悪になりかけたところを、ラドルがとりなした。

「とりあえず、警戒を怠らないに越したことはない。作戦の実行にあたっては、不測の事態に常に備えましょう。それでよいですね」

 正論を受けて、部隊長も少尉も渋々ながら矛先を引っ込め、会議はお開きとなった。






 他の面々が立ち去った後、残る大尉と中尉に、少尉が頭を下げる。

「すんません。熱くなり過ぎました。俺もシンを笑えないっすね」

 大尉は苦笑した。軽く小突いてやろうかと思っていたのが、先んじて謝られてしまったためだ。

「謝罪ならラドル艦長に言え。会議が無事に済んだのは、あの人が場を納めてくれたおかげだ。それに……本音を言えば俺もお前と同じ気持ちだしな」

 中尉も頷いた。相手のミスを前提にした作戦など、本来は立てるべきでない。今までのところ確かに統一連合にしても東ユーラシア軍にしても醜態をさらしているのは確かだが、それがいつまで続くかは誰にもわからないのだ。

 もし相手側に少しばかり目端の利く人間がいて、こちらの意図を読まれでもしたら……

「しかし薔薇の方々は仕方がないにしろ、シンやシホさんたちもあまり今回の作戦に疑問を持っていないようですね。油断している、とまでは言いませんが」

 それも三人が気になるところではあった。やはり経験や年齢の差であろうか、シンを含めた若手四人は、特に会議でも疑問をはさむでもなく、淡々と説明を受け入れていた。少尉と件の部隊長のやりとりに、逆に面食らっていた様子ですらあった。

「あいつらも正直、あまりあてにはできんか。こりゃあ、ますます今回は俺たちが気持ちを引き締めないとまずいな」

 単なる杞憂ですめばよいのですけれどもね、と中尉が返す。

 しかし、普段は基本的に楽天家である少尉ですら、その言葉を素直には受け止められなかった。






 吹雪はなおやまず、雲は厚くたちこめ、風の音と雪の白さだけが世界に満ちている。

 揉め事があったとはいえ、会議の後に作戦は予定通り決行され、ローゼンクロイツの面々はすでに渓谷地帯に部隊配備を完了していた。

 通信状態が悪く、共同して作戦にあたるリヴァイブとの連絡が取りづらい状態ではあったが、部隊長は特に不安を感じてはいなかった。些細な連携の齟齬など、作戦の決行には障害にはならないと考えていた。

 針葉樹林の中に身を潜める部隊の中でひときわめだつのは、左胸に、誇らしげに薔薇十字の文様を描いたダガーL。それが部隊長の愛機である。

 狙撃用ライフルを構え、獲物となるべき統一連合軍を彼は待ち構えている。気持ちはハンティングのようなものだった。それも、絶対安全な場所から悠々と獲物を狙う、決して自分は傷つくことのないレジャーの狩である。

 おそらく彼が率いる部隊の面々も、同じ気分であっただろう。いつでも引き金を引けるように、準備は万端であった。

(さあ来い。何も分かっていない獲物たちめ。コクピットに特大の風穴を開けてやる)

 わずかばかり、そう、ほんのわずかばかり、彼らが周囲への警戒を怠っていなければ、これから後の窮状は避けられたはずだったのである。

 しかし、ローゼンクロイツの部隊は、最後の瞬間まで、自分たちの後ろから徐々に迫りくる死神に気づくことはなかった。





 偽装用のスモークを炊きながら、リュシーのエゼキエルがふらふらと飛行を続ける。それをかばうように付き添うヨーコの機体。わざわざ見つかるように、頭を捻ってコースを厳選した甲斐もあり、彼女らはほどなく統一連合軍に発見され、追跡されることになった。

 雪で視界がさえぎられ、風に煽られ、航空機の操縦にはまことに最悪の天候である。

「この、嵐の中を追いかけられ、それでもつかまらずに逃げるという演技が、なかなか難しいですわね」

「男をもてあそぶ悪女の如く、愛の修羅場の渦の中、相手に触れさせず、でも逃げ切らずってね」

 分かったような分からないようなヨーコの説明だった。しかしながら、二人は巧みに操縦をやり遂げ、敵をスレイプニールまで誘導することに成功した。

 彼女らを着艦させると、ラドルの指示により、今度はスレイプニールが逃走するふりをして敵に背中を見せる。敵を目的の場所、渓谷地帯におびき寄せるために。

 今のところ作戦は順調に行っているように見えた。

 吹雪の中を飛行する自信がないためか、敵のマサムネ部隊は飛行形態に変形せずに、MS形態のまま、よたよたとした足取りで、こちらをずっと追撃している。

 雪に足をとられ、狙いもおぼつかず、あたりもしない射撃を時折繰り返すさまは滑稽なくらいだ。

「雪上の移動も満足にできないのか、奴ら。渓谷で包囲しなくても、ここで十分に片付けられるんじゃねえか」

 リヴァイブのメンバーの一人が敵を嘲笑した。

(やはり杞憂だった、のか?)

 しかし、それでも大尉たちの懸念は消えない。作戦が予定通りに進行していることさえ、あまりに都合よく話が進みすぎている、と思えてくる。

 そんな大尉たちの気持ちをよそに、スレイプニールは事前にローゼンクロイツが待ち構えている、渓谷地帯のポイントまで到達した。そこで艦は足を止める。

 ほどなく、頭上から敵部隊にビームとミサイルの雨が降り注ぐはずだった。それにタイミングを合わせて、大尉たちとシホとシンが出撃し、一気に敵に攻撃を仕掛け、殲滅する予定なのだ。

 しかし、リヴァイブとマサムネ部隊が応戦しているにも関わらず、一向にローゼンクロイツからの援護がない。きっかけが生まれず、ハンガーから出ることもできないままである。

「薔薇の人たちは何やっているの? 待ちくたびれて昼寝でもしているってわけ!」

 苛立ったようにシホが言う。大尉たちの不安もピークに達した。

「ラドル艦長、どうにも様子がおかしい。状況の確認を……」

 そのとき、待ち構えていたビームの射撃音と爆裂音が鳴り響いた。

 ただし、彼らの頭上で。

 渓谷の上方で、黒煙が登っているのが見える。そして、そこから落下してきて、スレイプニールのすぐ前に落ちてきたものがある。MSの残骸だった。

 欠片からわずかにのぞいている紋様は、薔薇十字。

 事態を図りかねている他のメンバーをよそに、心構えのできていた三人だけが、すぐさま状況を理解する。大尉の絶叫が響いた。

「MS、すぐに出撃だ……薔薇の奴らはやられた! 包囲されているのはこっちだ! 」

 見れば、追いかけてきたマサムネ部隊は徐々に後退し、入れ違いにこちらに迫ってくるMSがいる。雪煙を巻き上げつつ、まるで肉食獣のように猛スピードでこちらに迫るそのMSは、リヴァイブたちにもおなじみのものだった。

 旧式とはいえ、雪上ではまだまだ現役MSに劣らぬ働きをする四足歩行のMS。過去にリヴァイブが何度も苦戦している、東ユーラシアご自慢、雪上仕様に改造された白いバクゥだ。

 いや、スレイプニールを追ってきた方向だけではない。進行方向からも同じように、白いバクゥの一団がこちらから迫りつつある。

「畜生。完全にやられた! ざまあねえ!」

 少尉が叫ぶ。リヴァイブを焦りと絶望が支配しつつあった。






「さて、ここまでは脚本通りにいったな」

「では、大団円に向けて一暴れするとしますか!」

 敵方とは対照的に、落ち着きと高揚に溢れた通信が交わされる。

 リヴァイブを挟撃する白バクゥ部隊をそれぞれ先導するのは、青と緑のパーソナルカラーが特徴の機体だった。

 均整の取れたプロポーション。軽やかな動き。強風の音にも負けず気持ちよいほどに響き渡るエンジン音。ホバーユニットを装備し、雪上用のバクゥにすら劣らぬ動きを見せ、彼らを率いている。

 統一連合の中でも五本の指に入る腕利きのパイロット、イザーク=ジュールディアッカ=エルスマンの駆る、最新鋭MSストライクブレード。

 その機体は、自らの真価をようやく発揮できる場を提供された喜びに打ち震えているかのように見えた。

 そして、ストライクブレードは、今まさに窮地に陥ったリヴァイブに襲い掛からんとしていた。

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