「機動戦士GUNDAM SEED―Revival―」@Wiki

第3話「災いをもたらす深淵よりの使者」

最終更新:

Bot(ページ名リンク)

- view
だれでも歓迎! 編集
10月第2月曜日、11月第4木曜日。
それは大西洋連邦の中核であるカナダとアメリカ合衆国において、秋の収穫を祝う感謝祭の日である。
その日は多くの家でパーティーが開かれ、町ではパレードが行われるなど、各地で大賑わいを見せる日である。
しかし、そういったものとは無縁なものも存在する。
その一つに海賊やテロリストの一部がある。
彼らにとってはそういった催し物は警備が甘くなり、仕事がしやすくなるという見方が多い。
そして、そういった害敵を葬り平和を守る任を受けた軍人にも当てはまることであることであった。

C.E77/10/11(Mon)、プリンスルパート沿岸部にある駐屯地内の一室にカーディオンたちがいた。

「畜生、何でこんな目に……」
「はぁ~~~。何でこんなとこ入っちゃったんだろぅ……」
「ま、まあまあ。二人とも、元気出しましょうよ」

そこには普段と違って意気消沈しているルシオルとフォスタードの姿があった。
カーディオンが心の折れかけている二人を元気付けようとする。
このような事になったかというと、それはおよそ1ヶ月半前の10/04(Mon)に遡る。
その日の訓練を終え、廊下を歩いていたとき、ふとルシオルが何かを思い出した。

「そういや、そろそろ感謝祭だったな。あいつにここんとこ会ってねえから相手してやんねえとな」
「おやおや~。あいつって、だれのことかな~。ひょっとして、彼女かい?物好きもいるもんだね~」
「っへ、うっせーよ。人を珍獣扱いすんな」

その時は口では言い合っているが珍しく二人の言葉に棘がなかった。

「まっ。僕もずっと口説いてた娘からその日ならってやっとOKもらえたんだけどね」
「ほう、やるじゃねえか」

二人が意気揚々と廊下を歩いていると、前にニールが歩いているのが見えた。

「あっ、そうだ、有給の取次ぎをしても羅輪ねえとな」
「あ~、そうだっけね」

二人はニールの下へと駆けていく。

「隊長。お話があるのですけれども」

フォスタードが話を切り出す。

「ん?ああ、お前らか。ちょうどいいところに来た。こちらも話があってな、ちょうどお前らを探していたところだ」
「え、俺らを?何ですか」

ニールの言葉にルシオルが答えた。

「カーディオンにはすでに伝えておいたが我々に任務が下った。二日後から1ヶ月間、プリンスルパートで警備を行う」
「「……!!!」」

ニールから放たれた言葉に二人は絶句する。

「言っとくが、感謝祭の前後は大統領も御忍びでお見えになって特に忙しくなる。その期間には絶対に予定を組み込まないようにしろよ」
「「……は、はい」」
「ところで、話があると言っていたが、なんだ?」
「いえ、やはり大丈夫です」

「そうか、無理はするなよ。それじゃ」

そう言ってニールは脇を通り過ぎていった。
ニールが壁を曲がって見えなくなったところで二人は膝を落とした。

「元気出せ、だぁ!?よくそんなことが言えるなあ!!!」
「まったくだよ。今回の任務のせいでどんだけあの子に嫌われたと思ってんだよ!!!」
「俺のはフラレたんだぞ!!!」
「えっ、あっ、いやっ、そ、そのっ、ぼ、僕に言われても……」

二人の恨みが混じった言葉にカーディオンはたじろいでしまう。

(ま、まずいなぁ。隊長は司令官のところに顔出しに行ってて今いないし、二人がここまで気が立っているとなると僕だけじゃ止められるわけないし。どうしよぅ)

カーディオンが考えている間にも二人はどんどん詰め寄ってくる。

「大体!そういうてめえはどうなんだよ!!!カーディオン!」
「そうだよ。今回の任務、君は嫌じゃないの!?ず~~~~~っと遊べないんだよ!!!お偉いさん方たちが家族とか、親戚とか、友人とか、愛人とかと遊んでる中、僕らは寂し~~~く警備していないといけないんだよ!!!」

フォスタードの言葉にカーディオンはうつむきながら答える。

「え、そっ、その……。家族は……小さい頃に死んじゃっていないし、親戚からはたらいまわしにされてたから……あまり」
「「え゛っ」」

カーディオンの言葉に二人の顔が固まった。

(やばい、とんでもない地雷を踏んじまった)

二人がそう思ったのも無理からぬことだろう。自分の不幸話で相手を弄って気を紛らわそうとしたらさらにどデカイ不幸話がきたのだから。

「士官学校に入る前の友達も……みんな死んじゃっていないし…。それに……」

カーディオンがさらに言葉を続ける中で、二人はほとんどアイコンタクトといって良いほどの小声で話していた。

「やばい、これ以上は本当にやばいよ。どうしよう、ルシオル」
「いや、俺にふるなよ。本はといえばお前がまいた種だろーが。何とかしろよ」
「そう言われても。普段カーディオンがこんな状態になることなんてないだろ。どうすりゃ止まるのさ」
「そりゃぁ……。そうだ、なんか別ので注意を引くんだよ」
「そ、そんな子供だましみたいなので止まるかな」
「俺も手伝うから。早くやれよ。これ以上は本当にまずいぞ」
「わ、分かったよ。んじゃぁ、行くよ」

フォスタードは話をそらすためになお続けているカーディオンに話しかけた。

「あ!そういえば、そろそろ昼時だろう?僕らのシフトの前に腹ごしらえしておこうよ。ね、ね?」

もっともそれは相当無理がある形だったが、ルシオルもこの流れを変えるためにその話にあわせる。

「えっ、あ、そ、そうだな!それが良い!早く飯を食いに行こうぜ、カーディオン」
「そ、そうだっけね……分かった」

カーディオンは涙を拭きながらうなずいた。

*1

そのときの二人は口にせずとも互いに同じことを考えていたことが分かった。



司令官執務室でニールはアンドレイル基地司令官と二人っきりで話していた。

「ニール大尉。君の部隊について話があるのだが」
「ハッ!私の部隊が何か問題を起こしたのでしょうか」

ニールはフォスタードかルシオル、あるいは両方が何かしでかしたのかと心配しながら答えた。
だが、そんな彼の心配をよそに司令官は答えた。

「いや、そういうことではなくてね。君の部隊のカーディオン・ヴォルナット少尉に関してなんだが」
「カーディオン…。彼ですか?」

なぜあいつがとニールは不審がっているとアンドレイル司令官はそのまま言葉を続けた。

「彼のデータを読ませてもらったが、彼は本当に大丈夫なのかね?彼は……」
「大丈夫です。彼のこの国への思いは本物です。私が保証します」

相手の考えていることをニールは見抜き、即答した。

「いや、私は別にどうこう言おうとは思わないんだがね。ただ……ほかの部隊とちゃんと連携を取れるのかが心配でね。ほら、彼のような者を嫌う者は未だに多いからね」
「その点も大丈夫です。私の部隊の中では彼が最も協調性があります。 もうすぐ警備の時間になりますので、これで失礼させていただきます」

ニールはそういうと、踵を返して指令執務室を後にした。
部屋を出て行き、誰もいなくなったのを確認してからアンドレイル司令官はボソリと呟いた。

「汚らわしい蝙蝠を抱え込むことになるとはな。何も起きなければいいのだが」



3人は基地施設内の食堂でメニューを見ていた。

「さてと、何食おうかな~っと」
「僕はカレーにしよう」
「ん?じゃあ僕もそれで良いや」
「じゃあ俺も」

3人ともカレーライスを選び、テーブルに着く。
ルシオルが一口食べてから言った。

「ん?ぜんぜん辛くねえな。唐辛子いれっか」

それに対してフォスタードが眉を顰めて言った。

「え~?安いカレーにはやっぱりソースでしょ。唐辛子なんて入れたら辛いだけで旨みも何にもないよ~」

フォスタードの意見にルシオルは反論する。

「あ?俺は辛いのが良いんだよ。そういうてめえのだってソースの味しかしねえだろーが」

するとフォスタードは話をもちかけてきた。

「んじゃあ、どっちが良いかカーディオンに決めてもらおうか」
「望むところだ。カーディオン、辛いほうが良いよな?」

ルシオルがその話に乗り、カーディオンの方を向くと、カーディオンはどこからか取り出した蜂蜜をカレーの上にかけていた。それも皿を覆いつくさんとばかりにたっぷりと……。
ルシオルはその光景が信じられず、カーディオンに突っ込む。

「おい!!!お前、何やってんだよ!!!」
「何って、蜂蜜かけてるんだけど。ほら、カレーは蜂蜜入れると美味しくなるし」

さも当然だといわんばかりの顔で答えるフォスタードも突っ込みに加わる。

「いやいやいやいや。それはかけるって量じゃないから!!!君はカレーを食べたいのか蜂蜜を食べたいのか、どっちなの!?」
「カレーだけど」

なおも平然と答えるカーディオンにルシオルがキレた。

「そういうことをまじめに答えんなー!!!」

そのとき、厨房から怒鳴り声が聞こえた。

「そこのお前ら!ごちゃごちゃうるせえぞ!ほかのやつらの迷惑になるから出てけ!!!!!!それとそこの銀髪!安いだのまずいだの言いやがったな!二度と来んな!!!」
「え!まずいは言ってな…!」
「うるせえ!とっとと出てけ!!!」

結局、3人はほとんど口をつけずに食堂を追い出された。



C.E74年6月のオーブによるプラント併合によるザフト解体に伴ってザフト兵は大きな選択を迫られた。
兵であることを辞めて日常の中に戻る者、統一連合軍人に転身した者、刃向かった者、選んだ道はさまざまであった。。
しかし、刃向かった者が皆、九十日革命に参加したシホ・ハーネンフースらのような現政権への不満およびプラント再興のために蜂起した者であるとは限らない。

ザフト、ひいてはプラント内にいる一部の強烈なナチュラル殲滅主義者がその一例である。
それは後に蜂起するネェル・ザフトと同じ親ザラ派の武闘派集団であるが、大きく異なるのは、彼らは「ナチュラルに属するもの」は全てナチュラルと同様に滅ぶべき存在であると考えていることだ。
彼らにとってはかつての祖国であるプラントすらも滅ぼすべきものとみなしている。
そんな彼らに民衆の支持を得られるはずもない。
補給のめどが立たなくなった彼らはすぐに船を襲うようになり、下劣な海賊にへと成り果てた。
かつてZGMF-X31Sアビスの正式パイロットにも選ばれた、ザフトレッド屈指の水中戦のプロフェッショナル、マーレ・ストロードもその一人である。
プリンスルパートの沖合いの奥深く、ボズゴロフ級潜水母艦の中に彼らはいた。

「クックック……。もうすぐだ……。もうすぐ…ナチュラルどもに…裁きが下る……」
「ええ、そうっすね。楽しみでしかたないっすよ」
「ああ。でもどうせなら女どもは殺す前に犯りてえもんだな」

3人がこれから行う所業に関する感想を述べていると、マーレは、そのうち一人に食ってかかった。

「っけ、ナチュラルどもなんか犯れっか。とっとと殺すんだよ」
「ったく。マーレ、お前は分かっちゃいねーなー。ただ殺すだけじゃつまんねーだろーが。ちっとは役得ってもんを考えろよ」
「そう言ってこの前獲物を取り逃がしたのはどこのどいつだ」
「んあぁ!?てめえ、喧嘩売ってんのか」
「まあ…落ち着け…、女は…後でどっかから…持ってくれば良い。今は…、作戦の遂行を…考えろ」

マーレの挑発に乗ったを仲間の一人が吃りながら止める。

「はいはい、分かりましたよっと」

男もその言葉で怒りが冷めたようで、落ち着きを取り戻す。

「それより準備はいいな?」
「はい。こっちは大事っす」
「こっちも…大事だ。上も…準備はできている」
「俺もOKだ」
「そうか。なら行くぞ」

各々の返事を聞いたマーレは短く答えるとMSデッキにへと向かう。
そこには、ドライチューブだけでジンワスプが1機、グーンが4機、ゾノ、アッシュが1機ずつ、そしてかつてザフトで設計されたものの併合に伴う消滅によって計画が凍結されたMS、ウミボウズがあった。
海賊が保有する戦力としては異常な規模である。
これから自分が乗るウミボウズを眺めていたマーレの口から言葉がこぼれた。

「待っていろ、ナチュラルども。すぐに俺が殺しに行ってやる」



MSデッキではルシオルが不機嫌な様子で他の2人と話をしていた。

「あー、イライラするー。何で俺らのハンガーだけ他より遠くてぼろいんだよ」
「まあまあ、食堂追い出されたからってそこまでカリカリしないでさ~。気持ちを切り替えようよ」

フォスタードの言葉にルシオルが不満ありげに答える。

「あ!?それだけじゃねえよ。あの後行った売店に俺の好きな物だけが無かったんだよ」
「あぁ、あそこか。あそこ、品揃え悪いよね~」
「え?そうかな。結構良かったと思うけど」

カーディオンが間に割り込んで答える。

「君にとってはね。そりゃあんだけ好きなのがあればいいと思うだろうさ」
「おまえな、両手いっぱいには買いすぎだぞ。買った物が見えねえけど、シフト終わったら残り食う気か?」
「いや、もう食べ終わったけど」

カーディオンの一言に二人は固まる。
フォスタードは恐る恐る聞きなおす。

「あ、あの~。僕の聞き間違いかもしれないけどさ~、さっき、食べ終わったって言わなかった?」
「食べ終わったけど、全部」
「お、お前はアホかー!!!操縦前にあんなに食ったら吐くぞ!そもそもあんな短時間で食えるか、普通!」

カーディオンの言葉にルシオルが切れた。
それはもっともな話だろう。ひとたび戦闘になれば激しい動きは避けられない。
そうなれば当然胃の内容物を吐く可能性もどんどん上がっていくからだ。
そもそも、カーディオンが買い物をしてまだ10分弱しか経過していないのだ。
だが、そんなルシオルの言葉にカーディオンはさらりと答えた。

「大事大事、普段の訓練の前にも同じくらい食べてるし。むしろあれくらい食べないと持たないんだよね」
「君さ、そんな食生活してたら絶対早死にするよ。今ならまだ間に合うと思うから直そうよ」

フォスタードはそんなカーディオンに呆れながら忠告するくらいしかできなかった。
ルシオルは気を取り直して話を続ける。

「話を戻すが、俺がいらついてんのにはほかにも理由があんだよ。それはな…、この機体だ!」

そういってルシオルは今まさに自分が乗ろうとしている機体、ルタンドを指差した。

「何が不満なの?デキ自体はいいと思うけど」

カーディオンがそう聞くと、ルシオルは答えた。

「この機体はカタログスペック的にはグフとかと大して変わんねえ。なのに今日の警備のために普段使ってて操縦し慣れてるウィンダムを倉庫にしまって、使用経験の乏しいルタンドをわざわざ買ってまで揃えて俺らに使わせてんだぞ。あきらかに無駄遣いだろーが」
「ほら、今日は現大統領でエターナリストであるカール=レノンがお見えになるしね」
「エターナリストって、統一連合の主義主張を最優先にすべしという人たちのことでしょ」
「そうだよ。まっ、選挙で勝つための後ろ盾が必要だからエターナリストになってるっていう感じはするけどね」
「だからってよー、俺らのこともちゃんと考えて欲しーぜ。おれはバカスカ撃つのが好きだってのに」
「君の場合、それが本音だね」
「ああそうだよ。悪いか」
「いんや」
「お前ら、何をだらけている!」

話している最中にいきなり飛び込んできた言葉の主はニール大尉であった。

「いいか、相手はいつ、どこに、どのようにして出てくるか分からないんだぞ。もし今のようにだらけている間に襲われたらどうするつもりだ。早く配置につけ!」
「「「りょ、了解!!!」」」

3人はそう言うと、そそくさとルタンドに乗り込み、配置についた。



ルタンドに乗り込んだルシオルが通信で2人に話しかけた。

「隊長はああ言ってるけどよー、普通こんだけ警備が厳しいところをわざわざ襲うか?」
《まあ、それは僕も思うところがあるね。来るとしたら自殺志願者かただのアホじゃないかな?》

周りには自分たちも含めると、地上には表に出ているのだけで、計18機のルタンドが警備を行っていた。
さらに停泊している艦の中には、ほぼ同等の数のルタンドが待機しており、さらに水中には前大戦で最強の水中用MSの名を冠したフォビドゥン・ヴォーテクスが8機配備されている。
普通、MSの保有数は海賊は多くて3機、テロリストであっても10機あれば大規模とされている現在、その倍以上の数が常に警備を行っていることを考えると、新兵であるルシオル達がそう思うのも無理からぬ事だった。

「ん~。でも、そこをあえて襲ってくるっていう事もあるんじゃないかなぁ」
《たとえばどんな風に?》

ふと呟いたカーディオンにフォスタードが聞いた。

「たとえば、あの艦をルタンドが出る前に撃沈したりとか」

カーディオンが答えると、ルシオルは笑って答えた。

《おいおい、いくらなんでもそりゃねえだろ》
「そ、そうだよね」
《そうだよ~。海賊とかにそんなことできる訳……》

そのとき爆音が響き渡り、先ほどまで話の種となっていた艦が煙を上げながら沈んでいた。

《う、嘘……》
《ま、マジかよ……》
「そ、そんな……」

3人は何が起きたのか把握しきれず、その場で止まったままだった。



沖合いにはMS大程もある巨大なフォノンメーザー砲を担いだジンワスプが味方に通信を送っていた。

《こちら…、サイレンス…、命中…及び…撃沈…確認…》
「分かった。マーレ隊各機へ、これより敵戦域に突入する」
《バイオレーター、了解。お楽しみの前に一暴れすっか!》
《ガムル、了解っス》

マーレの号令とともにグーンが魚雷を放ち、ウミボウズを筆頭にゾノとアッシュが獲物を求めて暗い海を進んでいった。
水中を警備していたMS隊は即座に厳戒態勢に移行していた。
ボブ隊長の元に部下からの通信が届く。

《隊長、第二陣が来ます。指示を》
「直ちに撃ち落せ!3・2・1・発射!」

指示を受けた部下達の動きは的確だった。
フォノン・メーザー砲を一斉に放ち、音波の壁を形成することでグーンが放った魚雷を防ぐ。
水中に爆音が響き渡った。

「ふう、どうにか防いだか…、奴らもさすがにこの機体を相手にやり合おうとは思わんだろう」

ボブが一息ついた瞬間、1機のフォビドゥンヴォーテクスが撃ち抜かれ、爆散する。
センサーを見やると、ヴォーテクスのセンサーぎりぎりには所属不明機が3機映っていた。

「これは、ゾノとアッシュ、それに……アンノウン!?まさか、あいつが!」

ゾノとアッシュでは、あの距離からあれほど精密に敵を狙い撃つ事はできないことを、ボブは知っていた。
あれがマグレでないとすれば、状況から見てそれを行ったのは、アンノウンということになる。

「これより俺とサファイア1、2、3、4でテロリストと思しきMSの撃破を行う。サファイア7,8は援護並びに施設防衛に回れ」
《了解!》
「これ以上失態を重ねるわけにはいかん。テロリストども、私の顔に泥を塗ったことを後悔させてやる」

4機のフォビドゥンヴォーテクスが迎撃に向かう。
水中でも戦闘が始まったのだ。

「あいつら馬鹿だ。こんな簡単なことに引っかかってやがる」
《そうっすね。接近戦はうちらの十八番だってのに自分から近づいてきてる。さっきの狙撃もちょっと考えればうちらじゃないって分かるのに》

ゾノを駆るバイオレーターとアッシュを駆るガムルが相手を嘲笑しながら3機で接近する。

「ナチュラルどもはとっとと殺して、次進むぞ」
《《了解!!!》》

マーレは淡々とそう言うと、機体を急加速させる。
フォビドゥンヴォーテクスの1機が放ったフォノン・メーザー砲をマーレは機体をそらしてかわし、そのまま魚雷を撃ち込む。
ヴォーテクスがゲシュマイディッヒ・パンツァーでその魚雷を防ぐと、カムイ機がさらに魚雷を撃ち込んで足を止め、バイオレーター機がクローアームで後ろからヴォーテクスを掴み、フォノンメーザー砲を撃ち込んで沈黙させる。

「まず1機!」

バイオレーターが叫ぶ。
だが次の瞬間別のヴォーテクスがこちらに、スーパーキャビテーティング魚雷を撃ち込む体勢に入っているのが目に飛び込んできた。
「っへ、そんなもん。くらうかよ!」

バイオレーターは先ほど屠った敵の機体を、魚雷の斜線上に放り投げた。
放った魚雷がそれに命中し、爆散する。
その隙を狙ってガムル機が魚雷を放つ。
それに対しヴォーテクスは回避行動に入るが、ガルムはその先を読んでフォノンメーザー砲を連射。
ヴォーテクスはメーザー砲に撃ち抜かれ、瞬く間に四散した。
その時すでにマーレは、2機のヴォーテクスを沈黙させていた。


「ば、馬鹿な。水中では最強のフォビドゥンヴォーテクスが数で劣るやつらに、ものの2分で5機撃破されただと…。援護の部隊は何をやっているんだ!」

ボブは怒りを抑えずにセンサーを見ると、急にその顔が固まった。
そこには自分を除いた水中の友軍全てがシグナルロスト…、大破しているという無情な結果のみが映されていた。
彼は悪夢を見ているのではないのかという錯覚に陥った。
自分の部隊が大した抵抗もできずに全滅したというのは、彼にとって受け入れがたい、受け入れられるわけが無い事実だった。

(そ、そうだ。これは夢だ。私は悪夢を見ているんだ。そりゃそうだ。私の部隊が負けるはずが無い。私の部隊がこんなテロリスト如きに……)

マーレ機のフォノンメーザー砲に撃ち抜かれ、そこで彼の思考は永遠に止まった。
「おとなしく殺されれば楽なものを。まったく、ナチュラルどもというやつは…」

マーレは一人毒づいていた。彼にとってはナチュラルが自分に刃向かうこと自体が気に食わないことなのである。

《けっ、今回もマーレの一人勝ちかよ》

《やっぱ仕事が早いっすね》
何をしている。早く次に取り掛かるぞ。やつらが逃げ出す前に皆殺しにするぞ」
《分かったよ》
《了解っす》

地上では艦を撃沈されて状況が混乱していたところに、さらに4機のディンと2機のバビが襲撃を仕掛けてきた。

「おいおい、ちっと待てよ!いきなりかよ!」
「いきなりだから奇襲の意味があるんだろうけどね~、これはやりすぎじゃないかなー!」
「とにかく、今はあれを何とかしないと」

ルタンド達はビームライフルでバビやディンを撃つものの、距離が離れすぎていて全く当たらない。
逆にバビの攻撃の前に、ルタンドは一方的にやられていく。
一機また一機とバビのビームに打ち抜かれ、ルタンドは次々と爆散していった。
ルタンドにも一応の飛行能力はあるものの、しかしそれはあくまで短時間の移動ができる程度であり、戦闘を視野に入れたものではない。
フライトユニットを装備しなければ、ジャンプ程度しか出来ないのが実情なのだ。
一方、バビとディンは元々空中戦を目的とした機体である。
旧世紀の戦争で、戦車が戦闘ヘリに勝てなかったように、自在に宙を舞うバビやディンの前では、地を這うルタンドは動く標的同然の存在でしかないのだ。
戦闘開始から僅か30分足らずで、すでに味方のルタンドは5機も破壊されていた。
対して、テロリストの機体はいまだに一機も失っていない。
自分をあざ笑うかのように飛ぶディンに向って、ルシオルはビームライフルを乱れ撃ちするも、一発も当てることができない。
やすやすとかわされてしまう。
そうこうしている内にまた一機、味方がやられた。
これで6機目だ。

「チックショー、空を飛べるウィンダムだったらもうちっとまともに戦えるってのに!」

カーディオンがいらだつニールに問いかける。

「航空戦力は無いんですか!?」
「無いことはない。しかし主たるハンガーはすでに爆撃を受けている。まともに使えるものがあるとは思えん」
「そんな!」

そうしている間にもディンはルタンド達を無視して、ミサイルを次々と基地施設にへと撃ち込んでいく。
ルタンドの多くはバビに翻弄され、自分に身を守るのに精一杯だ。
ミサイルの迎撃どころではなかった。
基地に備え付けられている防衛システムが飛来するミサイルを撃ち落しにかかるが、当然全てを撃ち落せるわけもない。
次々とミサイルが基地に着弾し、瞬く間に辺り一面が破壊されていく。
滑走路や格納庫、兵舎や武器庫など、基地の主要施設は次々と灰燼に帰していった。
10機にも満たないMSによって、基地は陥落の危機に陥っていたのだ。
カーディオンはパニックになりそうな自分の頭を押さえつけて考える。

(今の装備じゃ相手を攻撃できない。主要ハンガーはもう破壊されて増援も期待できない。どうしたら……!ん?待てよ、ひょっとしたらあそこは!)

希望の光となる可能性をカーディオンは見出した。
だがそれは同時にもしカンが外れていたら、今の状況に追い討ちをかける危険な賭けでもあった。
それでもカーディオンはニールに進言した。

「隊長、僕たちのハンガーは主要ハンガーからは離れております。爆撃を免れているかもしれません。そこには隊長のウィンドランナーもあります。そこへ向かって、乗り換えましょう」
《そうか、俺らのハンガーは他よりもボロっちいからあいつらも見過ごしてるかもしんねぇ。それにそこには俺らのウィンダムもある》
《よく気がついたね、カーディオン。これでどうにかなるかもしれないよ》

ルシオルとフォスタードはカーディオンの意見に肯定的であった。しかし、

「確かに乗り換えられれば今の状況を変えられるかもしれん。だが今離れればただでさえ劣勢であるこの状況が悪化する危険性がある」
《僕がここを食い止めます!》
「奴らはおそらく元ザフトの中でもエリートだぞ!新兵であるお前にあいつらを相手にするのは無理だ!」
《僕は隊長の部下です。絶対に生き延びて見せます》
「しかし……」
《カーディオン、お前だけにやらせはしねーよ》
《僕らはチームだろ、カーディオン。一人だけ突っ走らないでもらいたいね。隊長、確かに僕らはまだ新兵ですが、チームを組めば足止めぐらいは十分できます。ですから、隊長は早く行ってください》
「お前ら……。分かった。だが、絶対に死ぬなよ」
《《《了解!!!》》》

ニール達は全速力で自分たちのハンガーにへと向かった。

(間に合ってみせる!あいつらを死なせるものか、絶対に!)



特に激戦地となっていた海辺ではバビの猛攻によってルタンドがまた一機もの言わぬ骸となっていた。

「ちくしょー!!!こんなテロリストどもにー!!!」

一人のパイロットの悲痛な叫びにその部隊の隊長が励ます。

「持ちこたえるんだ!やつらは海の方向から来ていた。おそらくやつらの母艦は潜水艦だ。ならば水中の部隊に任せろ!なぁに、この基地には最強のフォビドゥンヴォーテクス隊がいる。きついのは今だけだ!」

その時、一機のルタンドがクローに掴まれて海にへと引きずりこまれた。
そこから現れたのはゾノとアッシュに多数のグーン、そしてウミボウズであった。

「フォビドゥンヴォーテクス隊、全機シグナルロスト!」
「馬鹿な、たかがテロリストごときにあの部隊が壊滅だと!」
「おそらくは……」

部下の報告にアンドレイル司令は歯噛みしていた。
ボブが率いていた部隊は水中戦であれば現在の連合では敵う者はいないと言われていた部隊であり、この基地の海の守りの要でもあったからだ。

「上陸したMSの内一機にエンブレムを発見」
「今はそんなことは……!!!」
「黒い鯱のエンブレム……。黒鯱のマーレ・ストロードです!!!」
「……!」

部下を怒鳴りつけようとしたアンドレイル司令の顔が一気に青ざめた。
かつて基地司令になる前の第二次汎地球圏大戦で、マーレの部隊によって自分の艦が壊滅的なダメージを受け、命からがら逃げてきたという苦い経験があるのだ。

(まさかあいつ、私に止めを刺しに来たというのか!?ふざけるな、貴様のせいで私は今の地位に戻るのに3年もかかったんだぞ!それをいまさら!!!)
「地上はどうなっている!」
「待機していたルタンドは全て艦ごと撃沈。現在表に出ていたルタンド部隊が、バビ及びディンの混成部隊と交戦中。8機がシグナルロストです」
「敵の残存数は!」
「未だ……、全機健在です」
「あのような旧式に何をしているのだ!航空部隊は、MA隊は!」
「報告では航空部隊の大半は、出撃前に爆撃によって壊滅しています。MA隊もパイロットが負傷し、運用に支障をきたしております」
「な、何だと……。増援はまだ来ないのか!」
「増援が到着するにはあと1時間はかかるかと……」

次々と知らされる絶望的な報告にアンドレイルはうちひしがれていた。

(蝙蝠だ。蝙蝠を抱え込んだせいで、こんなことになったんだ。もうこの基地は終わりだ。こんなところで死んでたまるか!)
「脱出用のシャトルは、あとどの程度で準備が完了する」
「あと10分もあれば……」
「そうか、私は大統領をお連れするために共にシャトルで脱出する。お前らはその間テロリストの侵攻を食い止めろ」
「司、司令!?それでは我々は!?」

思いがけない指示に部下は驚いた。
部隊に指示を送る司令官が不在の状態で、ただでさえ形勢が不利なこの状況を乗り切れるはずが無い。
司令はもう分かっていたのだ。
この基地はもう長くはもたないと。
だからこそ大統領の護衛という名目で自分たちを見捨てて、生き残ろうとしている。

「貴様ら一兵卒と私、国にとっての価値はどちらの方が上だと思っている!何、たった1時間堪えれば増援が来るのだ。それに、万が一の場合も私の言伝で二階級昇格させてやる。それでは」
「ちょっ、待っ……!」

アンドレイル司令は次々とまくしたてると、部下の言葉に耳も貸さずに足早に司令室を後にした。



「くそ、堕ちろ!」

ルシオル機はディンに向けてビームライフルを2度、3度と立て続けに撃ち続けていた。
ディンはその攻撃をよけて重突撃銃で応戦するが、ルシオル機はその銃撃を左手のシールドで何とかやり過ごす。
しかしシールドは数十発もの弾丸を受けており、何時壊れてもおかしくないほど酷い有様だった。

「ルシオル、君のルタンドのシールドはもう限界だ!」

《分かってる!》
《バビがまだ来てなくて助かったよ~。ディンは攻撃力はそんなに高くないから、シールドだけでしばらくは持つし、防御力も1発当てられればどうにかなるし》
《でもその1発がぜんぜん当たんないんだろーが!》
《それは僕に言われても困るよ~。とにかく撃ちまくんないとさ~!》

フォスタードがそういうと、二人と共にビームライフルを連射するが、いづれもディンにはかすりもしない。
ルシオルのコックピットにアラームが鳴り響く。
真後ろから新手のディンにロックオンされていたのだ。
反射的にシールドを掲げる。
しかしそのシールドは初撃の散弾銃でズタズタにされ、第2撃のミサイルで左腕ごと吹き飛ばされた。
その衝撃でルシオル機は派手に転倒する。
相手がそのようなチャンスを見逃すはずが無い。
1機のディンがルシオル機に重突撃銃を向ける。
そのディンに対してカーディオンがビームライフルを撃って追い払うが、すぐに別のディンが同じように銃口を向ける
ルシオルもビームライフルで応戦しようとする。だが。

(何!?)

コントロールスティックに反応は無く、右腕はピクリとも動かない。
故障の警告表示。
先ほどの転倒で機構が壊れたのだ。

(動かねぇ!やばい!殺られる!)

盾も失い、二人のルタンドも今からでは間に合いそうも無い。
ルシオルは死を覚悟したが、ディンの引き金は引かれなかった。
恐る恐る目を見やると、そこには槍状のものでコックピットを貫かれ、爆散するディンの姿があった。
残ったもう一方のディンは味方が突然撃破されて困惑していた。
そこに1機の鳥を思わせる機体が、瞬く間に接近しビームソードで両断する。
『ウィンドランナー』であった。
ウィンドランナーがMS形態に変形し、地上に降り立ったところでルシオルに通信が入る。

《ルシオル、無事か》

それは紛れも無いニール隊長の声であった。

「隊長、遅いっすよ。後もうちっとで危うく死ぬところだったんですからね」
「ああ、すまんな。それより、ちゃんと言いつけは守ったようだな。全員生きている。各機、状況はどうだ」
《それよりって、まあ良いか。ルシオル機、左腕消失、右腕も使い物になりません。足もガタが来てますね》
《カーディオン機、ライフルの配線が焼き切れちゃったみたいで、使用できません》
《フォスタード機、バルカンが空でバッテリーも推進剤もピンチです。でもルシオルと違って、手足は吹っ飛んでませんよ~》
《フォスタード、てめえ。足は吹っ飛んでねーだろーが》

三人が思ったよりも元気なままでいてくれてニールは正直安心していた。
そのまま通信機に向かって、指示を出す。

「それだけ威勢が良ければ無事だな。各自、直ちにハンガーで機体を自分のに換えてこい」
《《《了解!!!》》》

三人がハンガーの方へ走り出していくのを確認してから、ニールは自機を再びMA形態にして飛び立った。


バビのパイロット、シルフは逃げ惑うルタンドを仕留めてから、MA形態のまま同じくバビのパイロットであるアイスに聞いた。

「なあ、ナチュラルどもが脱出に使うシャトルはあとどのぐらいで出るんだったっけ?」

《確か後十分は無かったはずだ》

それは、本来知るはずの無い情報であった。

「AWACSディンは準備できてるのか?」
《とっくにできている。俺たちはその護衛もかねてるんだ》
「サイレントのやつは?」
《くどいぞ。そっちも大丈夫だ》

それはあたかも忘れ物が無いかを確認させる親とそれをうざがる子供のようでもあった。しかしそれはそんな微笑ましい物ではなく、どす黒いものであった。

「だってよー、今回のために虫唾が走るナチュラルどものところにメンバー送ったんだ。これでこっちの準備不足で失敗しましたっなんてことがあったら名に言われるかわかんねーだろ」
《まあな》
「だからこうして何度も聞いてんだろーが。ん?」

シルフがふとセンサーを見やると何かがこちらに向けて接近している。

「何かがこっちに来てやがる」
《何だ?》
「えーと、こりゃ確かウィンドランナーとか言う奴だったな」
《バビもどきか》

――『バビもどき』
それは主に旧ザフト軍の間で呼ばれているウィンドランナーの俗称であり、変形機構がバビの物と酷似していることからそう呼ばれている。

「あっちの方向にはディンが向かってたはずだが……。っち!2機ともシグナルロスト、やられやがった」
《ナチュラルども如きにか。情けない奴等だな。数は?》
「1機だ」
《潰すか。2機でやればすぐに終わる》
「ああ、こんな所で計画を潰されたくねえしな」

二人は機体を旋回させたところで、シルフ機の左翼がビームライフルで打ち抜かれた。

「ナチュラルが、あの距離からだと!?」

そのままバランスを崩し、墜落していく。
そこは不幸にも先ほどまで一方的に破壊していた、ルタンドたちの生き残りの正面であった。
その数3機。
空を飛べたころはただの獲物であったルタンドが今は死神の使いのようだ。

「お、おい。待ってく……」

ルタンドたちは今までの恨みを晴らすために一斉に、ビームライフルをバビに連射する。
瞬く間に機体に穴が開き、爆散した。

「あいつ、何をやっている。ナチュラル如きに当てられるとは」

アイスは口でこそ悪態をついているものの、ひょっとしたら自分がああなっていたかも知れないという思いが頭から離れなかった。

(ナチュラルが狙ってあの距離を当てられるわけが無い。そうだ、あいつは偶々当たっただけだ。そうに決まっている)

疑念を無理やり振り払ってさあ向かおうとしたその時、自分のはるか高空で爆発が発生した。
それに伴ってAWACSディンをシグナルロスとした。

「ぐ、偶然じゃない……?」

アイスもここまで精密に攻撃されては認めるしかなかった。
あのナチュラルは強いと。
自分では勝てないと。
そして、アイスは恥も外聞も捨ててに逃げ出した。

「さすがはウィンドランナーだ。センサーの性能がルタンドと桁違いだな」

ニールはぼそりと呟いた。元々射撃は上手いほうであるが、今までの機体ではあの距離からピンポイントに攻撃できたことは無かった。

《隊長!ご無事ですか》

カーディオンのジェットウィンダムから通信が入る。

「カーディオンか。俺は大丈夫だ。お前らは無茶はしてないだろうな」
《僕たちは大丈夫です》
《それより聞いてください。さっき、俺らでディンを1機落としました》
「よくやったな」
《でも、その代わりに1機逃げられちゃったんですよ~。ルシオルが乗り換えるのに手間取っちゃいまして》
《おいおい、それは言うなよ。しょうがねえだろ。足ぶっ壊れてて機体安定させんのに時間かかったんだからよー。それに、ディンに止めさしたの俺だろーが》
《はいはい、分かりましたよ~》

ルシオルとフォスタードの漫才は無視して三人に通信をつなぐ。

「これから生き残っているルタンドと連携して基地の防衛に当たる。統率していたと思しき敵の索敵機は今しがた撃墜した。もう少し堪えれば増援が来る。それまでの辛抱だ。各員、気を引き締めてことに当たれ」

《《《了解!!!》》》

「何!?引き揚げろだと!後1~2分でシャトルは出るんだぞ!それをお前が狙撃すればそれで終わりだろーが!」

マーレが珍しく荒々しい口調でサイレントに通信機越しに怒鳴っていた。

《その…狙撃が…不可能に…なった》
「……どういうことだ」

サイレントの一言でマーレは落ち着きを取り戻した。
サイレントの狙撃の腕は確かなものがある。
そいつが不可能といった以上、非常事態が起きたのだろう。
マーレはそれが分からないほど馬鹿ではない。

《狙撃の…要の…AWACSディンが……堕ちた》
「それは確かなのか」
《ああ…。アイスが…そう言っている。命からがら…逃げてきた…そうだ》
「っちぃ!しょうがねえ。お前ら、空の奴らがヘマした。作戦は失敗だ!退くぞ!」
《え~、マジっすか~》
《いい気分で犯れると思ったのによー。台無しだぜ》


それぞれテンションが下がったまま帰路に着く。
その帰り道、グーンのパイロットの一人がマーレに聞いた。

《あ、そういえばマーレ隊長》
「なんだ」
《確か、レイヴェンラプターの奴らから仲間にならないかって打診来てましたけど、結局どうするんですか?》
「あぁ?元々この作戦は合流する際の手土産にする予定だったからな。あそこは武器も設備もある。行くさ」
《分かりやしたー》


こうして、プリンスルパートで繰り広げられた戦いは、あっけない終わりを迎えた。
新たな戦いの火種を残したまま。
テロリストが撤退したのを確認してから、カーディオンがニールに話しかけた。

「隊長、結局テロリストたちはあの後すぐに撤退してしまいましたね」
「そろそろ増援が来る頃合だと判断したのかもしれんな。あるいは、何かトラブルがあったのかもしれん」
「実際に俺らの増援が来たのはあれから1時間も後だったけどな」
「ルシオル~。実際に増援が来てから逃げたんじゃ間に合わないんだよ~。到着した時にはもう追いつけない。そのぐらい早くから撤退しないとさ~」
「ふーん。そういうもんか」
「って、あれ?普段みたいに突っかかんないの!?」
「いや、なんか今日はもうそんな気も起きねえよ」

実際、ニール以外の三人の声には元気がなかった。
ニールは三人を励ましてやることにした。

「初めての実戦があれだけ過激だったからな。さっきまで気を張り詰めていたから気が抜けて一気に疲れが来たんだろう。よし、初めての実戦を生き残った祝いだ。明日、お前らに飯を奢ってやる」
「本当ですか!」
「マジっすか!」
「隊長太っ腹~!」

途端に三人の声が元気になる。

(現金なやつらだなー。そういや、コロナの奴には良くおごらされてたっけな)

「言っとくが、奢りだからといってあんま高いのは食うなよ。ただでさえ安月給なんだから」

そう言いつつもニールの顔は優しいものであった。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
ウィキ募集バナー
注釈

*1 た、助かった……