たんぽぽ娘08 - きっさんらが

雨が屋根をこつこつと叩く。
彼は泣き出したいほどに絶句していた。
ゆっくりと屋根裏から階段を降りていく。
彼はリビングへらせん階段を降りていった。
暖炉の上の時計は10:40を指していた。
あと数分で彼女の乗ったバスがあの角に着く。
そして、彼女は通りを歩いてきて正面玄関を叩くのだ。
アンは…ジュリーだ。
つまり、ジュリアン！？

確か…彼女の本名はなんだったか。
普通なら別名を使っても、完全に名前を変えたとしても、本名を覚えているはずだ。
彼女は多分、最初に名前を変えるのが安全だと考えたのだろう。
彼女は別のこともしているに違いない。
それらは時空警察から逃れるためだったのだ。
彼女が写真に写りたがらないのもこれで納得がいく。
そして彼女は、会社で仕事をするために内気を装って行動していた長い間、どれほど恐れていたことだろう。
独身時代は、彼女の父の時間に対する概念が正しいのかどうか分からず、
20代の彼女を愛する44歳の男が同じことを考えているのかどうかも分からなかったはずだ。
彼女は無事に帰ってくる。
出かける前にそう言っていたように。

この20年間のことを彼は不思議に思った。
彼女は "ある９月、彼が丘に登り、日光の中で若くて可愛い少女が立っているのを見て、少女と恋に落ちる" ということをずっと知っていたのだ。
彼女はその結果が知りたかったはずだ。
なぜなら、過去の彼女の思い出は、未来の私の時間だったからだ。
しかしなぜ私に言わなかったのだろうか。
そして、なぜ今も言わないのだろうか。

そのとき突然、彼はすべてを理解した。

彼は玄関へ行き、レインコートを着て、雨が降る中を駆け出した。
そして、顔面に雨粒を叩きつけられながら、息をするのも辛いくらいに走った。
雨のしずくが涙と共にほおを流れていった。
どうして年を取るのを恐れるのだろう。
彼女は、どうして丘にいた少女が彼にとって魅力的に見えたのか理解できなかったのかもしれない。

彼は通りに着いた。
そして角へ向かって走った。
彼女の乗ったバスが止まったときには、ぎりぎりでその場所に着いた。
そして、白いコートを来た女性が降りてきた。
喉の痛みが、ナイフで刺されたように鋭くなった。
そして彼は全く息もできなかった。
たんぽぽ色の髪が、今は暗く見えた。
少女らしい可愛らしさはどこかへ行ってしまっていた。
しかし、彼女の顔にはまだ優しい愛らしさが残っていた。
長くてすらっとした脚は優雅だった。
嫌な空気が１１月の通りに広がっている。
９月の太陽の、黄金のような輝きはもう無い。

そして彼は彼女の目に、必死な我慢の向こうの恐れを見ることができた。
今の彼には、その理由が理解できた。
残り一回しか使えないタイムマシン。
彼女は彼に会いに来たのだ。
ジュリーは最後の一回で、彼と出会った時よりもさらに過去に行った。
そしてアンとして彼の秘書になり、幸せな家庭を築いたのだ。
しかし、彼がいずれ丘の上で少女と恋に落ちるということを彼女は知っていた。
少女に恋をした彼は、年老いた彼女への愛を失ってしまうのではないか。
幸せを失う事への恐れ。
それが今まで、彼女を苦しめ続けてきたのだ。
彼は彼女の方へ歩き出した。
彼女を見つめる彼の目は輝いていた。
あの丘で少女に惹かれたのは・・彼女がアンに似ていたからだった。
そして今、彼は時を越えて、彼女の雨に濡れたほほに触れた。
彼女もまた、全てを理解した。
長い間彼女を苦しめていた恐れは消え去ったのだ。
彼らは雨の降る中、手をつないで家へ帰った。

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